生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ボツリヌス菌又は破傷風菌用の細菌毒素中和剤及びこれを用いた中毒予防剤、飲食品
出願番号:2004050940
年次:2005
IPC分類:7,A23L3/3472,A01N65/00,A61K35/64,A61K35/78,A61P31/04


特許情報キャッシュ

沢村 信一 西村 昌数 坂根 巌 JP 2005237267 公開特許公報(A) 20050908 2004050940 20040226 ボツリヌス菌又は破傷風菌用の細菌毒素中和剤及びこれを用いた中毒予防剤、飲食品 株式会社 伊藤園 591014972 三好 秀和 100083806 岩▲崎▼ 幸邦 100100712 栗原 彰 100087365 川又 澄雄 100100929 伊藤 正和 100095500 高橋 俊一 100101247 高松 俊雄 100098327 沢村 信一 西村 昌数 坂根 巌 7A23L3/3472A01N65/00A61K35/64A61K35/78A61P31/04 JPA23L3/3472A01N65/00 AA61K35/64A61K35/78 CA61P31/04 5 OL 9 4B021 4C087 4C088 4H011 4B021MC01 4B021MK05 4B021MP01 4B021MP10 4C087AA01 4C087AA02 4C087BB21 4C087BB70 4C088AB21 4C088AB55 4C088BA08 4C088BA09 4C088BA10 4C088ZB35 4C088ZC37 4H011AF01 4H011BB22 4H011DA01 4H011DA13 4H011DD07 4H011DE17 本発明は、クロストリジウム属に属するボツリヌス菌又は破傷風菌用の細菌毒素中和剤及びこれを用いた中毒予防剤、飲食品に関し、特に、植物素材の成分を用いて調製され、食品に添加可能な、細菌毒素を中和して中毒を抑制するためのボツリヌス菌又は破傷風菌用の細菌毒素中和剤及びこれを用いた中毒予防剤、飲食品に関する。 ボツリヌス菌は、日本において過去に飯寿司(いずし)や辛子蓮根などから発生した集団食中毒、米国や欧州では生ハム、瓶詰め食品から発生した食中毒の原因菌として知られている。この食中毒はボツリヌス菌の感染症ではなく、菌が食品の中で産生した毒素を経口摂取することによる中毒症である。ボツリヌス菌によって産生されるボツリヌス神経毒素は、その高い致死率から、哺乳類に対して最も強力な神経毒素として知られている。この毒素は、血清学的に分類できる7種類(BoNT/A〜G)に分けられ、毒素の作用発現過程は、次の3段階に分けられる。 1)毒素タンパクの前シナプス神経終末細胞表面への結合 2)細胞内への移行 3)タンパク分解ドメインであるエンドペプチダーゼによる標的タンパクの分解 ボツリヌス中毒は、抗血清を投与する抗血清療法によって治療することができる。しかし、中毒に罹患する前に予防する方が望ましく、現在の中毒防止対策は、食品の加熱殺菌による細菌の発育・増殖の阻止である。 ボツリヌス中毒の発生が確認されている食品には、ハム類、真空パック食品、瓶詰め食品などの加工食品や飯寿司、鮒寿司などの「なれずし」等があるが、このような食品においては、加熱殺菌によって十分な殺菌を確保するのは難しい場合もあるのが明らかになっている。このため、神経毒素に対する中和物質の探索がなされている。 このような状況において、紅茶の抽出液中にボツリヌス神経毒素中和物質が含まれることが明らかになり、紅茶抽出液から粗分画によって分けられるテアルビジン分画に存在することが判明している(非特許文献1、2参照)。Satoh E, Ishii T, Shimizu Y, Sawamura S and Nishimura M, "Black tea extract, thearubigin fraction, counteract the effects of botulinum neurotoxins in mice", Br J Pharmacol 132, 797-798(2001)Satoh E, Ishii T, Shimizu Y, Sawamura S and Nishimura M, "The mechanism underlying the protective effect of the thearubigin fraction of black tea (Camellia sinensis) extract against the neuromuscular blocking action of botulinum neurotoxins", Pharmacol Toxicol 90, 199-202(2002) 紅茶テアルビジンは、紅茶抽出液の褐色酸性色素画分の総称であり、毒素中和物質以外のものも多く含むが、食品に添加してボツリヌス神経毒素を中和するという点では有効である。 ところが、紅茶テアルビジン分画を生ハムなどに添加した場合、タンニンによるタンパクの収斂作用を生じ、官能試験において「まずい」、「渋い」、「苦い」といった呈味が示される。このような呈味を除くためには、紅茶テアルビジン分画を更に精製する必要があるので、製造工程が複雑且つ煩雑になり、費用も増加する。 本発明は、食品に添加しても風味を損なわないボツリヌス毒素中和剤を簡易且つ安価に製造可能とするための新たなアプローチとして、紅茶以外の飲食可能な植物素材を用いて、ボツリヌス菌の細菌毒素中和剤及びこれを用いた中毒予防剤、飲食品を提供することを課題とする。 又、上記植物素材を用い、同じクロストリジウム属細菌である破傷風菌の細菌毒素中和剤を提供することを課題とする。 上記課題を解決するために、本発明の一態様によれば、ボツリヌス菌又は破傷風菌用の細菌毒素中和剤は、ゴバイシ又はゲンノショウコの抽出物を含有することを要旨とする。 上記細菌毒素中和剤は、その毒素中和効果を利用して、ボツリヌス菌による細菌毒素中毒を予防又は軽減するための予防剤として提供可能である。この細菌毒素中和剤は、直接摂取することにより、あるいは、飲食品に添加することにより、飲食品の摂取に起因するボツリヌス菌の細菌毒素が中和され、食中毒の罹患が予防又は軽減される。 本発明によれば、紅茶以外の植物素材を用いて、好適にボツリヌス菌及び破傷風菌の細菌毒素を中和することができる細菌毒中和剤が調製され、飲食品と共に摂取することによる食中毒の予防という形態で食品の安全性の向上に貢献する。 クロストリジウム属細菌の細菌毒素を中和する効果を有する紅茶テアルビジン分画を生ハムなどに添加すると、タンニンによるタンパクの収斂作用を生じ、官能試験において「まずい」、「渋い」、「苦い」といった呈味が示される。これを改善するために、本願発明者らは、先願(特願2003−376825)において紅茶テアルビジン分画を更に精製し、紅茶テアルビジン分画中の毒素中和物質を特定している。つまり、食品の風味を損なわない毒素中和成分を紅茶抽出物から得るには、粗抽出物から溶剤による分配抽出を経て得られるテアルビジン分画に対して更に精製処理を施す必要がある。このような精製処理が簡略化可能な他のアプローチを模索して更に研究を重ねた結果、本願発明者らは、他の植物素材からもクロストリジウム属ボツリヌス菌の細菌毒素に対する中和物質が得られることを見出し、本発明を成すに到った。 本発明の細菌毒素中和剤は、和漢薬として使用されている植物組織乾燥物の抽出物を用いるもので、具体的には、ゲンノショウコ又はゴバイシの抽出物を含有する。これらの植物素材の抽出物は、医薬成分やタンニンを含み、不快呈味を除くには精製を必要とするが、粗抽出物の状態で既に高い毒素中和活性を有し、紅茶テアルビジン分画とほぼ同等以上に毒素に対する競合抑制効果を発揮する。従って、紅茶テアルビジン分画の場合ほど精製処理を重ねて行わなくても、細菌毒素の中和に有効な使用量で食品を風味を損なわない状態に至るので、より簡易な精製処理によって、食品の風味を損なわない毒素中和剤の調製が可能である。 以下、本発明の細菌毒素中和剤について詳細に説明する。 和漢薬には、紅茶抽出液から活性成分として単離されるフラボノイド類(ニコチフロリンやケンフェトリン等)を含有するものがある。フラボノイド類を含有することが知られているオウゴン(黄岑)、オウレン(黄連)、カッコン(葛根)、エイジツ(営実)、カイカ(槐花)、ゲンノショウコ、ジュウヤク(十薬)、センブリ(当薬、トウヤク)、アセンヤク(阿仙薬)、ボッショクシ(没食子)及びゴバイシ(五倍子)について、細菌毒素中和物質の探索を行った結果、ゲンノショウコ及びゴバイシの各抽出物において、ボツリヌス菌毒素に対する中和作用が認められた。本発明では、ゲンノショウコ又はゴバイシを用いて細菌毒素中和剤を調製する。得られる細菌毒素中和剤は、ボツリヌス菌だけでなく、破傷風菌の神経毒素も中和することが可能である。 ゲンノショウコ(Geranium thuberigi Sieb. et Zucc.)は、フウロソウ(Geraniaceae)科の植物で、成分として、ケンフェリトリン、ケンフェロール−モノラムノシド、ピロガロール、エラグ酸、ブレビフォリン、コリラジン ウンデカアセテート、コリラジンノナメチルエーテル等を含有する。 ゴバイシ(五倍子)は、ヌルデアブラムシ(Schlechtendaria chinensis Bell)によってウルシ(Anacardiaceae)科のヌルデ(Rhus javanica L.)にできた虫えいを少時熱湯に浸した後に乾燥したもので、成分の70〜80%はタンニンであり、ガロタンニン、没食子酸、m−ジ没食子酸などを含有する。 上記植物組織の抽出物は、植物組織の乾燥物を適宜粉砕して、溶媒抽出することによって得られる。抽出溶媒として、水、親水性有機溶媒及びこれらの混合物が使用可能であり、親水性有機溶媒としては例えばメタノール、エタノール、1−又は2−プロパノール等のアルコールやアセトン等が挙げられ、この中でも特に熱水及び100%メタノールが好適である。熱水抽出の場合には、好ましくは30℃以上、より好ましくは70℃以上の温度で行う。メタノールの場合は、常温でも良いが、40℃以上で行うと抽出効率が向上するので好ましい。抽出溶媒は、乾燥物の体積当り2〜20倍の溶媒を用いて行い、乾燥物と溶媒とを30分以上接触させることが好ましい。上記の抽出操作を複数回繰り返すことによって更に多くの抽出物が得られるが、経済効率等を考慮すれば、3回程度までが適切である。得られた抽出液を濃縮・凍結乾燥することによって、ゲンノショウコ及びゴバイシの各抽出物が得られる。 ゲンノショウコ及びゴバイシの抽出物は、それ自体がボツリヌス菌及び破傷風菌の毒素に対して高い毒素中和活性を有する組成物であり、そのままの状態で細菌毒素中和剤として使用できるが、タンニン等の成分を除去する精製処理を施すことによって苦みや渋み等が減少する。精製により毒素中和の有効成分濃度が増加することによって、毒素中和に必要な組成物の最小量が低下するので、食品に添加した際の風味への影響が更に軽減される。ゲンノショウコ及びゴバイシの場合、粗抽出物の状態で紅茶テアルビジン分画と同等以上の効力を有するので、精製の分離精度がさほど高くなくても、食品への添加に耐え得る状態の組成物が得られ易く、ボツリヌス毒素による食中毒の予防・軽減に有効な食品添加物が比較的簡便に調製できる。このような精製は、例えば、イオン交換水又は蒸留水を用いて抽出物を温水又は熱水抽出することによって可能である。 上記抽出物及び精製物は、それ自体を細菌毒素中和剤として使用しても、あるいは、水やエタノール、糖類、穀物粉等の人体に摂取可能な液体又は固形の媒体に配合して用いてもよい。又、ゲンノショウコ抽出物及びゴバイシ抽出物を組み合わせて混合状態で用いてもよく、その場合、ゲンノショウコ乾燥物及びゴバイシ乾燥物の混合物を抽出原料として用いて一緒に抽出することも可能である。 ゲンノショウコ及びゴバイシから得られる細菌毒素中和剤は、食中毒を発生し易い食品に食品添加剤として添加することにより、食品においてボツリヌス菌が増殖した場合であっても、食品摂取後の神経毒素による中毒症状を緩和又は防止することができる。食品製造工程中に上記細菌毒素中和剤を食品素材に混合することによって、好適且つ有効に細菌毒素中毒の発症が防止又は軽減された食品が提供される。あるいは、完成食品に細菌毒素中和剤含有液を噴霧塗布してもよい。また、PETボトル飲料等のような飲料は、飲用途中での細菌繁殖が懸念されるので、このような飲料に添加するのも有効である。更に、食事と共に摂取する機会が多い飲料に添加することにより、食中毒の発生を食事の際の飲用によって予防・軽減に貢献できる。 又、細菌毒素中和剤は、災害発生時等のような衛生環境が不十分な状況での飲食による食中毒の予防薬として使用可能である。 近年、ボツリヌス神経毒素は、眼瞼痙攣や顔面痙攣などの各種痙攣性麻痺症に対する外科的治療の代替療法として用いられている。従って、本発明の細菌毒素中和剤は、細菌毒素による中毒の予防のみならず、上記痙攣性麻痺症の治療薬における毒力の制御剤としても利用することができる。この場合、毒素中和活性の制御には、生体に影響を与えない希釈剤を用いればよい。 ゲンノショウコ及びゴバイシから得られる細菌毒素中和剤は、ボツリヌス菌だけでなく、同じクロストリジウム属に属する破傷風菌に対しても競合抑制作用を有するので、破傷風菌の毒素中和剤としても使用できる。 本発明の細菌毒素中和剤は、細菌毒素との共存状態において毒素の作用を阻害し、中毒の発症を防止するが、発症後においても細菌が増殖し毒素を産生している状況では競合抑制効果を発揮して症状の重篤化を防止することができる。 下記に記載の各植物組織乾燥物について、下記の手順に従って熱水抽出及びメタノール抽出を各々行って熱水抽出物及びメタノール抽出物を得た。各抽出物の収量を表1に示す。更に、各抽出物を用いて、下記の手順に従って細菌毒素中和活性の測定を行った。 (植物組織乾燥物) オウゴン(黄岑):中国産、シソ(Labiatae)科のコガネバナ(Scutellaria baicalensis Georgi)の根を乾燥したもの。 オウレン(黄連):中国産、Coptis japonica Makino, Coptis chinensis Franchet, Coptis deltoidea C.Y.Cheng et Hsiao, Coptis teeta Wallich(Ranunclulaceae)の根を除いた根茎。 カッコン(葛根):中国産、マメ(leguminosae)科のクズ(Pueraria lobata Ohwi(Leguminosae))の周皮を除いた根を乾燥させたもの。 エイジツ(営実):韓国産、バラ(Rosaceae)科のノイバラ(Rosa multiflora Thunberg(Rosceae))の偽果又は果実を乾燥させたもの。 カイカ(槐花):中国産、マメ(leguminosae)科のエンジュ(Sophora japonica Linne(Leguminoae))のつぼみを乾燥させたもの。 ゲンノショウコ:日本産、フウロソウ科ゲンノショウコの全草を乾燥したもの。 ジュウヤク(十薬):日本産、ドクダミ(Saururaceae)科のドクダミ(Huttuynia cordata Thunb.)の全草を乾燥したもの。 センブリ(当薬、トウヤク):日本産、リンドウ(Gentianaceae)科のセンブリ(Swertia japonica Makino)の開花期の全草を乾燥したもの。 アセンヤク(阿仙薬):インドネシア産、アカネ(Rubiaceae)科のUncaria gambir Roxburghの葉及び若枝を乾燥させたもの。 ボッショクシ(没食子):トルコ産、ブナ(Fagaceae)科のQuercus infectoria Olivierの若芽や稚枝に、膜翹目(Hymemoptera)のタマバチ(フシバチ)科(没食子蜂科、Cynipidae)のインクフシバチ(Cynips tinctoria Hartig)が寄生、産卵して幼虫の腺分泌物により植物組織に成長刺激が起こり、それによって生じた虫えい(Galls)を乾燥したもの。 ゴバイシ(五倍子):中国産、ヌルデアブラムシによってウルシ科ヌルデにできた虫えいを少時熱湯に浸した後に乾燥したもの。 (熱水抽出) 植物組織乾燥物10gを粉砕し、90℃の熱水100mL中での30分間の抽出を3回繰り返し、得られた抽出液を纏めて濃縮・凍結乾燥することにより、熱水抽出物を得た。 (メタノール抽出) 植物組織乾燥物10gを粉砕し、65℃の100%メタノール100mL中での30分間の抽出を3回繰り返し、得られた抽出液を纏めて濃縮・凍結乾燥することにより、メタノール抽出物を得た。 (細菌毒素中和活性の測定) 生後4週令のddY系両性マウスに飼料及び飲料水を自由に摂取させて群飼し、3〜8カ月令のマウスを用いて、ラットにおけるBuelbring(1946)の方法に準じて以下のように横隔膜神経筋標本を作成した。 まず、頭部打撃によりマウスを失神させた後放血死させ、胸部及び腹部の皮膚を正中線に沿って切開した。左側皮膚を鈍性に剥離し、左側浅胸筋を剥脱した後、左側肋骨を除去した。左肺前・後葉を除去し、心臓の左側を走行する横隔膜神経を、並走する頚静脈及び頚部脂肪塊から分離した。横隔膜筋の肋骨付着部位に沿って腹筋を切開すると共に腱部を付着させたまま左側横隔膜筋を摘出した。摘出した筋を速やかにKrebs-Ringer液(組成:135mM NaCl;15mM NaHCO3;5mM KCl;2mM CaCl2;1mM MgCl2;11mM グルコース)中で洗浄し、筋繊維の方向に沿って約1cmの幅で横隔膜神経の入力部を中央に残して切り出して、単収縮測定用の標本とした。 器官潅流用のマグヌス管を用意し、浴槽内に代用液として20mLのKrebs-Ringer液を満たした。この代用液の温度を37℃に維持し、組成が95%O2及び5%CO2の混合ガスを常時通気した。標本を支持し電気刺激を加えるための3本の電極を絶縁樹脂に埋め込んだホルダーを作製し、これに上述の標本を装着した後、架台にセットして、標本が代用液に浸かるように浴槽内に取り付けた。この際、標本の腱部末端を絹糸で予め結紮しておいた。絹糸の他端をアイソメトリックトランスデューサの負荷測定用フックにつないで標本に1gの張力を加え、横隔膜筋が初期の弛緩を経て安定に1gの張力を維持するまで約40分間、フックの高さを微調節しながら1gの負荷を維持した。 前述の熱水抽出物又はメタノール抽出物を生理食塩水に溶解して、神経毒素中和活性測定用サンプル溶液(抽出物濃度:1.5mg/20mL)を調製し、このサンプル溶液とA型ボツリヌス神経毒素(15mg/15mL、和光純薬工業(株)製)とを混合し、浴槽内の代用液(Krebs-Ringer液)中に添加して混合した。尚、添加後の毒素濃度が1.5nMとなるようにした。コントロール(毒素単独)の測定の場合は、サンプル溶液に代えて生理食塩水を用いた。 電気刺激装置(SEN-3301、日本光電製)を用いて、直流パルスを介する矩形波の電気刺激を標本に与えた。電気刺激の各要素は、メインインターバル:10秒(=0.1Hz)、電圧:300mV、持続時間:200m秒とした。電気刺激によって標本に生じる神経性誘起単収縮による等尺性張力をアイソメトリックトランスデューサを介して電位変化に変換し、アンプで増幅した後に、張力変化として熱アレイ記録装置で記録した。記録の掃引速度は5mm/分とし、張力変化の測定時間は、横隔膜筋の疲弊による刺激応答劣化を考慮して最大90分間程度とし、毒素によって単収縮が完全に抑制された時にはその時点で測定を終了した。尚、サンプル溶液添加前後の単収縮状況を把握するために、添加前に、3分間の神経刺激及び3分間の筋直接刺激を行った。又、筋繊維自体への毒素の影響を調べるために、測定終了時に筋直接刺激を短時間加えた。 上記測定の結果に基づいて、初期張力(サンプル溶液添加時の張力)を基準として、10分毎に張力の低下度合(単収縮抑制率=張力減少量/初期張力)を算出し、サンプル溶液添加後の張力の減衰状況を調べた。コントロールにおける単収縮抑制率が50%となった時間を調べ、この時間における各サンプル溶液の場合の単収縮抑制率を調べて、これらにより毒素中和活性を評価した。結果を表1に示す。尚、表中、毒素中和活性の「+」は、コントロールにおける単収縮抑制率が50%となった時点で毒素による影響を全く受けなかった(単収縮抑制率=0%)もの、「−」は、コントロールと差がなかった(≒50%)ものを示し、毒素中和活性が「+」のものにおいてサンプル濃度を上記の1/2とした時にも毒素の影響を受けなかったものは「++」、サンプル濃度を上記の1/4とした時にも毒素の影響を受けなかったものは「+++」とする。 (表1) 植物組織乾燥物 抽出物収量(g) 毒素中和活性 熱水 メタノール 熱水 メタノールオウゴン(黄岑) 8.0 2.0 − −オウレン(黄連) 5.6 2.0 − −カッコン(葛根) 5.2 2.1 − −エイジツ(営実) 2.8 1.9 − −カイカ(塊花) 3.0 2.0 − −ゲンノショウコ 2.6 1.3 + +ジュウヤク(十薬) 6.3 2.0 − −トウヤク(当薬) 2.0 3.0 − −アセンヤク(阿仙薬) 3.9 2.1 − −ボッショクシ(没食子) 3.8 2.4 − −ゴバイシ(五倍子) 6.0 3.9 +++ +++ 表1から明らかなように、ゲンノショウコ及びゴバイシの抽出物は、ボツリヌス神経毒素による単収縮の抑制に対する毒素中和効果を有し、特にゴバイシの抽出物は、少量で神経毒素の影響を完全に阻止することが可能である。 抽出溶媒を他のアルコール(エタノール等)又はアセトンに代えて調製したゲンノショウコ及びゴバイシの抽出物を用いた場合についても、表1と同様にゲンノショウコ及びゴバイシの抽出物が毒素を中和する結果が得られている。 又、上述の横隔膜筋の単収縮抑制試験において、毒素をボツリヌス神経毒素から破傷風毒素に代えて、同様にコントロールとの対比により抽出物の作用を評価したところ、破傷風毒素に対してもゲンノショウコ及びゴバイシの抽出物に毒素中和活性が認められた。 ゴバイシ又はゲンノショウコの抽出物を含有することを特徴とするボツリヌス菌又は破傷風菌用の細菌毒素中和剤。 前記抽出物は、水又は親水性有機溶剤を含有する溶媒を用いて抽出される請求項1記載の細菌毒素中和剤。 前記抽出物は、熱水又はメタノールを用いて抽出される請求項1記載の細菌毒素中和剤。 請求項1〜3のいずれかに記載の細菌毒素中和剤を含有し、ボツリヌス毒素による食中毒の発症を予防又は軽減するために飲食品に添加されることを特徴とするボツリヌス毒素の中毒予防剤。 ボツリヌス毒素による食中毒の発症を予防又は軽減するために請求項1〜3のいずれかに記載の細菌毒素中和剤が添加される飲食品。 【課題】 植物素材の成分を用いた、ボツリヌス菌又は破傷風菌用の細菌毒素中和剤、中毒予防剤及び飲食品を提供する。【解決手段】 ボツリヌス菌又は破傷風菌の細菌毒素中和剤は、ゴバイシ又はゲンノショウコの抽出物を含有する。飲食品に添加して、飲食品の摂取による食中毒の発症を予防・軽減する。【選択図】 なし


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