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タイトル:公開特許公報(A)_熱的非平衡状態における高分子材料の流動物性予測方法
出願番号:2004051775
年次:2005
IPC分類:7,G01N11/06,G01N11/08


特許情報キャッシュ

小山 清人 増渕 雄一 江原 賢二 長竹 渉 多田 健一 JP 2005241443 公開特許公報(A) 20050908 2004051775 20040226 熱的非平衡状態における高分子材料の流動物性予測方法 株式会社プラメディア 596072335 青木 篤 100099759 石田 敬 100077517 古賀 哲次 100087413 西山 雅也 100082898 小山 清人 増渕 雄一 江原 賢二 長竹 渉 多田 健一 7G01N11/06G01N11/08 JPG01N11/06G01N11/08 6 1 OL 18 本発明は、高分子材料の溶液又は溶融状態における流動物性を予測する方法に係り、高分子材料を使用した製品の設計、金型の設計、成形プロセス及び成形条件の検討、高分子材料の開発、成形手法の開発等に利用されているCAE(Computer−Aided−Engineering)システムが必要とする熱的非平衡状態における粘度式やPVT近似式などの物性パラメータを算出する流動物性予測方法に関する。 近年、自動車内外装部品、家電製品、OA機器、精密機器等において益々多くの高分子材料(プラスチック)が使われるようになってきている。それらの分野におけるプラスチック成形品(主として射出成形品)の開発設計、プラスチック金型の設計、生産技術の検討などにおいて、樹脂流動解析などのコンピュータシミュレーションプログラムからなるCAEシステムの利用、普及が進んでいる。また、高分子材料の研究開発や材料開発の分野においても、CAEによる仮想実験によって研究開発の生産性向上を図ろうとする動きが加速している。 このようにCAEに対する期待が拡大する中で、プラスチックCAEの中核をなすのは流動解析プログラムである。プラスチックCAEの一つである射出成形CAEにおける流動解析プログラムは、射出成形プロセスの充填・保圧・冷却過程における高分子材料の熱流動挙動を一連に解析するものである。一般にプラスチック成形品の場合は、金属などの成形と異なり、成形プロセスが成形品の強度や外観などの成形品質に大きく影響するため、製品設計開発や金型設計段階においてCAEによる成形プロセスの解析はきわめて重要である。 プラスチックCAEは、連続体力学を基礎として、有限要素法、有限差分法、境界要素法などの数値解析手法によって、高分子材料の成形プロセスにおける熱流動挙動を解析する。これらの解析において、高分子材料の物性は、固有の数値で定義されるものだけでなく、構成方程式によって定義されものもあり、多くは温度や応力などの状態量に対して非線形の形式で表現されている。構成方程式には通常数個から数十個の物性パラメータが含まれるので、それらのパラメータを決める作業が必要となる。パラメータは、高分子材料の種類(たとえば、組成、分子構造、分子量、分子量分布、分岐など)によって異なる。また、構成方程式そのものも多くのモデル式が提唱されており、市販のプラスチックCAEが採用している構成方程式も異なっていることがある。たとえば、射出成形CAEの流動解析では、弾性挙動を考慮していない純粘性非ニュートンモデルの構成方程式を採用しているケースが多いが、そのほか粘弾性モデルを採用しているCAEもあり、さらに微分型と積分型などに分かれている。 現在、前記構成方程式のパラメータは通常2つの過程を経て決定されている。まず、キャピラリーレオメータやPVT試験装置などの高分子材料の流動実験工程を有する材料試験機により、流動実験を行って実験データを得て、次に最小二乗法などの統計解析的な手法により構成方程式が示す曲線と多数の実験データで示される点群または曲線との差異を最小にするようにパラメータを決定する(フィッティング)。 一例として、純粘性非ニュートンモデルの構成方程式について説明すると、流体の応力が等方応力成分と変形速度に比例する粘性成分よりなると仮定することにより、次の構成方程式が得られる。応力をσij とすれば、 σij =-Ρδ+λDκκδ+2ηDij (式1)ここで、第1項は法線応力、第2項は伸長変形、第3項はせん断変形を表す。また、Dij (変形速度)=1/2(∂νi/∂χj+∂νj/∂χi)、P:圧力、δ:単位行列、η:粘度係数、λ:第2粘度係数である。非圧縮性を仮定すればDκκ=0となり、純粘性非ニュートンモデルの構成方程式が次のように得られる。 σij =-Ρδ+η(∂νi/∂χj+∂νj/∂χi) (式2)射出成形の流動解析では、ηはせん断速度γ、温度T、圧力Pなどにより変化すると考える必要がある。そこで、粘度の近似式として例えば、経験的なCrossモデルにWLF型の温度依存性を考慮した次式などが用いられる。ここで、η0:ゼロせん断粘度と、C1、C2、C3、C4、C5:物性(フィッテング)パラメータは、材料によって定まる係数であり、対象とする材料の物性実測値より統計解析的な手法により決定される。 また、弾性的な圧縮や冷却による密度変化は、材料ごとに定まる状態式(PVT線図)を用いて表現する。射出成形の流動解析(充填過程)で圧縮性を省略する場合は不要であるが、保圧・冷却過程の解析では状態式は必須のデータとなる。状態式として、例えばSpencer-Gilmoreの式などを用いる。 (Ρ+Ρ’)(1/ρ-1/ρ’)=RT (式5)ここで、Ρ:圧力、ρ:密度、Τ:温度であり、Ρ’、ρ、Rは材料によって定まる定数である。 前述のように、高分子材料の構成方程式として多数のものが提案されているが、絶対的なものはない。同じ化学種の材料であっても、分子量、分子量分布、分岐などの分子構造が異なると、用いるべき構成方程式が変わったり、パラメータが変わったりするので、成形素材としての樹脂グレードごとに詳細な材料試験機などによる計測実験が必要である。また、分子の構造と構成方程式の形や物性パラメータとの相関が解明できていないため、すでに物性がわかっている複数の材料を混ぜた成形素材やガラス繊維や炭素繊維などを混練した複合材料などの成形素材についても、再度物性パラメータを得るための計測実験が必要となる。 プラスチックCAEを用いた樹脂流動解析に必要な高分子材料の物性は、せん断粘度、PVT、比熱、熱伝導率などであるが、材料メーカーが提供するカタログや技術資料では不充分なことが多いため、CAE解析を実施するためには、それらの物性を測定する必要がある。また、CAEに採用されている構成方程式のパラメータをフィッティングによって決めなければならない。市販のCAEシステムは、CAE解析に必要な多くの高分子材料のパラメータをデータベースとして内蔵している。したがって、CAEユーザーはそれらのデータベースを利用することになるが、データベースの規模や精度、信頼性などの点で問題があり、また当然のことながら試作段階の材料や新規材料については含まれていない。したがって、ユーザー自身で材料試験をしなければならないケースも多い。その場合、各物性に対応した試験装置を用意する必要があり、また材料試験(物性測定)自体に多大の時間、マンパワー、試験用材料サンプル、熟練を要し、さらに測定データからパラメータを算出しなければならないため、このことがCAEを利用する上で大きなネックになっている(特許文献1及び非特許文献1参照)。 このような問題を回避するため、すでに実用化されているキャピラリーレオメータなどの材料試験機のうちの適当な一つの材料試験装置と、高分子材料の成形プロセスを解析対象とする樹脂流動解析プログラムと、最適化計算プログラムとを機能的に組み合わせることにより、少量のサンプルで短時間、低コスト、簡易操作でCAEに必要な物性パラメータを算出する。 最適化計算プログラムについては、多くのアルゴリズムが提案されている。その中の一つであり近年注目されている応答局面法をプラスチックCAEに応用した事例について説明する。プラスチック成形では最適成形条件を見出す作業はきわめて重要であるが、従来は長年の経験、試行錯誤又は実験計画法などにより成形条件の最適化を計るという手法が主流であった。しかしながら、プラスチックCAEの利用が進み、CAE解析による仮想実験によって最適成形条件を見出そうという試みがなされるようになった。しかしながら、この方法は理論上可能であっても、極めて多数の成形条件項目の組合せに対してCAE解析を行う必要があり事実上不可能な状況であった。応答曲面法という品質工学の分野では成果を上げている手法をCAE解析に取り入れて成形条件の最適化を計るという新しい研究開発が行われている。 最適成形条件の評価において、例えば成形温度、成形速度、成形圧力などの成形因子がN因子あり、因子レベル(例えば成形温度が100℃、110℃、120℃、130℃、140℃など)がM水準ある場合には、通常の実験計画法ではNM通りの試行を行えば、その中での最適解を求めることができる。応答曲面法では、応答曲面関数:を最小化(最大化)する未定定数βを、実験結果又は解析結果から最小自乗法などにより推定しようという方法で、実験計画法のNM回に対して最低1+2N+N(N+1)/2回の試行で最適値が得られるという特徴がある。 材料試験機による流動実験と、CAE解析による流動解析(仮想実験)と組み合わせることにより、未知の物性パラメータを最適化計算プログラムによって算出する場合、最適化計算プログラムに入力するパラメータの初期値の設定は、パラメータ算出工程の生産性及び算出するパラメータの精度に影響する。近年、研究が進んでいるレプテーション(reptation)理論に基づく高分子化合物の分子運動を計算する分子レオロジーシミュレータを利用し、分子構造、分子量、分子量分布、分岐などを入力して溶融粘度などの物性を予測することが可能となりつつある(特許文献2)。これらの物性データから得られる物性パラメータを最適化計算プログラムに入力するパラメータの初期値として設定することにより、パラメータ算出工程の生産性及び算出するパラメータの精度が大きく向上するものと期待される。特開平9−311114号公報PCT/JP02/00125出願(株)工業調査会発行「プラスチックス」Vol.53,No.7,33〜39頁 プラスチック成形品の開発設計、プラスチック金型の設計、生産技術の検討又は高分子材料の研究開発や材料開発を、CAEを活用して実施しようとする場合に必要となる材料物性について、従来はCAEに内蔵されている樹脂データベースを利用するか、個々の材料物性を測定してパラメータフィッティングを行っている。前者は新規材料や新配合の材料に対しては適用できないことや内蔵されているデータベースの規模や精度、信頼性などの点でも問題があり、後者は多大の時間、マンパワー、サンプル手配、熟練を要するという点でやはり問題がある。従って、本発明の目的は、前述の従来技術の問題を克服して、少量のサンプルによる流動実験を実施し、この流動実験を再現する流動解析を実施し、最適化計算プログラムにより流動解析の計算結果が流動実験を最も良く再現するように物性パラメータを確定させることにより、CAEを活用した設計、検討、研究、開発の期間を短縮せんとすることにある。 CAEの解析精度は、プログラムの精度だけでなく入力するデータにも大きく依存する。入力するデータの一つである形状データは、3次元CADデータの利用や、高性能コンピュータの普及による有限要素などのメッシュ数の増加等により形状精度は大きく向上している。一方、物性データについては、データベースの規模(蓄積されている材料のグレード数)は拡大しているものの、精度の向上はほとんど見られていない。従って、本発明は、また、CAEが採用している構成方程式の物性パラメータを短時間かつ精密に確定することにより、物性データの精度を向上し、結果としてCAEによる解析精度を向上させることを目的とする。 新規材料の開発において、材料の特性を評価することと材料の用途を検討することは極めて重要である。現在は、材料の特性評価は様々な物性測定を実施して行っており、一方用途の検討は、製品を試作し、さらに荷重試験や落下試験などの様々な性能試験を行って評価している。これらの評価は独立して実施されることが多いが、最終的には両者を総合して評価することになるため長期の作業が必要となる。従って、本発明は、更に、前者の特性評価は物性パラメータを確定することにより評価し、後者の製品試作や性能試験は、確定したパラメータ等を利用してCAE解析を実施することにより評価するという連続作業により、新規材料開発の期間を大幅に短縮することを目的とする。 本発明に従えば、(I)高分子材料の流動実験を材料試験機を用いて実施する流動実験工程と、(II)連続体力学および有限要素法などの数値解析手法に基づき高分子材料の流動解析を行う流動解析工程と、(III)前記高分子材料の流動実験を前記流動解析工程で用いる構成方程式中の複数の物性パラメータを最適化計算プログラムによって最も精度良く前記流動実験を計算的に再現できるように算出するパラメータ算出工程とを含んでなる熱的非平衡状態における高分子材料の流動物性予測方法が提供される。 本発明に従った熱的非平衡状態における高分子材料の流動物性予測は、数時間(長くても1日程度)の作業により完了するので、ユーザーは物性予測の結果算出された物性パラメータによりプラスチック製品のCAE解析を即座に実施し、最終成形品の性能を容易に予測することができ、同時により最適な形状設計又は最適金型設計、最適成形条件などの検討が可能となり、さらに、より最適な材料の選定評価が短時間、低コストで可能になるため、成形材料の開発にも大きく資するものとなる。このように、本発明は、高分子の分子設計から、材料評価、製品性能評価までを一貫して実施することができるものであり、従来の発想大きく超えた画期的な材料試験システムとして、材料開発又は製品開発のコストと時間を飛躍的に削減することができる。 本発明に従えば、材料試験機での高分子材料の流動実験工程(I)、流動実験を再現する流動解析工程(II)、流動実験を最も良く再現できるよう最適化計算プログラムによって物性パラメータを算出確定するパラメータ算出工程(III)を設けたシステムを用いることによって、従来まで必要であった高分子材料の物性測定や、物性データの集積、パラメータの算出などに費やされていた時間的、コスト的な無駄、物性測定者による実験的誤差などを大きく減少させることができる。その結果、短期間でCAEによる成形解析が可能となり、上記高分子材料の最終成形品の性能を予測することができる。以下、本発明のシステムの概略を示す図1を参照しながら以下に更に説明する。 本発明の流動実験工程(I)において、流動実験を行うのに使用することができる材料試験機としては、インストロン式キャピラリーレオメータ、定圧高下式フローテスター、回転粘度計、エキステンションビスコメータ、PVT測定装置、小型押出試験機、示差走査式熱量分析機などがある。例えば図1に示すように、キャピラリーレオメータ(細管粘度計)を使用する流動実験1の場合は、キャピラリー(細管)を取り付けて流動実験を実施するほか、スリットダイなどを取り付けて流動実験1を実施することにより、スリットダイ中を通過する溶融材料の時々刻々の温度や圧力を検出し、また、スリットダイから流出する溶融材料の流量を検出することができる。例えば小型押出試験機の場合は、押出機のノズル先端部分にスリットダイを取り付けて流動実験を実施し、同様に時々刻々の温度、圧力、流量を検出することができる。検出した流動実験結果2のデータは、装置に付属するコンピュータに蓄積され、次の処理を待つ。 本発明に従った高分子材料の物性予測方法には、連続体力学及び有限要素法などの数値解析手法に基づき高分子材料の流動解析を行う流動解析工程(II)が含まれる。この流動解析工程(II)は、前記流動実験工程(I)での流動実験を再現するために、予め材料試験機の溶融材料が押し出されて通過する部分の形状データとして有限要素などのメッシュデータ3を保存しておく。また、実験条件として採用された溶融材料の注入温度や注入流量などのデータ4を入力する。材料の物性パラメータ5は最初の段階では未知であるため、適当な数値を入力するが(初期値設定6)、パラメータ算出工程(III)の最適化計算プログラムが物性パラメータを算出確定した段階ではそれらのパラメータ7を入力し、流動実験1により検出された実験結果2と流動解析(仮想実験)8の計算結果9の差異を比較し、その値が設定した値より小さくなるまで繰り返す。キャピラリーレオメータを使用する場合は、溶融材料が滞留するシリンダー部分及びそれらが押し出されて通過するスリットダイ部分の形状のメッシュデータを保存する。また、シリンダー内の溶融材料の温度やプランジャーを移動させて押し出すときの押出速度を流動実験データとして入力する。また、物性パラメータの初期値として入力する数値は、レプテーション理論に基づく高分子材料の分子シミュレーションによって計算された物性パラメータを入力することによって最適化計算の効率、精度を向上させることができる。 本発明に従った高分子材料の物性予測方法には、前述の如く、パラメータ算出工程(III)が含まれ、ここでは最適化計算プログラムを使用して、流動実験1により検出された実験結果2と流動解析(仮想実験)8の計算結果9の差異を最小にするように物性パラメータ7を算出確定する。応答曲面法は、複数のパラメータの設定値において解析又は実験した結果を関数に近似して、近似された関数を最大化又は最小化するパラメータを求めることで簡便に最適化を実施する。応答曲面法は実験計画法と関数近似、最適化からなる手法であり、化学プラントなどのプロセス最適化においては既に数多くの実績があるが、本パラメータ算出工程(III)に例えば応答曲面法を応用することによって短時間かつ高精度に物性パラメータ7を算出確定することができる。 上で求めた高分子材料の物性パラメータ7は、データ送信工程(IV)から、プラスチックCAEによる成形解析に必要な物性パラメータとしてCAEシステムにオンライン又はオフラインで送信する。これにより、CAEによる成形解析に必要な他の入力データ、つまり成形品の形状データや成形条件などの入力が整うと成形解析がスタートできる。 前述の如く、本発明では、パラメータ算出工程(III)により算出された高分子材料の物性パラメータ10をCAEへ送信するデータ送信工程(IV)を更に備えることができ、これによりCAEを使用して高分子材料の成形性を評価し又は成形品質を評価する流動解析、充填・保圧・冷却解析、そり・収縮解析、繊維配向解析、金型冷却解析の一つ又はそれ以上の成形解析を行うことにより、熱的平衡状態における高分子材料のCAEへの物性パラメータを供給することができる。 次にCAEについて簡単に説明すると、CAEで用いられる樹脂物性は熱流動特性と機械特性に分類され、熱流動特性は充填保圧冷却解析で樹脂の熱流動計算に用いられる樹脂物性であり、例えば粘度、熱伝導率、比熱、PVT特性などである。一方、機械特性はそり解析で成形品の変形計算に用いられる樹脂物性であり、例えばヤング率、線膨張率、ポアソン比、クリープ特性などである。これらの樹脂物性は予め所定の方法で樹脂ごとに測定しておき、樹脂物性データベースにデータファイルとして予め登録しておく必要がある。そのような樹脂物性について、代表的な測定方法や使用方法を表Iに示す。 これらの樹脂物性は温度やせん断歪速度や圧力といった様々な状態量に依存するため、測定条件としてそれらの状態量を変化させて測定される。また、比熱や熱伝導率のように測定データをそのまま使う場合と、粘度やPVT特性のように測定データを近似式にフィッティングして使う場合とがあり、例えば熱伝導率については、種々の温度に対して熱伝導率を測定し、それをテーブルとして樹脂物性データファイルに登録しておくと、そのテーブルを参照して、計算される時々刻々の樹脂温度に対応した熱伝導率が求められる。ここで、計算された温度に対応する測定データが無い場合には直線補間などを用いて対応する物性を求める。 前述した樹脂物性の中でも特に重要と考えられる粘度とPVTは、その特性を良く表わす近似式を用いて対応する(表II及び表III参照)。樹脂の流動を計算する上で最も重要な物性となるのが粘度であり、粘度は流体の流動抵抗を表しており、粘度が高いほど流れにくく圧損が大きくなる。一般に樹脂は粘弾性と呼ばれる粘性的な性質と弾性的な性質を合わせもった挙動をするが、射出成形過程での溶融樹脂の流れは粘性的な性質が支配的であるため、樹脂を粘性体として取り扱うことが多い。ピンポイントゲートの入口部のように流れが急縮するような部分などで弾性的な性質が強く現れることもあるが、全体の流れは総じて粘性的と言える。 射出成形では狭いキャビティを高速で樹脂が流れていき、このときの板厚方向の流速分布は図2に示したように、金型表面でゼロ(金型に接した樹脂は流れない)となり、板厚中央ほど流速が速くなる。即ち樹脂はズレルような変形をしながら流れることになり(このような変形はせん断変形あるいは擦り変形と呼ばれ、そのような変形を伴う流れをせん断流動と言う)、変形としてはこのせん断変形の他に伸長変形(樹脂の伸長に伴う変形)があるが、射出成形の樹脂流動においては狭いキャビティを流れることから、せん断流動が卓越することになる。この変形に対する抵抗が流動抵抗であり、射出成形CAEで用いられる樹脂の粘度はせん断流動に対する抵抗を表す(せん断に対する抵抗であることからせん断粘度とも呼ばれる)。 樹脂の粘度は、せん断変形する速度(せん断歪速度又は省略してせん断速度と呼ぶ)や温度により変化するため、キャピラリーレオメータなどで粘度を測定する場合には温度やせん断歪速度を変化させて測定することになる(表I参照)。このように粘度がせん断歪速度によって変化する性質は非ニュートン性と呼ばれている。 前述のようにして測定された粘度の特性は、粘度近似式と呼ばれるモデル式で表現して計算に使用する。例えば下式(Cross−Arrheniusモデル)のような粘度近似式を用いる場合、種々の温度Tやせん断歪速度γに対して測定された粘度データに合うように(フィットするように)モデル式のパラメータC1〜C4を調整して決定する(これをフィッティングと呼ぶ)。 図3は測定された粘度データ(図中のシンボル)と粘度近似式によるフィッティング(図中の線)の様子を示す一例を4水準の温度について示したもので、測定された粘度特性がうまく捉えられている。このようなフィッティングにより求められたパラメータを、樹脂物性データベースに予め登録しておき、このパラメータに基づき、計算される時々刻々の樹脂温度やせん断歪速度に対応した粘度が近似式を用いて求められる(なお、測定条件の範囲外の温度やせん断歪速度に対する物性は、近似式による外挿で求められる)。 粘度近似式としては上式の他に様々なタイプの式が用意されており、ユーザーは測定データを表現しやすい式を選択して使うことになる。前記表IIは利用できる粘度近似式の一例を示したもので、一般にはCross−Arrhenius式やCross−WLF式が用いられる。通常はCAEのユーティリティプログラムとして用意されている粘度フィッティングプログラムによりこのフィッティング作業を行うことができる。 以下、本発明の高分子材料の流動物性予測法の実施例について更に詳しく説明する。実施例1 図1は本発明システムの概略を示す図面であり、これについては既に説明した通りである。 以下に、本発明は従来手法と異なり、1台の流動実験機、1回の測定、少量の実験サンプルで、CAE解析に必要な物性パラメータを得ることができることを説明する。ここでは粘度パラメータに注目して新しいシステムを構築し、従来手法による多数回の実験をすることなくパラメータが得られることを示す。なお、ここに示す手法は、他の物性パラメータについても適用可能である。 図4は通常の剪断粘度測定装置の原理(細管押出法)を示す概略図である。細管押出し法による剪断粘度測定は図4に示すように、下部に細管を有する加熱されたバレルの中に樹脂ペレットを詰め、これを溶融し、ピストンを一定の速度で降下させ、溶融樹脂をキャピラリーから押出し、その時生ずる圧力を計測し、以下の式に従って粘度を計算しグラフ上にプロットする(図3参照)。 γ(剪断速度)=4Q/πr3 τ(剪断応力)=rP/2L η(粘度)=τ/γ (但し、Q:流出速度(cm3/sec)、r:細管半径(cm)、P:圧力(dyn/cm2)、L:細管長(cm)である。) 本実施例では前述の剪断粘度測定装置(キャピラリーレオメータ)の下部に金型内の圧力分布(P1,P2)を測定するためのスリットダイ形状の作成金型(図5参照)を取り付け、200℃等温に全体を保った。試料は、出光石油化学(株)製の汎用ポリスチレンを用いた。この装置での実際の流動実験の結果(P1,P2)と、適当な粘度パラメータを初期値として与えCAEによって同じ流動現象を計算した解析結果とを比較する。その後、最適化手法によって実験結果とCAEの解析結果との誤差を最小化するように物性パラメータを変化させながら再度CAE解析を行い、CAEの解析結果を流動実験の結果に合わせていく。そして、設定誤差範囲になった時点での物性パラメータを採用する。 最適化手法としてはTSM (Trial Search Method),RSM (Response Surface Method)を用いた。それらの最適化手法の簡易フローをそれぞれ図6及び図7に示す。TSMは格子点上の全ての目的関数(実験とCAEの誤差)を評価して最適値を見つける方法、RSMは応答曲面を作成(目的関数とパラメータの関係式を構築)し最適値を推定する方法である。TSMは大域的最適値を見つけることができるが、計算負荷が大きい。一方、RSMは計算負荷は小さいが、局所的最適値を見つける最適化であるため、初期値を最適値近傍に設定しないと全体の(大域的)最適値が得られない可能性がある。そのようなことから、TSMである程度最適値の見当をつけてからRSMへ移行するといった最適化手法を実施した。 今回は、等温非ニュートン流動における粘度パラメータ(C1,C2)を決定するために目的関数(実験とCAEの誤差)を最小化するための最適化を行った。等温のためC3を0に固定した。粘度モデル式には次式を用いた。 TSMでの最適化の結果を図8に示す。これは適当に設定したパラメータから図6の最適化のフローに従って最適化を繰り返し、得られた最終結果である。TSMでの最適値は y(目的関数)= 7.012(C1= 1.085×105 , C2= -6.075×10-1)であった。 次にRSMでの最適化の結果を示す。TSMの結果データ一覧(図8)をRSMakerに入力して応答曲面を作成した。応答曲面式は以下の通りである。RSMakerにより、未知係数を求めることにより応答曲面式を構築(応答曲面を作成)した。そして、応答曲面による最適値推定を行った。結果は、 y(目的関数)= 7.544(C1= 1.090×105 , C2= -6.093×10-1)(RSMで推定された最適値)であった。このパラメータでの実際の目的関数を評価すると、y= 6.995であった。よって、TSMからRSMへ移行した最適化の最終結果は、 y(目的関数)= 6.995(C1= 1.090×105 , C2= -6.093×10-1)(RSMでの実際の最適値)よって、本実施例で得られた等温非ニュートン流動での最適な粘度パラメータは、目的関数6.995の時のC1= 1.090×105 , C2= -6.093×10-1である。 次に本発明の方法で得られた粘度パラメータと従来法によって得られた粘度パラメータを比較する。従来法は、まずキャピラリーレオメータを使用し、200℃等温下でせん断速度を変化させて粘度を測定した。測定した複数の粘度測定データに対してフィッティングを行って粘度近似式のパラメータを決定、粘度近似式を確定した。得られた粘度近似式に適当なせん断速度(ここでは50〜10000 1/sec)を代入して粘度を求めグラフ上にプロットした。同様に、本発明によって直接得られたパラメータにより粘度近似式を確定し、前述のせん断速度を代入して粘度を求め、同じグラフ上にプロットし、両者を比較した。比較結果を図9に示す。図9の結果から明らかなように、せん断速度の低い方では非常に良く一致しており、高い方でも実用上問題のない一致を示した。 このようにしてTSMからRSMへ移行する最適化手法を含む本発明の方法によって、等温非ニュートン流動における粘度パラメータ(C1= 1.090×105 , C2= -6.093×10-1)を求めることができた。 以上の実験結果、解析結果を比較すると、圧力及び粘度共にほぼ同じ数値が得られ、解析結果が実験結果を精度良く再現していることがわかった。このことから、実験に使用した作製スリットダイは樹脂圧力の計測による粘度パラメータの予測を可能にした。 本発明によれば、以上の通り高分子材料の流動物性パラメータを短時間かつ低コストで予測することができるので、高分子材料の分子設計、材料評価及び製品性能評価に飛躍的な進歩をもたらすものであり、特に高分子材料の開発や製品開発において非常に有用である。本発明の高分子材料の流動物性予測システムの概略を示す図面である。射出成形における板厚方向の流速分布を示す図面である。従来手法で測定された粘度データとフィッティングによって得られた粘度近似式との関係を示すグラフ図である。実施例1で用いた剪断粘度測定装置の原理を示す図面である。実施例1で用いたスリットダイ形状の作成金型を示す図面である。実施例1で用いたTSMによる最適化手法の簡易フローを示す図面である。実施例1で用いたRSMによる最適化手法の簡易フローを示す図面である。実施例2におけるTSMでの最適化結果を示す図面である。実施例で得られた予測粘度パラメータと従来法で算出した粘度パラメータを比較したグラフ図である。符号の説明1…流動実験2…流動実験結果3…メッシュデータ(有限要素データ)4…流動解析実験条件入力5…物性パラメータ入力6…物性パラメータ初期値設定7…最適化計算物性パラメータ算出8…流動解析(仮想実験)9…流動解析計算結果10…CAEへの送信データ (I)高分子材料の流動実験を材料試験機を用いて実施する流動実験工程と、(II)連続体力学及び数値解析手法に基づき高分子材料の流動解析を行う流動解析工程と、 (III)前記高分子材料の流動実験を前記流動解析工程で用いる構成方程式中の複数の物性パラメータを最適化計算プログラムによって最も精度良く前記流動実験を計算的に再現できるように算出するパラメータ算出工程とを含んでなる熱的非平衡状態における高分子材料の流動物性予測方法。 前記流動実験工程(I)で使用する材料試験機が高分子材料の流動実験を行う装置及び測定された実験データを前記流動解析工程(II)に出力する手段を有する請求項1に記載の高分子材料の流動物性予測方法。 前記高分子材料の流動実験を行う装置が高分子材料の溶融せん断粘度の流動実験を行うインストロン式キャピラリーレオメータ又は定圧高下式フローテスターであり、測定された実験データを流動解析工程(II)に出力する装置を有する請求項1に記載の高分子材料の流動物性予測方法。 前記流動解析工程(II)が、前記流動実験工程(I)で使用する材料試験機中の高分子材料が流動して通過する部分の形状を代表する有限要素データを含み、前記流動実験工程(I)の流動実験において測定された実験データの物理量と比較可能な物理量を計算して出力する工程である請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子材料の流動物性予測方法。 パラメータ算出工程(III)により算出した高分子材料の物性パラメータをCAEへ送信するデータ送信工程(IV)を更に備え、CAEを使用して高分子材料の成形性を評価し又は成形品質を評価する流動解析、充填・保圧・冷却解析、そり・収縮解析、繊維配向解析、金型冷却解析の一つ又はそれ以上の成形解析を行うことにより、熱的平衡状態における高分子材料のCAEへの物性パラメータを供給する請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子材料の流動物性予測方法。 パラメータ算出工程(III)で物性パラメータを算出するために使用する最適化計算プログラムに入力する物性パラメータの初期値としてレプテーション理論に基づく高分子材料の分子シミュレーションによって計算されたパラメータを用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子材料の流動物性予測方法。 【課題】 高分子材料の溶液又は溶触状態における流動物性の効果的な予測。【解決手段】 (I)高分子材料の流動実験を材料試験機を用いて実施する流動実験工程と、(II)連続体力学及び数値解析手法に基づき高分子材料の流動解析を行う流動解析工程と、(III)前記高分子材料の流動実験を前記流動解析工程で用いる構成方程式中の複数の物性パラメータを最適化計算プログラムによって最も精度良く前記流動実験を計算的に再現できるように算出するパラメータ算出工程とを含んでなる熱的非平衡状態における高分子材料の流動物性予測方法。【選択図】 図1


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