タイトル: | 公開特許公報(A)_乳ガン細胞増殖阻害剤 |
出願番号: | 2004051305 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K31/122,A61P35/00 |
岩井 一夫 津山 伸吾 小崎 俊司 小川 和重 神木 照雄 JP 2005239634 公開特許公報(A) 20050908 2004051305 20040226 乳ガン細胞増殖阻害剤 株式会社ジェイシーエス 501382063 神谷 惠理子 100109793 岩井 一夫 津山 伸吾 小崎 俊司 小川 和重 神木 照雄 7A61K31/122A61P35/00 JPA61K31/122A61P35/00 2 1 OL 9 4C206 4C206AA01 4C206AA02 4C206CB21 4C206KA01 4C206KA18 4C206MA01 4C206MA04 4C206NA14 4C206ZB26 本発明は、ヒノキチオールを有効成分とする乳ガン細胞増殖の阻害剤に関する。 乳ガンの治療方法には、癌を切除する外科療法;放射線で癌細胞の分裂を阻害し死滅させる放射線療法;ホルモン剤により女性ホルモンの働きを抑えてがんの増殖を抑制するホルモン療法;抗ガン剤による化学療法がある。 これらのうち、患者に身体的、精神的負担が少ないという点から、ホルモン療法、抗ガン剤による治療又は放射線療法等との組合わせが用いられることが多い。一方、ホルモン療法、抗ガン剤による治療の場合、副作用が問題となる。例えば、抗エストロゲン剤の服用は、子宮癌の発生率を上昇させるという副作用がある。 抗ガン剤としては、メルカプトプリンやフルオロウラシル等の代謝阻害剤;核酸構成塩基の活性水素をアルキル化するナイトロジェンマスタード−N−オキシド等のアルキル化剤;アドリアマイシン、マイトマイシンなどの抗ガン性抗生物質;ビンブラスチンなどの抗腫瘍活性のある天然由来物質などがあり、乳ガン用制癌剤としては、我が国においても、近年、医薬品として認可されたタキソール(パクリタキセル)がある。商品名「タキソール」(ブリストルマイヤーズスクイブ社)で知られるパクリタキセルは、イチイの木皮から分離されたジテルペン系誘導体のアルカロイドで、微小管重合促進と脱重合抑制作用を有し、乳ガン、卵巣癌、非小細胞肺ガンの抗ガン剤として用いられている。 しかし、パクリタキセルは、その強力な制癌活性から、好中球減少、過敏反応、末梢神経障害といった重篤な副作用も知られている。 一方、トロポロン骨格を有する化合物の制癌性も検討され続けている。 例えば、コルヒチンは、細胞分裂において紡錘糸形成を阻害する作用があることから、腫瘍抑制作用が期待されている。しかしながら、毒性が強い割に、腫瘍抑制作用が少ないとして、抗ガン剤として、医療に供されていない。このため、コルヒチンの毒性を改善した抗腫瘍剤が検討されており、例えば特許文献1に、コルヒチン誘導体が提案されている。 また、特許文献2,特許文献3,特許文献4,及び特許文献5に、トロポロン誘導体の抗腫瘍薬が開示されている。これらの特許文献には、いずれもヒノキチオールとベンツアルデヒドジエチルアセタール又はこの誘導体との混合物を加熱して得られるトロポロン系化合物が、口の類表皮ガンから樹立した上皮様培養細胞株であるKB細胞に対する増殖阻害を有することを開示している。さらに、特許文献6,特許文献7にトロボロン化合物のビス体が、同様にKB細胞に対する増殖阻害を有することを開示している。 また、特許文献8には、ヒノキチオール(β−ツヤプリシン)がT細胞系白血病細胞を死滅させることが開示されている。 さらに、特許文献9には、α−ツヤプリシン及びγ−ツヤプリシンがヒト胃ガン細胞(KATO−III)及びエールリッヒ腹水癌細胞の増殖を阻害することを開示している。 しかしながら、トロポロン骨格を有する化合物で、毒性が低く、乳ガンの抗ガン剤としての使用可能性については、未だ知られていない。特表平10−507169特開昭59−134720特開昭59−134744特開昭59−134745特開昭61−215341特開平5−85984特開昭62−126190特開2000−226328特開2003−73266 本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、パクリタキセルの代替品として、パクリタキセルと同程度の抗ガン作用を発揮することができ、しかもパクリタキセルよりも副作用が少ないヒノキチオールを有効成分とする乳ガン用制癌剤としての乳ガン細胞増殖阻害剤を提供することにある。 本発明の乳ガン細胞増殖阻害剤は、ヒノキチオール又はその薬理学的に許容する塩を有効成分とするものである。本発明が対象とする乳ガン細胞は、ヒト由来の細胞ある。 本発明の乳ガン細胞増殖阻害剤は、従来の乳ガン用制癌剤と同等以上の細胞増殖阻害作用を有し、しかも従来の乳ガン用制癌剤と比べて、細胞毒性が低い。従って、患者に負担の少ない乳ガン用制癌剤を提供できる。 本発明の乳ガン細胞増殖阻害剤は、ヒノキチオール又はその薬理学的に許容する塩を有効成分とするものである。 有効成分たるヒノキチオールとはβ−ツヤプリシンともいい、台湾ヒノキや青森産ヒバ(アスナロ)やニオイヒバの1種などの精油中に含まれているものである。本発明の乳ガン細胞増殖阻害剤の有効成分として用いられるヒノキチオールは、天然物由来のヒノキチオールを使用してもよいし、化学合成品を使用してもよい。具体的には高砂香料(株)や大阪有機化学工業(株)より販売されている市販品を使用することができる。 ヒノキチオールの薬学的に許容し得る塩としては、ヒノキチオールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩などが挙げられる。 このようなヒノキチオール又はその金属塩は、インビトロで最終濃度10μg/ml程度で乳ガン細胞の増殖を阻害し、50μg/mlでは死滅させることができる。この点、パクリタキセルでは、インビトロにおける乳ガン細胞の増殖阻害には、5〜10μg/ml程度を必要とするから、ヒノキチオールによる癌細胞増殖阻害効果はパクリタキセルに匹敵し得るといえる。このような微量で細胞増殖阻害効果を有するヒノキチオールは、乳ガンのように健常人の細胞と比べて増殖速度が著しく大きい固形癌の制癌剤の有効成分として有用である。 また、ヒノキチオールは、食品添加物としても用いられているように、パクリタキセルと比べて急性毒性は低いので、安全で、副作用が少ない乳ガン細胞増殖阻害効果を発揮できる。 本発明の乳ガン細胞増殖阻害剤は、可能な種々の形態で提供することができ、その剤形は、投与形態に応じて適宜選択される。 投与形態は、経口、経皮等の非経口のいずれによって適用してもよいが、好ましくは、乳ガン細胞に局所的に作用できるような投与形態であることが好ましい。 経口投与の場合には、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤などの形態をとることができる。これらの形態を有するために必要な担体としては、従来より当該分野で用いられている担体、例えば、賦形剤、結合剤などが挙げられ、また所望により、希釈剤、等張化剤、安定化剤、保存剤などを含有してもよい。 非経口投与としては、注射剤、座薬などが挙げられる。これらの形態を有するために、従来より当該分野で用いられている担体を用いることができる。 乳ガン細胞に局所的に作用させる場合、乳ガン細胞に特異的に結合し得る物質(特異的抗体など)を担体に結合させるなど、当該分野で既知の方法を用いることができる。 また、本発明の乳ガン細胞増殖阻害剤は、単独で用いても良いし、従来より知られている乳ガン用抗ガン剤、例えばパクリタキセルと併用して用いてもよい。これにより、毒性の高いパクリタキセルの投与量を減じつつ、パクリタキセル単独の場合と同等以上の乳ガンの制癌効果を得ることができる。 本発明の乳ガン細胞増殖阻害剤を乳ガンの制癌剤として使用する場合、その投与量は、患者の状態、投与回数等により適宜選択されるが、通常患者の体重1kgあたり50mg以下となるように投与することが好ましい。 〔乳ガン細胞に対する増殖阻害効果〕 乳ガン細胞として、31歳の乳ガン患者の組織由来のMDA−MB−435S細胞を用いた。ヒノキチオールとしては、合成品を用いた。 この乳ガン細胞を、96ウェル平底マイクロプレート中に、各ウエルあたり100μlあたり1×104個/mlの密度で入れ、培地中で24時間生育させた。培地除去後、新しい培地に、水(コントロール)、ヒノキチオール10μg/ml(最終濃度)、50μg/ml(最終濃度)、100μg/ml(最終濃度)を添加して、37℃で96時間培養し、48時間後、72時間後、96時間後の細胞数を測定した。 培地としては、Leibovitz’sのL15培地に、2mMのグルタミン、0.01mg/mlのインシュリンを加えた溶液90%に、10%ウシ胎児血清を加えた培地を用いた。 培養後各時間における細胞数は、MTT法でしらべた。すなわち、培養後の各時間における培養液にMTT(3ー(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)のイソプロパノール溶液を添加し、CO2インキュベータ内で、37℃で3時間反応させた後、生細胞がMTTを分解したことにより生成した生成ホルマザンをイソプロピルアルコールで溶解し、吸光度(570nm)を可視分光光度計を用いて測定することにより、増殖細胞数をしらべた。 結果を図1に示す。また、96時間培養した場合の様子を顕微鏡観察した。各場合の顕微鏡写真(200倍)を、図2(コントロール)及び図3(10μg/ml)、図4(50μg/ml)、図5(100μg/ml)示す。 図1から、ヒノキチオール濃度が10ppm(10μg/ml)、50ppm(50μg/ml)、100ppm(100μg/ml)の場合には、いずれも細胞増殖が阻害されていることがわかる。特に50ppm、100ppmでは、細胞増殖阻害作用だけでなく死滅に導くこともわかる。図3〜図5では、コントロールと比べて細胞数が少ないこと、また、100μg/mlでは細胞核が大きくなっていて、細胞分裂が阻止されていることがわかる。 〔細胞毒性〕 合成ヒノキチオールを生理食塩水で希釈した水溶液(ヒノキチオール濃度100mg/l)を用いて、マウスの腹腔内注射、静脈注射、経口投与を行い、50%致死量(LD50)を調べた。結果を表1に示す。比較のために、パクリタキセルのLD50値をあわせて示す(腹腔内注射及び静脈注射については、http://www.chemlaw.co.jp/Result_Eng_P/Pac.htm・10k・より引用)。パクリタキセルに比べて、いずれのLD50値も低く、副作用が細胞毒性が低いことがわかる。 本発明の乳ガン細胞増殖阻害剤は、パクリタキセルよりも細胞毒性が低く、乳ガンの制癌剤として有用である。培養時間と乳ガン細胞増殖数の関係を示すグラフである。培養96時間後のコントロールの様子を示す顕微鏡写真である。ヒノキチオール濃度10μg/mlの場合の培養96時間後の様子を示す顕微鏡写真である。ヒノキチオール濃度50μg/mlの場合の培養96時間後の様子を示す顕微鏡写真である。ヒノキチオール濃度100μg/mlの場合の培養96時間後の様子を示す顕微鏡写真である。ヒノキチオール及び/又はその薬理学的に許容する塩を有効成分とする乳ガン細胞増殖阻害剤。前記乳ガン細胞は、ヒト由来である請求項1に記載の乳ガン細胞増殖阻害剤。 【課題】 従来の乳ガン用制癌剤と同等以上の細胞増殖阻害作用を有し、しかも従来の乳ガン用制癌剤と比べて、細胞毒性が低く、患者に負担の少ない乳ガン用制癌剤を提供する。【解決手段】 乳ガン細胞増殖阻害剤の有効成分として、ヒノキチオール又はその薬理学的に許容する塩を用いる。ヒノキチオール又はその塩は、乳ガン用制癌剤として現在使用されているパクリタキセルと比べて、同程度の量で乳癌細胞の増殖を阻害することができ、しかもパクリタキセルよりもLD50が低く、副作用の低減を期待できる。【選択図】 図1