タイトル: | 公開特許公報(A)_カダベリン・ジカルボン酸塩の製造法 |
出願番号: | 2004155788 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12P13/02,C12N15/09 |
仁志 聖彦 遠藤 秀一 森 由起子 戸塚 一彦 平尾 吉徳 JP 2005006650 公開特許公報(A) 20050113 2004155788 20040526 カダベリン・ジカルボン酸塩の製造法 味の素株式会社 000000066 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 遠山 勉 100089244 仁志 聖彦 遠藤 秀一 森 由起子 戸塚 一彦 平尾 吉徳 JP 2003147688 20030526 7C12P13/02C12N15/09 JPC12P13/02C12N15/00 A 9 1 OL 14 4B024 4B064 4B024AA03 4B024BA07 4B024BA80 4B024CA02 4B024DA06 4B024EA04 4B024FA01 4B024GA11 4B064AE02 4B064CA02 4B064CA19 4B064CC03 4B064CC07 4B064CC24 4B064CD13 4B064DA16 本発明は、カダベリン・ジカルボン酸塩の製造法に関する。カダベリン・ジカルボン酸塩は、ナイロン製造の原料として利用することができる。 プラスチックの生産の原料として、多くの部分がナフサ、いわゆる化石原料が用いられている。プラスチックを廃棄する場合、再生利用する場合はともかく、燃焼等による廃棄は炭酸ガスの放出を招くことから、近年問題となりつつある。そこで、地球温暖化防止及び循環型社会の形成に向けて、プラスチックの製造原料をバイオマス由来の原料に置き換えることが嘱望されている。 バイオマス原料から製造されるプラスチックとしては、ポリ乳酸が知られている。ポリ乳酸の製法は、まず植物からデンプン又は糖分を抽出し、それらを炭素源として発酵を行うことによって乳酸を生産させ、次いで得られた乳酸を化学的に重合させるというものである。ポリ乳酸の用途としては、容器包装や衣料、その他工業製品等さまざまな用途が期待されている。しかしながら、このポリ乳酸は、その融点は190℃程度であるので、高温条件での使用に向かないという欠点を有する。 一方、耐熱性の高いプラスチックとしては、ナイロンすなわちポリアミドが挙げられる。よく使用されているナイロンとして、炭素数6のジアミンであるヘキサメチレンジアミンと炭素数6のジカルボン酸であるアジピン酸とを1:1のモル比で重合することにより製造される、ナイロン66がある。ナイロン66は、その融点が250℃以上であることから、高温条件下での使用が可能なプラスチック素材である。 ところで、前記ヘキサメチレンジアミンは、ナフサから得られるベンゼン、プロピレンまたはブタジエンを原料に製造されており、バイオマスからの製造方法は知られていない。一方、炭素数5のペンタメチレンジアミンは、別名カダベリンと呼ばれ、アミノ酸の一つであるリジンからリジン脱炭酸酵素(LDC)によって生成することが知られている(非特許文献1)。したがって、炭素数6のヘキサメチレンジアミンの代わりに炭素数5のペンタメチレンジアミンを原料に用いてナイロンを製造することにより、バイオマス由来の原料を用いた、高温条件下での使用が可能なプラスチック素材の供給が可能となる。 LDCは、バクテリウム カダベリス(Bacterium cadaveris)(非特許文献2)やエシェリヒア・コリ(Escherichia coli (E. coli))(非特許文献3)等の細菌や、ガラス豆(非特許文献4)等の植物での存在が知られている。これらの生物からLDCを抽出してカダベリン製造に用いることができる。また、E. coliにおいては、そのLDC遺伝子(cadA)は配列が明らかになっている(非特許文献5、6)。さらに、このようなLDC遺伝子等を利用して、LDC又はリジン・カダベリンアンチポーターの酵素活性を増強した宿主を培養することによりカダベリンを製造する方法(特許文献1)、及び、LDCの細胞内の活性が上昇した組換え細胞由来のLDCをリジンに作用させることによりカダベリンを製造する方法(特許文献2)が提案されている。 しかしながら、LDCをリジンに作用させた場合には、LDCによる脱炭酸反応によって炭酸ガスを遊離することから、カダベリンの生成によって反応中のpHが上昇する。したがって、pHの上昇を防ぎ、酵素反応の最適pHを維持するためには、高濃度の緩衝液中で反応を行わせるか、または酸を反応系に逐次添加してアルカリ分を中和することが必要となる(特許文献1、2)。通常、酵素反応のpHの中和には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸等の有機酸を使用する場合が多い。これらによって中和させた場合、反応液中から得られるカダベリンは、カダベリン塩酸塩、カダベリン硫酸塩、カダベリンリン酸塩、又はカダベリン酢酸塩等の塩となる。 ナイロンの製造法として、従来よりジカルボン酸ジハライドとジアミンとを、塩基の存在下に重縮合させる方法が知られている。また、他の方法としては、ジカルボン酸とジアミンとから形成された塩や低次縮合物を、溶融条件下で加熱して重縮合させる方法が知られている(非特許文献7)。いずれの方法によっても、酵素反応によって得られたカダベリンをジカルボン酸と重合させる場合は、カダベリンの塩から遊離カダベリンを再調製する必要があり、工程が複雑化して経済的ではない。 ところで、発酵法によるリジンの製造法として、アジピン酸、コハク酸、又はフマル酸もしくはそれらの塩類を主成分とし、pHを水酸化アンモニウムで7.5〜8.2に保持した培地で細菌を培養する方法が開示されている(特許文献3)。この方法は、細菌を継体培養して細菌を増殖させ、動的平衡を保たせた後に、培地条件又は培養条件の一部を変化させて培養し、物質代謝の平衡をずらして発酵を行い、リジンを培地中に高濃度で蓄積させるというものである。特開2002−223770号公報特開2002−223771号公報特開昭49−126891号公報酵素ハンドブック 初版、636ページ 朝倉書店K. Soda et al., Biochem. Biophys. Res. Com., (1969) vol.34, p.34-39D. L. Sabo et al., Biochemistry, (1974),vol.13, p.662-670S. Ramakrishna et al., Phytochemistry, (1976) vol.15, p.83-86N. Watson et al., Journal of bacteriology, (1992) vo.174, p.530-540S. Y. Meng et al. Journal of bacteriology (1992) vol.174, p2659−2669新高分子化学序論、22ページ、化学同人(伊勢典夫ら、1995、ISBN4-7598-0258-4) 本発明の課題は、ナイロン製造の原料となるジアミンとしてカダベリンを、重合反応に利用しやすい形で、且つ、経済的に製造する方法を提供することにある。 上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、リジンの酵素的脱炭酸反応において、遊離リジンを原料として用い、リジン溶液のpHをジカルボン酸の添加により酵素反応の最適pHに調整し、それにLDCを作用させ、さらに酵素的脱炭酸反応中に上昇するpHを、前記ジカルボン酸を加えて中和しながら脱炭酸反応を行うことにより、リジンの脱炭酸反応により生成するカダベリンを、ジカルボン酸塩として得ることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。(1)リジン溶液に、同溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpHに維持されるようにジカルボン酸を加えながら、リジンの酵素的脱炭酸反応を行うことにより、カダベリン・ジカルボン酸塩を生成させる、カダベリン・ジカルボン酸塩の製造法。(2)反応液のpHを4.0〜8.0に維持する、(1)の方法。(3)前記ジカルボン酸が、炭素数4〜10のジカルボン酸である(1)又は(2)の方法。(4)前記ジカルボン酸がアジピン酸である(3)の方法。(5)前記酵素的脱炭酸反応を、リジン脱炭酸酵素、又はリジン脱炭酸酵素を産生する細胞もしくは同細胞の処理物を用いて行う(1)〜(4)のいずれかの方法。(6)前記細胞が、リジン脱炭酸酵素活性が上昇するように改変された細胞である、(5)の方法。(7)前記細胞が、リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子のコピー数を高めること、又は同遺伝子の発現が増強されるように、同遺伝子の発現調節配列が改変されたことにより、リジン脱炭酸酵素活性が上昇した組換え細胞である、(6)の方法。(8)前記細胞がエシェリヒア・コリ細胞であり、リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子がcadA遺伝子である、(7)の方法。(9)リジン溶液に、同溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpHに維持されるようにジカルボン酸を加えながら、リジンの酵素的脱炭酸反応を行うことにより、カダベリン・ジカルボン酸塩を生成させる工程と、前記工程で得られたカダベリン・ジカルボン酸塩を重縮合させることによりナイロンを生成させる工程を含む、ナイロンの製造法。 本発明により、カダベリン・ジカルボン酸塩を簡易な工程で製造することができる。本発明により得られるカダベリン・ジカルボン酸塩は、ナイロン製造の重合反応にそのまま利用することができる。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明の方法では、リジン溶液に、同溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpHに維持されるようにジカルボン酸を加えながら、リジンの酵素的脱炭酸反応を行うことにより、カダベリン・ジカルボン酸塩を生成させる。 原料として用いるリジンとしては、通常、遊離塩基(リジンベース)であることが好ましいが、リジンのジカルボン酸塩であってもよい。リジンは、酵素的脱炭酸反応によりカダベリンを生成するものであれば、L−リジン、D−リジンのいずれであってもよいが、通常はL−リジンが好ましい。また、本発明の方法に用いるリジンは、精製されたリジンであってもよく、酵素的脱炭酸反応により生成するカダベリンがジカルボン酸と塩を形成することが可能であれば、リジンを含む発酵液であってもい。 リジン溶液を調製する溶媒としては、好適には水が用いられる。本発明においては、反応液のpHをジカルボン酸によって調整するため、他のpH調整剤や緩衝剤を用いる必要がないが、前記溶媒として緩衝液を用いてもよい。このような緩衝液としては、酢酸ナトリウム緩衝液等が挙げられる。但し、カダベリンとジカルボン酸との塩を形成させるという点からは、緩衝剤等は用いないか、低濃度に抑えることが好ましい。 前記リジンとして遊離リジンを用いる場合は、リジン溶液にジカルボン酸を加えて、酵素的脱炭酸反応に適したpHとなるように調整する。具体的には、前記pHとしては、通常約4.0〜8.0、好ましくは約5.0〜7.0、より好ましくは約5.5〜6.5が挙げられる。尚、リジンとして、リジンのジカルボン酸塩を用いる場合は、反応液調製時にジカルボン酸を加える必要はない。以下、前記のように、反応液のpHを酵素的脱炭酸反応に適したpHに調製することを、「中和」と呼ぶことがある。 前記ジカルボン酸としては、リジンの酵素的脱炭酸反応を阻害せず、かつ、カダベリンとの重縮合反応によってナイロンを生成し得るものであれば特に制限されないが、例えば炭素数4〜10のジカルボン酸、好ましくは直鎖状分子の両末端にカルボキシル基を有するジカルボン酸、具体的にはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。ジカルボン酸は、遊離酸であることが好ましい。 リジンの酵素的脱炭酸反応は、例えば、上記のようにして中和されたリジン溶液に、LDCを添加することによって行うことができる。前記LDCとしては、リジンに作用してカダベリンを生成させるものであれば特に制限はない。LDCとしては、精製酵素を用いてもよいし、LDCを産生する微生物、植物細胞又は動物細胞等の細胞を用いてもよい。LDC又はそれを産生する細胞は、1種でもよく、2種以上の混合物であってもい。また、細胞をそのまま用いてもよく、LDCを含む細胞処理物を用いてもよい。細胞処理物としては、細胞破砕液、及びその分画物が挙げられる。 微生物、植物細胞又は動物細胞等の細胞を用いて酵素反応を行う場合、有機溶媒や界面活性剤等で処理した細胞を用いると基質の透過性が良くなり、反応性が向上する場合があることが一般的に知られている。リジンの酵素的脱炭酸反応においても、LDCを産生する細胞を有機溶媒や界面活性剤等で処理することにより、反応性を高めることができる。処理する界面活性剤としてはTriton X-100、Tween 20、コール酸ナトリウム、CHAPS、有機溶媒としてはアセトン、キシレン、トルエンなどが使用可能である。さらに具体的にはTriton X-100を用いる場合、0.01%〜1.0%(w/v)濃度を添加し、0℃〜37℃で、2分〜1時間の処理が適当である。 前記微生物としては、E. coli等のエシェリヒア属細菌、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)等のコリネ型細菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属細菌、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)等のセラチア属細菌等の細菌、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の真核細胞が挙げられる。これらの中では細菌、特にE. coliが好ましい。 前記微生物は、LDCを産生する限り、野生株でもよく、変異株であってもよい。また、LDC活性が上昇するように改変された組換え株であってもよい。植物細胞又は動物細胞も、LDC活性が上昇するように改変された組換え細胞を用いることができる。組換え細胞については、後述する。 リジン溶液にLDCを添加して反応を開始した後は、反応の進行に伴い、リジンから遊離される炭酸ガスが反応液から放出され、pHが上昇する。したがって、反応液のpHが前記範囲となるように、ジカルボン酸を反応液に添加する。通常、このジカルボン酸は、原料のリジンの中和に用いたジカルボン酸と同じものを用いる。ジカルボン酸は連続的に添加してもよく、pHが前記範囲に維持される限り、分割して添加してもよい。反応条件は、LDCがリジンに作用してカダベリンを生成させる条件であれば特に制限はないが、温度は、通常20℃〜60℃、好ましくは30℃〜40℃で行う。 原料のリジン又はリジン・ジカルボン酸は、反応開始時に反応液に全量添加してもよく、LDC反応の進行に応じて、分割して添加してもよい。 酵素反応は、バッチ式によって行うと、ジカルボン酸の添加を容易に行うことができる。また、LDC、LDCを産生する細胞又はその処理物を固定化した担体を用いた移動床カラムクロマトグラフィーによって、反応を行うこともできる。その場合は、反応系のpHが所定の範囲に維持されたまま反応が進行するように、リジン及びジカルボン酸をカラムの適当な部位に注入すればよい。 上記にようにして、リジンの酵素的脱炭酸反応により、カダベリン生成に伴って上昇するpHをジカルボン酸を用いて逐次中和することにより、酵素反応が良好に進行する。このようにして生成するカダベリンは、ジカルボン酸塩として反応液中に蓄積する。 LDC反応により得られたカダベリン・ジカルボン酸塩は、反応液から公知の方法を組み合わせることによって単離、生成することができる。例えば、反応液をオートクレーブ等により殺菌した後、遠心分離により上清を回収し、活性炭等を用いて上清を脱色し、適宜濃縮する。カダベリン・ジカルボン酸塩は、使用態様に応じて、溶液のままであってもよく、結晶であってもよい。カダベリン・ジカルボン酸塩の結晶は、例えば、濃縮した反応液を冷却することによりカダベリン・ジカルボン酸塩を析出させることによって、形成させることができる。上記のようにして得られる結晶は、カダベリンとジカルボン酸を等モルで含んでいるため、ナイロン製造の原料として好適である。 本発明により製造されるカダベリン・ジカルボン酸塩は、通常のナイロンの製造法と同様の方法で重縮合することにより、ナイロンが生成する。すなわち、本発明の一形態として、リジン溶液に、同溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpHに維持されるようにジカルボン酸を加えながら、リジンの酵素的脱炭酸反応を行うことにより、カダベリン・ジカルボン酸塩を生成させる工程と、前記工程で得られたカダベリン・ジカルボン酸塩を重縮合させることによりナイロンを生成させる工程を含む、ナイロンの製造法が提供される。 次に、微生物を、LDC活性が上昇するように改変する方法について例示するが、他の細胞についても、それに適するように下記の方法を適宜改変することによって、同様にLDC活性を上昇させることができる。 LDC活性は、例えば、LDCをコードする遺伝子(LDC遺伝子)の発現を増強することによって上昇する。LDC遺伝子の発現の増強は、LDC遺伝子のコピー数を高めることによって達成される。例えば、LDC遺伝子断片を、微生物で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを適当な宿主に導入して形質転換すればよい。 LDC遺伝子のコピー数を高めることは、LDC遺伝子を微生物の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。微生物の染色体DNA上に遺伝子を多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートが利用できる。あるいは、特開平2-109985号公報に開示されているように、目的遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。 LDC活性の上昇は、上記の遺伝子増幅による以外に、染色体DNA上またはプラスミド上のLDC遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、国際公開WO 00/18935に開示されているように、遺伝子のプロモーター領域に数塩基の塩基置換を導入し、より強力なものに改変することも可能である。これらのプロモーター置換または改変によりLDC遺伝子の発現が強化され、LDC活性が上昇する。これら発現調節配列の改変は、遺伝子のコピー数を高めることと組み合わせてもよい。 発現調節配列の置換は、例えば、温度感受性プラスミドを用いた遺伝子置換と同様にして行うことができる。E. coliの温度感受性複製起点を有するベクターとしては、例えばWO 99/03988号国際公開パンフレットに記載のプラスミドpMAN997等が挙げられる。また、λファージのレッド・リコンビナーゼ(Red recombinase)を利用した方法(Datsenko, K.A., PNAS (2000) 97(12), 6640-6645)によっても、発現調節配列の置換を行うことができる。 LDC遺伝子としては、コードされるLDCが、リジンの脱炭酸反応に有効に利用できるものであれば特に制限されないが、例えば、バクテリウム カダベリス、E. coli等の細菌や、ガラス豆等の植物、さらには、特開2002-223770号公報に記載の微生物のLDC遺伝子が挙げられる。 宿主微生物としてE. coliを用いる場合は、E. coli由来のLDC遺伝子が好ましい。E. coliのLDC遺伝子としては、cadA遺伝子及びldc遺伝子(米国特許第5,827,698号)が知られているが、これらの中ではcadA遺伝子が好ましい。E. coliのcadA遺伝子は配列が知られており(N. Watson et al., Journal of bacteriology, (1992) vo.174, p.530-540; S. Y. Meng et al. Journal of bacteriology (1992) vol.174, p2659−2669; GenBank accession M76411)、その配列に基づいて作製したプライマーを用いたPCRにより、E. coli染色体DNAから単離することができる。このようなプライマーとしては、配列番号1及び2に示す塩基配列を有するプライマーが挙げられる。 上記cadA遺伝子の塩基配列及びそれによってコードされるアミノ酸配列を、配列番号3及び4に示す。 取得されたLDC遺伝子とベクターを連結して組換えDNAを調製するには、LDC遺伝子の末端に合うような制限酵素でベクターを切断し、T4 DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて前記遺伝子とベクターを連結すればよい。E. coli用のベクターとしては、pUC18、pUC19、pSTV29、pHSG299、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pBR322、pACYC184、pMW219等が挙げられる。 LDC遺伝子は、野生型であってもよいし、変異型であってもよい。例えば、cadA遺伝子は、コードされるLDCの活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むLDCをコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2から50個、好ましくは、2から30個、より好ましくは2から10個である。上記のLDCの変異は、LDC活性が維持されるような保存的変異である。置換は、アミノ酸配列中の少なくとも1残基が除去され、そこに他の残基が挿入される変化である。LDCタンパク質の元々のアミノ酸を置換し、かつ、保存的置換とみなされるアミノ酸としては、Alaからser又はthrへの置換、argからgln、his又はlysへの置換、asnからglu、gln、lys、his又はaspへの置換、aspからasn、glu又はglnへの置換、cysからser又はalaへの置換、glnからasn、glu、lys、his、asp又はargへの置換、gluからasn、gln、lys又はaspへの置換、glyからproへの置換、hisからasn、lys、gln、arg又はtyrへの置換、ileからleu、met、val又はpheへの置換、leuからile、met、val又はpheへの置換、lysからasn、glu、gln、his又はargへの置換、metからile、leu、val又はpheへの置換、pheからtrp、tyr、met、ile又はleuへの置換、serからthr又はalaへの置換、thrからser又はalaへの置換、trpからphe又はtyrへの置換、tyrからhis、phe又はtrpへの置換、及び、valからmet、ile又はleuへの置換が挙げられる。 上記のようなLDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように、cadA遺伝子の塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、変異処理前のDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び変異処理前のDNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくはEMS等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。 上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物の活性を調べることにより、LDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。また、変異を有するLDCをコードするDNAまたはこれを保持する細胞から、例えばcadA遺伝子(GenBank accession M76411)のコード領域の配列、又は同配列の一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、LDCと同等の活性を有するタンパク質をコードするDNAが得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。 プローブとして、cadA遺伝子の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、公知のcadA遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、cadA遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。 LDCと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAとして具体的には、公知のcadA遺伝子がコードするアミノ酸配列と、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有し、かつLDC活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。 組換えDNAを微生物に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリ K−12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法( Duncan,C.H.,Wilson,G.A.and Young,F.E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法( Chang,S.and Choen,S.N.,Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979);Bibb,M.J.,Ward,J.M.and Hopwood,O.A.,Nature, 274, 398 (1978);Hinnen,A.,Hicks,J.B.and Fink,G.R.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))も応用できる。また、電気パルス法(特開平2-207791号公報)によっても、微生物の形質転換を行うことができる。 LDCを産生する微生物又は細胞を得るための培養は、用いる微生物又は細胞に応じて、LDCの産生に適した方法によって行えばよい。 例えば、培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地でよい。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、ビタミンB1等のビタミン類、アデニンやRNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。 培養は、例えばエシェリヒア・コリの場合は、好気的条件下で16〜72時間程度実施するのがよく、培養温度は30℃〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御する。なお、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。 尚、LDC遺伝子が、誘導可能なプロモーターによって発現が調節されている場合には、誘導剤を培地に添加する。 培養後、細胞は、遠心分離機や膜により集めることにより、培養液から回収することができる。細胞は、そのまま用いてもよいが、LDCを含むそれらの処理物を用いる場合は、細胞を超音波、フレンチプレス、または酵素的処理により破砕し酵素を抽出させ、無細胞抽出液とし、さらにそこからLDCを精製する場合には、常法に従い、硫安塩析、各種クロマトグラフィーを使用することによって精製することができる。 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。〔実施例1〕エシェリヒア・コリのLDC増幅株の構築 E.coliのLDC遺伝子(cadA)の塩基配列(N. Watson et al., Journal of bacteriology, (1992) vo.174, p.530-540; S. Y. Meng and GN Bennet, Journal of bacteriology, (1992) vol.174, p.2659-2669)を基に、配列番号1及び2に示す塩基配列を有するPCRプライマーを設計し、E. coli W3110(ATCC39936)の染色体を鋳型として、PCR法によりcadAを含むDNA断片を増幅した。 増幅されたDNA断片を、KpnIとSphIで切断し、得られた断片(2468bp)をpUC18(宝酒造(株))のKpnI及びSphI切断部位に挿入して、プラスミドpcadAを作製した(図1)。このプラスミドpcadAで、E.coli JM109株(宝酒造(株))を形質転換した。形質転換体は、アンピシリン耐性を指標として選択し、得られた形質転換体を、E.coli JM109/pcadAと命名した。〔実施例2〕cadA増幅株を用いた、リジン・アジピン酸塩からのカダベリン・アジピン酸塩の製造(1)cadA増幅株の培養 E.coli JM109/pcadAをLB培地で前培養した後、50mlの培養液を500mlの2倍濃度LB培地(トリプトン:2%、酵母エキス:1%、NaCl:1%)が入った1L容ジャーファーメンター(エイブル社製)に接種し、通気量250ml/分、35℃、700rpmで通気攪拌培養を行った。15時間培養後、培養液全量を22Lの2倍濃度のLB培地が入った50L容ジャーファーメンターに接種して更に培養を行った。50Lジャーでの培養条件は、通気量11L/分、35℃、ジャーの内圧50kPa、250rpmであった。培養4時間目に、3gのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を50mlの水に溶解した後、フィルターを通して添加した。その後22時間培養を続けた。(2)菌体の分離 17,000rpm、フィード速度550ml/分の条件下で、チューブラー分離機により培養液からの菌体回収を行った。回収した菌体を円筒内シートよりかきとり、1Lの生理食塩水に懸濁して菌体液を得た。回収された菌体の湿重量は147gであった。(3)カダベリン・アジピン酸塩の製造 50%(w/v)リジンベース溶液(第一ファインケミカル製)に、pHが6.0となるようにアジピン酸を添加して、リジン・アジピン酸塩溶液を調製し、基質溶液とした。リジン濃度に換算して終濃度50g/Lとなるように基質溶液を水に加え、更にピリドキサルリン酸を0.1mMとなるよう加えて反応液を調製し、これにE.coli JM109/pcadAの菌体液(菌体湿重量147g)を添加して反応を開始した。反応は50Lジャーファーメンターに22Lの反応液を仕込んで行った。反応条件は、37℃、1/10vvm通気、250rpm、内圧5kPaとした。反応液のpHは、アジピン酸スラリー(250g/kg-H2O)を添加して、6.0に制御した。 反応2時間目、3時間目に、それぞれリジン1kg相当の基質溶液を添加して更に反応を続け、反応6時間でリジンはほぼ100%カダベリンに転換された。リジンとカダベリンの測定は、HPLCを用いたポストカラムOPA法(S.R. Vale and M. B. Gloria, Journal Of AOAC International (1997) vol. 80, p. 1006-1012)によった。測定結果は以下のとおりである。 カダベリン濃度 69g/L(0.68M) アジピン酸濃度 105g/L(0.72M) 残リジン濃度 <1g/l カダベリン得量 2.2kg (21mol) リジン仕込量 3.1kg (21mol) 転換収率 100%(mol/mol) 以上のように、カダベリンとアジピン酸をほぼ等モルで含むカダベリン・アジピン酸塩溶液を得た。〔実施例3〕カダベリン・アジピン酸塩結晶の取得(1)カダベリン・アジピン酸塩溶液の除菌 実施例2で得られたカダベリン・アジピン酸溶液を120℃、10分間オートクレーブ殺菌した後、遠心分離にて上清を回収した。(2)脱色および濃縮 前記上清に、活性炭を対カダベリン重量で20%添加し、20℃で1時間攪拌しながら脱色した。ろ紙で活性炭を除去して、得られたろ液を減圧下(55〜60℃、110〜150mmHg)で4〜5倍に濃縮した。濃縮液の固形分は70〜77%であった。(3)カダベリン・アジピン酸塩の晶析および結晶分離 前記濃縮液を、60℃から10℃まで4℃/時間で冷却し、結晶を析出させた。晶析率は、40〜45%であった。析出した結晶を、遠心ろ過機で分離回収後、デシケーター内で数日風乾した。得られた結晶は、X線結晶解析(AFC-5S(株)リガク製、解析プログラム;TEXAN)により分析したところ、カダベリン・アジピン酸塩・二水和物であり、純度は99%以上であった。この結晶は、カダベリンとアジピン酸が等モルの結晶であり、そのまま、ナイロンの重合反応に利用することができる。〔実施例4〕cadA増幅株を用いた、リジン・コハク酸塩からのカダベリン・コハク酸塩の製造 E. coli JM109/pcadAをLB培地50mlおよびアンピシリン100mg/Lが入った500ml坂口フラスコに接種し、28℃で8時間前培養した。この培養液12mlを500mlの2倍濃度LB培地が入った1L容ジャーファーメンター(エイブル社製)に接種し、通気量250ml/分、35℃、700rpmで通気撹拌培養を行った。培養3.5時間目に、終濃度0.67mMとなるよう、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を添加した。その後、12.5時間培養を続けた。8,000rpm、10分の遠心分離を行い、上清を除去して培養液から菌体を回収した。回収した菌体は−80℃で凍結保管し、使用時に氷上で融解させ、純水に懸濁して酵素液とした。回収した菌体の湿重量は10.3g/培養液1L であった。 50%(w/v)リジンベース溶液(第一ファインケミカル製)に、pHが6.0となるようにコハク酸を添加して、リジン・コハク酸塩溶液を調製し、基質溶液とした。リジン濃度に換算して終濃度100g/Lとなるように基質溶液に水を加え、更にピリドキサルリン酸を0.1mMとなるよう加えて反応液を調製し、これにE. coli JM109/pcadAの菌体液(菌体湿重量0.309g)を添加して反応を開始した。反応は1L容ジャーファーメンターに0.3Lの反応液を仕込んで行った。反応条件は、37℃、1/10vvm通気、200rpmとした。反応液のpHはコハク酸結晶を、仕込みリジン量に対し等モル量(24.23g)まで投入して6.0に制御し、その後はpH制御なしに3時間反応を行った。反応終了時点でのpHは7.2であった。 リジンとカダベリンを、HPLCを用いたポストカラムOPA法により測定した結果を以下に示した。脱炭酸反応は良好に進行し、カダベリンとコハク酸をほぼ等モルで含むカダベリン・コハク酸塩溶液が得られた。 カダベリン濃度 69.5g/L(0.685M) 残リジン濃度 0.17g/L コハク酸添加濃度 78.3g/L(0.663M) カダベリン得量 21.6g(213mmol) リジン仕込量 30g(204mmol) 転換収率 103%〔実施例5〕cadA増幅株を用いた、リジン・セバシン酸塩からのカダベリン・セバシン酸塩の製造 実施例4と同様に、E. coli JM109/pcadA を1L容ジャーファーメンター(エイブル社製)で培養し、菌体を回収した。50%(w/v)リジンベース溶液(第一ファインケミカル製)に、pHが6.6となるようセバシン酸を添加して、リジン・セバシン酸塩溶液を調製し、基質溶液とした。リジン濃度に換算して終濃度100g/Lとなるように基質溶液に水を加え、更にピリドキサルリン酸を0.1mMとなるよう加えて反応液を調製し、これにE. coli JM109/pcadAの菌体液(菌体湿重量0.309g)を添加して反応を開始した。反応は1L容ジャーファーメンターに0.3Lの反応液を仕込んで行った。反応条件は、37℃、1/10vvm通気、200rpmとした。反応液のpHは、セバシン酸結晶を、仕込みリジン量に対し等モル量(41.51g)まで投入して6.6に制御し、その後はpH制御なしに3時間反応を行った。反応終了時点でのpHは7.1であった。 リジンとカダベリンを、HPLCを用いたポストカラムOPA法により測定した結果を以下に示した。脱炭酸反応は良好に進行し、カダベリンとセバシン酸をほぼ等モルで含むカダベリン・セバシン酸塩溶液が得られた。 カダベリン濃度 63.4g/L(0.622M) 残リジン濃度 0.17g/L セバシン酸濃度 128.9g/L(0.637M) カダベリン得量 20.2g(198mmol) リジン仕込量 30g(204mmol) 転換収率 97%E. coliのcadA遺伝子を持つプラスミドpcadAの構造を示す図。リジン溶液に、同溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpHに維持されるようにジカルボン酸を加えながら、リジンの酵素的脱炭酸反応を行うことにより、カダベリン・ジカルボン酸塩を生成させる、カダベリン・ジカルボン酸塩の製造法。前記pHが4.0〜8.0である請求項1に記載の方法。前記ジカルボン酸が、炭素数4〜10のジカルボン酸である請求項1又は2に記載の方法。前記ジカルボン酸がアジピン酸である請求項3に記載の方法。前記酵素的脱炭酸反応を、リジン脱炭酸酵素、又はリジン脱炭酸酵素を産生する細胞もしくは同細胞の処理物を用いて行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。前記細胞が、リジン脱炭酸酵素活性が上昇するように改変された細胞である、請求項5に記載の方法。前記細胞が、リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子のコピー数を高めること、又は同遺伝子の発現が増強されるように、同遺伝子の発現調節配列が改変されたことにより、リジン脱炭酸酵素活性が上昇した組換え細胞である、請求項6に記載の方法。前記細胞がエシェリヒア・コリ細胞であり、リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子がcadA遺伝子である、請求項7に記載の方法。リジン溶液に、同溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpHに維持されるようにジカルボン酸を加えながら、リジンの酵素的脱炭酸反応を行うことにより、カダベリン・ジカルボン酸塩を生成させる工程と、前記工程で得られたカダベリン・ジカルボン酸塩を重縮合させることによりナイロンを生成させる工程を含む、ナイロンの製造法。 【課題】 ナイロン製造の原料となるジアミンとしてカダベリンを、重合反応に利用しやすい形で、且つ、経済的に製造する方法を提供する。 【解決手段】 リジン溶液に、同溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpH、例えば4.0〜8.0に維持されるように、炭素数4〜10のジカルボン酸を加えながら、リジンの酵素的脱炭酸反応を行うことにより、カダベリン・ジカルボン酸塩を生成させる。 【選択図】 図1配列表