生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_DNAリガーゼによるライゲーション反応の促進方法およびDNAリガーゼ組成物
出願番号:2004205924
年次:2006
IPC分類:C12N 15/09,C12N 9/00


特許情報キャッシュ

北林 雅夫 石田 由和 小松原 秀介 松本 博治 岡 正則 JP 2006025637 公開特許公報(A) 20060202 2004205924 20040713 DNAリガーゼによるライゲーション反応の促進方法およびDNAリガーゼ組成物 東洋紡績株式会社 000003160 北林 雅夫 石田 由和 小松原 秀介 松本 博治 岡 正則 C12N 15/09 20060101AFI20060106BHJP C12N 9/00 20060101ALI20060106BHJP JPC12N15/00 AC12N9/00 4 OL 12 4B024 4B050 4B024AA20 4B024CA04 4B024EA03 4B024EA04 4B024HA08 4B050CC07 4B050DD02 4B050LL03 本発明は,分子生物学の分野に属する。さらに詳しくはDNAリガーゼによるライゲーション反応を促進させる方法、および、そのようなDNAリガーゼ組成物に関する。分子生物学の分野では,DNA組換え体の作製において2本鎖DNA断片の連結にDNAリガーゼを利用することは,周知の技術であり,従来よりT4 DNAリガーゼ,大腸菌DNAリガーゼ等が用いられている。また,PCR産物のクローニングも分子生物学の分野では一般的に実施されている方法である。PCR産物とはDNAポリメラーゼを用いて目的遺伝子断片を短時間に増幅する技術であるPCR(polymerase chain reaction)法により得られた多量の目的DNA分子のことである。このようにして得られた目的のDNA分子を適当なベクターに連結してクローニングすることは,分子生物学の分野においては,遺伝子の構造及び機能解析を行う上で極めて重要である。従来よりDNAリガーゼによるDNA連結反応の効率向上のために種々の改良が検討されてきた。たとえば,DNA連結反応時に,ポリエチレングリコール,およびポリアミン,1価カチオン,2価カチオンなどのいずれか1つを添加する方法が開示されている(たとえば,特許文献1を参照)。特開昭62−36187また,一般的にPCR産物をクローニングするには,増幅された2本鎖DNAの3’末端にヌクレオチドを1個(dA)付加する形で生成させ,一方、ベクターDNAの3’末端にも同様にヌクレオチドを1個(dAと相補的なdT)付加させておき,各々の突出末端の相補性を利用して連結させるT−Aクローニングという方法が知られている(たとえば、特許文献2およびそのファミリーとしてUS5487993、US5827657などを参照)。WO 92/06189現在、プラスミドベクターDNAの3’末端にdTを付加させたものは、一般的にT−ベクターと呼ばれている。T−ベクターは様々な遺伝子研究用試薬を取り扱う会社から販売されており、また、各研究者が自ら比較的簡単に作製することもできる。例えば、プラスミドベクターpBluescriptSK(+)を制限酵素EcoRVの様な平滑末端を生じる制限酵素で切断し、これと同時にアルカリフォスファターゼにて3’末端を脱リン酸化した後、Taq DNAポリメラーゼと高濃度のdTTPを加え、72℃,30分間反応してプラスミドベクターの3’末端にdTを付加してT−ベクターを調製することができる。また,このT−Aクローニングでは通常PCRに用いるDNAポリメラーゼとして良く知られているTaq DNAポリメラーゼが使用されるが,Taq DNAポリメラーゼは生成する2本鎖DNAの末端にdAを付加するのでT−Aクローニングでは有利である反面,エキソヌクレアーゼ活性を持たないため,PCRで生成する増幅DNA産物には取り込まれたヌクレオチドの誤りが多く,正確性を欠くのが欠点である。ここで,エキソヌクレアーゼ活性とは,1本鎖DNAの3’側あるいは5’側から順次ヌクレオチド単位で分解する活性のことである。これに対して,本発明者らはエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いるT−Aクローニング方法を開発し特許出願を行った(たとえば、特許文献3を参照)。この方法では,エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いるため,生成するPCR産物のDNA末端は平滑末端となる。このままではT−Aクローニングに供することができないため,PCR後にエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼの活性を抑制しておき,DNA末端にヌクレオチドを1個付加させる反応を行わせ,T−Aクローニングに供する。こうすることにより,正確な塩基配列を持ったPCR産物のT−Aクローニングが可能となる。特願2002−292635このようにPCR産物のクローニングにおいて,目的とする遺伝子断片を含んだクローンを効率良く入手することは極めて重要であるが,従来より知られているDNAリガーゼの組成では,たとえば,特許文献1のような組成をもってしてもしばしば低い効率となることが知られていた。 本発明は従来技術のこのような課題を背景になされたものであり、DNAリガーゼによるDNA連結効率の高いライゲーション方法を提供すること、および、そのような効率の高いライゲーション反応を可能にするDNAリガーゼ組成物を提供するものである。本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、DNA連結反応時にベタインを共存させることによりDNA連結効率を高めることができることを見出し,本発明を完成するに至った。即ち本発明は,(1)ベタインを含むことを特徴とするDNAリガーゼ組成物である。該組成においてさらに、2価金属イオン、動物血清タンパク質から選ばれる少なくとも1つ以上を含有する緩衝液を含有しても良いし、動物血清タンパク質が牛血清タンパク質であってもよい。あるいは、該組成物は、ライゲーション反応用の組成物、下記(3)に記載のクローニング方法用の組成物、あるいは、LCR法用の組成物でありうる。 また本発明は、(2)ベタインの共存下でDNAリガーゼ反応を行うことを特徴とするDNAリガーゼによるライゲーション反応を促進させる方法である。該方法においてさらに、2価金属イオン,動物血清タンパク質から選ばれる少なくとも1つ以上を含有する緩衝液を共存しても良いし、動物血清タンパク質が牛血清タンパク質であってもよい。あるいは、該方法は、下記(3)に記載のクローニング方法や、LCR法の一部を構成する方法でありうる。 また本発明は、(3)PCR産物を、プラスミドベクターあるいはファージベクターに直接クローニングする方法において、DNA連結反応時に、ベタインの共存下でDNAリガーゼ反応を行うことを特徴とする、PCR産物をクローニングする方法である。 また本発明は、(4)下記組成を含む、PCR産物をプラスミドベクターあるいはファージベクターに直接クローニングするキットである。(a)DNAリガーゼ(b)ベタインを含む緩衝液(c)プラスミドベクターまたはファージベクター 本発明により、DNA連結効率の高いライゲーション方法、および、そのような効率の高いライゲーション反応を可能にするDNAリガーゼ組成物を提供できる。それによって、遺伝子工学領域におけるDNA連結反応の効率を顕著に向上させ,ひいてはPCR産物のクローニングの効率をも著明に向上させることができる。以下、本発明を詳細に説明する。 DNAリガーゼとは,2本鎖DNAの5’リン酸末端と他の2本鎖DNAの5’水酸基末端との間でホスホジエステル結合を形成させる酵素であり,CofacforとしてATPを要求し、相補的塩基を持つDNAどうし、平滑末端(Blant End)どうしのいずれをも連結することができるT4 DNAリガーゼや,NADを要求し、相補的塩基を持つDNAどうしのみを連結する大腸菌DNAリガーゼなどが良く知られており、市販のものを容易に入手できる。そのほか耐熱性DNAリガーゼとしてストラタジーン社のPfu DNA Ligase、Epicentre社のAmpligase DNA Ligase(商品名)などが市販され、また、近年になって超好熱始原菌Aeropyrum pernix(アエロパイラム・ペルニックス)由来のものなどが報告されている。 本発明で用いられるDNAリガーゼとしてはどのようなリガーゼでも良いが,クローニングなど通常の遺伝子組み換えにおけるライゲーションの用途で好ましいのはT4 DNAリガーゼである。ところで、耐熱性のDNAリガーゼを用いて温度サイクリング反応(加熱と冷却の繰り返し反応)を行うことにより既知の遺伝子配列を増幅、検出する方法として、リガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction:LCR)法が報告されている(たとえば、非特許文献1または2、および特許文献4を参照)。あるいは、別の方法としてギャップ充填LCR法が報告されている(たとえば、特許文献5を参照)。 本願発明はこのような用途にも適用できると思われるが、その場合は耐熱性DNAリガーゼを用いることが好ましい。 LCR法では、標的DNAの(+)鎖(センス鎖)および(−)鎖(アンチセンス鎖)にそれぞれアニーリングする2種類の隣りあったオリゴヌクレオチドプローブ、計4種類のプローブを用いて反応を行う。具体的には、まず、4種類のプローブと鋳型DNA、耐熱性DNAリガーゼを含む反応液を(加熱)変性させ、それぞれを1本鎖に分離させる。続く冷却操作により、1本鎖に分離した鋳型DNAに2種類の隣りあったオリゴヌクレオチドプローブがアニーリングする。さらに、耐熱性DNAリガーゼによって隣り合うオリゴヌクレオチドプローブが連結する。この一連の反応を繰り返すことによってライゲーション産物(オリゴヌクレオチドプローブの連結産物)、すなわち標的DNA配列が指数関数的に増幅される。 このとき、隣接するオリゴヌクレオチドプローブの3´末端が鋳型DNAと完全に相補的な場合にのみライゲーション反応が起こり、このライゲーション産物を鋳型にして標的DNAの特異的な増幅が起こるが、二つのオリゴヌクレオチドプローブの境界部位に鋳型とのミスマッチがあると、ライゲーションは起こらず、DNAの増幅は起こらない。 LCRで増幅した産物の確認は、DNA色素(エチジウムブロマイドなど)で染色する方法や免疫複合体反応を利用する方法など、種々の公知の方法を利用できる。Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88、(1991)、Barany,F.著、189頁〜193頁PCR Methods Appl.1、(1991)、Barany,F.著、5頁〜16頁特開2001−269187号公報特許第3330599号公報ベタインというのは1つの分子中に陽イオンとしての第4級アンモニウムと、陰イオンとしてのカルボン酸を持った化合物の一般名であり、溶液中では双性イオンとして存在する。本発明においてはグリシンベタイン(トリメチルグリシン)が特に好ましく用いられる。ベタインをDNAリガーゼ組成物に添加する濃度としては0.01M以上が好ましく、特に好ましいのは0.5〜2Mの範囲である。本発明を好適に実施するには、さらに2価金属イオンおよび動物血清タンパク質から選ばれる物質の内、いずれか1つもしくは両者を添加することが好ましい。2価値金属イオンには、例えばCa++、Mg++、Mn++などが挙げられるが、特にMg++が好ましい。DNAリガーゼ組成物としてはこれらをたとえばMgCl2などの金属塩の形で添加する。添加する濃度としては、0.1mM以上が好ましく、特に1.0〜20mMが好適である。動物血清タンパク質とは、主にウサギ、ウシ、マウスなどの哺乳動物の血清タンパク質であり、アルブミン、グロブリンなどのタンパク質が挙げられる。本発明において特に好ましい動物血清タンパク質はウシ血清アルブミンである。これらの動物血清タンパク質をDNAリガーゼ組成物に添加する濃度としては、0.0001重量%以上であって、特に0.01〜0.05重量%が反応に好適な濃度である。これらを適当な緩衝液、例えばpH7.0から8.0のトリスー塩酸緩衝液などに添加してDNAリガーゼ組成物を構成する。 本発明はまた、このようなDNAリガーゼ組成物を用いたPCR産物のクローニング方法でもある。本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いてPCR産物をクローニングするには、まず、標的とするDNAおよびその一部と相補的な塩基配列を有するプライマーとを準備し、Taq DNAポリメラーゼなどを用いてPCRを行う。この際、エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼも用いることができるが、その場合はPCR後に、例えば前記エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを特異的に阻害する抗体などを添加して前記DNAポリメラーゼの活性を抑制しておき、Taq DNAポリメラーゼなどにより増幅で生成した2本鎖DNAの末端にdAを付加させる。このようにして最終的には末端にdAが1個付加されたPCR産物を得ることができる。次にベクターとしてはプラスミドベクター、ファージベクターなどいずれでも良いが、好適にクローニングを実施するためには、適当な制限酵素を用いて切断し、dTの突出末端を持ったベクターを作製し、前記に取得したPCR産物と、本発明によるDNAリガーゼ組成物を混合してDNAの連結反応を行わせる。所望の標的DNAがクローニングされた形質転換体を得るには、前記のDNA連結反応物を大腸菌に形質転換し、ベクターのマーカーを利用して生育してくる大腸菌コロニーを選別することにより達成することができる。本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いることにより、従来TAクローニングで得られていた効率と比べて大幅に効率を増大することが可能となる。 例えば、挿入DNAとしてTaq DNAポリメラーゼによりλDNA由来の0.5kb、 1kb、 2kbのDNA断片を用いた実施例7の実験の場合、従来のTAクローニング効率より約11〜67%の効率を増大することが可能となる。本発明において「ライゲーション反応が促進される」ことは、「DNA連結効率が高まる」ということで示される。リガーゼのDNA連結活性を確認するためには種々の公知の方法が用いられうるが、例えば特許文献1の明細書2ページ右下16行−3ページ左下7行に例示されているように、各リガーゼの反応に適した条件において、適当な基質を一定時間内に連結させる酵素量を単位として評価することができる。あるいは、実際に連結したDNAの分子数またはDNAの重量を計測することにより、確かめることができる。例えば、AというDNA分子とBというDNA分子を連結して生まれたA+BというDNA分子を定量することにより「ライゲーション反応の促進効果」を確かめることができる。以上のような定量実験ではラジオアイソトープを用いたトレーサー実験が一般的に行われている。本発明において「ライゲーション反応が促進される」ことは、DNAリガーゼ反応がその全工程の一部を構成する方法において該方法の効率が向上することによっても示される。例えば、PCR産物をクローニングする方法における「クローニング効率の向上」、あるいは、LCR法における「増幅効率の向上」(増幅産物の生成量の増大や増幅時間の短縮など)などによっても示されうる。 本発明において、クローニングの効率とは形質転換された宿主細胞に現れる表現型を識別した上で、全ての形質転換体における外来DNAが挿入されたことを示す表現型を有する形質転換体の割合として表される。好ましくは、外来DNA挿入部位がβ―ガラクトシダーゼ遺伝子内に存在するベクターを用いてクローニングを行い、形質転換させた大腸菌をβ―ガラクトシダーゼの基質を含む培地上でコロニー形成させた後、コロニーの青白を判定し、全コロニーに対する白コロニーの割合として求める。なお、クローニングの効率向上は、同じクローニング効率を得るために要する時間を短縮することによっても示されうる。 次に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例1DNAリガーゼ反応におけるベタイン添加によるクローニング効率に及ぼす影響を検討T4 DNAリガーゼ(東洋紡績製)4単位を、6.6mM MgCl2、10mM DTT、 02mM ATP、 20μg/ml ウシ血清アルブミン(BSA)を含む66mM Tris−HCl(pH 7.6)緩衝液に溶解した組成物を調製した(ベタイン(−)組成物)。 次に、この組成物にベタインを終濃度1.0Mとなるように添加した組成物を調製した(ベタイン(+)組成物)。一方、 Taq DNAポリメラーゼにて、プライマーλ−f(5’−GATGAGTTCGTGTCCGTACAACT−3’)とλ0.5−r(5’−GGTTATCGAAATCAGCCACAGCGCC−3’)を用いてPCRを行い、λDNAの0.5kb DNA断片を調製し、前記の2種類のDNAリガーゼ組成物を用いて自製化したTベクターと24℃、1時間反応させた。この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、ベタインを添加しないDNAリガーゼ組成物に対して、本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いた場合は、クローニング効率が約30%向上していた(表1)。 実施例2 ハイフィディリィティーPCR産物のDNAリガーゼ反応におけるベタイン添加によるクローニング効率に及ぼす影響を検討 KOD −Plus− DNAポリメラーゼ(東洋紡績製)にてプライマーλ−fとλ2−r(5’−GATAGCTGTCGTCATAGGACTC−3’)を用いてPCRを行い、λDNAの2kb断片を増幅した。増幅後の反応液にそのまま、KOD −Plus− DNAポリメラーゼを特異的に中和抑制する抗体(東洋紡績製)とTaq DNAポリメラーゼを添加して、60℃、 30分間反応させることにより、PCR産物の3’末端にdAを付加させた。次に、この反応液を実施例1に記載のベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物とベタインを含有するDNAリガーゼ組成物にて、24℃、1時間、Tベクターとのリガーゼ反応を行った後、この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、ベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物に対して、本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いた場合は、クローニング効率が約20%向上していた(表2)。 実施例3 DNAリガーゼ反応におけるベタイン添加による反応時間短縮の検討 実施例1に記載のベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物とベタインを含有するDNAリガーゼ組成物と、同様のλ0.5kb増幅DNA断片、Tベクターを用いて、反応温度16℃にて反応時間を変化して反応を行った。次に、この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB寒天培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、ベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物ではベタインを含有するDNAリガーゼ組成物と同レベルのクローニング効率を得るためには、2時間の反応時間が必要であった。これに対して、本発明によるベタインを含有するDNAリガーゼ組成物を用いた場合には、反応時間15〜30分で十分なリガーゼ反応が行われているようであり、既にクローニング効率が上限に達していた。(表3、図1)。 実施例4. ベタイン添加によるリガーゼ反応時間の短縮の検討2 実施例1に記載のベタインを含有する緩衝液と、同様のλ0.5kb増幅DNA断片、Tベクターを用いて、反応温度16℃にて反応時間を変化してリガーゼ反応を行った。次に、この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB寒天培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、反応時間2分でも十分なリガーゼ反応が行われており、既にクローニング効率が上限に達していた(表4)。 実施例5. ライゲーション反応におけるベタイン至適濃度検討 Taq DNAポリメラーゼにて増幅したPCR産物と自製化したTベクターを用いて、実施例1に記載のベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物に一定量のベタインを添加して、16℃、 5分間ライゲーション反応を行った。なお、λ1kb DNA断片の増幅では、プライマーλ−fとλ1−r(5’−GCGTACCTTTGTCTCACGGGCAA−3’)を使用した。次に、この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB寒天培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、λDNA由来の0.5kb、λ1kbのいずれの増幅産物を挿入DNAにした場合でも、終濃度0.5〜3Mのベタイン濃度でクローニング効率を増大する効果が見られた。そして、いずれの挿入DNAを用いた場合でも、その至適濃度は1Mであった。(表5、表6)。 実施例6. ポリエチレングリコール含有ライゲーションバッファーにおけるベタイン添加によるクローニング効率向上の検討 プロメガ社pGEM−T Vector System添付の2x バッファー(60mM Tris−HCl(pH7.8)、20mM MgCl2、20mM DTT、2mM ATP、10% polyethylen glycol)に1M ベタインを添加することにより、クローニング効率に変化が見られるか、実施例5と同様のTaq DNAポリメラーゼにて増幅したλ1kbのPCR産物と自製化したTベクターを用いて検討した。ライゲーション反応は24℃、5分あるいは24℃、60分行ない、その反応液を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB寒天培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。添付の2x バッファーだけを用いた場合でも、反応時間5分でライゲーション反応は最大に達しているようであり、反応時間を伸ばすことによるクローニング効率の増大は見られなかった。一方、添付の2x バッファーに1Mベタインを添加した場合には、クローニング効率が1.3倍〜1.5倍増大していた。以上の結果から、従来よりライゲーション効率を高める効果が明らかにされているアルコール類に加え、ベタインの様なアミノ酸類似体を添加することによりクローニング効率が更に増大できることが明らかとなった。(表7)。 実施例7.市販Tベクターを用いたTAクローニングにおけるベタイン添加による効率への影響Taq DNAポリメラーゼにてPCRを行い、先の実施例と同じプライマーを用いてλDNAの0.5kb、1kb、2kbのDNA断片を調製し、実施例1と同様のライゲーション反応液組成にて、市販Tベクター(プロメガ社、pGEM−T)と24℃、1時間反応させた。この反応物を用いて大腸菌DH5αを形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−galを含むLB寒天培地にて培養して、生育するコロニーを観察した。その結果、ベタインを添加しないDNAリガーゼ組成物に対して、本発明によるベタインを含有するDNAリガーゼ組成物を用いた場合には、クローニング効率がそれぞれ45%、 67%、11%向上していた(表8)。 実施例8.市販Tベクターを用いたTAクローニングにおけるベタイン添加による反応時間への影響実施例1に記載のベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物とベタインを含有するDNAリガーゼ組成物と、同様のλ0.5kb増幅DNA断片、市販Tベクター(プロメガ社、pGEM−T)を用いて、反応温度24℃にて反応時間を変化して反応を行った。次に、この反応物を用いて大腸菌DH5αを形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−galを含むLB寒天培地にて培養して、生育するコロニーを観察した。その結果、ベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物では、反応時間を延長することにより、クローニング効率が増大する傾向が見られた。一方、本発明によるベタインを含有するDNAリガーゼ組成物を用いた場合には、反応時間5分でも十分なリガーゼ反応が行われているようであり、既にクローニング効率が上限に達していた。(表9、図2)。本発明のDNAリガーゼ組成物はDNAの連結反応の効率を著しく向上させるため、一般的にDNAのクローニングにおいて形質転換体の取得効率を改善することができる。特にPCR産物の直接クローニングにおいてはこれまでしばしばDNAリガーゼの効率が悪く低い形質転換率であったものが、本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いることにより、大幅に改善される。DNAリガーゼ反応液中のベタインの存在により必要な反応時間を短縮できることを示すグラフである。市販Tベクターを用いたTAクローニングにおけるベタイン添加による反応時間への影響を示すグラフである。ベタインを含むことを特徴とするDNAリガーゼ含有組成物ベタインの共存下でDNAリガーゼ反応を行うことを特徴とするDNAリガーゼによるライゲーション反応を促進させる方法PCR産物を、プラスミドベクターあるいはファージベクターに直接クローニングする方法において、DNA連結反応時に、ベタインの共存下でDNAリガーゼ反応を行うことを特徴とする、PCR産物をクローニングする方法下記組成を含む,PCR産物をプラスミドベクターあるいはファージベクターに直接クローニングするためのキット.(a)DNAリガーゼ(b)ベタインを含む緩衝液(c)プラスミドベクターまたはファージベクター 【課題】PCR産物の直接クローニングにおいてクローニング効率の高いDNAリガーゼ組成物を得ること。【解決手段】(1)DNAリガーゼ、(2)ベタイン、(3)2価金属イオン、動物血清タンパク質の内いずれか1つ以上、から成るDNA組成物。および前記組成物を用いたPCR産物のクローニング方法。


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特許公報(B2)_DNAリガーゼによるライゲーション反応の促進方法およびDNAリガーゼ組成物

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タイトル:特許公報(B2)_DNAリガーゼによるライゲーション反応の促進方法およびDNAリガーゼ組成物
出願番号:2004205924
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北林 雅夫 石田 由和 小松原 秀介 松本 博治 岡 正則 JP 4590957 特許公報(B2) 20100924 2004205924 20040713 DNAリガーゼによるライゲーション反応の促進方法およびDNAリガーゼ組成物 東洋紡績株式会社 000003160 北林 雅夫 石田 由和 小松原 秀介 松本 博治 岡 正則 20101201 C12N 15/09 20060101AFI20101111BHJP C12N 9/00 20060101ALI20101111BHJP JPC12N15/00 AC12N9/00 C12N 15/00 CA/BIOSIS/MEDLINE(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特表2000−500647(JP,A) 特開2000−325099(JP,A) 特開2004−141105(JP,A) 特開2003−144169(JP,A) 国際公開第99/046400(WO,A1) 3 2006025637 20060202 12 20070618 松原 寛子 本発明は,分子生物学の分野に属する。さらに詳しくはDNAリガーゼによるライゲーション反応を促進させる方法、および、そのようなDNAリガーゼ組成物に関する。分子生物学の分野では,DNA組換え体の作製において2本鎖DNA断片の連結にDNAリガーゼを利用することは,周知の技術であり,従来よりT4 DNAリガーゼ,大腸菌DNAリガーゼ等が用いられている。また,PCR産物のクローニングも分子生物学の分野では一般的に実施されている方法である。PCR産物とはDNAポリメラーゼを用いて目的遺伝子断片を短時間に増幅する技術であるPCR(polymerase chain reaction)法により得られた多量の目的DNA分子のことである。このようにして得られた目的のDNA分子を適当なベクターに連結してクローニングすることは,分子生物学の分野においては,遺伝子の構造及び機能解析を行う上で極めて重要である。従来よりDNAリガーゼによるDNA連結反応の効率向上のために種々の改良が検討されてきた。たとえば,DNA連結反応時に,ポリエチレングリコール,およびポリアミン,1価カチオン,2価カチオンなどのいずれか1つを添加する方法が開示されている(たとえば,特許文献1を参照)。特開昭62−36187また,一般的にPCR産物をクローニングするには,増幅された2本鎖DNAの3’末端にヌクレオチドを1個(dA)付加する形で生成させ,一方、ベクターDNAの3’末端にも同様にヌクレオチドを1個(dAと相補的なdT)付加させておき,各々の突出末端の相補性を利用して連結させるT−Aクローニングという方法が知られている(たとえば、特許文献2およびそのファミリーとしてUS5487993、US5827657などを参照)。WO 92/06189現在、プラスミドベクターDNAの3’末端にdTを付加させたものは、一般的にT−ベクターと呼ばれている。T−ベクターは様々な遺伝子研究用試薬を取り扱う会社から販売されており、また、各研究者が自ら比較的簡単に作製することもできる。例えば、プラスミドベクターpBluescriptSK(+)を制限酵素EcoRVの様な平滑末端を生じる制限酵素で切断し、これと同時にアルカリフォスファターゼにて3’末端を脱リン酸化した後、Taq DNAポリメラーゼと高濃度のdTTPを加え、72℃,30分間反応してプラスミドベクターの3’末端にdTを付加してT−ベクターを調製することができる。また,このT−Aクローニングでは通常PCRに用いるDNAポリメラーゼとして良く知られているTaq DNAポリメラーゼが使用されるが,Taq DNAポリメラーゼは生成する2本鎖DNAの末端にdAを付加するのでT−Aクローニングでは有利である反面,エキソヌクレアーゼ活性を持たないため,PCRで生成する増幅DNA産物には取り込まれたヌクレオチドの誤りが多く,正確性を欠くのが欠点である。ここで,エキソヌクレアーゼ活性とは,1本鎖DNAの3’側あるいは5’側から順次ヌクレオチド単位で分解する活性のことである。これに対して,本発明者らはエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いるT−Aクローニング方法を開発し特許出願を行った(たとえば、特許文献3を参照)。この方法では,エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いるため,生成するPCR産物のDNA末端は平滑末端となる。このままではT−Aクローニングに供することができないため,PCR後にエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼの活性を抑制しておき,DNA末端にヌクレオチドを1個付加させる反応を行わせ,T−Aクローニングに供する。こうすることにより,正確な塩基配列を持ったPCR産物のT−Aクローニングが可能となる。特願2002−292635このようにPCR産物のクローニングにおいて,目的とする遺伝子断片を含んだクローンを効率良く入手することは極めて重要であるが,従来より知られているDNAリガーゼの組成では,たとえば,特許文献1のような組成をもってしてもしばしば低い効率となることが知られていた。 本発明は従来技術のこのような課題を背景になされたものであり、DNAリガーゼによるDNA連結効率の高いライゲーション方法を提供すること、および、そのような効率の高いライゲーション反応を可能にするDNAリガーゼ組成物を提供するものである。本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、DNA連結反応時にベタインを共存させることによりDNA連結効率を高めることができることを見出し,本発明を完成するに至った。即ち本発明は,(1)ベタインを含むことを特徴とするDNAリガーゼ組成物である。該組成においてさらに、2価金属イオン、動物血清タンパク質から選ばれる少なくとも1つ以上を含有する緩衝液を含有しても良いし、動物血清タンパク質が牛血清タンパク質であってもよい。あるいは、該組成物は、ライゲーション反応用の組成物、下記(3)に記載のクローニング方法用の組成物、あるいは、LCR法用の組成物でありうる。 また本発明は、(2)ベタインの共存下でDNAリガーゼ反応を行うことを特徴とするDNAリガーゼによるライゲーション反応を促進させる方法である。該方法においてさらに、2価金属イオン,動物血清タンパク質から選ばれる少なくとも1つ以上を含有する緩衝液を共存しても良いし、動物血清タンパク質が牛血清タンパク質であってもよい。あるいは、該方法は、下記(3)に記載のクローニング方法や、LCR法の一部を構成する方法でありうる。 また本発明は、(3)PCR産物を、プラスミドベクターあるいはファージベクターに直接クローニングする方法において、DNA連結反応時に、ベタインの共存下でDNAリガーゼ反応を行うことを特徴とする、PCR産物をクローニングする方法である。 また本発明は、(4)下記組成を含む、PCR産物をプラスミドベクターあるいはファージベクターに直接クローニングするキットである。(a)DNAリガーゼ(b)ベタインを含む緩衝液(c)プラスミドベクターまたはファージベクター 本発明により、DNA連結効率の高いライゲーション方法、および、そのような効率の高いライゲーション反応を可能にするDNAリガーゼ組成物を提供できる。それによって、遺伝子工学領域におけるDNA連結反応の効率を顕著に向上させ,ひいてはPCR産物のクローニングの効率をも著明に向上させることができる。以下、本発明を詳細に説明する。 DNAリガーゼとは,2本鎖DNAの5’リン酸末端と他の2本鎖DNAの5’水酸基末端との間でホスホジエステル結合を形成させる酵素であり,CofacforとしてATPを要求し、相補的塩基を持つDNAどうし、平滑末端(Blant End)どうしのいずれをも連結することができるT4 DNAリガーゼや,NADを要求し、相補的塩基を持つDNAどうしのみを連結する大腸菌DNAリガーゼなどが良く知られており、市販のものを容易に入手できる。そのほか耐熱性DNAリガーゼとしてストラタジーン社のPfu DNA Ligase、Epicentre社のAmpligase DNA Ligase(商品名)などが市販され、また、近年になって超好熱始原菌Aeropyrum pernix(アエロパイラム・ペルニックス)由来のものなどが報告されている。 本発明で用いられるDNAリガーゼとしてはどのようなリガーゼでも良いが,クローニングなど通常の遺伝子組み換えにおけるライゲーションの用途で好ましいのはT4 DNAリガーゼである。ところで、耐熱性のDNAリガーゼを用いて温度サイクリング反応(加熱と冷却の繰り返し反応)を行うことにより既知の遺伝子配列を増幅、検出する方法として、リガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction:LCR)法が報告されている(たとえば、非特許文献1または2、および特許文献4を参照)。あるいは、別の方法としてギャップ充填LCR法が報告されている(たとえば、特許文献5を参照)。 本願発明はこのような用途にも適用できると思われるが、その場合は耐熱性DNAリガーゼを用いることが好ましい。 LCR法では、標的DNAの(+)鎖(センス鎖)および(−)鎖(アンチセンス鎖)にそれぞれアニーリングする2種類の隣りあったオリゴヌクレオチドプローブ、計4種類のプローブを用いて反応を行う。具体的には、まず、4種類のプローブと鋳型DNA、耐熱性DNAリガーゼを含む反応液を(加熱)変性させ、それぞれを1本鎖に分離させる。続く冷却操作により、1本鎖に分離した鋳型DNAに2種類の隣りあったオリゴヌクレオチドプローブがアニーリングする。さらに、耐熱性DNAリガーゼによって隣り合うオリゴヌクレオチドプローブが連結する。この一連の反応を繰り返すことによってライゲーション産物(オリゴヌクレオチドプローブの連結産物)、すなわち標的DNA配列が指数関数的に増幅される。 このとき、隣接するオリゴヌクレオチドプローブの3´末端が鋳型DNAと完全に相補的な場合にのみライゲーション反応が起こり、このライゲーション産物を鋳型にして標的DNAの特異的な増幅が起こるが、二つのオリゴヌクレオチドプローブの境界部位に鋳型とのミスマッチがあると、ライゲーションは起こらず、DNAの増幅は起こらない。 LCRで増幅した産物の確認は、DNA色素(エチジウムブロマイドなど)で染色する方法や免疫複合体反応を利用する方法など、種々の公知の方法を利用できる。Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88、(1991)、Barany,F.著、189頁〜193頁PCR Methods Appl.1、(1991)、Barany,F.著、5頁〜16頁特開2001−269187号公報特許第3330599号公報ベタインというのは1つの分子中に陽イオンとしての第4級アンモニウムと、陰イオンとしてのカルボン酸を持った化合物の一般名であり、溶液中では双性イオンとして存在する。本発明においてはグリシンベタイン(トリメチルグリシン)が特に好ましく用いられる。ベタインをDNAリガーゼ組成物に添加する濃度としては0.01M以上が好ましく、特に好ましいのは0.5〜2Mの範囲である。本発明を好適に実施するには、さらに2価金属イオンおよび動物血清タンパク質から選ばれる物質の内、いずれか1つもしくは両者を添加することが好ましい。2価値金属イオンには、例えばCa++、Mg++、Mn++などが挙げられるが、特にMg++が好ましい。DNAリガーゼ組成物としてはこれらをたとえばMgCl2などの金属塩の形で添加する。添加する濃度としては、0.1mM以上が好ましく、特に1.0〜20mMが好適である。動物血清タンパク質とは、主にウサギ、ウシ、マウスなどの哺乳動物の血清タンパク質であり、アルブミン、グロブリンなどのタンパク質が挙げられる。本発明において特に好ましい動物血清タンパク質はウシ血清アルブミンである。これらの動物血清タンパク質をDNAリガーゼ組成物に添加する濃度としては、0.0001重量%以上であって、特に0.01〜0.05重量%が反応に好適な濃度である。これらを適当な緩衝液、例えばpH7.0から8.0のトリスー塩酸緩衝液などに添加してDNAリガーゼ組成物を構成する。 本発明はまた、このようなDNAリガーゼ組成物を用いたPCR産物のクローニング方法でもある。本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いてPCR産物をクローニングするには、まず、標的とするDNAおよびその一部と相補的な塩基配列を有するプライマーとを準備し、Taq DNAポリメラーゼなどを用いてPCRを行う。この際、エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼも用いることができるが、その場合はPCR後に、例えば前記エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを特異的に阻害する抗体などを添加して前記DNAポリメラーゼの活性を抑制しておき、Taq DNAポリメラーゼなどにより増幅で生成した2本鎖DNAの末端にdAを付加させる。このようにして最終的には末端にdAが1個付加されたPCR産物を得ることができる。次にベクターとしてはプラスミドベクター、ファージベクターなどいずれでも良いが、好適にクローニングを実施するためには、適当な制限酵素を用いて切断し、dTの突出末端を持ったベクターを作製し、前記に取得したPCR産物と、本発明によるDNAリガーゼ組成物を混合してDNAの連結反応を行わせる。所望の標的DNAがクローニングされた形質転換体を得るには、前記のDNA連結反応物を大腸菌に形質転換し、ベクターのマーカーを利用して生育してくる大腸菌コロニーを選別することにより達成することができる。本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いることにより、従来TAクローニングで得られていた効率と比べて大幅に効率を増大することが可能となる。 例えば、挿入DNAとしてTaq DNAポリメラーゼによりλDNA由来の0.5kb、 1kb、 2kbのDNA断片を用いた実施例7の実験の場合、従来のTAクローニング効率より約11〜67%の効率を増大することが可能となる。本発明において「ライゲーション反応が促進される」ことは、「DNA連結効率が高まる」ということで示される。リガーゼのDNA連結活性を確認するためには種々の公知の方法が用いられうるが、例えば特許文献1の明細書2ページ右下16行−3ページ左下7行に例示されているように、各リガーゼの反応に適した条件において、適当な基質を一定時間内に連結させる酵素量を単位として評価することができる。あるいは、実際に連結したDNAの分子数またはDNAの重量を計測することにより、確かめることができる。例えば、AというDNA分子とBというDNA分子を連結して生まれたA+BというDNA分子を定量することにより「ライゲーション反応の促進効果」を確かめることができる。以上のような定量実験ではラジオアイソトープを用いたトレーサー実験が一般的に行われている。本発明において「ライゲーション反応が促進される」ことは、DNAリガーゼ反応がその全工程の一部を構成する方法において該方法の効率が向上することによっても示される。例えば、PCR産物をクローニングする方法における「クローニング効率の向上」、あるいは、LCR法における「増幅効率の向上」(増幅産物の生成量の増大や増幅時間の短縮など)などによっても示されうる。 本発明において、クローニングの効率とは形質転換された宿主細胞に現れる表現型を識別した上で、全ての形質転換体における外来DNAが挿入されたことを示す表現型を有する形質転換体の割合として表される。好ましくは、外来DNA挿入部位がβ―ガラクトシダーゼ遺伝子内に存在するベクターを用いてクローニングを行い、形質転換させた大腸菌をβ―ガラクトシダーゼの基質を含む培地上でコロニー形成させた後、コロニーの青白を判定し、全コロニーに対する白コロニーの割合として求める。なお、クローニングの効率向上は、同じクローニング効率を得るために要する時間を短縮することによっても示されうる。 次に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例1DNAリガーゼ反応におけるベタイン添加によるクローニング効率に及ぼす影響を検討T4 DNAリガーゼ(東洋紡績製)4単位を、6.6mM MgCl2、10mM DTT、 02mM ATP、 20μg/ml ウシ血清アルブミン(BSA)を含む66mM Tris−HCl(pH 7.6)緩衝液に溶解した組成物を調製した(ベタイン(−)組成物)。 次に、この組成物にベタインを終濃度1.0Mとなるように添加した組成物を調製した(ベタイン(+)組成物)。一方、 Taq DNAポリメラーゼにて、プライマーλ−f(5’−GATGAGTTCGTGTCCGTACAACT−3’)とλ0.5−r(5’−GGTTATCGAAATCAGCCACAGCGCC−3’)を用いてPCRを行い、λDNAの0.5kb DNA断片を調製し、前記の2種類のDNAリガーゼ組成物を用いて自製化したTベクターと24℃、1時間反応させた。この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、ベタインを添加しないDNAリガーゼ組成物に対して、本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いた場合は、クローニング効率が約30%向上していた(表1)。 実施例2 ハイフィディリィティーPCR産物のDNAリガーゼ反応におけるベタイン添加によるクローニング効率に及ぼす影響を検討 KOD −Plus− DNAポリメラーゼ(東洋紡績製)にてプライマーλ−fとλ2−r(5’−GATAGCTGTCGTCATAGGACTC−3’)を用いてPCRを行い、λDNAの2kb断片を増幅した。増幅後の反応液にそのまま、KOD −Plus− DNAポリメラーゼを特異的に中和抑制する抗体(東洋紡績製)とTaq DNAポリメラーゼを添加して、60℃、 30分間反応させることにより、PCR産物の3’末端にdAを付加させた。次に、この反応液を実施例1に記載のベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物とベタインを含有するDNAリガーゼ組成物にて、24℃、1時間、Tベクターとのリガーゼ反応を行った後、この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、ベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物に対して、本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いた場合は、クローニング効率が約20%向上していた(表2)。 実施例3 DNAリガーゼ反応におけるベタイン添加による反応時間短縮の検討 実施例1に記載のベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物とベタインを含有するDNAリガーゼ組成物と、同様のλ0.5kb増幅DNA断片、Tベクターを用いて、反応温度16℃にて反応時間を変化して反応を行った。次に、この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB寒天培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、ベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物ではベタインを含有するDNAリガーゼ組成物と同レベルのクローニング効率を得るためには、2時間の反応時間が必要であった。これに対して、本発明によるベタインを含有するDNAリガーゼ組成物を用いた場合には、反応時間15〜30分で十分なリガーゼ反応が行われているようであり、既にクローニング効率が上限に達していた。(表3、図1)。 実施例4. ベタイン添加によるリガーゼ反応時間の短縮の検討2 実施例1に記載のベタインを含有する緩衝液と、同様のλ0.5kb増幅DNA断片、Tベクターを用いて、反応温度16℃にて反応時間を変化してリガーゼ反応を行った。次に、この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB寒天培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、反応時間2分でも十分なリガーゼ反応が行われており、既にクローニング効率が上限に達していた(表4)。 実施例5. ライゲーション反応におけるベタイン至適濃度検討 Taq DNAポリメラーゼにて増幅したPCR産物と自製化したTベクターを用いて、実施例1に記載のベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物に一定量のベタインを添加して、16℃、 5分間ライゲーション反応を行った。なお、λ1kb DNA断片の増幅では、プライマーλ−fとλ1−r(5’−GCGTACCTTTGTCTCACGGGCAA−3’)を使用した。次に、この反応物を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB寒天培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。その結果、λDNA由来の0.5kb、λ1kbのいずれの増幅産物を挿入DNAにした場合でも、終濃度0.5〜3Mのベタイン濃度でクローニング効率を増大する効果が見られた。そして、いずれの挿入DNAを用いた場合でも、その至適濃度は1Mであった。(表5、表6)。 実施例6. ポリエチレングリコール含有ライゲーションバッファーにおけるベタイン添加によるクローニング効率向上の検討 プロメガ社pGEM−T Vector System添付の2x バッファー(60mM Tris−HCl(pH7.8)、20mM MgCl2、20mM DTT、2mM ATP、10% polyethylen glycol)に1M ベタインを添加することにより、クローニング効率に変化が見られるか、実施例5と同様のTaq DNAポリメラーゼにて増幅したλ1kbのPCR産物と自製化したTベクターを用いて検討した。ライゲーション反応は24℃、5分あるいは24℃、60分行ない、その反応液を用いて大腸菌JM109を形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−gal、 1mM IPTGを含むLB寒天培地にて培養して、生成するコロニーを観察した。添付の2x バッファーだけを用いた場合でも、反応時間5分でライゲーション反応は最大に達しているようであり、反応時間を伸ばすことによるクローニング効率の増大は見られなかった。一方、添付の2x バッファーに1Mベタインを添加した場合には、クローニング効率が1.3倍〜1.5倍増大していた。以上の結果から、従来よりライゲーション効率を高める効果が明らかにされているアルコール類に加え、ベタインの様なアミノ酸類似体を添加することによりクローニング効率が更に増大できることが明らかとなった。(表7)。 実施例7.市販Tベクターを用いたTAクローニングにおけるベタイン添加による効率への影響Taq DNAポリメラーゼにてPCRを行い、先の実施例と同じプライマーを用いてλDNAの0.5kb、1kb、2kbのDNA断片を調製し、実施例1と同様のライゲーション反応液組成にて、市販Tベクター(プロメガ社、pGEM−T)と24℃、1時間反応させた。この反応物を用いて大腸菌DH5αを形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−galを含むLB寒天培地にて培養して、生育するコロニーを観察した。その結果、ベタインを添加しないDNAリガーゼ組成物に対して、本発明によるベタインを含有するDNAリガーゼ組成物を用いた場合には、クローニング効率がそれぞれ45%、 67%、11%向上していた(表8)。 実施例8.市販Tベクターを用いたTAクローニングにおけるベタイン添加による反応時間への影響実施例1に記載のベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物とベタインを含有するDNAリガーゼ組成物と、同様のλ0.5kb増幅DNA断片、市販Tベクター(プロメガ社、pGEM−T)を用いて、反応温度24℃にて反応時間を変化して反応を行った。次に、この反応物を用いて大腸菌DH5αを形質転換し、200μg/ml アンピシリン、 0.01% X−galを含むLB寒天培地にて培養して、生育するコロニーを観察した。その結果、ベタインを含有しないDNAリガーゼ組成物では、反応時間を延長することにより、クローニング効率が増大する傾向が見られた。一方、本発明によるベタインを含有するDNAリガーゼ組成物を用いた場合には、反応時間5分でも十分なリガーゼ反応が行われているようであり、既にクローニング効率が上限に達していた。(表9、図2)。本発明のDNAリガーゼ組成物はDNAの連結反応の効率を著しく向上させるため、一般的にDNAのクローニングにおいて形質転換体の取得効率を改善することができる。特にPCR産物の直接クローニングにおいてはこれまでしばしばDNAリガーゼの効率が悪く低い形質転換率であったものが、本発明によるDNAリガーゼ組成物を用いることにより、大幅に改善される。DNAリガーゼ反応液中のベタインの存在により必要な反応時間を短縮できることを示すグラフである。市販Tベクターを用いたTAクローニングにおけるベタイン添加による反応時間への影響を示すグラフである。0.5〜2Mのベタインを含むことを特徴とするDNAリガーゼ含有TAクローニング用組成物。 0.5〜2Mのベタイン共存下でDNAリガーゼ反応を行うことを特徴とするTAクローニング方法。 下記組成を含む、PCR産物をプラスミドベクターあるいはファージベクターにTAクローニングするためのキット。(a)DNAリガーゼ(b)0.5〜2Mのベタインを含む緩衝液(c)プラスミドベクターまたはファージベクター


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