タイトル: | 特許公報(B2)_ヒドロゲル、架橋ヒドロゲル及びそれらの製造方法 |
出願番号: | 2004022665 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C08J 3/075,A61K 47/34,A61L 27/00,C08G 73/04,C08L 79/02 |
金 仁華 袁 健軍 JP 4824911 特許公報(B2) 20110916 2004022665 20040130 ヒドロゲル、架橋ヒドロゲル及びそれらの製造方法 一般財団法人川村理化学研究所 000173751 河野 通洋 100124970 高橋 勝利 100088764 金 仁華 袁 健軍 20111130 C08J 3/075 20060101AFI20111110BHJP A61K 47/34 20060101ALI20111110BHJP A61L 27/00 20060101ALI20111110BHJP C08G 73/04 20060101ALI20111110BHJP C08L 79/02 20060101ALI20111110BHJP JPC08J3/075A61K47/34A61L27/00 YC08G73/04C08L79/02 C08L 79/00 C08J 3/00 特表2002−542364(JP,A) 特表2002−541310(JP,A) 特開2001−247683(JP,A) 特開2001−139828(JP,A) 特開2003−055460(JP,A) 12 2005213400 20050811 16 20070109 阪野 誠司本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーのポリマー結晶と水とからなるヒドロゲルに関し、より詳しくは、そのポリマー結晶が水中で一定形状を有することに起因した、ポリマー結晶間の物理的な結合による三次元網目構造により水がゲル化されたヒドロゲル、該ポリマー結晶表面間が二官能以上の官能基を有する化合物による化学的な結合で架橋された架橋ヒドロゲル、およびそれらの製造方法に関する。 親水性ポリマーの共有結合または非共有結合による架橋で形成されるヒドロゲルは、材料工学、ティッシュ工学、医薬工学など多くの領域でますます注目を浴びている(例えば、非特許文献1参照。)。なかでもポリマーが化学結合によらず物理的に網目を形成して得られるポリマー系ヒドロゲルは、蛋白質やDNAをはじめとする生体高分子が形成するヒドロゲルと、その構造や特性に多くの共通性を有するため、生体材料や薬剤デリバリーシステム等への展開が数多く検討されている(例えば、非特許文献2参照。)。 従来、ポリマー系のヒドロゲルとしては、ポリペプチドの両親媒性のジブロック共重合体や、親水性と疎水性ブロックを有するトリブロック共重合体構造などの構造を有するポリマーが使用されていた。これらポリマーはポリマー間の疎水部分同士を会合させ、物理的な結合により三次元網目構造を与えることにより、系内の水が流動性を失いヒドロゲルを得ることができるが、ヒドロゲルを得るためのジブロック共重合体やトリブロック共重合体の構造に関しては、精密な設計が要求されるものであった。 このような精密な構造設計を必要とするポリマー系ヒドロゲルに対し、低分子化合物を用いるヒドロゲルの開発もなされている。例えば、アミノ酸の誘導体(例えば、非特許文献3、非特許文献4参照。)、あるいは、ヌクレオシド誘導体(例えば、非特許文献5参照。)を合成し、それを用いたヒドロゲルが開示されている。これらの低分子系ヒドロゲルではゲル化剤の低分子化合物が繊維状糸またはラメラ状結晶を形成することで、水の流動性を防ぎ、結果的にはヒドロゲルを与える。従って、結晶融点以上では、ゲル性が完全に消失し、系は溶液となることが特徴である。さらに、低分子系ヒドロゲルにおいて、結晶形成には疎水会合と水素結合が重要な要素であることが知られている。 上記のポリマー系ヒドロゲルおよび低分子系ヒドロゲルは、いずれもゲル化剤となる物質を得るための構造設計や合成プロセスが簡便ではなく、ヒドロゲルを各種材料に展開するにもその製造コストが非常に高いという問題があった。また、従来のポリマーまたは低分子系ヒドロゲルは、基本的に分子中の疎水部分同士の疎水会合が繊維状糸を形成し、その糸の絡み合いでヒドロゲルを形成する。そのため、得られるゲルは、水の保持性が良くても、概ねの形状を保持できる状態、即ちモルフォロジーを有する状態に成長することができない。また、低分子系ヒドロゲルの場合、そのゲル中の水の保持性は低いものであった。K.Y.Lee et al.、Chem.Review、2001年、第101巻、p.1869−1879A.P.Nowak et al.、Nature、2002年、第417巻、p.424−428F.M.Menger et al.、J.Am.Chem.Soc.、2000年、第122巻、p.11679−11691G. Wang et al., Chem. Commun., 2003年、p.310−311S. Park et al., Chem. Commun., 2003年、p.2912−1913 本発明が解決しようとする課題は、製造コストが安価であり、ポリマー結晶系ヒドロゲルによるモルフォロジー発現性を有し、かつ、水保持性に優れたヒドロゲル、及び該三次元網目構造を形成するポリマー結晶間が、化学的な結合により架橋された架橋ヒドロゲルを提供することにある。 本発明においては、二級アミンを主たる構造単位とする直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが、水溶性でありながら優れた結晶性を有するため、該ポリマーが水の存在下でポリマー結晶となり、三次元網目構造を形成して水をゲル化し、ヒドロゲルとなる。得られるヒドロゲルはゲル化剤が結晶性ポリマーであることから、そのゲル構造は規則性が良い。また、少量のポリマー結晶であっても水中で好適に三次元網目構造を形成するため高い水保持性を有する。さらに、使用する直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは構造設計や合成が容易であり、かつヒドロゲルの調整が簡便であるため、製造コストが安価である。 また、上記三次元網目構造を、二つ以上の官能基を有する化合物による化学結合により架橋された架橋網目構造とすることにより、三次元網目構造をより強固にすることができ、ゲル構造の規則性を向上させることができる。 すなわち本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶からなる三次元網目構造中に、水が含まれるヒドロゲルを提供するものである。 さらに本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶からなる三次元網目構造中に、水が含まれるヒドロゲルの該三次元網目構造を形成するポリマー結晶間が、二つ以上の官能基を有する化合物による化学的な結合により架橋された架橋ヒドロゲルを提供するものである。 さらに本発明は、直鎖状のポリエチレンイミン構造を有するポリマーと、水又は水と親水性有機溶媒の混合溶媒とを混合し、該混合液を加熱して前記直鎖状のポリエチレンイミン構造を有するポリマーを溶解させた後、該溶液の温度を低下させて直鎖状のポリエチレンイミン構造を有するポリマー結晶を形成させることにより、該糸状結晶からなる三次元網目構造中に水又は水と親水性有機溶媒の混合溶媒を包含させるヒドロゲルの製造方法を提供するものである。 本発明のヒドロゲルは、直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水中で加熱溶解させた後、その溶液を室温に戻すことで極めて容易に得ることができる。また、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは、オキサゾリンモノマーの開環重合から得られるポリオキサゾリン骨格を有するポリマーを加水分解することにより容易に製造できる。 また、本発明のヒドロゲルは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの水中での多様な結晶形態の発現により形成されるものであることから、該ヒドロゲルは材料構築の鋳型として広く用いることができる。 さらに、本発明でのヒドロゲルに用いるポリエチレンイミンは従来から産業上広く利用され、かつ、バイオ分野やナノ材料など先端材料開発にも利用が試みられていることから、本発明のヒドロゲルは極めて有効な先端材料の前駆体となる素材または部材である。 本発明のヒドロゲルは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶からなる三次元網目構造中に、水を包含するものである。 本発明でいう直鎖状ポリエチレンイミン骨格とは、二級アミンのエチレンイミン単位を主たる構造単位とするポリマー骨格をいう。該骨格中においては、エチレンイミン単位以外の構造単位が存在していてもよいが、ポリマー結晶を形成させるためには、ポリマー鎖の一定鎖長が連続的なエチレンイミン単位であることが好ましい。該直鎖状ポリエチレンイミン骨格の長さは、該骨格を有するポリマーが結晶を形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適にポリマー結晶を形成するためには、該骨格部分のエチレンイミン単位の繰り返し単位数が10以上であることが好ましく、20〜10000の範囲であることが特に好ましい。 本発明において使用するポリマーは、その構造中に直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するものであればよく、その形状が線状、星状または櫛状であっても、水中または水と水溶性有機溶媒混合の水性媒体中でヒドロゲルを与えることができる。 また、これら線状、星状または櫛状のポリマーは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格のみからなるものであっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格からなるブロック(以下、ポリエチレンイミンブロックと略記する。)と他のポリマーブロックとのブロックコポリマーからなるものであってもよい。他のポリマーブロックとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピオニルエチレンイミン、ポリアクリルアミドなどの水溶性のポリマーブロック、あるいは、ポリスチレン、ポリフェニルオキサゾリン、ポリアクリレートなどの疎水性のポリマーブロックを使用できる。これら他のポリマーブロックとのブロックコポリマーとすることで、ポリマー結晶の形状や特性を調整することができる。 直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが、ブロックコポリマーである場合の該ポリマー中における直鎖状ポリエチレンイミン骨格の割合は、ポリマー結晶を形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適にポリマー結晶を形成するためには、ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格の割合が40モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましい。 上記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは、その前駆体となるポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を有するポリマー(以下、前駆体ポリマーと略記する。)を、酸性条件下またはアルカリ条件下で加水分解することで容易に得ることができる。従って、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの線状、星状、または櫛状などの形状は、この前駆体ポリマーの形状を制御することで容易に設計することができる。また、重合度や末端構造も、前駆体ポリマーの重合度や末端機能団を制御することで容易に調整できる。さらに、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するブロックコポリマーを形成する場合には、前駆体ポリマーをブロックコポリマーとし、該前駆体中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を選択的に加水分解することで得ることができる。 前駆体ポリマーは、オキサゾリン類のモノマーを使用して、カチオン型の重合法、あるいは、マクロモノマー法などの合成方法により合成が可能であり、合成方法や開始剤を適宜選択することにより、線状、星状、あるいは櫛状などの各種形状の前駆体ポリマーを合成できる。 ポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を形成するモノマーとしては、メチルオキサゾリン、エチルオキサゾリン、メチルビニルオキサゾリン、フェニルオキサゾリンなどのオキサゾリンモノマーを使用できる。 重合開始剤としては、分子中に塩化アルキル基、臭化アルキル基、ヨウ化アルキル基、トルエンスルホニルオキシ基、あるいはトリフルオロメチルスルホニルオキシ基などの官能基を有する化合物を使用できる。これら重合開始剤は、多くのアルコール類化合物の水酸基を他の官能基に変換させることで得られる。なかでも、官能基変換として、臭素化、ヨウ素化、トルエンスルホン酸化、およびトリフルオロメチルスルホン酸化されたものは重合開始効率が高いため好ましく、特に臭化アルキル、トルエンスルホン酸アルキルが好ましい。 また、ポリ(エチレングリコール)の末端水酸基を臭素あるいはヨウ素に変換したもの、またはトルエンスルホニル基に変換したものを重合開始剤として使用することもできる。その場合、ポリ(エチレングリコール)の重合度は5〜100の範囲であることが好ましく、10〜50の範囲であれば特に好ましい。 また、カチオン開環リビング重合開始能を有する官能基を有し、かつ光による発光機能、エネルギー移動機能、電子移動機能を有するポルフィリン骨格、フタロシアニン骨格、またはピレン骨格のいずれかの骨格を有する色素類は、得られるポリマーに特殊な機能を付与することができる。 線状の前駆体ポリマーは、上記オキサゾリンモノマーを1価または2価の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。このような重合開始剤としては、例えば、塩化メチルベンゼン、臭化メチルベンゼン、ヨウ化メチルベンゼン、トルエンスルホン酸メチルベンゼン、トリフルオロメチルスルホン酸メチルベンゼン、臭化メタン、ヨウ化メタン、トルエンスルホン酸メタンまたはトルエンスルホン酸無水物、トリフルオロメチルスルホン酸無水物、5−(4−ブロモメチルフェニル)−10,15,20−トリ(フェニル)ポルフィリン、またはブロモメチルピレンなどの1価のもの、ジブロモメチルベンゼン、ジヨウ化メチルベンゼン、ジブロモメチルビフェニレン、またはジブロモメチルアゾベンゼンなどの2価のものが挙げられる。また、ポリ(メチルオキサゾリン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、または、ポリ(メチルビニルオキサゾリン)などの工業的に使用されている線状のポリオキサゾリンを、そのまま前駆体ポリマーとして使用することもできる。 星状の前駆体ポリマーは、上記したようなオキサゾリンモノマーを3価以上の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。3価以上の重合開始剤としては、例えば、トリブロモメチルベンゼン、などの3価のもの、テトラブロモメチルベンゼン、テトラ(4−クロロメチルフェニル)ポルフィリン、テトラブロモエトキシフタロシアニンなどの4価のもの、ヘキサブロモメチルベンゼン、テトラ(3,5−ジトシリルエチルオキシフェニル)ポルフィリンなどの5価以上のものが挙げられる。 櫛状の前駆体ポリマーを得るためには、多価の重合開始基を有する線状のポリマーを用いて、該重合開始基からオキサゾリンモノマーを重合させることができるが、例えば、通常のエポキシ樹脂やポリビニルアルコールなどの側鎖に水酸基を有するポリマーの水酸基を、臭素やヨウ素等でハロゲン化するか、あるいはトルエンスルホニル基に変換させた後、該変換部分を重合開始基として用いることでも得ることができる。 また、櫛状の前駆体ポリマーを得る方法として、ポリアミン型重合停止剤を用いることもできる。例えば、一価の重合開始剤を用い、オキサゾリンを重合させ、そのポリオキサゾリンの末端をポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリプロピルアミンなどのポリアミンのアミノ基に結合させることで、櫛状のポリオキサゾリンを得ることができる。 上記により得られる前駆体ポリマーのポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格の加水分解は、酸性条件下またはアルカリ条件下のいずれの条件下でもよい。 酸性条件下での加水分解は、例えば、塩酸水溶液中でポリオキサゾリンを加熱下で攪拌することにより、ポリエチレンイミンの塩酸塩を得ることができる。得られた塩酸塩を過剰のアンモニウム水で処理することで、塩基性のポリエチレンイミンの結晶粉末を得ることができる。用いる塩酸水溶液は、濃塩酸でも、1mol/L程度の水溶液でもよいが、加水分解を効率的に行うには、5mol/Lの塩酸水溶液を用いることが望ましい。また、反応温度は80℃前後が望ましい。 アルカリ条件下での加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、ポリオキサゾリンをポリエチレンイミンに変換させることができる。アルカリ条件下で反応させた後、反応液を透析膜にて洗浄することで、過剰な水酸化ナトリウムを除去し、ポリエチレンイミンの結晶粉末を得ることができる。用いる水酸化ナトリウムの濃度は1〜10mol/Lの範囲であればよく、より効率的な反応を行うには3〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。また、反応温度は80℃前後が好ましい。 酸性条件下またはアルカリ条件下での加水分解における、酸またはアルカリの使用量は、ポリマー中のオキサゾリン単位に対し、1〜10当量でよく、反応効率の向上と後処理の簡便化のためには、3当量がさらに好ましい。 上記加水分解により、前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格となり、該ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが得られる。 また、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと他のポリマーブロックとのブロックコポリマーを形成する場合には、前駆体ポリマーをポリオキサゾリン類からなる直鎖状のポリマーブロックと、他のポリマーブロックとからなるブロックコポリマーとし、該前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状のブロックを選択的に加水分解することで得ることができる。 他のポリマーブロックが、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)などの水溶性ポリマーブロックである場合には、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)が、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)やポリ(N−アセチルエチレンイミン)に比べて、有機溶媒への溶解性が高いことを利用してブロックコポリマーを形成することができる。即ち、2−オキサゾリンまたは2−メチル−2−オキサゾリンを、前記した重合開始化合物の存在下でカチオン開環リビング重合した後、得られたリビングポリマーに、さらに2−エチル−2−オキサゾリンを重合させることによって、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとからなる前駆体ポリマーを得る。該前駆体ポリマーを水に溶解させ、該水溶液にポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックを溶解する水とは非相溶の有機溶媒を混合して攪拌することによりエマルジョンを形成する。該エマルジョンの水相に、酸またはアルカリを添加することによりポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックを優先的に加水分解させことにより、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとを有するブロックコポリマーを形成できる。 ここで使用する重合開始化合物の価数が1および2の場合には、直鎖状のブロックコポリマーとなり、それ以上の価数であれば星型のブロックコポリマーが得られる。また、前駆体ポリマーを多段のブロックコポリマーとすることで、得られるポリマーも多段のブロック構造とすることも可能である。 本発明のヒドロゲルは、上記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの一次構造中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格が、水中で結晶性を発現してポリマー結晶を形成し、該ポリマー結晶が三次元網目構造を形成することにより生じる。 従来広く使用されてきたポリエチレンイミンは、環状エチレンイミンの開環重合により得られる分岐状ポリマーであり、その一次構造には一級アミン、二級アミン、三級アミンが存在する。従って、分岐状ポリエチレンイミンは水溶性であるが、結晶性は持たないため、分岐状ポリエチレンイミンを用いてヒドロゲルを作るためには、架橋剤による共有結合により網目構造を与えなくてはならない。しかしながら本発明に使用するポリマーが骨格として有する直鎖状ポリエチレンイミンは、二級アミンだけで構成されており、該二級アミン型の直鎖状ポリエチレンイミンは水溶性でありながら、優れた結晶性を有する。 このような、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶は、そのポリマーのエチレンイミン単位に含まれる結晶水数により、ポリマー結晶構造が大きく異なることが知られている(Y.Chatani et al.、Macromolecules、1981年、第14巻、p.315−321)。無水のポリエチレンイミンは二重螺旋構造を特徴とする結晶構造を優先するが、モノマー単位に2分子の水が含まれると、ポリマーはzigzag構造を特徴とする結晶体に成長することが知られている。実際、水中から得られる直鎖状ポリエチレンイミンの結晶は一つのモノマー単位に2分子水を含む結晶であり、その結晶は室温状態では水中不溶である。 本発明における直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶は、上記の場合と同様に直鎖状ポリエチレンイミン骨格の結晶発現により形成されるものであり、ポリマー形状が線状、星状、または櫛状などの形状であっても、一次構造に直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーであれば、ポリマーの結晶が得られる。 本発明のヒドロゲル中におけるポリマー結晶の存在はX線散乱により確認でき、広角X線回折計(WAXS)における2θ角度値で20°,27°,28°近傍のヒドロゲル中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格に由来するピーク値により確認される。 また、本発明のヒドロゲル中におけるポリマー結晶の示差走査熱量計(DSC)における融点は、ポリエチレンイミン骨格のポリマーの一次構造にも依存するが、概ねその融点が45〜90℃で現れる。 本発明のヒドロゲル中におけるポリマー結晶は、その結晶を構成するポリマー構造の幾何学的な形状や、分子量、一次構造で非エチレンイミン部分の存在などの影響により各種形状を取り得ることができ、例えば繊維状、ブラシ状、星状などの形状を有する。 本発明のヒドロゲルは、上記ポリマー結晶間の物理的な結合により形成する。例えば、水中のポリマー結晶表面にはフリーなエチレンイミン鎖が存在し、その鎖が結晶同士を水素結合で繋がれる。これにより結晶間が物理的に結合された架橋構造となり、該ポリマー結晶の三次元網目構造を作り上げ、結果的には該三次元網目構造中に水を包含したヒドロゲルが与えられる。 即ち、本発明でいう三次元網目構造とは、通常の高分子ヒドロゲルと異なり、マイクロ、またはナノスケールの結晶同士が、その結晶表面に存在するフリーなエチレンイミン鎖の水素結合により、物理的に架橋化された網目構造を言う。従って、その結晶の融点以上の温度では、結晶が水中溶解されてしまい、三次元網目構造も解体される。ところが、それが室温に戻ると、ポリマー結晶が成長し、その結晶間では水素結合による物理的な架橋が形成するため、再び、三次元網目構造が現れる。 本発明のヒドロゲルは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが室温の水に不溶である性質を利用し、該直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの水中でのゾルゲル変換により得ることができる。 該ヒドロゲルの製造方法としては、まず直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを一定量水中に分散し、該分散液を加熱することにより、ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの透明な水溶液を得る。次いで、加熱状態のポリマーの水溶液を室温に冷やすことにより、ゾル状態の水溶液からゲル状態のヒドロゲルが得られる。 上記ポリマー分散液の加熱温度は100℃以下が好ましく、90〜95℃の範囲であることがより好ましい。また、ポリマー分散液中のポリマー含有量は、ヒドロゲルが得られる範囲であれば特に限定されないが、0.01〜20質量%の範囲であることが好ましく、安定形状の結晶体からなるヒドロゲルを得るためには0.1〜10質量%の範囲がさらに好ましい。このように、本発明においては、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを使用すると、ごく少量のポリマー濃度でもヒドロゲルを形成することができる。 上記ゾル状態のポリマー水溶液の温度を室温まで低下させる過程により、得られるヒドロゲルの状態を調整することができる。 例えば、ゾル状態のポリマー水溶液を80℃に1時間保持した後、1時間かけて60℃にし、該温度でさらに1時間保持する。その後1時間かけて40℃まで低下させた後、自然に室温まで下げることで、水溶液の水が流動性をなくした状態のヒドロゲルを得ることができる。 また、上記ゾル状態のポリマー水溶液を一気に氷点の氷り水、または氷点下のメタノール/ドライアイス、あるいはアセトン/ドライアイスの冷媒液にて冷却させた後、その状態のものを室温のワータバスにて保持させることでヒドロゲルを得ることができる。 さらには、上記ゾル状態のポリマー水溶液を室温のワータバスまたは室温空気環境にて、室温まで温度を低下させることで、ヒドロゲルを得ることができる。 上記ゾル状態のポリマー水溶液の温度を低下させる工程は、得られるヒドロゲル中のポリマー結晶の形状に強く影響を与えるため、上記異なる工程により得られるヒドロゲル中のポリマーの結晶形態は同一ではない。 上記のゾル状態のポリマー水溶液の温度を、濃度を一定として多段階的に低下させた場合、ヒドロゲル中におけるポリマーの結晶形態を、ファイバー状のポリマー結晶形態とすることができる。これを急冷した後、室温に戻した場合には、花弁状のポリマー結晶形態とすることができ。また、これをドライアイス上のアセトンで再度急冷して、室温に戻した場合、波状のポリマー結晶形態とすることができる。このように、本発明のヒドロゲル中におけるポリマーの結晶形態を、各種形状に設定することができる。 上記により得られる本発明のヒドロゲルは、不透明なゲルであり、ゲル中にはポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶が形成し、その結晶体同士の水素結合により物理的に架橋化され、三次元の物理的な網目構造を形成している。一旦形成したヒドロゲル中のポリマー結晶は室温中では不溶状態を保つが、加熱するとポリマー結晶が解離し、ヒドロゲルはゾル状態に変化してしまう。従って、本発明の物理的なヒドロゲルは、熱処理を行うことでゾルからゲル、またゲルからゾルへと可逆的な変化が可能である。 本発明のヒドロゲルは三次元網目構造中に少なくとも水を含有するが、該ヒドロゲルの調製時に、水溶性有機溶剤を加えることで、有機溶剤を含有したヒドロゲルが得られる。該親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、ピロリドンなどの水溶性有機溶剤を取りあげることができる。 有機溶剤の含有量は、水の体積に対し、0.1〜5倍の範囲であることが好ましく、1〜3倍の範囲であればより好ましい。 上記親水性有機溶媒を含有させることにより、ポリマー結晶の形態を変えることができ、単純な水系と異なる形態の結晶を与えることができる。例えば、水中では繊維状の広がりを有する分岐結晶形態であっても、その調製に一定量のエタノールが含まれた場合、繊維が収縮したような球状結晶形態を得ることができる。 本発明のヒドロゲル調製時に、水溶性ポリマーを加えることで、水溶性ポリマーを含有するヒドロゲルが得られる。該水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリンなどを取りあげることができる。 水溶性ポリマーの含有量は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの質量に対し、0.1〜5倍の範囲であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲であればより好ましい。 上記水溶性ポリマーを含有させることによっても、ポリマー結晶の形態を変えることができ、単純な水系と異なる形態の結晶を与えることができる。また、ヒドロゲルの粘性を増大させ、ヒドロゲルの安定性を向上させることに有効である。 上記方法で得られたヒドロゲルを、ポリエチレンイミンのアミノ基と反応する2官能基以上を含む化合物で処理することで、ヒドロゲル中のポリマー結晶体表面同士を化学結合でリンクさせたヒドロゲルを得ることができる。 前記アミノ基と室温状態で反応できる2官能基以上を含む化合物としては、アルデヒド類架橋剤、エポキシ類架橋剤、酸クロリド類、酸無水物、エステル類架橋剤を用いることができる。アルデヒド類架橋剤としては、例えば、マロニルアルデヒド、スクシニルアルデヒド、グルタリルアルデヒド、アジホイルアルデヒド、フタロイルアルデヒド、イソフタロイルアルデヒド、テレフタロイルアルデヒドなどがあげられる。また、エポキシ類架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、グリシジルクロライド、グリシジルブロマイドなどがあげられる。酸クロリド類としては、例えば、マロニル酸クロリド、スクシニル酸クロリド、グルタリル酸クロリド、アジホイル酸クロリド、フタロイル酸クロリド、イソフタロイル酸クロリド、テレフタロイル酸クロリドなどがあげられる。また、酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、スクシニル酸無水物、グルタリル酸無水物などがあげられる。また、エステル類架橋剤としては、マロニル酸メチルエステル、スクシニル酸メチルエステル、グルタリル酸メチルエステル、フタロイル酸メチルエステル、ポリエチレングリコールカルボン酸メチルエステルなどがあげられる。 架橋反応は、得られたヒドロゲルを架橋剤の溶液に浸す方法にでも、架橋剤溶液をヒドロゲル中に加える方法でも可能である。この際、架橋剤は系内での浸透圧変化と共に、ヒドロゲル内部へ浸透し、そこで結晶体同士を水素結合で繋いでエチレンイミンの窒素原子との化学反応を引き起こす。 架橋反応は、ポリエチレンイミン結晶体表面のフリーなエチレンイミンとの反応により進行するが、その反応を結晶内部では起こらないようにするためには、ヒドロゲルを形成する結晶体の融点以下の温度で反応を行うことが望ましく、さらには架橋反応を室温で行うことが最も望ましい。 架橋反応を室温で進行させる場合には、ヒドロゲルを架橋剤溶液と混合した状態で放置しておくことで、架橋ヒドロゲルを得ることができる。架橋反応させる時間は、数分から数日でよく、概ね一晩放置することで好適に架橋が進行する。 架橋剤量はヒドロゲル形成に用いるポリエチレンイミン骨格を有するポリマー中のエチレンイミンユニットのモル数に対し、0.05〜20%であればよく、それが1〜10%であればもっと好適である。 本発明のヒドロゲルは、ゲル化剤が結晶性のポリマーであるため多様なモルフォロジーのゲル構造を発現できる。また少量のポリマー結晶であっても水中で好適に三次元網目構造を形成するため高い水保持性を有する。さらに、使用する直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは構造設計や合成が容易であり、かつヒドロゲルの調整が簡便であるため製造コストが安価である。 また、本発明のヒドロゲルはポリエチレンイミン骨格を有することや、該骨格が各種結晶形態を形成できること、また、結晶表面に存在するエチレンイミン鎖などを有することから、バイオミネラルゼーションの足場または鋳型などの用途として有用である。また、ポリエチレンイミンの金属イオンに対する高い配位性から、ナノ金属粒子の製造にも用いることができる。さらには、ポリエチレンイミン骨格が示すカチオン性質による殺菌作用、耐ウィルス性、生体接着性から、生体材料分野、医薬分野、化粧品分野などに有用に使用できる。 以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明する。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。[X線回折法によるヒドロゲルの分析] ヒドロゲルを測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜40°の条件で測定を行った。[示差熱走査熱量法によるのPEIヒドロゲルの分析] 単離乾燥したヒドロゲルを測定パッチにより秤量し、それをPerkin Elmer製熱分析装置「DSC−7」にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から90℃の温度範囲にて測定を行った。[ゲル化温度の計測方法] ヒドロゲルが含まれたサンプル管を恒温槽にて5分ごとに温度を2℃上昇させた。その過程で、ゲルが流動性を示す時の温度をゲル化温度として読み取った。(合成例1)<線状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成> 市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500000,平均重合度5000,Aldrich社製)5gを、5Mの塩酸水溶液20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を1H−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。 その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー結晶粉末を濾過し、その結晶粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量4.2g(結晶水含有)。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、L−PEIの重合度は加水分解前の5000と同様である。(合成例2)<ポルフィリン中心の星状ポリエチレンイミン(P−PEI)合成> Jin et al.,J.Porphyrin&Phthalocyanine,3,60−64(1999);Jin、Macromol.Chem.Phys.,204,403−409(2003)に示された方法により、前駆体ポリマーであるポルフィリン中心星型ポリ(メチルオキサゾリン)の合成を次の通り行った。 三方コック付の50mlの二口フラスコをアルゴンガスで置換した後、0.0352 gのテトラ(p−ヨードメチルフェニル)ポリオキサゾリン(TOMPP)、8.0mlのN,N−ジメチルアセトアミドを加えて、室温で撹拌し、TIMPPを完全に溶解させた。この溶液にポルフィリンに対し、1280倍モル数に相当する2−メチル−2−オキサゾリン3.4ml(3.27g)を加えてから、反応液の温度を100℃にし、24時間撹拌した。反応液温度を室温に下げてから、10mlのメタノールを加えた後、混合液を減圧濃縮した。残留物を15mlのメタノール中に溶解し、その溶液を100mlのテトラヒドロフランに注ぎ、重合体を沈殿させた。同一方法で、重合体を再沈殿させ、吸引ろ過後、得られた重合体をP2O5が置かれたデシケータに入れ、1時間アスピレータで吸引乾燥した。さらに、真空ポンプにて減圧し、真空下24時間乾燥した。収量は3.05g、収率は92.3%であった。 得られた重合体(TPMO−P)のGPCによる数平均分子量は28000で、分子量分布は1.56であった。また、1H−NMRにより、重合体アームにおけるエチレンプロトンと重合体中心におけるポルフィリンのピロル環プロトンとの積分比を計算した処、各アームの平均重合度は290であった。従って、1H−NMRによる数平均分子量は99900と推定された。1H−NMRによる数平均分子量値がGPCでの数平均分子量値を大きく上回ることは、星型高分子における一般特徴であることに一致する。 この前駆体ポリマーを用い、上記合成例1と同様の方法により、4本のポリエチレンイミンがポルフィリン中心に結合された星状ポリエチレンイミン(P−PEI)を得た。1H−NMR(TMS外部標準、重水中)測定の結果、加水分解前の前駆体ポリマーの側鎖メチルに由来した1.98ppmのピークは完全に消失した。(合成例3)<ベンゼン環中心の星状ポリエチレンイミン(B−PEI)合成> Jin,J.Mater.Chem.,13,672−675(2003)に示された方法に従い、ベンゼン環中心に6本のポリメチルオキサゾリンのアームが結合した星状ポリメチルオキサゾリンを次の通り行った。 磁気攪拌子がセットされたスリ口試験管中に、重合開始剤としてヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン0.021g(0.033mmol)を入れ、試験管の口に三方コックをつけた後、真空状態にしてから窒素置換を行った。窒素気流下で三方コックの導入口からシリンジを用いて2−メチル−2−オキサゾリン2.0ml(24mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド4.0mlを順次加えた。試験管をオイルバス上で60℃まで加熱し、30分間保ったところ、混合液は透明になった。透明混合液をさらに100℃まで加熱し、その温度で20時間攪拌した。この混合液の1H−NMR測定から、モノマーの転化率は98%であった。この転化率によりポリマーの平均重合度を見積もったところ、各アームの平均重合度は115であった。また、GPCによる分子量測定では、ポリマーの質量平均分子量は22700であり、分子量分布は1.6であった。 この前駆体ポリマーを用い、上記合成例1と同様な方法により、6本のポリエチレンイミンがベンゼン環コアに結合した星状ポリエチレンイミンB−PEIを得た。1H−NMR(TMS外部標準、重水中)測定の結果、加水分解前の前駆体ポリマーの側鎖メチルに由来した1.98ppmのピークは完全に消失した。 得られた星状ポリメチルオキサゾリンを、上記合成例1と同様な方法により加水分解し、6本のポリエチレンイミンがベンゼン環コアに結合した星状ポリエチレンイミン(B−PEI)を得た。(合成例4)<ブッロク共重合体PEG−b−PEIの合成> 数平均分子量が4000のポリエチレングリコールの方末端にトシレートが結合したポリマーを重合開始剤(PEG−I)として用い、前駆体ブッロクポリマーであるポリエチレングリコールとポリオキサゾリンのブッロク共重合体を次の通り行った。 磁気攪拌子がセットされたスリ口試験管中に、重合開始剤としてPEG−Iを1.5g(0.033mmol)取り入れ、試験管の口に三方コックをつけた後、真空状態にしてから窒素置換を行った。窒素気流下で三方コックの導入口からシリンジを用いて2−メチル−2−オキサゾリン6.0ml(72mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド20.0mlを順次加えた。試験管をオイルバス上で100℃まで加熱し、その温度で24時間攪拌した。この混合液の1H−NMR測定から、モノマーの転化率は100%であることがわかった。 精製後のブッロクポリマーの収率は93%であった。また、1H−NMR測定において、ポリマー末端トシル基を基準とした各積分比を求めたが、PEGの重合度は45、ポリオキサゾリンの重合度は93であった。即ち、ブッロクポリマーの平均重合度は138であった。また、GPCによる分子量測定では、ポリマーの数平均分子量は12000であり、分子量分布は1.27であった。 この前駆体ブッロクポリマーを用い、上記合成例1と同様の方法により、PEGにポリエチレンイミンが結合したブッロク共重合体(PEG−b−PEI)を得た。1H−NMR(TMS外部標準、重水中)測定の結果、加水分解前の前駆体ポリマーの側鎖メチルに由来した1.98 ppm のピークは完全に消失した。(実施例1)<線状ポリエチレンイミンヒドロゲル> 合成例1で得られたL−PEI粉末を一定量秤量し、それを蒸留水中に分散させて表1に示した各種濃度のL−PEI分散液を作成した。これら分散液をオイルバスにて、90℃に加熱し、濃度が異なる完全透明な水溶液を得た。その水溶液を室温に放置し、自然に室温までに冷やし、不透明なL−PEIヒドロゲル(11)〜(16)を得た。得られたヒドロゲルは、剪断力を加えると変形を生じるが、概ねの形状を保持できるアイスクリーム状態のヒドロゲルであった。 各濃度状態のヒドロゲルを再び加熱することで、それらのゲルが流動性を示す時の温度をゲル化温度とした。該ゲル化温度を表1に示した。 得られたヒドロゲル(14)につき、X線回折測定を行った結果、20.7°、27.6°、28.4°に散乱強度のピークが表れることが確認された。また、熱量分析装置による吸熱状態変化の測定結果により、64.7℃で吸熱のピークが確認された。これら測定結果より、ヒドロゲル中におけるL−PEIの結晶の存在が確認された。(実施例2)<ポルフィリン含有星状ポリエチレンイミンを用いるヒドロゲル> 実施例1において、L−PEI粉末を用いる代わりに合成例2で合成したP−PEIを使用し、実施例1と同様な方法により、表2に示した各濃度のP−PEIヒドロゲル(21)〜(26)を得た。得られたヒドロゲルは、剪断力を加えると変形を生じるが、概ねの形状を保持できるアイスクリーム状態のヒドロゲルであった。得られたヒドロゲルのゲル化温度を表2に示した。 得られたヒドロゲル(24)につき、X線回折測定を行った結果、20.4°、27.3°、28.1°に散乱強度のピークが表れることが確認された。また、熱量分析装置による吸熱状態変化の測定結果により、64.1℃で吸熱のピークが確認された。これら測定結果より、ヒドロゲル中におけるP−PEIの結晶の存在が確認された。(実施例3)<ベンゼン環中心のポリエチレンイミンを用いるヒドロゲル> 実施例3において、L−PEI粉末を用いる代わりに合成例3で合成したB−PEIを使用し、実施例1と同様な方法により、表3に示した各濃度のB−PEIヒドロゲル(31)〜(36)を得た。得られたヒドロゲルは、剪断力を加えると変形を生じるが、概ねの形状を保持できるアイスクリーム状態のヒドロゲルであった。得られたヒドロゲルのゲル化温度を表3に示した。 得られたヒドロゲル(34)につき、X線回折測定を行った結果、20.3°、27.3°、28.2°に散乱強度のピークが表れることが確認された。また、熱量分析装置による吸熱状態変化の測定結果により、55.3°に吸熱のピークが確認された。これら測定結果より、ヒドロゲル中におけるB−PEIの結晶の存在が確認された。(実施例4)<ブロックポリマーを用いるヒドロゲル> 実施例1において、L−PEI粉末を用いる代わりに合成例4で合成したPEG−b−PEIを使用し、実施例1と同様な方法により、表4に示した各濃度のPEG−b−PEIヒドロゲル(41)〜(43)を得た。得られたヒドロゲルのゲル化温度を表4に示した。(実施例5)<有機溶媒が含まれるポリエチレンイミンヒドロゲル> 実施例1における蒸留水の代わりに、蒸留水に表5に示した有機溶剤が含まれた、水と有機溶媒の混合溶液を使用した以外は実施例1における(14)と同様にして、有機溶媒含有ヒドロゲル(51)〜(55)を得た。得られたヒドロゲルは、剪断力を加えると変形を生じるが、概ねの形状を保持できるアイスクリーム状態のヒドロゲルであった。(実施例6)<水溶性ポリマーが含まれるポリエチレンイミンヒドロゲル> 実施例1における蒸留水の代わりに、蒸留水中に表6に示した水溶性ポリマーを含む水溶性ポリマー溶液を使用した以外は実施例1における(14)と同様にして、水溶性ポリマー含有ヒドロゲル(61)〜(63)を得た。得られたヒドロゲルは、剪断力を加えると変形を生じるが、概ねの形状を保持できるアイスクリーム状態のヒドロゲルであった。(実施例7)<ジアルデヒドで架橋化されたポリエチレンイミンヒドロゲル> 上記実施例1で得られたヒドロゲル(13)(水:980mg、L−PEI:20mg)をディスク状に調製し、それを10mLのグルタリルアルデヒドの水溶液(5%)中に加え、室温下24時間放置した。化学架橋化前のヒドロゲルはアイスクリーム状態であり、剪断力により任意に形を変えたが、化学架橋化処理により得られたヒドロゲルは一つの固まりとなり、剪断力による形の変化は起こらなかった。 上記結果より、本発明のヒドロゲルは、いずれも少ないポリマー量で水を保持することが可能であり、概ねの形状を保持できるモルフォロジーを有するものであった。また、該ヒドロゲルを架橋させた架橋ヒドロゲルは、より強固な化学的な結合により三次元網目構造により、強固にその形状を保持できることが示された。二級アミンのエチレンイミン単位の繰り返し単位数が10以上である直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する、形状が線状、星状または櫛状のポリマーと、水又は水と親水性有機溶媒の混合溶媒とを混合し、該混合液を加熱して前記二級アミンのエチレンイミン単位の繰り返し単位数が10以上である直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する、形状が線状、星状または櫛状のポリマーを溶解させた後、該溶液の温度を低下させてポリマー結晶を形成させることにより、該糸状結晶からなる三次元網目構造中に水又は水と親水性有機溶媒の混合溶媒を包含させることを特徴とするヒドロゲルの製造方法。前記ポリマーが、二級アミンのエチレンイミン単位の繰り返し単位数が20〜10000の範囲である直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する、形状が線状、星状または櫛状のポリマーである、請求項1記載のヒドロゲルの製造方法。前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する、形状が線状、星状または櫛状のポリマーが、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと、他のポリマーブロックとのブロックコポリマーからなるものである請求項1又は2記載のヒドロゲルの製造方法。前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する、形状が線状、星状または櫛状のポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格の割合が40モル%以上である請求項3に記載のヒドロゲルの製造方法。請求項1に記載の工程の後に、架橋剤により前記結晶体同士を架橋させる工程を有することを特徴とする架橋ヒドロゲルの製造方法。請求項1〜4の何れかの製造方法で得られることを特徴とするヒドロゲル。前記ヒドロゲル中のポリマー結晶の含有量が0.01〜20質量%の範囲にある請求項6に記載のヒドロゲル。前記ヒドロゲル中のポリマー結晶の融点が45〜90℃の範囲にある請求項6〜7のいずれかに記載のヒドロゲル。前記ヒドロゲル中に非イオン性の水溶性ポリマーを含有する請求項6〜8のいずれかに記載のヒドロゲル。前記三次元網目構造が、前記ポリマー結晶体同士の物理的な結合による三次元網目構造である請求項6〜9のいずれかに記載のヒドロゲル。請求項5記載の製造方法で得られる、ヒドロゲル中の三次元網目構造を形成するポリマー結晶間が、二つ以上の官能基を有する化合物による化学的な結合により架橋されたことを特徴とする架橋ヒドロゲル。前記二官能基以上の化合物が、アルデヒド類化合物、エポキシ類化合物、酸クロリドあるいはエステル類化合物から選ばれる一種である請求項11に記載の架橋ヒドロゲル。