生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_マイクロチップ及びPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法
出願番号:2004059112
年次:2005
IPC分類:7,G01N35/08,B81B1/00,G01N37/00


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井上 政夫 JP 2005249540 公開特許公報(A) 20050915 2004059112 20040303 マイクロチップ及びPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法 アイダエンジニアリング株式会社 000100861 梶山 佶是 100079555 山本 富士男 100079957 井上 政夫 7G01N35/08B81B1/00G01N37/00 JPG01N35/08 AB81B1/00G01N37/00 101 9 1 OL 11 2G058 2G058DA00 本発明は、少なくとも一方の基板内に微細な流路、反応容器及び/又はポートなどが形成されているマイクロチップ及びこれら基板の貼り合わせ方法に関する。 最近、マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロチップ」と呼ばれる。 マイクロチップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロチップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。 従来のマイクロチップ100は、例えば、図14に示されるように、合成樹脂などの材料からなる基板102に少なくとも1本のチャネル104が形成されており、このチャネル104の少なくとも一端には入出力ポートとなるべきウェル106が形成されており、基板102の下面側に透明又は不透明な素材(例えば、ガラス又は合成樹脂フィルム)からなる対面基板108が接着されている。この対面基板108の存在により、ウェル106及びチャネル104の底部が封止される。 マイクロチップの材質や構造及び製造方法は例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1などに提案されている。その中で、エラストマータイプのシリコン樹脂であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いたことを特徴とする一連のマイクロチップが開発されている。PDMSはチャネルなどの微細構造を有するマスター(鋳型)に対する良好なモールド転写性や透明性、耐薬品生、生体適合性などを有し、マイクロチップの構成部材として特に優れた特徴を有している。 PDMS製マイクロチップの製造上の更なる利点は、PDMS基板と対面基板との貼り合わせに、いわゆる恒久接着(パーマネント・ボンディング)が利用できることである。恒久接着とは、ある種の表面改質を行うだけで、接着剤無しでPDMS基板と対面基板とを相互に接着することができる性質のことであり、管路、容器及び/又はポートなどの微細構造の良好な封止性を発揮させることができる。PDMS基板の恒久接着では、貼り合わせ面を適宜表面改質処理した後、両方の基板の貼り合わせ面を密着して重ね合わせ、一定時間放置することで、容易に接着が行えるものである。 しかし、下記のような場合には、必ずしも恒久接着が好ましくないこともあり、また、恒久接着ではなくPDMSの有する自己吸着性を利用して対面基板と貼り合わせただけで使用することの方が好ましいこともある。すなわち、(1)製造コストを下げる場合。 恒久接着するには、前処理として、PDMS基板に対して適切な表面改質処理を必ず施さなければならない。表面改質処理は、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)装置による酸素プラズマ処理を行うことからなる。従って、このような処理を行うことによりマイクロチップの製造コストが増大する。よって、この処理を省略できれば、製造コストを大幅に軽減することができる。(2)恒久接着などの接着が不可能か又は非常に困難な対面基板を使用する場合。 例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)は透明性の高い普及品の樹脂であり、ポリカーボネート(PC)は耐熱性に優れ、DNAの増幅方法一つであるPCRなどで化学反応に高い温度が必要な場合に有効であり、また、シクロオレフィンポリマー(COP)は各種の試薬に対し高い耐薬品性を有する。しかし、これらの樹脂製対面基板とPDMS基板とは恒久接着を行うことができない。 また、ポリエチレン(PE)やポリスチレン(PS)は恒久接着が可能ではあるが、その接着方法は非常に困難である。例えば、これら合成樹脂製対面基板はガラスなどに比べると一般的に恒久接着のための表面改質処理に対する耐性が低く、しかも、恒久接着が良好に行われる処理強度が小さいうえに、許容範囲が極めて狭い。例えば、反応性イオンエッチング(RIE)装置による酸素プラズマ処理を例にとると、ガラスに対しては処理強度としてRF出力150W、照射時間15秒を超えると恒久接着が行われ難くなるが、ポリスチレン樹脂に対しては僅かに25W、10秒を超えると恒久接着が困難になることが実験的に確認された。また、微弱なRF出力で、極短時間のプラズマを安定的に発生させることは難しく、処理強度のバラツキが起こり易いために、合成樹脂製基板とPDMS基板とが再現性良く恒久接着し難い一因であるとも考えられる。(3)マイクロチップ使用後に分別処理を行う場合。 マイクロチップ使用後に、プラスチックのPDMS基板と無機物であるシリコンやガラス基板とを分別して廃棄処分などをする場合、これらを相互に容易に剥離させることができることが好ましい。恒久接着していると相互に剥離させることが極めて困難であり、分別処理の障害となる。(4)マイクロチップ使用後に基板を洗浄して再使用する場合。 剥離することにより基板内の微細構造部分の洗浄が行い易くなるばかりか、十分な洗浄効果が得られる。洗浄後の基板は他の基板と貼り合わせて再使用する。特に高価な基板を洗浄して再利用することによりコスト低減が図られる。例えば、ガラス基板に電極や電熱ヒータ、温度センサなどの配線パターンを形成したり、シリコン基板にMESM技術によりマイクロバルブやマイクロポンプなどを形成する場合、このらの製作は非常なコストが掛かり、1回限りの使用で廃棄するのは極めて不経済となるので、洗浄して再使用することが望ましい。ガラスやシリコンなどからなる対面基板はPDMS基板との恒久接着が比較的行い易いが、洗浄して再使用する場合には、恒久接着していないことが好ましい。 しかし、PDMSの有する自己吸着性を利用して対面基板と貼り合わせただけのマイクロチップでは、用途によっては貼り合わせ強度が不足して、注入した液体試薬や検体が微細流路から漏洩することがあった。特開2001−157855号公報米国特許第5965237号明細書David C. Duffy et al., Rapid Prototyping of Microfluidic Systems in Poly(dimethylsiloxane), Analytical Chemistry, Vol.70, No.23, December 1, 1988, pp.4974-4984 従って、本発明の目的は、使用する基板の種類に拘わらず、PDMSの恒久接着に依らなくても自己吸着性だけで十分な貼り合わせ強度を示すマイクロチップを提供することである。 本発明の別の目的は、使用する基板の種類に拘わらず、PDMS基板とこれら基板とを貼り合わせる方法を提供することである。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第1に、少なくとも1枚のポリジメチルシロキサン(PDMS)基板と、該PDMS基板と貼り合わされる対面基板とからなるマイクロチップにおいて、前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に負圧用管路が連続した環状に形成されていることを特徴とするマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第2に、前記負圧用管路の一部に大気に開放された吸引口が更に配設されていることを特徴とする前記第1に記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第3に、前記負圧用管路の一部に密閉吸引口が更に配設されていることを特徴とする前記第1に記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第4に、前記負圧用管路の一部に他の管路部分に比較してサイズが拡大された管路部分が少なくとも1ヶ所以上更に配設されていることを特徴とする前記第1〜第3のいずれかに記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第5に、PDMS基板及び/又は対面基板の各貼り合わせ面側に配設された構造要素の近傍に、前記負圧用管路から分岐延長された負圧用管路が更に配設されていることを特徴とする前記第1〜第4の何れかに記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第6に、前記構造要素は、微細流路、入出力ポート、反応容器、圧電素子、流体制御素子、配線パターン又は電極であることを特徴とする前記第5に記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第7に、前記対面基板は、ガラス、シリコン、合成樹脂又は金属から形成されていることを特徴とする前記第1〜第6の何れかに記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第8に、PDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法において、(a)前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に負圧用管路を連続した環状に形成するステップと、(b)前記PDMS基板を対面基板に密着させるステップと、(c)前記PDMS基板の負圧用管路内の空気を排気吸引することによりPDMS基板を対面基板に真空吸着させるステップとからなることを特徴とするPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法を提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第9に、前記真空吸着の負圧は−10KPa〜−90KPaの範囲内であることを特徴とする前記第8に記載の貼り合わせ方法を提供する。 一方の基板にPDMS基板を使用するマイクロチップにおいて、PDMS基板を対面基板に真空吸着させることにより、対面基板の種類に拘わらず、PDMS基板と対面基板とを恒久接着並の強度で貼り合わせることができる。しかも、使用後には真空負圧を大気圧に戻すことによりPDMS基板と対面基板とを容易に引き剥がすこともできる。その結果、(1)恒久接着させる必要が無くなるのでマイクロチップの製造コストを大幅に低減させることができ、(2)恒久接着が困難又は不可能な安価な基板材料でも使用でき、(3)使用後に分別処理することができ、(4)重要かつ高価な対面基板を使用後に洗浄して再使用することができる、などの様々な効果が得られる。 図1は本発明のマイクロチップの一例の概要平面図である。図2は図1におけるII-II線に沿った断面図である。本発明のマイクロチップ1は、図14に示されるような従来のマイクロチップ100と同様に、一方の基板3(例えば、PDMS基板)に、少なくとも1本のチャネル104が形成されており、このチャネル104の少なくとも一端には入出力ポートとなるべきウェル106が形成されている。言うまでもなく、マイクロチップ1として必要なその他のチャネル及び/又はウェルなど様々な微細構造を有することができる。PDMS基板3の下面には対面基板5が貼り合わされている。従来のマイクロチップと異なり、本発明のマイクロチップ1では、PDMS基板3の外周縁寄り部分に連続した環状の負圧用管路7が形成されている。負圧用管路7の少なくとも1ヶ所には大気に連通した吸引口9が開口されている。 図3は、吸引口9から真空吸引する手段の一例の部分概要断面図である。吸引口9にフィッティング11を装着する。フィッティング11は吸引口9に接着固定することもできるが、着脱可能に取り付けることもできる。フィッティング11の上端にはチューブ又はキャピラリ13が接続されている。チューブ又はキャピラリ13の他端には公知常用の真空ポンプや手動によるシリンジ(何れも図示されていない)などが接続されている。 マイクロチップ1の使用前に、吸引口9に装着されたフィッティング11とチューブ13を介して、常用の真空ポンプ又は手動シリンジで負圧用管路7内を排気吸引する。排気吸引により到達する負圧の大きさは−10KPa〜−90KPaの範囲内であることが好ましい。負圧の大きさが−10KPa未満の場合、基板3を基板5に真空吸着させる力が弱すぎて所期の目的を達成することができない。一方、負圧の大きさが−90KPa超の場合、基板3を基板5に真空吸着させる効果が飽和して不経済となるばかりか、強力な負圧により基板3が応力変形することがあり好ましくない。 マイクロチップ1の使用中は、チューブ13を閉じるか、真空ポンプを常に動作させておくか、シリンジを吸引の状態で固定するなどの手段により、負圧用管路7内を常に一定の負圧に保持する。以上により、負圧用管路7の周辺はPDMSの有する自己吸着性とゴム弾性により、PDMS基板3と対面基板5とが密着し、負圧用管路7は封止され、負圧用管路7の面積とその圧力の積に応じた吸着力が発生する。 マイクロチップ1の使用終了後は、負圧用管路7内を大気圧に戻すことにより、負圧用管路7による真空吸着力は解除され、PDMS基板3と対面基板5とを容易に引き剥がすことができる。 本発明のマイクロチップ1では、PDMS基板3を真空吸着力により対面基板5に吸着させるので、対面基板5がPDMS基板3と恒久接着可能であるか否かは全く問題にならない。従って、本発明のマイクロチップ1では対面基板5として任意の材質のものを使用することができる。例えば、ガラス、シリコン、合成樹脂(例えば、PDMS、PMMA、PC、PE、PSなど)又は金属(例えば、クロム又はステンレスなど)などの任意の材質の対面基板を使用することができる。また、これら対面基板5を表面改質処理する必要も全く無い。 負圧用管路7の幅及び高さは特に限定されない。負圧用管路が形成されるマイクロチップの全体的サイズを考慮し、かつ、前記−10KPa〜−90KPaの範囲内の到達負圧を得るのに必要十分な幅及び高さであればよい。一例として、幅は0.1mm〜1mmの範囲内であり、また高さは10μm〜200μmの範囲内であることができる。幅と高さはPDMSの負圧用管路が潰れるか否かに係わる。負圧が−50KPaの時、高さが10μm程度の場合、幅は0.1mm〜0.2mm程度なら負圧用管路が圧潰することはないが、これ以上幅が広くなると、負圧用管路が圧潰する可能性が生じる。また、幅が1mmのように広い場合、高さは100μm以上必要となるが、製造上の観点から、高さは200μm程度が限界となる。 図3に示されるような大気開放タイプの吸引口9の他に、図4に示されるような、大気に開放されていない密閉タイプの吸引口15も使用できる。このような吸引口15を有する負圧用管路7の場合、吸引口15に注射器17の針19を穿刺し、この針19を介して負圧用管路内の空気を排気することにより所望の真空吸着を達成することもできる。このような注射器17を使用する形態は、大がかりな真空吸引装置が不要なのでコストが安価になるという利点がある。 負圧用管路7の形状は図1に示されるような直線状のものに限定されない。例えば、図5に示されるように、複数個の拡大円形管路21を設け、これら拡大円形管路21を直線状管路7で相互に連通させるような形態も使用できる。拡大円形管路21の代わりに拡大矩形管路(図示されていない)を使用することもできる。この拡大円形管路21は図4における密閉タイプの吸引口15を兼ねることもできる。 図6に示されるように、PDMS基板3内に形成される微細流路23が複雑な形状を有し、このため複数個の入出力ポート25或いは反応容器27、ポンプ又はバルブ29などが微細流路の接続されていたり、又は対面基板上に電極31などの配線パターンが形成されている場合、これら入出力ポート25、反応容器27、バルブ29、電極31などの近傍にこれらのための負圧用管路37,39,41,43を、主負圧用管路7から分岐延長して配設することもできる。吸引口9から真空ポンプ又はシリンジで主負圧用管路7内の空気を排気吸引すると、同時に分岐延長負圧用管路37,39,41,43内の空気も排気吸引されるので、PDMS基板3全体が下部の対面基板5の吸着されると共に、分岐延長負圧用管路37,39,41,43が配設されている箇所の近傍付近が特定的に強く吸着され、当該箇所の剥がれ発生を効果的に抑止することができる。なお、図6では、微細流路23は入出力ポート25、反応容器27、バルブ29、電極31などの近傍部分のみを示し、全体的なレイアウトは省略されている。 図7は図6におけるVII−VII線に沿った部分概要断面図である。図6に示されるようなマイクロチップ1Aでは、例えば、入出力ポート25は、そこに接続される、試薬又はサンプルなどの液体及び/又は気体を注入又は排出するためのチューブ45を介して外力が加わり易い。その結果、この部分が剥がれ易くなる。外部のポンプなどから圧力の高い気体及び/又は液体が送り込まれる場合、ポート部分は大きな面積を有するので、その流体の圧力により剥がれる可能性がある。このポート部分におけるPDMS基板の剥離を防止するために、これら入出力ポート25の近傍に主負圧用管路7から分岐延長された負圧用管路37を設け、入出力ポート25近傍の吸着力を高めることは極めて有効である。 反応容器27及びバルブ29などの近傍に、主負圧用管路7から分岐延長されたそれぞれの負圧用管路39及び41を設けるのも同じ理由によるものである。 図8は図6におけるVIII−VIII線に沿った部分概要断面図であり、図9は図8におけるIX−IX線に沿った部分概要断面図である。対象となる微細流路23が電極31などの配線パターンを跨ぐ場合、その配線パターンによる段差により隙間32が生じ、吸着力が弱まり、段差の部分より剥がれが生じやすく、これを抑止するために、主負圧用管路7から延長された負圧用管路43により段差発生部近傍の吸着力を高めることは有効である。負圧用管路43は、数μm程度までの厚みの金属配線パターンによる段差に対して、良好な吸着力を発生することができる。符号33は電源との接続端子を示す。 図10は図6におけるX−X線に沿った部分概要断面図であり、反応容器27の下部に、対象となる流体を加熱・冷却する素子や、あるいはポンピング動作を行うための駆動源となる圧電素子47などを設けた部分概要断面図である。このような素子47に対しては、PDMSの持つ吸着力が十分働かない場合がある。また、反応容器27として或る容積を確保するため、一般的な微細流路23よりも面積が大きい。更に、流体に対する加熱やポンピングにより、不要な圧力が発生する可能性が高い。こうした反応容器27には僅かな圧力が発生しただけで、剥がれが起こり流体の漏れが生じてしまう。このような場合、反応容器27の近傍に負圧用管路39を設け、容器27近傍の吸着力を高めることは有効である。圧電素子47が配設されていない場合にも同様に、有効である。 図11は図6におけるXI−XI線に沿った部分概要断面図であり、対面基板5側に高度なMEMS技術などにより、バルブやポンプ29などの流体制御素子を設けた部分概要断面図である。図12は図11におけるXII−XII線に沿った部分概要断面図である。バルブやポンプ29などの流体制御素子の具体的な内部構造はここでは省略するが、こうした流体制御素子は3次元構造の複雑な物で、極めて高価である。よって、使い捨てにするのは不経済であり、繰り返しの使用が前提となる。微細流路23とバルブやポンプ29などの流体制御素子は接続ポート49により適宜接続される。バルブやマイクロポンプ29では当然ながらそこを流れる流体に圧力が発生し接続ポート49付近の貼り付け面より剥がれや流体の漏れが発生し易い。この接続ポート49の近傍に負圧用管路41を設けて、吸着力を補強することは有効である。 図13は微細流路23を挟むように負圧用管路51を設けた実施態様の部分概要断面図である。所望により、特定の微細流路23の近傍に負圧用管路51を設け、その周辺に大きな吸着力を発生きせることもできる。これにより、対象となる微細流路23周辺からの剥がれや流体の漏れを防ぐことができる。特に流体に圧力が掛かる微細流路23などの場合に有効である。図13のように、対象となる微細流路23を挟むように負圧用管路51を設けると更に有効であるが、片方だけでも十分な吸着効果を発揮する。 図示された各実施態様では、負圧用管路7はPDMS基板3側に形成してあるが、対面基板5側に形成することもできる。また、負圧用管路7はPDMS基板3と対面基板5との貼り付け面のみに形成するのでなく、配管経路の都合上、立体的に配管することもできる。更に、図示された実施態様では、PDMS基板3と対面基板5との一対を貼り合わせた構造のマイクロチップであるが、PDMS基板を多層化させた構造などのように貼り付け面が複数ある場合、対面基板との貼り合わせ面だけでなく、各貼り付け面に負圧用管路を設けることができる。 縦3cm、横5cm、厚さ2mmのPDMS基板の貼り合わせ面側の周縁部に幅200μm、高さ30μmの連続した環状の負圧用管路を常法に従って形成し、連続環状負圧用管路の一部に大気に開放された吸引口を開設した。このPDMS基板を、縦4cm、横6cm、厚さ1mmのガラス基板に貼り合わせた。この状態でPDMS基板の端部を引き上げたところ、ガラス基板から容易に剥がすことができた。次いで、吸引口にフィッティングを装着し、フィッティングの上端に接続されたチューブを真空ポンプに連結して、負圧が−50KPaになるまで排気吸引し、その後チューブを密閉してその負圧状態を維持したまま、PDMS基板をガラス基板に真空吸着させた。この状態でガラス基板を持って強く振ってもPDMS基板が外れ落ちることは無く、通常使用上の十分な接着強度を有することが確認された。10時間静置後に同様な剥離試験を行ったが、結果は同じであった。その後、チューブを開いて大気圧に戻してから、同様な剥離試験を行ったところ、PDMS基板をガラス基板から容易に引き剥がすことができた。 負圧を−8KPaとしたこと以外は、実施例1と同じPDMS基板とガラス基板を使用し、実施例1と同様な剥離試験を行った。その結果、−9KPaの負圧状態ではPDMS基板は容易に引き剥がされてしまった。 負圧を−92KPaとしたこと以外は、実施例1と同じPDMS基板とガラス基板を使用し、実施例1と同様な剥離試験を行った。その結果、−92KPaの負圧状態ではPDMS基板がガラス基板から剥がれ落ちることはなかったが、負圧用管路部分のPDMS基板上面に変形が生じていた。 以上、本発明のマイクロチップの好ましい実施態様について具体的に説明してきたが、本発明は開示された実施態様にのみ限定されず、様々な改変を行うことができる。例えば、負圧用管路は連続した環状ではなく、断続された複数本の負圧用管路を使用しても、連続環状負圧用管路と同等な効果が得られる。 本発明によれば、PDMS基板と一対になって使用される対面基板の種類が極めて広範囲に拡大されるので、その実用性及び経済性が飛躍的に向上される。その結果、本発明のマイクロチップは、医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産など様々な分野で好適に有効利用することができる。特に、本発明のマイクロチップは、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なマイクロチップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で安価に使用できる。本発明のマイクロチップの一例の概要平面図である。図1におけるII−II線に沿った断面図である。図1における吸引口に真空吸引手段を接続させる一例の部分概要断面図である。本発明のマイクロチップにおける負圧用管路の別の例を示す部分概要断面図である。本発明のマイクロチップの別の例の概要平面図である。本発明のマイクロチップの他の例の概要平面図である。図6におけるVII−VII線に沿った部分概要断面図である。図6におけるVIII−VIII線に沿った部分概要断面図である。図8におけるIX−IX線に沿った部分概要断面図である。図6に示されたX-X線に沿った部分概要断面図である。図6に示されたXI-XI線に沿った部分概要断面図である。図11に示されたXII-XII線に沿った部分概要断面図である。微細流路を挟むように負圧用管路を設けた実施態様の部分概要断面図である。従来のマイクロチップの部分概要断面図である。符号の説明 1,1A 本発明のマイクロチップ 3 PDMS基板 5 対面基板 7 負圧用管路 9 吸引口11 フィッティング13 チューブ15 密閉吸引口17 注射器19 針21 拡大円形管路23 微細流路25 入出力ポート27 反応容器29 流体制御素子(ポンプ又はバルブ)31 配線パターン(電極)33 電源接続端子37,39,41,43,51 分岐延長負圧用管路45 チューブ47 圧電素子49 接続ポート少なくとも1枚のポリジメチルシロキサン(PDMS)基板と、該PDMS基板と貼り合わされる対面基板とからなるマイクロチップにおいて、 前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に負圧用管路が連続した環状に形成されていることを特徴とするマイクロチップ。前記負圧用管路の一部に大気に開放された吸引口が更に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。前記負圧用管路の一部に密閉吸引口が更に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。前記負圧用管路の一部に他の管路部分に比較してサイズが拡大された管路部分が少なくとも1ヶ所以上更に配設されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のマイクロチップ。PDMS基板及び/又は対面基板の各貼り合わせ面側に配設された構造要素の近傍に、前記負圧用管路から分岐延長された負圧用管路が更に配設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のマイクロチップ。前記構造要素は、微細流路、入出力ポート、反応容器、圧電素子、流体制御素子、配線パターン又は電極であることを特徴とする請求項5に記載のマイクロチップ。前記対面基板は、ガラス、シリコン、合成樹脂又は金属から形成されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のマイクロチップ。PDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法において、 (a)前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に負圧用管路を連続した環状に形成するステップと、 (b)前記PDMS基板を対面基板に密着させるステップと、 (c)前記PDMS基板の負圧用管路内の空気を排気吸引することによりPDMS基板を対面基板に真空吸着させるステップとからなることを特徴とするPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法。前記真空吸着の負圧は−10KPa〜−90KPaの範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の貼り合わせ方法。 【課題】 使用する基板の種類に拘わらず、PDMSの恒久接着に依らなくても自己吸着性だけで十分な貼り合わせ強度を示すマイクロチップを提供する。【解決手段】 少なくとも1枚のポリジメチルシロキサン(PDMS)基板と、該PDMS基板と貼り合わされる対面基板とからなるマイクロチップにおいて、前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に負圧用管路が連続した環状に形成されていることを特徴とするマイクロチップ。前記PDMS基板の負圧用管路内の空気を排気吸引することによりPDMS基板を対面基板に真空吸着させる。【選択図】 図1


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特許公報(B2)_マイクロチップ及びPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法

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タイトル:特許公報(B2)_マイクロチップ及びPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法
出願番号:2004059112
年次:2007
IPC分類:G01N 35/08,G01N 37/00


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井上 政夫 JP 3918040 特許公報(B2) 20070223 2004059112 20040303 マイクロチップ及びPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法 アイダエンジニアリング株式会社 000100861 梶山 佶是 100079555 山本 富士男 100079957 井上 政夫 20070523 G01N 35/08 20060101AFI20070426BHJP G01N 37/00 20060101ALI20070426BHJP JPG01N35/08 AG01N37/00 101 G01N 35/00−10 G01N 37/00 101 特開2003−121311(JP,A) 特開2002−085961(JP,A) 特表2004−521323(JP,A) 特開2004−028589(JP,A) 国際公開第02/044412(WO,A1) 特開2001−157855(JP,A) 8 2005249540 20050915 12 20040318 小野 忠悦 本発明は、少なくとも一方の基板内に微細な流路、反応容器及び/又はポートなどが形成されているマイクロチップ及びこれら基板の貼り合わせ方法に関する。 最近、マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロチップ」と呼ばれる。 マイクロチップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロチップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。 従来のマイクロチップ100は、例えば、図14に示されるように、合成樹脂などの材料からなる基板102に少なくとも1本のチャネル104が形成されており、このチャネル104の少なくとも一端には入出力ポートとなるべきウェル106が形成されており、基板102の下面側に透明又は不透明な素材(例えば、ガラス又は合成樹脂フィルム)からなる対面基板108が接着されている。この対面基板108の存在により、ウェル106及びチャネル104の底部が封止される。 マイクロチップの材質や構造及び製造方法は例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1などに提案されている。その中で、エラストマータイプのシリコン樹脂であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いたことを特徴とする一連のマイクロチップが開発されている。PDMSはチャネルなどの微細構造を有するマスター(鋳型)に対する良好なモールド転写性や透明性、耐薬品生、生体適合性などを有し、マイクロチップの構成部材として特に優れた特徴を有している。 PDMS製マイクロチップの製造上の更なる利点は、PDMS基板と対面基板との貼り合わせに、いわゆる恒久接着(パーマネント・ボンディング)が利用できることである。恒久接着とは、ある種の表面改質を行うだけで、接着剤無しでPDMS基板と対面基板とを相互に接着することができる性質のことであり、管路、容器及び/又はポートなどの微細構造の良好な封止性を発揮させることができる。PDMS基板の恒久接着では、貼り合わせ面を適宜表面改質処理した後、両方の基板の貼り合わせ面を密着して重ね合わせ、一定時間放置することで、容易に接着が行えるものである。 しかし、下記のような場合には、必ずしも恒久接着が好ましくないこともあり、また、恒久接着ではなくPDMSの有する自己吸着性を利用して対面基板と貼り合わせただけで使用することの方が好ましいこともある。すなわち、(1)製造コストを下げる場合。 恒久接着するには、前処理として、PDMS基板に対して適切な表面改質処理を必ず施さなければならない。表面改質処理は、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)装置による酸素プラズマ処理を行うことからなる。従って、このような処理を行うことによりマイクロチップの製造コストが増大する。よって、この処理を省略できれば、製造コストを大幅に軽減することができる。(2)恒久接着などの接着が不可能か又は非常に困難な対面基板を使用する場合。 例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)は透明性の高い普及品の樹脂であり、ポリカーボネート(PC)は耐熱性に優れ、DNAの増幅方法一つであるPCRなどで化学反応に高い温度が必要な場合に有効であり、また、シクロオレフィンポリマー(COP)は各種の試薬に対し高い耐薬品性を有する。しかし、これらの樹脂製対面基板とPDMS基板とは恒久接着を行うことができない。 また、ポリエチレン(PE)やポリスチレン(PS)は恒久接着が可能ではあるが、その接着方法は非常に困難である。例えば、これら合成樹脂製対面基板はガラスなどに比べると一般的に恒久接着のための表面改質処理に対する耐性が低く、しかも、恒久接着が良好に行われる処理強度が小さいうえに、許容範囲が極めて狭い。例えば、反応性イオンエッチング(RIE)装置による酸素プラズマ処理を例にとると、ガラスに対しては処理強度としてRF出力150W、照射時間15秒を超えると恒久接着が行われ難くなるが、ポリスチレン樹脂に対しては僅かに25W、10秒を超えると恒久接着が困難になることが実験的に確認された。また、微弱なRF出力で、極短時間のプラズマを安定的に発生させることは難しく、処理強度のバラツキが起こり易いために、合成樹脂製基板とPDMS基板とが再現性良く恒久接着し難い一因であるとも考えられる。(3)マイクロチップ使用後に分別処理を行う場合。 マイクロチップ使用後に、プラスチックのPDMS基板と無機物であるシリコンやガラス基板とを分別して廃棄処分などをする場合、これらを相互に容易に剥離させることができることが好ましい。恒久接着していると相互に剥離させることが極めて困難であり、分別処理の障害となる。(4)マイクロチップ使用後に基板を洗浄して再使用する場合。 剥離することにより基板内の微細構造部分の洗浄が行い易くなるばかりか、十分な洗浄効果が得られる。洗浄後の基板は他の基板と貼り合わせて再使用する。特に高価な基板を洗浄して再利用することによりコスト低減が図られる。例えば、ガラス基板に電極や電熱ヒータ、温度センサなどの配線パターンを形成したり、シリコン基板にMESM技術によりマイクロバルブやマイクロポンプなどを形成する場合、このらの製作は非常なコストが掛かり、1回限りの使用で廃棄するのは極めて不経済となるので、洗浄して再使用することが望ましい。ガラスやシリコンなどからなる対面基板はPDMS基板との恒久接着が比較的行い易いが、洗浄して再使用する場合には、恒久接着していないことが好ましい。 しかし、PDMSの有する自己吸着性を利用して対面基板と貼り合わせただけのマイクロチップでは、用途によっては貼り合わせ強度が不足して、注入した液体試薬や検体が微細流路から漏洩することがあった。特開2001−157855号公報米国特許第5965237号明細書David C. Duffy et al., Rapid Prototyping of Microfluidic Systems in Poly(dimethylsiloxane), Analytical Chemistry, Vol.70, No.23, December 1, 1988, pp.4974-4984 従って、本発明の目的は、使用する基板の種類に拘わらず、PDMSの恒久接着に依らなくても自己吸着性だけで十分な貼り合わせ強度を示すマイクロチップを提供することである。 本発明の別の目的は、使用する基板の種類に拘わらず、PDMS基板とこれら基板とを貼り合わせる方法を提供することである。前記課題を解決するための手段として、本発明は、第1に、少なくとも1枚のポリジメチルシロキサン(PDMS)基板と、該PDMS基板と貼り合わされる対面基板とからなるマイクロチップにおいて、前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に、当該PDMS基板を前記対面基板に真空吸着させるための、連続した環状の負圧用管路が設けられており、前記対面基板はガラス、シリコン、合成樹脂及び金属からなる群から選択される材料から形成されていることを特徴とするマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第2に、前記負圧用管路の一部に大気に開放された吸引口が更に配設されていることを特徴とする前記第1に記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第3に、前記負圧用管路の一部に密閉吸引口が更に配設されていることを特徴とする前記第1に記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第4に、前記負圧用管路の一部に他の管路部分に比較してサイズが拡大された管路部分が少なくとも1ヶ所以上更に配設されていることを特徴とする前記第1〜第3のいずれかに記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第5に、PDMS基板及び/又は対面基板の各貼り合わせ面側に配設された構造要素の近傍に、前記負圧用管路から分岐延長された負圧用管路が更に配設されていることを特徴とする前記第1〜第4の何れかに記載のマイクロチップを提供する。 前記課題を解決するための手段として、本発明は、第6に、前記構造要素は、微細流路、入出力ポート、反応容器、圧電素子、流体制御素子、配線パターン又は電極であることを特徴とする前記第5に記載のマイクロチップを提供する。前記課題を解決するための手段として、本発明は、第7に、PDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法において、(a)前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に、連続した環状の負圧用管路を設けるステップと、(b)前記PDMS基板を、ガラス、シリコン、合成樹脂及び金属からなる群から選択される材料から形成された対面基板に貼り合わせるステップと、(c)前記PDMS基板の負圧用管路内の空気を排気吸引することによりPDMS基板を前記対面基板に真空吸着させるステップとからなることを特徴とするPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法を提供する。前記課題を解決するための手段として、本発明は、第8に、前記真空吸着の負圧は−10KPa〜−90KPaの範囲内であることを特徴とする前記第7に記載の貼り合わせ方法を提供する。 一方の基板にPDMS基板を使用するマイクロチップにおいて、PDMS基板を対面基板に真空吸着させることにより、対面基板の種類に拘わらず、PDMS基板と対面基板とを恒久接着並の強度で貼り合わせることができる。しかも、使用後には真空負圧を大気圧に戻すことによりPDMS基板と対面基板とを容易に引き剥がすこともできる。その結果、(1)恒久接着させる必要が無くなるのでマイクロチップの製造コストを大幅に低減させることができ、(2)恒久接着が困難又は不可能な安価な基板材料でも使用でき、(3)使用後に分別処理することができ、(4)重要かつ高価な対面基板を使用後に洗浄して再使用することができる、などの様々な効果が得られる。 図1は本発明のマイクロチップの一例の概要平面図である。図2は図1におけるII-II線に沿った断面図である。本発明のマイクロチップ1は、図14に示されるような従来のマイクロチップ100と同様に、一方の基板3(例えば、PDMS基板)に、少なくとも1本のチャネル104が形成されており、このチャネル104の少なくとも一端には入出力ポートとなるべきウェル106が形成されている。言うまでもなく、マイクロチップ1として必要なその他のチャネル及び/又はウェルなど様々な微細構造を有することができる。PDMS基板3の下面には対面基板5が貼り合わされている。従来のマイクロチップと異なり、本発明のマイクロチップ1では、PDMS基板3の外周縁寄り部分に連続した環状の負圧用管路7が形成されている。負圧用管路7の少なくとも1ヶ所には大気に連通した吸引口9が開口されている。 図3は、吸引口9から真空吸引する手段の一例の部分概要断面図である。吸引口9にフィッティング11を装着する。フィッティング11は吸引口9に接着固定することもできるが、着脱可能に取り付けることもできる。フィッティング11の上端にはチューブ又はキャピラリ13が接続されている。チューブ又はキャピラリ13の他端には公知常用の真空ポンプや手動によるシリンジ(何れも図示されていない)などが接続されている。 マイクロチップ1の使用前に、吸引口9に装着されたフィッティング11とチューブ13を介して、常用の真空ポンプ又は手動シリンジで負圧用管路7内を排気吸引する。排気吸引により到達する負圧の大きさは−10KPa〜−90KPaの範囲内であることが好ましい。負圧の大きさが−10KPa未満の場合、基板3を基板5に真空吸着させる力が弱すぎて所期の目的を達成することができない。一方、負圧の大きさが−90KPa超の場合、基板3を基板5に真空吸着させる効果が飽和して不経済となるばかりか、強力な負圧により基板3が応力変形することがあり好ましくない。 マイクロチップ1の使用中は、チューブ13を閉じるか、真空ポンプを常に動作させておくか、シリンジを吸引の状態で固定するなどの手段により、負圧用管路7内を常に一定の負圧に保持する。以上により、負圧用管路7の周辺はPDMSの有する自己吸着性とゴム弾性により、PDMS基板3と対面基板5とが密着し、負圧用管路7は封止され、負圧用管路7の面積とその圧力の積に応じた吸着力が発生する。 マイクロチップ1の使用終了後は、負圧用管路7内を大気圧に戻すことにより、負圧用管路7による真空吸着力は解除され、PDMS基板3と対面基板5とを容易に引き剥がすことができる。 本発明のマイクロチップ1では、PDMS基板3を真空吸着力により対面基板5に吸着させるので、対面基板5がPDMS基板3と恒久接着可能であるか否かは全く問題にならない。従って、本発明のマイクロチップ1では対面基板5として任意の材質のものを使用することができる。例えば、ガラス、シリコン、合成樹脂(例えば、PDMS、PMMA、PC、PE、PSなど)又は金属(例えば、クロム又はステンレスなど)などの任意の材質の対面基板を使用することができる。また、これら対面基板5を表面改質処理する必要も全く無い。 負圧用管路7の幅及び高さは特に限定されない。負圧用管路が形成されるマイクロチップの全体的サイズを考慮し、かつ、前記−10KPa〜−90KPaの範囲内の到達負圧を得るのに必要十分な幅及び高さであればよい。一例として、幅は0.1mm〜1mmの範囲内であり、また高さは10μm〜200μmの範囲内であることができる。幅と高さはPDMSの負圧用管路が潰れるか否かに係わる。負圧が−50KPaの時、高さが10μm程度の場合、幅は0.1mm〜0.2mm程度なら負圧用管路が圧潰することはないが、これ以上幅が広くなると、負圧用管路が圧潰する可能性が生じる。また、幅が1mmのように広い場合、高さは100μm以上必要となるが、製造上の観点から、高さは200μm程度が限界となる。 図3に示されるような大気開放タイプの吸引口9の他に、図4に示されるような、大気に開放されていない密閉タイプの吸引口15も使用できる。このような吸引口15を有する負圧用管路7の場合、吸引口15に注射器17の針19を穿刺し、この針19を介して負圧用管路内の空気を排気することにより所望の真空吸着を達成することもできる。このような注射器17を使用する形態は、大がかりな真空吸引装置が不要なのでコストが安価になるという利点がある。 負圧用管路7の形状は図1に示されるような直線状のものに限定されない。例えば、図5に示されるように、複数個の拡大円形管路21を設け、これら拡大円形管路21を直線状管路7で相互に連通させるような形態も使用できる。拡大円形管路21の代わりに拡大矩形管路(図示されていない)を使用することもできる。この拡大円形管路21は図4における密閉タイプの吸引口15を兼ねることもできる。 図6に示されるように、PDMS基板3内に形成される微細流路23が複雑な形状を有し、このため複数個の入出力ポート25或いは反応容器27、ポンプ又はバルブ29などが微細流路の接続されていたり、又は対面基板上に電極31などの配線パターンが形成されている場合、これら入出力ポート25、反応容器27、バルブ29、電極31などの近傍にこれらのための負圧用管路37,39,41,43を、主負圧用管路7から分岐延長して配設することもできる。吸引口9から真空ポンプ又はシリンジで主負圧用管路7内の空気を排気吸引すると、同時に分岐延長負圧用管路37,39,41,43内の空気も排気吸引されるので、PDMS基板3全体が下部の対面基板5の吸着されると共に、分岐延長負圧用管路37,39,41,43が配設されている箇所の近傍付近が特定的に強く吸着され、当該箇所の剥がれ発生を効果的に抑止することができる。なお、図6では、微細流路23は入出力ポート25、反応容器27、バルブ29、電極31などの近傍部分のみを示し、全体的なレイアウトは省略されている。 図7は図6におけるVII−VII線に沿った部分概要断面図である。図6に示されるようなマイクロチップ1Aでは、例えば、入出力ポート25は、そこに接続される、試薬又はサンプルなどの液体及び/又は気体を注入又は排出するためのチューブ45を介して外力が加わり易い。その結果、この部分が剥がれ易くなる。外部のポンプなどから圧力の高い気体及び/又は液体が送り込まれる場合、ポート部分は大きな面積を有するので、その流体の圧力により剥がれる可能性がある。このポート部分におけるPDMS基板の剥離を防止するために、これら入出力ポート25の近傍に主負圧用管路7から分岐延長された負圧用管路37を設け、入出力ポート25近傍の吸着力を高めることは極めて有効である。 反応容器27及びバルブ29などの近傍に、主負圧用管路7から分岐延長されたそれぞれの負圧用管路39及び41を設けるのも同じ理由によるものである。 図8は図6におけるVIII−VIII線に沿った部分概要断面図であり、図9は図8におけるIX−IX線に沿った部分概要断面図である。対象となる微細流路23が電極31などの配線パターンを跨ぐ場合、その配線パターンによる段差により隙間32が生じ、吸着力が弱まり、段差の部分より剥がれが生じやすく、これを抑止するために、主負圧用管路7から延長された負圧用管路43により段差発生部近傍の吸着力を高めることは有効である。負圧用管路43は、数μm程度までの厚みの金属配線パターンによる段差に対して、良好な吸着力を発生することができる。符号33は電源との接続端子を示す。 図10は図6におけるX−X線に沿った部分概要断面図であり、反応容器27の下部に、対象となる流体を加熱・冷却する素子や、あるいはポンピング動作を行うための駆動源となる圧電素子47などを設けた部分概要断面図である。このような素子47に対しては、PDMSの持つ吸着力が十分働かない場合がある。また、反応容器27として或る容積を確保するため、一般的な微細流路23よりも面積が大きい。更に、流体に対する加熱やポンピングにより、不要な圧力が発生する可能性が高い。こうした反応容器27には僅かな圧力が発生しただけで、剥がれが起こり流体の漏れが生じてしまう。このような場合、反応容器27の近傍に負圧用管路39を設け、容器27近傍の吸着力を高めることは有効である。圧電素子47が配設されていない場合にも同様に、有効である。 図11は図6におけるXI−XI線に沿った部分概要断面図であり、対面基板5側に高度なMEMS技術などにより、バルブやポンプ29などの流体制御素子を設けた部分概要断面図である。図12は図11におけるXII−XII線に沿った部分概要断面図である。バルブやポンプ29などの流体制御素子の具体的な内部構造はここでは省略するが、こうした流体制御素子は3次元構造の複雑な物で、極めて高価である。よって、使い捨てにするのは不経済であり、繰り返しの使用が前提となる。微細流路23とバルブやポンプ29などの流体制御素子は接続ポート49により適宜接続される。バルブやマイクロポンプ29では当然ながらそこを流れる流体に圧力が発生し接続ポート49付近の貼り付け面より剥がれや流体の漏れが発生し易い。この接続ポート49の近傍に負圧用管路41を設けて、吸着力を補強することは有効である。 図13は微細流路23を挟むように負圧用管路51を設けた実施態様の部分概要断面図である。所望により、特定の微細流路23の近傍に負圧用管路51を設け、その周辺に大きな吸着力を発生きせることもできる。これにより、対象となる微細流路23周辺からの剥がれや流体の漏れを防ぐことができる。特に流体に圧力が掛かる微細流路23などの場合に有効である。図13のように、対象となる微細流路23を挟むように負圧用管路51を設けると更に有効であるが、片方だけでも十分な吸着効果を発揮する。 図示された各実施態様では、負圧用管路7はPDMS基板3側に形成してあるが、対面基板5側に形成することもできる。また、負圧用管路7はPDMS基板3と対面基板5との貼り付け面のみに形成するのでなく、配管経路の都合上、立体的に配管することもできる。更に、図示された実施態様では、PDMS基板3と対面基板5との一対を貼り合わせた構造のマイクロチップであるが、PDMS基板を多層化させた構造などのように貼り付け面が複数ある場合、対面基板との貼り合わせ面だけでなく、各貼り付け面に負圧用管路を設けることができる。 縦3cm、横5cm、厚さ2mmのPDMS基板の貼り合わせ面側の周縁部に幅200μm、高さ30μmの連続した環状の負圧用管路を常法に従って形成し、連続環状負圧用管路の一部に大気に開放された吸引口を開設した。このPDMS基板を、縦4cm、横6cm、厚さ1mmのガラス基板に貼り合わせた。この状態でPDMS基板の端部を引き上げたところ、ガラス基板から容易に剥がすことができた。次いで、吸引口にフィッティングを装着し、フィッティングの上端に接続されたチューブを真空ポンプに連結して、負圧が−50KPaになるまで排気吸引し、その後チューブを密閉してその負圧状態を維持したまま、PDMS基板をガラス基板に真空吸着させた。この状態でガラス基板を持って強く振ってもPDMS基板が外れ落ちることは無く、通常使用上の十分な接着強度を有することが確認された。10時間静置後に同様な剥離試験を行ったが、結果は同じであった。その後、チューブを開いて大気圧に戻してから、同様な剥離試験を行ったところ、PDMS基板をガラス基板から容易に引き剥がすことができた。 負圧を−8KPaとしたこと以外は、実施例1と同じPDMS基板とガラス基板を使用し、実施例1と同様な剥離試験を行った。その結果、−9KPaの負圧状態ではPDMS基板は容易に引き剥がされてしまった。 負圧を−92KPaとしたこと以外は、実施例1と同じPDMS基板とガラス基板を使用し、実施例1と同様な剥離試験を行った。その結果、−92KPaの負圧状態ではPDMS基板がガラス基板から剥がれ落ちることはなかったが、負圧用管路部分のPDMS基板上面に変形が生じていた。 以上、本発明のマイクロチップの好ましい実施態様について具体的に説明してきたが、本発明は開示された実施態様にのみ限定されず、様々な改変を行うことができる。例えば、負圧用管路は連続した環状ではなく、断続された複数本の負圧用管路を使用しても、連続環状負圧用管路と同等な効果が得られる。 本発明によれば、PDMS基板と一対になって使用される対面基板の種類が極めて広範囲に拡大されるので、その実用性及び経済性が飛躍的に向上される。その結果、本発明のマイクロチップは、医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産など様々な分野で好適に有効利用することができる。特に、本発明のマイクロチップは、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なマイクロチップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で安価に使用できる。本発明のマイクロチップの一例の概要平面図である。図1におけるII−II線に沿った断面図である。図1における吸引口に真空吸引手段を接続させる一例の部分概要断面図である。本発明のマイクロチップにおける負圧用管路の別の例を示す部分概要断面図である。本発明のマイクロチップの別の例の概要平面図である。本発明のマイクロチップの他の例の概要平面図である。図6におけるVII−VII線に沿った部分概要断面図である。図6におけるVIII−VIII線に沿った部分概要断面図である。図8におけるIX−IX線に沿った部分概要断面図である。図6に示されたX-X線に沿った部分概要断面図である。図6に示されたXI-XI線に沿った部分概要断面図である。図11に示されたXII-XII線に沿った部分概要断面図である。微細流路を挟むように負圧用管路を設けた実施態様の部分概要断面図である。従来のマイクロチップの部分概要断面図である。符号の説明 1,1A 本発明のマイクロチップ 3 PDMS基板 5 対面基板 7 負圧用管路 9 吸引口11 フィッティング13 チューブ15 密閉吸引口17 注射器19 針21 拡大円形管路23 微細流路25 入出力ポート27 反応容器29 流体制御素子(ポンプ又はバルブ)31 配線パターン(電極)33 電源接続端子37,39,41,43,51 分岐延長負圧用管路45 チューブ47 圧電素子49 接続ポート少なくとも1枚のポリジメチルシロキサン(PDMS)基板と、該PDMS基板と貼り合わされる対面基板とからなるマイクロチップにおいて、 前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に、当該PDMS基板を前記対面基板に真空吸着させるための、連続した環状の負圧用管路が設けられており、 前記対面基板はガラス、シリコン、合成樹脂及び金属からなる群から選択される材料から形成されていることを特徴とするマイクロチップ。前記負圧用管路の一部に大気に開放された吸引口が更に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。前記負圧用管路の一部に密閉吸引口が更に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。前記負圧用管路の一部に他の管路部分に比較してサイズが拡大された管路部分が少なくとも1ヶ所以上更に配設されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のマイクロチップ。PDMS基板及び/又は対面基板の各貼り合わせ面側に配設された構造要素の近傍に、前記負圧用管路から分岐延長された負圧用管路が更に配設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のマイクロチップ。前記構造要素は、微細流路、入出力ポート、反応容器、圧電素子、流体制御素子、配線パターン又は電極であることを特徴とする請求項5に記載のマイクロチップ。PDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法において、 (a)前記PDMS基板の貼り合わせ面側の外周縁寄り部分に、連続した環状の負圧用管路を設けるステップと、 (b)前記PDMS基板を、ガラス、シリコン、合成樹脂及び金属からなる群から選択される材料から形成された対面基板に貼り合わせるステップと、 (c)前記PDMS基板の負圧用管路内の空気を排気吸引することによりPDMS基板を前記対面基板に真空吸着させるステップとからなることを特徴とするPDMS基板と対面基板との貼り合わせ方法。前記真空吸着の負圧は−10KPa〜−90KPaの範囲内であることを特徴とする請求項7に記載の貼り合わせ方法。


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