生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料
出願番号:2004236391
年次:2005
IPC分類:7,C04B35/48,A61K6/027,A61L27/00,C04B35/10


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名和 正弘 JP 2005097094 公開特許公報(A) 20050414 2004236391 20040816 ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料 松下電工株式会社 000005832 西川 惠清 100087767 森 厚夫 100085604 名和 正弘 JP 2003299092 20030822 7C04B35/48A61K6/027A61L27/00C04B35/10 JPC04B35/48 CA61K6/027A61L27/00 HC04B35/10 E 4 OL 14 4C081 4C089 4G030 4G031 4C081AB03 4C081AB05 4C081AB06 4C081BB08 4C081CF121 4C081CF151 4C081DC11 4C089AA06 4C089AA07 4C089AA09 4C089BA04 4C089BA05 4G030AA12 4G030AA14 4G030AA17 4G030AA36 4G030BA19 4G030BA20 4G030BA35 4G030CA01 4G030CA04 4G030CA05 4G030GA04 4G030GA11 4G030GA22 4G030GA25 4G030GA27 4G031AA07 4G031AA08 4G031AA12 4G031AA29 4G031BA19 4G031BA20 4G031BA26 4G031CA01 4G031CA04 4G031CA05 本発明は、低温劣化を防止するとともに、機械的性質に優れるジルコニア−アルミナ複合セラミック材料に関するものである。 代表的なセラミック材料であるアルミナ、窒化珪素、炭化珪素などに比較して、2〜3モル%のイットリア(Y2O3)を安定化剤として含む正方晶ジルコニア多結晶体(Y−TZP)は、高強度且つ高靭性といった優れた機械的性質を発揮し、広く実用に供されている。近年においては、人工関節、人工歯根、アバットメントやクラウン等の生体用材料への応用も徐々に進んでいる。 しかしながら、Y−TZPセラミックスは、比較的低温域、例えば、200〜300℃で約4.6%の体積膨張を伴って、準安定正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの相転移が進行するという問題がある。この体積膨張によってY−TZPセラミックス内に導入されたマイクロクラックにより、機械的性質の顕著な劣化が発生する。また、水分を含む湿潤環境(例えば、生体内環境)下では、相転移がさらに加速されることも知られている。このようなY−TZPの低温劣化の大きな原因の一つとして、3価のイットリウムイオンが4価のジルコニウムイオンの8配位の位置に侵入型に固溶し、価数の相違によってジルコニアに酸素欠陥が生じると考えられている。 一方、CeO2を安定化剤として含む正方晶ジルコニア多結晶体(Ce−TZP)も広く知られている。この場合は、4価のセリウムイオンがジルコニアに固溶するので酸素欠陥が生成されない。Ce−TZPで低温劣化が結晶学的に起こらないことは多くの実験データによって裏付けられている。さらに、このセラミックスは極めて高い靭性値を示す。しかし、Ce−TZPはY−TZPに比べて、強度および硬度が著しく低いという問題があるので、それが実用化への障壁となっている。 セリアとイットリアの両方を安定化剤として含有する高強度ジルコニア焼結体も報告されている(例えば、特許文献1および2参照)。このジルコニア焼結体は、4〜6モル%のセリア(CeO2)と2〜6モル%のイットリア(YO1.5)を安定化剤として含む主として正方晶あるいは正方晶と立方晶よりなる部分安定化ジルコニアと、第2相として、アルミナ、スピネル、ムライトのうちの少なくとも1種以上とで構成される。この場合は、イットリアのみを安定化剤として含有する正方晶ジルコニアと比較して、この焼結体のジルコニアが高温安定相である立方晶により近い構造を有するため、熱安定性が改善されると考えられている。特開昭63−156063(特許請求の範囲、作用、実施例)特開昭63−123861(特許請求の範囲、作用、実施例) しかしながら、立方晶ジルコニアの結晶粒は、正方晶ジルコニアの場合よりも焼結中に大きな粒径となりやすい。すなわち、ジルコニアの異常粒成長を起こしやすい。したがって、十分な強度、硬度および耐磨耗性を信頼性よく確保することが難しい。また、アルミナやムライト等の第2相の存在は、イットリアを安定化剤としたジルコニアの焼結性を阻害し、緻密な焼結体を製造するにあたってはHIP焼結等の加圧焼結が必要になる。これは、製造コストの上昇を招くとともに複雑形状の焼結体の製造を制限する。 したがって、本発明の目的は、低温劣化の問題を克服するとともに、強度と靭性に優れるジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を提供することにある。 すなわち、本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、10〜12モル%のセリア、および0.005モル%以上0.5モル%未満のイットリアを含有し、平均粒径が0.1〜0.8μmのジルコニア粒子でなる第1相と、平均粒径が0.1〜0.5μmのアルミナ粒子でなる第2相とを含み、ジルコニア粒子は90容量%以上の正方晶ジルコニアで構成され、複合セラミック材料中の第2層の含有量は20〜60容量%、より好ましくは30〜50容量%である。 一般に、正方晶ジルコニアの安定化剤として使用するためには2〜3モル%のイットリアが必要とされる。これに対して、本発明は、所定量のセリアに極微量のイットリアを併用することを本質とする。この場合、イットリアの添加による安定化剤機能がほとんど期待できないことは興味深い。すなわち、本発明における重要な知見は、0.005モル%以上0.5モル%未満のイットリアを安定化剤としての10モル%以上12モル%以下のセリアと併用することが、Y−TZPの重大な欠点であった低温劣化を防止しつつ、Ce−TZPの重大な欠点であった低い機械的性質を飛躍的に改善するのに効果的であることを見出した点にある。このように、本発明の技術思想は、セリアとイットリアの両方を安定化剤として使用することによりY−TZPセラミックの熱的安定性を改善する従来の技術思想とは異なるものである。 本発明のさらなる目的および効果は、以下の発明を実施するための最良の形態および実施例からより明確に理解されるだろう。 本発明に係るジルコニア−アルミナ複合セラミック材料およびその製造方法を以下に詳細に説明する。 本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、第1相として10モル%以上12モル%以下のセリアと0.005モル%以上0.5モル%未満のイットリアを含有するジルコニア粒子の使用を本質とする。前記したように、セリアは、正方晶ジルコニアの安定化剤として、また低温劣化を防止する添加剤として重要な役割を担っている。セリアの含有量が10モル%以上12モル%以下の範囲内であれば、正方晶ジルコニアの結晶相は90容量%以上が正方晶からなる。仮に単斜晶が生成したとしても10容量%未満に抑えられ、この時、立方晶は生成しない。したがって、ジルコニアの応力誘起相変態効果に基づいて強度および靭性が改善される。一方、セリアの含有量が10モル%未満だと、単斜晶の量が相対的に増加し、マイクロクラックが複合セラミック材料中に発生して著しい強度低下を招く。また、12モル%を越えると、高温安定相である立方晶ジルコニアが出現し始める。立方晶ジルコニアの生成により正方晶ジルコニアの量が90容量%未満となると、十分な強度・靭性が得られなくなる。 ところで、正方晶ジルコニアの安定化剤として使用する場合のイットリアの配合量が2〜3モル%であることはすでに知られている。一方、本発明は、ジルコニアの全量に対して、0.005モル%以上0.5モル%未満という非常に少なく・狭い範囲内でイットリアを使用することを本質としている。したがって、本発明においては、イットリアの安定化剤効果は期待できない。換言すれば、0.5モル%未満のイットリアが単独で添加されると、単斜晶が支配的となる。このように、少量のイットリアの使用では安定化剤効果は得られない。 しかしながら、本発明者らは、上記した少量のイットリアを10モル%以上12モル%以下のセリアと併用することにより、Ce−TZPの欠点である低強度の問題と、Y−TZPの欠点である低温劣化の問題の両方を同時に解消できることを見出した。本発明において、イットリアの含有量が0.005モル%未満であると、ジルコニアの異常粒成長の抑制効果が不十分となり、複合セラミック材料の強度や硬度の改善を達成できない。一方、イットリアの含有量が0.5モル%以上であると、次第にイットリアの安定化剤効果が出現し始める。これは、低温劣化が問題になることを意味する。 少量のイットリアに安定化剤としてのセリアを併用する場合、理論によって限定することを意図しないが、ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の機械的性質を改善するのに以下に述べる異常粒成長抑制メカニズムが重要な役割を果たしていると考えられる。 すなわち、Chenら(S.L. Hwang and I-W Chen J. Am. Ceram. Soc., 73, 3269 (1990))は、セリア系ジルコニア粒成長に及ぼす各種ドーパントの検討を行い、Ce4+に対し、価数の小さいもの、および同じ価数であればイオン半径の大きいドーパントほど、粒成長を抑制する作用が大きくなることを報告している。したがって、本発明においては、Ce4+(イオン半径:0.97x10-1nm)に対して、価数が小さく、且つイオン半径の大きい(イオン半径:1.019x10-1nm)Y3+の存在によって粒成長抑制効果が得られたと考えられる。 さらに、幾原ら(幾原雄一、佐久間建人、セラミックス、32、524(1997))は、粒界構造が安定で、均一な粒度分布を持つY−TZPの粒界の局所的組成分析を行い、イットリウム(Y)が粒界近傍の数ナノメータの幅に偏析していることを報告している。Y−TZPの場合のように、Ce−TZPにおいても同様の粒界偏析が起こる可能性がある。そのような粒界偏析の発生は、粒界のモビリティを低下させ、粒成長抑制効果を促進すると考えられる。 本発明においては、第1相のジルコニア粒子は、0.1〜0.8μmの平均粒径を有する。平均粒径が0.8μmを超えると、複合セラミック材料の強度、耐磨耗性の低下、あるいは機械的性質のバラツキを招く。一方、0.1μm以下の平均粒径を有する第1相を複合セラミック材料中に実現することは困難である。特に、緻密な焼結体を得るために加圧焼結やHIPが必要となるので、コスト性能の低下や歩留まりの減少が問題になる。さらに、本発明の複合セラミック材料中に後述の”ナノコンポジット組織”を形成するために、ジルコニア粒子内に微細なアルミナ粒子を効率よく分散させることが困難になる。 本発明においては、複合セラミック材料中に存在する全ジルコニア粒子の数に対する第1相の上記平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数の割合が10%以下であることが好ましい。この割合は、上記した量のセリアとイットリアの使用によって達成できる。必要に応じて、第1相は、さらにチタニア、マグネシア、カルシア、あるいはその他の微量の不純物を含有してもよい。 また、本発明の複合セラミック材料の第2相は、平均粒径が0.1〜0.5μmのアルミナ粒子から本質的に構成される。アルミナ粒子の平均粒径が0.1μm未満であると、アルミナ粒子の凝集体が出現し始め、アルミナ粒子を第1相中に均一に分散させることが困難になる。これは、機械的性質のバラツキを招く。一方、平均粒径が0.5μmを超えると、複合セラミック材料の耐摩耗性および硬度が低下する。特に、アルミナ粒子が効率よく第1相のジルコニア粒子内に取り込まれないので、複合セラミック材料中に前記した”ナノコンポジット組織”を形成し難くなる。 さらに、本発明の複合セラミック材料は、20〜60容量%、好ましくは30〜50容量%のアルミナ粒子の含有を本質とする。アルミナ含有量が20容量%未満では強度および耐摩耗性が十分に改善されない。また、全ジルコニア粒子の数に対する第1相の平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数の割合が、10%以上になりやすい。一方、アルミナ含有量が50容量%を越えると、アルミナ粒子の凝集の増加により徐々に強度が低下し、60容量%を越えると、マトリックス相がアルミナによって構成されるので強度および靭性の著しい低下が生じる。複合セラミック材料が30〜50容量%の第2相を含有する時、より高いレベルで強度と靭性のバランスの取れた複合セラミック材料を提供することができる。 本発明において、ジルコニア粒子内に微細なアルミナ粒子を分散させて複合セラミック材料中にナノコンポジット組織を形成することが好ましい。ナノコンポジット組織を形成するには、適度なジルコニアの粒成長が必要である。しかしながら、過剰なジルコニアの粒成長は強度や硬度、耐磨耗性の低下を招く。本発明においては、上記した量でのセリアとイットリアの使用により最適なジルコニアの粒成長を達成している。この場合、ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料中の全アルミナ粒子の数に対するジルコニア粒子内に存在するアルミナ粒子の数の割合が2%以上であることが好ましい。 このナノコンポジット組織を複合セラミック材料に導入することによってもたらされる利点を簡単に説明する。まず、ナノコンポジット組織の形成によって第1相であるジルコニア粒子が大幅に強化される。また、異常粒成長のない微細で均一な組織は主に優れた耐磨耗性を提供する。理論によって限定することを意図するものではないが、格別の改善をもたらす一つの理由として、転位がパイルアップしてジルコニア粒子内に形成されるサブグレインバウンダリーがジルコニア粒子を仮想的にさらに細分化する役割を果たしていることが挙げられる。 すなわち、第1相のジルコニア粒子内に第2相の微細なアルミナ粒子が分散されると、焼結後の冷却過程において、アルミナとジルコニアの熱膨張係数の差によってジルコニア粒子に取り込まれた微細アルミナ粒子の周囲に局所的に残留応力場が形成される。この残留応力場の影響により、ジルコニア粒子内には多数の転位が発生する。転位は互いにパイルアップし、サブグレインバウンダリーが形成される。サブグレインバウンダリーは、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態に必要な臨界応力を増加させる微粒組織を提供し、結果として、本発明の複合セラミック材料は、すぐれた耐摩耗性と硬度に加えて高い機械的強度および靭性を発揮する。 したがって、本発明において定義されるセリアとイットリアの添加量は、ナノコンポジット組織の形成に必要なジルコニア粒子の適度な粒成長を提供して複合セラミック材料の機械的強度および靭性を改善するとともに、低温劣化を防止するために決定された。 本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、耐磨耗性を必要とする用途に特に適している。例えば、本発明の複合セラミック材料を国際公開第02/11780号パンフレットに開示されているような人工関節に使用することが好ましい。即ち、人工関節の関節部がポリエチレンと複合セラミック材料との間の摺動接触によって提供される場合、ポリエチレンの摩耗量を減らすことができる。また、人工関節の関節部が複合セラミック材料同士の摺動接触によって提供される場合は、優れた耐摩耗性を達成できる。このように、本発明の複合セラミック材料の使用は、過酷な生体内条件下で長期間にわたりスムーズな関節運動を安定して提供できる人工関節を得るのに有効である。 次に、本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を製造する方法について詳述する。この製造方法は、第1相のジルコニア粒子を提供する第1成分および第2相のアルミナ粒子を提供する第2成分を調製する工程と、第1成分と第2成分とを、複合セラミック材料中の第2相の含有量が20〜60容量%、より好ましくは30〜50容量%になるように混合する工程と、得られた混合粉末を所望の形状に成形する工程と、得られた圧粉体を酸素含有雰囲気下、所定の焼結温度で焼成する工程とを含む。 第1成分は、得られた複合セラミック材料の第1相中のセリア含有量が10モル%以上12モル%以下、イットリア含有量が0.005モル%以上0.5モル%未満であり、第1相の90容量%以上が正方晶ジルコニアで構成されるように調製される。例えば、第1成分として、ジルコニアに所定量のセリアとイットリアを固溶させて得られる正方晶ジルコニア粉末を用いることが好ましい。 あるいは、以下の手法により、正方晶ジルコニア粉末を調製しても良い。すなわち、セリウム塩等のセリウム含有化合物およびイットリム塩等のイットリウム含有化合物をジルコニウム塩の水溶液に添加する。次いで、得られた混合溶液にアンモニア水等のアルカリ性水溶液を加えて加水分解を行い、沈殿物を得る。この沈殿物を乾燥し、酸素含有雰囲気、例えば、大気中で仮焼し、湿式ボールミル等により粉砕すれば所望の粒度分布を有する正方晶ジルコニア粉末が得られる。 第2成分は、焼成後にアルミナ粒子が複合セラミック材料中に分散されるように調製される。例えば、アルミニウム塩の水溶液にアンモニア等のアルカリ性水溶液を加えて加水分解して沈殿物を得た後、この沈殿物を乾燥し、大気中で仮焼し、湿式ボールミル等により粉砕して所望の粒度分布を有するアルミナ粉末を作成することが好ましい。あるいは、市販のアルミナ粉末を用いてもよい。 焼結工程は、酸素含有雰囲気下、1400〜1500℃の焼結温度で行うことが好ましい。焼結工程においては、第1相の正方晶ジルコニア粒子の平均粒径および第2相のアルミナ粒子の平均粒径がそれぞれ0.1〜0.8μmおよび0.1〜0.5μmの範囲内であるという条件を満たすことが重要である。より好ましくは、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する第1相のジルコニア粒子内に存在するアルミナ粒子の数の割合が2%以上になるように焼結条件が決定される。 ところで、焼結性の指標である粒界のモビリティは、Y−TZPやアルミナセラミックスよりもセリア(CeO2)を安定化剤として含む正方晶ジルコニア多結晶体(Ce−TZP)において非常に高い。したがってCe−TZPを含有する本発明の複合セラミック材料は、加圧焼結やHIP処理を用いることなく常圧焼結で緻密に焼結できる。しかしながら、必要に応じて焼結後に酸素含有雰囲気中でHIP処理を実施してもよい。HIP処理の効果を最大限に得るため、焼結工程後の複合セラミック材料の焼結体は95%以上の相対密度を有することが好ましい。焼成工程における酸素雰囲気中の酸素濃度は特に制限されない。アルゴン等の不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いてもよい。この場合、酸素濃度を混合ガス全量に対しておよそ5容量%以上とすることが好ましい。 本発明の好ましい実施例を以下に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。(実施例1〜20および比較例1〜5) 実施例1〜20の各ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を以下の方法により製造した。複合セラミック材料の第1相であるジルコニア粒子を提供する第1成分としては、表1あるいは2に示す量のセリアとイットリアを含有し、比表面積が15m2g−1である正方晶ジルコニア粉末を用いた。一方、複合セラミック材料の第2相であるアルミナ粒子を生成する第2成分として、平均粒径が0.2μmのα−アルミナ粉末を用いた。 次に、正方晶ジルコニア粉末とα−アルミナ粉末を、表1および表2に示す添加量で配合し、エタノール溶媒中24時間湿式ボールミルを用いて混合し、その後乾燥して混合粉末を得た。この混合粉末をφ68mmの金型を用いて10MPaの圧力で一軸加圧成形して円盤状の成形体を得た。次いで、この成形体を147MPaの圧力でCIP(冷間静水圧加圧)処理した。最後に、大気中、1450℃、保持時間2時間の条件下で成形体を常圧焼結した。 比較例1のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、イットリアを添加しなかったことを除いて実施例1と同様の方法により製造した。比較例2のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、イットリアを1モル%添加したことを除いて実施例1と同様の方法により製造した。比較例3〜5のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、表2に示すように、アルミナの含有量を本発明の範囲外としたことを除いて実施例1と同様の方法により製造した。 実施例1〜20および比較例1〜5の各々に関して得られた焼結体は、いずれも相対密度99%以上であった。X線回折より、それぞれの焼結体の第1相は、95容量%以上の正方晶ジルコニアと、残りが単斜晶ジルコニアでなることが確認され、立方晶ジルコニアの存在は認められなかった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)による焼結体の観察から、第2相の微細アルミナ粒子が第1相のジルコニア粒子内に分散されてなるナノコンポジット組織を呈していることが確認された。 表1および2に示すように、SEM及びTEM観察から測定した焼結体の第1相および第2相の平均粒径は、それぞれ0.3μm〜0.8μmおよび0.2μm〜0.5μmの範囲内であった。また、複合セラミック材料の機械的性質を評価するため、4mmx3mmx40mmの形状を有する試験片を焼結体から作製した。次いで、その試験片を用いて室温で3点曲げ強度および破壊靱性を測定した。破壊靭性はIF法に基づいて求めた。結果を表3および表4に示す。 さらに、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対するジルコニア粒子内に分散される微細アルミナ粒子の数の割合として定義されるアルミナ分散率W1、および複合セラミック材料内のジルコニア粒子の全数に対する、第1相の平均粒径の2倍以上に粒成長したジルコニア粒子の数の割合として定義されるジルコニア分散率W2を以下の手法により求めた。まず、焼結体を研磨/熱処理して試料を作製し、次いでその試料のSEMあるいはTEM観察を実施して、視野内に存在する第2相のアルミナ粒子の総粒子数(S1)、同視野内の第1相の粒子内に存在する第2相の粒子の数(n1)、同視野内の第1相のジルコニア粒子の総粒子数(S2)、同視野内の第1相の平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数(n2)をカウントした。これらの値を下記の式に代入してアルミナおよびジルコニア分散率を算出した。結果を表3および表4に示す。W1〔%〕=(n1/S1)×100W2〔%〕=(n2/S2)×100 実施例1〜15および比較例1および2に関しては、複合セラミック材料の低温劣化の有無を調べるため、オートクレーブ試験を行った。すなわち、オートクレーブ試験を121℃、1.15MPaという過酷な条件下、100時間実施した後、単斜晶ジルコニアの量を測定し、試験前に測定した単斜晶ジルコニアの量と比較した。結果を表3に示す。 表1および表2に示すように、すべての実施例において、アルミナ分散率W1は2%以上であり、ジルコニア分散率W2は10%以下であった。また、オートクレーブ試験による正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアへの有意な相転移は観察されなかった。 比較例1において、ジルコニア分散率W2は15%である。ジルコニア分散率W2のこの増加は、曲げ強度の大幅な低下に関連していると考えられる。比較例2においては、オートクレーブ試験により単斜晶ジルコニアの量が1.8容量%から25容量%に増加した。単斜晶ジルコニア量のこの増加は、破壊靱性の顕著な低下に関連していると考えられる。比較例3および4においては、複合セラミック材料中のアルミナ含有量が20容量%以下であるので、ジルコニアの粒成長抑制効果が十分でなく、曲げ強度が低下した。一方、比較例5においては、アルミナ含有量が60容量%以上であるため、曲げ強度が顕著に低下した。 上記実施例からわかるように、安定化剤としての10〜12モル%のセリアに極微量(0.005モル%以上0.5モル%未満)のイットリアを併用することを特徴とする本発明のジルコニアーアルミナ複合セラミック材料は、Ce−TZPの主たる欠点であるジルコニアの異常粒成長によって生じる曲げ強度の低下と、Y−TZPの主たる欠点である低温劣化と密接に関係する単斜晶ジルコニアへの相転移の両方を同時に防止して、優れた機械的強度および靭性を発揮する。 したがって、本発明の複合セラミック材料は、光コネクタ用フェルール、軸受け、ダイス等の産業機械部品;ハサミ、鋸、その他種々の刃物類等の事務・理化学用品;メカニカルシール、粉砕メディア等の化学部品;スポーツレジャー用品;人工関節、人工骨、人工歯根、アパットメント、クラウン等の生体材料;手術用メス等の医療用具等の種々の分野において、その実用化が期待される。 10〜12モル%のセリア、および0.005モル%以上0.5モル%未満のイットリアを含有し、90容量%以上の正方晶ジルコニアで構成され、平均粒径が0.1〜0.8μmであるジルコニア粒子でなる第1相と、複合セラミック材料中の含有量が20〜60容量%であり、平均粒径が0.1〜0.5μmのアルミナ粒子でなる第2相とを含むことを特徴とするジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 前記複合セラミック材料中の第2相の含有量は30〜50容量%であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 前記複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する前記ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の割合が2%以上であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 上記複合セラミック材料中に存在する全ジルコニア粒子の数に対する上記第1相の平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数の割合が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 【課題】低温劣化を防止するとともに、機械的強度と靭性に優れるジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を提供する。【解決手段】この複合セラミック材料は、10〜12モル%以下のセリア、および0.005モル%以上0.5モル%未満のイットリアを含有し、平均粒径が0.1〜0.8μmであるジルコニア粒子でなる第1相と、平均粒径が0.1〜0.5μmのアルミナ粒子である第2相とを含み、ジルコニア粒子の90容量%以上が正方晶ジルコニアで構成され、複合セラミック材料中の第2相の含有量は20〜60容量%、好ましくは30〜50容量%である。


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特許公報(B2)_ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料
出願番号:2004236391
年次:2011
IPC分類:C04B 35/48,A61K 6/027,A61L 27/00,C04B 35/10


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名和 正弘 JP 4701654 特許公報(B2) 20110318 2004236391 20040816 ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料 パナソニック電工株式会社 000005832 西川 惠清 100087767 水尻 勝久 100155745 坂口 武 100155756 北出 英敏 100161883 名和 正弘 JP 2003299092 20030822 20110615 C04B 35/48 20060101AFI20110526BHJP A61K 6/027 20060101ALI20110526BHJP A61L 27/00 20060101ALI20110526BHJP C04B 35/10 20060101ALI20110526BHJP JPC04B35/48 CA61K6/027A61L27/00 HC04B35/10 E C04B35/42−35/51 C04B35/10−35/115 特開2004−051481(JP,A) 特開昭61−077665(JP,A) 特開昭63−156063(JP,A) 特開昭63−139049(JP,A) 特開平08−268775(JP,A) 特開平10−101418(JP,A) 特開平08−268755(JP,A) 2 2005097094 20050414 12 20070511 藤代 佳 本発明は、低温劣化を防止するとともに、機械的性質に優れるジルコニア−アルミナ複合セラミック材料に関するものである。 代表的なセラミック材料であるアルミナ、窒化珪素、炭化珪素などに比較して、2〜3モル%のイットリア(Y2O3)を安定化剤として含む正方晶ジルコニア多結晶体(Y−TZP)は、高強度且つ高靭性といった優れた機械的性質を発揮し、広く実用に供されている。近年においては、人工関節、人工歯根、アバットメントやクラウン等の生体用材料への応用も徐々に進んでいる。 しかしながら、Y−TZPセラミックスは、比較的低温域、例えば、200〜300℃で約4.6%の体積膨張を伴って、準安定正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの相転移が進行するという問題がある。この体積膨張によってY−TZPセラミックス内に導入されたマイクロクラックにより、機械的性質の顕著な劣化が発生する。また、水分を含む湿潤環境(例えば、生体内環境)下では、相転移がさらに加速されることも知られている。このようなY−TZPの低温劣化の大きな原因の一つとして、3価のイットリウムイオンが4価のジルコニウムイオンの8配位の位置に侵入型に固溶し、価数の相違によってジルコニアに酸素欠陥が生じると考えられている。 一方、CeO2を安定化剤として含む正方晶ジルコニア多結晶体(Ce−TZP)も広く知られている。この場合は、4価のセリウムイオンがジルコニアに固溶するので酸素欠陥が生成されない。Ce−TZPで低温劣化が結晶学的に起こらないことは多くの実験データによって裏付けられている。さらに、このセラミックスは極めて高い靭性値を示す。しかし、Ce−TZPはY−TZPに比べて、強度および硬度が著しく低いという問題があるので、それが実用化への障壁となっている。 セリアとイットリアの両方を安定化剤として含有する高強度ジルコニア焼結体も報告されている(例えば、特許文献1および2参照)。このジルコニア焼結体は、4〜6モル%のセリア(CeO2)と2〜6モル%のイットリア(YO1.5)を安定化剤として含む主として正方晶あるいは正方晶と立方晶よりなる部分安定化ジルコニアと、第2相として、アルミナ、スピネル、ムライトのうちの少なくとも1種以上とで構成される。この場合は、イットリアのみを安定化剤として含有する正方晶ジルコニアと比較して、この焼結体のジルコニアが高温安定相である立方晶により近い構造を有するため、熱安定性が改善されると考えられている。特開昭63−156063(特許請求の範囲、作用、実施例)特開昭63−123861(特許請求の範囲、作用、実施例) しかしながら、立方晶ジルコニアの結晶粒は、正方晶ジルコニアの場合よりも焼結中に大きな粒径となりやすい。すなわち、ジルコニアの異常粒成長を起こしやすい。したがって、十分な強度、硬度および耐磨耗性を信頼性よく確保することが難しい。また、アルミナやムライト等の第2相の存在は、イットリアを安定化剤としたジルコニアの焼結性を阻害し、緻密な焼結体を製造するにあたってはHIP焼結等の加圧焼結が必要になる。これは、製造コストの上昇を招くとともに複雑形状の焼結体の製造を制限する。 したがって、本発明の目的は、低温劣化の問題を克服するとともに、強度と靭性に優れるジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を提供することにある。 すなわち、本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、10〜12モル%のセリア、および0.005モル%以上0.07モル%以下のイットリアを含有し、平均粒径が0.1〜0.8μmのジルコニア粒子でなる第1相と、平均粒径が0.1〜0.5μmのアルミナ粒子でなる第2相とを含み、ジルコニア粒子は90容量%以上の正方晶ジルコニアで構成され、複合セラミック材料中の第2層の含有量は20〜60容量%、より好ましくは30〜50容量%である。前記複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する前記ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の割合が2%以上である。前記複合セラミック材料中に存在する全ジルコニア粒子の数に対する前記第1相の平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数の割合が10%以下である。 一般に、正方晶ジルコニアの安定化剤として使用するためには2〜3モル%のイットリアが必要とされる。これに対して、本発明は、所定量のセリアに極微量のイットリアを併用することを本質とする。この場合、イットリアの添加による安定化剤機能がほとんど期待できないことは興味深い。すなわち、本発明における重要な知見は、0.005モル%以上0.23モル%以下のイットリアを安定化剤としての10モル%以上12モル%以下のセリアと併用することが、Y−TZPの重大な欠点であった低温劣化を防止しつつ、Ce−TZPの重大な欠点であった低い機械的性質を飛躍的に改善するのに効果的であることを見出した点にある。このように、本発明の技術思想は、セリアとイットリアの両方を安定化剤として使用することによりY−TZPセラミックの熱的安定性を改善する従来の技術思想とは異なるものである。 本発明のさらなる目的および効果は、以下の発明を実施するための最良の形態および実施例からより明確に理解されるだろう。 本発明に係るジルコニア−アルミナ複合セラミック材料およびその製造方法を以下に詳細に説明する。 本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、第1相として10モル%以上12モル%以下のセリアと0.005モル%以上0.5モル%未満のイットリアを含有するジルコニア粒子の使用を本質とする。前記したように、セリアは、正方晶ジルコニアの安定化剤として、また低温劣化を防止する添加剤として重要な役割を担っている。セリアの含有量が10モル%以上12モル%以下の範囲内であれば、正方晶ジルコニアの結晶相は90容量%以上が正方晶からなる。仮に単斜晶が生成したとしても10容量%未満に抑えられ、この時、立方晶は生成しない。したがって、ジルコニアの応力誘起相変態効果に基づいて強度および靭性が改善される。一方、セリアの含有量が10モル%未満だと、単斜晶の量が相対的に増加し、マイクロクラックが複合セラミック材料中に発生して著しい強度低下を招く。また、12モル%を越えると、高温安定相である立方晶ジルコニアが出現し始める。立方晶ジルコニアの生成により正方晶ジルコニアの量が90容量%未満となると、十分な強度・靭性が得られなくなる。 ところで、正方晶ジルコニアの安定化剤として使用する場合のイットリアの配合量が2〜3モル%であることはすでに知られている。一方、本発明は、ジルコニアの全量に対して、0.005モル%以上0.5モル%未満という非常に少なく・狭い範囲内でイットリアを使用することを本質としている。したがって、本発明においては、イットリアの安定化剤効果は期待できない。換言すれば、0.5モル%未満のイットリアが単独で添加されると、単斜晶が支配的となる。このように、少量のイットリアの使用では安定化剤効果は得られない。 しかしながら、本発明者らは、上記した少量のイットリアを10モル%以上12モル%以下のセリアと併用することにより、Ce−TZPの欠点である低強度の問題と、Y−TZPの欠点である低温劣化の問題の両方を同時に解消できることを見出した。本発明において、イットリアの含有量が0.005モル%未満であると、ジルコニアの異常粒成長の抑制効果が不十分となり、複合セラミック材料の強度や硬度の改善を達成できない。一方、イットリアの含有量が0.5モル%以上であると、次第にイットリアの安定化剤効果が出現し始める。これは、低温劣化が問題になることを意味する。 少量のイットリアに安定化剤としてのセリアを併用する場合、理論によって限定することを意図しないが、ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の機械的性質を改善するのに以下に述べる異常粒成長抑制メカニズムが重要な役割を果たしていると考えられる。 すなわち、Chenら(S.L. Hwang and I-W Chen J. Am. Ceram. Soc., 73, 3269 (1990))は、セリア系ジルコニア粒成長に及ぼす各種ドーパントの検討を行い、Ce4+に対し、価数の小さいもの、および同じ価数であればイオン半径の大きいドーパントほど、粒成長を抑制する作用が大きくなることを報告している。したがって、本発明においては、Ce4+(イオン半径:0.97x10-1nm)に対して、価数が小さく、且つイオン半径の大きい(イオン半径:1.019x10-1nm)Y3+の存在によって粒成長抑制効果が得られたと考えられる。 さらに、幾原ら(幾原雄一、佐久間建人、セラミックス、32、524(1997))は、粒界構造が安定で、均一な粒度分布を持つY−TZPの粒界の局所的組成分析を行い、イットリウム(Y)が粒界近傍の数ナノメータの幅に偏析していることを報告している。Y−TZPの場合のように、Ce−TZPにおいても同様の粒界偏析が起こる可能性がある。そのような粒界偏析の発生は、粒界のモビリティを低下させ、粒成長抑制効果を促進すると考えられる。 本発明においては、第1相のジルコニア粒子は、0.1〜0.8μmの平均粒径を有する。平均粒径が0.8μmを超えると、複合セラミック材料の強度、耐磨耗性の低下、あるいは機械的性質のバラツキを招く。一方、0.1μm以下の平均粒径を有する第1相を複合セラミック材料中に実現することは困難である。特に、緻密な焼結体を得るために加圧焼結やHIPが必要となるので、コスト性能の低下や歩留まりの減少が問題になる。さらに、本発明の複合セラミック材料中に後述の”ナノコンポジット組織”を形成するために、ジルコニア粒子内に微細なアルミナ粒子を効率よく分散させることが困難になる。 本発明においては、複合セラミック材料中に存在する全ジルコニア粒子の数に対する第1相の上記平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数の割合が10%以下であることが好ましい。この割合は、上記した量のセリアとイットリアの使用によって達成できる。必要に応じて、第1相は、さらにチタニア、マグネシア、カルシア、あるいはその他の微量の不純物を含有してもよい。 また、本発明の複合セラミック材料の第2相は、平均粒径が0.1〜0.5μmのアルミナ粒子から本質的に構成される。アルミナ粒子の平均粒径が0.1μm未満であると、アルミナ粒子の凝集体が出現し始め、アルミナ粒子を第1相中に均一に分散させることが困難になる。これは、機械的性質のバラツキを招く。一方、平均粒径が0.5μmを超えると、複合セラミック材料の耐摩耗性および硬度が低下する。特に、アルミナ粒子が効率よく第1相のジルコニア粒子内に取り込まれないので、複合セラミック材料中に前記した”ナノコンポジット組織”を形成し難くなる。 さらに、本発明の複合セラミック材料は、20〜60容量%、好ましくは30〜50容量%のアルミナ粒子の含有を本質とする。アルミナ含有量が20容量%未満では強度および耐摩耗性が十分に改善されない。また、全ジルコニア粒子の数に対する第1相の平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数の割合が、10%以上になりやすい。一方、アルミナ含有量が50容量%を越えると、アルミナ粒子の凝集の増加により徐々に強度が低下し、60容量%を越えると、マトリックス相がアルミナによって構成されるので強度および靭性の著しい低下が生じる。複合セラミック材料が30〜50容量%の第2相を含有する時、より高いレベルで強度と靭性のバランスの取れた複合セラミック材料を提供することができる。 本発明において、ジルコニア粒子内に微細なアルミナ粒子を分散させて複合セラミック材料中にナノコンポジット組織を形成することが好ましい。ナノコンポジット組織を形成するには、適度なジルコニアの粒成長が必要である。しかしながら、過剰なジルコニアの粒成長は強度や硬度、耐磨耗性の低下を招く。本発明においては、上記した量でのセリアとイットリアの使用により最適なジルコニアの粒成長を達成している。この場合、ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料中の全アルミナ粒子の数に対するジルコニア粒子内に存在するアルミナ粒子の数の割合が2%以上であることが好ましい。 このナノコンポジット組織を複合セラミック材料に導入することによってもたらされる利点を簡単に説明する。まず、ナノコンポジット組織の形成によって第1相であるジルコニア粒子が大幅に強化される。また、異常粒成長のない微細で均一な組織は主に優れた耐磨耗性を提供する。理論によって限定することを意図するものではないが、格別の改善をもたらす一つの理由として、転位がパイルアップしてジルコニア粒子内に形成されるサブグレインバウンダリーがジルコニア粒子を仮想的にさらに細分化する役割を果たしていることが挙げられる。 すなわち、第1相のジルコニア粒子内に第2相の微細なアルミナ粒子が分散されると、焼結後の冷却過程において、アルミナとジルコニアの熱膨張係数の差によってジルコニア粒子に取り込まれた微細アルミナ粒子の周囲に局所的に残留応力場が形成される。この残留応力場の影響により、ジルコニア粒子内には多数の転位が発生する。転位は互いにパイルアップし、サブグレインバウンダリーが形成される。サブグレインバウンダリーは、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態に必要な臨界応力を増加させる微粒組織を提供し、結果として、本発明の複合セラミック材料は、すぐれた耐摩耗性と硬度に加えて高い機械的強度および靭性を発揮する。 したがって、本発明において定義されるセリアとイットリアの添加量は、ナノコンポジット組織の形成に必要なジルコニア粒子の適度な粒成長を提供して複合セラミック材料の機械的強度および靭性を改善するとともに、低温劣化を防止するために決定された。 本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、耐磨耗性を必要とする用途に特に適している。例えば、本発明の複合セラミック材料を国際公開第02/11780号パンフレットに開示されているような人工関節に使用することが好ましい。即ち、人工関節の関節部がポリエチレンと複合セラミック材料との間の摺動接触によって提供される場合、ポリエチレンの摩耗量を減らすことができる。また、人工関節の関節部が複合セラミック材料同士の摺動接触によって提供される場合は、優れた耐摩耗性を達成できる。このように、本発明の複合セラミック材料の使用は、過酷な生体内条件下で長期間にわたりスムーズな関節運動を安定して提供できる人工関節を得るのに有効である。 次に、本発明のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を製造する方法について詳述する。この製造方法は、第1相のジルコニア粒子を提供する第1成分および第2相のアルミナ粒子を提供する第2成分を調製する工程と、第1成分と第2成分とを、複合セラミック材料中の第2相の含有量が20〜60容量%、より好ましくは30〜50容量%になるように混合する工程と、得られた混合粉末を所望の形状に成形する工程と、得られた圧粉体を酸素含有雰囲気下、所定の焼結温度で焼成する工程とを含む。 第1成分は、得られた複合セラミック材料の第1相中のセリア含有量が10モル%以上12モル%以下、イットリア含有量が0.005モル%以上0.5モル%未満であり、第1相の90容量%以上が正方晶ジルコニアで構成されるように調製される。例えば、第1成分として、ジルコニアに所定量のセリアとイットリアを固溶させて得られる正方晶ジルコニア粉末を用いることが好ましい。 あるいは、以下の手法により、正方晶ジルコニア粉末を調製しても良い。すなわち、セリウム塩等のセリウム含有化合物およびイットリム塩等のイットリウム含有化合物をジルコニウム塩の水溶液に添加する。次いで、得られた混合溶液にアンモニア水等のアルカリ性水溶液を加えて加水分解を行い、沈殿物を得る。この沈殿物を乾燥し、酸素含有雰囲気、例えば、大気中で仮焼し、湿式ボールミル等により粉砕すれば所望の粒度分布を有する正方晶ジルコニア粉末が得られる。 第2成分は、焼成後にアルミナ粒子が複合セラミック材料中に分散されるように調製される。例えば、アルミニウム塩の水溶液にアンモニア等のアルカリ性水溶液を加えて加水分解して沈殿物を得た後、この沈殿物を乾燥し、大気中で仮焼し、湿式ボールミル等により粉砕して所望の粒度分布を有するアルミナ粉末を作成することが好ましい。あるいは、市販のアルミナ粉末を用いてもよい。 焼結工程は、酸素含有雰囲気下、1400〜1500℃の焼結温度で行うことが好ましい。焼結工程においては、第1相の正方晶ジルコニア粒子の平均粒径および第2相のアルミナ粒子の平均粒径がそれぞれ0.1〜0.8μmおよび0.1〜0.5μmの範囲内であるという条件を満たすことが重要である。より好ましくは、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する第1相のジルコニア粒子内に存在するアルミナ粒子の数の割合が2%以上になるように焼結条件が決定される。 ところで、焼結性の指標である粒界のモビリティは、Y−TZPやアルミナセラミックスよりもセリア(CeO2)を安定化剤として含む正方晶ジルコニア多結晶体(Ce−TZP)において非常に高い。したがってCe−TZPを含有する本発明の複合セラミック材料は、加圧焼結やHIP処理を用いることなく常圧焼結で緻密に焼結できる。しかしながら、必要に応じて焼結後に酸素含有雰囲気中でHIP処理を実施してもよい。HIP処理の効果を最大限に得るため、焼結工程後の複合セラミック材料の焼結体は95%以上の相対密度を有することが好ましい。焼成工程における酸素雰囲気中の酸素濃度は特に制限されない。アルゴン等の不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いてもよい。この場合、酸素濃度を混合ガス全量に対しておよそ5容量%以上とすることが好ましい。 本発明の好ましい実施例を以下に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。(実施例、参考例および比較例)実施例1,2,6,7,11及び参考例3〜5,8〜10,12〜20の各ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を以下の方法により製造した。複合セラミック材料の第1相であるジルコニア粒子を提供する第1成分としては、表1あるいは2に示す量のセリアとイットリアを含有し、比表面積が15m2g−1である正方晶ジルコニア粉末を用いた。一方、複合セラミック材料の第2相であるアルミナ粒子を生成する第2成分として、平均粒径が0.2μmのα−アルミナ粉末を用いた。 次に、正方晶ジルコニア粉末とα−アルミナ粉末を、表1および表2に示す添加量で配合し、エタノール溶媒中24時間湿式ボールミルを用いて混合し、その後乾燥して混合粉末を得た。この混合粉末をφ68mmの金型を用いて10MPaの圧力で一軸加圧成形して円盤状の成形体を得た。次いで、この成形体を147MPaの圧力でCIP(冷間静水圧加圧)処理した。最後に、大気中、1450℃、保持時間2時間の条件下で成形体を常圧焼結した。 比較例1のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、イットリアを添加しなかったことを除いて実施例1と同様の方法により製造した。比較例2のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、イットリアを1モル%添加したことを除いて実施例1と同様の方法により製造した。比較例3〜5のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、表2に示すように、アルミナの含有量を本発明の範囲外としたことを除いて実施例1と同様の方法により製造した。 実施例1,2,6,7,11、参考例3〜5,8〜10,12〜20および比較例1〜5の各々に関して得られた焼結体は、いずれも相対密度99%以上であった。X線回折より、それぞれの焼結体の第1相は、95容量%以上の正方晶ジルコニアと、残りが単斜晶ジルコニアでなることが確認され、立方晶ジルコニアの存在は認められなかった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)による焼結体の観察から、第2相の微細アルミナ粒子が第1相のジルコニア粒子内に分散されてなるナノコンポジット組織を呈していることが確認された。 表1および2に示すように、SEM及びTEM観察から測定した焼結体の第1相および第2相の平均粒径は、それぞれ0.3μm〜0.8μmおよび0.2μm〜0.5μmの範囲内であった。また、複合セラミック材料の機械的性質を評価するため、4mmx3mmx40mmの形状を有する試験片を焼結体から作製した。次いで、その試験片を用いて室温で3点曲げ強度および破壊靱性を測定した。破壊靭性はIF法に基づいて求めた。結果を表3および表4に示す。 さらに、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対するジルコニア粒子内に分散される微細アルミナ粒子の数の割合として定義されるアルミナ分散率W1、および複合セラミック材料内のジルコニア粒子の全数に対する、第1相の平均粒径の2倍以上に粒成長したジルコニア粒子の数の割合として定義されるジルコニア分散率W2を以下の手法により求めた。まず、焼結体を研磨/熱処理して試料を作製し、次いでその試料のSEMあるいはTEM観察を実施して、視野内に存在する第2相のアルミナ粒子の総粒子数(S1)、同視野内の第1相の粒子内に存在する第2相の粒子の数(n1)、同視野内の第1相のジルコニア粒子の総粒子数(S2)、同視野内の第1相の平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数(n2)をカウントした。これらの値を下記の式に代入してアルミナおよびジルコニア分散率を算出した。結果を表3および表4に示す。W1〔%〕=(n1/S1)×100W2〔%〕=(n2/S2)×100 実施例1,2,6,7,11、参考例3〜5,8〜10,12〜15および比較例1および2に関しては、複合セラミック材料の低温劣化の有無を調べるため、オートクレーブ試験を行った。すなわち、オートクレーブ試験を121℃、1.15MPaという過酷な条件下、100時間実施した後、単斜晶ジルコニアの量を測定し、試験前に測定した単斜晶ジルコニアの量と比較した。結果を表3に示す。 表1および表2に示すように、すべての実施例において、アルミナ分散率W1は2%以上であり、ジルコニア分散率W2は10%以下であった。また、オートクレーブ試験による正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアへの有意な相転移は観察されなかった。 比較例1において、ジルコニア分散率W2は15%である。ジルコニア分散率W2のこの増加は、曲げ強度の大幅な低下に関連していると考えられる。比較例2においては、オートクレーブ試験により単斜晶ジルコニアの量が1.8容量%から25容量%に増加した。単斜晶ジルコニア量のこの増加は、破壊靱性の顕著な低下に関連していると考えられる。比較例3および4においては、複合セラミック材料中のアルミナ含有量が20容量%以下であるので、ジルコニアの粒成長抑制効果が十分でなく、曲げ強度が低下した。一方、比較例5においては、アルミナ含有量が60容量%以上であるため、曲げ強度が顕著に低下した。 上記実施例からわかるように、安定化剤としての10〜12モル%のセリアに極微量(0.005モル%以上0.23モル%以下)のイットリアを併用することを特徴とする本発明のジルコニアーアルミナ複合セラミック材料は、Ce−TZPの主たる欠点であるジルコニアの異常粒成長によって生じる曲げ強度の低下と、Y−TZPの主たる欠点である低温劣化と密接に関係する単斜晶ジルコニアへの相転移の両方を同時に防止して、優れた機械的強度および靭性を発揮する。 したがって、本発明の複合セラミック材料は、光コネクタ用フェルール、軸受け、ダイス等の産業機械部品;ハサミ、鋸、その他種々の刃物類等の事務・理化学用品;メカニカルシール、粉砕メディア等の化学部品;スポーツレジャー用品;人工関節、人工骨、人工歯根、アパットメント、クラウン等の生体材料;手術用メス等の医療用具等の種々の分野において、その実用化が期待される。 10〜12モル%のセリア、および0.005モル%以上0.07モル%以下のイットリアを含有し、90容量%以上の正方晶ジルコニアで構成され、平均粒径が0.1〜0.8μmであるジルコニア粒子でなる第1相と、複合セラミック材料中の含有量が20〜60容量%であり、平均粒径が0.1〜0.5μmのアルミナ粒子でなる第2相とを含み、前記複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する前記ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の割合が2%以上であり、前記複合セラミック材料中に存在する全ジルコニア粒子の数に対する前記第1相の平均粒径の2倍以上の粒径を有するジルコニア粒子の数の割合が10%以下であることを特徴とするジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。 前記複合セラミック材料中の第2相の含有量は30〜50容量%であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。


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