タイトル: | 公開特許公報(A)_固体表面の評価方法、磁気ディスクの評価方法、磁気ディスクおよびその製造方法 |
出願番号: | 2004030278 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,G01N13/00,G11B5/725,G11B5/84 |
石山 雅史 JP 2005221403 公開特許公報(A) 20050818 2004030278 20040206 固体表面の評価方法、磁気ディスクの評価方法、磁気ディスクおよびその製造方法 HOYA株式会社 000113263 ホーヤ マグネティクス シンガポール プライベートリミテッド 501259732 中村 静男 100080850 石山 雅史 7G01N13/00G11B5/725G11B5/84 JPG01N13/00G11B5/725G11B5/84 CG11B5/84 Z 11 2 OL 22 5D006 5D112 5D006AA01 5D006AA02 5D006AA05 5D006AA06 5D112AA07 5D112AA11 5D112BC02 5D112BC05 5D112FA10 5D112JJ06 本発明は、固体表面の評価方法、磁気ディスクの評価方法、磁気ディスクおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、表面張力の異なる少なくとも3つの液体を用いて固体表面の接触角を測定し、前記接触角の余弦と前記液体の表面張力との相関関係を求め、それを利用して固体表面の表面張力を評価する固体表面の評価方法、この固体表面の評価方法により、磁気ディスク表面の表面張力を評価する磁気ディスクの評価方法、前記固体表面の評価方法を適用して潤滑層を形成し、10nm以下の磁気記録ヘッドの浮上量において、フライスティクションを防止し得る表面エネルギーを低減させた磁気ディスク、およびその製造方法に関するものである。 様々な工業分野において、固体表面の「濡れ性」が重要な概念として挙げられている。特に「水」をはじく性質、すなわち「撥水性」は高分子材料の設計、紙、繊維表面への表面処理、ガラス表面の撥水加工処理、印刷、ハードディスク表面の潤滑剤設計など、あらゆる工業製品の設計、製造に利用されている。 液体が固体表面に接触し、半球状になり、接触角を形成する場合、この角度は液体の表面張力と固体の表面エネルギー、固液の界面エネルギーの釣り合いで決まる。固体表面の表面エネルギーはこの原理を利用し、表面張力が既知である液体の接触角から計算する方法が良く用いられている。 一般に固体表面の表面自由エネルギーの目安としてZismanの臨界表面張力γcが用いられている(例えば、非特許文献1参照)。Zismanらは固体表面の接触角を、表面張力の異なる一連の飽和炭化水素液体について測定し、接触角の余弦(cosθ)を表面張力に対してプロットすると直線になり,その余弦(cosθ)が1(つまり完全に濡れる点)となるような点に外挿した点の表面張力の値を臨界表面張力(γc)と定義した。 γcの文献値では、フッ素化合物に関するものが低く、中でもZismanらが1954年に発表した非特許文献1において、表面に−CF3の配向したパーフルオロラウリン酸単分子膜が最も低い値(6mN/m)として、現在でもしばしば引用されている。なお、mN/mはミリ・ニュートン/メートルのことである。 しかしながら、前記のZismanらが定義した臨界表面張力(γc)は、現在でもある一定の有効性をもっているが、以下に示す問題がある。(1)液体の表面張力とcosθの関係は特に液体の表面張力が大きくなると直線関係にならない。(2)液体の持つ、水素結合性、極性、無極性の有無でプロットされた点がグループに別れ、一本の直線とならない。 固体表面の表面エネルギーを評価する場合、Zismanらの定義した無極性の飽和炭化水素液体のみで臨界表面張力を求める方法では、他の極性成分、水素結合成分の影響が無視され、真実の表面エネルギーを示しているとは言えない。 また、Zismanらが測定した一連の飽和炭化水素液体を用いたパーフルオロラウリン酸単分子膜の臨界表面張力を求める直線外挿の近似式を用いて、水の接触角を逆算したところ、cosθ=−1.47となり、明らかに自然法則から逸脱している。 一方、今日、情報記録技術、特に磁気記録技術はIT産業の発達に伴い飛躍的な技術革新が要請されている。HDD(ハードディスクドライブ)等の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクでは100Gbit/inch2以上の情報記録密度を達成できる技術が求められている。この磁気ディスクでは、従来基板上に情報記録を担う磁性層が設けられ、磁性層上には、磁性層を保護するための保護層、浮上飛行する磁気ヘッドからの干渉を緩和する潤滑層が設けられている。 近年の高記録密度化の要請の中で、100Gbit/inch2以上の情報記録密度を達成するために様々なアプローチが成されている。その一つとして、スペーシングロスを改善してS/N比を向上させるために、磁気ディスクの磁性層と、磁気ヘッドの記録再生素子との間隙(磁気的スペーシング)は20nm以下にまで狭めることが求められている。そしてこの磁気的スペーシングを達成する観点から、磁気ディスクの保護層膜厚は5nm以下の薄膜化が求められている。また、磁気ヘッドの浮上量は10nm以下の低浮上量化することが求められている。さらに、HDDの起動停止機構として、従来のCSS方式に変わって高容量化の可能なLUL方式(ロードアンロード方式)とすることが求められている。 特に最近ではHDD(ハードディスクドライブ)等の磁気ディスク装置は飛行機内のように低気圧環境下での使用も多くなり、それに伴い、ヘッドの飛行安定性が問題となってきている。すなわち、磁気ヘッドの浮上量が気圧の変化により10nmからさらに下がり、かつ磁気ヘッドのエアベアリングスライダーの加工精度による浮上量のばらつきも加味されて、フライスティクション問題が頻発するようになってきている。フライスティクションとは、磁気記録ヘッドが浮上走行時に、浮上姿勢や浮上量に変調をきたす障害であり、不規則な再生出力変動が頻発する。場合によっては、浮上走行中に磁気ディスクと接触し、クラッシュを起こして磁気ディスクを破壊してしまう。このフライスティクションは前駆症状なしに突発することが多く、制御の困難な障害の一つである。フライスティクション発生の原因としては、磁気ディスク表面の粗さ、潤滑層とヘッドとの相互作用(メニスカス力)、磁気ディスク装置からのアウトガスによるコンタミネーションの影響が考えられる。 このフライスティクション現象は、本発明者らの研究によると、磁気ディスク表面の表面エネルギーと密接な関係にあることが分かった。すなわち、磁気ディスク表面の表面エネルギーを下げることにより、磁気ディスク表面はより不活性な状態へと変化する。表面が不活性となることにより、磁気記録ヘッドとの相互作用が小さくなり、かつ、磁気ディスク装置からのアウトガスが磁気ディスクに付着しにくい表面となっているため、磁気記録ヘッドの浮上安定性が増すというメカニズムである。「J.Phys.Chem.」、第58巻、第236頁(1954年) 本発明は、このような事情のもとで、固体表面の表面自由エネルギーの目安として、Zismanらが提唱した臨界表面張力(γc)が有する問題点を解決し、固体表面の表面張力を効果的に評価する固体表面の評価方法、この固体表面の評価方法により、磁気ディスク表面の表面張力を評価する磁気ディスクの評価方法、10nm以下の磁気記録ヘッドの浮上量において、フライスティクションを防止し得る表面エネルギーを低減させた磁気ディスク、およびその製造方法を提供することを目的とするものである。 本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、表面張力が異なる少なくとも3つの液体を用いて固体表面の接触角を測定し、前記接触角の余弦と前記液体の表面張力との相関関係を対数関係として求めたところ、従来のZismanらが提唱する直線近似に比べ、高い相関係数の近似式が得られ、固体表面の表面張力を異なる成分の液体で一義的に定義できることを発見した。 また、前記表面張力が異なる少なくとも3つの液体として、無極性物質と極性物質と水素結合性物質を選択し、これらの液体を用いて固体表面の接触角を測定し、前記接触角の余弦と前記液体の表面張力との相関関係を求め、これを利用することにより、固体表面の表面張力を効果的に評価し得ることを見出した。 さらに、上記のようにして得られた近似式において、接触角の余弦(cosθ)が1となる上記液体の表面張力の値が所定の値になるように潤滑層を設けることにより、表面エネルギーを低減させた磁気ディスクが得られ、10nm以下の磁気記録ヘッドの浮上量において、フライスティクションを防止し得ることを見出した。 本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。 すなわち、本発明は、(1)固体表面を評価する方法であって、 表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記固体表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を対数関数として求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を利用して固体表面の表面張力を評価することを特徴とする固体表面の評価方法(以下、固体表面の評価方法Iと称す。)、(2)表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料が、無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含む、上記(1)項に記載の固体表面の評価方法、(3)固体表面を評価する方法であって、 無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記固体表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を利用して固体表面の表面張力を評価することを特徴とする固体表面の評価方法(以下、固体表面の評価方法IIと称す。)、(4)基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層がこの順で形成された磁気ディスクの表面を評価する方法であって、上記(1)ないし(3)項のいずれか1項に記載の固体表面の評価方法により、磁気ディスク表面の表面張力を評価することを特徴とする磁気ディスクの評価方法、(5)基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層がこの順で形成された磁気ディスクであって、 無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記磁気ディスク表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を最小二乗法により自然対数の関数として求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を前記磁気ディスクの真実臨界表面張力とした場合、前記真実臨界表面張力が0を超え17mN/m以下であることを特徴とする磁気ディスク、(6)潤滑層を形成する潤滑剤の表面張力が20mN/m以下である上記(5)項に記載の磁気ディスク、(7)潤滑層が、末端官能基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含む上記(5)または(6)項に記載の磁気ディスク、(8)保護層が、水素原子および/または窒素原子を含む炭素系保護層である上記(5)ないし(7)項のいずれか1項に記載の磁気ディスク、(9)ロードアンロード方式のハードディスクドライブ搭載用である上記(5)ないし(8)項のいずれか1項に記載の磁気ディスク、(10)基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層をこの順で成膜する磁気ディスクの製造方法であって、 無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記磁気ディスク表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を最小二乗法により自然対数の関数として求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を前記磁気ディスクの真実臨界表面張力とした場合、 この真実臨界表面張力が0を超え17mN/m以下となるように、分子量が所定に精製されたパーフルオロポリエーテル化合物を含む潤滑剤を成膜することにより、前記潤滑層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法、および(11)保護層を、炭化水素ガスを材料ガスとして用いるプラズマCVD法により成膜して形成する上記(10)項に記載の磁気ディスクの製造方法、を提供するものである。 本発明によれば、表面張力が異なる少なくとも3つの液体を用いて固体表面の接触角を測定し、前記接触角の余弦と前記液体の表面張力との相関関係を求め、それを利用して固体表面の表面張力を評価する固体表面の評価方法、この固体表面の評価方法により、磁気ディスク表面の表面張力を評価する磁気ディスクの評価方法、前記固体表面の評価方法を適用して潤滑層を形成し、10nm以下の磁気記録ヘッドの浮上量において、フライスティクションを防止し得る表面エネルギーを低減させた磁気ディスク、およびその製造方法を提供することができる。 まず、本発明の固体表面の評価方法について説明する。 本発明の固体表面の評価方法には、固体表面の評価方法Iおよび固体表面の評価方法IIの2つの態様がある。 前記固体表面の評価方法Iは、表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記固体表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を対数関数として求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を利用して固体表面の表面張力を評価する方法である。 この固体表面の評価方法Iにおいては、表面張力が異なる3つの液体試料として、各液体試料が無極性物質と極性物質と水素結合性物質をそれぞれ含むものが好ましく用いられる。そして、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を、最小二乗法により自然対数の関数、すなわち Y=a+ln(X)+b (1)[Xは液体試料の表面張力(mN/m)、Yは接触角の余弦(cosθ)、aおよびbは定数である。]で示される近似式を求めるのが有利である。 本発明においては、上記近似式(1)において、Y(cosθ)が1(つまり完全に濡れる点)となるX(液体試料の表面張力)の値を「真実臨界表面張力」と定義する。 Zisman−plot(直線近似)の場合、使用する液体によって、臨界表面張力は変化し、時にはマイナスを示すことがあり得る。表面張力がマイナスを示すことは、物理的にあり得ないので、明らかにこのZisman−plotが真の表面状態を示しているとは言えない。しかし、本発明のように対数近似を用いた場合、表面張力がマイナスを示すことはない。さらに、相関係数R2値を上記の直線近似と対数近似で比較した場合、相関係数R2値は対数近似した場合の方が高く、近似式の精度が直線近似よりも高いことが分かった。 また、Zisman−plotでは、臨界表面張力が最大となるように接触角測定時の液体を選定する必要が生じるが、本発明の方式では、液体を選択する必要がなく、水素結合性、極性、無極性の3種類の液体試料を用いることで、一義的に固体表面の表面張力を決定できる利点がある。 固体表面の表面エネルギーを定めるに当たり、ファンデルワールス力だけの特性で表面を測定する方式では、ファンデルワールス力に対する臨界点は判断できるが、全ての表面エネルギーがその臨界点を表しているとは限らない。そのため、試行錯誤により、様々な液体を用いて、最大の臨界表面張力を与える液体を選択する従来のZisman方式では、時間、コストのロスが非常に大きく、さらに、得られた結果が、必ずしも、全ての表面エネルギーを説明できていない。また、場合によっては、過大に臨界表面張力を評価する恐れもあり、実用上、問題がある。 これに対し、本発明の方式によれば、対数近似式の外挿から求めた真実臨界表面張力のみならず、近似式から、ある表面張力を与える液体試料を使用した際の接触角の値も推定できるため、非常に有益である。 図1は、前記の非特許文献1で示されているデータを全てプロットし、液体の表面張力と接触角の余弦との関係を直線近似した場合のZisman方式の例を示し、図2は、非特許文献1で示されているデータを全てプロットし、液体の表面張力と接触角の余弦との関係を対数近似した場合の本発明方式の例を示す。 図1から分かるように、Zisman方式で全ての種類の液体を用いて直線近似した場合、その余弦が1(つまり完全に濡れる点)となるような点に外挿した臨界表面張力はマイナスとなる。また、表面張力の高い領域で直線近似から大きく外れることが明らかである。 一方、図2から分かるように、本発明方式で対数近似した場合、表面張力の低い領域から高い領域まで、比較的対数近似曲線上に沿って分布しており、その相関係数もZisman方式の直線近似と比べ高い。すなわち、近似の精度は対数近似が高いと言える。 一方、固体表面の評価方法IIは、無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記固体表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を利用して固体表面の表面張力を評価する方法である。 この固体表面の評価方法IIにおいては、液体試料として、無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択して用い、前記固体表面の評価方法Iと同様にして、接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を求める。この場合、前記相関関係は、対数関係以外の関数で求めてもよい。なお、相関係数R2ができるだけ高くなるような関数を求めることが肝要である。そして、この関数において、Yを1とした場合に算出されるXの値を利用して、固体表面の表面張力が評価される。 本発明はまた、基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層がこの順で形成された磁気ディスクの表面の表面張力を、前記の固体表面の評価方法IまたはIIにより評価する、磁気ディスクの評価方法をも提供する。 次に、本発明の磁気ディスクについて説明する。 磁気ディスク装置ではその装置内部材に様々なプラスチック材、接着剤、金属加工材が使用されており、その部材からのアウトガスが磁気ディスク表面を汚染させる場合が考えられる。特に高温高湿環境下ではアウトガスの放出が加速され、磁気ディスク表面を汚染する。放出されるアウトガスには有機物系コンタミネーション(シリコーン、DOP、DBP等)、無機物系コンタミネーション(アミン、リン酸、)、水蒸気が考えられ、あらゆるエネルギー状態のコンタミネーションに対しても、磁気ディスク表面に付着しにくいように設計する必要がある。 本発明の磁気ディスクは、基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層がこの順で形成された磁気ディスクであって、無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記磁気ディスク表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を最小二乗法により自然対数の関数として、前記近似式(1)を求め、この近似式(1)において、Yを1とした場合に算出されるXの値(前記磁気ディスクの真実臨界表面張力)が0を超え17mN/m以下である。この真実臨界表面張力が17mN/mを超えると10nm以下の磁気記録ヘッドの浮上量において、フライスティクションを十分に防止することができない。好ましい真実臨界表面張力は10〜16mN/mである。 本発明の磁気ディスクにおいて、前記の真実臨界表面張力を17mN/m以下とするには、潤滑層を形成する潤滑剤の表面張力を20mN/m以下、好ましくは19.5mN/m以下とすることが肝要である。潤滑剤自体の表面張力を下げることによって、磁気ディスク上に塗布された後でも低い表面張力を示す。 本発明の磁気ディスクにおける保護層は、特に限定されないが、アモルファス炭素からなる保護層であって、以下の構成を備えることが好ましい。少なくとも磁性層側に形成する炭素系保護層はCVDで形成されたアモルファスのダイヤモンドライク炭素保護層とするのがよく、ダイヤモンドライク炭素とすることにより、好適な硬度と耐久性が得られる。 本発明において、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長法)には特に制限はないが、中でも、プラズマを用いて原子を励起させる、プラズマCVD(P−CVD)により炭素系保護層を形成するのが好ましい。P−CVDで形成された炭素系保護層は緻密性と硬度が高く、磁性層の金属イオンが磁気ディスク表面にマイグレートするのを好適に防止できるので、薄膜化保護層に特に好ましい。P−CVDで炭素系保護層を形成する場合にあっては、反応性ガスとして炭化水素ガスを用いてダイヤモンドライク炭素を形成することが好ましい。 前記反応性ガスとしては、低級炭化水素を用いることが好ましい。中でも、低級飽和炭化水素、低級不飽和炭化水素、低級環式炭化水素のいずれかを用いることが好ましい。低級飽和炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、オクタン等を用いることができる。また、低級不飽和炭化水素としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、アセチレン等を用いることができる。また、低級環式炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、ナフタレン、シクロヘキサン等を用いることができる。なお、ここで言う低級とは、1分子当たりの炭素数が1〜10の炭化水素のことである。低級炭化水素を用いることが好ましい理由は、炭素数が増大するに従って、ガスとして気化させて、成膜装置に供給することが困難となることに加え、プラズマ放電時の分解が困難となるからである。また、炭素数が増大すると、形成した保護層の成分に高分子の炭化水素成分が多く含有されやすくなり、保護層の緻密性と硬度を低下させるため好ましくない。この観点から、炭化水素として、低級炭化水素を用いることが好適である。中でも低級不飽和炭化水素を用いると、緻密かつ、高硬度の炭素系保護層を形成することができるので特に好ましい。このような観点からアセチレンが特に好ましい。 CVDで形成する炭素系保護層は、水素化ダイヤモンドライク炭素の保護層とするのが好ましい。水素化ダイヤモンドライク炭素とすることで、保護層の緻密性が更に向上し、また硬度を向上させることができるので、本発明にとって特に好ましい。この場合、水素の含有量は、炭素系保護層をHFS(水素前方散乱法)で測定したときに、保護層全体に対して、3原子%以上で、20原子%未満とするのが好ましい。水素の含有量が3原子%未満の場合、緻密性が低下する場合があるので、金属イオンのマイグレートを防止できない場合がある。また、硬度が低下する場合があるので、LUL起動時の撃力から磁性層を好適に保護できない場合がある。また、水素の含有量が20原子%以上の場合、ポリマー状の炭素成分が増大して、磁性層に対する保護層の付着性能が低下する場合があり、LUL起動時に保護層が剥がれる場合があるので好ましくない。 また、炭素系保護層に窒素を含有させてなる窒化炭素保護層、水素化窒化炭素保護層とすると更に好ましい。窒素を含有させることにより、潤滑剤の末端極性基が保護層側に配向することを著しく促進することができるからである。炭素中における窒素の含有量はXPS(X線光電子分光法)で測定した場合に、炭素に対して4〜12原子%とすることができる。 本発明において、CVDで形成する炭素系保護層の膜厚は、1〜5nmであることが好ましい。1nm未満では、磁性層の金属イオンのマイグレートを防止するのに十分でない場合があり耐摩耗性に問題がある。CVDで形成する炭素系保護層の膜厚に特に上限を設ける必要はないが、磁気的スペーシング改善を阻害しないよう、実用上、5nm以下とするのが好ましい。 本発明においては、潤滑層は、末端基に水酸基を有する分子量分画されたパーフルオロポリエーテルとすることが好ましい。パーフルオロポリエーテルは直鎖構造を備え、磁気ディスク用に適度な潤滑性能を発揮するともに、末端基に水酸基(OH)を備えることで、炭素系保護層に対して高い密着性能を発揮することができる。特に、炭素系保護層の表面に窒素を含有する場合にあっては、(N+)と(OH−)とが高い親和性を奏するので、高い潤滑層密着率を得ることができ、好適である。さらに分子量分画することにより、含有されているモノオール化合物、ジオール化合物、トリオール化合物、テトラオール化合物など様々なアルコール変性パーフルオロポリエーテル化合物の不純物成分が排除できる。 なお、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、1分子中の水酸基の数を2個〜4個とすることが好ましい。2個未満では、潤滑層の密着率が低下する場合があるため好ましくなく、4個を超えると、密着率が向上し過ぎる結果、潤滑性能を低下させる場合がある。パーフルオロポリエーテル化合物の分子量分布については特に制限はないが、重量平均分子量(Mw)で5000以上、特に5800以上としてよい。潤滑層の膜厚は、0.5〜1.5nmの範囲内で適宜調節するとよい。0.5nm未満では潤滑性能が低下する場合があり、1.5nmを超えると、潤滑層密着率が低下する場合がある。 本発明においては、潤滑層を成膜したのちに、ハイドロフルオロエーテル(HFE)で潤滑層表面、すなわち、磁気ディスク表面を処理することが好ましい。具体的には潤滑層まで成膜された磁気ディスクにHFEを接触させる処理を施すことが好ましい。例えば、気相法や浸漬法などで処理することができる。このように処理することで、磁気ディスクの潤滑層表面にHFEが成膜される。 HFE処理に用いるハイドロフルオロエーテル化合物は分子量が150〜400程度の化合物が好ましい。特に、分子量350以下のものを選択することが好適である。具体的には、C4F9−O−CH3及び/またはC4F9−O−C2H5を好ましく用いることができる。また、ハイドロフルオロエーテルの表面張力は0を超え14mN/m以下とすることが好ましい。 本発明において、基板としてはガラス基板を用いることが好ましい。ガラス基板は、平滑かつ高剛性が得られるので、磁気的スペーシング、中でも、磁気ヘッドの浮上量を一層、安定的に低減できるので、本発明にとって特に好ましい。ガラス基板の材料としては、アルミノシリケートガラスが特に好ましい。アルミノシリケートガラスは化学強化により、高い剛性強度を得ることができる。 本発明において、磁気ディスク表面の表面粗さは、Rmaxで4nm以下、Raで0.4nm以下であることが好ましい。Rmaxが4nmを超えると、磁気的スペーシング低減を阻害する場合があるので好ましくない。なお、ここで言う表面粗さとは、日本工業規格(JIS)B0601に定めるものである。 本発明の磁気ディスクは、LUL方式HDD搭載用に好適に用いることができる。 図3は、本発明の磁気ディスクの層構成の1例を模式的に示す断面図である。この磁気ディスク10は、基板1と、この基板上に形成された磁性層3と、この磁性層3上に形成された炭素系保護層4と、この保護層4上に形成された潤滑層5とを少なくとも備える。この実施の形態においては、磁性層3と炭素系保護層4、炭素系保護層4と潤滑層5は接して形成されている。なお、基板1と磁性層3との間には、シード層2aと下地層2bとから成る非磁性金属層2が形成されている。磁気ディスク10において、磁性層3以外は全て非磁性体である。 次に、本発明の磁気ディスクの製造方法について説明する。 本発明の磁気ディスクの製造方法においては、基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層をこの順で成膜して磁気ディスクを製造するに際し、無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記磁気ディスク表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を最小二乗法により自然対数の関数として、前記近似式(1)を求め、この近似式(1)において、Yを1とした場合に算出されるXの値(前記磁気ディスクの真実臨界表面張力)が0を超え17mN/m以下、好ましくは10〜16mN/mとなるように、分子量が所定に精製されたパーフルオロポリエーテル化合物を含む潤滑剤を成膜することにより、前記潤滑層を形成する。 また、前記保護層は、炭化水素ガスを材料ガスとして用いるプラズマCVD法により成膜して形成することが好ましい。 次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。実施例1 潤滑剤の種類、膜厚および炭素系保護膜の種類が異なる53種の磁気ディスクを作製した。これらの磁気ディスクは、ハードディスクドライブ装置に組み込まれる磁気ディスクであって、その最表面には、厚さ1.0〜1.5nmのパーフルオロポリエーテルが塗布されている。 近年の磁気記録装置に用いられる磁気ディスクの潤滑剤は高回転、高温高湿環境下で用いられるため、不活性な表面状態に保つことが要求されている。これらの磁気ディスク表面の表面張力を、以下に示す方法に従って測定した。 使用した液体は、表面張力が既知である下記の5種類を選択した。 水素結合性液体 H2O(水):72.8mN/m、 極性液体 CH2I2(ヨウ化メチレン):50.8mN/m、C2H6O2(エチレングリコール):48.0mN/m、 無極性液体 C14H30(テトラデカン):26.7mN/m、C6H14(ヘキサン):20.4mN/m なお、水素結合性、極性、無極性の液体は上記に限定されることはない。 まず、磁気ディスクの表面に上記液体を1μL滴下し、滴下後10秒後に接触角を測定した。液量は、各液体ともに1μL以上で試料によらずほぼ一定の接触角を示したので1μLで行った。繰り返し測定を各液2回行い、その平均値を接触角とした。接触角測定にはAnalytical Technology社の接触角測定装置「VCA Video Contact Angle System」を使用した。測定後、得られた接触角からその余弦(cosθ)を求め、各液体の表面張力の値に対してプロットした。 各プロットに対しY=a×ln(X)+bで示される自然対数を近似式として用い、誤差の平方和が最小となる最小二乗法を用いて係数a、bを定め近似した。また、この対数近似した曲線を外挿し、その余弦(cosθ)が1 (つまり完全に濡れる点)となるような点に外挿した点の表面張力の値を求め、この値を磁気ディスク表面の真実臨界表面張力とした。 図4に、53種の磁気ディスクについての直線近似による臨界表面張力と対数近似による真実臨界表面張力の関係を示す。直線近似による臨界表面張力と対数近似による真実臨界表面張力の関係は臨界表面張力が大きいところではほぼ直線関係となるが、低い領域では直線がなまる。これは真実臨界表面張力が対数近似をとっているからである。しかし、臨界表面張力と真実臨界表面張力では、その大きさの順番の大小関係は変わらず保たれていることが判る。また、臨界表面張力はマイナス値を示すこともあり、改めて真実臨界表面張力が有効であるかがうかがい知れる。 図5には直線近似で近似した場合の相関係数と対数近似で近似した場合の相関係数の関係を示す。図5から明らかなように、対数近似した場合の方が直線近似よりも相関係数が高いことがわかる。このことからも、3種類の異なる液体を用いた固体表面の表面張力を一義的に定めるには、対数近似が優れていると言える。 さらに、図6に、前記53種の磁気ディスクの中から20種の磁気ディスクを選択し、これらの磁気ディスクを用いて、真実臨界表面張力と磁気ディスクのアウトガスに対する耐久性の関係を示す。前述の通り、磁気ディスクは様々な環境下で使用されることが多くなってきており、磁気ディスク装置内で使用されている各種の接着剤やプラスチック材料等の有機材料から、硫黄系有機化合物、塩素系有機化合物、フタル酸ジオクチル、アクリル酸、シロキサン等の揮発性有機系ガス、酸性ガス等が、ある程度の割合で放出されているため、高温高湿下で有機系ガスが磁気ディスクに吸着されると、潤滑層の潤滑剤と相互作用を起こす。その結果、低浮上量(例えば10nm以下)で浮上走行状態の磁気記録ヘッドが、ある確率で媒体表面と微少接触を起こす際、磁気記録ヘッドのスライダー部等に潤滑剤、有機化合物等を転写し、移着する。この現象をフライスティクションと呼ぶ。このフライスティクションが発生すると、磁気記録ヘッドの出力特性を低下させると共に、ヘッド浮上特性の不安定化を招き磁気ディスク装置において重大な障害を引き起こすことが知られている。このような問題を解決するためには、磁気ディスク表面を不活性化させておく必要がある。不活性化の程度を示す指標として、本発明の真実臨界表面張力が有効であると考えられるため、図6に示すように磁気ディスクに強制的に有機系コンタミネーションを付着させ、付着した有機物を定量化し、磁気ディスクに付着するコンタミネーションと真実臨界表面張力との関係を求めた。 具体的には以下の方法で試験を行った。 20種の磁気ディスクを準備し、市販のシリコーンテープを70mm×50mmにカットし、HDD装置に磁気ディスクと一緒に装填し、60℃/RH80%環境下で10時間放置した。放置後の磁気ディスクを取り出し、GCMSで磁気ディスクに付着した有機物量(TOC)を定量した。 図6に示すとおり、真実臨界表面張力を低減することにより、磁気ディスク表面に付着する有機物量も減少していくことが明らかとなった。すなわち、真実臨界表面張力は不活性化の程度を示す指標であることを示している。実施例2 低表面張力を与える飽和炭化水素を用い、液体の表面張力と接触角の余弦との関係について、従来のZisman−Plotと対数近似によるplotの比較を行った。試料はパープルオロポリエーテルが1.2nm塗布されている磁気ディスクを用いた。接触角測定に使用した液体は以下の通りである。 ヘキサン:20.4mN/m、オクタン:21.8mN/m、デカン:23.9mN/m、ドデカン:25.4mN/m、テトラデカン:26.7mN/m、ヘキサデカン:27.6mN/m、(以上飽和炭化水素:無極性) 水素結合性液体 H2O(水):72.8mN/m、 極性液体 CH2I2(ヨウ化メチレン):50.8mN/m、C2H6O2(エチレングリコール):48.0mN/m、 従来のZisman−plotを図7に、本発明の対数近似によるプロットを図8に示す。 各液体試料毎の接触角の結果は以下の通りである。 ヘキサン:28.1° オクタン:40.8° デカン:47.6° ドデカン:54.3° テトラデカン:54.5° ヘキサデカン:61.0° 水:92.8° ヨウ化メチレン:78.7° エチレングリコール:78.7° 図7から分かるように、従来のZismanの提唱した飽和炭化水素だけを用いた直線プロット(点線)では、前述した通り、(1)表面張力の大きい領域(A)で、Zisman−plotから大きく外れる、(2)全ての液体を用いて近似した場合(実線)、低い表面張力領域で外れる、(3)極性、無極性、水素結合性液体でグループ化され、一義的に表現できない[飽和炭化水素のグループ、極性液体グループ(表面張力が中程度)、水素結合性液体グループで分かれる。]、という問題が磁気ディスクを例に取ったときも見られており、この現象はあらゆる固体表面に共通であると思われる。 このことからZismanが提唱する臨界表面張力は飽和炭化水素(すなわち無極性)に対する臨界値であり、全てのエネルギーに対して有効ではない。しかし、対数近似した場合、図8で示すように、極性、無極性、水素結合性液体を全てを用いて臨界値を求めることで、一義的に定まる定義にできる。 以上より、従来のZismanが提唱した直線近似による臨界表面張力の問題点であった(1)液体の表面張力とcosθの関係は特に液体の表面張力が大きくなると直線関係にならない、(2)液体の持つ、水素結合性、極性、無極性の有無でプロットされた点がグループに別れ、一本の直線とならない、の2点について、本発明で定義する対数近似を利用した真実臨界表面張力によって完全に解決できることを証明している。実施例3(1)磁気ディスクの製造 図3に示す層構成の磁気ディスクを、以下のようにして製造した。 アルミノシリケートガラスをディスク状に成形してガラスディスクを得、得られたガラスディスクに、研削、精密研磨、端面研磨、精密洗浄、化学強化を施すことにより、平坦かつ平滑な高剛性の磁気ディスク用ガラス基板を得た。このガラス基板は直径が65mm、内径が20mm、ディスク厚が0.635mmの2.5インチ型磁気ディスク用基板であった。ここで、得られたガラス基板の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で観察したところ、Rmaxが3.96nm、Raが0.36nmの平滑な表面であることを確認した。 次に、静止対向型成膜装置を用いて、ガラス基板1上に、DCマグネトロンスパッタリングで順次、シード層2a、下地層2b、磁性層3の成膜を行なった。すなわち、まずスパッタリングターゲットとして、AlRu(Al:50原子%、Ru:50原子%)合金を用い、ガラス基板上1に、膜厚30nmのAlRu合金からなるシード層2aをスパッタリングで成膜した。次いで、スパッタリングターゲットとしてCrMo(Cr:80原子%、Mo:20原子%)合金を用い、シード層2a上に、膜厚20nmのCrMo合金からなる下地層2bをスパッタリングで成膜した。次いで、スパッタリングターゲットとしてCoCrPtB(Cr:20原子%、Pt:12原子%、B:5原子%、残部Co)合金からなるスパッタリングターゲットを用い、下地層2b上に、15nmのCoCrPtB合金からなる磁性層3をスパッタリングで形成した。 次に、磁性層3まで形成したディスク上に、プラズマCVD(P−CVD)を用いて、炭素、水素、窒素からなる炭素系保護層4を形成した。具体的には、反応性ガスとしてアセチレンと窒素を97%:3%の割合で混合した混合ガスを用い、磁性層3上に、膜厚4.5nmのCVDによる炭素系保護層が形成されるように成膜を行なった。炭素系保護層形成時の成膜速度は1nm/sであった。また保護層形成に際し、高周波電力(周波数27MHz)を電極に印加しプラズマを発生させた。さらに−300Wのバイアスを印加した。保護層の膜厚は、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により、実膜厚を測定した。 なお、この際、プラズマに電圧を印加する等して、IBD(Ion Beam Deposition)としてP−CVD成膜を行なってもよい。 このようにして、炭素系保護層4を形成後、70℃の純水中で400秒間浸漬洗浄したのち、更にイソプロピルアルコール(IPA)にて400秒間洗浄し、仕上げ乾燥としてIPAベーパーにて乾燥を行った。 次に、超純水及びIPA洗浄後の炭素系保護層4の上に、ディップ法を用いてPFPE(パーフルオロポリエーテル)化合物からなる潤滑層5を形成した。具体的には、ソルベイソレクシス社製商品名「フォンブリンゼットテトラオール」を原料とし、超臨界抽出法で分子量分画し、重量平均分子量(Mw)が7400となるように調整した。この際の表面張力は17mN/mであった。表面張力の測定はリング法を用いて測定した。潤滑剤を塗布した後、110℃にて60分間焼成した。潤滑層5の膜厚は焼成後の膜厚で1.2nmであった。 以上のように、磁気ディスク10を製造した。 得られた磁気ディスク10の表面粗さをAFMで観察したところ、Rmaxが4.21nm、Raが0.41nmの平滑な表面であることを確認した。また、グライドハイトを測定したところ4.5nmであった。磁気ヘッドの浮上量を安定的に10nm以下とする場合、磁気ディスクのグライドハイトは5nm以下とすることが望ましい。(2)磁気ディスクの性能評価 上記(1)で得られた磁気ディスクについて、各種性能を以下のようにして評価分析した。(a)表面張力の測定 使用した液体は表面張力が既知である以下の5種類を選択した。 水素結合性液体 水:72.8mN/m、 極性液体 CH2I2:50.8mN/m、C2H6O2:48.0mN/m、 無極性液体 C14H30:26.7mN/m、ヘキサン:20.4mN/m なお、水素結合性、極性、無極性の液体は上記以外でも構わない。 得られた磁気ディスク10の表面に上記液体を1μL滴下し、滴下後10秒後に接触角を測定した。液量は、各液体ともに1μL以上で試料によらずほぼ一定の接触角を示したので1μLで行った。繰り返し測定を各液2回行い、その平均値を接触角とした。接触角測定にはAnalytical Technology社の接触角測定装置「VCA Video Contact Angle System」を使用した。測定後、得られた接触角からその余弦(cosθ)を求め、各液体の表面張力の値に対してプロットした。 各液体試料毎の接触角の結果は以下の通りである。 水:92.7° ヨウ化メチレン:72.5° エチレングリコール:74.9° テトラデカン:61.9° ヘキサン:35° 図9に示すとおり、各プロットに対しY=a×ln(X)+bで示される対数式を近似式として用い、誤差の平方和が最小となる最小二乗法を用いて係数a、bを定め近似した。また、この対数近似した曲線を外挿し、その余弦(cosθ)が1 (つまり完全に濡れる点)となるような点に外挿した点の表面張力の値を求め、この値を磁気ディスク表面の表面張力とした。磁気ディスクの表面張力は13.43mN/mを示した。(b)TOP試験 フライスティクション試験を以下のように行った。 磁気ディスク装置に上記(1)で得られた磁気ディスクと、磁気記録ヘッドの浮上量が10nmであるヘッドを装填した。ヘッドには予めPZTセンサーを取り付けておき、ヘッドが磁気ディスクと接触した際の振動信号をPZTセンサーで受信できるようにした。その後、装置を減圧チャンバー内に投入して、大気圧から徐徐に減圧し、ヘッドが磁気ディスクに接触し、その後、吸着するまで減圧した。ヘッドが磁気ディスクと接触し吸着した際に、PZTセンサーが反応し、信号を発生する。その際の気圧をTDP(Touch Down pressure)と呼ぶ。その後、徐徐に気圧を戻し、吸着したヘッドが離れる際の気圧を記録した。この際の気圧をTOP(Take Off Pressure)と呼ぶ。TDPは一般に磁気ディスクのグライドハイトと関係しており、この磁気ディスクのTDPは0.0425MPaであった。フライスティクションの指標としてはTOPを指標としている。すなわち、吸着したヘッドが離れる気圧が低い方がフライスティクション特性に優れている。これは一度吸着しても、直ちに磁気ディスクから離れるということを示している。この磁気ディスクのTOPは0.061MPaを示した。一般に飛行機内の気圧は最低気圧で0.071MPa程度と言われており、TOPは0.071MPa以下が磁気ディスクに求められている。この磁気ディスクのTOPは0.061MPaであり、十分低いTOPを示しており、フライスティクション特性に優れていることが明らかである。(c)LUL耐久性試験 LUL耐久性試験は、5400rpmで回転する2.5インチ型HDDと、浮上量が10nmの磁気ヘッドを用いて行なった。なお、磁気ヘッドのスライダーはNPAB(負圧型)スライダーを用い、再生素子はGMR型素子を用いた。磁気ディスク10をこのHDDに搭載し、前述の磁気ヘッドによりLUL動作を連続して行なう。HDDが故障することなく耐久したLUL回数を測定することにより、LUL耐久性を評価した。LUL耐久性試験の結果は、120万回以上の耐久を示した。実施例4 実施例1の磁気ディスクの製造において、潤滑層5を形成する際に、原料としてソルベイソレクシス社製商品名「フォンブリンゼットテトラオール」とソルベイソレクシス社製商品名「フォンブリンゼットドール」を用い、両者とも超臨界抽出法で分子量分画したあと、両者を1:1の割合で混合した。この場合のMwはそれぞれ5800と3000に調整した。表面張力は19.4mN/mであった。潤滑層の膜厚は実施例1と同じく1.2nmに調整した。 潤滑層の形成は原料を除いて実施例1と同様である。これらの点以外は実施例1と同様の方法により、磁気ディスクを製造した。 この磁気ディスクについて、実施例1と同様にして性能評価を行った。その結果を表1に示す。実施例5〜8、比較例1〜3 実施例1の磁気ディスクの製造において、潤滑層の形成を、表1に示す種類および重量平均分子量の潤滑剤を用いて行い、場合により、以下に示すハイドロフルオロエーテルによる表面処理を行った以外は、実施例1と同様にして磁気ディスクを製造した。 得られた各磁気ディスクについて、実施例1と同様にして性能評価を行った。その結果を表1に示す。〈ハイドロフルオロエーテルによる表面処理〉 ハイドロフルオロエーテル(HFE)による表面処理は、C4F9−O−CH3の構造を有するハイドロフルオロエーテル化合物からなる液体組成物を用いて行った。このハイドロフルオロエーテルの分子量は250である。また、表面張力は13.6mN/mである。このハイドロフルオロエーテル組成物を潤滑層5の表面に気相法で成膜(処理時間60秒)することにより、ハイドロフルオロエーテルを磁気ディスク表面に接触させた。[注](1)保護層(炭素系保護層)は、全てプラズマCVD法により成膜することにより形成した。(2)潤滑剤Aは、ソルベイソレクシス社製の「フォンブリンゼットテトラオール」を原料とし、超臨界抽出法により精製して所定の分子量分布に調整した潤滑剤である。 この潤滑剤Aに主成分として含まれるパーフルオロポリエーテル化合物は、一般式(I)(式中、pおよびqはそれぞれ1以上の整数を示す。)で表される構造を有している。(3)潤滑剤Bは、ソルベイソレクシス社製の「フォンブリンゼットドール」を原料とし、超臨界抽出法により精製して所定の分子量分布に調整した潤滑剤である。なお、比較例1の潤滑剤Bは、上記「フォンブリンゼットドール」の未精製品である。 この潤滑剤Bに主成分として含まれるパーフルオロポリエーテル化合物は、一般式(II)(式中、pおよびqはそれぞれ1以上の整数を示す。)で表される構造を有している。 本発明の固体表面の評価方法によれば、固体表面の表面張力を水素結合性、極性、無極性の液体を用いて評価することにより、固体表面の表面張力を一義的に定義することが可能となり、真の固体表面の表面張力を提供することができる。 また、本発明の磁気ディスクによれば、10nm以下の磁気記録ヘッドの浮上量において、磁気ディスクの表面エネルギーを低減させることにより、フライスティクションを十分に防止することができる。非特許文献1で示されているデータを全てプロットし、液体の表面張力と接触角の余弦との関係を直線近似した場合のZismanの方式の例を示すグラフである。非特許文献1で示されているデータを全てプロットし、液体の表面張力と接触角の余弦との関係を対数近似した場合の本発明方式の例を示すグラフである。本発明の磁気ディスクの層構成の1例を模式的に示す断面図である。実施例1において、各磁気ディスクについての直線近似による臨界表面張力と対数近似による真実臨界表面張力との関係を示すプロット図である。実施例1において、液体の表面張力と接触角の余弦との関係を直線近似で近似した場合の相関係数と対数近似で近似した場合の相関係数との関係を示すプロット図である。実施例1において、各磁気ディスクの真実臨界表面張力と磁気ディスク表面のアウトガスに対する耐久性との関係を示すプロット図である。実施例2において、液体の表面張力と接触角の余弦との関係を直線近似(Zisman−plot)したグラフである。実施例2において、液体の表面張力と接触角の余弦との関係を対数近似したグラフである。実施例3において、液体の表面張力と接触角の余弦との関係を対数近似したグラフである。符号の説明 1 基板 2 非磁性金属層 2a シード層 2b 下地層 3 磁性層 4 保護層 5 潤滑層 10 磁気ディスク 固体表面を評価する方法であって、 表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記固体表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を対数関数として求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を利用して固体表面の表面張力を評価することを特徴とする固体表面の評価方法。 表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料が、無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含む請求項1に記載の固体表面の評価方法。 固体表面を評価する方法であって、 無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記固体表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を利用して固体表面の表面張力を評価することを特徴とする固体表面の評価方法。 基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層がこの順で形成された磁気ディスクの表面を評価する方法であって、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の固体表面の評価方法により、磁気ディスク表面の表面張力を評価することを特徴とする磁気ディスクの評価方法。 基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層がこの順で形成された磁気ディスクであって、 無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記磁気ディスク表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を最小二乗法により自然対数の関数として求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を前記磁気ディスクの真実臨界表面張力とした場合、前記真実臨界表面張力が0を超え17mN/m(ミリ・ニュートン/メートル)以下であることを特徴とする磁気ディスク。 潤滑層を形成する潤滑剤の表面張力が20mN/m以下である請求項5に記載の磁気ディスク。 潤滑層が、末端官能基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含む請求項5または6に記載の磁気ディスク。 保護層が、水素原子および/または窒素原子を含む炭素系保護層である請求項5ないし7のいずれか1項に記載の磁気ディスク。 ロードアンロード方式のハードディスクドライブ搭載用である請求項5ないし8のいずれか1項に記載の磁気ディスク。 基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層をこの順で成膜する磁気ディスクの製造方法であって、 無極性物質を含む液体試料、極性物質を含む液体試料および水素結合性物質を含む液体試料を含み、これらが互いに表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記磁気ディスク表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を最小二乗法により自然対数の関数として求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を前記磁気ディスクの真実臨界表面張力とした場合、 この真実臨界表面張力が0を超え17mN/m以下となるように、分子量が所定に精製されたパーフルオロポリエーテル化合物を含む潤滑剤を成膜することにより、前記潤滑層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。 保護層を、炭化水素ガスを材料ガスとして用いるプラズマCVD法により成膜して形成する請求項10に記載の磁気ディスクの製造方法。 【課題】 固体表面の表面張力を効果的に評価する固体表面の評価方法、および10nm以下の磁気記録ヘッドの浮上量において、フライスティクションを防止し得る表面エネルギーを低減させた磁気ディスクを提供する。【解決手段】 表面張力が異なる少なくとも3つの液体試料を選択し、それぞれの液体試料と前記固体表面との接触角を測定することにより、前記接触角の余弦(Y)と液体試料の表面張力(X)との相関関係を対数関数として求め、前記相関関係において、Yを1とした場合に算出されるXの値を利用して固体表面の表面張力を評価する方法、および前記評価方法により、Yを1とした場合のXの値が0を超え17mN/m以下である表面を有する磁気ディスクである。【選択図】 図2