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タイトル:公開特許公報(A)_ヒト上皮細胞培養用培地
出願番号:2004084490
年次:2005
IPC分類:7,C12N5/06


特許情報キャッシュ

橋本 公二 白方 裕司 水口 昌宏 JP 2005269923 公開特許公報(A) 20051006 2004084490 20040323 ヒト上皮細胞培養用培地 日水製薬株式会社 000226862 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 浅野 康隆 100089048 的場 ひろみ 100101317 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 橋本 公二 白方 裕司 水口 昌宏 7C12N5/06 JPC12N5/00 E 5 OL 14 4B065 4B065AA93X 4B065BB12 4B065BB32 4B065CA44 本発明は、ヒト上皮細胞の培養に適した基礎培地及び培養用培地、並びに培養ヒト上皮の製造法に関する。 ヒト上皮細胞のヒトでの最大の組織は皮膚である。体の表面に位置する皮膚は細菌などの感染防止を施すことにより危害を及ばさずに入手出来ることから研究も活発に行われ、培養技術も進んでいる。ヒト上皮細胞は、皮膚などの表皮細胞や、角膜の上皮細胞を含むものであり、皮膚の培養技術が他の上皮細胞の培養に応用されている。 皮膚は第三の臓器とも言われ生体最外層に位置し、重層化した表皮細胞からなる表皮層と線維芽細胞を多く含む結合組織からなる真皮層及び皮下組織から構成されており、生体内の保護と外部からの異物の侵入を防止する上で重要な役割を担っている。従って、皮膚に火傷や切り傷などの損傷等が発生した生体は、体液の漏出や細菌感染等の危険にさらされることとなり、特に重度の熱傷や火傷等により皮膚損傷が深く広範囲に及ぶ場合には皮膚呼吸の低下などで生体内に異常をきたし、場合によっては人命を失うことになる。 かかる皮膚損傷の対処法の一つとして従来より培養皮膚移植が知られており、近年特に再生医療として培養表皮細胞を利用した培養皮膚移植が注目を集めている(非特許文献1〜5)。上記培養皮膚移植は、既に臨床の場においてその有用性が確認されてはいるものの、移植に利用するヒト表皮細胞の培養技術には未だいくつかの問題点が残されている。 このヒト上皮細胞の培養は困難とされていたが、1975年にJames G. RheinwaldとHoward Greenによりマウス3T3細胞フィーダーレイヤー(支持細胞層)法が発表され体外で初めてヒト表皮角化細胞の連続培養が可能となった(非特許文献6)。この方法は、放射線処理により増殖を抑制したマウス3T3線維芽細胞をヒト表皮細胞のフィーダーレイヤーとし、ダルベッコ変法イーグルMEM培地などの高カルシウム濃度下での培養法に用いることを特徴としている(特許文献1参照)。この培養方法は、培地にコレラトキシンと上皮細胞成長因子(EGF)の添加により体外培養での細胞寿命を50から140世代まで延ばせ得ることが示され、またその培地は現在でもさらに改良されている。 一方、培地の改良検討により、Henry HenningsとStuart H. Yuspaらは培養液中のカルシウム濃度を低くすると表皮細胞が未分化の状態で増殖が亢進することを示した(非特許文献7)。さらに、Steven T. BoyceとRichard G. Hamにより低カルシウム濃度(0.03mM)の培地でヒト表皮細胞のクローン増殖を可能としたヒト上皮角化細胞用の基礎培地であるMCDB153基礎培地が発表され、該基礎培地からなるヒト表皮細胞の増殖用に調製された培地、すなわち、インスリン5μg/mL、ハイドロコーチゾン0.5μg/mL、エタノールアミン0.1mM、O−ホスホエタノールアミン0.1mM、EGF5μg/mL、及び牛脳下垂体抽出物(BPE)70μg/mLを添加したMCDB153培地が発表されている(非特許文献8)。 さらに、Mark R. PittelkowとRobert E. Scottにより上記MCDB153からなる増殖用培地において、イソロイシンが約51倍、ヒスチジンが4倍、メチオニンが4倍、フェニルアラニンが4倍、トリプトファンが4倍及びチロシンが6倍になるようにこれ等のアミノ酸を強化配合した培地でフェーズIとしてヒト皮膚角化細胞をクローン増殖し、フェーズIIとして、ダルベッコ変法イーグルMEM培地に10%FBSを添加しカルシウム濃度を1.8mMol(約200mg/L)とした培地に交換し培養を続け培養皮膚角化シートを得たと報告している(非特許文献9)。 さらに、橋本らは、上記MCDB153培地において、イソロイシンを約100倍、ヒスチジンを約3倍、メチオニンを約12倍、フェニルアラニンを約12倍、トリプトファンを約6倍及びチロシンを約20倍になるようにこれ等のアミノ酸を強化配合した基礎培地を報告している(特許文献2)。この基礎培地を用いたヒト表皮細胞増殖用に調製された培地は、インスリン0.2μM、ハイドロコーチゾン0.5μg/mL、エタノールアミン100μM、O−ホスホエタノールアミン100μM、牛大脳視床下部抽出物(BHE)或いは牛脳下垂体抽出物(BPE)100μgタンパク量/mL及び硫酸カナマイシン0.1g/Lが添加配合されている。 しかしながら、これらいずれのヒト上皮細胞培養用培地も、増殖能、細胞寿命等の点で十分満足できるものではない。 前記のように、ヒト表皮角化細胞の増殖においては牛脳下垂体抽出物(BPE)が有効であることが知られており(非特許文献10)、増殖培地中に動物由来成分を含有することになる。細胞を体外で培養するには天然物質である血清又は血清成分や脳又は胚抽出物等を含めた動物由来成分は細胞増殖には欠かせない有効な成分である。しかし、近年、医療用具であるヒト乾燥硬膜移植患者からクロイツフェルト・ヤコブ病が発症している事例が知られており、感染症対策上大きな社会問題となっている。また、日本国内の牛からも牛海面状脳症(BSE;Bovine Spongiform Encephalopathy、別名狂牛病(mad cow disease))の感染が確認されており、BSEの発症した牛の肉や骨を食べることで人間がクロイツフェルト・ヤコブ病に感染するとされる学説もあり、感染症対策上大きな社会問題となっている。H.グリーン,日経サイエンス,84-92(1992.1)上田実,医学の歩み,180,508-509(1997)朝比奈泉,週間医学界新聞,第2485号(2002.5.13)許南浩,日本再生医療学会誌,Vol.2 No.3,47-52(2003.8)黒柳能光,日本再生医療学会誌,Vol.2 No.3,39-45(2003.8)Cell, 6:331-344(1975)Cell, 19:245-254 (1980)The Journal of Investigative Dermatology, 81:33s-40s(1983)Mayo Clin Proc., Vol 61, 771-777(1986)Journal of Tissue Culture Methods, Vol.9(2), p.83(1985)特開昭52−87291号公報特許第3066624号公報 本発明の目的は、ヒトを含む動物組織抽出物を配合しなくても、優れた増殖能、細胞寿命を有するヒト上皮細胞増殖用培地を提供することにある。 本発明者は、組織培養用のMCDB153基礎培地に着目し、その組成について種々検討したところ、当該基礎培地のアミノ酸構成比率をある特定範囲に改変し、かつL−グルタミン量を総アミノ酸量の65重量%以上にすれば、動物組織抽出物を添加しない場合であっても、ヒト上皮細胞の増殖能、細胞寿命に優れ、移植に利用できる培養ヒト上皮が製造できる培地になることを見出し本発明を完成した。 すなわち、本発明は、組織培養用のMCDB153基礎培地において、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜4倍、L−イソロイシン又はその塩を22〜26倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜3倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を3〜6倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜7倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜4倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−フェニルアラニン又はその塩を4〜7倍、L−メチオニン又はその塩を4〜6倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにアミノ酸構成比率を改変し、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量を65重量%以上にしたことを特徴とするヒト上皮細胞培養用基礎培地を提供するものである。 また本発明は、上記ヒト上皮細胞培養用基礎培地成分、及びヒト上皮細胞の増殖に必要な成長促進物質を含有するヒト上皮細胞培養用培地を提供するものである。 さらに、本発明は、このヒト上皮細胞培養用培地中でヒト上皮細胞を培養することを特徴とする培養ヒト上皮の製造法を提供するものである。 本発明の培地を用いれば、動物組織抽出物を添加しなくても、ヒト上皮細胞が効率良く増殖し、移植に適用できる培養ヒト上皮を安定して、かつ安全に製造することができる。従って、安全性の高い移植用培養ヒト上皮を安定して供給可能となる。 本発明の基礎培地は、MCDB153基礎培地のアミノ酸構成比率を、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜4倍、L−イソロイシン又はその塩を22〜26倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜3倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を3〜6倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜7倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜4倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−フェニルアラニン又はその塩を4〜7倍、L−メチオニン又はその塩を4〜6倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるように改変したものである。これらのアミノ酸以外のアミノ酸の含量は、MCDB153基礎培地と同様である。より好ましい改変は、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜3倍、L−イソロイシン又はその塩を23〜25倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜2倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を4〜5倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜6.5倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.6倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜3倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.6倍、L−フェニルアラニン又はその塩を5〜6倍、L−メチオニン又はその塩を4〜5倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにしたものである。 ここで、MCDB153基礎培地のアミノ酸組成は、下記表1のとおりである。 本発明におけるアミノ酸には、一水塩、無水物等のいずれも含まれる。また、塩としては、塩酸塩、ナトリウム塩、酢酸塩、硫酸塩などが挙げられる。 また本発明の基礎培地においては、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量が65重量%以上であることが、ヒト上皮細胞の増殖能、動物組織抽出物を不要とする点から好ましく、その含有量は65〜75重量%であるのがより好ましい。 本発明の基礎培地には、前記アミノ酸以外に、ビタミン類、核酸類、アミン類、糖類、有機酸、微量元素、塩類、pH指示薬などを含有させることができる。ビタミン類としては、塩化コリン、シアノコバラミン、ニコチン酸アミド、D−パントテン酸又はその塩、塩酸ピリドキシン又は塩酸ピリドキサール、D−ビオチン、塩酸チアミン、リボフラビン、葉酸、DL−α−リポ酸、ミオ−イノシトール等が挙げられる。核酸類としては、アデニン又はその塩、チミジン等が挙げられる。アミン類としては、プトレッシン又はその塩等が挙げられる。 また微量元素としては、亜セレン酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、ケイ酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、塩化ニッケル(II)、塩化第一スズ、硫酸マンガンなどが挙げられる。また有機酸としてはピルビン酸又はその塩等が挙げられ、糖としてはブドウ糖が挙げられる。 また塩類としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、リン酸一水素二ナトリウム等が挙げられる。pH指示薬としては、フェノールレッド又はその塩等が挙げられる。これらのアミノ酸以外の成分の含有量は、MCDB153基礎培地又は特許第3066624号と同量程度で十分であるが、その量の1/3〜3倍程度の増減が可能である。なお、塩類濃度は浸透圧が300〜380mOsm/Kg H2Oの範囲で増減可能である。 本発明の基礎培地に、ヒト上皮細胞の増殖に必要な成長促進物質を含有させることによりヒト上皮細胞培養用培地が得られる。このような成長促進物質としては、リコンビナント・ヒト・インスリン、ハイドロコーチゾン、エタノールアミン、O−ホスホエタノールアミン、プロスタグランジン、リコンビナント・ヒト・ケラチノサイト成長因子、リコンビナント・ヒト・インシュリン様成長因子、リコンビナント・ヒト・上皮細胞成長因子等が挙げられる。さらに、酢酸レチノール、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、イソプロテレノール及びそれらの塩等を配合することもできる。ここで、本発明培養用培地には、通常用いられる牛脳下垂体抽出物(BPE)、牛大脳視床下部抽出物(BHE)などの動物組織抽出物は含まないのが好ましい。本発明の培養用培地が動物組織抽出物を配合することなく、効率の良いヒト上皮細胞培養を達成できるのは、前記アミノ酸組成によるものと考えられる。 また本発明の培地には、硫酸ゲンタマイシン、硫酸カナマイシン、硫酸ストレプトマイシン、ペニシリンGナトリウム、ファンギゾン(アンフォテリンB)、ハイグロマイシンB、アクチノマイシンD等の抗生物質を配合することもできる。 本発明の培養培地を用いてヒト上皮細胞を培養するには、自体公知の方法で行えばよい。例えば、培養基材がコーティングされた培養容器中、37℃、5%炭酸ガス気相下で行えばよい。培養基材としては、コラーゲンが好ましい。 より具体的には、培養基材としてタイプIコラーゲンがコーティングされた培養皿で、播種時の細胞密度が約2.5〜5×103細胞/cm2程度となる条件下で実施されるのが好ましく、1〜3日に一度の培地交換により行うことができる。 このような培養によりヒト上皮細胞から移植可能な培養ヒト上皮角化を効率良く製造できる。すなわち、例えば培養ヒト表皮角化は、増殖ヒト表皮角化細胞をシート状に形成させることにより得られる。該シートは、例えば上記のようにして得られるコンフルエント(confluent)にまで増殖した単層のヒト表皮角化細胞を、重層化培地でさらに培養して表皮細胞を層状に重層化し、生体表皮と同様の組織形態に分化させて行うことができる。該重層化培地は、本発明の基礎培地から調製でき、そのカルシウム濃度は約0.4〜2.0mMに調整される。上記重層化培地で1週間程度培養することにより、表皮角化細胞は5〜6層に多層化し、下層には増殖能を有する基底細胞、上層には分化した角化細胞が観察される。このようにして作成されるヒト表皮角化細胞シートは、既に知られているこの種のシートと同様にして培養皮膚移植に利用できる。また同様にして、角膜上皮細胞から培養ヒト角膜上皮も効率良く製造できる。 次に、本発明をさらに具体的に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例1(本発明基礎培地の調製)(1)最適なアミノ酸構成比率に改変した本発明基礎培地の成分組成を以下に例示する。 この1リットル分の個々の成分の組成量の数100リットル分の秤量をして、特に、塩類の結晶水は乾燥により含まれる水分を除き混合粉砕機にて微粉末化する。すなわち、1リットル分の個々の成分の組成量の300リットル分をアミノ酸類、ビタミン類、核酸類、アミン類、有機酸、微量元素、糖類、塩類別に秤量する。秤量出来ない微量成分については倍散法にて添加する。混合粉砕機にて微粉末の本発明基礎粉末培地を調製した。(2)本発明基礎粉末培地を11.4g秤取して1000mLの蒸留水或いは超純水にて溶解し、塩化カルシウムを6.66mg/L加え、さらに6600mg/LのHEPES緩衝剤を加えてpHが37℃で7.2になるように1N−水酸化ナトリウム溶液で補正をしてから1200mg/Lの炭酸水素ナトリウムを添加し、溶解後0.2μm以下のポアサイズのフィルターにてろ過滅菌して調製した。以下、これを「基礎液体培地1」という。実施例2(本発明培養培地の調製) 実施例1で調製された基礎液体培地1を用いて、次の通りにヒト上皮細胞増殖培地を調製した。すなわち、以下の成長促進物質及び抗生物質を添加配合して増殖培地を調製した。以下、用いた基礎培地に対応させて、これ等を「増殖液体培地1」と言う。実施例3(凍結ヒト表皮角化細胞の培養) 実施例1及び2に従って、本発明培地及びMCDB153培地を調製して凍結ヒト表皮角化細胞増殖能の比較試験を実施した。 液体窒素に凍結保存している凍結ヒト表皮角化細胞を急速融解して、1000回転で約5分間遠心分離して得られた細胞を用いてコラーゲン・タイプIをコーティングした100mmコラーゲンコートディッシュ(旭テクノグラス(株)製、コード番号:4010−010)に5×105細胞/10.0mLとなるように播種し、増殖液体培地1を用いて1代目の培養を開始した。同様に、MCDB153培地を用いて1代目の培養を開始した。該培養は37℃、飽和水蒸気下5%炭酸ガス気相下で行い、培養開始後20から24時間後及び以後1日おきに培地交換を行った。ヒト表皮角化細胞は5日間位でディッシュ面一杯にまで良好に増殖したので、次いで継代処理を行い、2代目の継代培養を行った。 継代処理は、液体培地を除きダルベッコPBS(−)(日水製薬(株)製)10mLで1回細胞表面を洗った後、0.125%トリプシン及び0.01%EDTAを含むリン酸緩衝液を3mL加えて細胞付着面を下にして37℃のインキュベータで5分間静置し、ヒト表皮角化細胞が付着面から剥がれた状態であることを確認した後、3mLの0.025%トリプシンインヒビター溶液(トリプシンインヒビター(インビトロジェン(株)製(GIBCO-BRL)、大豆由来トリプシンインヒビター、コード番号:17075-029)25mgをリン酸緩衝液100mLに溶解してろ過滅菌した溶液)を添加してトリプシンの効果を中和した後、増殖液体培地1を10mL加え1000回転で約5分間遠心分離して得た沈殿物を10mLの増殖液体培地1を加えて細胞を再浮遊して懸濁させることにより行った。また、MCDB153培地で、培養している細胞も同様の操作をした。 継代培養は、植込細胞数が5×105細胞/10.0mLになるように植え込む以外は、上記の凍結融解後の培養と同様にして実施した。 本発明培地を用いた場合、ヒト表皮角化細胞は、5日間でディッシュ一杯にまで良好に増殖した。更に、同様にして継代処理と継代培養とを繰り返すことにより、ヒト表皮角化細胞を良好に増殖させることが出来た。また、ロットの異なる凍結ヒト表皮角化細胞でも良好に増殖させることが出来た。 細胞数の計数には、改良ノイバウエル血球計算盤により顕微鏡観察による計数を実施した。また、細胞の写真は位相差顕微鏡によるデジタル写真撮影装置を使用して撮影した画像である。 図1に増殖能の比較を、図2に培養後細胞の位相差顕微鏡写真を示す。その結果、本発明培地によるヒト表皮角化細胞の増殖率は、MCDB153培地の場合に比べて顕著に優れていることが判る。 異なるロットでも本発明培地は、細胞核の巨大化やスピンドル細胞などのない、細胞核の小さなヒト表皮角化細胞を活発に増殖していることが判る。実施例4(初代ヒト表皮角化細胞の培養比較試験) 実施例1及び実施例2に従って、本発明培地及びMCDB153培地を調製して初代ヒト表皮角化細胞の増殖能の比較試験を実施した。 インフォームドコンセントの得られた患者からの手術時で得られた余剰正常皮膚を用いて初代培養を行った。ハサミで皮膚片から脂肪組織と真皮をできる限り取り除き、ダルベッコPBS(−)(日水製薬(株)製、コード番号:05913、PBSと表記する)10mLにて2回洗浄した。70%エタノールに1分間浸し滅菌し、PBSを10mLにて洗浄後、メスを用いて幅3mm長さ10mm程度の短冊状に切り、ディスパーゼ液5mL(ディスパーゼII(合同酒精(株)製)を250単位/mLとなる様にダルベッコ変法MEM培地(DMEM)で溶解しろ過滅菌した溶液)に浸し、4℃で一晩(18−24時間)静置し酵素処理した。翌日、ピンセットを用いて表皮を真皮から剥離し、表皮をDMEM 5mLにて洗浄、続いて、PBS 5mLにて洗浄後、0.25%トリプシン溶液5mLの溶液中に浸し、37℃で10分間の酵素処理を行った。表皮をトリプシン中和液5mL入れたプラスチックシャーレに移しピンセットにて表皮片をほぐし、50mLの滅菌チューブに移した。ディッシュに残存している細胞をPBS 10mLにて回収し、表皮角化細胞浮遊液を調製した。細胞数を数え、1000回転で5分間遠心し細胞を沈殿させた。上清を吸引し、沈殿物の細胞を増殖液体培地1にて懸濁し、100mmコラーゲンコートディッシュ(旭テクノグラス(株)製、I型コラーゲンコートディッシュ、コード番号:4010-010)当たり3×106細胞/10.0mL培養液の割合で播種した。同様に、MCDB153培地にも懸濁し播種した。該培養は37℃、飽和水蒸気下5%炭酸ガス気相下で行い、培養開始後20から24時間後及び以後1日おきに培地交換を行った。ヒト表皮角化細胞は7日間位でディッシュ面一杯にまで良好に増殖したので、次いで継代処理を行い、2代目の継代培養を行った。 継代処理は、液体培地を除きPBS 10mLで1回細胞表面を洗った後、0.125%トリプシン及び0.01%EDTAを含むリン酸緩衝液3mLを加えて細胞付着面を下にして37℃のインキュベータで5分間静置し、表皮細胞が付着面から剥がれた状態であることを確認した後、3mLの0.025%トリプシンインヒビター溶液(トリプシンインヒビター(インビトロジェン(株)製(GIBCO-BRL)、大豆由来トリプシンインヒビター、コード番号:17075-029)25mgをリン酸緩衝液100mLに溶解してろ過滅菌した溶液)を添加してトリプシンの効果を中和した後、増殖液体培地1を10mL加え1000回転で約5分間遠心分離して得た沈殿物を10mLの増殖液体培地1を加えて細胞を再浮遊して懸濁させることにより行った。同様に、MCDB153培地に細胞を再浮遊して懸濁させることにより行った。 本発明培地を用いた場合、ヒト表皮角化細胞は、5日間でディッシュ一杯にまで良好に増殖した。更に、同様にして継代処理と継代培養とを繰り返すことにより、ヒト表皮角化細胞を良好に増殖させることが出来た。 図3に増殖能の比較を、図4に培養後の細胞の位相差顕微鏡写真を示す。その結果、本発明培地によるヒト表皮角化細胞の増殖率は、MCDB153培地の場合に比べて顕著に優れていることが判る。 本発明培地は、細胞核の巨大化やスピンドル細胞などのない、細胞核の小さなヒト表皮角化細胞を活発に増殖していることが判る。実施例5(初代ヒト表皮角化細胞の培養比較試験その2) 実施例1及び実施例2に従って、MCDB153培地、橋本らの報告する改良培地(特許文献2)、及び本発明培地を調製して、実施例4と同様にして、初代ヒト表皮角化細胞の増殖能の比較試験を実施した。 図5に増殖能の比較を、図6に培養後の細胞の位相差顕微鏡写真を示す。その結果、本発明培地によるヒト表皮角化細胞の増殖率は、MCDB153培地及び特許文献2の培地(図6中、MCDB153 Type-II培地)の場合に比べて、顕著に優れていることが判る。 本発明培地は、細胞核の巨大化やスピンドル細胞などのない、細胞核の小さなヒト表皮角化細胞を活発に増殖していることが判る。実施例6(初代ヒト角膜上皮細胞の培養試験) 実施例1及び実施例2に従って、本発明培地である増殖液体培地1を調製して初代ヒト角膜上皮細胞の増殖能の試験を実施した。 インフォームドコンセントの得られた患者からの手術時で得られた余剰正常角膜を用いて初代培養を行った。ハサミで角膜から角膜実質細胞をできる限り取り除き、ダルベッコPBS(−)(日水製薬(株)製、コード番号:05913、PBSと表記する)5mLにて2回洗浄した。70%エタノールに1分間浸し滅菌し、PBSを10mLにて洗浄後、メスを用いて幅3mm長さ10mm程度の短冊状に切り、ディスパーゼ液5mL(ディスパーゼII(合同酒精(株)製)を250単位/mLとなる様にダルベッコ変法MEM培地(DMEM)で溶解しろ過滅菌した溶液)に浸し、4℃で一晩(18−24時間)静置し酵素処理した。翌日、ピンセットを用いて角膜上皮細胞を角膜実質から剥離して、角膜上皮細胞をDMEM5mLにて洗浄、続いて、PBS5mLにて洗浄後、0.25%トリプシン溶液5mLの溶液中に浸し、37℃で10分間の酵素処理を行った。角膜上皮細胞をトリプシン溶液5mL入れたプラスチックシャーレに移しピンセットにて角膜上皮片をほぐし、15mLの滅菌チューブに移した。ディッシュに残存している細胞をPBS5mLにて回収し、角膜上皮細胞浮遊液を調製した。細胞数を数え、1000回転で5分間遠心し細胞を沈殿させた。上清を吸引し、沈殿物の細胞を増殖液体培地1にて懸濁し、35mmコラーゲンコートディッシュ(旭テクノグラス(株)製、I型コラーゲンコートディッシュ、コード番号:4000-010)当たり1×106細胞/3.0mL培養液の割合で播種した。該培養は37℃、飽和水蒸気下5%炭酸ガス気相下で行い、培養開始後20から24時間後及び以後1日おきに培地交換を行った。ヒト角膜上皮細胞は10日間位でデイッシュ面一杯にまで良好に増殖したので、次いで継代処理を行い、2代目の継代培養を行った。 継代処理は、液体培地を除きPBS3mLで1回細胞表面を洗った後、0.125%トリプシン及び0.01%EDTAを含むリン酸緩衝液3mLを加えて細胞付着面を下にして37℃のインキュベータで5分間静置し、角膜上皮細胞が付着面から剥がれた状態であることを確認した後、3mLの0.025%トリプシンインヒビター溶液(トリプシンインヒビター(インビトロジェン(株)製(GIBCO-BRL)、大豆由来トリプシンインヒビター、コード番号:17075-029)25mgをリン酸緩衝液100mLに溶解してろ過滅菌した溶液)を添加してトリプシンの効果を中和した後、増殖液体培地1を10mL加え1000回転で約5分間遠心分離して得た沈殿物を12mLの増殖液体培地1を加えて細胞を再浮遊して懸濁させることにより行った。 継代培養は、細胞浮遊液を4分割して、3mLづつ、4枚の35mmコラーゲンコートディッシュに植え込んで継代培養をする。 ヒト角膜上皮細胞は、7日間でディッシュ一杯にまで良好に増殖した。更に、同様にして継代処理と継代培養とを繰り返すことにより、ヒト角膜上皮細胞を5代まで良好に増殖させることが出来た。 その結果、図7に示すように、本発明培地でヒト角膜上皮細胞を、良好に増殖できることが判る。 本発明培地は、培養翌日の一日目の培養で敷石状の付着細胞が確認され、培養5日目で敷石状の細胞で比較的均一な細胞が多く、上皮様で敷石状に増殖していることが判る。 本発明培地は、ヒト表皮角化細胞のみならず角膜上皮細胞まで増殖できる。このようにヒト上皮細胞の培養技術に応用できる画期的な技術である。立体棒グラフのZ軸に到達細胞数、X軸にロット番号、Y軸に培地を示す。位相差顕微鏡写真の倍率を40倍、100倍、200倍で示す(上段が増殖培地1で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率、下段がMCDB153培地で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率)。立体棒グラフのZ軸に到達細胞数、X軸に継代数、Y軸に培地を示す。位相差顕微鏡写真の倍率を40倍、100倍、200倍で示す(上段が増殖液体培地1で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率、下段がMCDB153培地で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率)。立体棒グラフのZ軸に到達細胞数、X軸に継代数、Y軸に培地を示す。位相差顕微鏡写真の倍率を40倍、100倍、200倍で示す(上段が増殖液体培地1で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率、中段がMCDB153 Type−IIで左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率、下段がMCDB153培地で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率)。位相差顕微鏡写真の倍率を100倍で示す(上段が培養1日目、下段が培養5日目)。 組織培養用のMCDB153基礎培地において、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜4倍、L−イソロイシン又はその塩を22〜26倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜3倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を3〜6倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜7倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜4倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−フェニルアラニン又はその塩を4〜7倍、L−メチオニン又はその塩を4〜6倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにアミノ酸構成比率を改変し、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量を65重量%以上にしたことを特徴とするヒト上皮細胞培養用基礎培地。 L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜3倍、L−イソロイシン又はその塩を23〜25倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜2倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を4〜5倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜6.5倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.6倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜3倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.6倍、L−フェニルアラニン又はその塩を5〜6倍、L−メチオニン又はその塩を4〜5倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにアミノ酸構成比率を改変し、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量を65〜75重量%にしたものである請求項1記載の基礎培地。 請求項1又は2記載の基礎培地成分、及びヒト上皮細胞の増殖に必要な成長促進物質を含有するヒト上皮細胞培養用培地。 動物組織抽出物を含まないものである請求項3記載の培地。 請求項3又は4記載の培地中でヒト上皮細胞を培養することを特徴とする培養ヒト上皮の製造法。 【課題】 ヒト上皮細胞の培養に適した培地の提供。【解決手段】 組織培養用のMCDB153基礎培地において、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜4倍、L−イソロイシン又はその塩を22〜26倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜3倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を3〜6倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜7倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜4倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−フェニルアラニン又はその塩を4〜7倍、L−メチオニン又はその塩を4〜6倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにアミノ酸構成比率を改変し、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量を65重量%以上にしたことを特徴とするヒト上皮細胞培養用基礎培地。【選択図】 なし


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特許公報(B2)_ヒト上皮細胞培養用培地

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ヒト上皮細胞培養用培地
出願番号:2004084490
年次:2010
IPC分類:C12N 5/07


特許情報キャッシュ

橋本 公二 白方 裕司 水口 昌宏 JP 4398290 特許公報(B2) 20091030 2004084490 20040323 ヒト上皮細胞培養用培地 日水製薬株式会社 000226862 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 浅野 康隆 100089048 的場 ひろみ 100101317 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 橋本 公二 白方 裕司 水口 昌宏 20100113 C12N 5/07 20100101AFI20091217BHJP JPC12N5/00 E C12N 5/06 CA/BIOSIS/MEDLINE(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) PubMed CiNii WPI 特許第3066624(JP,B2) 国際公開第96/25943(WO,A1) Arch. Dermatol.,1987年,123,p.1541-1544 In Vitro Cell. Dev. Biol.,1994年,30A,p.496-503 Invest. Ophthalmology,1994年,35(3),p.826-837 5 2005269923 20051006 13 20061128 六笠 紀子 本発明は、ヒト上皮細胞の培養に適した基礎培地及び培養用培地、並びに培養ヒト上皮の製造法に関する。 ヒト上皮細胞のヒトでの最大の組織は皮膚である。体の表面に位置する皮膚は細菌などの感染防止を施すことにより危害を及ばさずに入手出来ることから研究も活発に行われ、培養技術も進んでいる。ヒト上皮細胞は、皮膚などの表皮細胞や、角膜の上皮細胞を含むものであり、皮膚の培養技術が他の上皮細胞の培養に応用されている。 皮膚は第三の臓器とも言われ生体最外層に位置し、重層化した表皮細胞からなる表皮層と線維芽細胞を多く含む結合組織からなる真皮層及び皮下組織から構成されており、生体内の保護と外部からの異物の侵入を防止する上で重要な役割を担っている。従って、皮膚に火傷や切り傷などの損傷等が発生した生体は、体液の漏出や細菌感染等の危険にさらされることとなり、特に重度の熱傷や火傷等により皮膚損傷が深く広範囲に及ぶ場合には皮膚呼吸の低下などで生体内に異常をきたし、場合によっては人命を失うことになる。 かかる皮膚損傷の対処法の一つとして従来より培養皮膚移植が知られており、近年特に再生医療として培養表皮細胞を利用した培養皮膚移植が注目を集めている(非特許文献1〜5)。上記培養皮膚移植は、既に臨床の場においてその有用性が確認されてはいるものの、移植に利用するヒト表皮細胞の培養技術には未だいくつかの問題点が残されている。 このヒト上皮細胞の培養は困難とされていたが、1975年にJames G. RheinwaldとHoward Greenによりマウス3T3細胞フィーダーレイヤー(支持細胞層)法が発表され体外で初めてヒト表皮角化細胞の連続培養が可能となった(非特許文献6)。この方法は、放射線処理により増殖を抑制したマウス3T3線維芽細胞をヒト表皮細胞のフィーダーレイヤーとし、ダルベッコ変法イーグルMEM培地などの高カルシウム濃度下での培養法に用いることを特徴としている(特許文献1参照)。この培養方法は、培地にコレラトキシンと上皮細胞成長因子(EGF)の添加により体外培養での細胞寿命を50から140世代まで延ばせ得ることが示され、またその培地は現在でもさらに改良されている。 一方、培地の改良検討により、Henry HenningsとStuart H. Yuspaらは培養液中のカルシウム濃度を低くすると表皮細胞が未分化の状態で増殖が亢進することを示した(非特許文献7)。さらに、Steven T. BoyceとRichard G. Hamにより低カルシウム濃度(0.03mM)の培地でヒト表皮細胞のクローン増殖を可能としたヒト上皮角化細胞用の基礎培地であるMCDB153基礎培地が発表され、該基礎培地からなるヒト表皮細胞の増殖用に調製された培地、すなわち、インスリン5μg/mL、ハイドロコーチゾン0.5μg/mL、エタノールアミン0.1mM、O−ホスホエタノールアミン0.1mM、EGF5μg/mL、及び牛脳下垂体抽出物(BPE)70μg/mLを添加したMCDB153培地が発表されている(非特許文献8)。 さらに、Mark R. PittelkowとRobert E. Scottにより上記MCDB153からなる増殖用培地において、イソロイシンが約51倍、ヒスチジンが4倍、メチオニンが4倍、フェニルアラニンが4倍、トリプトファンが4倍及びチロシンが6倍になるようにこれ等のアミノ酸を強化配合した培地でフェーズIとしてヒト皮膚角化細胞をクローン増殖し、フェーズIIとして、ダルベッコ変法イーグルMEM培地に10%FBSを添加しカルシウム濃度を1.8mMol(約200mg/L)とした培地に交換し培養を続け培養皮膚角化シートを得たと報告している(非特許文献9)。 さらに、橋本らは、上記MCDB153培地において、イソロイシンを約100倍、ヒスチジンを約3倍、メチオニンを約12倍、フェニルアラニンを約12倍、トリプトファンを約6倍及びチロシンを約20倍になるようにこれ等のアミノ酸を強化配合した基礎培地を報告している(特許文献2)。この基礎培地を用いたヒト表皮細胞増殖用に調製された培地は、インスリン0.2μM、ハイドロコーチゾン0.5μg/mL、エタノールアミン100μM、O−ホスホエタノールアミン100μM、牛大脳視床下部抽出物(BHE)或いは牛脳下垂体抽出物(BPE)100μgタンパク量/mL及び硫酸カナマイシン0.1g/Lが添加配合されている。 しかしながら、これらいずれのヒト上皮細胞培養用培地も、増殖能、細胞寿命等の点で十分満足できるものではない。 前記のように、ヒト表皮角化細胞の増殖においては牛脳下垂体抽出物(BPE)が有効であることが知られており(非特許文献10)、増殖培地中に動物由来成分を含有することになる。細胞を体外で培養するには天然物質である血清又は血清成分や脳又は胚抽出物等を含めた動物由来成分は細胞増殖には欠かせない有効な成分である。しかし、近年、医療用具であるヒト乾燥硬膜移植患者からクロイツフェルト・ヤコブ病が発症している事例が知られており、感染症対策上大きな社会問題となっている。また、日本国内の牛からも牛海面状脳症(BSE;Bovine Spongiform Encephalopathy、別名狂牛病(mad cow disease))の感染が確認されており、BSEの発症した牛の肉や骨を食べることで人間がクロイツフェルト・ヤコブ病に感染するとされる学説もあり、感染症対策上大きな社会問題となっている。H.グリーン,日経サイエンス,84-92(1992.1)上田実,医学の歩み,180,508-509(1997)朝比奈泉,週間医学界新聞,第2485号(2002.5.13)許南浩,日本再生医療学会誌,Vol.2 No.3,47-52(2003.8)黒柳能光,日本再生医療学会誌,Vol.2 No.3,39-45(2003.8)Cell, 6:331-344(1975)Cell, 19:245-254 (1980)The Journal of Investigative Dermatology, 81:33s-40s(1983)Mayo Clin Proc., Vol 61, 771-777(1986)Journal of Tissue Culture Methods, Vol.9(2), p.83(1985)特開昭52−87291号公報特許第3066624号公報 本発明の目的は、ヒトを含む動物組織抽出物を配合しなくても、優れた増殖能、細胞寿命を有するヒト上皮細胞増殖用培地を提供することにある。 本発明者は、組織培養用のMCDB153基礎培地に着目し、その組成について種々検討したところ、当該基礎培地のアミノ酸構成比率をある特定範囲に改変し、かつL−グルタミン量を総アミノ酸量の65重量%以上にすれば、動物組織抽出物を添加しない場合であっても、ヒト上皮細胞の増殖能、細胞寿命に優れ、移植に利用できる培養ヒト上皮が製造できる培地になることを見出し本発明を完成した。 すなわち、本発明は、組織培養用のMCDB153基礎培地において、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜4倍、L−イソロイシン又はその塩を22〜26倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜3倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を3〜6倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜7倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜4倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−フェニルアラニン又はその塩を4〜7倍、L−メチオニン又はその塩を4〜6倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにアミノ酸構成比率を改変し、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量を65重量%以上にしたことを特徴とするヒト上皮細胞培養用基礎培地を提供するものである。 また本発明は、上記ヒト上皮細胞培養用基礎培地成分、及びヒト上皮細胞の増殖に必要な成長促進物質を含有するヒト上皮細胞培養用培地を提供するものである。 さらに、本発明は、このヒト上皮細胞培養用培地中でヒト上皮細胞を培養することを特徴とする培養ヒト上皮の製造法を提供するものである。 本発明の培地を用いれば、動物組織抽出物を添加しなくても、ヒト上皮細胞が効率良く増殖し、移植に適用できる培養ヒト上皮を安定して、かつ安全に製造することができる。従って、安全性の高い移植用培養ヒト上皮を安定して供給可能となる。 本発明の基礎培地は、MCDB153基礎培地のアミノ酸構成比率を、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜4倍、L−イソロイシン又はその塩を22〜26倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜3倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を3〜6倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜7倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜4倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−フェニルアラニン又はその塩を4〜7倍、L−メチオニン又はその塩を4〜6倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるように改変したものである。これらのアミノ酸以外のアミノ酸の含量は、MCDB153基礎培地と同様である。より好ましい改変は、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜3倍、L−イソロイシン又はその塩を23〜25倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜2倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を4〜5倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜6.5倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.6倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜3倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.6倍、L−フェニルアラニン又はその塩を5〜6倍、L−メチオニン又はその塩を4〜5倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにしたものである。 ここで、MCDB153基礎培地のアミノ酸組成は、下記表1のとおりである。 本発明におけるアミノ酸には、一水塩、無水物等のいずれも含まれる。また、塩としては、塩酸塩、ナトリウム塩、酢酸塩、硫酸塩などが挙げられる。 また本発明の基礎培地においては、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量が65重量%以上であることが、ヒト上皮細胞の増殖能、動物組織抽出物を不要とする点から好ましく、その含有量は65〜75重量%であるのがより好ましい。 本発明の基礎培地には、前記アミノ酸以外に、ビタミン類、核酸類、アミン類、糖類、有機酸、微量元素、塩類、pH指示薬などを含有させることができる。ビタミン類としては、塩化コリン、シアノコバラミン、ニコチン酸アミド、D−パントテン酸又はその塩、塩酸ピリドキシン又は塩酸ピリドキサール、D−ビオチン、塩酸チアミン、リボフラビン、葉酸、DL−α−リポ酸、ミオ−イノシトール等が挙げられる。核酸類としては、アデニン又はその塩、チミジン等が挙げられる。アミン類としては、プトレッシン又はその塩等が挙げられる。 また微量元素としては、亜セレン酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、ケイ酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、塩化ニッケル(II)、塩化第一スズ、硫酸マンガンなどが挙げられる。また有機酸としてはピルビン酸又はその塩等が挙げられ、糖としてはブドウ糖が挙げられる。 また塩類としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、リン酸一水素二ナトリウム等が挙げられる。pH指示薬としては、フェノールレッド又はその塩等が挙げられる。これらのアミノ酸以外の成分の含有量は、MCDB153基礎培地又は特許第3066624号と同量程度で十分であるが、その量の1/3〜3倍程度の増減が可能である。なお、塩類濃度は浸透圧が300〜380mOsm/Kg H2Oの範囲で増減可能である。 本発明の基礎培地に、ヒト上皮細胞の増殖に必要な成長促進物質を含有させることによりヒト上皮細胞培養用培地が得られる。このような成長促進物質としては、リコンビナント・ヒト・インスリン、ハイドロコーチゾン、エタノールアミン、O−ホスホエタノールアミン、プロスタグランジン、リコンビナント・ヒト・ケラチノサイト成長因子、リコンビナント・ヒト・インシュリン様成長因子、リコンビナント・ヒト・上皮細胞成長因子等が挙げられる。さらに、酢酸レチノール、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、イソプロテレノール及びそれらの塩等を配合することもできる。ここで、本発明培養用培地には、通常用いられる牛脳下垂体抽出物(BPE)、牛大脳視床下部抽出物(BHE)などの動物組織抽出物は含まないのが好ましい。本発明の培養用培地が動物組織抽出物を配合することなく、効率の良いヒト上皮細胞培養を達成できるのは、前記アミノ酸組成によるものと考えられる。 また本発明の培地には、硫酸ゲンタマイシン、硫酸カナマイシン、硫酸ストレプトマイシン、ペニシリンGナトリウム、ファンギゾン(アンフォテリンB)、ハイグロマイシンB、アクチノマイシンD等の抗生物質を配合することもできる。 本発明の培養培地を用いてヒト上皮細胞を培養するには、自体公知の方法で行えばよい。例えば、培養基材がコーティングされた培養容器中、37℃、5%炭酸ガス気相下で行えばよい。培養基材としては、コラーゲンが好ましい。 より具体的には、培養基材としてタイプIコラーゲンがコーティングされた培養皿で、播種時の細胞密度が約2.5〜5×103細胞/cm2程度となる条件下で実施されるのが好ましく、1〜3日に一度の培地交換により行うことができる。 このような培養によりヒト上皮細胞から移植可能な培養ヒト上皮角化を効率良く製造できる。すなわち、例えば培養ヒト表皮角化は、増殖ヒト表皮角化細胞をシート状に形成させることにより得られる。該シートは、例えば上記のようにして得られるコンフルエント(confluent)にまで増殖した単層のヒト表皮角化細胞を、重層化培地でさらに培養して表皮細胞を層状に重層化し、生体表皮と同様の組織形態に分化させて行うことができる。該重層化培地は、本発明の基礎培地から調製でき、そのカルシウム濃度は約0.4〜2.0mMに調整される。上記重層化培地で1週間程度培養することにより、表皮角化細胞は5〜6層に多層化し、下層には増殖能を有する基底細胞、上層には分化した角化細胞が観察される。このようにして作成されるヒト表皮角化細胞シートは、既に知られているこの種のシートと同様にして培養皮膚移植に利用できる。また同様にして、角膜上皮細胞から培養ヒト角膜上皮も効率良く製造できる。 次に、本発明をさらに具体的に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例1(本発明基礎培地の調製)(1)最適なアミノ酸構成比率に改変した本発明基礎培地の成分組成を以下に例示する。 この1リットル分の個々の成分の組成量の数100リットル分の秤量をして、特に、塩類の結晶水は乾燥により含まれる水分を除き混合粉砕機にて微粉末化する。すなわち、1リットル分の個々の成分の組成量の300リットル分をアミノ酸類、ビタミン類、核酸類、アミン類、有機酸、微量元素、糖類、塩類別に秤量する。秤量出来ない微量成分については倍散法にて添加する。混合粉砕機にて微粉末の本発明基礎粉末培地を調製した。(2)本発明基礎粉末培地を11.4g秤取して1000mLの蒸留水或いは超純水にて溶解し、塩化カルシウムを6.66mg/L加え、さらに6600mg/LのHEPES緩衝剤を加えてpHが37℃で7.2になるように1N−水酸化ナトリウム溶液で補正をしてから1200mg/Lの炭酸水素ナトリウムを添加し、溶解後0.2μm以下のポアサイズのフィルターにてろ過滅菌して調製した。以下、これを「基礎液体培地1」という。実施例2(本発明培養培地の調製) 実施例1で調製された基礎液体培地1を用いて、次の通りにヒト上皮細胞増殖培地を調製した。すなわち、以下の成長促進物質及び抗生物質を添加配合して増殖培地を調製した。以下、用いた基礎培地に対応させて、これ等を「増殖液体培地1」と言う。実施例3(凍結ヒト表皮角化細胞の培養) 実施例1及び2に従って、本発明培地及びMCDB153培地を調製して凍結ヒト表皮角化細胞増殖能の比較試験を実施した。 液体窒素に凍結保存している凍結ヒト表皮角化細胞を急速融解して、1000回転で約5分間遠心分離して得られた細胞を用いてコラーゲン・タイプIをコーティングした100mmコラーゲンコートディッシュ(旭テクノグラス(株)製、コード番号:4010−010)に5×105細胞/10.0mLとなるように播種し、増殖液体培地1を用いて1代目の培養を開始した。同様に、MCDB153培地を用いて1代目の培養を開始した。該培養は37℃、飽和水蒸気下5%炭酸ガス気相下で行い、培養開始後20から24時間後及び以後1日おきに培地交換を行った。ヒト表皮角化細胞は5日間位でディッシュ面一杯にまで良好に増殖したので、次いで継代処理を行い、2代目の継代培養を行った。 継代処理は、液体培地を除きダルベッコPBS(−)(日水製薬(株)製)10mLで1回細胞表面を洗った後、0.125%トリプシン及び0.01%EDTAを含むリン酸緩衝液を3mL加えて細胞付着面を下にして37℃のインキュベータで5分間静置し、ヒト表皮角化細胞が付着面から剥がれた状態であることを確認した後、3mLの0.025%トリプシンインヒビター溶液(トリプシンインヒビター(インビトロジェン(株)製(GIBCO-BRL)、大豆由来トリプシンインヒビター、コード番号:17075-029)25mgをリン酸緩衝液100mLに溶解してろ過滅菌した溶液)を添加してトリプシンの効果を中和した後、増殖液体培地1を10mL加え1000回転で約5分間遠心分離して得た沈殿物を10mLの増殖液体培地1を加えて細胞を再浮遊して懸濁させることにより行った。また、MCDB153培地で、培養している細胞も同様の操作をした。 継代培養は、植込細胞数が5×105細胞/10.0mLになるように植え込む以外は、上記の凍結融解後の培養と同様にして実施した。 本発明培地を用いた場合、ヒト表皮角化細胞は、5日間でディッシュ一杯にまで良好に増殖した。更に、同様にして継代処理と継代培養とを繰り返すことにより、ヒト表皮角化細胞を良好に増殖させることが出来た。また、ロットの異なる凍結ヒト表皮角化細胞でも良好に増殖させることが出来た。 細胞数の計数には、改良ノイバウエル血球計算盤により顕微鏡観察による計数を実施した。また、細胞の写真は位相差顕微鏡によるデジタル写真撮影装置を使用して撮影した画像である。 図1に増殖能の比較を、図2に培養後細胞の位相差顕微鏡写真を示す。その結果、本発明培地によるヒト表皮角化細胞の増殖率は、MCDB153培地の場合に比べて顕著に優れていることが判る。 異なるロットでも本発明培地は、細胞核の巨大化やスピンドル細胞などのない、細胞核の小さなヒト表皮角化細胞を活発に増殖していることが判る。実施例4(初代ヒト表皮角化細胞の培養比較試験) 実施例1及び実施例2に従って、本発明培地及びMCDB153培地を調製して初代ヒト表皮角化細胞の増殖能の比較試験を実施した。 インフォームドコンセントの得られた患者からの手術時で得られた余剰正常皮膚を用いて初代培養を行った。ハサミで皮膚片から脂肪組織と真皮をできる限り取り除き、ダルベッコPBS(−)(日水製薬(株)製、コード番号:05913、PBSと表記する)10mLにて2回洗浄した。70%エタノールに1分間浸し滅菌し、PBSを10mLにて洗浄後、メスを用いて幅3mm長さ10mm程度の短冊状に切り、ディスパーゼ液5mL(ディスパーゼII(合同酒精(株)製)を250単位/mLとなる様にダルベッコ変法MEM培地(DMEM)で溶解しろ過滅菌した溶液)に浸し、4℃で一晩(18−24時間)静置し酵素処理した。翌日、ピンセットを用いて表皮を真皮から剥離し、表皮をDMEM 5mLにて洗浄、続いて、PBS 5mLにて洗浄後、0.25%トリプシン溶液5mLの溶液中に浸し、37℃で10分間の酵素処理を行った。表皮をトリプシン中和液5mL入れたプラスチックシャーレに移しピンセットにて表皮片をほぐし、50mLの滅菌チューブに移した。ディッシュに残存している細胞をPBS 10mLにて回収し、表皮角化細胞浮遊液を調製した。細胞数を数え、1000回転で5分間遠心し細胞を沈殿させた。上清を吸引し、沈殿物の細胞を増殖液体培地1にて懸濁し、100mmコラーゲンコートディッシュ(旭テクノグラス(株)製、I型コラーゲンコートディッシュ、コード番号:4010-010)当たり3×106細胞/10.0mL培養液の割合で播種した。同様に、MCDB153培地にも懸濁し播種した。該培養は37℃、飽和水蒸気下5%炭酸ガス気相下で行い、培養開始後20から24時間後及び以後1日おきに培地交換を行った。ヒト表皮角化細胞は7日間位でディッシュ面一杯にまで良好に増殖したので、次いで継代処理を行い、2代目の継代培養を行った。 継代処理は、液体培地を除きPBS 10mLで1回細胞表面を洗った後、0.125%トリプシン及び0.01%EDTAを含むリン酸緩衝液3mLを加えて細胞付着面を下にして37℃のインキュベータで5分間静置し、表皮細胞が付着面から剥がれた状態であることを確認した後、3mLの0.025%トリプシンインヒビター溶液(トリプシンインヒビター(インビトロジェン(株)製(GIBCO-BRL)、大豆由来トリプシンインヒビター、コード番号:17075-029)25mgをリン酸緩衝液100mLに溶解してろ過滅菌した溶液)を添加してトリプシンの効果を中和した後、増殖液体培地1を10mL加え1000回転で約5分間遠心分離して得た沈殿物を10mLの増殖液体培地1を加えて細胞を再浮遊して懸濁させることにより行った。同様に、MCDB153培地に細胞を再浮遊して懸濁させることにより行った。 本発明培地を用いた場合、ヒト表皮角化細胞は、5日間でディッシュ一杯にまで良好に増殖した。更に、同様にして継代処理と継代培養とを繰り返すことにより、ヒト表皮角化細胞を良好に増殖させることが出来た。 図3に増殖能の比較を、図4に培養後の細胞の位相差顕微鏡写真を示す。その結果、本発明培地によるヒト表皮角化細胞の増殖率は、MCDB153培地の場合に比べて顕著に優れていることが判る。 本発明培地は、細胞核の巨大化やスピンドル細胞などのない、細胞核の小さなヒト表皮角化細胞を活発に増殖していることが判る。実施例5(初代ヒト表皮角化細胞の培養比較試験その2) 実施例1及び実施例2に従って、MCDB153培地、橋本らの報告する改良培地(特許文献2)、及び本発明培地を調製して、実施例4と同様にして、初代ヒト表皮角化細胞の増殖能の比較試験を実施した。 図5に増殖能の比較を、図6に培養後の細胞の位相差顕微鏡写真を示す。その結果、本発明培地によるヒト表皮角化細胞の増殖率は、MCDB153培地及び特許文献2の培地(図6中、MCDB153 Type-II培地)の場合に比べて、顕著に優れていることが判る。 本発明培地は、細胞核の巨大化やスピンドル細胞などのない、細胞核の小さなヒト表皮角化細胞を活発に増殖していることが判る。実施例6(初代ヒト角膜上皮細胞の培養試験) 実施例1及び実施例2に従って、本発明培地である増殖液体培地1を調製して初代ヒト角膜上皮細胞の増殖能の試験を実施した。 インフォームドコンセントの得られた患者からの手術時で得られた余剰正常角膜を用いて初代培養を行った。ハサミで角膜から角膜実質細胞をできる限り取り除き、ダルベッコPBS(−)(日水製薬(株)製、コード番号:05913、PBSと表記する)5mLにて2回洗浄した。70%エタノールに1分間浸し滅菌し、PBSを10mLにて洗浄後、メスを用いて幅3mm長さ10mm程度の短冊状に切り、ディスパーゼ液5mL(ディスパーゼII(合同酒精(株)製)を250単位/mLとなる様にダルベッコ変法MEM培地(DMEM)で溶解しろ過滅菌した溶液)に浸し、4℃で一晩(18−24時間)静置し酵素処理した。翌日、ピンセットを用いて角膜上皮細胞を角膜実質から剥離して、角膜上皮細胞をDMEM5mLにて洗浄、続いて、PBS5mLにて洗浄後、0.25%トリプシン溶液5mLの溶液中に浸し、37℃で10分間の酵素処理を行った。角膜上皮細胞をトリプシン溶液5mL入れたプラスチックシャーレに移しピンセットにて角膜上皮片をほぐし、15mLの滅菌チューブに移した。ディッシュに残存している細胞をPBS5mLにて回収し、角膜上皮細胞浮遊液を調製した。細胞数を数え、1000回転で5分間遠心し細胞を沈殿させた。上清を吸引し、沈殿物の細胞を増殖液体培地1にて懸濁し、35mmコラーゲンコートディッシュ(旭テクノグラス(株)製、I型コラーゲンコートディッシュ、コード番号:4000-010)当たり1×106細胞/3.0mL培養液の割合で播種した。該培養は37℃、飽和水蒸気下5%炭酸ガス気相下で行い、培養開始後20から24時間後及び以後1日おきに培地交換を行った。ヒト角膜上皮細胞は10日間位でデイッシュ面一杯にまで良好に増殖したので、次いで継代処理を行い、2代目の継代培養を行った。 継代処理は、液体培地を除きPBS3mLで1回細胞表面を洗った後、0.125%トリプシン及び0.01%EDTAを含むリン酸緩衝液3mLを加えて細胞付着面を下にして37℃のインキュベータで5分間静置し、角膜上皮細胞が付着面から剥がれた状態であることを確認した後、3mLの0.025%トリプシンインヒビター溶液(トリプシンインヒビター(インビトロジェン(株)製(GIBCO-BRL)、大豆由来トリプシンインヒビター、コード番号:17075-029)25mgをリン酸緩衝液100mLに溶解してろ過滅菌した溶液)を添加してトリプシンの効果を中和した後、増殖液体培地1を10mL加え1000回転で約5分間遠心分離して得た沈殿物を12mLの増殖液体培地1を加えて細胞を再浮遊して懸濁させることにより行った。 継代培養は、細胞浮遊液を4分割して、3mLづつ、4枚の35mmコラーゲンコートディッシュに植え込んで継代培養をする。 ヒト角膜上皮細胞は、7日間でディッシュ一杯にまで良好に増殖した。更に、同様にして継代処理と継代培養とを繰り返すことにより、ヒト角膜上皮細胞を5代まで良好に増殖させることが出来た。 その結果、図7に示すように、本発明培地でヒト角膜上皮細胞を、良好に増殖できることが判る。 本発明培地は、培養翌日の一日目の培養で敷石状の付着細胞が確認され、培養5日目で敷石状の細胞で比較的均一な細胞が多く、上皮様で敷石状に増殖していることが判る。 本発明培地は、ヒト表皮角化細胞のみならず角膜上皮細胞まで増殖できる。このようにヒト上皮細胞の培養技術に応用できる画期的な技術である。立体棒グラフのZ軸に到達細胞数、X軸にロット番号、Y軸に培地を示す。位相差顕微鏡写真の倍率を40倍、100倍、200倍で示す(上段が増殖培地1で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率、下段がMCDB153培地で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率)。立体棒グラフのZ軸に到達細胞数、X軸に継代数、Y軸に培地を示す。位相差顕微鏡写真の倍率を40倍、100倍、200倍で示す(上段が増殖液体培地1で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率、下段がMCDB153培地で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率)。立体棒グラフのZ軸に到達細胞数、X軸に継代数、Y軸に培地を示す。位相差顕微鏡写真の倍率を40倍、100倍、200倍で示す(上段が増殖液体培地1で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率、中段がMCDB153 Type−IIで左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率、下段がMCDB153培地で左側から40倍、100倍、200倍の顕微鏡倍率)。位相差顕微鏡写真の倍率を100倍で示す(上段が培養1日目、下段が培養5日目)。 組織培養用のMCDB153基礎培地において、L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜4倍、L−イソロイシン又はその塩を22〜26倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜3倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を3〜6倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜7倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜4倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.7倍、L−フェニルアラニン又はその塩を4〜7倍、L−メチオニン又はその塩を4〜6倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにアミノ酸構成比率を改変し、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量を65重量%以上にしたことを特徴とするヒト上皮細胞培養用基礎培地。 L−アスパラギン酸又はその塩を1.5〜3倍、L−イソロイシン又はその塩を23〜25倍、L−グルタミン又はその塩を1.5〜2倍、L−グルタミン酸又はその塩を1.1〜2倍、L−チロシン又はその塩を4〜5倍、L−トリプトファン又はその塩を5〜6.5倍、L−バリン又はその塩を0.4〜0.6倍、L−ヒスチジン又はその塩を2〜3倍、L−プロリン又はその塩を0.4〜0.6倍、L−フェニルアラニン又はその塩を5〜6倍、L−メチオニン又はその塩を4〜5倍、L−リジン又はその塩を1.1〜2倍になるようにアミノ酸構成比率を改変し、総アミノ酸量中のL−グルタミン又はその塩の含有量を65〜75重量%にしたものである請求項1記載の基礎培地。 請求項1又は2記載の基礎培地成分、及びヒト上皮細胞の増殖に必要な成長促進物質を含有するヒト上皮細胞培養用培地。 動物組織抽出物を含まないものである請求項3記載の培地。 請求項3又は4記載の培地中でヒト上皮細胞を培養することを特徴とする培養ヒト上皮の製造法。


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