タイトル: | 公開特許公報(A)_体外受精におけるヒト卵マーカー検出方法及びその検出装置 |
出願番号: | 2004043848 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12Q1/02,G01N21/64,G01N33/68 |
千葉 和義 大月 純子 永井 泰 JP 2005229923 公開特許公報(A) 20050902 2004043848 20040220 体外受精におけるヒト卵マーカー検出方法及びその検出装置 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 阿部 正博 100100181 千葉 和義 大月 純子 永井 泰 7C12Q1/02G01N21/64G01N33/68 JPC12Q1/02G01N21/64 EG01N33/68 14 5 OL 8 2G043 2G045 4B063 2G043AA03 2G043BA16 2G043EA01 2G043FA02 2G043KA02 2G043KA05 2G043KA09 2G043LA03 2G045AA24 2G045CB01 2G045FA11 2G045FA16 2G045FA19 4B063QA01 4B063QQ08 4B063QX02 本発明は、卵母細胞における屈折体(refractile body)からの自家蛍光を測定することから成る、屈折体の検出方法及びそれに用いる検出システムに関する。 近年、高度生殖医療(ART)は著しい進歩を遂げつつあり、受精後に前核期胚を形態評価(核小体の配列等)し、さらに分割胚や胚盤胞の形態を組み合わせて評価する方法で、より高率に妊娠を成立させることが可能となってきた(非特許文献1〜3)。しかしながら、これらの形態良好胚を移植しても妊娠に至ることの出来ない症例も多く知られている。それらの原因を解明するためには、受精前の卵及び精子を解析する必要がある。P.F. Serhal, et al., HumanReproduction, vol.12, no.6, pp.1267-1270, 1997P.Xia, Human Reproduction,vol.12, no.8, pp.1750-1755, 1997James S. Meriano, et al.,Human Reproduction, vol.16, no.10, pp.2118-2123, 2001 卵母細胞質の異常形態の一つとして、屈折体が報告されているが(例えば、上記非特許文献1及び2参照)、その出現原因及びメカニズムは全く解明されていない。 本発明者は、今回新たに、屈折体が人体の様々な部位に加齢及び酸化ストレスによって蓄積するリポフスチンと同様な特徴を示すものであることを実際に確認し、更に屈折体陽性の排卵周期では妊娠率が低下することを見出し、それらに基づき本発明を完成した。 リポフスチンは、黄褐色顆粒状のリピド色素であり、特に、筋肉、肝臓、心臓、神経組織中に見出され、加齢とともに緩慢な退行性変化が進み、リソソーム中に蓄積すると考えられている。これは自己食作用を持つ細胞小器官の脂質膜の酸化及び重合の産物である。これは黄色の自家蛍光を発する。尚、リポフスチンの蛍光色素の本体に関する確たる証拠は未だ得られていない。 即ち、本発明は、自家蛍光を測定することによる、卵母細胞における屈折体からの自家蛍光を測定することから成る、屈折体の検出方法に係る。 卵母細胞は成長期に入った卵原細胞であり、ヒトを含めた哺乳類では、卵原細胞から有糸分裂を経て一次卵母細胞になり、これが減数第一分裂で二次卵母細胞になり、更に、減数第二分裂で成熟した卵子となる。特に、ヒトの場合に、出生後の卵巣中にあるのは大部分減数第一分裂前期の状態で休止した一次卵母細胞で、それが約一ヶ月に1個ずつ成熟して二次卵母細胞になる。 本発明の検出方法は、特に、体外受精における良卵選別の目的に有利に利用することが出来、使用する卵母細胞は、特にヒト卵母細胞であって、通常、MII期にあることが好ましい。 本発明は、更に、上記検出方法に用いる蛍光測定システム、特に、蛍光顕微鏡又は共焦点レーザー顕微鏡、及び超高感度カメラを備えた、卵母細胞における屈折体の自家蛍光を測定するシステムに係る。このシステムは、特に、体外受精における良卵選別の目的で有利に使用することが出来る。尚、本システムに用いる蛍光顕微鏡又は共焦点レーザー顕微鏡、及び超高感度カメラ自体は当業者に公知の任意の装置を利用することが出来る。又、本発明システムには、目的を達成するために必要とされる、当業者に公知のその他の装置・器具等を含むことが出来る。本発明システムは、蛍光顕微鏡又は共焦点レーザー顕微鏡、及び超高感度カメラ、並びに、任意のその他の装置・器具等相互の種類・性状等に応じ、又は、各装置の製造者の指示に従い、接続又は連結等することにより当業者が容易に組み立てることが出来、且つ、操作することが出来る。 本発明の検出方法を利用して、簡便かつ有効に良好卵選別を実施することが出来る。 特に、体外受精(IVF:培養ディッシュ内で、卵子と精子を受精させる方法)の場合、卵子を取り囲む顆粒膜細胞や精子が卵を取り囲む透明帯に付着するため、光学顕微鏡のみの観察では屈折体の存在を見落としてしまう。本発明で明らかになった自家蛍光観察を行うことにより、簡便かつ正確に屈折体の存在を検出することが可能である。 本発明方法において、屈折体は、体外受精を行うために採卵されたGV期、MI期及びMII期の少なくともいずれにおいて存在し、好ましくは、GV期、MI期及びMII期のいずれにも存在することを特徴とする。以下に詳しく記載されているように、屈折体は、卵胞刺激ホルモン基礎値が高値であり、且つ、ヒト絨毛性ゴナドトロピン投与日のエストラディオール(E2)が高値である患者から得られた卵母細胞において高頻度に認められ、このような卵母細胞における屈折体の存在が体外受精における妊娠率の低下の指標となることが見出された。 本発明の検出方法及び検出装置においては、通常、420〜480nmで励起し570〜610nmにおける蛍光を測定し、更に、卵母細胞に障害を与えないレベルの弱い励起光、例えば、100Wのハロゲンランプ強度に匹敵する強度の励起光を使用することが好ましい。 以下、実施例に則して本発明を更に詳しく説明する。尚、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。方法 2003年1月から7月までの期間に、永井クリニックにおいて体外受精を行った症例を対象に、血中基礎卵胞刺激ホルモン(FSH:follicle stimulating hormone)値、ヒトコリオゴナドトロピン(hCG)投与日の血中E2(oestradiol)値、患者年齢において、リポフスチン出現周期、リポフスチン非出現周期間での差があるかどうか検討した。又、リポフスチン出現、非出現周期における妊娠率に差があるかどうかを調べた。 尚、光学顕微鏡下で確認可能な直径3μm以上のリポフスチンの出現した卵から得られた胚の移植は避けた。患者から書面にて同意が得られた場合に限り、体外受精によって受精しなかった卵、及び受精はしたものの、途中で発育(分割)が停止した胚を本研究に用いた。リポフスチンの構造は、透過型電子顕微鏡(JEOL.Ltd.Tokyo,Japan)にて観察した。又、光学顕微鏡(Nikon TMD300 Japan又はOlympus IX70 Japan)、蛍光顕微鏡(Nikon XPS-100 Japan)及び共焦点レーザー顕微鏡(LeicaTCN-NT Japan)にてリポフスチンの観察を行い、超高感度カメラ(SpectraView (Applied SpectraImaging,Israel))にて蛍光スペクトルの解析を行った。尚、卵はほぼMI期及びMII期のものであった。結果 電顕で観察した結果、微細な非結晶質電子高密度物質及び脂質を含む、3〜8μmのリポフスチン様構造を有する屈折体(以下、「リポフスチン」ともいう)が確認された(図1)。さらに、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー顕微鏡にてリポフスチンに自家蛍光があることを発見した(図2)。5μmを超える大きなリポフスチンのスペクトル解析の結果、420〜480nmにて励起した時の最大波長は570〜610nmであった(図3)。卵リポフスチン発生と患者年齢との関連は得られなかったが、FSH基礎値が高値(>7mIU/ml)かつhCG投与日のE2値が高値(>1500pg/ml)となる症例において高頻度にリポフスチンが出現した(図4)。尿中hCG判定による妊娠率はリポフスチン出現群にて26.2%(11/42)、リポフスチン非出現群では36.4%(20/55)であり、有意差は認められなかったのに対し、超音波にて胎嚢が確認されたものは、リポフスチン出現群にて16.7%(7/42)、リポフスチン非出現群では34.5%(19/55)であり、リポフスチン出現群16.7%(7/42)における胎嚢(+)(GS(+))となる率が有意に低い結果となった。胎児心拍の確認される率においても同様にリポフスチン非出現群では32.7%(18/55)であるのに対してリポフスチン出現群では14.2%(6/42)であり、リポフスチン出現群における胎児心拍(+)(FHB(+))となる率が有意に低い結果となった。これらの結果を表1及び図5に示す。結論 本発明において、ヒト卵母細胞に出現するリポフスチン(屈折体)が自家蛍光を持つこと、及び、他の臓器で報告されているリポフスチンと同様に脂質を含む複合体であることが見出された。更に、ヒト卵リポフスチンの自家蛍光のスペクトルはヒト網膜上皮細胞に見られるリポフスチンと同様の波長を示した。人体において、網膜上皮細胞の他に、神経、脳、肝、副腎などにも老化と共に蓄積するリポフスチンが報告されているが、ヒト卵に出現するリポフスチンと患者年齢との関連は得られなかった。血中ホルモン値から得られたデータの結果、FSH基礎値が高く卵巣機能の低下した卵巣に対して、排卵誘発による過剰な負荷がかかった場合に高率にリポフスチンが出現することが示唆された。従って、卵リポフスチンは酸化ストレス等の他の因子によって引き起こされる可能性が考えられた。 本発明の検出方法及び検出システムを臨床に用いることによって、体外受精における妊娠率を大幅に上昇させることが期待できる。3〜8μmの屈折体のリポフスチン様構造を示す電子顕微鏡写真である。40,000倍の拡大写真において、脂質が蓄積しているコロナ形状の小さなリポフスチンが大きな脂質体の周辺部に観察される。リポフスチンに自家蛍光があることを示す、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー顕微鏡で得られた写真である。リポフスチンの蛍光スペクトル解析の結果を示す蛍光顕微鏡で得られた写真及びスペクトル解析の結果を示すグラフである。各試料卵について得られたスペクトル解析の結果が夫々の曲線で示されている。FSH基礎値及びhCG投与日のE2値と、リポフスチンが出現する頻度を示す図である。図中、■はリポフスチンが出現した例、△はリポフスチンが観察されなかった例を示す。表1で示された結果を示したグラフである。卵母細胞における屈折体(refractile body)からの自家蛍光を測定することから成る、屈折体の検出方法。屈折体が、体外受精を行うために採卵されたGV期、MI期及びMII期の少なくともいずれにおいて存在することを特徴とする、請求項1記載の検出方法。屈折体が、体外受精を行うために採卵されたGV期、MI期及びMII期のいずれにも存在することを特徴とする、請求項1記載の検出方法。屈折体がリポフスチンと同様な特徴を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の検出方法。屈折体が、卵胞刺激ホルモン基礎値が高値であり、且つ、ヒト絨毛性ゴナドトロピン投与日のエストラディオール(E2)が高値である患者から得られた卵母細胞において高頻度に認められるものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の検出方法。屈折体の存在が体外受精における妊娠率の低下の指標となる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の検出方法。420〜480nmで励起し570〜610nmにおける蛍光を測定する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の検出方法。卵母細胞に障害を与えないレベルの弱い励起光を使用する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の検出方法。100Wのハロゲンランプ強度に匹敵する強度の励起光を使用する請求項8記載の検出方法。卵母細胞がヒト卵母細胞である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の検出方法。請求項1〜10のいずれか一項に記載の検出方法に用いる蛍光測定システム。蛍光顕微鏡又は共焦点レーザー顕微鏡、及び超高感度カメラを備えた、卵母細胞における屈折体の自家蛍光を測定する、請求項11記載のシステム。体外受精における良卵選別の目的で使用される、請求項11又は12記載のシステム。420〜480nmで励起し570〜610nmにおける蛍光を測定する、請求項11〜13のいずれか一項に記載のシステム。 【課題】簡便かつ有効に良好卵選別を実施するための方法、特に、自家蛍光観察を行うことにより、簡便かつ正確に屈折体の存在を検出する方法を提供すること。【解決手段】卵母細胞における屈折体(refractile body)からの自家蛍光を測定すること、特に、420〜480nmで励起し570〜610nmにおける蛍光を測定するから成る、屈折体の検出方法。【選択図】 図520040513A16333請求項23屈折体が、体外受精を行うために採卵されたGV期、MI期及びMII期の少なくともいずれかにおいて存在することを特徴とする、請求項1記載の検出方法。A16333請求項33屈折体が、体外受精を行うために採卵されたGV期、MI期及びMII期のいずれにおいても存在することを特徴とする、請求項1記載の検出方法。A1633000063 リポフスチンは、黄褐色顆粒状のリピド色素であり、特に、筋肉、肝臓、心臓、神経組織中に見出され、加齢とともに緩慢な退行性変化が進み、リソソーム中に蓄積すると考えられている。これは細胞内で脂質の過酸化反応が進行し、生じたアルデヒドラジカルによる、脂質相互あるいは脂質以外の成分との間の重合反応の結果、巨大分子が形成され、リソソームでは処理しきれずに細胞内異物となって蓄積する。これは黄色の自家蛍光を発する。尚、リポフスチンの蛍光色素の本体に関する確たる証拠は未だ得られていない。A1633000123 本発明方法において、屈折体は、体外受精を行うために採卵されたGV期、MI期及びMII期の少なくともいずれかにおいて存在し、好ましくは、GV期、MI期及びMII期のいずれにおいても存在することを特徴とする。以下に詳しく記載されているように、屈折体は、卵胞刺激ホルモン基礎値が高値であり、且つ、ヒト絨毛性ゴナドトロピン投与日のエストラディオール(E2)が高値である患者から得られた卵母細胞において高頻度に認められ、このような卵母細胞における屈折体の存在が体外受精における妊娠率の低下の指標となることが見出された。