タイトル: | 公開特許公報(A)_ノダウイルスの感染予防法および治療法 |
出願番号: | 2004086929 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K35/76,A01K61/00,A23K1/16,A23K1/18,A61P25/00,A61P31/12 |
中井 敏博 JP 2005272340 公開特許公報(A) 20051006 2004086929 20040324 ノダウイルスの感染予防法および治療法 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 松尾 憲一郎 100080160 中井 敏博 7A61K35/76A01K61/00A23K1/16A23K1/18A61P25/00A61P31/12 JPA61K35/76A01K61/00 BA23K1/16 304BA23K1/18 102AA61P25/00A61P31/12 171 5 OL 8 2B005 2B104 2B150 4C087 2B005GA01 2B005GA02 2B005MB02 2B104AA01 2B104AA05 2B104BA13 2B104CF02 2B150AA08 2B150AB10 2B150DD11 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC83 4C087MA01 4C087NA14 4C087ZA01 4C087ZB33 4C087ZC61 この発明は、ノダウイルスの感染、特にウイルス性神経壊死症などの予防法および治療法に関するものである。更に詳細には、この発明は、病原性が認められないアクアビルナウイルスを用いて、特に、ノダウイルスの感染によるウイルス性神経壊死症などの予防法および治療法に関するものである。 現在、海産魚資源を保護ならびに確保するために、約40種類の海産魚が国内で養殖されている。また、数種類の稚魚も養殖の種苗として生産されている。かかる魚に対する種苗生産技術ならびに養殖技術も開発されてきているが、感染、特にウイルス感染によって引き起こされる病気に対する制御はしばしば困難に直面している。例えば、ブリなどに対するYAV(Yellowtail ascites virusによるビルナウイルス(birnavirus)感染、マハタやヒラメなどに対するノダウイルス(nodavirus)感染によるVNN(viral nervous necrosis:ウイルス性神経壊死症)などが報告されている(非特許文献1、2)。 そのうちでも、特にノダウイルス感染によるウイルス性神経壊死症は、1990年以降世界各地で海産魚に発生し、致死性が極めて高いことから、種苗生産業および養殖業において脅威となっている。またその罹病魚種も30種を超えている(非特許文献2)。 従来、ウイルス性神経壊死症に対しては、ワクチン療法が有効とされているが(試験的)、このワクチン療法は注射接種であるために仔魚や稚魚に対しては適用することができない。また、公表されている遺伝子組換え外被タンパク質ワクチンでは、そのワクチンが効果を発現するまでに3週間という長い期間を要する(非特許文献3、4)。 また、魚類ノダウイルスには3つの異なる血清型があるために、それぞれの血清型ごとのワクチンを作製することが必要である(非特許文献5)。 更に、親魚からの垂直感染を防止するためのウイルスフリー親魚の選別には、ウイルス遺伝子の検出技術と、そのための装置が必要であり、受精卵の消毒も必要となる。また、水平感染を防止するために飼育水の殺菌をするためのオゾンあるいは紫外線装置が必要である。これらの防止対策には、非常な手間と莫大な費用がかかるという欠点がある(非特許文献6、7)。 その上、ウイルス性神経壊死症については、特に幼魚期以降の発症に対して有効な予防・治療方法は全く実用化されていないのが現状である。そこで、幼魚期以降のウイルス性神経壊死症に対しても有効な予防および治療方法を開発することが強く要望されている。 一方、非致死性アクアビルナウイルス(aquabirnavirus:ABV)による一次感染したヒラメが、腎臓などの内臓諸器官を標的にするウイルス出血性敗血症ウイルス(VHSV: viral haemorrhagic septicaemia virus)による二次感染に対して抵抗性を増加されたとの報告がある(非特許文献8、9)。しかしながら、このVHSVは腎臓などの内臓諸器官を標的にするウイルスであるところから、ABVが、ノダウイルスが原因である中枢神経系が冒される病気であるウイルス性神経壊死症に対しても効果があるとの報告は皆無である。Takano, R., et al., Fish Pathology, 36(3), 153-169, 2001.9Munday, B. L., et al., Journal of Fish Diseases, 25, 127-142, 2002Tanaka, S., et al., Journal of Fish Diseases, 24, 15-22, 2001Yuasa, K., et al.;., Journal of Fish Diseases, 25, 53-56, 2002Mori, K., et al., Diseases of Aquatic Organisms, 57, 19-26, 2003養殖,10, pp. 21-22,2001Tsuchihashi, Y., et al., SUISANZOSHOKU 50(3), 355-361, 2002Pakingking, R. Jr., et al. Fish & Shellfish Immunology、印刷中 (2004)Pakingking, R. Jr., et al. Fish Pathology, 38, 15-21, 2003 かかる先行技術を背景にして、本発明者らは、病原性が認められない不顕性感染のアクアビルナウイルス(ABV)について鋭意研究をした結果、ABVが、ノダウイルス感染によるウイルス性神経壊死症に対して有効であることを見出して、この発明を完成した。 したがって、この発明は、病原性が認められないアクアビルナウイルスを用いてノダウイルスの感染を予防および治療する方法を提供することを目的とする。 上記目的を達成するために、この発明は、病原性が認められない不顕性感染であるアクアビルナウイルスを用いてノダウイルスの感染に起因する病気を予防する予防方法を提供する。 この発明はまた、病原性が認められない不顕性感染であるアクアビルナウイルスを用いてノダウイルスの感染による病気を治療する治療方法を提供する。 更に、この発明は、アクアビルナウイルスを経口投与することによるノダウイルス感染による病気の発症を予防する予防方法および病気を治療する治療方法を提供する。 この発明に係る予防方法ならびに治療方法は、幅広い魚種に対して、ノダウイルス感染によるウイルス性神経壊死症ばかりではなく、ノダウイルス感染が原因となるその他の感染症に対しても有効である。 また、この発明に係る予防方法ならびに治療方法は、経口投与ばかりではなく、浸漬法による投与も可能であるところから、これまでのワクチン治療ではできなかった稚魚や仔魚に対しても投与することができるという効果も有している。 更に、この発明におけるABVの抗ウイルス作用は、非特異的であるから血清型にかかわらず使用することができるので、従来のワクチン治療のように、魚類ノダウイルスの3つの異なる血清型に対して、血清型ごとのワクチンを作製することが必要がないという利点を有している。 その上、この発明によるアクアビルナウイルス(ABV)の接種によって、ノダウイルス感染に対する予防効果ばかりではなく、ノダウイルスが不顕性感染している親魚などに対しても、治療効果が期待できるという大きな利点がある。 さらにまた、この発明による予防方法ならびに治療方法においては、ABVと共にワクチンも併用投与することによって、非特異的防御ばかりではなく、特異的防御も誘導できると考えられる。 上記の利点に加えて、この発明は、特別の装置などを要しないので、本発明に使用するABVの調製ならびに投与に要する経費も、従来のワクチン治療に比べて大幅に減少させることができる。 この発明に係るノダウイルス感染防止法およびその感染に起因する病気の治療方法は、適用対象魚種に対して、病原性が認められない不顕性感染であるアクアビルナウイルス(ABV)を適用することにより、ノダウイルス感染を予防することおよび/またはノダウイルス感染による病気を治療することを特徴とする。 アクアビルナウイルス(ABV)は、非病原性あるいは弱毒性であり、環境に対して無害ではあるけれども、数多くの天然魚に不顕性感染していることが知られている。 したがって、この発明で使用するABVは、ヒラメなどの不顕性感染海産魚などの自然界からから容易に分離することができる。このように自然界から分離した無毒性もしくは弱毒性ABVは、その宿主魚ばかりではなく、その他の魚類の細胞に接種して培養し容易に増殖させることができる。 上記のようにして培養して増殖したアクアビルナウイルス(ABV)を魚類に適用するには、ABV液の注射による投与ばかりではなく、ABVを混合した飼料の給餌やABVを含有する液に浸漬などすることによる投与も可能である。 この発明において、アクアビルナウイルス(ABV)を飼料に混合して給餌する場合には、例えば、全飼料1gに対して、一般的には約107〜108TCID50の割合で混合するのがよい。ABV液に浸漬する場合には、液1mlに対して、一般的には約105〜106TCID50の割合で混合するのがよい。ABV注射液を使用する場合には、注射液1mlに対して、一般的には約107〜108TCID50の割合で混合するのがよい。 また、この発明の予防方法ならびに治療方法が適用できる魚種としては、特に限定されるものではなく、ノダウイルスが感染している魚種または感染の可能性のある魚種であればいずれでもよい。更に、種苗から稚魚、親魚を含む育成魚まで魚の大きさ(成長段階)にかかわらず使用することができる。 以下、この発明について実施例によってより詳細に説明するが、この発明は、下記実施例によって一切限定されると解釈すべものではなく、下記実施例はこの発明をより具体的に説明する目的のためだけに例示的に記載するものである。(アクアビルナウイルス(FBV株)の性状) この実施例で使用するアクアビルナウイルス(FBV株)は、ビルナウイルス科アクアビルナウイルス属に属し、エンベロープを持たない直径約60nmの球形ウイルスであって、核酸として2本鎖のRNAを有している。このFBV株は、同じくビルナウイルス科アクアビルナウイルス属に属し、ブリの病原ウイルスとして知られるYTAV(yellowtail ascites virus)で作製されたウサギ抗血清により完全に中和されたことから、YTAVと同じ血清型と分類した。なお、このFBV株は、ビルナウイルス科に属するサケ科魚類の病原ウイルスとして知られるIPNV(infectious pancreatic necrosis virus)とは血清学的に異なっていた。また、このFBV株は、魚類由来株化細胞のRTG−2細胞でよく増殖した。(ヒラメに対するアクアビルナウイルス(FBV株)の安全性試験) アクアビルナウイルス(FBV株)は、RTG−2細胞を培地(イーグルMEM、牛胎児血清)で培養して得た。このようにして得たFBV株は−80℃で保存した。この凍結保存株は、6ヶ月以上経過しても有効であった。 このように凍結保存したFBV株を平均体重18gのヒラメ(人工生産)の筋肉内に接種した(接種量:106.9TCID50/尾;供試尾数:20)。水温20℃で3週間観察した結果、死亡魚、異常魚は認められなかった。なお、このFBV株はヒラメ仔魚(0.5g)に対する病原性も認められなかった。(マハタに対するアクアビルナウイルス(FBV株)の安全性試験) アクアビルナウイルス(FBV株)は、実施例2と同様に、RTG−2細胞(イーグルMEM、牛胎児血清)で培養して得た。得られたFBV株は凍結(−80℃)で保存した。この凍結保存株は、6ヶ月以上経過しても有効であった。 このように凍結保存したFBV株を平均体重12gのマハタ(人工生産)の筋肉内に接種した(接種量:107.1TCID50/尾;供試尾数:20)。水温25℃で3週間観察した結果、死亡魚、異常魚は認められなかった。(ヒラメに対するアクアビルナウイルス(FBV株)のノダウイルス感染阻止効果) アクアビルナウイルス(FBV株)は、実施例2と同様に、RTG−2細胞を用いて培地(イーグルMEM、牛胎児血清)で培養することによって得た。得られたFBV株は凍結(−80℃)で保存した。この凍結保存株は、6ヶ月以上経過しても有効であった。 このように凍結保存したFBV株を平均体重12gのヒラメ(人工生産)の筋肉内に接種して(接種量:106.6TCID50/尾)、水温20℃で7日間飼育した後、E−11細胞で培養した魚類ノダウイルスRGNNV(SGWak97株)を筋肉内に接種し(接種量:108.6TCID50/尾)、3日、7日、14日後に腎臓および脳のRGNNV量を測定した。 なお、FBV株を接種せず、RGNNVの単独感染魚を対照区とした。また、本実施例では、FBV株接種の有無にかかわらず、RGNNVによる感染死亡は認められなかった。 図1に示すように、いずれの測定時においても、あらかじめABVを接種した魚の腎臓および脳内RGNNV量は対照区のそれに比べて有意に低かった。(マハタに対するアクアビルナウイルス(FBV株)のノダウイルス感染阻止効果) アクアビルナウイルス(FBV株)は、実施例2と同様に、RTG−2細胞(イーグルMEM、牛胎児血清)で培養して得た。このようにして得たFBV株は同様に凍結保存した。凍結保存したFBV株を平均体重12gのマハタ(人工生産)の筋肉内に接種して(接種量:107.1TCID50/尾)、水温25℃で7日間飼育した後、E−11細胞で培養した魚類ノダウイルスRGNNV(SGWak97株)を筋肉内に接種した(接種量:105.1TCID50/尾)。なお、FBV株を接種せず、RGNNVの単独感染魚を対照区とした。 本実施例では、FBV株接種後2週間観察し、死亡率を求めると共に、3日、7日、14日後に腎臓および脳のRGNNV量を測定した。 その結果、図2に示すように、FBV株を接種しなかった対照区の死亡率は、80%であったのに対して、予めFBV株を接種した魚の場合は、その死亡率が0%であった。 また、図3に示すように、いずれの測定時においても、あらかじめABVを接種した魚の腎臓および脳内RGNNV量は対照区のそれに比べて有意に低かった。なお、データには示していないが、FBV株を接種した魚の脳からRGNNVは8週間後に消失した。 この発明に係る予防方法および治療方法は、幅広い魚種の種苗生産ならびに養殖に対して適用することができる。ヒラメの腎臓および脳におけるノダウイルス力価の変化を示すグラフ。ノダウイルスによるマハタの累積死亡率を示すグラフ。マハタの腎臓および脳におけるノダウイルス力価の変化を示すグラフ。 アクアビルナウイルスを魚に投与することによってノダウイルス感染またはノダウイルス感染による病気の発症または該病気を予防または治療することを特徴とする方法。 請求項1に記載の方法において、前記病気がウイルス性神経壊死症であることを特徴とする方法。 請求項1または2に記載の方法において、前記アクアビルナウイルスが注射または経口によって投与されることを特徴とする方法。 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法において、前記経口投与が、前記アクアビルナウイルスを含有する液中に魚を浸漬することまたは前記アクアビルナウイルスを混合した飼料を魚に食餌することによって行なうことを特徴とする方法。 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法において、前記アクアビルナウイルスが注射による経皮投与される場合、前記アクアビルナウイルスが、注射液1mlに対して、約107〜108TCID50の割合で添加されること、前記アクアビルナウイルスが飼料によって給餌される場合、全飼料1mgに対して、一般的には約107〜108TCID50の割合で混合すること、または、前記アクアビルナウイルスが浸漬によって投与される場合、液1mlに対して、一般的には約105〜106TCID50の割合で混合するのがよい。 【課題】魚に対するノダウイルス感染またはノダウイルス感染によるウイルス性神経壊死症などの病気の予防または治療する方法を提供すること。 【解決手段】 アクアビルナウイルスを魚に注射などによって経皮接種するかまたはアクアビルナウイルス含有液中に魚を浸漬またはアクアビルナウイルス混合飼料を給餌することによって、魚がノダウイルス感染することを防止またはノダウイルス感染によるウイルス性神経壊死症などの病気の発症を予防または治療する。【選択図】なし