タイトル: | 公開特許公報(A)_シクロスポリン製剤 |
出願番号: | 2004102965 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K38/00,A61K9/14,A61K47/14,A61K47/34,A61P37/02 |
梅川 智通 栗田 正志 JP 2005289825 公開特許公報(A) 20051020 2004102965 20040331 シクロスポリン製剤 メルク・ホエイ株式会社 398064316 三枝 英二 100065215 掛樋 悠路 100076510 小原 健志 100086427 斎藤 健治 100099988 藤井 淳 100105821 関 仁士 100099911 中野 睦子 100108084 梅川 智通 栗田 正志 7A61K38/00A61K9/14A61K47/14A61K47/34A61P37/02 JPA61K37/02A61K9/14A61K47/14A61K47/34A61P37/02 6 OL 13 4C076 4C084 4C076AA30 4C076BB01 4C076CC07 4C076DD41H 4C076DD68H 4C076EE23H 4C076FF36 4C076FF52 4C076GG16 4C084AA02 4C084BA24 4C084DA11 4C084MA05 4C084MA41 4C084MA52 4C084NA03 4C084NA09 4C084ZB071 本発明は、シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルの混合物を高分子化合物で被覆した経口投与用固形製剤に関する。 シクロスポリンは、1970年に真菌の一種であるTolypocladium inflatum Gamsの培養液中から得られた、11個のアミノ酸で構成される疎水性の環状ポリペプチドである。このものは、サイトカイン産生を阻害することによって強力な免疫抑制作用を示すことから、医薬品分野において、臓器移植後の拒絶反応の抑制剤などとして、またベーチェット病を初めとして、乾癬、ネフローゼ症候群、再生不良性貧血、赤芽球癆などの難治性自己免疫疾患に対して臨床応用されてきている。 シクロスポリンは、水への溶解性が低いために、従来、植物油、エタノールなどを利用した油性基剤をベースとする油性液剤形態乃至該油性液剤を軟カプセルに収容した軟カプセル剤形態に製剤化され、上記用途に適用されている。これらの製剤は、経口投与後に、生体内で胆汁酸により乳化され、製剤中のシクロスポリンが上部消化管から吸収される。このため、これらの製剤形態における薬効は、胆汁酸や食事の影響を受けやすく、また個体内、個体間においてバラツキが大きい欠点がある。換言すれば、之等の製剤形態では、安定したシクロスポリン血中濃度が得られ難いという薬物動態学的に致命的な欠点がある。 近年、この問題を克服するために、脂肪酸トリグリセリドなどの親油性成分、1,2-プロピレングリコール及びエタノール等の親水性成分、ポリオキシエチレングリコール化植物油などの界面活性剤をバランスよく配合したマイクロエマルジョン前濃縮物製剤が開発された(特許文献1参照)。このものは、水に溶解させることによってO/W (oil-in-water)型エマルジョンとなる製剤であり、該エマルジョンは水溶液と同様の性質を持ち、消化管上部より吸収されやすい特徴を有している。 しかしながら、上記マイクロエマルジョン前濃縮物製剤は、利用される親油性成分、界面活性剤などに由来する特異な臭いがあり、これが服用者に不快感を伴わせ、該製剤の利用のコンポライアンスを妨げる要因となっている。また、一般にこのようなエマルジョン形態及びその前濃縮物形態は、その調製に特殊な装置を必要とする不利があり、しかも粉末形態に比べると経時的に不安定であり、保存条件などによっては、均一なエマルジョン形態への調製を困難としたり、該エマルジョン形態を保持し得ない難点がある。更に、揮発性の溶媒であるエタノールを含有するものでは、その揮発を防ぐために、例えば両面アルミニウムのブリスターなどで包装する必要があり、このため開封時まで内容物の確認ができず、使用に際しても溶媒の揮発を防ぐために使用直前までブリスター包装から出せないという取り扱上での問題もある。 上記マイクロエマルジョン前濃縮物製剤を含めて、油性乃至エマルジョン形態のシクロスポリン製剤に見られる問題点を解決する目的で、水に溶解する粉末等の経口投与用固剤形態のシクロスポリン製剤も種々提案されている(特許文献2-6参照)。 即ち、特許文献2は、シクロスポリンと、ポリオキシエチレン硬化ひまし油等の有機溶媒可溶性界面活性剤と、グルコース、ソルビトールなどの常温で固体の有機溶媒可溶性物質との緊密混合物(固溶化混合物)粉末を提案している。 特許文献3には、シクロスポリンとα-シクロデキストランとの混合粉末、または該粉末に水性溶媒を加えた溶液状物を提案している。 特許文献4は、シクロスポリンに脂肪酸サッカライドモノエステル及び1,2-プロピレングリコールなどを含有する固体単位用量形態の医薬組成物を開示している。 特許文献5は、ラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤及びグリセリン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤と、シクロスポリンとを含有する粉末乃至固形剤を開示している。 また、特許文献6には、シクロスポリンとラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤とを含む固体医薬組成物が開示されている。 しかしながら、これらの提案された固形製剤は、いずれも尚、シクロスポリンを実用的に十分な濃度で溶解できるものとは言い難い。しかも、いずれの固形製剤も、利用する製剤基剤などに基づく味、臭い等の不快感を解消できなかったり、製剤の安定性が劣っていたり、生物学的同等性が保証できなかったりする欠点を有している。特に、シクロスポリン自体には刺激性があり、これを含む組成物はそれ自体でも服用者に不快感を与えるおそれがある。 更に、特許文献2に記載される如きポリオキシエチレン硬化ひまし油などの界面活性剤は、安全性の面で必ずしも好ましいものではない。特許文献3に記載のシクロデキストリンは、シクロスポリンの溶解性を高める効果を奏するために、シクロスポリンに対して約10重量倍以上もの多量に配合する必要があり、その配合量自体製剤的に決して好ましいものではない。特許文献4に記載の製剤では、1,2-プロピリングリコールが製剤中に残留して安全性を損なうことも懸念される。 以上のように、現在提案されている水に溶解する経口投与用固剤形態のシクロスポリン製剤は、いずれもその実用化に当たっては尚改善されるべき種々の欠点を有している。特公平7-25690号公報特許第2536876号明細書特許第2577049号明細書特許第3484190号明細書特公平10-59862号公報特表2001-505928号公報 本発明の目的は、従って、現在開発され、また提案されている各種シクロスポリン製剤の問題点を悉く解決した、シクロスポリン固形製剤を開発、提供することにある。より詳しくは、優れた水に対する溶解性を有する経口投与用固形製剤形態のシクロスポリン製剤を開発、提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとを混合するときには、得られる混合物はその水に対する溶解性が著しく向上し、またこの混合物を高分子化合物で被覆するときには、上記目的に合致するシクロスポリン固形製剤が得られるという新しい知見を得た。本発明はかかる知見を基礎として更に研究を重ねた結果完成されたものである。 本発明は、下記項1〜6に示すシクロスポリン固形製剤及びその製造方法を提供する。 項1. シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとの混合物を高分子化合物で被覆してなるシクロスポリンの経口投与用固形製剤。 項2. シクロスポリン重量に対して、蔗糖脂肪酸エステルが3〜7倍重量の割合で混合される項1に記載の製剤。 項3. 高分子化合物がポリエチレングリコール、例えばマクロゴール6000又はマクロゴール20000である項1または2に記載の製剤。 項4. シクロスポリン重量に対して、高分子化合物が0.5〜2倍重量の割合で用いられる項1〜3のいずれかに記載の製剤。 項5. シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとを溶媒中に溶解した溶液から溶媒を除去し、次いで得られる混合物を高分子化合物で被覆することを特徴とする項1に記載のシクロスポリンの経口投与用固形製剤を製造する方法。 項6. シクロスポリンの経口投与用固形製剤のマスキング方法であって、シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとを溶媒中に溶解した溶液から溶媒を除去し、次いで得られる混合物を高分子化合物で被覆することを特徴とする方法。 本発明製剤 以下、本発明製剤につき詳述する。 本明細書において、シクロスポリンなる語は、例えばメルクインデックス(Merck Index)第12版に定義されているように、非極性ポリペプチドのクラスのいずれかに属するメンバーを言う。これには、シクロスポリンA、シクロスポリンB、シクロスポリンC、ジヒドロシクロスポリンC、シクロスポリンD、ジヒドロシクロスポリンD、シクロスポリンG、イソシクロスポリンG、及びこれらのポリペプチドを構成するアミノ酸のいくつかを他のアミノ酸で置換し、除去し、または修飾して得られる医療上有用な免疫作用等を有するものも包含する。これらのうちで特に好ましいものはシクロスポリンAである。上記各クラスに属するシクロスポリンは、その一種を単独で本発明に利用することもでき、また二種以上を併用することもできる。 本発明経口投与用固形製剤中に含有させるシクロスポリンの量(濃度)は、得られる製剤がその投与によって、所望の薬理効果を奏し得る有効量である限り特に限定されない。通常、シクロスポリン総量が約13〜20重量%となる範囲から選択されるのが好ましい。勿論この濃度は得られる製剤の投与方法、これを適用する患者の体重、性別、年齢、その他の性状、疾患の程度(目的とする治療効果の程度)等に応じて、適宜増減できる。 蔗糖脂肪酸エステルは、蔗糖と脂肪酸とがエステル結合によって結合した構造を有し、エステル型非イオン(ノニオン)界面活性剤に属するものであって、食品添加物として認可され、既に、食品分野、化粧品分野などで広く用いられている各種のものを包含する。これらは別途合成して利用することもできるが、既に各種市販されており、これらの市販品を有利に用いることができる。該蔗糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸成分としては、好ましくはパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などを挙げることができる。好ましい市販品としては、「DKエステルSS」(第一工業製薬社製)を挙げることができる。 該蔗糖脂肪酸エステルの本発明経口投与用固形製剤中への含有量(濃度)は、一般には、シクロスポリン重量に対して、約3〜7倍重量、好ましくは約3〜5倍重量となる範囲から選ぶことができる。この範囲での利用によって、本発明所期の優れた効果を奏する経口投与用固形製剤を得ることができる。 尚、本発明製剤は、上記蔗糖脂肪酸エステルの所定量をその必須成分として含有することを前提として、更に他の界面活性剤を含有することも勿論可能である。この蔗糖脂肪酸エステルと併用可能な他の界面活性剤としては、非イオン性(ノニオン性)界面活性剤であればよい。その代表例としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。これらの蔗糖脂肪酸エステルとの併用割合は、特に限定されるものではないが、一般には蔗糖脂肪酸エステルと等重量までとするのが好ましい。これらの併用は、シクロスポリンの溶解性を更に向上させる場合がある。 高分子化合物の代表例としては、ポリエチレングリコールを挙げることができる。これは酸化エチレンの重合体混合物である。本発明において用いられるポリエチレングリコールは、従来より、医薬品分野、化粧品分野等において基材、粘度調整剤等として幅広く使用されているもののいずれでもよい。その平均分子量は、通常200〜20000程度の範囲にある。特に好ましいポリエチレングリコールとしては、日本薬局方に収載されているマクロコール6000及びマクロゴール20000を挙げることができる。これらはその一種を単独で用いることもでき、また二種以上を併用することもできる。 該高分子化合物の使用量は、前記シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとの混合物を被覆できる限り特に限定されるものではない。一般には、シクロスポリン重量に対して、高分子化合物の総量が約0.5〜2倍重量、好ましくは約0.5〜1.0倍重量となる範囲から選ばれるのが適当である。この範囲での利用によって、本発明所期の優れた効果を奏する経口投与用固形製剤を得ることができる。 本発明製剤は、シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとの混合物を高分子化合物で被覆したことに基づいて、水に対する優れた溶解性を有するという格別顕著な特徴を有する。この特徴に加えて、本発明製剤は、安全性の面、取り扱性の面などにおいても優れており、基剤、溶媒等に基づく特異な味、臭い等がなく、シクロスポリンに独特の刺激性の味もマスクされており、飲みやすく、しかも、長期に亘って安定して所望の経口投与用製剤形態を維持し得、シクロスポリンの薬効、吸収性等も変化(劣化)するおそれがなく、更に例えば散剤形態に調製される場合には、その特有の流動性を保持する特徴をも有する。 本発明製剤の調製 以下、本発明製剤の製造方法(調製方法)につき詳述する。 本発明経口投与用固形製剤は、製剤分野で常套される各種の方法により製造することができる。特に好ましくは、シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとを溶媒中に溶解した溶液から溶媒を除去し、次いで得られる混合物を高分子化合物で被覆することにより製造できる。 上記方法において用いられる溶媒は、引き続き蒸発操作などによって除去できる限り特に限定はないが、好ましくは極性有機溶媒、特に好ましくは親水性有機溶媒であるのがよい。好ましい溶媒の具体例には、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エトキシエタノール、ジメチルホルムアミド等の親水性溶媒、及びこれらと塩化メチレン、クロロホルム等との混合溶媒が含まれる。これらのうちでは、エタノール(無水)及びエタノール-塩化メチレン混合溶媒が好ましい。 シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとの上記溶媒への溶解は、好ましくは撹拌下に実施される。その際、特に必要ではないが、例えば40℃程度の若干の加温条件を採用することも可能である。次いで、得られる溶液から溶媒を除去する。この溶媒の除去は、通常、加熱条件下での溶媒の蒸発操作によって実施される。また、上記溶媒溶液について、スプレードライ等の噴霧乾燥法を適用することによっても、所望のシクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとを含む混合物固体(塊状物または粉体)が得られる。上記混合物固体が塊状物の場合は、次いでこれを適当なサイズに解砕し、篩い分けすることによって、粉末形態の製剤を得ることができる。粉末形態の製剤は、また、必要に応じて常法に従って顆粒剤、錠剤などの適当な製剤形態に賦型することもできる。 本発明方法においては、次いで得られる粉末、細粒、顆粒、錠剤などの固形製剤の表面を高分子化合物で被覆する。この操作は、通常のこの種医薬製剤のコーティング操作と同様にして実施することができる。より具体的には、例えば塩化メチレンとエタノールとの混合溶媒に予め溶解した高分子化合物の溶液を、上記固形製剤に噴霧後、乾燥することにより実施できる。 尚、本発明製剤の製造においては、通常の医薬製剤の調製に用いられることの知られている製剤学的に許容される担体(賦形剤)及び添加剤などを任意に添加配合することも勿論可能である。賦形剤の具体例としては、カルメロース(CMC)、カルメロースナトリウム(CMC-Na)、カルメロースカルシウム(CMC-Ca)、乳糖、結晶セルロース、D-マンニト−ル、白糖、クロスポビドン、ケイ酸カルシウムス等があげられる。また、添加剤には、結合剤、崩壊剤、流動化剤等が含まれる。結合剤の具体例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム等があげられる。崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等があげられる。流動化剤としては、無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム等があげられる。更に本発明製剤中には、他の医薬品に使用される添加剤、例えば滑沢剤、着色剤、着香剤等を配合することもできる。これらの担体及び添加剤の添加配合時期は、その種類に応じて適宜決定することができる。即ちこれらは、前記混合物個体の調製の際に、シクロスポリン及び蔗糖脂肪酸エステルと共に溶媒中に添加してもよく、溶媒溶液から溶媒を除去して得られる混合物固体またはその粉砕物に添加してもよく、固形製剤を被覆する高分子化合物の溶液中に添加してもよく、更にコーティング後の製剤と混合してもよい。 かくして、粉末(散剤)、細粒剤、顆粒剤、錠剤などの形態の本発明経口投与用固形製剤を調製できる。粉末、顆粒剤などの形態の本発明製剤は、更にこれらを適当な硬質カプセル、軟質カプセルなどに充填してカプセル剤形態とすることもできる。 本発明は、水に対する溶解性に優れ、安全性、取り扱性の面においても実用上有利で、更に味、臭いなどがマスクされて服用容易な、シクロスポリンの経口投与用固形製剤を提供する。しかも、該製剤はその製剤形態を長期に亘って安定して維持し得、有効成分の薬効、吸収性等の劣化もない。従って、本発明製剤は、シクロスポリン本来の医薬用途に非常に有利に利用することができる。 以下に試験例および実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 尚、各例において、用いた各成分は次の通りである。・シクロスポリン;シクロスポリンA(IVAX社製)・蔗糖脂肪酸エステル;医薬品添加物規格品(第一工業製薬社製「DKエステルSS」)・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60;医薬品添加物規格品(日光ケミカルズ社製)・ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール;医薬品添加物規格品(フロイント産業社製)・ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール;医薬品添加物規格品(旭電化工業社製)・ポリグリセリン脂肪酸エステル;食品添加物公定書品(日光ケミカルズ社製)・モノステアリン酸グリセリン;日本薬局方品(日光ケミカルズ社製)・グリセリン脂肪酸エステル;食品添加物公定書品(日光ケミカルズ社製)・プロピレングリコール脂肪酸エステル;食品添加物公定書品(日光ケミカルズ社製)・ラウリル硫酸ナトリウム;日本薬局方品(東京化成工業社製)・クロスポピドン;医薬品添加物規格品(ISP社製)・マクロゴール6000;日本薬局方品(日本油脂社製) 試験例1 粉末製剤の溶解性試験 下記表1に記載の各界面活性剤を、シクロスポリンに対して所定重量倍となる割合で利用して、シクロスポリンと界面活性剤との混合物をメタノール・塩化メチレン(1:1)混液に溶解した後、加熱乾燥して適当なサイズに解砕し、篩分けした。この篩分けした混合物に対して14重量%となるように予めポリエチレングリコール6000をエタノール・塩化メチレン(1:9)混液に溶解して調製した溶液を、上記で調製、篩分けした混合物に噴霧、コーティングして、本発明製剤を得た。 得られた各製剤について、シクロスポリン約10mg相当分を採取し、このものを水30mLに対する溶解度を、日本薬局方通則に従って測定した。得られた結果を表1に併記する。 表1に示される結果から、蔗糖脂肪酸エステルは、他の界面活性剤に比して、非常に顕著なシクロスポリンの溶解性向上効果を奏することが明らかである。 試験例2 粉末製剤及び錠剤の溶解性および溶出率試験 蔗糖脂肪酸エステルを、シクロスポリンに対して下記表2に記載の所定重量倍となる割合で利用して、試験例1と同様にしてコーティング品を得、このものに更に表2に記載の適当な賦形剤の所定量を混合して、本発明製剤(粉末)を得た。また、上記混合物に対し0.5重量%となるように滑沢剤のステアリン酸マグネシウムを混合し、打錠圧400〜800kgにて打錠して、錠剤形態の本発明製剤を調製した。 得られた各製剤について、シクロスポリン約10mg相当分を採取し、このものを水30mLに対する溶解度を、日本薬局方通則に従って測定した。得られた結果を表2に併記する。 また、表2には、各製剤のシクロスポリン50mg相当分を採取し、日本薬局方溶出試験法第2法に記載の試験液900mLを用いて、毎分50回転または100回転の条件で溶出試験を行った結果(試験開始15分後の溶出率)を併記する。 表2において、※印は100回転における結果を示す。その他は50回転における結果である。 表2に示される結果から、シクロスポリン重量に対して蔗糖脂肪酸エステル3〜7重量倍の配合によって、賦形剤の種類を問わず、ほとんど良好な溶出率結果が得られた。溶解度においても、その測定を行った賦形剤としてクロスポビドンを3及び4重量倍配合した試験において、良好な結果が得られた。これらのことから、本製剤はシクロスポリンの非常に顕著な溶解性及び溶出性向上効果を奏することが明らかである。 下記の配合比率により、シクロスポリン及びショ糖脂肪酸エステルをエタノール・塩化メチレン(1:1)混液に溶解させ、加熱乾燥により溶媒を蒸発させた後、得られる混合物を整粒した。得られた整粒物に対して14重量%となる量のポリエチレングリコール6000を予めエタノール・塩化メチレン(1:9)混液に溶解させた溶液を、該整粒物に噴霧してコーティング層を形成させ、次にコーティング層にステアリン酸マグネシウムを添加、混合して、最終製品(散剤形態)を得た。 シクロスポリン 17重量% ショ糖脂肪酸エステル 68重量% マクロゴール6000 12重量% ステアリン酸マグネシウム 3重量% 合計 100重量% 試験例3 製剤安定性試験 実施例1で調製した本発明製剤(散剤)について、(1)40℃:75%RHで6ヶ月密閉容器保存、(2)25℃:60%RHで12ヶ月密閉容器保存、(3)50℃: 4週間オープンシャーレ中、(4)30℃: 75%RHで4週間オープンシャーレ中のそれぞれの条件下に保存して、製剤安定性(性状、含量値)を試験した。試験結果を表3〜表6に示す。尚、含量値は、日本薬局方液体クロマトグラフ法に準じて、製剤中のシクロスポリン含量を測定したものである。 上記各表に示される結果から、本散剤は貯蔵安定性に優れたものであることが判る。 試験例4 散剤の溶解性および溶出率試験 実施例1で調製した散剤の溶解性および溶出率試験を、試験例2と同様にして実施した。但し、試験液としては日本薬局方試験法に定められたpH1.2、5.0および6.8に調整したものおよび水(pH7.0)を用いた。pH6.8の試験液を用いた場合は、50回転および100回転のそれぞれを試験した。 得られた結果を図1(横軸:経過時間(分)、縦軸:溶出率(%))に示す。図中、曲線(1)はpH1.2に調整した場合の結果であり、曲線(2)はpH5.0に調整した場合の結果であり、曲線(3)はpH6.8に調整した場合の結果であり、曲線(4)は水(pH7.0)を用いた場合の結果であり、曲線(5)はpH6.8の試験液を用いて100回転の条件で溶出試験を行った場合の結果である。 図1に示される結果から、いずれの場合も良好な溶出曲線が得られることが明らかである。 試験例5 血中シクロスポリン濃度測定試験 実施例1で調製した散剤0.6g(シクロスポリンとして100mgを含有する)と、市販されているシクロスポリン製剤(1カプセル中にシクロスポリン50mgを含有するカプセル剤の2カプセル)とを、それぞれ健康成人男子20例に服用させて、経時的に血中シクロスポリン濃度を測定した。 結果を図2(横軸=時間(時間)、縦軸=濃度(ng/mL))に示す。図中、(1)は本発明散剤の結果であり、(2)は市販カプセル剤の結果である。 図2に示される結果から、両者は血中濃度において差はなく、従って、本発明製剤は市販のカプセル剤と同様に、容易に血中に移行することが確認された。 試験例6 官能試験(苦み・刺激性試験) 実施例1で製した製剤を検体として用いて、該検体の苦味・刺激性を次の官能テストにより確認した。 即ち、被験者5人として、水で口腔内をすすいでから検体約0.6gを口腔内に投入し、舌を使い検体を移動させながら10秒間滞留させた。その際の苦みを記憶した(口腔内滞留中の苦み)。滞留後、検体を吐き出し口腔内を水で洗浄した。洗浄後、滞留中及び洗浄後の苦みを記録した(口腔内洗浄後の苦み)。 苦みの判定は、苦み無しを0、最も苦いを4とし、0から4の5段階判定とした。結果を下記表7(口腔内滞留中の苦み)および表8(口腔内洗浄後の苦み)に示す。 表7および8に示される結果から、最終的(口腔内洗浄後)に被験者5人中3人が最低付近の苦みを感じていたものの、口腔内滞留中の苦みを感じたものはいなかった。このことから本発明製剤は、シクロスポリンの苦みをマスクできるものであることが明らかとなった。 本発明は、殊に水に対する溶解性に優れたシクロスポリンの経口投与用固形製剤を提供するものであり、この製剤は医薬品分野において、臓器移植後の拒絶反応の抑制剤、各種の自己免疫疾患治療剤として臨床上有利に利用できる。試験例4に従って本発明薬剤の溶解性および溶出率を試験した結果を示すグラフである。試験例5に従って本発明薬剤投与後の血中シクロスポリン濃度を測定した結果を示すグラフである。シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとを含有する混合物を高分子化合物で被覆してなるシクロスポリンの経口投与用固形製剤。シクロスポリン重量に対して、蔗糖脂肪酸エステルが3〜7倍重量の割合で含有される請求項1に記載の製剤。高分子化合物がポリエチレングリコールである請求項1または2に記載の製剤。シクロスポリン重量に対して、高分子化合物が0.5〜2倍重量の割合で用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の製剤。シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとを溶媒中に溶解した溶液から溶媒を除去し、次いで得られる混合物を高分子化合物で被覆することを特徴とする請求項1に記載のシクロスポリンの経口投与用固形製剤を製造する方法。シクロスポリンの経口投与用固形製剤のマスキング方法であって、シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとを溶媒中に溶解した溶液から溶媒を除去し、次いで得られる混合物を高分子化合物で被覆することを特徴とする方法。 【課題】 シクロスポリンを実用的に十分な濃度で溶解でき、味、臭い等の不快感のない、安定な経口投与用製剤を提供する。 【解決手段】シクロスポリンと蔗糖脂肪酸エステルとの混合物を高分子化合物で被覆してなるシクロスポリンの経口投与用固形製剤。【選択図】なし