生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_乳酸菌の酸耐性に関わる遺伝子および酸誘導プロモーター
出願番号:2004092939
年次:2005
IPC分類:7,C12N15/09,C12N1/15,C12N1/19,C12N1/21,C12N5/10,C12Q1/02,C12Q1/68


特許情報キャッシュ

佐々木 泰子 伊藤 喜之 佐々木 隆 JP 2005278405 公開特許公報(A) 20051013 2004092939 20040326 乳酸菌の酸耐性に関わる遺伝子および酸誘導プロモーター 明治乳業株式会社 000006138 佐々木 泰子 伊藤 喜之 佐々木 隆 7C12N15/09C12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/10C12Q1/02C12Q1/68 JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12Q1/02C12Q1/68 AC12N5/00 A 7 OL 14 4B024 4B063 4B065 4B024AA03 4B024AA05 4B024CA04 4B024CA11 4B024DA05 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B024GA19 4B024HA14 4B063QA01 4B063QA05 4B063QA13 4B063QA18 4B063QQ05 4B063QQ13 4B063QQ42 4B063QQ52 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR56 4B063QR84 4B063QS24 4B063QS25 4B063QS34 4B063QX02 4B065AA01X 4B065AA01Y 4B065AA30X 4B065AA30Y 4B065AA57X 4B065AA57Y 4B065AB01 4B065AC05 4B065BA02 4B065BC02 4B065CA41 4B065CA54 本発明は、発酵乳製品製造やプロバイオティックスに関わる乳酸菌など食品微生物、及び、乳酸・アミノ酸・核酸など有用物質を生産する微生物、環境浄化に関わる微生物の酸耐性の評価及び強化に関する。さらに詳しくは、ラクトバチルス・ガセリ菌のゲノムに存在し、本菌の酸耐性機構発現に関わる遺伝子の応用に関する。また、該酸耐性遺伝子の転写を制御している酸ストレス誘導プロモーターとその応用に関する。 地球上には様々な場所に酸性の環境があるため、微生物を産業的に応用する場合、酸性環境に対する抵抗性(酸耐性)は重要な形質である。酸性環境で生育する微生物は、外部の低pHというストレスに耐えて生育あるいは生存するために、細胞内pHを中性付近の一定の値に保つ必要がある。特に、乳酸菌や酢酸菌、プロピオン酸菌をはじめとする有用微生物では、生育の際に代謝産物として酸を生成するため環境の酸性化が進み、酸に対する強固な防御機構を持つ必要がある。また、ヒトや家畜などの胃内が酸性であるため、プロバイオティクス菌等が消化管のなかで生き残るためにも酸耐性は重要な要素である。そのため、各種の酸を生成する菌では、その酸耐性に関わる遺伝子やタンパク質について検討が加えられてきた。例えば酢酸菌については、その酢酸耐性遺伝子やその遺伝子を用いて微生物の酢酸耐性を向上させて高濃度の酢酸を得る方法等が既に報告されている。(例えば、特許文献1)また、乳酸菌においても酸耐性に関わる遺伝子がいくつか報告され、それに伴い乳酸菌の酸耐性機構もいくつか報告されている。(例えば非特許文献1) 従来の報告の多くは、ランダムな変異によって遺伝子を失活させ、得られた変異株の中から酸耐性が弱くなったものを見つけてその遺伝子を解明するか、あるいは、「酸適応」現象(すなわち、対数増殖期の細胞を致死的でない比較的穏やかな酸性条件におく事によって酸耐性メカニズムが誘導され菌の酸耐性が増加する現象)を利用して、酸耐性に関わるタンパク質を検討するものであった。 これらの場合に問題となるのは、ランダム変異法は適用できる微生物が限られているうえに効率が良くないこと、また、二次元電気泳動法を用いたタンパク質の解析法(プロテオーム解析)では、「酸適応」が数分間で起きる現象であるにも拘わらず、発現に時間を要するタンパク質を指標として解析が行われてきたことである。従って、これまで報告されている遺伝子は「酸適応」時に短時間で発現量が増大する本来の酸耐性遺伝子を正確に反映したものとは言えない。 また、酸耐性遺伝子本体の検討だけでなく、「酸適応」時に遺伝子発現量を増大させる仕組み、すなわち、酸ストレスで誘導される遺伝子発現プロモーターについても検討が行われている。例えば特許文献2では Lactobacillus acidophilusのF1F0-ATPase プロモーターが記載されている。この検討の主旨は、酸性条件で誘導される該プロモーターを用いることによって目的遺伝子の発現量を増大させて、有用タンパク質などの大量生産や特定の形質を向上させて有用微生物を得ることを狙ったものである。培地を酸性にするには、乳酸や酢酸、クエン酸などを添加するか、あるいは、微生物が自然に作るこれらの酸を利用すれば良いので、この方法は食品製造に適するものであると言える。しかしながら特許文献2記載の報告では、酸性条件での遺伝子発現量増加が高々2倍程度であり、遺伝子産物の発現量をさらに増大することができる酸ストレス誘導プロモーターが望まれる状況にあった。特開2003-289868号公報US 6,242,194号公報Rallu F ,Gruss A,Ehrlich SD ,Maguin E ,Molecular Microbiology 2000 35(3)517-528 そこで本発明の課題は、酸性食品の製造に関わる乳酸菌などの微生物からより効果の高い酸耐性遺伝子を探索し、その機構を応用して有用微生物に酸耐性を賦与、あるいは増強、あるいは検出するなどの応用をはかることである。また、もう一つの課題は、培地を酸性にすることによって有用なタンパク質をコードする遺伝子の発現量を確実に増大することができる強い遺伝子発現誘導プロモーターを提供することである。 本発明者らは、先の2つの課題を解決するにあたり、乳酸菌の中でも酸耐性が強いことが知られているLactobcillusgasseri OLL2716株(以下LG21株;寄託番号FERM BP-6999)に注目して検討を開始した。LG21株の酸耐性が強いことは、培養液の最終pHがLG21株では約3.8であり、例えばチーズ製造乳酸菌Lactococcus lactisの約4.5と比べて低いこと、また、人工胃液を用いた生残性の検討結果から他の乳酸菌株と比べてもLG21株の生残性が高かったことなどから明確である。 すなわち本発明は、LG21株に強い酸耐性機構が存在すると予想して、これまで知られていない酸耐性機構に関わる有用遺伝子を見出し、その応用を図ることを狙ったものである。その為、まず酸に対するLG21株の挙動を検討したところ、定常期の細胞ではpH2.5においても生残菌数は減少しないが、対数増殖期の細胞ではpH2.5におくと生残菌数が漸減することを確認した(図1)。 そこで、酸に対する感受性の高い対数増殖期のLG21株細胞を用いることに加えて、「酸適応」によって短時間に発現量が増大する本来の酸耐性遺伝子を検出することが可能なDNAマイクロアレイ技術を用いてLG21株の酸耐性遺伝子を網羅的に解析することを企画した。この方法を用いると、従来行われてきたプロテオーム解析などの手法では捉えることが出来ない遺伝子の転写量変化を解析することができる。 つまり、菌株として新規な酸耐性遺伝子を有する可能性が高いLG21株を用い、且つ、検出方法としても従来の方法では捉えることが出来なかった遺伝子の転写状況を把握出来るDNAマイクロアレイ技術を用いることで、より確実に新規で有用な酸耐性遺伝子と、酸ストレスによって誘導される遺伝子発現プロモーターの両方を見出すことを狙ったものである。そして、LG21株の酸適応の際に転写が促進あるは抑制される遺伝子をゲノム・スケールで網羅的に解析し、その結果「酸適応」時に誘導された乳酸菌の酸耐性発現に関わると考えられる新規遺伝子(以下、#474)を見出すことに成功した。しかもアレイ解析の結果から、「酸適応」時の#474遺伝子転写量は未処理区の10倍以上に増加することが確認され、#474の転写調節機構は酸ストレスによって非常に強く誘導されることが判明した。したがって、#474の上流にある転写調節に関わる塩基配列を利用すれば、培地への酸添加という簡単な方法で特定の遺伝子を大量に発現させる、いわゆる有用遺伝子の大量および誘導発現系の構築が期待できるのである。 このようにして得られた酸耐性遺伝子#474の塩基配列(配列番号1)とそれから演繹されるタンパク質のアミノ酸配列をデータベースで比較した結果、該タンパク質と相同なタンパク質がいくつか見い出された。BLASTPでの相同検索で高い相同性を示したのは、大腸菌K12株のputative receptor protein (score=157,accessionnumber AE000325-6)、枯草菌168株のYWKB protein (score=76, accession number Z99122-189)、乳酸菌LactobacillusplantarumWCFS1株のtransport protein (score=53,accession number AL935262-14)などである。しかし、これらのタンパク質の機能は明確になっておらず、酸耐性との関連性を示す証拠は全く認められない。したがって、本発明で見い出されたLG21株由来の遺伝子#474は機能が不明で、酸耐性など産業的有用性との関連が示唆されたことがないことが判明した。 さらに、この遺伝子#474をノックアウトした株(以後、Δ474株と呼ぶ)を作成し、得られた株の性質を種々の試験で野生株(LG21株)と比較した。その結果、Δ474株は通常の培養条件では野生株と生育の差が認められなかったのに対して、酸性培地では両株の生残性に差が認められた。例えば、pH2.5に調整したMRS培地での生残性を比較すると、Δ474株は「酸適応」処理を行った場合で野生株の1/30、適応が起きていない条件で1/8の生残率しかなく、その他の証拠も併せて判断するとΔ474株の酸耐性が低下していることは明確であった。したがって、遺伝子#474が本菌の酸耐性に関与していると結論した。 この酸耐性に関与する新規遺伝子#474が大量に発現すると、該遺伝子を有する微生物(または、該遺伝子が導入された形質転換体)の酸耐性が向上すると考えられる。したがって、遺伝子#474の存否、あるいはその転写量、または最終産物であるタンパク質の量を測定することによって、微生物の酸耐性度の推定ができる可能性がある。遺伝子#474の存否、転写量、および該タンパク質の量は公知の方法で容易に測定可能である。例えば遺伝子#474の存否はPCR法などで、転写量は遺伝子#474の塩基配列をもとにしたノーザンブロッティング法や定量的なPCR法など、またタンパク質量は、例えばウエスターンブロッティング法など、それぞれ公知の方法で定量できる。これらのいずれかの方法を用いて測定対象微生物における遺伝子#474の存否、転写量、および発現量の少なくとも一つを測定することで、食品製造やプロバイオティックスなどの分野で有用に用いることのできる酸耐性度の高い微生物株をスクリーニングすることが可能となるものと考えられる。 本発明は以上の知見を元に完成するに至ったものである。すなわち本発明は以下の(1)〜(7)からなるものである。(1) 配列番号1に記載の塩基配列を有する遺伝子。(2)(1)に記載の遺伝子を導入して作成され、酸耐性が向上した微生物の形質転換体。(3)(1)に示される遺伝子が失活した微生物株。(4) 微生物が乳酸菌である(2)ないし(3)に記載の微生物株。(5)(1)に示される塩基配列を用いた酸耐性度の高い微生物のスクリーニング方法。(6)(1)に記載の遺伝子の転写を制御し、該遺伝子上流の配列番号2に記載される600塩基対内に存在する酸ストレス誘導プロモーター領域。(7)(6)に記載の酸ストレス誘導プロモーター領域を含む、遺伝子誘導発現系。また、本発明は(1)の配列番号1に記載の塩基配列の1個もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/または付加された塩基配列を有している遺伝子であっても、その機能が酸耐性に関与する遺伝子であればそれを含むことは言うまでもない。さらに(6)の配列番号2に記載の塩基配列の1個もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/または付加された塩基配列を有しているプロモーター領域であっても、その機能が酸ストレスによって誘導される遺伝子発現に関与するものであればそれを含むことは言うまでもないことである。 今回発見された遺伝子はこれまで酸耐性との関連が知られていない新規な遺伝子であり、短時間に強く誘導される酸耐性遺伝子であるため、新たな酸耐性機構として有用微生物、特に、乳酸菌などの食品製造やプロバイオティックスに用いられる微生物に酸耐性を賦与あるいは増強することが期待できる。また遺伝子#474の存否および発現量を測定することで、食品製造やプロバイオティックスなどの分野で有用に用いることのできる酸耐性度の高い微生物をスクリーニングすることも可能となるものと考えられる。 次に、酸耐性は生存に極めて重要であるため、細胞には複数の酸耐性機構が存在すると考えられるが、種によって異なると推定される酸耐性機構全体を解明して産業的応用を行うには、既知の機構以外の耐性機構解明が不可欠である。その際、既知の酸耐性機構に関わる遺伝子の他に本発明の遺伝子の欠失株を作成することによって、新規の酸耐性機構および関連遺伝子を新たに発見することが期待できる。 さらに、本発明の遺伝子は培地pHを低下させる(弱酸処理)という簡便な方法によって急激に転写量が増大するので、本遺伝子の転写制御機構を利用すれば、酸添加によって誘導可能な有用タンパク質の発現系が構築できる可能性がある。 本発明の配列番号1に記載の#474遺伝子は、LG21株から単離されたものであり、1182の塩基対からなる。また、本発明は配列番号1に記載の塩基配列の1個もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/または付加された塩基配列を有している遺伝子であっても、その機能が酸耐性に関与する遺伝子であればそれを含むことは言うまでもない。 遺伝子を発現させるためには、配列番号1記載の遺伝子を発現ベクターに導入すればよい。ベクターには、公知の発現系を有する遺伝子操作宿主細胞由来のプラスミドやファージ、コスミド等に本発明の遺伝子を用いることができる。 形質転換体作製は常法によって行えばよい。このとき宿主細胞として、宿主内に挿入された遺伝子を維持、増殖、発現させ得るものであればいずれも使用可能である。宿主には、例えば、大腸菌、ラクトコッカス属細菌、ラクトバチルス属乳酸菌、ビフィドバクテリウム属細菌、枯草菌、動物細胞が挙げられる。 #474遺伝子を失活した微生物を作製するには、ポイントミューテーション、相同組換え等の常法によって行えばよい。配列番号1記載の塩基配列を用いた酸耐性度の高い微生物をスクリーニングするには、配列番号1記載の遺伝子にハイブリダイズする遺伝子をスクリーニングし、配列番号1記載の配列の一部分から調製したプライマーを用いてクローニングすればよい。 また、本発明の配列番号2記載の塩基配列は、LG21株から単離されたものであり、#474遺伝子の上流に位置するプロモーター領域内に存在する600の塩基対からなる。さらに配列番号2に記載の塩基配列の1個もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/または付加された塩基配列を有しているプロモーター領域であっても、その機能が酸ストレスによって誘導される遺伝子発現に関与するものであればそれを含むことは言うまでもないことである。 以下、実施例を元に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。[実施例1] LG21株の酸ストレス耐性誘導(酸適応) LG21株の酸適応について以下により調べた。「酸適応」とは、対数増殖期の細胞を致死的でない比較的緩やかな酸性条件におく事(弱酸処理)によって酸耐性メカニズムが誘導され、酸耐性が増加する現象をいう。 まず、本菌での弱酸処理の至適pHを検討するため、MRS培地に乳酸を加えて様々な初発pH(pH5.8, 5.3, 4.8, 4.3, 3.8)の弱酸性培地を調整した。対数増殖期のLG21株細胞をこれら各々の培地に懸濁して37℃30分処理(弱酸処理)した後、強酸性(pH2.5)MRS培地で2.5時間処理して生残菌数を測定した。対照として初発pH6.5の培地に懸濁して30分処理した後、同様に強酸性培地(pH2.5)で2.5時間処理した場合の生残菌数も測定した。各pHでの効果を比較するために、弱酸処理した場合(処理区)の各々の生残菌数(CFU: Colony Forming Unit)を対照(無処理区)の生残菌数で割って比較した。(図2)その結果、pH4.8での弱処理が最も酸適応効果が高く、生残性は無処理区と比較して百倍以上増加した。 次に、弱酸処理の時間についても検討した。pH4.8の培地で15分から3時間まで検討した結果、弱酸処理が長いほど強酸処理での生残性は高かった。しかし、15分処理でも無処理区と比較して生残性が数十倍以上増加したので、以後の実験では弱酸処理時間を30分とした。pH4.8のMRS培地で弱酸処理を行うと、LG21株の生残率は無処理区と比較して10の2乗から5乗倍も高かった。(図3)[実施例2] LG21株の遺伝子を載せたDNAアレイ作成と解析条件の検討 LG21株の酸適応の際にどのような遺伝子が関与しているかを解析するために、本株ゲノムに存在する遺伝子を載せたDNAアレイを作製した。乳酸菌のアレイ解析については検討開始時点で報告がなかったため、本株での条件について検討した。A) DNAアレイの作製LG21株ゲノムの大きさは約2.1 Mbと推定されるが、現在までにその約9割の塩基配列を決定した。その平均GC含量は約35%で, 200 bp以上のORF(遺伝子候補)が約2900個あった。これらを通常の解析プログラム(BLASTPとCOG)を用いて各々のORFの機能推定を行った。得られた機能推定結果をもとに、機能未知遺伝子を含む1597個のORFを選択してLG21株用のDNAマイクロアレイ(以下、アレイと呼ぶ)を作製した。 アレイに載せるDNAをPCRで増幅するため、プライマーの設計を設計ソフトprimer3で行った。各ORFの内側の500 bpから800 bpの配列をPCRで増幅して各ORFのDNA断片を得た。HumanTFR などの対照遺伝子DNAを加え、duplicateとして合計3456スポットから成る、いわゆるStanfordタイプのマイクロアレイを作製した。DNA断片のスライドグラスへのスポッティングは(株)宝酒造に依頼した。B) 試料調製および解析条件の検討 アレイ解析は、次の1)から6)の手順に従って行った。すなわち、1) 菌体サンプルの採取、2) RNA調製、3) 逆転写酵素によるRNAからcDNAの調製と蛍光標識、4) 得られた蛍光標識cDNAとアレイ上のDNAスポットとのハイブリダイゼーション、5)各スポット蛍光強度の測定、6) シグナル解析、である。 最初に全体的条件を検討した。実験条件を検討する基準として、同一RNAから逆転写されたcDNAを蛍光色素Cy5およびCy3(ともに、Amersham Pharmacia Biotech)で標識してglobal normalizationした後、LG21株由来の約1600遺伝子の蛍光強度の比、すなわち、Cy5/Cy3が最も1.0に近づく条件を最適とした。まず、ハイブリダイゼーションに用いるRNA量を検討した結果、100μgもしくはそれ以上が適当であることが判明した。また、primerとしてrandomprimerとspecific primerを比較した結果、前者ではribosomal RNAなどと反応するためかバックグランドが高く良好な画像が得られなかった。これに対してspecificprimerを用いた場合には低いバックグランドで良好な画像が得られた。従って、プライマーには約1600遺伝子各々固有の3'末端配列(22〜24mer)から成るspecificprimer(ミクスチャー)を用いた。 以下、各工程の具体的な条件について検討した結果を示す。<菌体のサンプリング> 細菌mRNAの半減期は短いためサンプリングは迅速に行なう事が重要である。瞬時にRNaseを失活させるため、菌体を含む培養液10mlにstop solution(エタノールにDEPC水飽和フェノール5 %を加えたもの)1.25 mlを素早く添加・混合してmRNAの分解を止める。これを室温、10,000rpmで1分間遠心して上清液を捨て、菌体を液体窒素を用いて凍結した。この処理は全体で数分以内にし、凍結菌体サンプルはマイナス80℃で保存した。<RNA調製、cDNA化、蛍光標識とハイブリダイゼーション> 菌体サンプリング以降の実験操作は、一部の試薬メーカーの違いを除き基本的に以下の枯草菌アレイ実験方法に関する文献{Yoshida, K., et al.,Nucleic Acids Res., (2001), 29 (3), 683-692. Ogura, M.,et al., Nucleic Acids Res., (2001), 29 (18), 3804-3813}に準じて行った。 なお、アレイスキャナーはAffymetrix428(Affymetrix社)を、シグナル解析ソフトはImaGene(BioDiscovery社)を使用した。 以上の方法を用いてLG21株の対数増殖期あるいは定常期細胞から調製した同一のRNAを各々Cy5、および、Cy3標識してアレイ解析した結果、Cy5/Cy3 のシグナル比は約1,600遺伝子のほとんどで約1.0であった。(図4)また、この結果は再現性があったため本株でのアレイ解析がこの方法で精度良く進められると結論した。[実施例3] DNAアレイによるLG21株酸ストレス応答解析。 実施例2で確立した方法を用いて、LG21株の酸適応の際に起こる約1,600個の遺伝子の転写変化をアレイで解析した。 MRS培地で37℃15時間培養したLG21株の前培養液を、pH緩衝剤であるMOPS (3-morpholinopropanesulfonic acid, 和光純薬)を200 mM添加してpHを6.5に調整したMRS培地(MRS+MOPS pH6.5)800 mlに2%植菌して、さらに2時間静置培養した。培養液の濁度(OD660)が約0.4になった培養液を2分し、各々遠心(6000rpm,1分、室温)した。試験区では、沈殿(LG21株細胞)を乳酸でpH4.8に調整したMRS培地400mlに懸濁して37℃で弱酸処理を行った。弱酸処理開始後3分,8分、30分後に10 mlずつ菌懸濁液を採取して実施例2に示した方法でRNAを調整し、得られたcDNAを蛍光色素Cy5で標識した。対照サンプルでは、上記と同様に遠心処理を行ったが、上清液を用いて沈殿を再懸濁し37℃で培養した。そして上記と同じ時間に10mlずつ菌懸濁液を採取してサンプルを調製し、得られたcDNAを蛍光色素Cy3で標識した。 なお、酸適応が起こったことを確認するため、弱酸処理(または無処理)開始後30分の培養液を遠心(6000rpm, 1分、室温)し、沈澱した細胞をpH2.5のMRS培地に懸濁して生残率を測定した。その結果、処理区での生残性が対照よりほぼ実施例1と同程度に高かったので、本実験サンプルでも酸適応が起こったことが確認された。 上記の様にして得られた標識サンプルをアレイ解析して蛍光強度の比(すなわち、Cy5/Cy3比)を調べた結果、弱酸処理3分後には既に菌体内でダイナミックな転写変化が起こっていることが推測された。すなわち、約1600遺伝子のうち約60個の遺伝子では転写が3倍以上に促進されておりこれらの中に酸耐性に関わる重要な遺伝子が含まれていると推定された。一方、約40個の遺伝子では転写が3分の1以下に抑制されていた。(図5) 弱酸処理で転写量が増大する遺伝子が酸耐性発現に主に関与していると考えられるが、転写促進が認められた約60個の遺伝子の中には、アルギニン・オルニチン・アンタイポーター、オルニチン脱炭酸酵素、陽イオン輸送関連遺伝子、糖輸送関連遺伝子群など、酸耐性との関連が報告ないし推定されている遺伝子があった。 と同時に、転写量が増大した遺伝子には機能未知遺伝子もあった。その中で、短時間でも転写量の増加が顕著で30分後も高い転写が続いている未知遺伝子として、本発明者らは図5の太線部分に示す遺伝子#474を新たに発見した。遺伝子#474は、pH4.8の培地での弱酸処理後3分から30分にわたって対照の10倍以上の転写促進が認められた。しかも、酸適応がほとんど認められないpH5.3の培地で弱酸処理した場合と比べても、遺伝子#474の転写はpH4.8の処理で3倍以上促進された。したがって、弱酸処理の初期から高い転写量を示す遺伝子#474が、LG21株の酸耐性に関わる重要な遺伝子の一つである可能性が考えられた。[実施例4] 酸耐性との関連が推定された遺伝子#474の相同性検索 実施例3に示す結果から、遺伝子#474を選択してその機能を検討した。 まず、このようにして得られた酸耐性遺伝子#474の塩基配列(配列番号1)とそれから演繹されるタンパク質のアミノ酸配列をデータベースで比較した結果、該タンパク質と相同なタンパク質がいくつか見い出された。BLASTPでの相同検索で高い相同性を示したのは、大腸菌K12株のputativereceptor protein (score=157, accession number AE000325-6)、枯草菌168株のYWKBprotein (score=76, accession number Z99122-189)、乳酸菌Lactobacillus plantarum WCFS1株のtransport protein (score=53, accessionnumber AL935262-14)などである。しかし、これらタンパク質の機能は明確になっておらず、酸耐性との関連性を示す証拠は全く認められない。したがって、本発明で見い出されたLG21株由来の遺伝子#474は機能が不明で、酸耐性など産業的有用性との関連が示唆されたことがないことが判明した。しかも、相同性がある先の遺伝子の中で機能が明確になっているものはなく、従って酸耐性との関連性を示す証拠は全くない状況であった。 また、大腸菌では本発明と同様にアレイを用いて酸耐性について解析した報告(Tucker, D.L, et al., J. Bacteriol., 2002, 184(23) 6551-6558.)があり、酸耐性に関連すると考えられる多くの遺伝子が示されているが、遺伝子#474と相同性のあるywkBやyfdVはその中には含まれていない。したがって、大腸菌ではywkBやyfdVなどは酸耐性に関与していない可能性がある。 以上のように、塩基配列およびアミノ酸配列による相同性検索結果から、ガセリ菌LG21株の遺伝子#474はこれまでのところ機能の推定ができず、酸耐性など産業的有用性との関連が示唆されたことがないことが明確となった。[実施例5] 遺伝子#474ノックアウト株の作製 次に、遺伝子#474の機能を検討するために、本遺伝子を欠失した株(遺伝子#474ノックアウト株)を相同組換えによる二重交叉によって作製した。まず、遺伝子#474の内部配列705 bpを欠失したDNA断片を、常法によりLG21株ゲノムDNAを鋳型にしてPCR反応で増幅した。この断片を温度感受性複製ベクターpSG+E2(Y.Sasaki et al, , Appl. Environ. Microbiol.,2004,70(3),1858-1864 参照)由来の組み込みベクターに挿入してプラスミドpTERM4745(図6)を構築した。すなわち、LG21株のゲノム上にある遺伝子#474(図6太線の直線矢印:1179塩基対)の中央部分を欠失させるために、遺伝子#474の上流配列を含む472bpDNA断片(#474_A)と、遺伝子#474の下流配列を含む370bpDNA断片(#474_C)をPCRで増幅した。これら二つの断片を同一方向に結合してから組み込んだのがpTERM4745である。本プラスミドでは、二つのDNA断片(すなわち、#474_Aと#474_C)がLG21株ゲノムと相同な配列であるが、遺伝子#474の内部配列705bp(図6のB欠失部位)が欠失している。このプラスミドを用いエレクトロポレーション法でガセリ菌LG21株を形質転換した。低温(32℃)で培養しエリスロマイシン(Em)耐性で選択した形質転換体を、Em存在下高温(42℃)で培養して、該プラスミドが染色体に組み込まれた株(組み込み株)を得た。 次に、この組み込み株をEm無添加培地を用い低温(32℃)で培養した後、単一コロニーを100個分離して調べた。その結果、Em耐性を失った感受性コロニーが25個得られたので、これら感受性コロニーをPCRにかけて各々のゲノム上の遺伝子#474の構造を推定した。まず25個中18個のコロニーでは、遺伝子#474を挟むプライマー(primer1296L : AGCCTTCGTAGTCACCTTGAGC、および、primer ysk244: GCCCATCCTTACACTTCTTG)によるPCR反応で、約2.2kbのDNA断片が得られた。これらは二重交叉の際に元と同じ遺伝子構成に戻った株と考えられた。 しかしながら、残りの7株では、約1.5kbのDNA断片が得られた。すなわち、これらの7株では遺伝子#474の内部配列約0.7kbが欠失していることが推定された。さらに、欠失を予定した遺伝子#474内部配列705bpの中にはFbaIの制限サイトがあるが、上記7株で増幅された約1.5kbのDNA断片にはFbaIの制限サイトがない事が確認された。したがって、これら7個のコロニーでは遺伝子#474の内部配列約0.7kbが欠失していることが確認され、「遺伝子#474ノックアウト株」であると結論した。[実施例6] 遺伝子#474ノックアウト株の酸ストレスに対する耐性の検討 実施例5で得られた遺伝子#474ノックアウト株の1株(以下、Δ474株)の表現型をLG21株(野生株)と比較した。 まず、Δ474株とLG21株の生育を通常のMRS培地で培養して培養液の濁度を比較した。その結果、Δ474株は野生株のLG21とほぼ完全に同じ生育曲線を示し(結果は省略)、最終到達pHは両株とも約3.8であった。したがって、Δ474株はMRS培地での生育曲線と培養液の最終pHで判断する限り、LG21株と比べて明確に酸耐性が低下しているとは言えなかった。 そこで、酸耐性度を以下二つの方法でさらに詳細に比較した。 第1は、酸性培地中での「生残性」の比較、第2は、酸性培地中での「生育」の比較である。これらの結果から、Δ474株とLG21株には以下のような酸耐性に関わる形質の差が認められた。以下に具体的な結果を示す。 まず、実施例3と同様に、前培養液をMRS+MOPS pH6.5培地で2時間培養したLG21株とΔ474株細胞を直接(無処理区)、あるいは、MRSpH4.8培地でさらに30分間培養して酸適応を起こした細胞(弱酸処理区)を、強酸性(pH2.5)MRS培地に懸濁して生残性を比較した。その結果、両株とも無処理区に比較して、弱酸処理によりpH2.5のMRS培地中での生残率が増大し、酸適応が起こっていることが確認できた。しかし、Δ474株のCFUはLG21株と比べて低く、酸適応条件下で30分の1、適応が起きていない条件で8分の1だった。(図7) このように、酸性培地での生残性を比べるとΔ474株の生残率がLG21株より低下していたので、遺伝子#474が酸耐性に関わる遺伝子であることが判明した。 次に、pHを酸性に調整したMRS培地で両株の生育を比較した。 LG21株はpH 4.0以下のMRS培地ではほとんど生育しないため、塩酸でpHを4.25, 4.5, 4.75, 5.00に調整しフィルターで無菌濾過した培地で生育を比較した。なお、培地はMRSを無菌水で2分の1に希釈した液体培地(以下、1/2MRS培地と呼ぶ)を用いたが、さらに対照としてpHを特に調整しない1/2MRS培地も用いた。 まず、pH無調整の1/2 MRS培地で37℃15時間培養したLG21株とΔ474株を、上記のように各pHに調製した培地に2%植菌して生育を調べた。生育は培養液の濁度(OD660)で比較したが、この実験では両菌株で明確な差は認められなかった。 そこで、前培養後のpHが中性付近となるように前培養培地を変更した。すなわち、200 mM MOPSを添加してpHを7.5に調整し、フィルターで濾過滅菌した1/2MRS培地を前培養に用いて上記と同様の検討を加えた結果、pH4.25および4.5の培地でΔ474株の生育がLG21株より遅いことが判明した。(図8) pH無調整、および、pH 5.0の培地では両株の生育には差が認められなかったので、pH 4.25〜4.5での生育の差は、培地のpHによるものと結論された。 以上から、Δ474株はLG21株と比べて、低pHでの生残性と生育能が劣っていることが明確になった。したがって、遺伝子#474が本菌の酸耐性に関与していると結論した。 しかし、この差が明確に再現されるのは上述のように、前培養を中性付近で行った場合であり、通常の培地で一晩培養し培地のpHが4付近になる条件では差が明確ではなかった。これは、ノックアウト株(Δ474株)にも存在している他の複数の酸耐性機構が酸性条件で作動し、遺伝子#474の欠損を相補したため差が検出しにくかったと解釈される。実際にアレイ解析で検討した結果、Δ474株では弱酸処理によって酸耐性に関わると推定される複数の遺伝子が、LG21株と比べると数倍多く転写されることが判明した。(データ省略)つまり、中性付近の培地で培養し酸耐性機構全般が十分に作動していない条件でこそ、たった一つの耐性機構(この場合には遺伝子#474による酸耐性機構)の効果が検出できたと推定される。 本発明の新規遺伝子は、微生物の酸耐性に深く寄与しており、微生物を用いた食品製造、プロバイオティックス等において重要な性質となっている酸耐性に優れた微生物の創出、スクリーニングを可能とすることができる。また、本遺伝子の発現に関わる酸ストレス誘導プロモーターは10倍以上の遺伝子発現を誘導することができ、有用な遺伝子に連結することで簡便な酸刺激によって目的とする有用遺伝子の発現を増大させることができる。LG21株の対数増殖期と定常期における酸耐性能の比較。各pHで弱酸処理した場合のLG21株の生残率の比較。酸適応の有無による強酸処理後の生残率の比較。同一サンプルをCy5,Cy3標識した場合のシグナル分布(測定の信頼性を示す)。LG21株の酸適応時に転写促進あるいは抑制が認められた遺伝子転写量の変化。温度感受性組込みプラスミド pTERM4745。(遺伝子#474ノックアウト用)酸適応の有無によるLG21株と△474株酸耐性の比較。Δ474株とLG21株の低pHでの生育の比較。 配列番号1に記載の塩基配列を有する遺伝子。 請求項1に記載の遺伝子を導入して作成され、酸耐性が向上した微生物の形質転換体。 請求項1に示される遺伝子が失活した微生物株。 微生物が乳酸菌である請求項2ないし請求項3に記載の微生物株。請求項1に示される塩基配列を用いた酸耐性度の高い微生物のスクリーニング方法。 請求項1に記載の遺伝子の転写を制御し、該遺伝子上流の配列番号2に記載される600塩基対内に存在する酸ストレス誘導プロモーター領域。 請求項6に記載の酸ストレス誘導プロモーター領域を含む、遺伝子誘導発現系。 【課題】微生物の酸耐性に直接的に関与している新規な酸耐性遺伝子を提供すること。また酸ストレスによって連結遺伝子の発現を強く誘導することのできる新規な酸ストレス誘導プロモーターを提供すること。【解決手段】酸耐性が強いラクトバチルス・ガッセリOLL2716株(Lactobacillus gasseri:LG21)の酸適応時における短時間での酸ストレス遺伝子応答をDNAアレイ法で網羅的に解析し、見出された新規遺伝子の表現型を確認することで新規酸耐性遺伝子と概遺伝子の誘導に関わる新規酸ストレス誘導プロモーターを見出した。【選択図】なし 配列表


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