タイトル: | 特許公報(B2)_ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶の製造方法 |
出願番号: | 2004134390 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C07D 307/89 |
新田 誠 三上 洋 JP 4665431 特許公報(B2) 20110121 2004134390 20040428 ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶の製造方法 三菱化学株式会社 000005968 岡田 数彦 100097928 新田 誠 三上 洋 20110406 C07D 307/89 20060101AFI20110317BHJP JPC07D307/89 Z C07D 307/89 CA/REGISTRY(STN) 特開昭61−249977(JP,A) 特開平08−143480(JP,A) 特開平08−134056(JP,A) 特開平01−299282(JP,A) 「改訂四版 化学工学便覧」 化学工学協会編,丸善株式会社(昭和57年4月25日第3刷発行), p954〜957 「12394の化学商品」 化学工業日報社(1994年1月26日発行),p253 「JIS 高純度窒素 K1107 昭和60年2月1日改正」 日本工業標準調査会 日本規格協会(昭和60年5月31日第1刷発行) 4 2005314296 20051110 8 20061114 渕野 留香 本発明は、ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶に関し、詳しくは、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とし、着色の少ない、ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶に関する。 ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下「BPDA」と称することがある)は、耐熱性樹脂として注目されている芳香族ポリイミド樹脂の製造用原料として有用な化合物である。BPDAを原料とする芳香族ポリイミド樹脂の製造方法としては、BPDAと芳香族ジアミン類との重合反応による方法、BPDAと芳香族ジアミンを常温付近の低温で重合して得られるポリアミック酸を閉環イミド化する方法などが挙げられる。 BPDAの製造は、一般的にビフェニルテトラカルボン酸(以下「BTC」と称する)を脱水閉環することによって行われている。一方、BTCの製造方法としては、例えば以下の(i)、(i i)に記載の方法がある。(i)O−フタル酸ジメチルの脱水素二量化反応で得られたビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルを、Pd触媒の存在下で、水性媒体中で加水分解する方法。(i i)無水フタル酸をハロゲン化して得られる4−ハロフタル酸を、水性媒体中、アルカリ・還元剤・Pd触媒の存在下、脱ハロゲン二量化し、ビフェニルテトラカルボン酸テトラアルカリ金属塩水溶液を得、これを鉱酸で中和する方法。 上記の様な方法により製造されたBTCは、適当な方法、例えば、無溶媒中で減圧下に加熱する方法、無水酢酸などのBTCを実質的に溶解しない液状媒体中にて加熱する方法などにより脱水反応され、BPDAが製造される。なお、上記(i i)の方法を経由するBPDA及び芳香族ポリイミド樹脂の製造ルートを化学式で示せば次の通りである。 上述の従来法においては、各工程の反応条件を適当に制御することにより、高純度BPDA結晶が得られるが、この場合にも生成する結晶には若干の着色が免がれなかった。この着色はBPDAを使用して芳香族ポリイミド樹脂を製造する際、その樹脂製品の着色要因の一つと考えられており、着色の少ないBPDAが望まれている。 BPDAの着色を低下させる方法として、BTCを減圧下、150〜230℃の温度に加熱して脱水反応を行なわせた後、生成したBPDAを30mmHg以下の減圧下、250〜400℃の温度に引き続き加熱して揮発させ、次いで、その揮発したBPDAの蒸気を冷却して精製結晶として回収する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。 また、高融点有機化合物を溶融・蒸発させ、次いで、冷却して高融点有機化合物を精製するに当たり、当該高融点有機化合物蒸発時の蒸気の線速を制御することにより、当該高融点有機化合物中に含有される不溶性微粒体量を低減させる方法(即ち、高純度BPDAを得る方法)が提案されている(例えば特許文献2参照)。特公平4−37078号公報特開平8−143480号公報 しかしながら、上記の様な方法で得られるBPDAであっても、高透明度、着色抑制への要求が更に厳しくなっている近年の芳香族ポリイミド樹脂原料としては未だ不十分であり、より着色を抑制し、且つ、不純物の少ない高純度BPDAが切望されている。 その背景は次の通りである。すなわち、従来、その用途から着色が余り問題視されていなかった芳香族ポリイミド樹脂が、最近、その特徴である高寸法安定性や高耐熱性を背景に用途が広がったため、今までは着色のために使用できないと考えられていた分野への応用が検討される様になってきた。更に、BPDAを原料とする芳香族ポリイミド樹脂が有する高耐熱性、高寸法安定性などの特徴から、精密な電子回路基盤用の部材としての用途も広がっており、不純物、特に金属の含有量の少ないBPDAが切望される様になった。 本発明者らは、上記課題を解決するため、BPDAを減圧下に蒸発させる際、蒸発温度、蒸発速度、蒸発時の系内の酸素濃度が、生成するBPDAの着色度に影響を与えると予想して種々検討を行った。その結果、常温のBPDAを加熱溶融して得られた溶融物を、減圧下、系内の酸素濃度を10ppm以下に保ちながら、307℃以上330℃以下の温度で蒸発させ、高純度BPDAを蒸気として回収し、この蒸気を冷却して結晶化することによって、従来より着色が少なく、不純物として含有されるパラジウム(Pd)含有量の少ないBPDAを製造できることを見出した。 ところで、従来からBPDA結晶の着色は知られており、例えば、特開昭61−249977号公報には、得られたBPDAの着色度に関し、N−メチルピロリドンに溶解した溶液についてガードナー色数計を使用して比較測定した値の記載があるが、この方法では溶媒であるN−メチルピロリドンの着色の影響を受ける場合があり、測定の精度としても十分なものとは言い難い。そこで、本発明らはBPDAの着色度の測定法について鋭意検討した結果、特定条件下において、具体的には、BPDAを特定濃度のNaOH水溶液とした際の光透過率を測定することによって、BPDAの着色度を定量的に表すことが出来ることを見出した。 そして、前述の方法にて得られた高純度BPDAはNaOH水溶液とした際の光透過率が極めて高い優れたものであり、次の様な特性を有していることを見い出した。すなわち、この高純度BPDAは、濃度0.05g/mlのNaOH水溶液とした際、この溶液に対する波長400nmの光透過率が90%以上であり、更に、このBPDAのPd含有量を測定すると0.2ppm以下である。 本発明は、上記の種々の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物を加熱溶融させた後、減圧下、系内の酸素濃度を5ppm以下に保ちながら蒸発させ、高純度ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の蒸気を冷却し結晶化することにより、2規定のNaOH水溶液にビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物を0.05g/mlの濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nmの光透過率が90%以上であるビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物を得ることを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶の製造方法に存する。 芳香族ポリイミド樹脂用原料として有用な着色の少ないビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶を提供する。 以下、本発明を詳細に説明する。本発明のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶は、BPDAを主成分とし、通常、不純物としてビフェニルトリカルボン酸無水物を含有する組成物の結晶である。ビフェニルトリカルボン酸無水物の割合は、BPDAに対し、通常0.5重量%以下、好ましくは0.3重量%以下であり、その下限は、通常0.01〜0.1重量%である。従って、本発明のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶は、実質的成分がBPDAであることから、BPDAと呼ぶことが出来、以下においてはその様に称することがある。なお、上記のビフェニルトリカルボン酸無水物は、BTCを脱水反応してBPDAを製造する際に副生する。 本発明のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶は2規定のNaOH水溶液に0.05g/mlの濃度で溶解して得られた溶液に対する波長400nmの光透過率が90%以上であることを特徴とする。光透過率が90%未満の場合は、淡黄色を呈し、本発明の目的を達成することが出来ない。光透過率は、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上であり、また、Pd含有量が0.2ppm以下であることが好ましい。 本発明の高純度BPDAの光透過率は次の様に測定する。先ず、2規定のNaOH水溶液に0.05g/mlの濃度で溶解したサンプル溶液を調製する。次いで、内径10mmの石英セルを使用し、水を対照液とし、分光光度計(島津製作所製「UV−265FW型」)で測定する。上記のNaOHとしては、試薬特級品を使用し、サンプル溶液の調製や対照液に使用する水は、蒸留水またはイオン交換樹脂処理水を使用する。 また、本発明の高純度BPDAのPd含有量は、 誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)にて測定することが出来、試料の調製は次の様に行なう。試料1gに硫酸2ml添加後、乾式分解(炭化、灰化600℃×30分)し、得られた残査に塩酸を加え、塩酸を蒸発させて乾固後、硝酸で加温溶解して25mlに定容する。 本発明のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶の製造方法は任意であるが、常温のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物(粗BPDA)を加熱溶融させ、具体的には300℃迄加熱し溶融させた後、減圧下、307℃以上330℃以下の温度で蒸発させ、高純度BPDAの蒸気を冷却し結晶化する方法が好ましい。 溶融粗BPDAを蒸発させる際の温度が低すぎる場合は、BPDAの蒸発を効率的に実施することが困難となり、また、高すぎる場合は、BPDAの着色度が増加し、透過率が低下してしまう。従って、溶融粗BPDAを蒸発させる際の温度は、好ましくは307〜320℃、更に好ましくは307〜315℃である。 溶融粗BPDAを蒸発させる際の減圧度は、蒸発雰囲気の圧力として、通常0.5kPa以下、好ましくは0.4kPa以下、更に好ましくは0.3kPa以下である。この圧力が0.5kPaを超える場合、単位時間に蒸発するBPDAの量が少なくなり、全量を蒸発するのに長時間を要するため、熱劣化してBPDAの品質や回収率が低下する。 溶融粗BPDAを蒸発させる際、系内の気相部に酸素が存在すると、高温下の条件下で蒸発したBPDAの一部で酸化反応が起こり、製品の着色の要因となる物質が生成されることがある。従って、系内の酸素濃度は、通常10ppm以下、好ましくは5ppm以下である。 BPDA蒸気の線速は、通常0.1〜1.0m/s、好ましくは0.4〜0.6m/sである。蒸気線速が速すぎる場合は、不純物が生成物に同伴されて純度が低下する場合があり、遅すぎる場合は、溶融状態での時間が長くなり、熱による分解の割合が増加し、回収率が低下することがある。なお、本発明に於ける「BPDA蒸気の線速」は、当該蒸発操作における単位時間当たりの蒸発物質の量の容量換算値(a)を、当該蒸発操作を行う容器空間部の水平断面のうち最大面積(b)で除した値、即ち(a)/(b)を言う。 蒸発器中で蒸発するBPDAの蒸気量は、蒸発器中の粗BPDAの減少量、または、蒸気を冷却して得られる固化したBPDAの増加量から容易に算出することが出来る。即ち、これらの重量変化により蒸発物質のモル数が算出されるので、温度と圧力とで補正することによって、蒸発するBPDAの蒸気量を容易に換算できる。この蒸気量を、蒸発操作を行う蒸発器の空間部の水平断面のうち最大面積で除して、「蒸気の線速」を求めればよい。 揮発したBPDAの冷却温度は、通常200℃以下、好ましくは100℃以下である。この冷却方法は、種々の方法によることが出来るが、通常、揮発操作を行う容器、例えば、蒸発釜などの容器の気相部に直結するガス管先端に配置したドラム式回転冷却器により行うのが好ましい。ドラム式回転冷却器に付着したBPDAは、適当な掻き取り装置によって、連続的に容易に掻き取られ、フレークとして回収される。この際、着色不純物の生成抑制の観点から、系内の酸素濃度は、通常10ppm以下、好ましくは5ppm以下とするのがよい。 本発明に於いて、ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物(粗BPDA)の製造方法は、特に制限されず、例えばBTCの脱水閉環反応による方法が挙げられる。粗BPDAは、不純物としてビフェニルトリカルボン酸無水物を含有する組成物である。 BTCを使用した本発明を詳述すると、BTCを、常圧または減圧下、例えば0.1〜100kPaの範囲で、150〜250℃の温度に加熱し、粗BPDAを得る。この場合、原料のBTCは、例えばPd触媒を使用した前述の(i)又は(i i)の方法で得られた水湿潤状態のものでも使用でき、その際には、昇温途中で付着水が、更には結晶水も蒸発によって除かれ、続いて、脱水閉環反応が起こる。これら一連の反応は、付着水、結晶水および脱水閉環反応によって生成する水を、反応系外にパージしながら行うと、反応速度が向上するので、常圧で不活性ガスを通しながら、または、減圧下で行うのが好ましい。脱水閉環反応に要する時間は、加熱速度、加熱温度、減圧度および付着水の有無などによって異なるが、通常0.5〜10時間の範囲で選ぶことが出来る。また、使用する不活性ガスとしては、BPDAに対して実質的に化学反応を起こさないガス例えば、窒素の他、ヘリウム、アルゴン等の希ガス類が使用できる。 本発明のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶は、淡黄色の着色の少ないため、特に光学用途に使用される芳香族ポリイミド樹脂の製造原料用として好適に使用することが出来る。 次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。なお、以下の例において、BPDAの光透過率およびPd含有量は本文に記載した方法で測定した。 実施例1: ダブルヘリカルリボン翼、ジャケット、不活性ガス供給口を備えた円筒縦型の反応器に、100重量部のBTCを仕込み、攪拌しつつ、常圧下、215℃の温度に加熱し、2m3/hrの速度で窒素ガスを流通し、生成する水をパージしながら脱水閉環反応を10時間行った。 続いて、同じ容器で、攪拌しつつ、300℃の温度に昇温し、この温度で5時間保持し、反応物を溶融させた。溶融液を容量1.6m3の蒸発釜に移送し、系内の酸素濃度を5ppmに保ちながら、温度307℃、圧力230Pa、蒸気線速0.8m/秒で、BPDAを蒸発させた。蒸発させたBPDAは、蒸発釜の気相部に直結するガス管先端に配置したドラム式回転冷却器で析出させ、冷却器に付着したBPDAの結晶は、掻き取り装置によって連続的に掻き取り、フレークとして回収した。このフレークを粉砕して、80重量部のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶(高純度BPDA)を得た。得られたBPDAの波長400nmの光透過率を測定したところ、92%であった。また、このBPDAのPd含有量を測定すると0.1ppmであった。 実施例2: 実施例1において、蒸発時の温度を307℃、圧力400Pa、蒸気線速0.4m/秒とした以外は、実施例1と同様の操作を行いBPDAフレークを得た。得られたBPDAの光透過率は98%であった。また、このBPDAのPd含有量を測定すると0.05ppmであった。 比較例1: 実施例1において、脱水閉環反応後、蒸発操作を行わずBPDAを取り出した。得られたBPDAの透過率は78%であり、Pd含有量は0.5ppmであった。 ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物を加熱溶融させた後、減圧下、系内の酸素濃度を5ppm以下に保ちながら蒸発させ、高純度ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の蒸気を冷却し結晶化することにより、2規定のNaOH水溶液にビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物を0.05g/mlの濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nmの光透過率が90%以上であるビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶を得ることを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶の製造方法。 波長400nmの光透過率が95%以上である請求項1に記載のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶の製造方法。 0.5kPa以下の減圧下で蒸発させる請求項1又は2に記載のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶の製造方法。 307℃以上330℃以下の温度で蒸発させる請求項1〜3の何れかに記載のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物結晶の製造方法。