タイトル: | 公開特許公報(A)_光学活性なジアシルグリセロール及びその製造方法 |
出願番号: | 2004052603 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12P7/64,C07C69/78 |
清水 真 八谷 巌 秋田 政継 浜口 隆司 JP 2005237304 公開特許公報(A) 20050908 2004052603 20040227 光学活性なジアシルグリセロール及びその製造方法 株式会社三重ティーエルオー 802000042 伊藤製油株式会社 000118556 清水 真 八谷 巌 秋田 政継 浜口 隆司 7C12P7/64C07C69/78 JPC12P7/64C07C69/78 3 2 OL 9 4B064 4H006 4B064AD88 4B064CA21 4B064CB03 4B064CD05 4B064CD21 4B064DA01 4B064DA10 4H006AA01 4H006AB84 本発明は、ヒマシ油をリパーゼにより加水分解して光学活性なジアシルグリセロールを製造する方法及びそれによって得られるジアシルグリセロールの光学異性体に関わる。 ヒマシ油は植物油の一種であり他の植物油と同様にトリグリセロールの構造を有しており、また市場に安定的に供給されている安価な油であるが、トリグリセロールを構成する脂肪酸が一般の植物油と違い主成分がリシノール酸であるため他の植物油にない特徴を有している。そのためヒマし油は食用油として認められていないものの、医薬品、化粧品、工業製品分野で幅広く利用されている。例えば、ヒマシ油脂肪酸であるリシノール酸は、潤滑剤、界面活性剤、塗料用樹脂、化粧品の原料として、ヒマシ油エステルは可塑剤、潤滑剤、顔料分散剤、香粧品の原料として、又、ヒマシ油系ポリオール類はウレタン用途としてエラストマー、塗料、接着剤、電気絶縁材などに用いられる。 上述のリシノール酸およびエステルはヒマシ油を加水分解して得られるが、加水分解の方法として、アルカリ化触媒等を用いる化学的合成方法とリパーゼを触媒とする生物学的合成方法がある。一般的に、化学的合成法は大量生産に適しているが高温高圧反応であり、品質的にも改良が必要とされている。そこで、常温常圧下で固定化リパーゼを用いて行う反応(非特許文献1, 及び、特許文献1参照)、及びリパーゼを用いてヒマシ油から直接リシノール酸縮合物を生産する方法(特許文献2参照)、4種類の細菌由来のリパーゼ(Candida antarctica, Rhizomucor miehei, Pseudomonas cepacia, Penicillium roquefortii)を用いて、ヒマシ油に含まれる毒素リシン(Ricin)を含まないリシノール酸を製造する方法等が報告されている(非特許文献2参照)。畑中、後藤、「固定化リパーゼによるヒマシ油の連続加水分解」、北九州工業専門高等学校報告、第36巻(2003年1月)、pp65−70Charlotta Turner etal,「Lipase-Catalyzed Methanolysis of Triricinolein in Organic Solvent to Produce 1,2(2,3)-Diricinolein」, Lipids,Vol.38,no.11(2003),pp1197-1206特開2001−314735号公報特開H02−13389号公報 ところで、植物油または魚油等から得られる脂肪酸とグリセリンのエステルであるジアシルグリセロール(DAG)は、食品、医薬品および化粧品の乳化剤として有用なことが知られている。食用としてのDAGは、人体に吸収されやすく且つ吸収されても中性脂肪とならない健康的な食用油としてトリアシルグリセロール(TAG)の代替品となっている。ここで、DAGを食品、医薬品等に使用する場合、光学異性体としての検討が必要であり、例えば非特許文献3は、ヤシ油に存在するDAGの鏡像異性体について報告している。P.T.Gee, S.H.Goh,「Chiral and Dietary Diacylglycerols」, Malaysian Oil Science and Technology, 2001, vol10, No1, pp49-50 さて、加水分解酵素であるリパーゼは、一般に安価で耐熱性、耐溶媒性に優れ、多種類にわたって入手しやすく、且つ、a.立体選択性を有する、b.穏和な条件で合成反応が可能である、c.位置選択的反応/官能基選択的反応が可能である、等の特長がある。例えば、非特許文献4では、22種類の細菌由来のリパーゼを使用して、TAGから1,2(2,3)-DAGを合成する検討が行われている。Fureby,A.M., Tian,L.,「Preparation of Diglycerides by Lipase-Catalyzed Alcoholysis of Triglycerides」, Enzyme Microb. Technol., 20, pp198-206 上述の様に、ヒマシ油をリパーゼにより加水分解して、リシノール酸およびエステルを合成する反応検討、植物油又は魚油等から得られるトリアシルグリセロール(TAG)を細菌由来のリパーゼによりジアシルグリセロール(DAG)に加水分解する反応検討、および植物油や魚油等に含まれるDAGのキラリティーに関する検討は既にある。又、ジアシルグリセロール(DAG)は、グリセロール骨格のC−2がキラル中心となり、光学異性体が存在することも公知である。しかしながら、ヒマシ油を原料として得られるTAGを、細菌由来のリパーゼにより加水分解して、光学活性なジアシルグリセロール(DAG)を効率的に合成する検討、および該DAGの光学異性体に関する検討は未だ詳細に行われていない。従って、本発明の課題は、ヒマシ油を原料として、細菌由来のリパーゼにより光学分割して、光学活性なジアシルグリセロールを合成する方法、及び光学異性体が解明されたジアシルグリセロールを提供することにある。 本発明者らは上記の課題を解決するため、ヒマシ油を精製して得られるトリグリセリドを、細菌由来の3種類のリパーゼを用いて、種々の温度及び時間下で加水分解した。結果として得られるジアシルグリセロールは光学異性体を含んでいるため、速度論的光学分割が可能である。ここで、速度論的光学分割とは、異性体が存在する場合に各異性体の反応速度が異なることから異性体を分離することができる現象を利用したものである。 次に、上記の様にして得られたジアシルグリセロールをベンゾイル化した後、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によってジアステレオ選択性を決定し、本発明に至った。ここで、ジアステレオ選択性(diastereo-selection)とは、キラルな部分とプロキラルな部分、あるいはもう一つのキラルな部分を持つ分子の、キラル中心とプロキラル中心、あるいはもう一つのキラル中心を含む分子平面の表裏を識別することを意味する。 具体的に本発明は、ヒマシ油を精製して得られる高純度トリリシノール酸グリセロールを、シュードモナス・セパシア菌(Pseudomonas cepacia)由来のリパーゼPS、又は、シュードモナス・フルオレッセンス菌(Pseudomonas fluorescens)由来のリパーゼAKにより、テトラヒドロフラン(THF)とリン酸緩衝液等の有機溶媒中で加水分解して、光学活性な1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロール(1,2(2,3)−Diacyl−sn−glycerol)を得るための製造方法に関わる。ここで、ジアシルグリセロールの光学異性体に関わる表記法は、sn表示(stereospecific numbering system)に従った。 更に、次の発明は、前記の製造方法により得られる1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールにおいて、2,3−ジアシル−sn−グリセロールの1,2−ジアシル−sn−グリセロールに対するジアステレオマー過剰率が90%de以上であることを特徴とする1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールに関わる。ここで、2,3−ジアシル−sn−グリセロールは、光学異性体における2R配置を、1,2−ジアシル−sn−グリセロールは光学異性体における2S配置を示し、又、ジアステレオマー過剰率%deは、ジアステレオマーどうしの混合割合を示す尺度を意味する。ここで90%de以上としたのは、高濃度の2,3−ジアシル−sn−グリセロールを得るためである。 本発明によるヒマシ油由来の光学活性な1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロール及び90%de以上のジアステレオマー過剰率を有する2,3−ジアシル−sn−グリセロールの提供により、液晶材料等の電子材料または医薬品前躯体または食品添加剤または化粧品添加剤等の工業製品に、好適に利用できる。 以下に、本発明の実施形態について、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。 <基質トリリシノール酸グリセロール及び各種試薬の準備>基質のトリリシノール酸グリセロールは、(株)伊藤製油から提供されたヒマシ油を展開溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)でシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用い精製し、高純度トリグリセリド(トリリシノール酸グリセリド)を得た(図1)。テトラヒドロフラン(THF),ジエチルエーテルは、ナトリウムベンゾフェノンケチルから使用直前に蒸留したものを使用した。その他の試薬類は、市販品を蒸留するかもしくはそのまま使用した。 <リパーゼPSによるトリリシノール酸グリセロールの室温での加水分解>このようにして得た純粋なトリリシノール酸グリセロールを基質として、シュードモナス・セパシア菌(Pseudomonas cepacia)由来のリパーゼPSにより速度論的光学分割を行った。その方法は、ヒマシ油由来のグリセロール(トリ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロール)93.3mgに、THF0.5mLとリン酸緩衝溶液1.5mLを加え数分間攪拌したあと、リパーゼPS5.0mgを加え、室温(20〜23℃)で10分間攪拌し、セライトろ過により酵素を除去することにより反応を停止させた。この反応について時間検討を行った結果を図2に示す。なお、このとき得られると考えられる生成物は、原料であるトリアシルグリセロール(TAG)と、1−位もしくは3−位が加水分解されたジアシルグリセロール(1,2- or 2,3-DAG)、2−位が加水分解されたジアシルグリセロール(1,3-DAG)、1−位と2−位もしくは2−位と3−位が加水分解されたモノアシルグリセロール(1- ,3-MAG)、1−位と3−位が加水分解された(2-MAG)、すべてのアシル基が加水分解されたグリセロール、ヒマシ油の脂肪酸であるリシノール酸(FA)がある。 図2に示すように、30分反応させたとき最も良い収率で1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールを得ることができた。一方、1,3−DAGは得られなかった。同様にモノアシルグリセロールは2−MAGのみ得られた。リパーゼによる加水分解は、一般に一級のエステルと二級のエステルでは、一級のエステルに対し反応が非常に速く進行するためこのような結果になったと考えられる。 <ジアステレオマー過剰率の測定> 次に、このジアシルグリセロールをベンゾイル化させた後、キラルカラムCHIRALCEL OD(ヘキサン:2−プロパノール=50:1)を用いた高速液体クロマトグラフィーによってジアステレオ選択性を決定した。結果を図3及び図4に示す。 図3、4に示すように、30分のとき最も良いジアステレオ選択性92.2%deを得ることができた。しかし、その後反応の進行とともにジアステレオ選択性は低下した。これは、リパーゼによる加水分解が可逆反応であり、一度、2−モノアシルグリセロールとなったものが、エステル化されるためにこのような結果になったと考えられる。また、絶対構造の決定はジベンゾエート法を用いた。この方法は、ジアシルグリセロールの二つのアシル基が、Grignard試薬により除去されるため脂肪酸の種類を選ばない利点がある。まずジアシルグリセロールのヒドロキシ基を、tert−ブチルジメチルシリル基で保護した後、ジエチルエーテル中エチルマグネシウムブロミドを用いアシル基を除去し、生じたヒドロキシ基をベンゾイル基で保護することにより、1−O−tert−ブチルジメチルシリル−2,3−O−ベンゾイル−sn−グリセロールを得た(図5)。図5に示すように、今回リパーゼPSによる加水分解により得られたジアシルグリセロールは、「α」D23.7 −16.4°(c 0.227、methanol)であったため、加水分解された2,3−ジアシル−sn−グリセロールはR−体と決定した。 <リパーゼPSによるトリリシノール酸グリセロールの0℃での加水分解> 上記と同じ方法により、純粋なトリリシノール酸グリセロールを0℃において、リパーゼPS5.0mgを用いて加水分解した。その結果を図6に示す。図6に示すように、反応温度が0℃の場合、反応時間が90分の時、最も良い収率28%でジアシルグリセロールを得た。また、室温で反応を行ったときと同様に、ジアシルグリセロールをベンゾイル化させることでジアステレオ選択性を決定した(図7及び図8)。図7,8に示すように、120分の場合にジアステレオ選択性76.2%deでジアシルグリセロールを得ることができたが、最高でも20分の場合にジアステレオ選択性89.2%de であった。これは、反応温度を下げたため、酵素の活性が低下したためと考えられる。 <リパーゼPPLによるトリリシノール酸グリセロールの室温での加水分解>次に、同様の方法により、リパーゼによる選択性の違いを見るために、ブタ膵臓リパーゼPPL10.0mgを用いて、純粋なトリグリセリドの加水分解を行った。結果を図9に示す。図9に示すように、リパーゼPPLを用いたとき反応はリパーゼPSに比べ、反応は非常にゆっくり進行し60時間のとき最も収率が良く27%であった。更にジアステレオ選択性を決定した結果を図10及び図11に示す。図10,11に示すように、光学純度は時間の経過とともに低下し、最高でも20時間の時の31%deであった。また得られたジアシルグリセロールの立体配置は、HPLCにより検出されたピークの時間からリパーゼPSと同様にR−体であった。 <リパーゼAKによるトリリシノール酸グリセロールの室温での加水分解>次に、同様の方法により、リパーゼPSと同じシュードモナス属の細菌であるシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)由来のリパーゼAK5.0mgを用い、純粋なトリグリセリドの加水分解を行った。結果を図12に示す。図12に示すように、加水分解時間が2時間の時、上述の3種類のリパーゼのうち最も良い46%の収率でジアシルグリセロールが得られた。また、図13及び図14に示すように、ジアステレオ選択性においても90%de以上の良好なジアステレオ選択性で、R−体のジアシルグリセロールが得られた。トリシノール酸グリセロールの化学構造式を示す図である。トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼPSで室温にて加水分解することにより得られた、ジアシルグリセロールの収率及び旋光度を示す図である。トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼPSで室温にて加水分解することにより得られたジアシルグリセロールを、ベンゾイル化してジアステレオマー過剰率%deを測定した結果を示す図である。図3の収率(Yield)及びジアステレオマー過剰率%deをグラフ化した図である。絶対構造決定のためのジベンゾエート法を示す図である。トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼPSで0℃にて加水分解することにより得られた、ジアシルグリセロールの収率及び旋光度を示す図である。トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼPSで0℃にて加水分解することにより得られたジアシルグリセロールを、ベンゾイル化してジアステレオマー過剰率%deを測定した結果を示す図である。図7の収率(Yield)及びジアステレオマー過剰率%deをグラフ化した図である。トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼPPLで室温にて加水分解することにより得られた、ジアシルグリセロールの収率及び旋光度を示す図である。トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼPPLで室温にて加水分解することにより得られたジアシルグリセロールを、ベンゾイル化してジアステレオマー過剰率%deを測定した結果を示す図である。図10の収率(Yield)及びジアステレオマー過剰率%deを、グラフ化した図である。トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼAKで室温にて加水分解することにより得られた、ジアシルグリセロールの収率及び旋光度を示す図である。トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼAKで室温にて加水分解することにより得られたジアシルグリセロールを、ベンゾイル化してジアステレオマー過剰率%deを測定した結果を示す図である。図13の収率(Yield)及びジアステレオマー過剰率%deを、グラフ化した図である。 ヒマシ油を精製して得られる高純度トリリシノール酸グリセロールを、シュードモナス・セパシア菌(Pseudomonas cepacia)由来のリパーゼPS、又は、シュードモナス・フルオレッセンス菌(Pseudomonas fluorescens)由来のリパーゼAKにより、有機溶媒中で加水分解して、光学活性な1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールを得ることを特徴とする1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールの製造方法。上記の有機溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)にリン酸緩衝液を加えた有機溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールの製造方法。 請求項1または請求項2に記載の製造方法により得られる1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールにおいて、2,3−ジアシル−sn−グリセロールの1,2−ジアシル−sn−グリセロールに対するジアステレオマー過剰率が90%de以上であることを特徴とする1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロール。 【課題】ヒマシ油を原料として、細菌由来のリパーゼにより光学分割して光学活性なジアシルグリセロールを合成する方法及び光学異性体が解明されたジアシルグリセロールを提供することが本発明の課題である。【解決手段】ヒマシ油を精製して得られる高純度トリリシノール酸グリセロールを、リパーゼPS等の細菌由来のリパーゼにより、有機溶媒中で不斉加水分解して、光学活性な1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールを得る方法および光学異性体の構造が解明された1,2(2,3)−ジアシル−sn−グリセロールを提供することによって課題が達成される。【選択図】 図2