タイトル: | 公開特許公報(A)_炎症性サイトカインの産生を抑制するための眼科用組成物 |
出願番号: | 2004128759 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K31/19,A61K9/06,A61P27/02,A61P43/00 |
笹沼 一博 吉崎 聡 中村 滋 JP 2005247821 公開特許公報(A) 20050915 2004128759 20040423 炎症性サイトカインの産生を抑制するための眼科用組成物 株式会社オフテクス 595149793 笹沼 一博 吉崎 聡 中村 滋 JP 2004030161 20040206 7A61K31/19A61K9/06A61P27/02A61P43/00 JPA61K31/19A61K9/06A61P27/02A61P43/00 111 6 OL 9 4C076 4C206 4C076AA06 4C076BB11 4C076BB24 4C076CC10 4C076CC29 4C206AA01 4C206AA02 4C206DA07 4C206MA01 4C206MA04 4C206MA48 4C206MA78 4C206MA86 4C206NA14 4C206ZA33 4C206ZC02 本発明は、炎症性サイトカインの産生を抑制するための眼科用組成物に関する。さらに詳しくは、生体成分である3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類を有効成分として含有し、炎症性サイトカイン、特にインターロイキン(以下、ILと称す)−1α、IL−1β、IL−6および腫瘍壊死因子(以下、TNFと称す)−αからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種のサイトカインの産生を抑制するための眼科用組成物に関する。さらには、該サイトカインの産生に伴う種々の炎症性疾患の抑制および/または予防、ひいては角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制する眼科用組成物に関する。 サイトカインは、免疫担当細胞をはじめとする種々の細胞から産生され、細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子である。サイトカインは、免疫応答の制御作用、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用および細胞増殖・分化の調節作用等の働きを担っており、これまでに、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−10、IL−12、IL−13、IL−18、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−β、TNF−α、TNF−β、インターフェロン(以下、IFNと称す)−α、IFN−βおよびIFN−γ等が確認されている。 これらのサイトカインは、生体内において、サイトカイン同士が相互に作用しあうネットワークを組んでいる。生体が正常な状態においては、サイトカインネットワークのバランスが微妙に保たれた状態にあり、生体の恒常性を維持するように作用している。しかしながら、感染や組織の損傷等の刺激によりそのバランスが崩れることによって、サイトカインの産生異常が生じ、種々の疾患の発症や炎症症状をもたらすことが知られている。 特に、サイトカインのうち、IL−1α、IL−1β、IL−5、IL−6、IL−12、IL−18、TNF−α、TNF−β、IFN−α、IFN−βおよびIFN−γ等は、炎症性サイトカインと呼ばれており、上述したサイトカインネットワークのバランスが崩れることによって、これらの炎症性サイトカインの産出が顕著に誘導され、炎症症状をもたらすことが明らかとなっている。そして、このような炎症性サイトカインが、リウマチ、骨粗鬆症、動脈硬化症、糖尿病合併症等の慢性疾患等の病態機序に深く関わっていることが報告されている。 一方、上記の疾患に併発した眼疾患やその他の眼疾患においても、炎症性サイトカインの産生が関与していることが明らかとなっている。このような眼疾患としては、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡、乾性角結膜炎およびシェーグレン症候群等に伴うドライアイ疾患、慢性関節リウマチおよび若年性関節リウマチ等の自己免疫疾患においてみられる上強膜炎、強膜炎、ぶどう膜炎および虹彩毛様体炎等の炎症性疾患、ウイルス、細菌および真菌等の感染によるウイルス性結膜炎、細菌性結膜炎および真菌性角膜炎等の炎症性疾患、アレルギー性結膜炎等が挙げられる。それゆえ、炎症性サイトカインの産生を抑制するための眼科用組成物であって、該サイトカインの産生に伴う種々の炎症性疾患の抑制および/または予防、ひいては角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制する眼科用組成物が待ち望まれている。 これまで、上記の眼疾患等を治療および/または予防する目的で、特定の化学式で表されるアミド化合物を有効成分として含有するサイトカイン産生抑制剤(例えば、特許文献1参照)や、ヒト羊膜上皮細胞培養上清を含有することを特徴とする抗炎症剤(例えば、特許文献2参照)が開示されている。しかしながら、これらの特許文献には、本発明の有効成分である3−ヒドロキシ酪酸が、炎症性サイトカインの産生を抑制することは、どこにも記載されていない。 一方、本発明において有効成分として用いられる3−ヒドロキシ酪酸は、生体成分として知られており、肝臓で脂肪酸が酸化されることにより生成され、末梢組織においてエネルギー源として用いられることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。これまで、出願人は、3−ヒドロキシ酪酸を有効成分とする角膜に適用する治療剤として、角膜上皮損傷治療剤(例えば、特許文献3参照)および角膜混濁抑制剤(例えば、特許文献4参照)を提案している。しかしながら、3−ヒドロキシ酪酸が、炎症性サイトカインの産生を抑制する旨の報告はない。特開平10−330257号公報特開2002−326943号公報特開平10−265378号公報特開2001−89366号公報山科郁男監修、「レーニンジャーの新生化学(上)」、第2版、廣川書店、1993年4月15日、p625−626 本発明の目的は、炎症性サイトカインの産生を抑制するための眼科用組成物を提供することにある。さらに詳しくは、生体成分である3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類を有効成分として含有し、炎症性サイトカイン、特にIL−1α、IL−1β、IL−6およびTNF−αからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種のサイトカインの産生を抑制するための眼科用組成物を提供することにある。さらには、該サイトカインの産生に伴う種々の炎症性疾患の抑制および/または予防、ひいては角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制する眼科用組成物を提供することにある。 本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、以下により達成される。 (1)炎症性サイトカインの産生を抑制するための組成物であって、該組成物が3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類を有効成分として含有することを特徴とする眼科用組成物。 (2)炎症性サイトカインが、IL−1α、IL−1β、IL−6およびTNF−αからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種のサイトカインである上記(1)記載の眼科用組成物。 (3)3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類の濃度が、0.01〜10w/v%である上記(1)記載の眼科用組成物。 (4)3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類の濃度が、0.1〜3w/v%である上記(1)記載の眼科用組成物。 (5)角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制することを特徴とする上記(1)記載の眼科用組成物。 (6)点眼剤、洗眼剤、眼軟膏剤および注射剤から選ばれるいずれかの剤型であることを特徴とする上記(1)〜上記(5)のいずれかに記載の眼科用組成物。 本発明の眼科用組成物は、生体成分である3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類を有効成分として含有することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。さらに詳しくは、該組成物を用いることにより、炎症性サイトカイン、特にIL−1α、IL−1β、IL−6およびTNF−αからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種のサイトカインの産生を抑制することができる。それゆえ、本発明の眼科用組成物を使用することにより、炎症性サイトカインが関与する眼疾患、例えば、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡、乾性角結膜炎およびシェーグレン症候群等に伴うドライアイ疾患、慢性関節リウマチおよび若年性関節リウマチ等の自己免疫疾患においてみられる上強膜炎、強膜炎、ぶどう膜炎および虹彩毛様体炎等の炎症性疾患、ウイルス、細菌および真菌等の感染によるウイルス性結膜炎、細菌性結膜炎および真菌性角膜炎等の炎症性疾患、アレルギー性結膜炎等の種々の炎症性疾患の抑制および/または予防、ひいては角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制することが期待できる。 本発明の眼科用組成物は、3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類を有効成分として含有する。ここで、有効成分として含有する3−ヒドロキシ酪酸は、その化学構造式のC3位の立体配置につき、D−体、D,L−ラセミ体およびL−体があることが知られているが、本発明では、これらのいずれの構造式のものでも使用することができる。また、3−ヒドロキシ酪酸の塩類は、好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩、L−リジン塩、L−ヒスチジン塩およびL−アルギニン塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が適宜選択される。本発明においては、これら3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類は、適宜単独であるいは2種類以上併用することができる。また、本発明の眼科用組成物における3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類の濃度は、患者の年齢や症状の程度、またはその用途に応じて適宜決定されるが、0.01〜10w/v%の範囲であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜5w/v%、さらには0.1〜3w/v%の範囲にあるのが特に好ましい。 本発明の眼科用組成物は、有効成分として3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類を含有することにより、炎症性サイトカインの産生を抑制する作用を示す。ここで、本発明の眼科用組成物は、炎症性サイトカインとして、例えば、IL−1α、IL−1β、IL−5、IL−6、IL−12、IL−18、TNF−α、TNF−β、IFN−α、IFN−βおよびIFN−γ等からなる群より選ばれる少なくともいずれか1種のサイトカインの産生を抑制する作用を有しており、特に、IL−1α、IL−1β、IL−6およびTNF−αからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種のサイトカインについて、有利に産生を抑制する作用を示す。 さらに、本発明の眼科用組成物は、炎症性サイトカインが関与する眼疾患、例えば、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡、乾性角結膜炎およびシェーグレン症候群等に伴うドライアイ疾患、慢性関節リウマチおよび若年性関節リウマチ等の自己免疫疾患においてみられる上強膜炎、強膜炎、ぶどう膜炎および虹彩毛様体炎等の炎症性疾患、ウイルス、細菌および真菌等の感染によるウイルス性結膜炎、細菌性結膜炎および真菌性角膜炎等の炎症性疾患、アレルギー性結膜炎等の種々の炎症性疾患の抑制および/または予防、ひいては角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制することが期待できる。 本発明の眼科用組成物は、眼局所における種々の炎症性疾患の抑制および/または予防、ひいては角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制することを目的として使用することができる。それゆえ、その剤型としては、非経口投与製剤である点眼剤、洗眼剤、眼軟膏剤および注射剤等から選ばれるいずれかの剤型とするのが好ましく、特には点眼剤の形態で用いることが好ましい。なお、それ以外にも、眼局所の疾患の治療および/または予防を目的として投与されるものであれば、例えば、経口投与製剤のような眼局所に直接投与しない製剤であっても特に差し支えない。 本発明の眼科用組成物は、有効成分として3−ヒドロキシ酪酸を含有していればよく、3−ヒドロキシ酪酸による炎症性サイトカインの産生抑制作用を妨げない限り、さらに必要に応じて、各種成分を含有させることができる。そのような成分としては、例えば、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合には、点眼剤の安定性および差し心地の良さを得ることを目的として、必要に応じて緩衝剤、等張化剤、安定化剤、粘稠化剤、pH調整剤等の各種添加物およびその他の成分等を含有することができる。なお、これらの各種成分は単独であるいは2種類以上適宜含有することができ、多くの場合その方が好ましい。 上記緩衝剤は、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合に、該点眼剤のpHを安定化する目的等で含有することができる。該緩衝剤としては、一般に点眼剤として用いられているものであれば特に差し支えなく、例えば、ホウ酸、クエン酸、リン酸、酒石酸、グルコン酸、酢酸、炭酸、乳酸およびそれらの塩等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用することもできる。これら緩衝剤の濃度としては、0.001〜5w/v%であるのが好ましく、0.01〜1w/v%であるのがより好ましい。 上記等張化剤は、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合に、該点眼剤の浸透圧を調整する目的等で含有することができる。該等張化剤としては、一般に点眼剤として用いられているものであれば特に差し支えなく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび硫酸マグネシウム等からなるアルカリまたはアルカリ土類金属塩の如き無機塩、およびグルコース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、デキストランおよびグリセリン等の糖質等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用することもできる。これら等張化剤の濃度としては、0.001〜5w/v%であるのが好ましく、0.01〜3w/v%であるのがより好ましい。 上記安定化剤は、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合に、該点眼剤の有効成分を安定化する目的等で含有することができる。該安定化剤としては、一般に点眼剤として用いられているものであれば特に差し支えなく、例えば、エデト酸ナトリウム、シクロデキストリン、亜硫酸塩、クエン酸/塩、およびジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用することもできる。これら安定化剤の濃度としては、0.001〜5w/v%であるのが好ましく、0.01〜1w/v%であるのがより好ましい。 上記粘稠化剤は、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合に、該点眼剤の粘度を調整する目的等で含有することができる。該粘稠化剤としては、一般に点眼剤として用いられているものであれば特に差し支えなく、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリビニルアルコールなどのポリオール類、トレハロース、シュクロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびシクロデキストリン等の糖質類、カルボキシビニルポリマー、クエン酸塩およびエデト酸塩等のポリカルボン酸/塩等が挙げられ、その他キサンタンガム、ローカーストビーンガム、ゲランガムおよびカラギーナン類等の多糖類、ヒアルロン酸/塩、ポビドンおよびヒマシ油等も含有することができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用することもできる。これら粘稠化剤の濃度としては、0.001〜10w/v%であるのが好ましく、0.01〜5w/v%であるのがより好ましい。 上記pH調整剤は、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合に、該点眼剤のpHを調整する目的等で含有することができる。該pH調整剤としては、一般に点眼剤として用いられているものであれば特に差し支えなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩酸、クエン酸、ホウ酸、リン酸、酢酸、酒石酸およびそれらの塩等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用することもできる。本発明の眼科用組成物は、これらpH調整剤を適量添加し、目的のpHに調整する。 上記その他の成分は、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合に、各成分に応じた効果を付与する目的等で含有することができる。その他の成分としては、一般に眼科用剤として用いられているものであれば特に差し支えなく、例えば、充血除去剤、消炎・収斂剤、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、ビタミン類、アミノ酸類、サルファ剤、清涼化剤および縮瞳剤等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用することもできる。なお、これらの成分を含有する際には、患者の年齢や症状等に応じて、本発明の有効成分である3−ヒドロキシ酪酸による炎症性サイトカインの産生抑制作用を損なわない成分・濃度であることを確認して使用するのが好ましい。 一方、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合には、該点眼剤に防腐効果を持たせる目的で防腐剤を含有することもできる。該防腐剤としては、一般に点眼剤として用いられているものであれば特に差し支えなく、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンもしくはブチルパラベン等のパラベン類、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、第4級アンモニウム性陽イオン界面活性剤および塩酸クロルヘキシジン等のカチオン系防腐剤等が挙げられる。第4級アンモニウム性陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムおよび塩化セチルピリジニウム等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用することもできる。これら防腐剤の濃度としては、0.0001〜0.1w/v%であるのが好ましく、0.001〜0.05w/v%であるのがより好ましい。 しかしながら、一般に、炎症性サイトカインの産生がみられる場合には、種々の疾患の発症や炎症を伴っている可能性があり、このような場合に、防腐剤を含有する眼科用組成物を使用することにより、さらに該疾患や炎症が悪化する可能性があるため、防腐剤は含有しない方がより好ましい。また、疾患の発症や炎症を生じていない場合であっても、頻回点眼を必要とする場合には、同様に防腐剤により疾患や炎症を生じる可能性があるため、防腐剤を含有しない方がより好ましい。なお、防腐剤を含有しない場合には、本発明の点眼剤を、1回の使用で使い捨てるタイプの容器、いわゆる「ディスポ容器」に充填するのが好ましい。 また、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合には、各種配合成分を組み合わせた後、pHを調整することが好ましい。pHの範囲としては、点眼剤として許容される範囲であれば特に制限はなく、例えば、pH4.0〜10.0とするのが好ましく、さらにはpH6.0〜8.5、特にはpH7.0〜8.0がより好ましい。pH4.0以下の酸性およびpH10.0以上のアルカリ性領域では眼刺激や眼障害を生じる可能性があるので好ましくない。 また、本発明の眼科用組成物を点眼剤とする場合、該組成物の浸透圧としては、点眼剤として許容される範囲であれば特に制限はなく、例えば、100〜600mOsm.が好ましく、さらには150〜400mOsm.、特には200〜400mOsm.がより好ましい。 本発明の眼科用組成物は、一般に知られている方法に従って調製することができる。通常、上記各種配合成分等を精製水(必要に応じて滅菌精製水)に順次溶解して調製することができる。例えば、点眼剤とする場合であれば、まず、粘稠剤を含有する場合には粘稠剤を滅菌精製水に溶解し、次いで有効成分および各種配合成分を溶解し、必要な場合はpHを調整した後、ポリエチレンテレフタレート製等の容器等に無菌充填することにより得られる。 本発明の眼科用組成物は、眼科的に許容される範囲であれば投与量が特に制限されるものではなく、また、疾患の種類、患者の症状および年齢等によって異なるが、例えば、成人に上記の如き点眼剤として用いる場合には、通常1回につき1〜3滴を1日1回〜6回、投与することが好ましい。 以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。(1)IL−1αの産生抑制効果について 以下のように、ラットドライアイモデルを作製し、このラットを用いて本発明の有効成分であるD−3−ヒドロキシ酪酸(以下、HBAと称す)のIL−1αに対する産生抑制効果を調べた。(2)ラットドライアイモデルの作製方法 8週齢の雌性SDラット16匹(No.a〜p)を使用した。馴化飼育後、ラットを室温23±2℃、相対湿度28±2%に維持した低湿度環境下に移し、8時間飼育した。前記低湿度環境下にて飼育するにあたり、さらに、ラットの角膜中央部の上皮を角膜全体の約3%(約0.4mm2)程度、円状に剥離し、ラットに扇風機にて風速2〜4m/sの送風を行った。(3)試験液の調製および点眼方法 本発明の眼科用組成物として、HBAをリン酸緩衝溶液(以下、PBSと略す)に溶解し、1.0w/v%とした点眼液を調製した。また、比較液として、PBSのみの点眼液を用いた。各点眼液は、pH7.0および浸透圧300mOsm.となるように調製した。また、各点眼液は、ラットを低湿度環境下に搬入し、ラットに向けて送風を開始した直後に1回目の点眼を行い、その後1時間おきに、計5回行った。なお、点眼は、各ラットの片眼にHBAを、もう一方の眼にPBSを点眼して行った。(4)ラット涙液の採取方法およびラット涙液中のIL−1α濃度の測定 低湿度環境下にて3時間飼育した後、HBAおよびPBSの点眼を行う前に、綿糸を用いてラットの各眼からそれぞれ涙液を採取した(16匹32眼)。これを、4および5時間経過後についても、同一ラット、同一眼からそれぞれ涙液を採取し、3時間経過後の涙液と合わせて1つのサンプルとした。前記の方法にて採取したラット涙液サンプルを用いて、ELISA法により涙液中のIL−1αの濃度の定量を行った。なお、本実施例1では、算出したIL−1αの濃度について、HBA点眼群およびPBS点眼群でのWilcoxon符号付順位検定を行った。上記の方法にて測定したラット涙液中のIL−1α濃度の結果を図1に示す。(5)TNF−αの産生抑制効果について 本発明の有効成分であるHBAのTNF−αに対する産生抑制効果を調べた。なお、実験方法としては、上記と同様の方法に従い実施した。本実験においては、12匹のSDラット(No.a〜l)を用いて行い、ラットを低湿度環境下に移し3時間、4時間および5時間経過後の涙液を採取し、TNF−αの定量を行った。なお、定量はELISA法により行い、得られた結果についてWilcoxon符号付順位検定を行った。結果を図2に示す。(6)IL−1βの産生抑制効果について 本発明の有効成分であるHBAのIL−1βに対する産生抑制効果を調べた。なお、実験方法としては、上記と同様の方法に従い実施した。本実験においては、10匹のSDラット(No.a〜j)を用いて行い、ラットを低湿度環境下に移し6時間、7時間および8時間経過後の涙液を採取し、IL−1βの定量を行った。なお、定量はELISA法により行い、得られた結果についてWilcoxon符号付順位検定を行った。結果を図3に示す。(7)フルオレセイン染色による角膜障害性の確認 低湿度環境によるラット角膜の炎症について、HBAおよびPBS点眼それぞれの場合について確認した。確認にあたっては、以下に示すフルオレセイン染色を用いた。すなわち、ラットを低湿度環境下にて5時間飼育し、涙液を採取した後、ラットに全身麻酔をかけ、1w/v%フルオレセインナトリウム/PBS緩衝溶液を2μL点眼し、眼表面に取り込ませた。その後、1mLのPBSで眼表面を洗浄し、余分な水分を除去した後、眼球を摘出した。摘出した眼球を200mLのPBSに浸漬し、遮光、低温下で24時間放置し、該角膜内に取り込まれた色素を抽出した。そして、色素抽出液の蛍光強度をサイトフロー(PE BioSystems社製)を用いて測定した。なお、得られた蛍光強度の値より、点眼したフルオレセインがすべて取り込まれた際の蛍光強度を100%として、フルオレセイン取込率(%)を算出した。 図1〜図3より、HBAを点眼したラット涙液中のIL−1α、TNF−αおよびIL−1βの濃度は、比較液としてPBSを点眼したラット涙液中の各成分の濃度よりも低く、さらに、IL−1αおよびTNF−αについては、有意に低いことが分かった。このことから、HBAは炎症性サイトカインであるIL−1α、TNF−αの産生を抑制していることが分かった。さらに、炎症性サイトカインの1つであるIL−1βに関しても、HBAは、その産生を抑制している傾向を示すことが分かった。さらに、本実施例について、ラット角膜の障害性を確認することを目的として行ったフルオレセイン染色においては、HBA点眼群およびPBS点眼群について、それぞれフルオレセイン取込率が10.0±4.0%(平均±標準偏差)および12.6±7.1%(平均±標準偏差)であった。本フルオレセイン染色において、フルオレセイン取込率が小さいことは、すなわち、角膜の障害性が小さいことを示しており、換言すると、低湿度環境による角膜の炎症が抑制されることを意味している。それゆえ、上記の結果から、PBS点眼群よりもHBA点眼群の方が、フルオレセイン取込率が小さいことから、HBA点眼群では、角膜の炎症が抑制される傾向にあることが確認された。以上のことから、本発明の有効成分であるHBAは、炎症性サイトカインの産生を抑制することが確認され、さらに、炎症性サイトカインが関与する眼疾患において、該サイトカインの産生に伴う種々の炎症性疾患の抑制および/または予防、ひいては角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制することを期待して利用することができることが分かった。ラットドライアイモデルにおけるHBAおよびPBS点眼後のIL−1αの濃度のグラフである。ラットドライアイモデルにおけるHBAおよびPBS点眼後のTNF−αの濃度のグラフである。ラットドライアイモデルにおけるHBAおよびPBS点眼後のIL−1βの濃度のグラフである。 炎症性サイトカインの産生を抑制するための組成物であって、該組成物が3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類を有効成分として含有することを特徴とする眼科用組成物。 炎症性サイトカインが、IL−1α、IL−1β、IL−6およびTNF−αからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種のサイトカインである請求項1記載の眼科用組成物。 3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類の濃度が、0.01〜10w/v%である請求項1記載の眼科用組成物。 3−ヒドロキシ酪酸および/またはその塩類の濃度が、0.1〜3w/v%である請求項1記載の眼科用組成物。 角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制することを特徴とする請求項1記載の眼科用組成物。 点眼剤、洗眼剤、眼軟膏剤および注射剤から選ばれるいずれかの剤型であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の眼科用組成物。 【課題】 炎症性サイトカインの産生を抑制するための眼科用組成物を提供する。【解決手段】 本発明の眼科用組成物は、生体成分である3−ヒドロキシ酪酸を有効成分として含有することにより、炎症性サイトカイン、特にIL−1α、IL−1β、IL−6およびTNF−αからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種のサイトカインの産生を抑制することができる。それゆえ、本発明の眼科用組成物を使用することにより、炎症性サイトカインが関与する眼疾患において、該サイトカインの産生に伴う種々の炎症性疾患の抑制および/または予防、ひいては角結膜の疾患に伴う炎症性サイトカインの産生を抑制することを期待して利用することができる。【選択図】 なし