タイトル: | 公開特許公報(A)_組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体、人工酸素運搬体および赤血球代替物 |
出願番号: | 2004232518 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C07K 14/765,A61K 31/555,A61P 7/06,A61P 7/08,A61K 38/16,C12N 15/09,C07D 487/22 |
土田 英俊 小松 晃之 大道 直美 スティーブン・カリー JP 2006045172 公開特許公報(A) 20060216 2004232518 20040809 組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体、人工酸素運搬体および赤血球代替物 土田 英俊 000218719 鈴江 武彦 100058479 河野 哲 100091351 中村 誠 100088683 蔵田 昌俊 100108855 峰 隆司 100075672 福原 淑弘 100109830 村松 貞男 100084618 橋本 良郎 100092196 土田 英俊 小松 晃之 大道 直美 スティーブン・カリー C07K 14/765 20060101AFI20060120BHJP A61K 31/555 20060101ALI20060120BHJP A61P 7/06 20060101ALI20060120BHJP A61P 7/08 20060101ALI20060120BHJP A61K 38/16 20060101ALI20060120BHJP C12N 15/09 20060101ALI20060120BHJP C07D 487/22 20060101ALN20060120BHJP JPC07K14/765A61K31/555A61P7/06A61P7/08A61K37/14C12N15/00 AC07D487/22 8 OL 10 4B024 4C050 4C084 4C086 4H045 4B024AA01 4B024BA40 4B024DA12 4B024GA25 4C050PA01 4C084AA02 4C084AA07 4C084BA02 4C084BA32 4C084BA33 4C084BA44 4C084BA50 4C084CA53 4C084CA59 4C084NA14 4C084ZA521 4C084ZA522 4C084ZA551 4C084ZA552 4C086AA01 4C086AA02 4C086AA03 4C086CB04 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA52 4C086ZA55 4H045AA10 4H045AA30 4H045BA52 4H045CA42 4H045DA70 4H045EA24 本発明は、組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体、並びにその組換えヒト血清アルブミンを含む人工酸素運搬体および赤血球代替物に関する。特に、本発明は、ヒト血清アルブミンのヘム結合サイトであるサブドメインIB内へヒスチジンと疎水性アミノ酸を遺伝子組換え技術により導入した組換えヒト血清アルブミンと金属ポルフィリンとの錯体、並びにその錯体を含む人工酸素運搬体および赤血球代替物に関する。 ヒト血清アルブミン(HSA)は、体内において血液及び細胞間液をはじめとする多くの場所に分布する分子量約66,500の補欠分子や、糖鎖を持たない単純蛋白質であり、17個のジスルフィド結合を含む585個のアミノ酸から構成されている。血中蛋白質の約60%を占めるため、そのコロイド浸透圧により、血管内外の水分バランスを保つとともに、血管循環動態を維持する役割を果たしている。また、非特異的な多分子結合能を持つので、各種内因性物質・外因性薬物の運搬、貯蔵、分配、代謝にきわめて重要な生理的役割を担っている。様々な動物種のアルブミンについても研究報告があり、ウシ、ラットなど哺乳類アルブミンのアミノ酸配列は、ヒト血清アルブミンと実に60%以上の構造相同性を有する。アルブミンに関する研究は古くから実施されてきているが、X線結晶構造解析によりその三次元構造の全容が明らかにされたのは1989年のことであった(非特許文献1)。その後、1998年には、カリーらにより、脂肪酸が7分子結合したアルブミン−脂肪酸複合体の結晶構造が詳細に解明された(非特許文献2)。HSAは三つのドメイン(I、II、III)からなり、それらはさらに2つのサブドメイン(A、B)から構成されている。 もし、血清アルブミンにヘモグロビン(Hb)のような酸素輸送能を付与することができれば、人工酸素運搬体(赤血球代替物)としての臨床利用価値はきわめて高く、例えば救急医療現場における救命措置への適用を考えただけでも、その絶大な効果が容易に推測される。興味あることに、血漿蛋白質の中にはヘミン(鉄(III)プロトポルフィリン)を取り込んでヘム蛋白質を構成するものもある。メトHbから血流中へ遊離したヘミンは、細胞毒性や活性酸素を発生するため、ヘモペキシンと呼ばれる糖蛋白質により速やかに捕捉され肝臓へと運ばれる(非特許文献3)。ヘモペキシン−ヘミン錯体のX線結晶構造解析の結果から、ヘミン分子は2つのヒスチジン残基との軸配位、及びアミノ酸残基との多重水素結合により、非常に強く固定されている様子が明らかにされている(K>1012M-1)(非特許文献4)。しかし、ヘモペキシンの血中濃度は<17μMと低いため、これが飽和した場合には、血清アルブミンがその機能代替を果たす。アルブミンとヘミンの結合定数は約108M-1と報告されている(非特許文献5)。ごく最近、カーターらと本発明者らは独立に、アルブミン−ヘミン−ミリスチン酸錯体の結晶構造解析に成功した(非特許文献6、非特許文献7)。ヘミンはアルブミンのサブドメインIBに取り込まれ、161チロシンとの軸配位、及び3つの塩基性アミノ酸(リシン190、ヒスチジン146、アルギニン114)残基とプロピオン酸側鎖間との静電的相互作用により固定されている。ヘミン結合サイトを取り囲む分子環境は疎水性アミノ酸残基のみから構成されており、ミオグロビン(Mb)のヘムポケットとの類似性がある。窒素雰囲気下でこの水溶液に亜二チオン酸ナトリウム水溶液を添加し、ヘミンを鉄(II)プロトポルフィリン錯体(プロトヘム)へ還元すると、可視吸収スペクトルは161チロシンが配位した鉄(II)5配位高スピン錯体を形成する。しかし、そこへ酸素を通気しても中心鉄(II)は瞬時に酸化され、安定な酸素錯体を得ることはなかった。 他方、本発明者らの研究グループは、4つの疎水性置換基を有し、かつ軸塩基配位子を分子内に共有結合した鉄(II)テトラフェニルポルフィリンがアルブミンに効率よく疎水性相互作用により包接され、得られたアルブミン−ヘム複合体が生理条件下(生理塩水中、pH7.3、37℃)でHbやミオグロビン(Mb)と同じように酸素を吸脱着できることを明らかにしている(特許文献1、特許文献2)。赤外吸収、共鳴ラマン、磁気円偏光二色性スペクトルなどから、酸素配位錯体の電子状態を詳細に解析するとともに、生体内でも酸素運搬のできる血清ヘム蛋白質として機能することを動物実験から定量的に実証している(非特許文献8)。また現在、人工赤血球として開発が先行している分子状Hb製剤の欠点である血圧亢進(副作用)も全く観測されていない(非特許文献9)。アルブミンはHbに比べ等電点が低く、内皮細胞を取り囲む基底膜との間に負電荷どうしの静電反発を生じるため、その血管内皮透過性が低く、血管内皮弛緩因子である一酸化窒素を消去しないので、急激な血圧変動は見られないのである。 しかしながら、これらのアルブミン−ヘム複合体において酸素配位活性中心として機能する合成ヘムは、4つの疎水性置換基と軸塩基配位子を分子内に有する特殊な立体構造の鉄(II)テトラフェニルポルフィリンでなければならず、天然のHbにおける鉄(II)プロトポルフィリンとはかなり構造を異にする。つまり、これまでアルブミン−ヘム複合体の鉄(II)ポルフィリンに酸素配位能を付与するための構造要件は、先ずは少なくとも分子内に共有結合で連結した近位塩基を保持させることであった。そのために合成工程は多段階にわたり、量産が難しいなどの欠点もあった。また、体内へ投与した後の代謝分解過程についても未だ不明な点が多いのも現状であった。もし、天然の金属ポルフィリン、例えば鉄(II)プロトポルフィリン、またはその誘導体を血清アルブミンに固定させて調製したアルブミン−金属ポルフィリン錯体が、HbやMbと同じような酸素配位能を発現することができれば、その有用性は計りしれないものがある。つまり、近位塩基が分子内に導入されていない金属(II)ポルフィリンをアルブミンに結合させたアルブミン−金属ポルフィリン錯体で、Hbのような可逆的酸素結合解離を達成する新技術の確立が待たれていた。 最近カーターらはヒト血清アルブミンに遺伝子組換え技術により親水性アミノ酸(ヒスチジンまたはグルタミン)を導入し、プロトヘムを配位固定させた組換えアルブミン−プロトヘム錯体を調製し、その酸素結合反応を検討している(特許文献3)。しかし、用いた酸素配位活性中心はプロトヘムのみであり、しかも酸素結合定数など、酸素配位能に関する定量的な解析はしていないし、実際に安定な酸素錯体は得られていないといえる。D. C. Carter et al., Science 244: 1195-1198 (1989)S. Curry et al., Nature Struct. Biol. 5, 827-835 (1998)E. Tolosano et al., DNA Cell Biol., 21: 297-306 (2002)M. Paoli et al., Nature Struct. Biol. 6: 926-931 (1999)P. A. Adams et al., Biochem. J. 191: 95-102 (1980)M. Wardell et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 291: 813-819 (2002)P. A. Zunszain et al., BMC Struct. Biol. 3: 6 (2003)E. Tsuchida et al., Bioconjugate Chem. 11: 46-50 (2000)E. Tsuchida et al., J. Biomed. Mater. Res. 64A: 257-261 (2003)特開平8−301873号公報特開2003−40893号公報特表2002−500862号公報 従って、本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、近位塩基を分子内に持たない金属ポルフィリンであってもこれを導入することにより安定な酸素錯体を形成し得るアルブミン−金属ポルフィリン錯体、並びにこのアルブミン−金属錯体を含む人工酸素運搬体および赤血球代替物を提供することを目的とする。 酸素配位能を金属ポルフィリンに付与するための最重要条件は、軸塩基配位子となるイミダゾールが鉄(II)ポルフィリンの第5配位座に結合されていることである。本発明者らは、軸塩基を金属ポルフィリンの分子内に共有結合で導入しなくとも、その第5配位座に近位塩基であるイミダゾールが軸配位できるための分子環境設計と機能発現に鋭意研究を重ねた結果、特許文献3に示されているように、アルブミンのポルフィリン結合サイトであるサブドメインIB内に、近位塩基として作用するヒスチジンを遺伝子組み換え技術により導入すれば、金属ポルフィリンにそのヒスチジンのイミダゾール基が軸配位して、5配位錯体が得られ、さらに引き続き酸素を通気することによりHbやMbに見られる酸素配位錯体の生成が可能になるものと考えた。しかも、本発明者らの研究グループは、永年にわたる合成ヘムを利用した酸素輸液に関する研究の結果、酸素配位座近傍に親水性基が存在すると、プロトンを媒介する中心金属(II)の酸化反応が促進され、酸素錯体の安定度が低下することを明らかにしている(T. Komatsu et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 74: 1695-1702 (2001))。 このような背景の下、本発明者らは、アルブミンのポルフィリン結合サイトであるサブドメインIB内に、近位塩基として作用するヒスチジンと、酸素配位座側に疎水的なアミノ酸を遺伝子組み換え技術により導入し、人工のヘムポケットを構築することにより、その内部へ金属ポルフィリン錯体が軸配位結合し、安定な酸素錯体を生成するばかりか、活性中心はプロトヘムのみならず、広く多くの金属ポルフィリンで普遍化できることを見いだし、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明の第1の側面によれば、ヒト血清アルブミンのヘム結合サイトであるサブドメインIBにおいて、金属ポルフィリンの5配位座に配位結合するヒスチジンが遺伝子組み換え技術により少なくとも一つ導入されるとともに、161チロシンがチロシン以外の疎水性アミノ酸で置換された組換えヒト血清アルブミンに、金属ポルフィリンを配位結合させた組換えヒト血清アルブミン−ポルフィリン金属錯体が提供される。いうまでもなく、この錯体において、導入されたヒスチジンは、金属ポルフィリンの5配位座に配位結合する。 本発明の第2の側面によれば、本発明の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体を含む人工酸素運搬体(酸素輸液)が提供される。この場合、金属ポルフィリンは、中心金属として鉄(II)またはコバルト(II)を有する。 また、本発明の第3の側面によれば、本発明の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体を含む赤血球代替物が提供される。この場合、金属ポルフィリンは、中心金属として鉄(II)またはコバルト(II)を有する。 本発明に係る組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体は、分子内に近位塩基を共有結合で保持しない金属ポルフィリンでも、遺伝子組み換え技術によりポルフィリン結合サイト(サブドメインIB)へ導入されたヒスチジンと中心金属が軸配位結合することによりアルブミン内部へ取り込まれ、ヒト血清アルブミンの161チロシンが所定の疎水性アミノ酸により置換されているので、5配位高スピン錯体を形成するとともに、安定度の高い酸素配位錯体を形成することができる。つまり、本発明の組換えヒト血清アルブミンは、Hbの酸素結合部位であるプロトヘムはもちろん、合成の金属ポルフィリンでさえも、その内部へ軸塩基配位を介して固定し、酸素結合能を発現させることができる。また、本発明の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体を含有する人工酸素運搬体(酸素輸液)は、生体内に投与する場合も安全度の高い輸血用血液の血液代替物として利用できるばかりでなく、移植臓器または組織の保存液、組織培養液、腫瘍の抗癌治療増感剤、術前血液希釈液、人工心肺など体外循環回路の補填液、移植臓器の灌流液、虚血部位への酸素供給液(心筋梗塞、脳梗塞、呼吸不全など)、慢性貧血治療剤、液体換気の環流液として利用できる。加えて、ガス吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としても有用なものである。 本発明のアルブミン−金属ポルフィリン錯体は、ヘム結合サイトであるサブドメインIB内において、ヒスチジンを遺伝子組み換え技術により少なくとも一つ導入するとともに、161チロシンをチロシン以外の疎水性アミノ酸で置換した組換えヒト血清アルブミンに、金属ポルフィリンを軸配位により結合させることにより得られる。使用する組換えヒト血清アルブミンは、好ましくは、142イソロイシン、185ロイシン、138チロシン、115ロイシン、139ロイシンおよび/または182ロイシンがヒスチジンで置換され、しかも161チロシンが疎水性アミノ酸で置換された組換えヒト血清アルブミンである。また、組換えヒト血清アルブミンは、ヒト血清アルブミンのヘム結合サイトであるサブドメインIB内へ少なくとも一つ挿入した組換えヒト血清アルブミンであってもよい。161チロシンを置換する疎水性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファンまたはフェニルアラニンを好適に使用することができる。 金属ポルフィリンは、好ましくは、金属プロトポルフィリン、金属デューテロポルフィリン、金属ジアセチルデューテロポルフィリン、金属メソポルフィリン、金属ジホルミルポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属オクタエチルポルフィリンである。また、中心金属は、鉄またはコバルト、特に鉄(II)またはコバルト(II)が好ましい。 本発明の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体は、水中でHbやMbのように酸素を結合解離できるので、完全合成系の酸素輸液(人工酸素運搬体)として機能する。もちろん体内へ投与した場合には、赤血球代替物としての役割を果たすばかりでなく、この組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体の溶液中に移植に適した臓器または組織を保存することで、移植前の臓器または組織の安全かつ長期の保存が可能となる。また、この組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体は組織の増殖を促進させる培養液として作用するし、腫瘍の低酸素部位へ投与すれば、赤血球の進入できない細い毛細管内を通過できるので、腫瘍低酸素部位の酸素化が実現し、その後直ちに患部へ放射線を照射することにより、腫瘍を縮小または治癒することが可能となる。 酸素輸液の適応は、出血ショックの蘇生液(輸血用血液の代用血液)はもちろんのこと、術前血液希釈液、人工心肺など体外循環回路の補填液、移植臓器の灌流液、虚血部位への酸素供給液(心筋梗塞、脳梗塞、呼吸不全など)、慢性貧血治療剤、液体換気の環流液、さらに、稀少血液型患者への利用、宗教上の理由による輸血拒否患者への対応、動物医療への応用が期待されている。人工酸素運搬体(酸素輸液)は、本発明の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体を生理食塩水に分散させることによって得られる。組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体の濃度は、その用途によって異なるが、代用血液(赤血球代替物)としてはヘム濃度で9.2mM/L程度、その他では、それ以上の濃度を用いることができる。 加えて、金属ポルフィリンが例えば第4〜5周期に属する金属イオンの錯体である場合、酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒としての付加価値も高い。従って、本発明のポルフィリン金属錯体は、酸素輸液のほか、ガス吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としての特徴を持つ。 本発明の組換えアルブミンは、一般に、上に挙げたサブドメインIBのアミノ酸の位置、またはその近傍アミノ酸にヒスチジンを置換または挿入すること、さらには161チロシンを非配位性の疎水性アミノ酸で置換することによって得られる。特定位置へのアミノ酸の導入は、アルブミンにおけるかかる組換えを達成するのに現在知られている種々の慣用の手段によって達成される。さらに、本発明の組換えアルブミンの調製は、アルブミンをコードするDNAを慣用の部位特異的突然変異誘発を使用して変異させることによって行うことができる。本変異は、アルブミン本来の立体構造、物性、特徴に影響を及ぼさない程度の小さな変異である。また、遺伝子組み換えアルブミンは、酵母を利用した慣用の培養法を使用して産生できる。例えば、変異導入はQuick Change XL Site-Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE社)を用いて行うことができ、発現はPichia Expression Kit(Invitrogen社)を使用して、C.E. Peterson et al., Biochemistry, 36, 7012-7017 (1997)に記載された方法に従って行うことができる。得られた組換えヒト血清アルブミンは、慣用の方法、例えば、ブルーセファロース 6 ファーストフローを充填したカラムクロマトグラフィー、続いて、セファクリルS200HRを充填したカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。 本発明のアルブミン−金属ポルフィリン錯体は、例えば非特許文献7に記載の通常の方法により調製することができる。なお、金属ポルフィリンが鉄(III)錯体の形を有する場合は、適当な還元剤(亜二チオン酸ナトリウム、アスコルビン酸など)を用い、常法により中心金属を3価から2価へ還元すれば、酸素結合活性が付与できる。いずれの場合も酸素と接触すると速やかに安定な酸素錯体を生成する。また、これらの錯体は酸素分圧に応じて酸素を吸脱着できる。この酸素結合解離は可逆的に繰り返し行うことができ、酸素運搬体として作用する。 酸素以外にも金属に配位性である気体の場合、相当する配位錯体を形成できる(例えば、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素など)。これらの理由から、本発明の組換えアルブミン−金属ポルフィリン錯体は、特に鉄(II)またはコバルト(II)錯体の場合、酸素輸液として上記した多くの適応に有効な機能を発揮することはもちろん、均一系、不均一系での酸化還元反応触媒、およびガス吸着剤としての応用が可能となる。 以下、この発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明が実施例のものに限定されないことは、いうまでもないことである。 例1 本発明の組換えアルブミン−金属ポルフィリン錯体の酸素結合反応を観測することを目的として、ヒト血清アルブミンの142イソロイシンをヒスチジンに置換し、さらに161チロシンをロイシンに置換した組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)を慣用の部位特異的突然変異誘発とピキア酵母を用いた慣用の培養法により産生した。すなわち、変異導入は、Quick Change XL Site-Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE社)を用いて実施し、発現は、Pichia Expression Kit(Invitrogen社)を使用して、C.E. Peterson et al., Biochemistry, 36, 7012-7017 (1997)に記載された方法に従って行った。得られた組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)をブルーセファロース 6 ファーストフローを充填したカラムクロマトグラフィー、続いて、セファクリルS200HRを充填したカラムクロマトグラフィーにより精製した。この組換えアルブミン(I142H/Y161L)(20μM、50mMリン酸緩衝水溶液)へ鉄(III)プロトポルフィリン(0.266mM、DMSO溶液)をポルフィリン/アルブミンのモル比が1.1/1になるよう添加し、12時間、暗所で回転攪拌しながら混合した。得られた混合溶液を限外濾過装置(限外分子量:10,000)で洗浄し、DMSO濃度が0.1%以下になるまで、50mMリン酸緩衝水溶液で濃縮・希釈を繰り返した。こうして調製した組換えアルブミン−鉄(III)プロトポルフィリン錯体水溶液の磁気円偏光二色性スペクトルは、λ:366(−)、402(+)、419(−)nmにピークを示し、これはメトMbのスペクトルパターンと類似していた。 この水溶液をアルゴンで十分に置換して脱酸素した後、亜ニチオン酸ナトリウム水溶液を添加して、中心鉄を鉄(II)に還元して、組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)−鉄(II)プロトポルフィリン錯体を調製した。この水溶液の紫外可視吸収スペクトルはλmax:426、559nmを示し、これがMbのデオキシ型のスペクトルパターンとよく類似していることから、Fe(II)5配位高スピン錯体の形成が明らかとなった(図1)。すなわち、142ヒスチジンのイミダゾール基が軸塩基として中心鉄に配位し、デオキシ体が得られたものと考えられる。この組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)−鉄(II)プロトポルフィリン錯体水溶液に酸素を通気すると、直ちに酸素錯体(オキシ体)型のスペクトルへ移行(λmax:412、537、573nm)し、一酸化炭素を通気すると安定な一酸化炭素錯体(カルボニル体)(λmax:419、538、565nm)が得られた(図1)。(図1は、組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)−鉄(II)ポルフィリン錯体のFe(III)体、Fe(II)体(デオキシ体)、Fe(II)(O2)体(オキシ体)、Fe(II)(CO)体(カルボニル体)の可視吸収スペクトル変化を示すグラフである)。 例2 例1で調製した組換えアルブミン(I142H/Y161L)−鉄(II)プロトポルフィリン錯体水溶液に、レザーフラッシュ(Nd:YAGレーザー、532nm、パルス幅6ns)を照射し、瞬時に起こる非平衡状態から平衡状態への可視吸収スペクトル変化の時間分解解析から、酸素の結合解離速度定数(kon、koff)及び酸素親和性(P50)の値を算出した。実際の測定は、前記J. P. Collman et al., J. Am. Chem. Soc. 105, 3052-3064 (1983)に記載された方法、および、T. G. Traylor et al., J. Am. Chem. Soc. 107: 604-614 (1985)に記載された方法で行った。その結果、酸素の結合反応には二成分存在することがわかり、ヘムポケット内における鉄(II)プロトポルフィリンの配向構造が二つ存在する(I型とII型)ことが明らかとなった。I型のP50は20Torr(22℃)で、Mbの値に比べ39倍大きい(酸素親和性は1/39低い)。konは7.5×106M-1s-1であり、Mb(1.4×107M-1s-1)の値と変わらなかったことから、この低い酸素親和性は大きなkoff値(250s-1)に起因するものと考えられる(Mbのkoffは12s-1)。また、II型のP50は162Torr(22℃)であり、Mbの値に比べ318倍も大きかった(酸素親和性は1/318低い)。これは、軸塩基配位子の歪みに基づくさらに大きなkoff値(2.0×103s-1)に起因するものと推測された。 例3 例1において、ヒト血清アルブミンの142イソロイシンをヒスチジンに置換する代わりに、ヒト血清アルブミンの185ロイシンをヒスチジンに置換した組換えヒト血清アルブミン(L185H/Y161L)を慣用の部位特異的突然変異誘発とピキア酵母を用いた慣用の培養法により産生した以外は、同様の手法に従い、組換えヒト血清アルブミン(L185H/Y161L)−鉄(II)プロトポルフィリン錯体を調製した。この水溶液の紫外可視吸収スペクトルはλmax:422、558nmを示し、これはMbのデオキシ型のスペクトルパターンとよく類似していることから、Fe(II)5配位高スピン錯体の形成が明らかとなった。185ヒスチジンのイミダゾール基が軸塩基として中心鉄に配位し、デオキシ体が得られたものと考えられる。この錯体水溶液に酸素を通気すると、直ちに酸素錯体型のスペクトルへ移行(λmax:412、530、570nm)し、一酸化炭素を通気すると安定な一酸化炭素錯体(λmax:419、537、560nm)が得られた。 例4 例1において、鉄(III)プロトポルフィリンの代わりに、鉄(III)デューテロポルフィリンを用いた以外は、同様の手法に従い、組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)−鉄(II)デューテロポルフィリン錯体を調製した。この水溶液の紫外可視吸収スペクトルはλmax:413、517、546nmを示し、これはMbのデオキシ型のスペクトルパターンとよく類似していることから、Fe(II)5配位高スピン錯体の形成が明らかとなった。142ヒスチジンのイミダゾール基が軸塩基として中心鉄に配位し、デオキシ体が得られたものと考えられる。この錯体水溶液に酸素を通気すると、直ちに酸素錯体型のスペクトルへ移行(λmax:401、528、563nm)し、一酸化炭素を通気すると安定な一酸化炭素錯体(λmax:409、528、556nm)が得られた。 例5 例1において、鉄(III)プロトポルフィリンの代わりに、コバルト(II)プロトポルフィリンを用いた以外は、同様の手法に従い、組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)−コバルト(II)プロトポルフィリン錯体を調製した。この水溶液の紫外可視吸収スペクトルはλmax:406、558nmを示し、これはコバルトMbのデオキシ型のスペクトルパターンとよく類似していることから、Co(II)5配位高スピン錯体の形成が明らかとなった。142ヒスチジンのイミダゾール基が軸塩基として中心鉄に配位し、デオキシ体が得られたものと考えられた。この錯体水溶液に酸素を通気すると、直ちに酸素錯体型のスペクトルへ移行(λmax:426、539、578nm)が得られた。組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)−鉄(II)ポルフィリン錯体のFe(III)体、Fe(II)体(デオキシ体)、Fe(II)(O2)体(オキシ体)、Fe(II)(CO)体(カルボニル体)の可視吸収スペクトル変化を示すグラフ。 ヒト血清アルブミンのヘム結合サイトであるサブドメインIBにおいて、金属ポルフィリンの5配位座に配位結合するヒスチジンが遺伝子組み換え技術により少なくとも一つ導入されるとともに、161チロシンがチロシン以外の疎水性アミノ酸で置換された組換えヒト血清アルブミンに、金属ポルフィリンを配位結合させた組換えヒト血清アルブミン−ポルフィリン金属錯体。 前記ヒスチジンが、前記アルブミンの142イソロイシン、185ロイシン、138チロシン、115ロイシン、139ロイシンおよび/または182ロイシンを置換して導入されていることを特徴とする請求項1に記載の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体。 前記疎水性アミノ酸が、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファンまたはフェニルアラニンであることを特徴とする請求項1または2に記載の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体。 前記金属ポルフィリンが、金属プロトポルフィリン、金属デューテロポルフィリン、金属ジアセチルデューテロポルフィリン、金属メソポルフィリン、金属ジホルミルポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンまたは金属オクタエチルポルフィリンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体。 金属ポルフィリンが、中心金属として鉄またはコバルトを有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体。 前記中心金属が、鉄(II)またはコバルト(II)である請求項5に記載の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体。 請求項6に記載の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体を含む人工酸素運搬体。 請求項6に記載の組換えヒト血清アルブミン−金属ポルフィリン錯体を含む赤血球代替物。 【課題】近位塩基を分子内に持たない金属ポルフィリンであってもこれを導入することにより安定な酸素錯体を形成し得るアルブミン−金属ポルフィリン錯体を提供する。【解決手段】ヒト血清アルブミンのヘム結合サイトであるサブドメインIBにおいて、金属ポルフィリンの5配位座に配位結合するヒスチジンが遺伝子組み換え技術により少なくとも一つ導入されるとともに、161チロシンがチロシン以外の疎水性アミノ酸で置換された組換えヒト血清アルブミンに、金属ポルフィリンを配位結合させた組換えヒト血清アルブミン−ポルフィリン金属錯体。【選択図】 なし