タイトル: | 特許公報(B2)_DNA増幅方法 |
出願番号: | 2004161879 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12N 15/09 |
小泉 雄史 山本 敏 JP 4455168 特許公報(B2) 20100212 2004161879 20040531 DNA増幅方法 株式会社ニチレイフーズ 505126610 棚井 澄雄 100106909 小泉 雄史 山本 敏 20100421 C12N 15/09 20060101AFI20100401BHJP JPC12N15/00 A C12N 15/09 SwissProt/PIR/GeneSeq GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq WPI(DIALOG) BIOSIS(DIALOG) PubMed Methods Mol. Biol., vol.226, p.355-359 (2003) 3 2005341810 20051215 13 20070305 光本 美奈子 本発明は、DNAを増幅する方法に関する。 医療分野、環境衛生分野、食品衛生分野等における微生物の同定、臨床診断における遺伝子解析等においては、検体由来の2本鎖DNAから1本鎖DNAを調製し、これを塩基配列決定(シークエンシング)などに用いている。また、ある特殊な配列を持つDNAを検出するために、検体の微量DNAを鋳型としてDNA増幅法を行って得られた1本鎖DNAを用いる技術がある。 1本鎖DNAを調製する方法としては、非対称PCR(ポリメレース・チェイン・リアクション)法が一般的である。 従来、非対称PCR法として、例えば、フォワードのプライマー、リバースのプライマーの濃度に、互いに偏りを持たせる方法(例えば、非特許文献1参照)、RNAプライマーの増幅能力の方がDNAプライマーの増幅能力よりも弱いことを利用し、DNA/RNAハイブリッドプライマーを用いて、プライマー間の増幅能力の差を利用する方法(例えば、非特許文献2参照)、プライマーの融解温度(Tm)の差を利用する、いわゆるサーマルアシンメトリック法(例えば、非特文献3参照)、DNA伸長反応に対するブロッカーを用い、鋳型2本鎖DNAのうち一方のDNA1本鎖に対する伸長反応を阻害する方法(例えば、特許文献1、2参照)が提案されている。米国特許第5849497号明細書米国特許第5627054号明細書「プロシーディングズ・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Proceedings of the National Academy of Sciences)」、1988年、第85巻、p.7652−7656「ニュークレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Researech)」、2000年、第28巻、第8号、e35「ニュークレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Researech)」、1990年、第19巻、第17号、p.4783 しかしながら、プライマーの濃度に偏りを持たせる方法では、プライマーの濃度比の設定など、実験条件の最適化が必要である。 プライマーの増幅能力の差を利用する方法では、RNAプライマーの増幅能力がDNAプライマーのそれよりも弱いことを利用しているため、全体としての増幅効率を低下させてしまう。また、DNA/RNAプライマーの合成が非常に高価である。 プライマーのTmの差を利用する方法では、増幅したい配列に対応し、かつ必要なTm差を有する配列が必ずしも存在するとは限らないので、所望の配列の増幅に適用できない場合がある。 ブロッカーを用い、一方の伸長反応を阻害する方法では、片方の伸長反応を阻害するため全体としてPCRの効率を低下させてしまう。また、PCRの開始後に、ブロッカーを別途添加する等の煩雑な操作が必要となる。さらに、ブロッカーとして使用する合成PNA(ペプチド核酸)は非常に高価である。 本発明は前記課題を解決するためになされたもので、所望の方向の、所望領域の1本鎖DNAを、簡便かつ効率よく調製できるDNA増幅方法を提供することを目的とする。 本発明のDNA増幅方法は、DNAを鋳型として用いるDNA増幅方法であって、 標的塩基配列の3´末端側に相補的な第一プライマーと、当該標的塩基配列の5´末端側と相同な塩基配列を有する第二プライマーと、前記第二プライマー又は前記第一プライマーの5´末端側の一部塩基配列と相同な塩基配列を3´末端側に有する第三プライマーとを用い、 前記第一プライマーの融解温度Tm1、前記第二プライマーの融解温度Tm2、前記第三プライマーの融解温度Tm3が下式に示す関係を有し、(式)Tm1<Tm3かつTm2<Tm3 アニール温度Ta(但し、Ta≦Tm1かつTa≦Tm2)でPCRサイクルを行う第一過程と、アニール温度Tb(但し、Tm1<TbかつTm2<TbかつTb≦Tm3)でPCRサイクルを行う第二過程とを有することを特徴とする。 前記第三プライマーが、5´末端側に、LCRed705、アミノ基、リン酸基、ビオチン、DIG、DNP、TAMRA、Texas−Red、ROX、XRITC、ローダミン、LCRed640、メルカプト基、ソラーレン、コレステロール、FITC、6−FAM、TET、cy3、cy5、BODIPY564/570、BODIPY500/510、BODIPY530/550、BODIPY581/591、gとcの合計含有量が50%以上のオリゴヌクレオチド、及びgとcの含有量が15%以上で2塩基以上のオリゴヌクレオチドからなる群より選ばれる化合物を有することが好ましい。 前記第一過程におけるPCRサイクル数を10〜30、前記第二過程におけるPCRサイクル数を10〜50とすることが好ましい。 本発明のDNA増幅方法によれば、所望の方向の、所望領域の1本鎖DNAを、簡便かつ効率よく調製することができる。しかも、DNA増幅産物において、従来になく高い含有率および絶対量をもって、1本鎖DNAを生成させることができる。 本発明のDNA増幅方法は、DNAを鋳型として用いるDNA増幅方法であって、標的塩基配列の3´末端側に相補的な第一プライマーと、当該標的塩基配列の5´末端側に相同な塩基配列を有する第二プライマーと、前記第二プライマー又は前記第一プライマーの5´末端側の一部塩基配列と相同な塩基配列を3´末端側に有する第三プライマーとを用いる。 標的塩基配列(以下、「標的配列」という)とは、本発明の方法により増幅しようとする領域であって、5´末端から3´末端まで特定順に配列された塩基からなる塩基配列をいう。この増幅される領域は、例えばその機能等に着目した場合、センス鎖であってもよいし、該センス鎖に相補的なアンチセンス鎖であってもよい。 以下、「塩基配列」を、単に「配列」と称する場合がある。 本発明のDNA増幅方法における鋳型は、PCRにおいて1本鎖DNAを供給しうるものであれば、特に限定されず、2本鎖DNAであっても、1本鎖DNAであってもよい。このような鋳型(鋳型DNA)として、例えば、検体から調製されたDNA画分、DNA画分から予め公知のPCR法により増幅された2本鎖DNAや、RT−PCR(逆転写PCR)の鋳型として用いられるmRNA等から得られたcDNA(相補DNA)等が挙げられる。 後述の通り、鋳型DNA中に、標的配列及び/又は標的配列に相補的な塩基配列が含まれると、本発明による標的配列の増幅が進行する。 本発明において、第一〜第三プライマーとしては、第一プライマーの融解温度Tm1、第二プライマーの融解温度Tm2、第三プライマーの融解温度Tm3が、下式(1)に示す関係を有するようなものを用いる。(式)Tm1<Tm3かつTm2<Tm3 ・・・(1) 融解温度とは、2本鎖核酸が熱変性して1本鎖になる温度である。プライマーの融解温度を求めるには、例えば下記(a)〜(c)の測定方法が挙げられる。(a)温度条件を変化させながら、プライマーの波長260nmにおける吸光度を測定する。得られた温度条件−吸光度関数における変曲点を、そのプライマーの融解温度Tmとする。(b)計算値を測定値に代用する。例えば、中山広樹著、秀潤社、「別冊細胞工学 バイオ実験イラストレイテッド 3+ 本当に増えるPCR」、p.25−27に記載の計算式及び推定結果を用いることができる。(c)プライマーを含む1本鎖とその相補鎖からなる核酸2本鎖を形成させた後、2本鎖に入り込む物質(いわゆるインターカレーター;例えば、臭化エチジウム、「サイバーグリーンI」等)を加える操作を行う。この操作を各種温度条件下で行い、得られた温度条件−蛍光強度度関数における変曲点を、そのプライマーのTmとする。 本発明においては、Tmを求める方法は制限されず、第一〜第三プライマーについて共通の方法を適用して得られたTm1、Tm2、Tm3の値が上記式(1)を満たしていればよい。なお、上記に例示したうち(b)の方法が簡便であり、また(c)の方法が通常よく用いられる。また、第一過程及び第二過程で実際に用いる反応条件を再現した条件下で融解温度を求めることが好ましい。 本発明に用いられる第一プライマーは、標的配列の3´末端側に相補的である。すなわち、前記標的配列の3´末端側に位置する特定塩基配列に対し相補的な塩基配列を、少なくとも一部に有する。第一プライマーは、前記標的配列に対し相補的な塩基配列のみからなることが好ましい。 第二プライマーは、当該標的配列の5´末端側に相同な塩基配列を有する。すなわち、当該標的配列の5´末端側に位置する特定塩基配列と比較して、5´から3´に向けて同一順序の塩基配列を、少なくとも一部に有する。 第三プライマーは、その3´末端側に、前記第二プライマー又は前記第一プライマーの5´末端側の一部塩基配列と相同な塩基配列を有する。この第三プライマーとして、前記第二プライマーの一部塩基配列と相同な塩基配列を有するものを用いるか、前記第一プライマーの一部塩基配列と相同な塩基配列を有するものを用いるかによって、後述のように、増幅される核酸鎖の方向を任意に制御することが可能である。 以下、第二プライマー又は第一プライマーの5´末端側と、第三プライマーの3´末端側とにそれぞれ位置する、第二プライマー又は第一プライマーと、第三プライマーとの互いに相同な配列を「共通配列」と称する。この共通配列は、標的配列、又は標的配列と相補的な配列に、ハイブリダイズし得る配列であっても、ハイブリダイズし得ない配列であってもよい。 このように、本発明においては、上記の共通配列が、標的配列、又は標的配列と相補的な配列にハイブリダイズし得ない配列であってもよいから、所望の標的配列の増幅に寄与し、かつ式(1)に示す関係を満たす第三プライマーの準備が容易である。 本発明のDNA増幅方法は、前記第一〜第三プライマーを用い、アニール温度Ta(但し、Ta≦Tm1かつTa≦Tm2)でPCRサイクルを行う第一過程と、アニール温度Tb(但し、Tm1<TbかつTm2<TbかつTb≦Tm3)でPCRサイクルを行う第二過程とを有することを特徴とする。 具体的には、PCR反応液に、後に詳述する第一過程および第二過程を行うことで実施できる。PCR反応液は、鋳型DNAと、dNTP(デオキシヌクレオチド3リン酸)と、DNAポリメレースと、第一〜第三プライマーからなるプライマーセットを含有するものとして、公知の方法で調製することができる。DNAポリメレースとしては、耐熱性ポリメレースが好ましく、Taqポリメレースとして提供されているものが例示できる。 なお、不活性化されたDNAポリメレースを使用する場合は、第一過程の前に、公知の条件でDNAポリメレースの活性化ステップを行っておく。 (第一過程) まず、アニール温度Ta(但し、Ta≦Tm1かつTa≦Tm2)でPCRサイクルを行う第一過程を行う。 例えば、PCR反応液に対し、下記(1)〜(3)のステップからなるPCRサイクル(I)を、所望の回数行う。(1)2本鎖DNAの変性温度に制御する変性ステップ、(2)Ta≦Tm1かつTa≦Tm2を満たすアニール温度Taに温度制御するアニーリングステップ、(3)DNAポリメレースによるDNA伸長反応に適した条件に温度制御する伸長ステップ。 なお、上記ステップ(2)および(3)に適した温度条件を設定し、ステップ(2)および(3)を同時に行ってもよい。 (第二過程) ついで、アニール温度Tb(但し、Tm1<TbかつTm2<TbかつTb≦Tm3)でPCRサイクルを行う第二過程を行う。 例えば、下記(4)〜(6)のステップからなるPCRサイクル(II)を、所望の回数行う。(4)所望の変性温度に制御する変性ステップ、(5)Tm1<TbかつTm2<TbかつTb≦Tm3を満たすアニール温度Tbに温度制御するアニーリングステップ、(6)DNAポリメレースによるDNA伸長反応に適した条件に温度制御する伸長ステップ。 なお、上記ステップ(5)および(6)に適した温度条件を設定し、ステップ(5)および(6)を同時に行ってもよい。 鋳型DNAに、標的配列及び/又は標的配列に相補的な塩基配列が含まれるとき、PCRサイクル(I)および(II)を行うことにより、標的配列の増幅が進行する。 例えば、第三プライマーとして、前記第二プライマーとの共通配列を有するものを用いた場合、以下の反応が進行する。 鋳型が2本鎖DNAであり、標的配列を含むとき、PCRサイクル(I)を行うことにより、第一プライマーが、鋳型2本鎖DNAのうち標的配列の存在する方の片側1本鎖DNAにアニーリングする。また、第二プライマーのうち標的配列の5´末端に相同な領域が、他方の1本鎖DNAにアニーリングして、第一、第二プライマーをそれぞれ起点(5´末端)とするDNA伸長反応が進行し、第二プライマーを起点(5´末端)とする伸長DNA鎖と、第一プライマーを起点とする伸長DNA鎖とがそれぞれ生成する。 鋳型が1本鎖DNAであり、標的配列を含むとき、PCRサイクル(I)を行うことにより、まず第一プライマーが当該1本鎖DNAにアニーリングし、第一プライマーを起点とする伸長DNA鎖が生成する。ついで、この伸長DNA鎖に第二プライマーがアニーリングして、第二プライマーを起点とし、第一プライマーに相補的な配列を終点(3´末端)とする伸長DNA鎖が生成する。 鋳型が1本鎖DNAであり、標的配列に相補的な塩基配列を含むとき、PCRサイクル(I)を行うことにより、まず第二プライマーが当該1本鎖DNAにアニーリングし、第二プライマーを起点とする伸長DNA鎖が生成する。ついで、この伸長DNA鎖に第一プライマーがアニーリングして、第一プライマーを起点とし、第二プライマーに相補的な配列を終点(3´末端)とする伸長DNA鎖が生成する。 第二、第三プライマーの有する共通配列が標的配列、又は標的配列と相補的な配列にハイブリダイズし得ない場合は、PCRサイクル(I)開始時のPCR反応液には、第三プライマーがハイブリダイズしうるDNAが存在しない。一方、前記共通配列が標的配列、又は標的配列と相補的な配列にハイブリダイズし得る場合は、PCRサイクル(I)開始時のPCR反応液中に、第三プライマーがハイブリダイズしうるDNAは存在する。 いずれの場合も、PCRサイクル(I)を繰り返すと、5´末端に第一プライマーを有し、3´末端に、共通配列に相補的な配列を有する伸長DNA鎖(I)を含んだPCR産物が得られる。 この伸長DNA鎖(I)の3´末端配列には、第二プライマー中の共通配列と、第三プライマー中の共通配列の双方がハイブリダイズしうる。したがって、伸長DNA鎖(I)が生成した後に、さらに変性、アニーリング、伸長ステップを含むPCRサイクル(I)が行われることで、第一〜第三プライマーがDNA伸長反応に貢献し、第一プライマーと相同な配列(5´末端側)から、上記共通配列に相補的な配列(3´末端側)にいたる増幅断片が多量に蓄積される。 PCRサイクル(II)において、アニール温度Tbを上記範囲とすることにより、第一、第二プライマーはいずれも他のヌクレオチド鎖に対してアニーリングし得ない。一方、第三プライマーは、第一過程によって得られた第一プライマーと相同な配列から上記共通配列に相補的な配列にいたる増幅断片の3´末端側にアニーリングし、アニーリングした第三プライマーの3´末端にdNTPが付加するDNA伸長反応が進行する。 このようなPCRサイクル(II)を繰り返すことにより、第三プライマーを5´末端に有し、以下3´末端まで標的配列と相同な配列からなる1本鎖DNAが蓄積される。 以上では、第三プライマーとして、前記第二プライマーとの共通配列を有するものを用いた場合の反応を例示した。一方、第三プライマーとして、前記第一プライマーとの共通配列を有するものを用いれば、上記でいう標的配列と相補的な核酸鎖を生成させることができる。 このように、第一過程によって、第三プライマーが相補的に結合しうる鋳型が多量に蓄積され、さらに第二過程によって、プライマーのうち第三プライマーのみがDNA伸長反応に貢献するので、第三プライマーをフォワードプライマーとする1本鎖DNAの生成が非常に効率よく進み、標的配列が増幅されてなる1本鎖DNAが効率よく生成する。 第一および第二過程を行った後、PCR反応液を所望の温度に制御することができる。なお本発明によれば、このとき比較的低温に制御しても、増幅された1本鎖DNAが2本鎖を形成するおそれは少ない。 図1、2を参照して、本発明の一実施態様による標的配列の増幅過程を例示する。この態様は、鋳型が標的配列を含む2本鎖DNAであり、標的塩基配列の3´末端側に相補的な第一プライマーと、当該標的塩基配列の5´末端側と相同な塩基配列からなる第二プライマーと、この第二プライマーの全域と相同な共通配列を3´末端側に有する第三プライマーとを用いた例である。図1、2において、矢印の矩形端はDNAの5´末端を示し、尖端は3´末端を示す。 図1aに示す鋳型10は、その片側1本鎖DNAに標的配列12を含む。 PCRサイクル(I)の実施により、図1bに示すように、第一プライマー14が、鋳型2本鎖DNAのうち標的配列12の存在する方の片側1本鎖DNAにアニーリングする。また、第二プライマー16が、他方の1本鎖DNAにアニーリングする。 そして、図1cに示すように、第一、第二プライマーをそれぞれ起点(5´末端)とするDNA伸長反応が進行し、第二プライマー16を起点(5´末端)とする伸長DNA鎖17と、第一プライマー14を起点とする伸長DNA鎖18とがそれぞれ生成する。 PCRサイクル(I)を繰り返すと、図1d、eに示されるように、5´末端に第一プライマー14を有し、3´末端に、第二プライマーに相補的な配列160を有する伸長DNA鎖120が生成する。 PCRサイクル(II)の実施により、図2に示すように、この例では第二プライマーの全域と相同な共通配列16を3´末端側に有する第三プライマー20が、伸長DNA鎖120の3´末端側にアニーリングし、PCRサイクル(II)を繰り返すことにより、第三プライマー20を5´末端に有し、以下3´末端まで標的配列12からなる1本鎖DNAが蓄積される。(DNA増幅産物) 第一および第二過程を経て得られるDNA増幅産物は、標的配列を含む2本鎖DNAを鋳型として用いた場合、標的配列を含む1本鎖DNAを鋳型として用いた場合、及び標的配列に相補的な配列を含む1本鎖DNAを鋳型として用いた場合のいずれにおいても、第一、第二、及び第三プライマーの組み合わせに対応した標的配列が増幅されてなる1本鎖DNAを、多量に含む。 DNA増幅産物において、2本鎖DNA、1本鎖DNAの生成比は、例えばDNA増幅産物に蛍光標識操作を行った後に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離されたバンドの蛍光強度を測定することで評価できる。なお、予め第三プライマーに蛍光標識物質を結合させておけば、上記標識操作が必要なく、また、所望の5´末端側配列を有する1本鎖DNAが実際に生成されたことを、容易に確認できる。(第一プライマー) 第一プライマーの融解温度Tm1と、第二プライマーの融解温度Tm2の関係は、公知のPCR法で用いられるプライマーセットにおけるのと同様であり、特に限定されないが、Tm1≒Tm2を満たすことが好ましい。ここで、Tm1≒Tm2とは、ある特定のアニーリング温度でPCR反応を行ったときに、第一のプライマーおよび第二のプライマーが双方ともプライマーとして有効に機能する程度に、Tmが近似していることを示す。(第二プライマー) 第二プライマーは、前記標的配列の5´末端側に相同な塩基配列を、少なくとも一部に有する。 また、上述の通り、第二プライマー又は前記第一プライマーの5´末端側には、第三プライマーの3´末端側と相同な共通配列が存在する。 第二、第三プライマーの融解温度Tm2、Tm3は、Tm2<Tm3の関係を満たす。このような関係を満たす第二プライマーを得るために、例えば、第二プライマーのGC含量を増減させる、第二プライマーの全長を増減させる、これらの方式を組み合わせる等により、Tm2を調整することができる。(第三プライマー) 第三プライマーは、第二プライマー又は前記第一プライマー5´末端側の一部塩基配列に相同な共通配列を3´末端側に有する。 第三プライマーは、第一、第二プライマーに対して、Tm1<Tm3かつTm2<Tm3の関係を満たす。 このように第一、第二プライマーに対して高い融解温度を有し、かつ、これらに対して適度な融解温度差を示す第三プライマーを得るために、例えば、下記の方式でT3を調整することができる。 第三プライマーのGC含量を増減させる方式。 第三プライマーの全長を増減させる方式。 また、第三プライマーの5´末端側に、後述の特定化合物群、特定塩基から選択される化合物を結合させることでTm3を制御する方式も可能である。 また、これらの方式を組み合わせてもよい。 本発明において用いる第二プライマー又は前記第一プライマーと第三プライマーは共通配列を有するから、この共通配列の長さを増減させることで、第二又は第一プライマーと第三プライマーとの双方の全長が増減する。したがって、本発明においては、共通配列の長さを増減させることで、任意の標的配列に対応する第二又は第一プライマーと、この第二又は第一プライマーと所望のTm差を有する第三プライマーという組み合わせを容易に得て、反応に供することができる。 第三プライマーは、5´末端側に、LCRed705、アミノ基、リン酸基、ビオチン、DIG、DNP、TAMRA、Texas−Red、ROX、XRITC、ローダミン、LCRed640、メルカプト基、ソラーレン、コレステロール、FITC、6−FAM、TET、cy3、cy5、BODIPY564/570、BODIPY500/510、BODIPY530/550、及びBODIPY581/591(以下、「特定化合物群」という)、並びに、gとcの合計含有量が50%以上のオリゴヌクレオチド、及びgとcの含有量が15%以上で2塩基以上のオリゴヌクレオチド(以下、「特定塩基」という)からなる群より選ばれる化合物を有することが好ましい。 特定化合物群、特定塩基から選択される化合物を有することにより、第三プライマーのTm3をさらに容易に調整することができる。なお、特定塩基は、標的配列に対して非特異的な配列であることが好ましい。 特定化合物群の表示において、DIGとはジゴキシゲニンであり、DNPとはジニトロフェニルであり、TAMRAとはカルボキシテトラメチルローダミンであり、Texas−Redとは1H,5H,11H,15H−Xantheno[2,3,4−ij:5,6,7−i´j´]diquinolizin−18−ium,9−[2(or4)−[[[6−(2,5−dioxo−1−pyrrolidinyl)oxy]−6−oxohexyl]amino]sulfonyl]−4(or2)sulfophenyl]−2,3,6,7,12,13,16,17−octahydro−,innersaltであり、ROXとはローダミンXであり、XRITCとはローダミンXイソチオシアネートであり、FITCとはフルオレセインイソチオシアネートであり、6−FAMとは6−カルボキシフルオレセインであり、TETとはテトラクロロフルオレセインであり、BODIPY564/570とは4,4−difluoro−5−styryl−4−bora−3a,4a−diaza−s−indacene−3−propionicacid,succinimidylesterであり、BODIPY500/510とは4,4−difluoro−4−bora−3a,4a−diaza−s−indacene−3,5−dipropionicacid,succinimidylesterであり、BODIPY530/550とは4,4−difluoro−5,7−diphenyl−4−bora−3a,4a−diaza−s−indacene−3−propionicacid,succinimidylesterであり、BODIPY581/591とは4,4−difluoro−5−(4−phenyl−1,3−butadienyl)−4−bora−3a,4a−diaza−s−indacene−3−propionicacid,succinimidylesterである。 特定塩基の第一の態様は、gとcの合計含有量(GC含量)が50%以上のオリゴヌクレオチドである。GC含量は高い方が、DNA増幅反応の効率が高くなる傾向があり、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、そして100%とすることが可能である。GC含量をこれらの何れの割合で選択するかは、特定塩基自体の長さ、特定塩基自体と増幅する配列やプライマーとの間に相補性が生じないようにすること等を考慮することにより、当業者が適宜選択することができるものである。特定塩基が長くなりすぎると、DNA増幅反応の効率は低下する場合もあるため、特定塩基は40塩基以下であることが好ましい。また、プライマーダイマーを形成させにくくするため、gとcの一方の塩基の含有量が50%以上の割合、aとtの一方の塩基の含有量が50%以上の割合で含まれることが好ましい。 特定塩基の第二の態様は、GC含量が15%以上で、かつ2塩基以上の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。GC含量が15%未満のオリゴヌクレオチドを結合させると、DNA増幅反応の効率が低下することもある。また、gとcの合計の含有量に対するgとcのうち多い方の塩基の含有量が70%以上、aとtの合計の含有量に対するaとtのうち多い方の塩基の含有量が70%以上であることが好ましい。 特定塩基として、具体的な好ましい塩基配列としては、例えば以下の2〜8塩基のものを例示することができる。また、9塩基以上の配列については、以下の2〜8塩基のものを適宜組み合わせればよい。なお、Sとはc又はgを表し、Wとはa又はtを表す。 SS、SW、WS、SSS、SSW、SWS、WSS、SSSS、SSSW、SSWS、SWSS、WSSS、SSSSS、SSSSW、SSSWS、SSWSS、SWSSS、WSSSS、SSSSSS、SSSSSW、SSSSWS、SSSWSS、SSWSSS、SWSSSS、WSSSSS、SSSSSSS、SSSSSSW、SSSSSWS、SSSSWSS、SSSWSSS、SSWSSSS、SWSSSSS、WSSSSSS、SSSSSSSS、SSSSSSSW、SSSSSSWS、SSSSSWSS、SSSSWSSS、SSSWSSSS、SSWSSSSS、SWSSSSSS、WSSSSSSS、SSSSSSWW、SSSSSWSW、SSSSWSSW、SSSWSSSW、SSWSSSSW、SWSSSSSW、WSSSSSSW、SSSSSWWS、SSSSWSWS、SSSWSSWS、SSWSSSWS、SWSSSSWS、WSSSSSWS、SSSSWWSS、SSSWSWSS、SSWSSWSS、SWSSSWSS、WSSSSWSS、SSSWWSSS、SSWSWSSS、SWSSWSSS、WSSSWSSS、SSWWSSSS、SWSWSSSS、WSSWSSSS、SWWSSSSS、WSWSSSSS、WWSSSSSS。 また、具体的には、agtc、aagt、ggac又はgggcの繰り返し単位からなる20塩基までのオリゴヌクレオチドを例示することができる。 また、特定塩基は2次構造を形成して増幅反応を阻害しないような配列を有することが好ましいが、より具体的には配列間で塩基対形成が低いことが好ましく、塩基対形成がないことが特に好ましい。少なくとも、連続して塩基対が形成されないことが好ましい。さらに、第三プライマー中の他の配列に対しても、塩基対形成が低いことが好ましく、塩基対形成が無いことが特に好ましい。 第三プライマーに含有される化合物が前記特定塩基である場合、第三プライマーの5´末端(すなわち特定塩基の5´末端)には、標識物質として公知の放射性同位体、蛍光物質等が結合されていてもよい。 本発明では、第三プライマーの3´末端側と相同な領域をもつ第二プライマー又は第一プライマーと第三プライマーを併用することで、増幅したい標的配列に対応し、しかも、第一、第二プライマーよりも高いTmを有するプライマー(第三プライマー)が、第二プライマーの5´末端側に対して相同な共通配列を有したヌクレオチドとして、容易に準備できる。すなわち、上式(1)を満たすTm3を有して第二過程において優先的に機能し、かつ所望の方向(5´側から3´側への配列順)を有する標的配列の増幅に貢献する第三プライマーが容易に提供される。よって、従来のいわゆるサーマルアシンメトリック法では困難であった、所望配列に対応し、かつ必要なTmを有するプライマーの提供が、容易に行える。さらには、第三プライマーの5´末端側に、任意の化合物、例えば上記特定化合物あるいは特定塩基を含有させうることから、所望の特性を有する第三プライマーの準備を特に容易に行える。 以上説明したように、本発明のDNA増幅方法によれば、全体としてのPCR効率を低下させる要因が必要とされず、第一過程、第二過程が、一方向の1本鎖DNAの増幅に貢献する。そして、鋳型が2本鎖DNAである場合、鋳型が1本鎖DNAである場合のいずれにおいても、第一、第二、及び第三プライマーの設定に対応して、鋳型DNAの方向に関らず所望の方向を有し、所望の領域に対応するような1本鎖DNAを効率よく得ることができる。 さらには、RNAプライマー、PNA等の高価な試薬や、特別の装置を用いる必要がない。また、ブロッカーを別途添加する操作を必要とせずワンステップ操作で増幅産物を得ることができ、またプライマーの濃度比の検討などが不要であるため、簡便に全工程を終えることができる。したがって、本発明のDNA増幅方法は、簡便かつ安価に実施することができる。 より効率よく所望の1本鎖DNAを得るためには、PCRサイクル(I)のサイクル数を10〜30、PCRサイクル(II)のサイクル数を10〜50とすることが好ましい。 本発明の方法で得られたDNA増幅産物は、1本鎖DNAを用いて遺伝子の1塩基多型(SNPs)を解析するため等に好適である。したがって、医療分野、環境衛生分野、食品衛生分野等における微生物の同定、臨床診断における遺伝子解析等に有利に用いられる。(合成例1)鋳型DNA 腸炎ビブリオのストレイン(整理番号;V89−056、株式会社ニチレイ)から抽出した染色体DNAを、実施例における鋳型として用いた。(合成例2)プライマー 配列番号1で示される塩基配列を有する腸炎ビブリオ毒素遺伝子(150塩基対)を標的配列とし、その増幅用として、以下のプライマーを合成した。 第一プライマー:塩基配列を配列番号2に示す。融解温度Tm1=50℃ 第二プライマー:塩基配列を配列番号3に示す。融解温度Tm2=50℃ 第三プライマー:配列番号4に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドに、Cy3を結合させたプライマー。融解温度Tm3=62℃(PCR装置) PCR装置として、GradientBlockModule(グラジエントブロックモジュール)を装着したHYBAID社製PCRExpressを用いた。(実施例1) 合成例1で得た鋳型DNAと、合成例2で得た第一〜第三プライマーと、Taqポリメレース(Applied Biosystems社製「AmpliTaqGold」)と、このTaqポリメレースに付属のdNTP(「Amp dNTP MIX」)とを、付属のPCRバッファ(「Gene Amp 10xPCR Buffer」)に溶解してPCR反応液を調整した。 このPCR反応液に、95℃、10分のポリメレース活性化ステップに引き続き、下記条件のPCRサイクルを行った。(1)変性:95℃、40秒(2)アニーリング:45℃、30秒(3)伸長:72℃、1分上記(1)〜(3)を20サイクル繰り返した。(4)変性:94℃、40秒(5)アニーリング:45℃〜60℃の6段階グラジエント(グラジエントブロックモジュールのレーン番号1〜6)、30秒(6)伸長:72℃、1分上記(4)〜(6)を40サイクル繰り返した。 その後、72℃で10分間保持の後、4℃まで冷却し、DNA増幅産物を回収した。(評価方法) 得られた増幅産物を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により解析した。解析条件は以下の通りとした。泳動条件ゲル濃度:5%、泳動条件:1xTBE、100V、30分解析条件使用機器:フルオロ・イメージアナライザー(「FLA−8000」、富士写真フィルム社製)、検出波長:532nm ssDNA(1本鎖DNA)、dsDNA(2本鎖DNA)の各々に対応する、検出波長532nmにおける蛍光強度を、図3に示す。 実施例1では、多量の1本鎖DNAが得られた。その中でも、アニール温度45℃で20サイクルの後、アニール温度を約10℃以上上昇させて40サイクルPCRを行った条件(レーン番号5〜6)において、特に2本鎖DNAよりも多い1本鎖DNA(2本鎖DNAに対する量比;1.5〜3程度)が得られた。(比較例1) 第三プライマーを用いない以外は、実施例1と同様に行い、DNA増幅産物を解析した。 増幅産物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した後、銀染色を行ったところ、2本鎖DNAのサイズに相当するバンドは検出されたが、1本鎖DNAに相当するバンドは、いずれのアニール温度条件でも検出されなかった。本発明の一実施態様による増幅過程を示す概念図である。本発明の一実施態様による増幅過程を示す概念図である。実施例で得られたDNA増幅産物中の1本鎖DNA(ssDNA)および2本鎖DNA(dsDNA)に対応する蛍光強度を示すグラフである。 DNAを鋳型として用いるDNA増幅方法であって、 標的塩基配列の3´末端側に相補的な第一プライマーと、当該標的塩基配列の5´末端側と相同な塩基配列を有する第二プライマーと、前記第二プライマー又は前記第一プライマーの5´末端側の一部塩基配列と相同な塩基配列を3´末端側に有する第三プライマーとを用い、 前記第一プライマーの融解温度Tm1、前記第二プライマーの融解温度Tm2、前記第三プライマーの融解温度Tm3が下式に示す関係を有し、(式)Tm1<Tm3かつTm2<Tm3 アニール温度Ta(但し、Ta≦Tm1かつTa≦Tm2)でPCRサイクルを行う第一過程と、アニール温度Tb(但し、Tm1<TbかつTm2<TbかつTb≦Tm3)でPCRサイクルを行う第二過程とを有することを特徴とするDNA増幅方法。 前記第三プライマーが、5´末端側に、LCRed705、アミノ基、リン酸基、ビオチン、DIG、DNP、TAMRA、Texas−Red、ROX、XRITC、ローダミン、LCRed640、メルカプト基、ソラーレン、コレステロール、FITC、6−FAM、TET、cy3、cy5、BODIPY564/570、BODIPY500/510、BODIPY530/550、BODIPY581/591、gとcの合計含有量が50%以上のオリゴヌクレオチド、及びgとcの含有量が15%以上で2塩基以上のオリゴヌクレオチドからなる群より選ばれる化合物を有する請求項1に記載のDNA増幅方法。 前記第一過程におけるPCRサイクル数を10〜30、前記第二過程におけるPCRサイクル数を10〜50とする請求項1または2に記載のDNA増幅方法。配列表