タイトル: | 公開特許公報(A)_光ファイバとその評価方法および製造方法 |
出願番号: | 2004210097 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G02B 6/00,C03B 37/027,G01M 11/00,G01N 24/10 |
久留須 一彦 森平 英也 石田 禎則 JP 2006030655 公開特許公報(A) 20060202 2004210097 20040716 光ファイバとその評価方法および製造方法 古河電気工業株式会社 000005290 岡部 正夫 100064447 加藤 伸晃 100085176 産形 和央 100106703 臼井 伸一 100096943 越智 隆夫 100101498 本宮 照久 100096688 朝日 伸光 100104352 三山 勝巳 100128657 久留須 一彦 森平 英也 石田 禎則 G02B 6/00 20060101AFI20060106BHJP C03B 37/027 20060101ALI20060106BHJP G01M 11/00 20060101ALI20060106BHJP G01N 24/10 20060101ALI20060106BHJP JPG02B6/00 376AC03B37/027 AG01M11/00 GG01N24/10 510Z 8 1 OL 12 2G086 2H050 4G021 2G086AA03 2H050AA04 2H050AB03Y 2H050AB05X 2H050AB49X 2H050AC03 2H050AC05 2H050AC09 2H050AC71 2H050AC75 4G021HA01 4G021HA02 4G021HA04 4G021HA05 本発明は、耐水素性に優れ、1310nm〜1625nmにおけるWDM伝送に好適なシングルモード光ファイバ、そのような光ファイバであるかを評価するための評価方法、およびそのような光ファイバの製造方法に関する。 波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)伝送に用いる光ファイバに関して、多くの開発が行われてきた。 当初は、石英系光ファイバの伝送損失が最低となる1.55μm帯(例えば1535〜1570nmの波長範囲)を中心にこのような光ファイバの開発が行われたが、最近は、使用する波長領域を1310nm〜1625nmまで広げる検討が行われている。 一方、従来の光ファイバは、波長1385nm付近に吸収ピークを持つOH基が不純物として混入することが多かったため、この波長付近で伝送を行う事は困難であった。 従って、WDM伝送の波長領域を1310nm〜1625nmに広げるためには、これらの吸収損失をできるだけ小さくしなければならない。特許文献1には1385nmにおいて低損失を有する光ファイバとその作製法が開示されている。 ところで、光ファイバ内に水素が拡散した場合にも、伝送損失が増加する現象が知られている。 水素による伝送損失増加の原因の1つとして、次のようなメカニズムが考えられる。(非特許文献1、非特許文献2) 一般に、光ファイバのコア部にはゲルマニウムが添加され、屈折率が周囲のクラッド部分より高められている。光ファイバ母材から光ファイバを引き出す線引き工程において、光ファイバ母材は高温、高張力に曝され、ガラス構造が切れた状態で急速に冷却される。そのため、コア部分には(1)式に示す構造欠陥が発生すると考えられている。 ≡Si−O−Ge−O−Si≡→≡Si−O・ + ・Ge−O−Si≡ …(1) つまり、結合力の弱いGe−Oの結合が切れ、常磁性欠陥の1つである非架橋酸素欠陥(NBOHC:Non−Bridging Oxygen Hole Center;≡Si−O・)と、Ge−E′(・Ge−)とが形成される。 光ファイバ内に水素が拡散すると、このNBOHCと水素が反応し、伝送損失の増加が起こる。具体的には、(2)式で示す反応によりOH基を生成し、これに伴う吸収損失が増加する。この反応は、室温下でも起こる事が知られている。 2≡Si−O・+H2 → 2≡Si−OH …(2) 光ファイバに残留するNBOHCの密度は、線引き時の冷却速度に大きく依存することが知られており、冷却速度が速いほど残留しやすい。また、これらの常磁性欠陥密度は、電子スピン共鳴(Electron-Spin Resonance:ESR)法により観察することが出来ることが非特許文献3に開示されている。ESR法により非架橋酸素欠陥の電子スピン密度を測定し、この値に基づいて光ファイバの耐水素性を評価する方法が特許文献3に示されている。 この伝送損失悪化を抑制するために、光ファイバ内のNBOHC密度を低下させる方法として、線引き時または線引き後の光ファイバを水素あるいは重水素を含む雰囲気に曝露する方法がある。 しかしながら、水素を含む雰囲気に暴露する水素処理を施すと、(2)式に示す様に、NBOHCは消滅するが、OH基が生成するため、伝送損失の増加が生じるので好ましくない。一方、水素の代わりに重水素を用いる重水素処理を施すと、光ファイバ内では(3)式で示す反応が起こる。 2≡Si−O・+D2→2≡Si−OD …(3) すなわち、重水素処理ではOD基が生成するため、OH基に起因する吸収は起こらない。OD基は1310nm〜1625nmに大きな吸収ピークを持たないため、この波長範囲における伝送損失には、ほとんど影響しない。従って、光ファイバに重水素処理を施すことは、光ファイバの耐水素性を向上させる有効な手段である。日本特許第3301302号日本特許第1721913号特開2004-109124波平, NIKKEI ELECTRONICS 1984.12.3, PP. 223-248K.H.Chang et al.,Feb. 21-26,1999,OFC/IOOC'99花房, セラミックス, 21(1984), No.9, PP. 244-252長沢他, 日本電子ニュ−ス Vol.29, No.2, 30(1989) ところで、重水素処理を行ったファイバは、その後水素に暴露されてもOH基による1385nm付近の伝送損失が起こらないとされているが、時として波長1400nm付近に図3に示すような伝送損失の増加が生じることがある。図4に、本発明の実施例に係る重水素処理後の波長1400nmにおける伝送損失の時間変化を示す。この吸収ピ−クは安定ではなく、時間の経過と共に減少する傾向を示すが、ファイバ品質を保証するためには、極めて長時間の経過観察が必要となり、光ファイバ製造において大きな障害となる。 従って、重水素処理を行った場合、1400nm付近の伝送損失増加が生じないことが望ましい。 本発明の課題は、重水素処理に伴う波長1400nm付近の損失増加が少ない光ファイバを提供することにある。さらに、本発明の課題は、このような損失増加を生じる光ファイバか否かを判断するための評価方法およびそのような損失増加の少ない光ファイバの製造方法を提供することにある。 上記課題を解決するために、本発明は、重水素に暴露された光ファイバが著しい伝送損失増加を示すか否かを判断するための評価方法を提供し、その結果を光ファイバの製造条件の最適化に用いた製造方法を提供することで上記課題を解決し、耐水素性に優れ、広帯域WDM伝送に用いることが出来るシングルモ−ド光ファイバを提供するものである。 本発明による光ファイバは、少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスからなるコアと、それを取り囲む石英系ガラスからなるクラッドとからなり、水素または重水素を含有する雰囲気中に該光ファイバを暴露してファイバ内に水素分子または重水素分子を拡散させ、その後該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削し、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したときの、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下である。 また、本発明による光ファイバは、少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスからなるコアと、それを取り囲む石英系ガラスからなるクラッドとを含み、カットオフ波長λccが1310nm以下であり、室温下において水素が約0.01atmの分圧を含有する雰囲気中に暴露し、波長1240nmにおける伝送損失が該暴露前の伝送損失に比べて0.03dB/km以上増加するまで曝露の状態を維持し、その後大気中に取出して14日間以上放置した際の波長1310〜1625nmにおける伝送損失が0.40dB/km以下であり、該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削した後、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したときの、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下であることを特徴とする。 さらに、本発明による光ファイバは、上記のガラス領域の外周をフッ化水素酸水溶液で外径約50μmになるまで研削した後、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したとき、Ge(H)−E′またはGe(D)−E′に相当する信号が検出されることを特徴とする。 本発明による光ファイバの製造方法は、光ファイバ母材を準備する工程、該光ファイバ母材を線引きして少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスのコアとそれを取り囲む石英系ガラスのクラッドとからなる光ファイバを形成する線引き工程、及び該光ファイバを水素または重水素を含有する雰囲気中に暴露して該光ファイバ内に水素分子または重水素分子を拡散させる水素または重水素処理をする工程からなり、該水素または重水素処理の後に電子スピン共鳴法で測定した光ファイバのPORの電子スピン密度の、該水素または重水素処理前の光ファイバについてのPORの電子スピン密度に対する増加が、1×1013spins/g以下であるよう該線引き工程の冷却速度、線引き炉温及び線引き速度が選択される。 上記の製造方法において、該電子スピン密度は該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削して測定されたものであってもよい。 さらに、本発明によれば、光ファイバ母材を線引きして少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスのコアとそれを取り囲む石英系ガラスのクラッドとからなる光ファイバを形成して、該光ファイバを水素または重水素を含有する雰囲気中に暴露して該光ファイバ内に水素分子または重水素分子を拡散させる水素または重水素処理のされた光ファイバの耐水素特性を評価する方法であって、該水素または重水素処理される前と後の該光ファイバのガラス領域を電子スピン共鳴法によりPORの電子スピン密度を測定し、該水素または重水素処理された後の光ファイバについての電子スピン密度に対する増加分によって、該光ファイバの耐水素特性を評価する方法が提供される。 上記の評価方法において、該電子スピン密度は該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削して測定されたものであってもよい。 また、上記の評価方法において、該増加分が1×1013spins/g以下である場合に、該光ファイバが十分な耐水素特性を有すると決定することができる。 本発明によれば、重水素処理による波長1400nm付近の伝送損失の増加が少ない光ファイバを製造するための評価手段が提供される。また、本発明に基づいて製造された光ファイバは、耐水素性に優れ、広帯域WDM伝送の伝送路に好適である。 本発明は、少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスからなるコアと、それを取り囲む石英系ガラスからなるクラッドを含む光ファイバを、室温下において水素または重水素を含有する雰囲気中に暴露してファイバ内に水素分子または重水素分子を拡散させ、その後、該光ファイバのガラス領域の外周をフッ化水素酸水溶液で外径約50μmになるまで研削し、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したときに、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下であることをもって該光ファイバの耐水素特性を評価することを特徴とする。 また、本発明は、少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスからなるコアと、それを取り囲む石英系ガラスからなるクラッドを含む光ファイバであって、カットオフ波長λccが1310nm以下であり、室温下において水素が約0.01atmの分圧を含有する雰囲気中に暴露し、波長1240nmにおける伝送損失が該暴露前の伝送損失に比べて0.03dB/km以上増加するまで曝露の状態を維持し、その後大気中に取出して14日間以上放置した際の波長1310〜1625nmにおける伝送損失が0.40dB/km以下であり、該光ファイバのガラス領域の外周をフッ化水素酸水溶液で外径約50μmになるまで研削した後、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したときに、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下であることを特徴とする。 なお、本明細書において、光ファイバの諸特性は特に断らない限りITU−T G.650.1に規定された定義に準拠することとする。 以下に、本発明を実施形態例を用いて詳細に説明する。A.光ファイバの製造1.製造目的の光ファイバ 本発明の光ファイバは、様々な屈折率分布を持つことが可能である。 しかしながら、本発明の趣旨を出来るだけ簡潔に説明するために、本実施例においては、1.3μm帯にゼロ分散波長を有するシングルモードファイバ(SMF)を製造品種とし、図1(a)で示したステップインデックス型のコアをクラッドが覆う、もっとも一般的な屈折率分布プロファイルを採用した。なお、クラッド径は最も一般的な約125μmとし、コア径は約8.3μmとした。2.光ファイバ母材の製造 図2で示したVAD(Vapor-phase Axial Deposition)法で光ファイバ母材を製造した。Geを含むSiガラスコア部母材を形成するため、回転軸2にて回転を与えながらスートを加水分解バーナー1から吹き付けるとともに、Siクラッド部母材を形成するため、スートを加水分解バーナー3から吹き付けることで多孔質母材4を生成した。 ついで、この多孔質母材4を脱水・焼結して透明ガラス化し、ガラスロッド(以下、コアロッドという)を製造した。 得られたコアロッドは、図1(a)で示したように、コアとクラッドとの外径比(以下、クラッド/コア比という)が4.8/1であった。なお、本明細書においてコアの外径とは、クラッドの屈折率に対する該コアの比屈折率差の最大値の1/2の部分の直径をいう。 ついで、このコアロッドを外径約25mmになるように加熱・延伸した。 延伸したコアロッドの外周に、外付け法を用いて石英ガラス微粒子を所望の厚みだけ堆積させ、脱水・焼結して透明ガラス化し、図1(a)で示した屈折率分布プロファイルを有する光ファイバ母材を製造した。 この光ファイバ母材は、クラッド/コア比が約15/1である。3.光ファイバ母材の線引き ついで上記の光ファイバ母材を線引きして目的とした光ファイバを製造した。 本実施例では、上記の光ファイバ母材を以下の2条件で線引きし、2種類の光ファイバサンプルを得た。 条件1:線引き炉温1950℃、線引き速度500m/分 条件2:線引き速度2050℃、線引き速度1200m/分B.光ファイバの特性調査1.伝送特性の測定 上記2水準の線引き条件で製造したそれぞれのSMFにつき、カットオフ波長λccと、耐水素特性を示すため水素暴露の前後の伝送損失を測定した。測定結果を表1に示す。 ここで、SMF(1)は条件1で線引きした光ファイバ、SMF(2)は条件2で線引きした光ファイバをそれぞれ示す。また、水素暴露前に測定された波長1310nm、および1385nmにおける伝送損失を水素暴露前(a)として示した。 本実施例の光ファイバは、いずれもカットオフ波長λccが1310nm以下となっており、1310nm以下の波長領域で、シングルモード動作が保証されている。 なお、ここでいうカットオフ波長とは、ITU−T G.650.1規格で定義されるケーブルカットオフ波長λccのことである。 また、本実施例の光ファイバはいずれも1385nmにおける損失が0.40dB/km以下であり、OH吸収損失が充分に小さい光ファイバになっている。2.光ファイバの耐水素特性の調査 ついで、各試料を水素に暴露した。ここで水素暴露条件は、IEC60793-2 B1.3に規定される条件とした。 即ち、光ファイバを室温下において0.01atmの水素分圧雰囲気中で水素に曝露し、波長1240nmにおける伝送損失が水素曝露前の伝送損失(初期値)に比べて0.03dB/km以上増加するまでその水素曝露状態を維持する。その後、大気中に取出して14日間以上放置し、伝送損失の測定を行うというものである。 水素暴露後の伝送損失と、水素暴露による伝送損失の変化量(b−a)を表1に示す。SMF(2)では水素曝露後の波長1385nm付近におけるOH吸収損失の増加が顕著なのに対して、SMF(1)は損失の増加が小さく、水素暴露後でも波長1385nmにおける伝送損失(b)は0.40dB/km以下を実現しており、広帯域WDM伝送に好適な光ファイバとなっている。3.重水素処理による伝送損失の変化 SMF(1)およびSMF(2)を重水素処理し、その後の伝送損失の挙動を観察した。ここで、重水素処理は、室温下でほぼ1atm、100%の重水素雰囲気に2時間暴露し、その後大気中に放置する条件とした。また、重水素処理前に測定した波長1400nmにおける伝送損失を基準とし、重水素への暴露を終えて大気中に取り出した直後から、同様に波長1400nmの伝送損失の経時変化を連続的に測定した。 測定結果を図4に示す。 SMF(1)では、基準とした伝送損失からの増加が、最大で0.05dB/kmと小さかった。一方、SMF(2)では0.2dB/km以上の大幅な伝送損失の増加を示し、大気中に放置して20日以上経過しても、依然として0.05dB/km以上の伝送損失の増加を示していた。4.常磁性欠陥の測定 SMF(1)、SMF(2)のそれぞれにつき、硫酸水溶液を用いて被覆を除去し、得られた光ファイバ裸線を更にフッ化水素酸水溶液に浸漬して、外径が約50μmになるまで研削した。 外径を約50μmにした理由は、モードフィールド径(MFD)内の構造欠陥をできるだけ正確に同定するためである。しかし、外径を50μmより小さくすると、ESR法による測定時に光ファイバの取り扱いが非常に困難になるため、上記外径値とした。 ついで、各光ファイバに対してESR法で常磁性欠陥の密度を測定した。結果を表2に示す。 表2において、水素処理、重水素処理に○印がある欄は、それぞれESR測定前の試料を水素、あるいは重水素を含有する雰囲気に暴露したことを示す。ここでの水素暴露は、前述のIEC60793-2 B1.3に記載の条件とした。また重水素暴露は、前述の条件、即ち室温下でほぼ1atm、100%の重水素雰囲気に2時間暴露し、その後大気中に放置する条件とした。ここで重要なのは、水素あるいは重水素が十分にファイバガラス中に拡散し、ガラス構造と十分に反応していることである。従って、暴露条件はこれらに限定される必要はない。 表2の空欄は、ESR測定結果が検出下限以下であることを示す。なお、本実施例における検出限界は、1×1012spins/gである。 表2において、水素や重水素に暴露していない試料のNBOHC密度を比較すると、SMF(2)からはNBOHCが検出されているが、SMF(1)からは検出されていない。これは、線引き炉温が上昇し、線引き速度が速くなるにつれてファイバの冷却速度が速くなったために、NBOHCが残留しやすくなったためであると考えられる。 なお、本実施形態例では線引き条件のパラメータが線引き炉温と線引き速度のみの場合を示しているが、線引き条件はこれのみに限定されるものではなく、その他の調整可能な要因を全て含む。また、線引き装置の違いなどによって、それら線引き条件の最適値が一義的に定まるものではない。 次に、水素処理、あるいは重水素処理した各ファイバ試料を比較すると、SMF(2)から曝露後に常磁性欠陥の1つである過酸化ラジカル(Per-Oxy Radical:POR)に起因する信号が検出されることが分る。 従来は光ファイバ中にPORが多数存在すると、耐水素性が劣化すると考えられていた。たとえば、光ファイバに水素を暴露すると1.52μm付近に吸収損失が生じる問題が従来から指摘されている。この吸収損失発生原因は十分に解明されていないが、過酸化ラジカル(Per-Oxy Radical:POR)と水素分子との水素結合によるなどと説明されてきた(非特許文献4)。従って、光ファイバ中にはPORが存在する場合、耐水素性が悪化すると考えられていた。 しかし、元々のPOR含有量がESR測定限界以下である光ファイバに対して、耐水素性を向上させるために水素、あるいは重水素に暴露した場合、暴露後にPORが新たに発生したり増加したりすることは、従来公知ではなかった。本発明は、この現象を有効活用することをもって光ファイバ特性の向上に結びつけるものである。 この現象は十分に解明されてはいないが、発明者の仮説を以下に記載する。 光ファイバ中に酸素過剰欠陥(POL:Per-Oxy Linkage) が多数存在する場合、これが(4)、あるいは(5)式に示す様に水素、あるいは重水素と反応して、1520nm付近に伝送損失の悪化をもたらす中間生成物((4)式で四角で囲った物質)を生じると考えられる。 本発明の解決すべき課題である伝送損失増加は、(5)式に示す中間生成物によると考えられる。 前記(4)、(5)の反応は更に進み、下記(6)、(7)に示すようにPORが生じる。 すなわち、本実施例のSMF(2)は、線引き工程で破断した原子間結合が、その後の急速な冷却によって再結合を妨げられ、NBOHCやPOLが多数残留した状態で固化しており、このPOLが水素あるいは重水素と(4)〜(7)式に示す反応を起こしているものと考えられる。 SMF(2)は、例え重水素処理を施して耐水素性を向上させたとしても、(5)式、および(7)式に示す反応による中間生成物の吸収が波長1400nm近傍に現れ、問題となる。 従って、水素あるいは重水素に暴露した後の光ファイバに含まれる構造欠陥をESR法で測定した場合、PORに関する信号が検出されない光ファイバとするように、製造条件を最適化する必要がある。 本発明の要諦は、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下であることを目標として、重水素に暴露しても伝送損失悪化が生じない光ファイバを得るための製造条件の最適化を行うことにある。 なお、光ファイバガラスの構造に影響する因子は多岐にわたっており、また線引き条件や光ファイバ母材の組成や構造によっても最適条件は異なるが、この最適化の方法は、例えば、本願明細書中に記載した様に、冷却速度を緩やかにするために、線引き炉の温度を低く設定したり、線引き速度を遅くすることで制御される。 そして、本発明の評価方法を用いれば、カットオフ波長λccが1310nm以下であり、室温下において水素が約0.01atmの分圧を含有する雰囲気中に暴露し、波長1240nmにおける伝送損失が該暴露前の伝送損失に比べて0.03dB/km以上増加するまで曝露の状態を維持し、その後大気中に取出して14日間以上放置した際の波長1310〜1625nmにおける伝送損失が0.40dB/km以下であり、該光ファイバのガラス領域の外周をフッ化水素酸水溶液で外径約50μmになるまで研削した後、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したときに、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下である広帯域WDM伝送の伝送路に好適な光ファイバを製造する事が可能となる。 また、水素および重水素処理を施すことでGe(H)−E′あるいはGe(D)−E′が観察され、水素および重水素曝露前のNBOHC密度が高いものほどGe(H)−E′およびGe(D)−E′が多く生成されることが解かった。言い換えると、このGe(H)−E′およびGe(D)−E′が検出されるかで、Geを含むコア層まで水素または重水素が充分に含浸しているか否かの確認ができる。本発明の光ファイバの評価方法により、光ファイバが十分に耐水素特性を持つ状態に処理されたかを評価することも可能となる。 なお、本発明に係るESR法による構造欠陥種の同定は、T. E. Tsai and D. L.Griscom, J. Non-Cryst.Solids 91,170(1987)、K.Nagasawa,T.Fuji, Y.Ohki and Y.Hama, Jpn. J. Appl. Phys., Part2 27, L240(1988)、G. Pacchioni and R.Ferrario, Phys. Pev. B58, 6090(1998)、Handbook of Chemistry and Physics(64th ed, ;R. C. Weast, ed.), Table of the Isotopes B-232,CRC Press (1983-1984)に記載の方法を用いた。ここで、Ge(H)−E′およびGe(D)−E′に相当するESR信号の帰属は、Si(H)−E′およびSi(D)−E′の磁気モーメント比=2.7927/0.8574≒3.26と、Ge-E′に相当する信号の周辺に出現する微細構造のGe(H)−E′およびGe(D)−E′の磁気モーメント比=119/37≒3.22が一致することから確認した。 本明細書に記載の実施例は、本発明を説明するための例示であり、様々な変形例、例えばより複雑な屈折率分布を持つ光ファイバなどについても、本発明の範囲に含まれ得ることは当業者には十分理解される。本発明の実施例に係る光ファイバの屈折率プロファイル(a)および断面(b)を示す図である。VAD法による光ファイバ母材製造の様子を示す図である。従来の重水素処理を行ったファイバにおける伝送損失を例示する図である。本発明の実施例に係る重水素処理後の光ファイバの波長1400nmにおける伝送損失の時間変化を示す図である。符号の説明1,3 バーナー2 回転軸4 多孔質母材 少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスからなるコアと、それを取り囲む石英系ガラスからなるクラッドとからなる光ファイバにおいて、水素または重水素を含有する雰囲気中に該光ファイバを暴露してファイバ内に水素分子または重水素分子を拡散させ、その後該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削し、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したときの、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下である光ファイバ。 少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスからなるコアと、それを取り囲む石英系ガラスからなるクラッドを含む光ファイバであって、カットオフ波長λccが1310nm以下であり、室温下において水素が約0.01atmの分圧を含有する雰囲気中に暴露し、波長1240nmにおける伝送損失が該暴露前の伝送損失に比べて0.03dB/km以上増加するまで曝露の状態を維持し、その後大気中に取出して14日間以上放置した際の波長1310〜1625nmにおける伝送損失が0.40dB/km以下であり、該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削した後、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したときの、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下であることを特徴とする光ファイバ。 光ファイバ母材を準備する工程、該光ファイバ母材を線引きして少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスのコアとそれを取り囲む石英系ガラスのクラッドとからなる光ファイバを形成する線引き工程、及び該光ファイバを水素または重水素を含有する雰囲気中に暴露して該光ファイバ内に水素分子または重水素分子を拡散させる水素または重水素処理をする工程からなる光ファイバの製造方法において、 該水素または重水素処理の後に電子スピン共鳴法で測定した光ファイバのPORの電子スピン密度の、該水素または重水素処理前の光ファイバについてのPORの電子スピン密度に対する増加が、1×1013spins/g以下であるよう該線引き工程の冷却速度、線引き炉温及び線引き速度が選択されている光ファイバの製造方法。 請求項3に記載の方法において、該電子スピン密度は該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削して測定されたものである光ファイバの製造方法。 光ファイバ母材を線引きして形成した、少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスのコアとそれを取り囲む石英系ガラスのクラッドとからなる光ファイバに、水素または重水素を含有する雰囲気中に暴露して該光ファイバ内に水素分子または重水素分子を拡散させる水素または重水素処理をすることで得られた光ファイバの耐水素特性を評価する方法において、 該水素または重水素処理される前と後の該光ファイバのガラス領域を電子スピン共鳴法によりPORの電子スピン密度を測定し、該水素または重水素処理された後に測定されたPORの電子スピン密度の、該水素または重水素処理される前に測定されたPORの電子スピン密度に対する増加分によって、該光ファイバの耐水素特性を評価する方法。 請求項5に記載の評価方法において、該電子スピン密度は該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削して測定されたものである方法。 請求項5に記載の評価方法において、該増加分が1×1013spins/g以下である場合に、該光ファイバが十分な耐水素特性を有すると決定する方法。 前記光ファイバのガラス領域の外周をフッ化水素酸水溶液で外径約50μmになるまで研削した後、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したとき、Ge(H)−E′またはGe(D)−E′に相当する信号が検出されることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。 【課題】重水素処理に伴う波長1400nm付近の損失増加が少ない光ファイバを提供するとともに、このような損失増加を生じる光ファイバか否かを判断するための評価方法およびそのような損失増加の少ない光ファイバの製造方法を提供すること。【解決手段】本発明による光ファイバは、少なくともゲルマニウムが添加された石英系ガラスからなるコアと、それを取り囲む石英系ガラスからなるクラッドとからなり、水素または重水素を含有する雰囲気中に該光ファイバを暴露してファイバ内に水素分子または重水素分子を拡散させ、その後該光ファイバのガラス領域の外周を外径約50μmになるまで研削し、該ガラス領域を電子スピン共鳴法で測定したときの、PORの電子スピン密度が1×1013spins/g以下である。【選択図】図1