タイトル: | 公開特許公報(A)_光学分割法 |
出願番号: | 2004220383 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C07B 57/00,C07C 227/34 |
小林 肇 松本 正和 鈴木 鋭一 緒方 直哉 JP 2006036703 公開特許公報(A) 20060209 2004220383 20040728 光学分割法 キヤノン株式会社 000001007 西山 恵三 100090538 内尾 裕一 100096965 小林 肇 松本 正和 鈴木 鋭一 緒方 直哉 C07B 57/00 20060101AFI20060113BHJP C07C 227/34 20060101ALI20060113BHJP JPC07B57/00 365C07C227/34 4 OL 11 4H006 4H006AA02 4H006AC83 4H006AD17 4H006AD19 4H006BA81 本発明は、医薬品、農薬、食品などの分野において有用なラセミ体の光学分割法に関する。 有機化合物の中には不斉中心を持つものが多くあり、これに由来する光学異性体が存在する。光学異性体は沸点や溶解度などの物理的性質には殆んど差がない。しかしながら、生理活性には多くの違いがある。したがって、光学異性体の一方(d−またはl−)を得ることは、医薬品、農薬、食品などの分野においては非常に有用なことである。 ラセミ体から光学活性体を得る方法として、優先析出法、ジアステレオマー法、酵素法、クロマトグラフィー法、膜法などがある。又、光学分割剤として、ポリアミノ酸ポリマーあるいはDNAなどを使用した方法がある。 優先析出法は、ラセミ体の過飽和溶液に希望の結晶を種として加え、その結晶のみを成長させ析出させる方法である。ラセミ体、両活性体の溶解度、沸点などの相互関係が重要な問題であり、固−液分離のタイミングも重要なので、特殊な結晶のみに適用可能な手法である。 ジアステレオマー法は、ラセミ体に光学活性な酸または塩基を作用させ、生成した塩の溶解度の差により分離させる方法である。この方法の欠点は、光学分割剤がラセミ体と容易に塩または誘導体を形成するものでなければならないので、分割剤の選定に困難さが伴う。 酵素法は、酵素の持つ基質に対する立体特異性を利用している。光学分割しようとするラセミ体に適合する酵素を選定することが極端に難しく、非常に限定されたラセミ体にしか対応できない。 クロマトグラフィー法はキラルな化合物を固定相とし、d体、l体と固定相(充填剤)との相互作用によって光学分割する方法である。充填剤の開発によって、対象化合物の範囲が拡大してはいるが、いまだ工業規模で経済的に行われる域には達していない。 膜法による光学異性体の分離は、効率良く、連続して光学活性体を得ることができるという利点があるので期待されている。例えば特許文献1,2に不斉認識能を持つクラウン化合物を含浸させた多孔質膜を用いる方法が開示されている。 これらの場合、光学分割対象物によっては、透過性や分割性に問題があることがあり、汎用性に欠ける面があった。 ポリアミノ酸ポリマーを光学分割剤として用いる方法は特許文献3,4に開示されている。これらの方法においては、被処理液が膜面近傍を通過するようにするため両親媒性基を導入したり、膜面に電圧印加する必要があったりして、光学分割を行うにあたり汎用性にかける点があった。 光学分割剤として、DNAを用いる光学分割法が特許文献5に開示されている。しかし、ここで開示されているDNAはNaイオンと複合化したDNA−Na複合体をカラム形成能あるいは膜形成能のある素材に固定する方法であり、複雑な反応を経る必要があるため、汎用性にかける面があった。 また、ここに開示されるDNA−Na複合体では膜とすることが困難であった。特公昭63−57083号公報特開昭62−180701号公報特開平4−200620号公報特開平8−323155号公報特開2002−212111号公報 大量の光学活性体を経済的、汎用的に得るのに適した光学分割法において、より高い透過性と高い分離性の両者を期待できる新規な光学分割法を提供することである。 すなわち、本発明に係る光学分割法は、 ラセミ体を溶解している溶媒に不溶なDNA組成物を光学分割剤として用いることを特徴とする。 多孔性基材上に、DNA組成物を含む層が形成されているとよい。 また、ラセミ体溶液中に、前記DNA組成物を分散させて、その溶液をろ過してもよい。 更に、前記DNA組成物が、DNA−脂質複合体、架橋DNA、および電解重合可能なモノマーを、DNAを電解質に用いて電解重合することで得られた、DNAとポリマーとの複合体、から選択されるいずれかであると好ましい。 本発明は、ラセミ体を溶解している溶媒に不溶なDNA組成物を光学分割剤として用いることで、透過性と分離性に優れた新規な光学分割法を提供できる。 本発明を詳細に説明する。 本発明で使用されるDNAは、その由来はいずれでもよく、特に制約されることはない。 例えば、鮭精子由来、牛胸腺由来などの動物から抽出したもの、合成手法によるものなどが挙げられる。本発明で用いられるDNAの分子量としては、通常10万〜1000万、好ましくは10万〜500万、より好ましくは10万〜100万である。 本発明で用いられる、ラセミ体を溶解している溶媒に不溶なDNA組成物はさまざまな組成物が適用可能であるが、DNA−脂質複合体、架橋DNA、電解重合可能なモノマーを、DNAを電解質に用いて電解重合することで得られた、DNAとポリマーとの複合体などが一例として挙げられる。DNA−脂質複合体が特に好ましい。 本発明で用いられるDNA−脂質複合体は容易に作成できる。一例を挙げれば、鮭精子由来のDNA(10万〜100万)を適当量の水に溶解し、次いでこの溶液に脂質である長鎖アルキル基を有する第四級アンモニウム塩、例えばセチルトリメチルアンモニウムクロリドを一気に加えると、直ちにイオン交換が起こりDNAと脂質の複合体が沈澱する。この沈澱を遠心分離等で単離し、乾燥すればDNA−脂質複合体が得られる。 本発明で用いられるDNA−脂質複合体における脂質としては、例えば長鎖アルキル基を有する第四級アンモニウム塩等が挙げられる。本発明で用いられる長鎖アルキル基を有する第四級アンモニウム塩における長鎖アルキル基としては、通常炭素数12から18の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、このような長鎖アルキル基を有する第四級アンモニウム塩の具体例としては、例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロリド、ジメチルピリジニウムヘキサメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。 本発明で用いられる架橋DNAの作成法としては以下のような手法が一例として挙げられる。 DNAに紫外光照射し光化学変化によりDNA鎖間に架橋を起こさせることができる。 さらに詳しくは、DNA鎖中のチミンが紫外線の効果で光二量化反応を生じシクロブタン環が形成され、ラセミ体を溶解している溶媒に不溶なDNA組成物を形成することができる。 またトリメチルソラレンなどのソラレン(psoralen)誘導体とDNA中のチミン残基の光付加反応により、ラセミ体を溶解している溶媒に不溶なDNA組成物を形成することができる。 またラジカル発生剤により架橋DNAを形成することも可能である。 別の手法としては、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化チタンなどの多価イオンを用いDNAを架橋することが挙げられる。 本発明で用いられるDNAとポリマーとの複合体は、電解重合可能なモノマーを、DNAを電解質に用いて電解重合することで得られる。 ポリマーとしてはポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンなどが一例として挙げられる。 DNAと電解重合可能なモノマーを溶解した水溶液に、金蒸着したメンブレンフィルターを入れて定電流電解重合を行い、メンブレンフィルター上に複合体を形成する方法が一例として挙げられる。 本発明で用いられるDNA−脂質とポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンなどのポリマーとの複合膜は、ポリマーを有機溶媒に分散させ、これにDNA−脂質複合体の有機溶媒溶液を攪拌しながら、徐々に加え均一な溶液とし、これをガラス基板等に塗布し乾燥することにより薄膜を得ることができる。 何れを選ぶかはラセミ体を溶解している溶媒により適宜選択すればよい。本発明で光学分割剤として用いられるDNA組成物は 1.それ自身で固体、粉末である状態、限外ろ過膜、精密ろ過膜、多孔膜、均質膜、非対称膜等を形成している状態 2.基材に物理的、化学的に固着されている状態 3.各種溶媒に溶解している状態などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。 本発明でDNA−脂質複合体等を固定する基材としては、 エチルセルロース、酢酸セルロースなどのセルロース類、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリルなどが挙げられるが、被分割化合物であるラセミ体の溶媒に溶解しないものであれば何れのものでも使用可能である。 基材膜の構造としては、限外ろ過膜、精密ろ過膜、多孔膜、均質膜、非対称膜などが挙げられる。 膜孔径は分割対象物である光学対掌体が透過可能で、DNA等が透過しない範囲である必要がある。 本発明の方法により光学分割されるラセミ体としては、 1.アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファンなどのアミノ酸類 2.1,3−ブタンジオールなどの光学活性部位を有するアルコール類 3.プロプラノロール、ベタクソノロール、ピンドロール、ピンプロロール、プラクトロール、ブルナプロロール、アテノロール、ヒンドロール、塩酸カルチオロール、塩酸プロプラノール、酒石酸メトプロロール、硫酸ペンプトロールなど 4.プラノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、チアプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセンなど 5.オフロキサシン 6.フェノキシプロピオネート類の農薬 7.ジソピラミド 8.マレイン酸トリメプチンなどを例に挙げることができるが、ラセミ体である化合物であれば本発明の光学分割対象物となる。 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。 (実施例1) DNA−脂質複合体の製造 鮭精子由来の分子量50万のDNA1gを純水100mlに溶解させた。このDNA水溶液中に第四級アンモニウム塩であるセチルトリメチルアンモニウムクロリド(脂質)5gを加え攪拌した。イオン交換が生じDNAと脂質の複合体が沈澱した。これを遠心分離後乾燥しDNA−脂質複合体を得た。 (実施例2) 実施例1で得られたDNA−脂質複合体3gをエタノール100mlに溶解した。これをポリプロピレンプレフイルター(ミリポアAN06)上に膜厚約50μmになるようにメイヤーバーで塗布乾燥した。 この膜を原液側槽、透過側槽よりなる透過性能測定装置に取り付け、原液側槽にラセミトリプトファン5mmol/l溶液を入れ、透過側槽に超純水を入れ、濃度勾配により透過させた。 d−トリプトファン、l−トリプトファンの透過量の時間変化を図1および表1に示す。 この結果l−トリプトファンは殆んど透過せず、d−トリプトファンのみが選択的に透過した。この膜が非常に良好な光学分割膜であることが示された。 なお、評価には液体クロマトグラフィーを用いた。 (実施例3) 内径47mm有効長20cmの円筒状フィルター筐体の両端にナイロンネットフイルター(製品名ミリポアNY1104700)を配置し、内部に実施例1で作成したDNA−脂質複合体100gを封入した。 このフィルターを水平に設置し、ラセミトリプトファン5mmol/l水溶液を導入した。 透過側槽には超純水を入れ、濃度勾配で透過させた。 300時間後に1×10−3mol/m2のd−トリプトファンが透過した。l−トリプトファンは検出されなかった。 (実施例4) ラセミフェニルアラニン0.01mol/l水溶液100ml中に、実施例1で作成したDNA−脂質複合体を粉砕したもの5gを添加し、60分間強く攪拌した。静置後上澄液の分離係数、光学純度を測定したところ、それぞれ18.4および89%であった。分離係数:透過液中のd−体濃度/透過液中のl−体濃度光学純度:(溶液中の濃度の高いほうの光学的対掌体濃度−溶液中の濃度の低いほうの光学的対掌体濃度)/(溶液中の濃度の高いほうの光学的対掌体濃度+溶液中の濃度の低いほうの光学的対掌体濃度) (実施例5) DNA−ポリピロール複合体膜の製造 鮭精子由来の分子量50万のDNAを2重量%になるように水に溶かし、これにピロールを0.3mol/lになるように加えた。この水溶液を用い、金蒸着したメンブレンフィルター(ミリポアHNWP04700、直径47mm、孔径0.45μm)上に、8mAの定電流で10分間電解重合を行い、DNA−ポリピロール複合体膜を作成した。 この膜を実施例2で用いた装置に取り付け、原液槽にラセミトリプトファン5mmol/l溶液を入れ、透過槽側に超純水を入れ、濃度勾配により透過させた。 d−トリプトファンの透過量は下記のとおりであった。 この結果l−トリプトファンは殆んど透過せず、d−トリプトファンのみが選択的に透過した。この膜が非常に良好な光学分割膜であることが示された。 (実施例6) 前実施例1で得られたDNA−脂質複合体20g、99.5%エタノール80gを混合攪拌し均一な溶液とした。 簡易中空糸作成装置を用い、上記溶液から大略外径0.4mm、内径0.2mmの中空糸を作成した。 この中空糸を中空糸型限外ろ過装置に装着し、ラセミトリプトファン0.01mol/l水溶液を0.1kg/cm2の圧力で光学分割を行った。透過流量は0.12l/m2・hr・kg・cm−2であった。d−トリプトファンの透過量は下記のとおりであった。 この結果l−トリプトファンは殆んど透過せず、d−トリプトファンのみが選択的に透過した。この方法が非常に良好な光学分割特性を有していることが示された。 (実施例7) 鮭精子由来(分子量50万)DNAナトリウム塩の5%水溶液を石英ガラス上に塗布乾燥しフイルムを形成した。 このフイルムに、100W高圧水銀ランプよりの紫外光を、距離30cmの位置で3時間照射した。このフイルムは、以下に用いるラセミトリプトファン溶液の溶媒である水に浸漬しても溶解しなかった。 このフイルムをポリプロピレンフイルターに挟み、実施例2で用いた装置に取り付けた。この装置にラセミトリプトファン5mmol/l水溶液を入れ、透過側槽に超純水を入れ、濃度勾配により透過させた。 d,l−トリプトファンの透過量は下記のとおりであった。 (実施例8) 鮭精子由来DNA(分子量50万)10gを純水190gに溶解した。ソラレン(psoralen)1.86gをエタノール100mlに溶解した。DNA溶液200gに上記ソラレンのエタノール溶液10mlを加えた。充分攪拌後、石英ガラス上に塗布乾燥しフイルムを形成した。これに100W高圧水銀ランプよりの紫外光を距離30cmの位置で2時間照射した。このフイルムは以下に用いるラセミフェニルアラニン溶液の溶媒である水に浸漬しても溶解、膨潤することはなかった。 このフイルムをポリプロピレンフイルターに挟み、実施例2で用いた装置に取り付けた。この装置にラセミフェニルアラニン5mmol/l水溶液を入れ、透過側槽に超純水を入れ、濃度勾配により透過させた。 d,l−フェニルアラニンの透過量は下記のとおりであった。 この結果、l−フェニルアラニンは殆んど透過せず、d−フェニルアラニンのみが選択的に透過した。この膜が非常に良好な光学分割膜であることが示された。 (実施例9) 鮭精子由来(分子量50万)DNAナトリウム塩10gを純水190gに溶解した。2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1gをエタノール100mlに溶解し、この5mlを上記DNA溶液に加えた。充分攪拌後、石英ガラス上に塗布乾燥しフイルムを形成した。これに100W高圧水銀ランプよりの紫外光を距離30cmの位置で1時間照射した。 このフイルムは以下に用いるラセミセリン溶液の溶媒である水に浸漬しても溶解、膨潤することはなかった。 このフイルムをポリプロピレンフイルターに挟み,実施例2で用いた装置に取り付けた。この装置にラセミセリン5mmol/l水溶液を入れ、透過側槽に超純水を入れ、濃度勾配により透過させた。 d,l−セリンの透過量は下記のとおりであった。 この結果、l−セリンは殆んど透過せず、d−セリンのみが選択的に透過した。この膜が非常に良好な光学分割膜であることが示された。 (実施例10) 鮭精子由来(分子量50万)DNAナトリウム塩の0.5%水溶液を石英ガラス上に塗布乾燥しフイルムを形成した。 このフイルムをポリプロピレンフイルターに挟み、塩化カルシウムの0.5mol/l水溶液に20分間(25℃)浸漬した。このフイルムは、以下に用いるラセミトリプトファン溶液の溶媒である水に浸漬しても溶解しなかった。 このフイルムをポリプロピレンフイルターに挟み、実施例2で用いた装置に取り付けた。この装置にラセミトリプトファン5mmol/l水溶液を入れ、透過側槽に超純水を入れ、濃度勾配により透過させた。 d,l−トリプトファンの透過量は下記のとおりであった。実施例2のd−トリプトファン、l−トリプトファンの透過量の時間変化示すグラフである。 ラセミ体の光学分割法において、ラセミ体を溶解している溶媒に不溶なDNA組成物を光学分割剤として用いることを特徴とする光学分割法。 多孔性基材上に、前記DNA組成物を含む層が形成されている請求項1に記載の光学分割法。 ラセミ体溶液中に、前記DNA組成物を分散させて、その溶液をろ過することを特徴とする請求項1に記載の光学分割法。 前記DNA組成物が、DNA−脂質複合体、架橋DNA、および電解重合可能なモノマーを、DNAを電解質に用いて電解重合することで得られた、DNAとポリマーとの複合体、から選択されるいずれかである請求範囲1から3のいずれかに記載の光学分割法。 【課題】 ラセミ体を効率よく光学分割する方法を提供すること。【解決手段】 ラセミ体を溶解している溶媒に不溶なDNA組成物たとえばDNA−脂質複合体、架橋DNAなどを光学分割剤として用いる光学分割法。【選択図】 なし