生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する遺伝子、およびその利用
出願番号:2004059883
年次:2005
IPC分類:7,C12N15/09,A01H5/00,C07K14/415,C07K16/16,C12M1/00,C12N1/15,C12N1/19,C12N1/21,C12N5/10,G01N33/53,G01N33/566


特許情報キャッシュ

林 誠 川口 正代司 田畑 哲之 マーチン パニスキー 川崎 信二 今泉 温子 村上 泰弘 JP 2005245296 公開特許公報(A) 20050915 2004059883 20040303 根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する遺伝子、およびその利用 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 独立行政法人農業生物資源研究所 501167644 財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所 596175810 ザ サインスベリー ラボラトリー 504084580 原 謙三 100080034 林 誠 川口 正代司 田畑 哲之 マーチン パニスキー 川崎 信二 今泉 温子 村上 泰弘 7C12N15/09A01H5/00C07K14/415C07K16/16C12M1/00C12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/10G01N33/53G01N33/566 JPC12N15/00 AA01H5/00 AC07K14/415C07K16/16C12M1/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21G01N33/53 MG01N33/566C12N5/00 A 12 OL 22 2B030 4B024 4B029 4B065 4H045 2B030AD20 2B030CA14 2B030CB01 4B024AA08 4B024CA01 4B024CA04 4B024DA01 4B024DA02 4B024DA05 4B024DA11 4B024EA01 4B024EA02 4B024EA03 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B024HA01 4B029AA07 4B029BB20 4B029CC03 4B029FA12 4B065AA01X 4B065AA57X 4B065AA88X 4B065AA88Y 4B065AA90X 4B065AB01 4B065BA01 4B065CA53 4H045AA10 4H045AA11 4H045AA20 4H045AA30 4H045BA10 4H045CA30 4H045CA33 4H045EA05 4H045FA72 4H045FA74 本発明は、植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する遺伝子、並びに当該遺伝子及び遺伝子がコードするタンパク質の利用に関するものである。 多くの陸上植物の根には糸状菌(菌根菌)が共生している。菌根は、その形態から外生菌根と内生菌根とに分けられ、内生菌根の中でも最も普遍的に見られるものは、VA(Vesicular-Arbuscular)菌根菌の共生したものである。VA菌根菌は、主に土壌中のリンなどの養分を吸収し、それを植物に供給している。VA菌根菌は土壌病害や乾燥ストレスに対する抵抗を高める他、宿主特異性をほとんど示さないため、異種間植物に同時感染することができ、植物同士をつなぎ合わせることができる。 また、上述のような細菌と植物との共生関係のもう一つの例として、マメ科植物と根粒菌との共生を挙げることができる。根粒菌は、マメ科植物の根に感染して根粒を形成し、窒素固定を行うという、農業分野において非常に有用な性質を有している。このことから、根粒菌とマメ科植物との共生関係については、多くの研究者に注目されている。 マメ科植物の根粒共生システムにおける宿主側(すなわち、マメ科植物)の遺伝子の単離は、近年ミヤコグサ(Lotus japonicus)やタルウマゴヤシ(Medicago truncatula)などのモデル植物を活用することによって、ようやく緒についたばかりである。本願発明者等も、日本に自生するマメ科植物ミヤコグサに着目し、これについて突然変異の誘発を行い、根粒菌共生系に異常をきたした変異体の単離を試みている。 また、タルウマゴヤシから根粒菌共生系に関与する遺伝子としてDMI1、DMI2,DMI3が単離されている(非特許文献1、2参照)。なかでも、DMI1遺伝子は、根粒菌共生のメカニズムと考えられているcalcium spikingの誘導に必須と考えられる新規なイオンチャネルとして最近単離されたものである。G.Endre et al., Nature 417,962 (2002)Jean-Michel Ane, Gyorgy B. Kiss, Brendan K. Riely, R. Varma Penmetsa, Giles E. D. Oldroyd, Celine Ayax, Julien Levy, Frederic Debelle, Jong-Min Baek, Peter Kalo, Charles Rosenberg, Bruce A. Roe, Sharon R. Long, Jean Denarie, and Douglas R. Cook共著、「Medicago truncatula DMI1 Required for Bacterial and Fungal Symbioses in Legumes」、Science Feb 27 2004: 1364-1367. Published online February 12, 2004, Volume 303, Number 5662 上述したように、多くの陸上植物にとって菌根菌や根粒菌との共生系は非常に重要であるにもかかわらず、この共生系に関与する因子については、十分に特定されていない。すなわち、植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する因子をコードする遺伝子は、未だ十分に明らかになっておらず、その同定が強く望まれていた。 本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する遺伝子を同定するとともに、得られた該遺伝子又は該遺伝子がコードするタンパク質を用いて、根粒菌及び/又は菌根菌との共生能を賦与した植物体を生産する方法などを提供することである。 本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ミヤコグサの根粒菌共生系に異常をきたした変異体を作製し、該変異体から植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する新規な遺伝子を2つ単離することができ、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は産業上有用な物質または方法として、下記1)〜12)の発明を含むものである。 1)以下(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子。(a)配列番号1または3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。(b)上記アミノ酸配列において、1個またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質。 2)配列番号2または4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。 3)配列番号2または4に示される塩基配列、もしくは配列番号1または3に示されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、またはそれら塩基配列の一部分に対して、ストリンジェンシーな条件下で、ハイブリダイズし、植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質をコードする遺伝子。 4)ミヤコグサ由来である上記1)〜3)のいずれかに記載の遺伝子。 5)上記1)〜4)のいずれかに記載の遺伝子によりコードされるタンパク質。 6)以下(a)または(b)のタンパク質。(a)配列番号1または3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。(b)上記アミノ酸配列において、1個またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質。 7)上記5)または6)に記載のタンパク質を認識する抗体。 8)上記1)〜4)のいずれかに記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクター。 9)上記1)〜4)のいずれかに記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクターを含む形質転換体。 10)上記1)〜4)のいずれかに記載の遺伝子が導入された植物もしくはこれと同じ性質を有する該植物の子孫またはそれらの組織。 11)上記1)〜4)のいずれかに記載の遺伝子、あるいは上記5)または6)に記載のタンパク質を用いて、根粒菌及び/又は菌根菌との共生能を賦与する工程を有する、植物体の生産方法。 12)上記1)〜4)のいずれかに記載の遺伝子における少なくとも一部の塩基配列またはその相補配列をプローブとして用いた遺伝子検出器具。 本発明に係る遺伝子又はタンパク質は、陸上植物にとって非常に重要な根粒菌及び/又は菌根菌との共生系に関与する因子であるため、例えば、マメ科植物だけでなく、その他の陸上植物に対しても、根粒菌及び/又は菌根菌との共生能を賦与することにより共生的窒素固定能を賦与することができたり、またはマメ科植物の共生的窒素固定能を調節できたり、あるいは植物体と根粒菌との共生効率の制御、植物体の菌根菌共生能を調節なども可能になるという効果を奏する。 本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。 (1)本発明に係る遺伝子および該遺伝子がコードするタンパク質の構造 本発明に係る遺伝子は、根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。ここでいう「根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する」について説明すると、まず「根粒菌」とは、Bradyrhizobium、Mesorhizobium、Rhizobium、Sinorhizobium属に代表される微生物であって、植物の根に侵入して根粒を形成する微生物の一群をいい、特に窒素固定に有用な微生物である。なお、Bradyrhizobiumはダイズと、Mesorhizobiumはミヤコグサと、Sinorhizobiumはアルファルファと共生する種である。「菌根菌」とは、植物の根に侵入し、外生菌根、内生菌根、内外生菌根のうちいずれかの形態の菌根を形成する微生物のことをいい、特に、窒素、リン、カリウムの固定に有用な微生物である。そして、本遺伝子はこれらの微生物との共生に必須の遺伝子である。本実施の形態では、本発明に係る遺伝子として、ミヤコグサ由来の根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する新規タンパク質をコードする遺伝子CASTOR(配列番号2に示す塩基配列)およびPOLLUX(配列番号4に示す塩基配列)を挙げて説明する。 (1−1)本発明に係る遺伝子 本発明の遺伝子としては、例えば配列番号1または3に示されるアミノ酸配列をコードするものが挙げられる。しかしながら、複数個のアミノ酸の付加、欠失および/または他のアミノ酸との置換によって修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、もとのタンパク質と同様の機能を維持することが知られている。すなわち本発明には、根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質をコードする遺伝子である限り、(a)配列番号1または3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、(b)上記アミノ酸配列において、1個またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。このような遺伝子として、例えば、配列番号2または4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)として有する遺伝子が挙げられる。なお本願では、オープンリーディングフレーム領域を、開始コドンから終止コドン直前までの領域とする。 ここで、「1個又はそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto-Gotoh,Gene 152,271-275(1995)他)等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意味する。したがって、上記(b)のタンパク質をコードする遺伝子は、上記(a)のタンパク質の変異タンパク質をコードする遺伝子である。また、ここでいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然から単離精製された同様の変異タンパク質をコードする遺伝子であってもよい。 以下、本発明に係る遺伝子として、配列番号2または4に示す塩基配列を有する遺伝子(それぞれ、CASTOR遺伝子、POLLUX遺伝子と称する場合もある)を例に挙げて説明する。 まず、菌根菌及び/又は根粒菌等の微生物と植物との共生は、植物の根の細胞を形態変化させる一連の共通のシグナル伝達を必要とする。このような共生刺激の後数秒以内に、植物の根の細胞に生じる最も初期段階の反応として、カルシウムスパイキング(calcium spiking)と呼ばれるカルシウム濃度の変化によって生じる細胞内イオン濃度の変動が挙げられる。 本発明者らは、このような菌根菌及び/又は根粒菌等の微生物と植物との共生に関与する遺伝子として、ミヤコグサから、イオンの流れを調整するゲートとして機能すると思われるカルシウム結合領域を有する、新規なイオンチャネルをコードする2つの遺伝子、CASTORとPOLLUXとを単離した。これら2つの遺伝子は、一連のカルシウムスパイキングや植物細胞への微生物の侵入に必要不可欠なものであると思われる。以下に、より詳細に説明する。 微生物の共生のシグナル分子である“Nod-factor”を認識することによって、植物の根毛は自己の形態を変化させる。例えば、根毛の先端は、感染糸の形成を開始させる微生物の微小コロニーを捉えるため、カールを形成するように生長する。このような根毛の形態変化は、カルシウムスパイキングの約10分前に生じる、プロトン、カリウム、塩素、及びカルシウムイオンの一過性的な細胞内濃度勾配の急激な形成後に生じる。本発明者らは、後述の実施例に示すように、この共生の前段階に生じる電気化学的変化に関与する因子を同定すべく、微生物との共生ができない変異体を用いた。 CASTOR、POLLUX遺伝子に変異を有する植物変異体は非常に良く似た形態を示す。これらは根粒を形成できないか、または菌根菌と共生できない。例えば、図1に示すように、野生型の遺伝子を有する根毛をMesorhizobium lotiまたはNod-factorで処理した場合、先端が膨らみ、続いて分岐するが、変異遺伝子を有する根毛も同様の処理によって分岐する。しかし、変異体は、感染糸が形成されない。同様に、菌根菌の共生において、表皮細胞への微生物の侵入がうまく起こらないため、菌の感染がうまくいかない。 また、CASTOR遺伝子またはPOLLUX遺伝子の変異体はカルシウムスパイキング反応に影響を与える。つまり、図2に示すように、野生型の根毛ではNod-factor処理後10分後からカルシウム濃度の変動が開始されるが、CASTOR遺伝子またはPOLLUX遺伝子の変異体ではカルシウムスパイキングが生じない。 なお、カルシウムスパイキングと独立して根毛の分岐が生じるため、初期の植物における反応は遺伝的に共役していないと考えられる。これらの結果は、CASTORとPOLLUX遺伝子がカルシウムスパイキングの活性化のためのNod-factorの認識からはじまるシグナル伝達の連鎖において、かなり初期の段階に関与していることを示している。また、CASTOR遺伝子またはPOLLUX遺伝子の変異体では、根毛の分岐や変形のみが観察され、カールや感染糸の形成が観察されないことから、CASTOR遺伝子またはPOLLUX遺伝子は根毛の適切な形態学的変化にも必要であると思われる。 また、CASTOR、POLLUX遺伝子は、ポジショナルクローニング及び相同性によってクローニングされた。ミヤコグサに適したマイクロサテライトマーカーを広範囲に収集し解析したところ、CASTOR遺伝子とPOLLUX遺伝子はそれぞれ、染色体1と染色体6の底末端近傍に位置しており、CASTOR遺伝子とPOLLUX遺伝子は相同性が高いことがわかった。なお、CASTOR遺伝子は配列番号2に示す塩基配列(2559kb)をORFとして有する遺伝子であり、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしている。また、POLLUX遺伝子は配列番号4に示す塩基配列(2751kb)をORFとして有する遺伝子であり、配列番号3に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしている。 また、図4(b)に示すように、CASTOR遺伝子とPOLLUX遺伝子のホモログは、他の双子葉植物および単子葉植物に1または2コピー存在していることがわかった。特に、ミヤコグサと同様の大きさのゲノムサイズであるマメ科植物のタルウマゴヤシにおいては1コピーのみ同定された。さらに、植物の各器官における共生の初期段階において、CASTOR遺伝子のmRNAの発現レベルをRT−PCRにて解析したところ(図4(c),(d),(e))、CASTOR遺伝子及びPOLLUX遺伝子は全ての器官で発現しており、なかでも、CASTOR遺伝子は非感染の根において最も発現しており、POLLUX遺伝子は根粒(nodule)において最も発現していた。また、M.lotiの接種またはNod-factor処理によって、CASTOR遺伝子及びPOLLUX遺伝子の発現は減少した(図4(d),(e))。この結果より、微生物の共生によってCASTOR遺伝子の発現は抑制されることがわかった。 なお、本発明に係る遺伝子は、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。アンチセンス鎖は、プローブとして又はアンチセンス薬剤として利用できる。DNAには、例えばクローニングや化学合成技術、又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。さらに、本発明に係る遺伝子は、上記(a)又は(b)のアミノ酸をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。 また本発明に係る遺伝子には、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列に対して、20%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%または70%以上の相同性を有するタンパク質であって、かつ根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質をコードする遺伝子も含まれ、かかる遺伝子も根粒菌及び/又は菌根菌との共生系の制御や窒素固定能などの栄養固定能を高めた植物の作製・育種へ利用することができる。なおここで「相同性」とは、アミノ酸配列中に占める同じ配列の割合であり、この値が高いほど両者は近縁であるといえる。 また、本発明に係る遺伝子には、配列番号2または4に記載の塩基配列もしくは配列番号1または3に示されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、またはそれらの塩基配列の一部分、例えばコンセンサス領域の6個以上のアミノ酸をコードする塩基配列に対して、ストリンジェンシーな条件下で、ハイブリダイズし、かつ根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。なお、上記「ストリンジェンシーな条件」とは、少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、例えば、5×SSC、50℃の条件下でハイブリダイズして得られるという条件を挙げることができる。 上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al. Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(ハイブリダイズし難くなる)。なお、適切なハイブリダイゼーション温度は塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えばアミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとした場合には50℃以下の温度が好ましい。 このようなハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては、天然由来のもの、例えば植物由来のもの、例えば、コケ科植物由来の遺伝子が挙げられるが、植物以外の由来であってもよい。また、ハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであってもよい。 (1−2)本発明に係るタンパク質 本発明に係るタンパク質は、上記(1−1)欄で説明した遺伝子にコードされるタンパク質であればよい。このようなタンパク質であれば、植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する機能を有する。なお、本発明には、かかるタンパク質として、例えば、上述の(a)配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または(b)上記アミノ酸配列において、1個またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質を挙げることができる。 ここで、本発明に係るタンパク質として、配列番号1または3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質(以下、それぞれCASTORタンパク質、POLLUXタンパク質と称する場合もある)を例に挙げて説明する。 CASTORタンパク質は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する853アミノ酸残基からなる、95kDaのタンパク質である。また、POLLUXタンパク質は、配列番号3に示すアミノ酸配列を有する917アミノ酸残基からなる、102kDaのタンパク質である。これらの両タンパク質はN末端において、それぞれ69アミノ酸残基、57アミノ酸残基からなる葉緑体移行ペプチドを有する(TargetP score: 0.953と0.959)。このことから、これらタンパク質は葉緑体に局在すると考えられる。 また、両タンパク質は、N末端領域を除き、全体的に非常に相同性が高い(図5(a)参照)。イネとシロイヌナズナにおいて、これら2つのタンパク質と相同性のある推定タンパク質をデータベースにより検索したところ、CASTOR、POLLUX両タンパク質は、少なくとも4つの膜貫通領域(TM)を有する膜貫通タンパク質であると推定された。FUGUE(Shi, J., Blundell, T. L. & Mizuguchi, K. FUGUE: sequence-structure homology recognition using environment-specific substitution tables and structure-dependent gap penalties. J Mol Biol310, 243-57 (2001).)を用いてタンパク質の構造比較をしたところ、CASTOR、POLLUXタンパク質は、ヒトBKやMethanobacterium thermoautotrophicmのMTHKのような、カルシウムゲートのカリウムチャネルと最も構造的に近いことがわかった(図5(b),(c)参照)。結晶構造解析によって解析されたMTHKとの構造比較の結果、本新規タンパク質において、チャネルポアの側面に位置するTM領域が、特によく保存されていた(図5(b)参照)。このことから、本新規タンパク質は、多重結合のイオンチャネルであると強く示唆された。 また、図5(b)に示すように、MTHKと、CASTORおよびPOLLUX両タンパク質との最も顕著なアミノ酸配列上の相違点は、フィルター領域におけるグリシン残基である。すなわち、MTHKの61〜63番目のアミノ酸配列は、正式なカリウムチャネルのモチーフであるGly−Tyr−Glyであるのに対して、CASTORとPOLLUXタンパク質では、このモチーフに相当する領域のアミノ酸配列は、Ser−Gly−Asnである。 このカリウムチャネル(MTHK)のX線結晶構造解析において、ラマチャンドランプロット(Ramachandran plot)領域に位置する63番目のグリシンは唯一の接近可能なグリシンであることがわかっているため、これは重要な相違点であると思われる。図5(c)に示すように、CASTORタンパク質におけるフィルター領域のホモロジーモデリングによれば、これらの相違点は、イオンチャネルにおけるポアの直径と静電気特性との両性質を変化させていることがわかる。それゆえ、CASTOR、POLLUXタンパク質と、MTHKのようなカリウムチャネルとは、異なるイオン選択性を示すと考えられる。 しかしながら、図5(c)に示すように、イオンチャネル中央のポアは、この新しいアミノ酸の側鎖によって、遮られることは無い。また、CASTOR、POLLUXタンパク質は、RCKドメインと相同性のある領域を有している。このRCKドメインとは、細胞質のカルシウムの変化に応じたカリウムチャネルの伝導性を制御するものである(Jiang, Y., Pico, A., Cadene, M., Chait, B. T. & MacKinnon, R. Structure of the RCK domain from the E. coli K+ channel and demonstration of its presence in the human BK channel. Neuron 29, 593-601 (2001).)。これらのアミノ酸配列の相同性は、ポアやRCKドメインにおける5つのアミノ酸残基の置換が、変異形質として現れることから、非常に重要なものであると考えられる(図5(a)、図6参照)。 また、植物において、カリウムチャネルが属する3つの構造上のクラスは、膜貫通領域の数とポアの数とに基づいて決定される。ここで、CASTOR、POLLUXタンパク質は、他の植物におけるイオンチャネルとドメイン構造が異なっており(4TM)、KCOチャネルのようなものと推定される。しかし、図5に示すように、CASTOR、POLLUXタンパク質では、第3と第4のTMの間に、ポア領域が1つだけ存在している。さらに、RCKドメインは、原核生物のK+チャネルや哺乳動物のBKチャネルの調節領域と相同性が高いが、従前に見つかっている植物タンパク質とは異なっている。 また、CASTORタンパク質とPOLLUXタンパク質とは、お互いに高い相同性を示すにもかかわらず、互いに補完することができない。構造的に類似するタンパク質は、4量体として機能することが示されているが、Shaker様植物カリウムチャネルのように、CASTORとPOLLUXタンパク質もヘテロ多重的なチャネルを形成する可能性がある。ミヤコグサにおいて、CASTORとPOLLUXタンパク質がヘテロ4量体として機能する場合、タルウマゴヤシのようなマメ科の近縁種がこのチャネル遺伝子を1つしか有しない理由がなぜかという問題が残るが、この点については、解明に向けて現在鋭意検討中である。 このように、CASTORとPOLLUXという2つのタンパク質は、イオンのゲートキーパー(門番)として機能し、微生物との共生において必須のイオンの流れを調整する、新たなイオンチャネルである。これらのタンパク質は、菌根菌及び/又は根粒菌の共生に不可欠な役割を有する。また、これらのタンパク質は、根粒着生を示さない単子葉植物や双子葉植物にも、これらタンパク質と高い相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子が存在する。 上述のように、CASTORタンパク質とPOLLUXタンパク質とは、植物と微生物との共生に関与するイオンチャネルとして既に報告されているタルウマゴヤシ由来のDMI1タンパク質(非特許文献2)と類似しているようにも思われるが、該DMI1タンパク質のアミノ酸配列や該遺伝子の塩基配列は一部分しか公開されていない。このため、本発明に係るタンパク質とDMI1タンパク質とが同一の機能を有するか否か判定することは困難であるが、上記DMI1タンパク質の報告には開示されていない新たな機能を、本発明に係るタンパク質は有している。 まず、本発明に係るタンパク質は、上述のように、N末端側に葉緑体移行シグナルを有しているため、葉緑体に局在化していると考えられる。また、タルウマゴヤシにおける、本発明に係るタンパク質のホモログは、DMI1タンパク質1つしか存在しない。通常、1植物種の保有する相同遺伝子がそれぞれ機能を保持する(つまりその変異が表現型の違いをもたらす)場合、明らかにそれらの遺伝子には別個の役割があると考えられる。つまり、本発明のように、CASTOR遺伝子とPOLLUX遺伝子とが同一の植物種から単離・同定されたことと、タルウマゴヤシにホモログとしてDMI1遺伝子が1つしか存在しないことが、明らかになったことは非常に大きな生物学的意義を有すると考えられる。また、本発明に係るタンパク質にはカルシウム結合領域、RCKドメインを有しているのに対して、DMI1タンパク質がこれらのドメインを有することは報告されていない。以上のように、本発明に係るタンパク質を単離・同定し、その機能を解析することにより、DMI1タンパク質の報告だけでは不十分だった種々の有用な情報を明らかにすることができたことから、本発明に係るタンパク質や遺伝子を単離・同定することは、発明としても非常に重要な意義を有するものであるといえる。 また、本発明に係るタンパク質は、上記(1−1)欄で説明した遺伝子を宿主細胞に導入して、そのタンパク質を細胞内発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製された状態であってもよい。また、上記宿主細胞での発現条件によっては、本発明に係るタンパク質は、他のタンパク質とつながった融合タンパク質であってもよい。さらに本発明に係るタンパク質は、化学合成されたものであってもよい。 なお、本発明に係るタンパク質は、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合タンパク質であってもよく、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。ポリペプチドが付加される場合としては、例えば、HisやMyc、Flag等によって本発明に係るタンパク質がエピトープ標識されるような場合が挙げられる。 (2)本発明に係る遺伝子およびタンパク質の取得方法 本発明に係る遺伝子およびタンパク質の取得方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、代表的な方法として次に示す各方法を挙げることができる。 (2−1)遺伝子の取得方法 本発明に係る遺伝子の取得方法は、生来の塩基配列を有する遺伝子については、後述する実施例に具体的に示すように、例えばcDNAライブラリーのスクリーニングによって得られる。 また、本発明に係る遺伝子を取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明に係る遺伝子のcDNA配列のうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に係る遺伝子を含むDNA断片を大量に取得できる。 また遺伝子配列情報をもとにして、該配列を持つポリヌクレオチドを、公知の化学合成を用いて合成してもよい。 修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAについては、生来の塩基配列を有するDNAを基礎として、常用の部位特定変異誘発やPCR法を用いて合成することができる。例えば、修飾を導入したいDNA断片を生来のcDNAまたはゲノムDNAの制限酵素処理によって得て、これを鋳型にして、所望の変異を導入したプライマーを用いて部位特異的変異誘発またはPCR法を実施し、所望の修飾を導入したDNA断片を得る。その後、この変異を導入したDNA断片を目的とする酵素の他の部分をコードするDNA断片と連結すればよい。あるいはまた、短縮されたアミノ酸配列からなる酵素をコードするDNAを得るには、例えば目的とするアミノ酸配列より長いアミノ酸配列、例えば全長アミノ酸配列をコードするDNAを所望の制限酵素により切断し、その結果得られたDNA断片が目的とするアミノ酸配列の全体をコードしていない場合は、不足部分の配列からなるDNA断片を合成し、連結すればよい。 また、得られた遺伝子を大腸菌または酵母などでの遺伝子発現系を用いて発現させ、例えば、タンパク質の機能を測定することにより、得られた遺伝子が目的のタンパク質をコードするか否かを確認することができる。さらに、当該遺伝子を発現させることにより、遺伝子産物である根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質を得ることができる。 さらに、配列番号1または3に記載のアミノ酸配列の一部または全部に対する抗体を用いて他の生物における根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する遺伝子をクローン化することもできる。 (2−2)タンパク質の取得方法 本発明に係るタンパク質を取得する方法(タンパク質の生産方法)は、特に限定されるものではないが、例えば、まず本発明に係るタンパク質を発現する細胞、組織などから単純精製する方法を挙げることができる。なお、本発明に係るタンパク質を発現する細胞、組織は、自然発生型のものでもかまわないし、例えば、組み換えバキュロウイルスに感染した細胞、組織であってもかまわない。精製方法も特に限定されるものではなく、上述したように本発明に係る遺伝子を含む発現ベクターによって形質転換された宿主を培養、栽培または飼育し、培養物から常法に従って、例えば濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等により目的とするタンパク質を回収、精製すればよい。 また、本発明に係るタンパク質を取得する方法として、遺伝子組み換え技術等を用いる方法も挙げられる。この場合、例えば、本発明に係る遺伝子をベクターなどに組み込んだ後、公知の方法により、発現可能に宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されて得られる上記タンパク質を精製するという方法などを採用することができる。遺伝子の導入(形質転換)や遺伝子の発現等の具体的な方法については後述する。 あるいはまた、配列番号1または3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の一部または全部を認識する抗体を用いても、根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質を得ることができる。さらに抗体を用いて、他の生物の根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する遺伝子をクローニングすることもできる。 なお、このように宿主に外来遺伝子を導入する場合、外来遺伝子の発現のため宿主内で機能するプロモーターを組み入れた発現ベクター及び宿主には様々なものが存在するので、目的に応じたものを選択すればよい。産生されたタンパク質を精製する方法は、用いた宿主、タンパク質の性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のタンパク質を精製することが可能である。 変異タンパク質を作製する方法についても、特に限定されるものではない。例えば、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto-Gotoh,Gene 152,271-275(1995)他)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異タンパク質を作製する方法、あるいはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異タンパク質作製法を用いることができる。これら方法を用いることによって、上記(a)のタンパク質をコードするcDNAの塩基配列において、1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるように改変を加えることによって作製することができる。また、変異タンパク質の作製には、市販のキットを利用してもよい。 また、本発明に係るタンパク質の取得方法は、上述に限定されることなく、例えば、市販されているペプチド合成器等を用いて化学合成されたものであってもよい。またその他の例としては、無細胞系のタンパク質合成液(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 78, 5598―5602 (1981)、J.Biol.Chem.、253, 3753―3756 (1978)など)を利用して、本発明に係る遺伝子から本発明に係るタンパク質を合成してもよい。 (3)本発明に係る抗体 本発明に係る抗体は、上記(1−2)欄で説明したタンパク質、例えば、上記(a)又は(b)のタンパク質、またはその部分タンパク質、あるいは部分ペプチドを抗原として、公知の方法によりポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得られる抗体であればよい。公知の方法としては、例えば、文献(Harlowらの「Antibodies : A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory, New York(1988))、岩崎らの「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」」に記載の方法が挙げられる。このようにして得られる抗体は、本発明に係るタンパク質の検出・測定などに利用できる。 (4)本発明に係る組換えベクター 本発明に係る組換え発現ベクターは、上記(1−1)欄で説明した遺伝子、例えば、上記(a)又は(b)のタンパク質をコードする本発明の遺伝子を含むものである。例えば、cDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。 ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、ホスト細胞(宿主細胞)中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係る遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。 本発明に係る遺伝子がホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ホスト細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明に係る遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明に係る遺伝子の導入を確認することができる。あるいは、本発明に係るタンパク質を融合タンパク質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るタンパク質をGFP融合タンパク質として発現させてもよい。 上記ホスト細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、原核生物としては細菌、例えばエシェリヒア(Escherichia)属に属する細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシルス(Bacillus)属微生物、例えばバシルス.スブシルス(Bacillus subtilis)など常用の宿主を用いることができる。真核性宿主としては、下等真核生物、例えば真核性微生物、例えば真菌である酵母または糸状菌が使用できる。酵母としては例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属微生物、例えばサッカロミセス.セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられ、また糸状菌としてはアスペルギルス(Aspergillus)属微生物、例えばアスペルギルス.オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス.ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム(Penicillium)属微生物が挙げられる。さらに動物細胞または植物細胞が使用でき、植物細胞としては、マメ科植物、イネ科植物など種々の植物細胞が利用可能であり、また動物細胞としては、マウス、ハムスター、サル、ヒト等の細胞系が使用される。さらに昆虫細胞、例えばカイコ細胞、またはカイコの成虫それ自体も使用される。 本発明の組換え発現ベクターは、それらを導入すべき宿主の種類に依存して発現制御領域、例えばプロモーターおよびターミネーター、複製起点等を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、常用のプロモーター、例えばtrcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、PH05プロモーター等が使用され、糸状菌用プロモーターとしては例えばアミラーゼ、trpC等が使用される。また動物細胞宿主用プロモーターとしてはウイルス性プロモーター、例えばSV40アーリープロモーター、SV40レートプロモーター等が使用される。発現ベクターの作製は制限酵素、リガーゼ等を用いて常用に従って行うことができる。また、発現ベクターによる宿主の形質転換も常法に従って行うことができる。 上記発現ベクターをホスト細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。 (5)本発明に係る形質転換体 本発明に係る形質転換体は、上記(1−1)欄で説明した本発明に係る遺伝子、例えば、上記(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子が導入された形質転換体である。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。また、上記「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。 本発明に係る形質転換体の作製方法(生産方法)は、上述の(4)欄で説明した組換え発現ベクターを形質転換する方法を挙げることができる。すなわち、少なくとも、上記組換え発現ベクターを構築する工程と、該組換え発現ベクターを宿主に導入する工程とを有する方法により、形質転換体を生産することができる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記ホスト細胞で例示した各種微生物や植物を挙げることができる。また、プロモーターやベクターを選択すれば、動物、昆虫も形質転換の対象とすることが可能である。 また、ここでいう形質転換体には、本発明に係る遺伝子が導入された植物もしくはこれと同じ性質を有する該植物の子孫またはそれらの組織、種子なども含まれる。 (6)本発明に係る遺伝子検出器具 本発明に係る遺伝子検出器具は、本発明に係る遺伝子における少なくとも一部の塩基配列またはその相補配列をプローブとして用いたものである。遺伝子検出器具は、種々の条件下において、本発明に係る遺伝子の発現パターンの検出・測定などに利用することができる。 本発明に係る遺伝子検出器具としては、例えば、本発明の遺伝子と特異的にハイブリダイズする上記プローブを基盤(担体)上に固定化したDNAチップが挙げられる。ここで「DNAチップ」とは、主として、合成したオリゴヌクレオチドをプローブに用いる合成型DNAチップを意味するが、PCR産物などのcDNAをプローブに用いる貼り付け型DNAマイクロアレイをも包含するものとする。 プローブとして用いる配列は、cDNA配列の中から特徴的な配列を特定する従来公知の方法によって決定することができる。具体的には、例えば、SAGE:Serial Analysis of Gene Expression法(Science 276:1268, 1997; Cell 88:243, 1997; Science 270:484, 1995; Nature 389:300, 1997; 米国特許第5,695,937 号)等を挙げることができる。 なお、DNAチップの製造には、公知の方法を採用すればよい。例えば、オリゴヌクレオチドとして合成オリゴヌクレオチドを使用する場合には、フォトリソグラフィー技術と固相法DNA合成技術との組み合わせにより、基盤上で該オリゴヌクレオチドを合成すればよい。一方、オリゴヌクレオチドとしてcDNAを用いる場合には、アレイ機を用いて基盤上に貼り付ければよい。 また、一般的なDNAチップと同様、パーフェクトマッチプローブ(オリゴヌクレオチド)と、該パーフェクトマッチプローブにおいて一塩基置換されたミスマッチプローブとを配置して遺伝子の検出精度をより向上させてもよい。さらに、異なる遺伝子を並行して検出するために、複数種のオリゴヌクレオチドを同一の基盤上に固定してDNAチップを構成してもよい。 (7)本発明に係る遺伝子およびタンパク質等の利用方法(有用性) ここまでは主にミヤコグサ由来の根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質及び該タンパク質をコードする遺伝子について述べてきたが、本発明はミヤコグサ由来の遺伝子等のみに限定されるものではなく、根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する他の遺伝子・タンパク質も含まれる。以下に、本発明に係る遺伝子及びタンパク質等の利用法について説明する。 本発明に係る遺伝子またはタンパク質等は、植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与し、かつ、陸上植物の多くに保存されている。このため、これら遺伝子を宿主(植物体)に導入することにより、例えば、根粒菌及び/又は菌根菌との共生能を賦与した植物体を生産することができる。これ以外にも、例えば、マメ科植物の共生的窒素固定能を調節する方法、マメ科植物以外に共生的窒素固定能を賦与する方法、植物体と根粒菌との共生効率の制御方法、植物体の菌根菌共生能を調節する方法、などの新たな機能を付与した植物体の生産方法等への応用が可能であると考えられる。 いうまでもなく、根粒菌や菌根菌との共生は、植物にとって栄養素の固定という面から非常に重要なものであるため、本利用法は、農業・植物育種の面で非常に価値が高いと考えられる。 なお、上記いずれかの方法を実施する場合は、本発明に係る遺伝子、またはタンパク質、あるいは組換えベクターなどを用いる工程を含んでいればよく、その他の具体的な構成や条件、材料等は特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る組換えベクターを、宿主植物体にて発現可能な状態で形質転換する工程が含まれていればよい。また、例えば、CASTOR遺伝子とPOLLUX遺伝子の双方を宿主に導入してもよいし、どちらか一方の遺伝子のみを導入してもよい。 また、上述の本発明に係る遺伝子等を用いて、マメ科植物の共生的窒素固定能を調節する方法、マメ科植物以外に共生的窒素固定能を賦与する方法、植物体と根粒菌との共生効率の制御方法、植物体の菌根菌共生能を調節する方法を実施した場合に得られる植物体も本発明に含まれる。 なお、形質転換可能な植物の例としては、マメ科植物だけでなく、ゴマ、イネ、レンギョウ、タバコ、シロイヌナズナ、ミヤコグサ、オオムギ、小麦、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、ダイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワー、バラ、キク、カーネーション、金魚草、シクラメン、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリップ、などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。 また、「遺伝子またはタンパク質を用いて」とは、in vivo、in vitro、ex vivoなど種々の条件で遺伝子またはタンパク質を用いる場合が含まれる。 以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。 〔実験手法および材料〕 (1)Plant material. Ljsym71-1、Ljsym71-2 23 、 N5、 N10、29-2A (M.K., unpublished data)、Ljsym4-2 11 、 Ljsym22-1、 Ljsym23-1、 Ljsym23-2 10 および SL3251-2、SL820-3、 SL1715-2、SL1966-3、 SL3169-3変異体は、ミヤコグサB-129GifuをEMS変異処理して、単離した。G00472、G00716、G00862 (B-129由来)、およびM89-27 (MG-20由来)は、ミヤコグサの培養細胞を起源とする再生植物体からスクリーニングし取得した。Ljsym4-1変異体は、ミヤコグサB-129GifuのT−DNA形質転換によって作製したが、遺伝子には挿入されていない。 (2)Root hair deformation assay 根毛の形態変化処理は、論文(Niwa, S. et al. Responses of a model legume Lotus japonicus to lipochitin oligosaccharide nodulation factors purified from Mesorhizobium loti JRL501. Mol. Plant-Microbe Interact. 14, 848-856 (2001).)に従い行った。簡単に説明すると、3日生育させた幼植物体をM. loti TONOとともに培養し、3日間アガー培地(B&D、窒素源欠乏)上に配置したフィルター紙の上で生育させた。Nod-factorを添加後、2日間生育させた幼植物体を、B&D液体培地に端部を浸した、アガーで覆われたスライドガラス上で1日生育させた。その後、10-7MのNod-factorを添加し、さらに24時間培養した。根は、0.001%のトルイジンブルー(Toluidin Blue)にて染色し、双眼顕微鏡の元で観察した。 (3)Ca spiking ミヤコグサの幼植物体を発芽させ、採取し、オレゴングリーンデキストラン染色をマイクロインジェクションした(Harris, J. M., Wais, R. & Long, S. R. Rhizobium-induced calcium spiking in Lotus japonicus. Molecular Plant-Microbe Interactions 16, 335-341 (2003).)。蛍光は、浜松フォトニクスのデジタルCCDカメラに連動した、ニコンTE2000U倒立顕微鏡を用いて解析した。11nmのバンドパスを有する488nmの励起光の波長は、Optoscan Monochromator (Cairn Research, Faversham, Kent, UK)を用いて選択し、545nmの放射フィルターを用いた。画像は、MetaFluor ソフトウェアを用いて、200ミリ秒の露出時間で、5秒毎に集めた。波形はMicrosoft Excelを用いて作成した。マイクロインジェクション後、根毛は、Nod-factor添加20分前に除去し、解析には、活性状態の細胞内変化を示す細胞のみを用いた。Nod-factorは終濃度10-8Mとなるように、培養チャンバーに直接加えた。 (4)Positional cloning CASTOR遺伝子は、ミヤコグサ B-129 Gifu 変異体 Ljsym71-2、 N5、 Ljsym4-2、またはG00472、G00716、及びMG-20 ミヤコジマ、及び Ljsym4-2 とL. filicaulisとの交配種を交配した結果得られた、6つの独立したF2マッピング集団を用いてマッピングされた。各F2集団のサイズは、1563 (Ljsym71-2)、 190 (N5)、 180(Ljsym4-2x MG-20)、 40 (G00472 & G00716) 、そして 1514 (Ljsym4-2 x L. filicaulis)である。全体として、3527のF2個体に対して、CASTOR遺伝子の側方にあるマーカーを用いて解析した。POLLUXは、Ljsym23-2 と MG20との交配によって得られた531のF2個体、及びLjsym23-1 とL. filicaulisとの交配によって得られた409のF2個体を用いてマップされた。 (5)Southern blot and expression analysis. CASTOR遺伝子の573bp断片はプライマー1:TCAAAGAAGGATTACGAGGA(配列番号5に示すに示す塩基配列)、プライマー2:AATTTTACCACCATAAGATGC(配列番号6に示す塩基配列)を用いて増幅した。ゲノムDNA(10μg)は葉から抽出し、XbaIまたはBamHIにて切断した。プローブの標識とシグナル検出は、AlkPhos Direct (Amersham)を用いて行った。 CASTOR遺伝子の発現は、以下のプライマーを用いて、量的RT−PCRにて解析した。・ポリユビキチン遺伝子(ATGCAGATCTTCCGTCAAGACCTTGAC / ACCTCCCCTCAGACGAAGGA)(配列番号7/配列番号8)・LjENOD40-1(CCTCTGAACCAATCCATCAAATCCA / GTGGAGGAGTGTGAGAGGTGACAGC)(配列番号9/配列番号10)・CASTOR遺伝子(ATGGTGGCCTTGACATAAG / AGTGACGACGTATAACAGCA)(配列番号11/配列番号12) トータルRNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)を用いて抽出し、DNaseI(Takara)にて処理した。リアルタイムRT−PCRは、Quantitect SYBR Green RT-PCR kit (Qiagen)を用い、GeneAmp 5700 (Applied Biosystems)にて実施した。発現レベルは、ポリユビキチンの転写産物の両をベースとして標準化した。 (6)Computer analysis. 配列は、BLAST (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、GENSCAN v.1.0 (http://genes.mit.edu/GENSCAN.html)を用いて解析した。マルチアライメントおよび進化系統樹は、Clustal W (http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)を用いた。標的タンパク質および膜貫通領域の推定は、TargetP v.1.01 (http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)、およびTMHMM v.2.0 (http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)を用いて行った。ドメインと構造解析は、Pfam (http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/) 、およびFUGUE v.2.0 (http://www-cryst.bioc.cam.ac.uk/~fugue/)の両方を用いて行った。 〔実験結果〕 図1は、Mesorhizobium loti TONOの接種、またはNod-factor(NFs)処理によって誘導される根毛の反応について調べた結果を示す図である。野生型(B-129 Gifu)およびCASTOR変異体の根毛のそれぞれに対して、M. loti TONO接種したもの(パネルb,e)、10-7MのNFs処理したもの(パネルc,f)を示す。パネルa,dにはそれぞれ、野生型とLjsym71-1のコントロールを示す。パネルbに示すように、野生型にM. loti TONO接種した場合、根毛にカールが生じた(図中矢印で示す部分)。また、パネルeに示すように、M. loti TONO接種したLjsym71-2変異体には、根毛の膨張(図中アローヘッドで示す部分)、先端の生長(図中ダブルアローヘッドで示す部分)、分岐(図中小さな矢印で示す部分)が観察された。また、パネルc,fに示すように、野生型とLjsym71-1変異体にNFs処理した場合、それぞれにおいて根毛の形態変化が誘導された。なお、スケールバーは50μmである。 図2は、根毛におけるカルシウムスパイキングの解析結果を示す図である。この実験は、野生型(B-129 Gifu)、またはLjsym4-1、Ljsym23-1、Ljsym23-2の対立遺伝子を有する変異体の幼植物体における1本の根毛にて行った。根毛はカルシウム感受性の色素;オレゴングリーンデキストランを注入して約20分後、NFsを10-8M添加した。5秒間隔で蛍光強度を測定し、グラフ化した。その結果、図2に示すように、本実験に用いた変異体ではカルシウムスパイキングが少なくとも60分間生じなかった。 図3は、CASTOR、POLLUX遺伝子のポジショナルクローニングを模式的に示す図であり、(a)は、CASTOR遺伝子座の近傍の遺伝子地図を示す図である。線上のマーカーの位置は、マップ上の距離(cM)で示す。マップ集団における組換え植物の数を示す。 また、(b)には、CASTOR遺伝子座の物理地図を示す。BACおよびTAC(LjT)クローンは、それぞれB-129とMG-20に由来する。BAC末端は、開いた楕円のTB21R、閉じた楕円のTA3F、閉じた長方形のTB7F、閉じた菱形のTC1F、開いた長方形のTB2Rとして示される。B-129とMG-20の間の“反転領域(inverted region)”は145kbまで延びており、CASTOR遺伝子座から0cMの領域である。TB7Rマーカーのみ、CASTOR遺伝子座の境界から240kb北側に位置している。 そして(c)に示すように、候補遺伝子は同定された。なお、図中の記号は、以下のタンパク質を示す。LRRPK(leucine-rich repeat protein kinase)、26SP(26S proteasome regulatory subunit 7)、RE(retro-element)、EP(Avr9/Cf-9 elicited protein)、PUM(pumilio-family RNA-binding protein)、RHZF(Ring H2 zinc finger protein)、PME(pectin methyl esterase)、IF2(initiation factor 2 subunit)、OXY(oxydoreductase)、PP(polyprotein)、MYB(myb family protein)、GAG(gag-pol polyprotein)、FIP(VirF-interacting protein FIP1)、ANK(ankyrin-like protein)、REV(reverse transcriptase)、無表記(hypothetical protein)。 (d)は、CASTOR遺伝子のエクソン−イントロン構造を示す図である。cDNAスプライシングによって、複数の選択的スプライシングのバリアントが得られた。第1エキソンの3’末端に4塩基挿入、第2エキソンの5’末端に9塩基挿入されている。第7イントロンは、17cDNAクローン中、15のクローンにて保存されていた。 また、(e)−(f)は、POLLUX遺伝子の周辺のゲノム領域を示す図である。(e)は、POLLUX遺伝子座の遺伝子地図および物理地図を示す図である。マッピング集団におけるマーカーの位置と組換え植物の数とを示す。BAC及びTAC(LjT)クローンは、B-129とMG-20に由来する。候補遺伝子は、TACクローンLjT45B09上で同定された。また、図中の記号は以下のタンパク質を示す。WD40(WD40 repeat protein)、NifU(NifU like putative N-fixing protein)、PPR(pentatricopeptide repeat protein)、DNA BP(DNA binding protein family)、LRR−PK(leucine-rich repeat protein kinase)、無表記(hypothetical protein)。 (f)は、POLLUX遺伝子のエキソン−イントロン構造を示す図である。1つの選択的スプライシング部位は、第10エクソンの上流域で検出された。 また、CASTOR及びPOLLUX遺伝子に相当する完全長のcDNAの配列は、5’と3’末端のRACE(rapid amplification of cDNA ends)とcDNAクローンのイシークエンスによって得た。ゲノム配列におけるcDNAの配置は、両遺伝子とも12のエクソンからなることがわかった(図3d、f)。両遺伝子は、cDNAクローンの配列解析から明らかになったように、選択的スプライシングの対象となる。 図4は、CASTOR遺伝子のサザンハイブリダイゼーション及びRT−PCR解析の結果を示す図である。(a)は、野生型(B-129 Gifu)およびCASTOR変異体(N-5、G00472、及びG00716)に対して、CASTOR遺伝子のサザンハイブリダイゼーションを行った結果を示す図である。同図に示すように、野生型とN-5(点変異対立遺伝子)では、CASTORプローブによって2つの明確なバンドが検出された(CAS、POL)。これは、2つの相同性の高い遺伝子が存在することを示している。しかしながら、G00472やG00716のような欠失変異体の場合は、これらのフラグメントのうち、1つしか検出されなかった。 また(b)はマメ科植物およびマメ科以外の植物について、CASTOR遺伝子のサザンハイブリダイゼーションを行った結果を示す図である。なお、ゲノムDNAは(a)図の場合はXbaIで、(b)図の場合はBamHIにて切断した。同図に示すように、CASTOR-POLLUXホモログは、他の双子葉植物および単子葉植物に1または2コピー存在している。特に、ミヤコグサと同様の大きさのゲノムサイズであるマメ科植物のタルウマゴヤシにおいては1コピーのみ同定された。つまり、CASTOR遺伝子のホモログは、マメ科植物だけでなく、マメ科以外の植物にも広く存在することがわかった。 また(c)は、ミヤコグサB-129 Gifuの種々の器官におけるCASTOR遺伝子の発現を調べた結果を示す図である。なお、本図では、非感染の根と比較した相対的な量を示す。同図に示すように、CASTOR遺伝子のmRNAは、非感染の根毛において最もよく発現していることがわかった。また、POLLUX遺伝子は、根粒において最もよく発現していることがわかった。 また(d)は、M. loti接種した後、0〜48時間後までのNIN遺伝子、CASTOR遺伝子、及びPOLLUX遺伝子の発現の誘導を調べた結果を示す図である。また(e)は、NFs処理した後、0〜48時間後までのNIN遺伝子、CASTOR遺伝子、及びPOLLUX遺伝子の発現の誘導を調べた結果を示す図である。なお本図では未処理の根と比較した相対的な量を示す。同図に示すように、NIN遺伝子は、M. loti接種またはNFs処理のいずれを行っても発現量が経時的に増加しているのに対して、CASTOR遺伝子、及びPOLLUX遺伝子は、その発現量がM. loti接種またはNFs処理のいずれを行っても増加せず、かえって経時的に減少することがわかった。これは、共生によってCASTOR遺伝子の発現が抑制されることを示していると思われる。 図5は、CASTORタンパク質またはPOLLUXタンパク質の構造、ドメインおよびホモログを示す図であり、(a)は、CASTOR、POLLUXタンパク質間の局所的な配列の相同性を示す図である。なお、TMは膜貫通ヘリックス、RCKはカリウムチャネルで見つかっている伝導性を制御する領域と相同性のある領域を示す。共生不全に関与する変異の位置と種類をCASTORタンパク質の配列上に示す。同図に示すように、CASTOR、POLLUXタンパク質は、相同性が高いことがわかった。 また(b)は、CASTOR、POLLUXタンパク質とMTHKの植物ホモログとのフィルター領域およびインナーヘリックス領域のアライメントを示す図である。この配列は、図cで示すポアの中央部を形成する。同図に示すように、CASTOR、POLLUXタンパク質とMTHKの植物ホモログとは、フィルター領域およびインナーヘリックス領域において高い相同性を有することがわかった。 (c)は、CASTORタンパク質のイオンポアの仮想構造を示す図である。左側にMTHKのX線結晶構造を示し、右側に相同性モデルを示す。結晶構造におけるGly61とGly63残基と、CASTORタンパク質において対応するSerとAsn残基は、ポアの直径や静電気特性に対してこれらのアミノ酸残基の置換が与える影響を計算すべく、空間充填モードで示されている。同図に示すように、CASTORタンパク質のイオンポアとMTHKのイオンポアとは、類似しているといえる。 (d)は、CASTOR、POLLUXホモログの系統樹を示す図である(Clustal W)。なお、O. sativa_1はイネ(AK068216から推定)、O. sativa_2もイネ(AK072312 、L179Qから推定)、M. truncatula (ゲノム配列AC140550からcDNAを推定)はタルウマゴヤシ、A. thaliana (At5g49960)はシロイヌナズナである。同図に示すように、CASTOR、POLLUXホモログは、種々の陸上植物に保存されていることがわかった。さらに、タルウマゴヤシにおけるホモログはPOLLUXに相当するものであり、CASTORとは系統的にやや異なることがわかった。 また、図6は、CASTOR、POLLUX遺伝子に変異を有する変異体をまとめた表を示すものである。同図に示すように、ゲノムDNAのシークエンスの結果、CASTOR遺伝子に変異を有する16変異体は、全てノンサイレンスの変異体、つまりアミノ酸配列の置換・欠失・挿入等を伴う変異であることがわかった。また、組織培養によって得られた4つの独立した変異体は、1bp〜20kb以上の大きさの領域が欠損しており、他の体細胞変異体に見られるレトロトランスポゾンの挿入が無い。 以上ように、本発明に係る遺伝子等は、根粒菌及び/又は菌根菌との共生に必須の因子であるため、かかる遺伝子等を用いることにより、植物と微生物との共生系を制御し、より有用な植物体を作製することができる等の利点がある。したがって、本発明は、農業や植物育種の分野およびこれらの関連産業に利用可能である。Mesorhizobium loti TONOの接種、またはNod-factor(NFs)処理によって誘導される根毛の反応について調べた結果を示す図である。根毛におけるカルシウムスパイキングの解析結果を示す図である。CASTOR、POLLUX遺伝子のポジショナルクローニングを模式的に示す図であり、(a)はCASTOR遺伝子座の近傍の遺伝子地図を示す図であり、(b)はCASTOR遺伝子座の物理地図を示す図であり、(c)は候補遺伝子の周辺を示す図であり、(d)はCASTOR遺伝子のエクソン−イントロン構造を示す図であり、(e)−(f)はPOLLUX遺伝子の周辺のゲノム領域を示す図である。(a)は、野生型(B-129 Gifu)およびCASTOR変異体(N-5、G00472、及びG00716)に対して、CASTOR遺伝子のサザンハイブリダイゼーションを行った結果を示す図であり、(b)はマメ科植物およびマメ科以外の植物について、CASTOR遺伝子のサザンハイブリダイゼーションを行った結果を示す図であり、(c)は、ミヤコグサB-129 Gifuの種々の器官におけるCASTOR遺伝子の発現を調べた結果を示す図であり、(d)は、M. loti接種した後、0〜48時間後までのNIN遺伝子、CASTOR遺伝子、及びPOLLUX遺伝子の発現の誘導を調べた結果を示す図であり、(e)は、NFs処理した後、0〜48時間後までのNIN遺伝子、CASTOR遺伝子、及びPOLLUX遺伝子の発現の誘導を調べた結果を示す図である。(a)は、CASTOR、POLLUXタンパク質間の局所的な配列の相同性を示す図であり、(b)は、CASTOR、POLLUXタンパク質とMTHKの植物ホモログとのフィルター領域およびインナーヘリックス領域のアライメントを示す図であり、(c)は、CASTORタンパク質のイオンポアの仮想構造を示す図であり、(d)は、CASTOR、POLLUXホモログの系統樹を示す図である。CASTOR、POLLUX遺伝子に変異を有する変異体をまとめた表を示すものである。 以下(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子。(a)配列番号1または3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。(b)上記アミノ酸配列において、1個またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質。 配列番号2または4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。 配列番号2または4に示される塩基配列、もしくは配列番号1または3に示されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、またはそれら塩基配列の一部分に対して、ストリンジェンシーな条件下で、ハイブリダイズし、植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質をコードする遺伝子。 ミヤコグサ由来である請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝子。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子によりコードされるタンパク質。 以下(a)または(b)のタンパク質。(a)配列番号1または3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。(b)上記アミノ酸配列において、1個またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与するタンパク質。 請求項5または6に記載のタンパク質を認識する抗体。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクター。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクターを含む形質転換体。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子が導入された植物もしくはこれと同じ性質を有する該植物の子孫またはそれらの組織。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子、あるいは請求項5または6に記載のタンパク質を用いて、根粒菌及び/又は菌根菌との共生能を賦与する工程を有する、植物体の生産方法。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子における少なくとも一部の塩基配列またはその相補配列をプローブとして用いた遺伝子検出器具。 【課題】 植物と根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する遺伝子又はタンパク質を単離・同定し、その利用法を提供する。【解決手段】 根粒菌及び/又は菌根菌との共生不全の変異体を用いて、根粒菌及び/又は菌根菌との共生に関与する2つの遺伝子をミヤコグサから取得した。この遺伝子及び/又は該遺伝子にコードされるタンパク質を用いることにより、他の植物に根粒菌及び/又は菌根菌との共生能を賦与することができる可能性がある等、本遺伝子及びタンパク質は非常に有用なものである。【選択図】 なし配列表


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