タイトル: | 公開特許公報(A)_エリンギ新菌株 |
出願番号: | 2004205007 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | A01G 1/04,C12N 1/14 |
城石 雅弘 西澤 賢一 JP 2006025618 公開特許公報(A) 20060202 2004205007 20040712 エリンギ新菌株 社団法人長野県農村工業研究所 591062146 高木 千嘉 100091731 西村 公佑 100080355 結田 純次 100127926 三輪 昭次 100105290 新井 信輔 100106769 城石 雅弘 西澤 賢一 A01G 1/04 20060101AFI20060106BHJP C12N 1/14 20060101ALI20060106BHJP JPA01G1/04 101C12N1/14 FC12N1/14 G 4 OL 9 2B011 4B065 2B011AA07 2B011BA06 2B011BA09 2B011BA13 2B011GA03 2B011GA07 2B011GA08 2B011KA04 4B065BA30 4B065BB26 4B065BB27 4B065BC32 4B065BC33 4B065CA41 4B065CA53 本発明は、エリンギ(ハラタケ目ヒラタケ科ヒラタケ属;Pleurotus eryngii (Dcexfr.) Quel.)の新規な菌株に関する。さらに詳しくは、本発明は、人工栽培において、成熟した子実体の柄(「茎」とも呼ばれる)の長さに対する傘の直径の比が1.0〜1.5の範囲であり、且つ柄の一部が株状となっているエリンギ新菌株に関する。 エリンギは低カロリーで、植物繊維やトレハロースを多く含み、しかも癖の無い甘みのため種々の料理に合うことから、食用キノコ類の中でも人気が高く、年々需要が高まり、日本の各地で人工栽培が盛んに行なわれている。 エリンギの人工栽培は、一般に、鋸屑とフスマなど栄養源を混合した培地で行われており、従来の菌株から得られる成熟した子実体は、通常、柄の長さが100mm以上あり、そして菌糸体(植物の根に相当する)付近から数本の柄が分かれて生長し、複数の子実体を形成(単性発生)するという特徴を有する。また、エリンギは各種食用キノコ類の中では柄の長さが長いが、傘直径は比較的短い。このため、栽培農家や流通業者は、収穫、出荷や流通に際しては、柄を1本1本、手作業で分離し、箱の中に横向きに載置してから包装作業を行なっており、かかる作業態様がネックとなって効率的な出荷や流通を行ない得ない状況である。 従って、かかる収穫、包装作業に伴う労力を軽減し、年々需要が高まる中、効率的な出荷や流通を可能にすべく、子実体の形状が根本的に改良された新菌株の提供、しかも従来株と同等の収量性を保持する新菌株の提供が強く要望されている。 なお、エリンギの新菌株に関しては、胞子形成能を有しない子実体を形成する菌株の提供(特許文献1参照)や、発芽した子実体が生育過程で萎れる立枯現象を防止可能な菌株の提供(特許文献2参照)が提案されているが、子実体の形状自体の改良を目的とする新菌株の提供は試みられていないようである。特開2004−24198公報特開平9−140285号公報 本発明の課題は、上記現状に鑑み、栽培農家における収穫、市場流通時の包装作業の効率化を可能にするような新規な形状の子実体をもたらすエリンギ新菌株の提供、エリンギ新菌株の菌糸体の培養方法およびエリンギ新菌株の子実体の栽培方法を提供することである。 すなわち、本発明は、人工栽培を行なった際の成熟した子実体における柄の長さに対する傘の直径の比が1.0〜1.5の範囲であり、柄の少なくとも一部が株状であるエリンギ新菌株である。 また、本発明は、上記エリンギ新菌株の菌種を培地に接種し、菌糸体を生成させることを特徴とする上記エリンギ新菌株の菌糸体の培養方法である。 さらに、本発明は、上記エリンギ新菌株の菌種を培地に接種し、子実体を形成させることを特徴とする上記エリンギ新菌株の子実体の栽培方法である。 本発明に係るエリンギ新菌株から得られる子実体は、従来のエリンギ種と比較して、収穫したキノコの株元での癒着が強く、傘の直径が大きく、その一方で柄の長さが短い。従って、栽培農家は市場に出荷する際に、そのまま直立させた状態、つまり傘を上にして箱詰めが可能であり、さらに同様の状態でトレー包装やシュリンク包装が可能となり、流通の各段階において取扱性に優れる形状を有している。すなわち、収穫したキノコの株毎の包装が可能となり、包装作業の大幅な時間短縮が図られ、また、他種のキノコに使用されているような高性能な包装機械を導入して使用することが可能となる。 また、従来株のエリンギとは形状が大きく異なるため、新しい商品イメージのエリンギを提供でき、消費者の購買意欲を刺激してエリンギ全体の需要増大に貢献できるというメリットもある。 自然変異株の選抜の方法により、以下の手順で、上記新菌株を見出し創製した。(1)交配親の選抜 野生株を含む5菌株の相互交配により、約300菌株を作出した。これら菌株の栽培試験を行い、発生型、子実体の特性、収穫期の菌柄の長さを調査した。その結果、収量は低いが、柄同士が癒着して株状に発生し、柄が短い1菌株(エリンギFI−21)を選抜した。 なお、エリンギは日本に自生していないので、ヨーロッパ等の野生株や外国での栽培株を入手して上記交配を行なった。(2)交配育種 以下の手順により、本発明の新菌株を交配育種によって得た。 前出の柄が短い菌株(エリンギFI−21)の収量性を改善するために、この菌株と、収量性が高い既存栽培種(エリンギ福島系)を親株として交配育種を行った。 以下、エリンギFI−21とエリンギ福島系の交配方法を詳述する。 杉オガコ100gとコメヌカ95gをよく混合し、この混合物の水分含有率が65%になるように水道水を加えた培養基を作製し、120℃で30分間高圧蒸気殺菌した。 エリンギ福島系の個体種菌10gを、冷却後の上記培養基に接種し、暗所にて温度22℃、湿度60%の条件下で40日間培養を続けた後、定法に従って子実体を発生させた。この子実体の傘部より得た胞子をポテト・グルコース平板培地で発芽させ、単胞子分離して一核菌糸(「一次菌糸」とも言う)250株を得た。 次に、エリンギ福島系の一核菌糸とエリンギFI−21の二核菌糸(「二次菌糸」ともいう)を1株ずつポテト・グルコース平板培地上に対峙させて接種し、温度25℃にて30日間培養して交配を行い、交配株200株を得た。 次に、前述した栽培方法と同様の方法で、得られた交配株から子実体を発生させた。菌傘が八分開きになった段階で収穫して、収量および子実体の形質、発生型、菌柄の長さを調査した。 柄の長さおよび収量を基準に一次選抜を行って2菌株を選抜した。 さらに、前述した栽培方法と同様の方法で、この2菌株から子実体を発生させ、発生型が株状で、柄の長さが短く収量性に優れた1菌株を選抜した。 この選抜株について様々な環境下で反復栽培を行い、子実体の形状および高収量性が安定していることを確認し、本発明の新菌株を得た。 上記の手法によって得られた新菌株の子実体および胞子等の特徴は以下のとおりである。 傘は、はじめ丸く、次いで平らになりやがて真中が凹む。表面はわずかにビロード状で、傘の直径は4〜8cm、色は赤茶から灰褐色になる。ひだは濁った黄土色で垂生、柄は白く太く長さが3〜8cm、傘の中心に着生し、中心部で太く表面は平滑である。胞子は透明、胞子紋は白からグレー、8〜10μm×4〜5μmである。 交配型は4極性で、一般に栽培、市販されているエリンギと容易に交配する。 以上の特徴を、衣川堅二郎、小川兵編著「きのこハンドブック」(2000年、朝倉書店)の記載と比較すると、本菌はエリンギであることが明瞭である。 この新菌株は、「Pleurotus eryngii E-3」と表示し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託申請がなされ、同センターは平成16年6月25日に受領番号「FERM AP−20105」として受領している。 次に、エリンギ新菌株と他のエリンギ株との異同判定として、両菌糸が持っている遺伝的因子が異なればその菌糸は互いに異なる菌糸であるという菌類分類学的事実に基づき、遺伝的因子の異同を寒天培地上における対峙培養によって調査した。供試したエリンギ株は栽培市販品種の「ホクト株式会社生産」、「かつらぎ産業株式会社KE−106」、「愛知県林業試験場育成菌株」、「キノックス」である。結果は表1のとおりである。 本発明の新菌株は、従来の菌株と混じり合わない状態である嫌触反応陽性を示したことから、従来株とは遺伝的に離れていることが判明した。 新菌株の培養的、菌学的性質は以下のとおりである。(1)麦芽エキス寒天培地(25℃) 緩やかな生育を示し、15日間の菌糸伸長のコロニー径は30mm、白色でやや疎な菌糸、わずかに気中菌糸を生じる。(2)ポテト・グルコース寒天培地(25℃) 旺盛な生育を示し、15日間の菌糸伸長のコロニー径は60mm、白色で密な菌糸、気中菌糸を多量に生じる。(3)最適発育温度 ポテト・グルコース寒天培地に直径5mmの種菌を接種し、5〜35℃の間の5℃間隔で培養した。15日後に菌糸伸長を測定したところ、最も伸長の早い培養温度は25℃であった。また、35℃ではほとんど生育しなかった。(4)最適発育pH ポテト・グルコース寒天培地をpH4.0〜8.0の間で0.2間隔に調整して、直径5mmの種菌を接種し、25℃で培養した。15日後に菌糸伸長を測定したところ、最適発育pHは5.2〜5.8であった。pH7.0より高い培地は、生育が極端に遅くなり、pH8.0ではほとんど生育しなかった。 次に本菌株の特徴である柄の長さに対する傘の直径が大きい、すなわち従来菌株に比べて柄長が短く、傘直径が大きいという特徴、さらに柄の一部が株状となっている特徴ある形状について説明する。 新菌株と従来菌株とを比較するための栽培試験を行って、得られた特性値を表2に示した。試験条件は以下の通りである。 杉オガコ、フスマおよびコーンブラン(トウモロコシ澱粉製造時の副産物)を容量比で10対3対0.5の割合で混合し、水道水を加えて水分含有率を65%に調整した培地を、容量が850mlのポリプロピレン製の栽培ビン32本に充填した。培地の充填量は500g±10gとし、ビンの肩まで圧詰めしてビン口部中央より下方に向かい直径2cmの穴をあけた後、栽培専用キャップで打栓した。 該培養基を120℃で30分間、高圧蒸気減菌した後、本発明に係るエリンギ新菌株の種菌を接種した。次いで、暗所23℃、湿度60%の条件下で該培養基を40日間、培養し、次いで該培養基を菌かき(発生処理)し、17℃、湿度90%以上、照度200ルクスの環境で子実体原基を形成させ、その後同環境下で子実体を形成させた。菌かき後18日以後、傘が八分開きになった段階で子実体を収穫した。 新菌株は、菌まわり日数、生育日数、収量性などは従来株と大きく変わらないが、傘の直径が大きく、柄の長さが短い。また、図2に示すように、従来菌株の子実体では柄の数が少なく、1本1本が分立している。これに対して、図1に示すように、本発明に係る新菌株の子実体の場合は、柄が途中まで癒着して株状となっており、それから1本1本の柄が分立した形状である。 ここで、「傘の直径」は、傘の直径の最大値と最小値の平均値であり、「柄の長さ」は、柄の最下端(菌糸体との境界)から柄の上端(柄と傘の境界)までの長さをいう。また、「柄が癒着して株状」とは、従来菌株では1本1本が分離している子実体の柄同士が連結し一体化して、あたかも株のような形状となっている状態をいう。 かかる株状部分の長さすなわち癒着部分の長さは、本発明に係る新菌株では約3〜6cm、若しくは4〜5cmと長いが、従来株では最大で3cm、通常は2cmと短い。 本発明に係るエリンギ新菌株の菌糸体の培養方法としては、エリンギ菌が必要とする栄養源を含む液体栄養培地または固体栄養培地にエリンギ菌を接種し、18〜28℃で15〜30日間行なう。 本発明に係るエリンギ新菌株の子実体の栽培方法は、次のとおりである。 杉やブナなどのオガコ(培地素材)にコメヌカ、フスマ、コーンコブミール(トウモロコシ穂軸粉砕物)、コーンブラン、ビートパルプ、コットンハル等の栄養源、或いは市販の培地栄養源などを単独又は2種以上を混合した固体栄養培地にエリンギ新菌株を接種し、温度18〜28℃で25〜40日間培養した後、温度15〜20℃、湿度80〜100%の条件下で子実体形成を促すようにして行なう。 以下に、本発明によるエリンギ新菌株の人工栽培実施例を示すが、本発明は以下の実施例の範囲にのみ限定されるものではない。〔実施例1〕 杉オガコ100g(乾物重量)とコメヌカ95gとをよく混合し、水道水を加えて水分含有率を65%に調整した培地を32本の850mlポリプロピレン製栽培ビンに充填した。培地充填量は480gとし、ビンの肩まで圧詰めしてビン口部中央より下方に向かい直径2cmの穴をあけた後、栽培専用キャップで打栓した。 該培養基を120℃で30分間、高圧蒸気減菌した後、エリンギ新菌株の種菌を、また対照としてかつらぎ産業(株)のエリンギ「KE−106」と愛知県林業試験場育成菌株を接種した。 暗所23℃、湿度60%の条件下で、該培養基を40日間培養し、次いで該培養基を菌かき(発生処理)し、17℃、湿度90%以上、照度200ルクス以内の環境で子実体原基を形成させ、その後同環境下で子実体を形成させた。菌かき後18日以後、傘が八分開きになった段階で子実体を収穫した。 結果を表3に示す。〔実施例2〕 本実施例は、高栄養培地を使用した人工栽培実施例である。 杉オガコ60g(乾物重量)、コメヌカ60g、フスマ20g、マメカワ20g、コーンコブミール20gおよび子実体形成促進材である「ニョキデール」(商品名;JA全農長野が販売)2.5gをよく混合し、水道水を加えて水分含有率を63%に調整した培地を32本の850mlポリプロピレン製栽培ビンに充填した。培地充填量は480gとし、ビンの肩まで圧詰めしてビン口部中央より下方に向かい直径2cmの穴をあけた後、栽培専用キャップで打栓した。該培養基を120℃で30分間、高圧蒸気減菌した後、エリンギ新菌株の種菌を、また対照としてかつらぎ産業(株)のエリンギ「KE−106」と愛知県林業試験場育成菌株を接種した。 暗所23℃、湿度60%の条件下で、該培養基を40日間培養し、次いで該培養基を菌かき(発生処理)し、17℃、湿度90%以上、照度200ルクス以内の環境で子実体原基を形成させ、その後同環境下で子実体を形成させた。菌かき後18日以後、傘が八分開きになった段階で子実体を収穫した。 結果を表4に示す。本発明に係るエリンギ新菌株の子実体を示した説明図である。市販されている従来菌株であるかつらぎ産業株式会社「KE−106」のエリンギ子実体を示した説明図である。符号の説明 1 エリンギ子実体 2 栽培ビン 人工栽培を行なった際の成熟した子実体における柄の長さに対する傘の直径の比が1.0〜1.5の範囲であり、柄の少なくとも一部が株状であるエリンギ新菌株。 受領番号がFERM AP−20105である請求項1記載のエリンギ新菌株。 請求項1記載のエリンギ新菌株の菌種を培地に接種し、菌糸体を生成させることを特徴とする請求項1記載のエリンギ新菌株の菌糸体の培養方法。 請求項1記載のエリンギ新菌株の菌種を培地に接種し、子実体を形成させることを特徴とする請求項1記載のエリンギ新菌株の子実体の栽培方法。 【課題】 栽培農家における収穫、市場流通時の包装作業の効率化を可能にするような新規な形状の成熟子実体をもたらす、エリンギ新菌株の提供することである。【解決手段】 収量は低いが、菌柄同士が癒着して株状に発生し、菌柄が短い1菌株(エリンギFI−21)を選抜し、この菌株と、収量性が高い既存栽培菌株(エリンギ福島系)を親株として交配育種を行い、発生型が株状で、柄の長さが短く収量性に優れた1菌株を選抜し、この選抜株について様々な環境下で反復栽培を行い、子実体の形状および高収量性が安定していることを確認し新菌株見出した。【選択図】 なし