タイトル: | 公開特許公報(A)_抜去歯歯根面に歯根膜とセメント質を再生する方法 |
出願番号: | 2004137918 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K35/32,A61L27/00,A61C8/00 |
岩田 敏男 後藤 滋巳 JP 2005289958 公開特許公報(A) 20051020 2004137918 20040405 抜去歯歯根面に歯根膜とセメント質を再生する方法 岩田 敏男 504175154 後藤 滋巳 504175176 学校法人愛知学院 500175325 岩田 敏男 後藤 滋巳 7A61K35/32A61L27/00A61C8/00 JPA61K35/32A61L27/00 GA61C8/00 Z 6 1 書面 10 4C059 4C081 4C087 4C059AA05 4C059AA08 4C059AA12 4C081AB06 4C081BA12 4C081CD34 4C081DA11 4C081DB03 4C087AA01 4C087AA02 4C087AA03 4C087BB46 4C087MA41 4C087MA57 4C087NA05 4C087ZA67 本発明は歯周組織を再生・増殖させる方法に関する。 近年、歯の欠損部の治療方法の一つに歯牙移植が考慮されるようになってきた。また、抜去歯を保存して必要な時に移植を行うことも考えられている。歯牙移植の予後を左右する因子として、まず移植歯に残存する歯根膜の量と状態が上げられ、下野らは抜去歯歯根には約55%の歯根膜が残存すると報告している。一方、Andreasenらは犬を使った実験で3×3mmの歯根膜の欠損を作った場合アンキローシスをおこしたと報告している。すなわち、歯牙移植の予後を左右する因子としては抜去歯に残存する歯根膜量を高めることが重要と考えられ、現状では、移植歯の適応を厳密に選別し、できるだけ歯根膜を残存させる抜去法の工夫、移植後固定方法の工夫等をして対応している。 井上 孝、橋本貞充、下野正基、田中陽一:移植・再稙における歯周組織の病理組織反応ならびにその再生力(歯根膜).歯科学報,91:77〜79,1991. Andreasen JO,Kristerson L:The effect of limited drying or removal of the periodontal ligament.periodontal healing after replantation of mature incisors in monkeys. Acta Odont Scand,39:1〜13,1981. 別冊 ザ クインテッセンス「歯牙移植の臨床像」,クインテッセンス出版株式会社,1996.東京 別冊 ザ クインテッセンス「アドバンス自家歯牙移植 適応症の拡大」,クインテッセンス出版株式会社,2000.東京 上記のように、抜去された歯をそのまま移植した場合にはアンキーローシス、歯根の炎症性吸収、上皮の根尖側の迷入等をもたらす危険性があり、予後が不安定となる可能性が高くなる。 本発明は抜去歯歯根面に歯根膜やセメント質を剥離することなく再生・増殖させ、歯牙移植の適応を拡大し、予後の成績を向上させることを目的とする。 問題を解決するための手段 上記の課題を解決するため、本発明は顆粒状の多孔質担体中に抜去歯歯根を埋入させて植立し、培養液と共にインキュベーションすることで残存している歯根膜及びセメント質が担体を介して増殖し、抜歯により損失した歯根膜及びセメント質を再生させる効果がある。 本発明は、好ましくは担体が球状であり、セメント質、歯根膜が再生しうる適切な間隙を確保する。さらに担体は多孔質であるためセメント芽細胞、歯根膜細胞が増殖するための足場となり良好な増殖とセメント質、歯根膜の産生を促す。 本発明は、好ましくは多孔質担体中に抜去歯歯根を埋入、植立する前に歯根にエナメルマトリックスタンパクを塗布する。これによって、より良好な歯根膜の再生が行われる。 本発明で用いる培養液は通常市販されているものに好ましくはLアスコルビン酸2リン酸を1mM(ミリモル)〜10M(モル)、血清を10%〜50%添加する。これにより、歯根膜細胞がより良好に歯根膜線維を産生することとなる。 発明の効果 すなわち、本発明によれば、抜去歯歯根面に歯根膜やセメント質を剥離することなく再生・増殖させることができる。 図1は本発明方法の基本構成を表す概略図を、図2には実際に実施した写真を示す。図1、2に示されるとおり、本発明は深底の培養皿と網カップ、さらには網カップを満たす顆粒状の担体で構成される。培養液は網カップと担体を通して抜去歯に供給される。培養液により湿潤状態となった顆粒状の担体に抜去歯を植立すると、ちょうど砂の中に棒をさすように安定して抜去歯歯根部のみを担体が覆うように植立することができる。これを37°C、5%CO2、湿度100%環境下にて一定期間インキュベーションを行う。 担体の形状は球形であり、その直径は好ましくは直径1nm〜3mmであり、より好ましくは操作性が良く、細胞の径より大きな孔を設定することのできる40μm〜3mmであり、更に好ましくは歯根膜腔と同じ大きさである100μm〜400μmである。 本発明の手順は、深底培養皿に網カップを置き、滅菌した顆粒状の担体と培養液とを混和したものを注ぎ込む。抜去歯は歯冠部をCa2+、Mg2+不含リン酸緩衝液中でブラシにて洗浄後、根尖部よりセメントエナメルジャンクション部まで担体中に埋入する。その後37°C、5%CO2、湿度100%環境下にあるインキュベーター内に静置する。培養液は通常市販されているものに好ましくはLアスコルビン酸リン酸塩を1mM(ミリモル)〜10M(モル)、血清を10%〜50%添加し、3日〜2週間に一度の割合で交換する。 担体中に植立された抜去歯はインキュベート中、歯根に残存した歯根膜細胞が歯根膜中に、セメント芽細胞がセメント質上に増殖する。さらに、この時、この部分に接触している担体にも細胞が播種されることとなり、担体中にもこの歯根膜細胞が増殖していく。また、培養液にはLアスコルビン酸2リン酸が添加されているため両細胞に継続的にアスコルビン酸が供給され、コラーゲンの産生が促進される。抜去時、機械的に剥離された歯根膜セメント質部分にも同様な効果を示し、歯根膜、セメント質を再生することができる。その結果、歯根面全体を歯根膜線維で覆うことができる。 図3に本発明を実施した写真を示す。深底培養皿(100×20calture dish:nuncTM)に網カップ(Sell Strainer:FALCONTM)を置き、滅菌した顆粒状の担体(旭化成マイクロキャリア:旭化成工業株式会社)と培養液(Dullbecco’s Modified Eagle Medium:GIBKOTM)とを混和したものを注ぎ込む。抜去歯は歯冠部をCa2+、Mg2+不含リン酸緩衝液中でブラシにて洗浄後、根尖部よりセメントエナメルジャンクション部まで担体中に埋入する。その後37°C、5%CO2、湿度100%環境下にあるインキュベーター内に静置する。培養液はLアスコルビン酸リン酸塩(L−Ascorbic Acid Phosphate Magnesium Salt n−Hydrate:和光純薬)を10mM(ミリモル)ウシ胎仔血清(FCS:SIGMATM)を20%添加し、1週間に一度の割合で交換した。 図4に本発明法にて3ヵ月間インキュベートしたヒト上顎第三大臼歯の写真を示す。この第三大臼歯は愛知学院大学倫理委員会にて承認後、矯正歯科治療上必要があり抜去されたもので、本発明を十分に本人及びその保護者に説明をし、了承を受け供与されたものである。写真のごとく抜去歯歯根面全体が顆粒状の担体に覆われた状態である。 図5に上記と同様の手続きにおいて供与された抜去直後のヒト上顎第三大臼歯にトルイジンブルー染色を行った写真を示す。写真のように歯根膜が青く染色され、抜去直後において歯根膜が残存している部分が観察できる。また、染色されていない部分は抜去時機械的に歯根膜が剥離してしまった部分である。 図6に図5と同様な処置を行ったヒト抜去歯30本の頬側、舌側、近心、遠心歯根面に残存する歯根膜面積を計測し、歯根全体の面積との比を求めた表を示す。その結果、ヒト抜去歯歯根面に残存する歯根膜面積は歯根面積中の50.4%であった。 図7に図4に示したヒト抜去歯の電子顕微鏡写真を示す。弱拡の×50倍では歯根表面全体に顆粒状の担体が付着しているのが観察され、強拡の×1,000倍では担体に細胞や線維状のものが付着しているのが観察された。線維状の部分を×30,000で観察するとコラーゲン線維特有の縞模様が観察され、歯根膜線維であることが確認された。さらに、この歯根膜線維は担体にからみついているように観察され、歯根膜線維が増殖していることが証明された。 図8に抜去直後のヒト上顎第一小臼歯と、同じ歯を用い本発明により歯根膜、セメント質を再生、増殖させた後の状態の実態顕微鏡写真を示す。この抜去歯は抜去直後、歯根面に円筒径(直径3.0mm)の歯牙切削用のダイヤモンドバーにて歯根膜とセメント質の除去を行った(○内)。歯根面はこの歯根膜、セメント質を除去した部分を含め歯根全体が歯根膜の再生と増殖によって覆われているのが観察できる。 図9に図8で示した歯をHE染色した組織切片の光学顕微鏡写真を示す。弱拡大で歯根膜、セメント質を除去した部分も歯根膜で覆われており、濃染された二次セメント質のラインがセメント質の除去されていない部分から除去された部分へ連続的につながっていることが観察できる。強拡大ではセメント質表面に豊富な細胞成分が存在し、セメント質からのびるシャーピー線維が再生、増殖した歯根膜へと移行していることが観察できる。これらより本発明は歯根膜のみならずセメント質も再生、増殖が可能なものと考える。 産業上の利用の可能性 ヒト上下顎第三大臼歯は萌出余地の不足、清掃が困難等の理由により抜去される頻度が高い。また、矯正歯科治療において排列余地を獲得するため歯を抜去する場合もある。現状では、これらの抜去歯は医療廃棄物として処理される場合が多い。ヒト抜去歯を長期間凍結保存しておくことは現在の技術でも十分可能である。本発明により抜去歯の歯根膜、セメント質を増殖させ、その後凍結保存を行い、将来、その個人のいずれかの歯が欠損した場合、その部にこの保存歯を歯牙移植することが可能となると考える。つまり、本発明を抜去歯保存を一元管理する施設(tooth bank)を設立し、ここに応用した場合、適応の範囲、予後の成績においてより良好なものになるものと考える。 本発明の基本構成を表す概略を示した平面図本発明の基本構成の写真本発明の基本構成を実施した写真本発明を適用したヒト上顎第三大臼歯の写真抜去直後のヒト上顎第三大臼歯にトルイジンブルー染色を行った写真ヒト抜去歯30本の頬側、舌側、近心、遠心歯根面に残存する歯根膜面積を計測し、歯根全体の面積との比を求めた表図4に示したヒト抜去歯の電子顕微鏡写真抜去直後のヒト上顎第一小臼歯と、同じ歯を用い本発明により歯根膜、セメント質を再生、増殖させた後の実態顕微鏡写真図9に図8で示した歯をHE染色した組織切片の光学顕微鏡写真である。 符号の説明 図1 1.深底培養皿 2.抜去歯 3.網カップ 4.培養液 図2 1.深底培養皿 2.抜去歯 3.網カップ 4.培養液 図3 1.培養皿に培養液を注いでおく.2.深底培養皿に網カップを置き,滅菌した顆粒状の担体と培養液と混和したものを注ぎ込んだものを用意しておく.3.抜去歯を植立する。 図4 1.本発明適用後の抜去歯近心面 2.本発明適用後の抜去歯遠心面 図5 1.頬側面 2.舌側面 3.近心面 4.遠心面 図7 1.×50 2.×150 3.×350 4.×1,000 5.×10,000 6.×30,000 図8 1.抜去直後弱拡大 2.本発明適用後弱拡大 3.抜去直後強拡大 4.本発明適用後強拡大 図9 1.弱拡大 2.強拡大 【課題】 抜去された歯をそのまま移植するとアンキーローシス、歯根の炎症性吸収、上皮の根尖側の迷入等をもたらす危険性があり、予後が不安定となる可能性が高くなる。【解決手段】 抜去歯を顆粒状の多孔質担体中に抜去歯歯根を埋入、植立し、培養液と共にインキュベーションすることで抜去歯歯根面に歯根膜およびセメント質を剥離することなく再生・増殖させるができる。【選択図】 図1 20040602A16333全文3 抜去歯歯根面に歯根膜およびセメント質を剥離することなく再生・増殖させる方法であり、該方法は顆粒状の多孔質担体中に抜去歯歯根を埋入、植立し、培養液と共にインキュベーションすることを含む方法。 顆粒状の多孔質担体の大きさが直径1nm〜3mmのほぼ球形の形状を有する請求項1に記載する方法。 顆粒状の多孔質担体の孔径が2nm〜2mmの大きさを有する請求項1に記載する方法。 抜去歯歯根にエナメルマトリックスタンパクを塗布する請求項1に記載する方法。 培養液中にLアスコルビン酸リン酸塩を1mM(ミリモル)〜10M(モル)添加する請求項1に記載する方法。 培養液中に血清を10%〜50%を添加する請求項1に記載する方法。