タイトル: | 公開特許公報(A)_イオン交換体の性能評価方法及び水処理系の管理方法 |
出願番号: | 2004213717 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01N 13/16,B01J 47/00,B01J 47/04,C02F 1/42 |
小堀 大二郎 JP 2006030146 公開特許公報(A) 20060202 2004213717 20040722 イオン交換体の性能評価方法及び水処理系の管理方法 オルガノ株式会社 000004400 三浦 進二 100092303 小堀 大二郎 G01N 13/16 20060101AFI20060106BHJP B01J 47/00 20060101ALI20060106BHJP B01J 47/04 20060101ALI20060106BHJP C02F 1/42 20060101ALI20060106BHJP JPG01N13/16 AB01J47/00 ZB01J47/04 AC02F1/42 B 5 OL 10 4D025 4D025AA01 4D025AA07 4D025AA09 4D025BB04 4D025CA01 本発明は、イオン交換体(イオン交換樹脂、イオン交換膜など)の性能評価方法、および、イオン交換体の交換時期を判断、決定する水処理系の管理方法に関する。 イオン交換体は物質精製などの目的で広く利用されている。例えば、無機イオン交換体である合成ゼオライトは水の軟化、イオン交換膜は電気透析による電解質の濃縮除去、海水濃縮による食塩の製造、糖液精製、燃料電池への利用、そしてイオン交換樹脂は水処理、廃水処理、食品製造、医薬品の分離や精製、湿式精練、分析、触媒としての利用などに用いられている。 特にイオン交換樹脂は、火力発電所や原子力発電所、半導体製造工場、一般産業プラントを始めとして多くの分野で利用されている。具体的には、イオン交換樹脂は、火力発電所や原子力発電所では、補給水処理装置や復水脱塩装置等に使用され、通常は陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の混床式で用いられている。補給水処理装置では、イオン交換樹脂により原水中のイオン成分などの除去を行い、電気伝導率が1μS/cm以下の純水を製造し、発電所系統水に補給している。復水脱塩装置では、復水中のイオン成分やプラントの構成材料から発生する腐食生成物の除去、さらには復水器の冷却水として使われている海水が漏洩した場合の海水成分の除去を目的としてイオン交換樹脂が使用されており、電気伝導率0.1μS/cm以下を達成する高度な復水処理が要求されている。 半導体製造工場では、LSIチップなどの洗浄工程で使用される超純水の製造設備などにイオン交換樹脂が利用されており、半導体の集積度増大に伴い、比抵抗率が18MΩcm以上、イオン濃度がpptレベル以下の超純水を製造することが要求されている。 一般産業プラントでは、イオン交換樹脂は、通常は混床式である純水製造装置に利用されているほかに、澱粉糖や蔗糖の脱色と脱塩、化学プロセスにおける金属の回収、化学製品の精製といった多様な用途に利用され、さらには有機化学反応の酸塩基固体触媒としても多く利用されている。 以上のように、様々な分野において利用されているイオン交換樹脂であるが、使われる原水中の有機物や系統水中の不純物、樹脂同士の接触などによって、その性能が劣化する場合がある。通常であれば、酸あるいはアルカリ等を用いた再生操作によってイオン交換樹脂の性能(イオン交換能)を回復させることができるが、イオン交換樹脂に非可逆的に不純物が吸着した場合は、上記再生操作によって性能を回復させることは困難である。従って、再生操作で性能を回復できなくなったイオン交換樹脂は交換が必要となる。 混床式で使用されるイオン交換樹脂の場合、片方の電荷符号のイオン交換樹脂の反応速度が著しく低下する場合がある。これは、例えば、イオン交換樹脂が酸化劣化などを受けた場合に、イオン交換樹脂の一部が溶出したり、剥がれ落ちて反対の電荷符号のイオン交換樹脂に吸着することが原因と考えられている。また、このような反対の電荷符号のイオン交換樹脂からの溶出物や剥落物の吸着だけでなく、水中の不純物の影響も考えられ、各イオン交換樹脂の反応速度の評価だけではイオン交換樹脂の劣化の原因を充分には把握出来ず、正しく水質管理を行うことが出来ない。 ところで、発電所の復水脱塩装置で使用されているイオン交換樹脂については、陽イオン交換樹脂の影響で陰イオン交換樹脂の反応速度(例えば、物質移動係数:MTC)が低下することが明らかとなってきている。即ち、水中のFeイオンやCuイオン等の金属イオンの触媒作用や溶存酸素の影響で陽イオン交換樹脂が酸化分解を受け、陽イオン交換樹脂の母体構造であるポリスチレンスルホン酸(以下、「PSS」と称する)のオリゴマー及びポリマーが溶出し、陰イオン交換樹脂の表面に吸着して汚染し、陰イオン交換樹脂の反応速度を低下させる。また、純水製造装置等の一般の水処理装置においては、発電所の復水脱塩装置での現象とは逆で、陰イオン交換樹脂が陽イオン交換樹脂に影響を与え、陽イオン交換樹脂の反応速度が低下する現象も生じる。 実際のプラントでは陰イオン交換樹脂の反応速度は必ずしも使用期間とともに徐々に低下するわけではなく、ある時期より急激に低下するため、単に陰イオン交換樹脂の反応速度を測定するだけでは、陰イオン交換樹脂の交換時期を予測することは出来ない。この様に、反応速度によるイオン交換樹脂の性能評価管理だけでは水質管理上不十分で、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂のより適切な性能評価、交換時期予測、交換時期決定が重要になってきている。 本発明者等は、陰イオン交換樹脂の表面分析を行い、表面に吸着したPSSの吸着量を測定することにより、陰イオン交換樹脂の性能評価と交換時期予測を行い、陰イオン交換樹脂の交換時期を決定する方法を考案した。特開平10−267838号公報 この方法は、従来の反応速度による評価方法に比べて、優れた方法であるが、陰イオン交換樹脂表面に吸着したPSSが該樹脂に与える影響は、その分子量により異なるため、PSSの分子量毎のデータを蓄積する必要があった。 本発明は、上述の様な従来技術の問題点を解消し、効率的且つ簡便なイオン交換体の性能評価方法、および、イオン交換体の交換時期を判断、決定する効率的且つ簡便な水処理系の管理方法を提供せんとするものである。 本発明は、イオン交換体の表面の電荷の状態を調べることを特徴とするイオン交換体の性能評価方法を提供するものである。この方法を適用するのに特に適したイオン交換体は、混床式で使用されている陽イオン交換樹脂、混床式で使用されている陰イオン交換樹脂、発電所の復水脱塩装置で使用されている陰イオン交換樹脂、純水製造装置で使用されている陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂である。ここで、表面電荷の状態を調べるのに特に適した手法は、原子間力顕微鏡を用いる手法であり、具体的には、原子間力顕微鏡の探針であるカンチレバーとイオン交換体の表面との相互作用を測定し、該イオン交換体表面の電荷の状態を調べる手法であり、これによりイオン交換体の性能評価を行うことができる。 また、本発明は、上記のイオン交換体の性能評価方法によりイオン交換体の性能評価を行い、該イオン交換体の以降の反応速度低下傾向を予測し、イオン交換体の交換時期を決定することを特徴とする水処理系の管理方法をも提供するものである。 一般に、物質の表面電荷を評価する場合には、ゼータ電位の測定が行われる。液中に分散できる微粒子状のイオン交換体では電気泳動法も使用され得るが、粒状のイオン交換樹脂は液中に分散しないため適用できない。膜状や繊維状のイオン交換体では流動電位法も使用され得るが、イオン交換体内部をイオンが透過するためその表面に電位が発生し難い場合は適用が困難となり、また、粒状のイオン交換樹脂は巨視的には凹凸が激しいことなどから適用が困難であると考えられる。粒状のイオン交換樹脂の場合は、原子間力顕微鏡(atomic force microscopy:AFM )の探針(カンチレバー)と樹脂表面との相互作用を測定し、樹脂表面の電荷の状態を評価する方法が好ましい。 従来から発電所の循環系統水の水質を良好に維持するために、復水脱塩装置の復水脱塩塔内のイオン交換樹脂を健全に保つことが必要とされている。また、純水製造装置(脱塩装置)等の他の一般の水処理装置についても同様で、いずれの場合もイオン交換樹脂等のイオン交換体類の性能を的確に評価・判断することが水質管理上重要である。ところで、後述の実施例において、イオン交換体の代表例としてのイオン交換樹脂の反応速度(例えば、物質移動係数:MTC)と樹脂表面の電荷に良い相関が見られたことから、本発明の方法はイオン交換体の性能評価に有効であることが分かった。従って、本発明の水処理系の管理方法によれば、イオン交換体表面の電荷を調べてイオン交換体の性能評価を行い、その寿命を予測し、イオン交換体の交換時期を決定することが可能である。しかも、MTC測定法等の反応速度測定法と比べて本発明の方法は遥かに簡易であり、例えばPSSの分子量毎のデータを蓄積する必要があった表面分析法と比べても簡易である。 以下、発明を実施するための最良の形態として、原子間力顕微鏡の探針(カンチレバー)とイオン交換樹脂表面との相互作用を測定し、樹脂表面の電荷の状態を調べる態様について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。イオン交換樹脂はイオン交換体の代表例なので、イオン交換樹脂を中心に説明するのであって、他のイオン交換体についても下記の方法が適用できる。 液中で帯電したカンチレバーとイオン交換樹脂表面との相互作用(引力、斥力)を測定し、イオン交換樹脂表面の電荷の状態を評価する。カンチレバーとしては、例えば、Si製やSi3N4製のものが一般的に用いられるが、液中で帯電するものであれば、これらに限定されるものではない。 また、カンチレバーの先端径は数nmと極めて細いため、イオン交換樹脂表面の局所的な構造の影響を受けて、データのバラツキなどが生じ易いので、カンチレバーの先端に数10μmの粒子を固定させて、この粒子表面とイオン交換樹脂表面との相互作用を測定することによって、感度良くカンチレバーとイオン交換体の表面との相互作用を測定することも出来る。固定する粒子としては、例えば、ガラス球等のガラス粒子、シリカ粒子、ポリマー粒子、金属粒子及び物質の粒子表面にイオン性の官能基を修飾した粒子などを挙げることができ、液中で帯電するものであればいずれのものでも用いることができる。 本発明による水処理系の管理方法の実施に当たっては、上記のようなイオン交換樹脂の表面電荷の状態(帯電したカンチレバー[先端に粒子を固定していてもよい]とイオン交換樹脂表面との相互作用)の測定・評価結果とイオン交換樹脂の反応速度の相関関係を予め把握しておく必要がある。そして、この相関関係を利用して、イオン交換樹脂の表面電荷の状態の評価結果から、復水脱塩装置や純水製造装置等の水処理系実機内で使用する陰イオン交換樹脂や陽イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂の交換時期の予測・決定を行う。 例えば、イオン交換樹脂の反応速度の測定は、後述の実施例1におけるカラム出口の比抵抗の測定によるイオン交換速度を測定する方法、シャローベット法、物質移動係数「MTC」(mass transfer coefficient )の測定による方法等の公知の方法などにより行うことができる。シャローベット法は、樹脂層高約10mmのイオン交換樹脂層にNaCl又は硫酸ナトリウム等の塩類含有水を流し、イオン除去率を測定する方法である。一方、物質移動係数「MTC」の測定による方法が通常用いられ、その測定法の一例の概略は次の通りである。 例えば、発電所の復水脱塩装置からサンプリングした陰イオン交換樹脂をNaOHを用いて再生し、再生樹脂と新品の陽イオン交換樹脂のH形とを再生陰イオン交換樹脂/陽イオン交換樹脂容量比=1/2で混合し、カラムに充填する。次いで、カラムの上部よりアンモニウムイオン(アンモニア水)と硫酸ナトリウムを所定の濃度の水溶液の形で、流量70L/hr(リットル/時間)で通水する。通水中にカラム入口水と出口水を採取して、硫酸イオン濃度を測定し、更に、通水終了後に空隙率、陰イオン交換樹脂粒径を測定する。物質移動係数「MTC」を下記の「数1」の式に従って算出する。この値が高いほど、陰イオン交換樹脂の反応速度が高く、その性能が健全であると言える。通常、新品の陰イオン交換樹脂のMTC値は、2.0(×10-4m/sec)程度となる。 但し、 K:物質移動係数「MTC」(m/sec)、ε:空隙率、R:陰イオン交換樹脂/全イオン交換樹脂容量比、F:通水流量(m3 /sec)、A:樹脂層断面積(m2 )、L:樹脂層高(m)、従ってA×L:樹脂量(m3 )、d:樹脂粒径(m)、C0 :入口水のSO42- 濃度、C:出口水のSO42- 濃度。 MTCが低いと反応速度が低く、また、陰イオン交換樹脂の一般的な交換時期は、例えば、MTC=1(×10-4m/sec)となった時であるが、これがどの程度の値になった時点で陰イオン交換樹脂を交換するかは、装置の運転状況や水質の要求性能により変化するので、個別具体的に判断されるべきものである。個別具体的に判断された各場合のかかるMTC値を基準として、該各場合の陰イオン交換樹脂の表面電荷の状態の評価結果とMTCの相関関係との対比から、陰イオン交換樹脂の交換時期の予測・決定を行うことが出来る。 以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 半導体製造工場の混床式純水製造装置で水質が低下したMB塔(混床式イオン交換塔)の樹脂を採取し、反応速度及び原子間力顕微鏡におけるカンチレバーと樹脂表面との相互作用を測定した。採取した樹脂は、ローム・アンド・ハース社製強酸性陽イオン交換樹脂アンバーライトIR124とローム・アンド・ハース社製強塩基性陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA402BLであった。 反応速度は、イオン交換速度により比較した。イオン交換速度は、イオン交換樹脂に一定濃度の塩の水溶液を通液し、段階的に線速度(LV)を上げていき、その時の出口の比抵抗を測定して、評価した。具体的には、陽イオン交換樹脂の実機測定試料の場合は、この試料の30mlと新品陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA402BLの70mlを混床としてカラムに充填し、15μS/cm相当のNaCl水溶液を該カラムに通液した。その結果を表1に示す。陰イオン交換樹脂の実機測定試料の場合は、この試料の30mlと新品陽イオン交換樹脂アンバーライトIR124の70mlを混床としてカラムに充填し、15μS/cm相当のNa2SO4水溶液を該カラムに通液した。その結果を表2に示す。また、比較のために、上記の各場合に、実機測定試料の代わりに新品のイオン交換樹脂を用いて同様に混床とし、各カラムにそれぞれの塩の水溶液を通液し、その時の出口の比抵抗を測定した。それらの結果も表1と表2に示すが、「出口の比抵抗」の欄で「新品」として示されたデータである。表1と表2において、上の段から下方の段に向かって逐次通液したことを示している。表1を例とすれば、超純水をLV=20m/hrで20分通液し、次いでNaCl水溶液をLV=20m/hrで5分通液し、次いでNaCl水溶液をLV=30m/hrで5分通液し、最後にNaCl水溶液をLV=40m/hrで5分通液したことを示している。 陽イオン交換樹脂アンバーライトIR124の新品測定試料の場合はLVを高くしても比抵抗は殆ど変化していないが、実機測定試料の場合はLVを高くすれば比抵抗は低下しており反応速度が低下していることを示している。陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA402BLは新品測定試料、実機測定試料のいずれの場合も、LVを高くしても比抵抗は殆ど変化しておらず、実機測定試料においても比抵抗は殆ど低下せず、反応速度は殆ど低下していないことが分かる。 原子間力顕微鏡におけるカンチレバーと樹脂表面との相互作用の測定は下記の条件で行った。[測定条件]・装置:原子間力顕微鏡SPA−400(セイコーインスツルメンツ社製)・カンチレバー:SN−FF01、Si3N4製、バネ定数0.06N/m(セイコーインスツルメンツ社製)・測定液:pH3(HClで調整)・測定モード:フォースカーブ測定 図1に陽イオン交換樹脂アンバーライトIR124の新品測定試料と実機測定試料について、図2に陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA402BLの新品測定試料と実機測定試料について、カンチレバーと樹脂表面との相互作用の測定結果を示す。両図において、横軸はカンチレバーと樹脂表面間の距離、縦軸はカンチレバーが受けた力である。両樹脂について、表1と表2及び図1と図2の「反応速度」及び原子間力顕微鏡におけるカンチレバーと樹脂表面との「相互作用(表面間の力)」の結果を表3に纏める。 Si3N4は、pH3の溶液中でプラスに帯電することが知られている。「超精密ウェーハ表面制御技術」p.237、(株)サイエンスフォーラム 陽イオン交換樹脂アンバーライトIR124の新品測定試料の場合は引力が検出され、樹脂表面はマイナスに帯電していることを示している。実機測定試料の場合の性能が低下した陽イオン交換樹脂アンバーライトIR124では引力が検出されていないことから、樹脂表面の電荷はほぼ中和されていることを示している。一方、陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA402BLは新品測定試料の場合も実機測定試料の場合も斥力が検出され、樹脂表面はプラスで変化無く、性能も低下していないことを示している。 イオン交換樹脂の反応速度と表面の電荷に相関が見られたことから、本発明のイオン交換体の性能評価方法(本実施例では、原子間力顕微鏡におけるカンチレバーと樹脂表面との相互作用を測定による)は、イオン交換樹脂の評価に有効であることが分かる。本実施例における反応速度測定試験は、イオン交換樹脂量として100ml必要で測定時間も数10分必要であるが、本発明による本実施例の測定では原理的に樹脂1粒で測定可能で、測定時間も1測定当たり数秒であることから、非常に効率的、簡便に樹脂の性能評価が可能である。 ローム・アンド・ハース社製強塩基性陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA900CPに平均分子量10,000及び1,000,000のPSS(東ソー株式会社製)を樹脂1L当たりの吸着量として、0〜298mg吸着させた樹脂(以下、PSS吸着量の単位:mg/L−Rで表す)を測定試料として使用した。それぞれの樹脂測定試料について、物質移動係数(MTC)及び原子間力顕微鏡における粒子固定カンチレバーと樹脂表面との相互作用を測定した。粒子固定カンチレバーは、Si3N4製のカンチレバーの先端に、半径約20μmのガラス球を粒子として固定させたもので、ガラス球と樹脂表面との相互作用を測定するようにしたものである。 原子間力顕微鏡におけるカンチレバー先端のガラス球と樹脂表面との相互作用の測定は下記の条件で行った。[測定条件]・装置:原子間力顕微鏡SPA−400(セイコーインスツルメンツ社製)・カンチレバー:SN−FF01、Si3N4製、バネ定数0.9N/m(セイコーインスツルメンツ社製)・測定液:超純水・測定モード:フォースカーブ測定 図3に陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA900CPに平均分子量10,000のPSSを0〜298mg/L−R吸着させた樹脂について、カンチレバー先端のガラス球と樹脂表面との相互作用の測定結果を示す。横軸(x軸)はガラス球表面と樹脂表面間の距離、縦軸(y軸)はカンチレバーが受けた力である。PSSを吸着していない0mg/L−Rの場合は引力が検出され、PSSの吸着量が増大するに従って、引力の大きさは小さくなり、PSS吸着量298mg/L−Rの場合は斥力が検出されている。ガラスは中性領域の水中でマイナスに帯電することから、陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA900CPの表面はプラスに帯電しており、PSS吸着量の増大に従ってマイナス方向に帯電がシフトしたことを示している。 表4に分子量10,000及び1,000,000のPSSをそれぞれ吸着させた樹脂について、カンチレバー先端のガラス球と樹脂表面との相互作用(表面間の力)の測定結果と物質移動係数(MTC)の測定結果を示す。引力が検出された場合にはy軸の最小値、斥力が検出された場合はx=0でのy値を指標として用いて記載した。いずれの分子量においても、引力から斥力に変化する際に、MTCが陰イオン交換樹脂の一般的な交換基準である1.0の値を下回っている。一方、この時のPSS吸着量は、分子量によって異なっている。また、MTCは急激に変化しているのに対し、引力の大きさは(即ち、表面の電荷の状態)は徐々に小さく(即ち、電荷の状態がマイナス方向に)変化している。以上から、表面の電荷の状態を測定することにより、MTCが低下する時期を予測することが出来ることが分かった。 発電所Aと発電所Bにおいて復水脱塩装置で使用されている強塩基性陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA900CPを各一定期間後に経時的に採取した樹脂を測定試料として使用した。なお、復水脱塩装置で使用されている陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂は定期的に再生処理されているのは勿論である。それぞれの測定試料について、物質移動係数(MTC)及び原子間力顕微鏡における粒子固定カンチレバーと樹脂表面との相互作用を測定した。粒子固定カンチレバーは、Si3N4製のカンチレバーの先端に、半径約20μmのガラス球を粒子として固定させたもので、ガラス球と樹脂表面との相互作用を測定するようにしたものである。原子間力顕微鏡におけるカンチレバー先端のガラス球と樹脂表面との相互作用(表面間の力)の測定条件は実施例2と同様とした。結果を表5に示す。表5において、データの最上段は樹脂使用初期のものであり、下段に向かうに従って樹脂使用期間は長くなり、データの最下段は樹脂使用後期のものである。また、表5において、PSS吸着量はフーリエ変換赤外全反射分光法で求めた。 発電所Aでは使用後期においてPSS吸着量は155mgまで増加するが、表面間の力は引力のままであり(即ち、樹脂表面の電荷はプラス)、MTCも大きく低下していない。一方、発電所Bでは使用後期においてPSS吸着量は発電所Aとほぼ同量の159mgまで増加すると、表面間の力は斥力に変化し(即ち、樹脂表面の電荷はマイナスへ変化)、MTCは大きく低下する。以上の結果から、表面の電荷の状態を測定することにより、MTCが低下する時期を予測することが出来ることが分かった。 樹脂の表面の電荷とMTCに良い相関が見られたことから、樹脂表面の電荷を調べることにより、樹脂の性能評価、寿命予測、交換時期決定を行うことが出来ることが分かった。AFMを用いる表面電荷測定方法は、使用するカンチレバーの材質、バネ定数、カンチレバーに粒子を固定する場合は固定するその粒子の材質や大きさなどにより、表面間に働く力の大きさは異なるため、予め表面間の力の変化と性能との関係を調べておく必要があることも理解されよう。 本発明のイオン交換体の性能評価方法によれば、イオン交換樹脂等のイオン交換体類の性能を的確に評価・判断することが出来る。また、本発明の水処理系の管理方法によれば、イオン交換体、特にイオン交換樹脂が正常に機能しなくなる前にその使用限界を予測し、水処理系を安定的に管理することができる。従って、本発明の方法は、例えば、火力発電所や原子力発電所での補給水処理装置や復水脱塩装置など、半導体製造工場、一般産業プラントを始めとして多くの分野での水処理装置、廃水処理装置、純水製造装置などで利用することができ、特に好適には、PWR型やBWR型の原子力発電所の復水脱塩装置に使用される陰イオン交換樹脂の交換時期の決定などに適用することができる。図1は、陽イオン交換樹脂の新品測定試料と実機測定試料についての原子間力顕微鏡におけるカンチレバーと樹脂表面との相互作用の測定結果を力−距離曲線として示すグラフ図である。図2は、陰イオン交換樹脂の新品測定試料と実機測定試料についての原子間力顕微鏡におけるカンチレバーと樹脂表面との相互作用の測定結果を力−距離曲線として示すグラフ図である。図3は、陰イオン交換樹脂に平均分子量10,000のPSSを0〜298mg/L−R吸着させた樹脂についての原子間力顕微鏡におけるカンチレバー先端に固定したガラス球と樹脂表面との相互作用の測定結果を力−距離曲線として示すグラフ図である。 イオン交換体の表面の電荷の状態を調べることを特徴とするイオン交換体の性能評価方法。 前記イオン交換体が、混床式で使用されている陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のイオン交換体の性能評価方法。 前記イオン交換体が、発電所の復水脱塩装置で使用されている陰イオン交換樹脂、または、純水製造装置で使用されている陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン交換体の性能評価方法。 原子間力顕微鏡の探針であるカンチレバーと前記イオン交換体の表面との相互作用を測定し、該イオン交換体の表面の電荷の状態を調べることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のイオン交換体の性能評価方法。 請求項1から4のいずれかに記載のイオン交換体の性能評価方法によりイオン交換体の性能評価を行い、該イオン交換体の以降の反応速度低下傾向を予測し、イオン交換体の交換時期を決定することを特徴とする水処理系の管理方法。 【課題】 効率的且つ簡便なイオン交換体の性能評価方法、および、イオン交換体の交換時期を判断、決定する効率的且つ簡便な水処理系の管理方法を提供する。【解決手段】 例えば、原子間力顕微鏡の探針であるカンチレバーとイオン交換体の表面との相互作用を測定し、イオン交換体の電荷の状態を調べることにより、イオン交換体の性能評価を行う。かかるイオン交換体の性能評価により、イオン交換体の以降の反応速度低下傾向を予測し、イオン交換体の交換時期を決定して、水処理系の管理を行う。【選択図】 なし