タイトル: | 再公表特許(A1)_脳血管障害慢性期の重度失語症に対する治療剤又は治療方法 |
出願番号: | 2004019373 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A61K 31/4015,C07D 207/263,A61P 25/28 |
大山 秀樹 JP WO2005061454 20050707 JP2004019373 20041224 脳血管障害慢性期の重度失語症に対する治療剤又は治療方法 大山 秀樹 503472049 小栗 昌平 100105647 本多 弘徳 100105474 市川 利光 100108589 高松 猛 100115107 濱田 百合子 100090343 大山 秀樹 JP 2003427424 20031224 A61K 31/4015 20060101AFI20070615BHJP C07D 207/263 20060101ALI20070615BHJP A61P 25/28 20060101ALI20070615BHJP JPA61K31/4015C07D207/263A61P25/28 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20070712 2005516525 16 4C069 4C086 4C069AB12 4C086AA01 4C086AA02 4C086BC07 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA15 本発明は、2−オキソ−1−ピロリジンアセトアミド(一般名:ピラセタム)を有効成分とする脳血管障害慢性期の重度失語症に対する治療剤又は治療方法に関する。 失語症とは、脳損傷の結果生じる後天的言語機能の障害である(非特許文献1)。すなわち成長と共に一旦形成された言語機能(口頭言語と書字言語)が、何らかの原因で大脳半球の一定の領域(言語野)に形成された病巣による大脳の損傷により障害された状態をいう。失語症の原因となる疾患としては脳腫瘍、頭部外傷、脳血管障害などがある。これらの疾病による大脳損傷が軽度かつ一過性であれば失語症も軽度であるが、病巣が大きいか言語野の中心にかかっている場合は重症な失語症を残し、病巣が広いほど重症化し回復も不良である(非特許文献2)。 失語症の回復は通常発症後3ヶ月までが著明で、その後緩やかな改善が続き、発症1年後にプラトーに達し、症状は固定する(非特許文献2)。しかし、全失語のような重度失語症では、機能的言語の回復は望めない(非特許文献3)。 失語症に対する治療は言語治療(言語リハビリテーション)のみであり、失語症患者の症状に応じて幾種類かの方法で実施されている。薬物療法については比較的古くから鎮静剤(Sodium amytal,Meprobamate)、血管拡張剤(Priscol)等が試みられているが、治療効果の再現性がなく、現在は全く使用されていない。また、最近では高圧酸素療法が試みられたが全く効果は認められなかった(非特許文献3)。これらのことから、わが国においては現在のところ薬物療法としての治療法はなく、失語症治療薬として承認された薬剤はない。 失語症に対する唯一の治療法である言語リハビリテーションにおいても適応には限界があり、重症失語症、特に全失語の患者や既に一定期間系統的な言語リハビリテーションを受けて効果がプラトーに達している患者は治療の対象から除外されている(非特許文献3)。このように治療対象から除外された患者には適切な治療方法が皆無の状態であることから、本疾患の治療及び介護が大きな社会問題としてとりあげられている。このような状況下で、本疾患に対し有効な薬剤を見出すべく様々な薬剤が検討されてきたが、臨床上有用と判断されるものは見出されていない。 一方、式(I)の化合物は、一般名:ピラセタム(販売名:ミオカーム)と称し、動揺病、運動過多、緊張亢進、てんかん等の疾患に対し有効性を示すことが知られている(特許文献1および2)。また、欧州においてピラセタムは下記適応症を有する。成人:・記憶喪失、注意障害、無気力を特徴とし、投与により改善する精神器質性症候群に対する対症療法。・皮質性ミオクローヌス治療、単剤又は併用・眩暈とそれに関連する平衡感覚障害の治療、ただし血管運動性又は心理的原因による眩暈を除く。・鎌状赤血球血管閉塞クリーゼの予防と軽快。小児:・言語治療など適正な措置との併用での失読症治療。・鎌状赤血球血管閉塞クリーゼの予防と軽快。しかし、該疾患は上記の如き失語症の疾患と何ら関連性を有するものではない。また、欧米では、ピラセタムは脳血管障害後の失語症に対し急性期に言語療法と併用することにより治療効果が認められている。非特許文献4においては、急性の虚血患者についてピラセタムを12時間以内に12g静脈投与した後、12g/日で4週間、さらに4.8g/日で8週間経口投与した患者の言語障害改善について調査している。しかし、本発明のような失語症を発症して3年以上経ち、各種治療を施しても回復が見込めなかった脳血管障害慢性期の重度失語症に対する臨床上の治療効果は知られていない。 臨床失語症学,医学書院,2001,p2臨床失語症学ハンドブック、医学書院,2000,p78,p74失語症の言語治療,医学書院,2000,p18,p48,p80CNS Drugs,1998,9,Suppl.1,41−49特公昭42−19093号米国特許3,459,738号 従って、本発明は、脳血管障害後遺症としての重度失語症の治療剤又は治療方法を提供することを目的とするものである。 本発明者は、脳血管障害慢性期の重度失語症に対し十分な有効性を示す薬剤を見出すべく精鋭検討した結果、従来では全く考えられていなかった化合物(I)が脳血管障害慢性期の重度失語症の優れた治療効果が得られることを見出し、本発明を完成した。 即ち、本発明は、下記式(I)で表される2−オキソ−1−ピロリジンアセトアミド(一般名:ピラセタム)を有効成分とする脳血管障害慢性期の重度失語症に対する治療剤に関するものである。 更に、ピラセタムを有効成分とする薬剤を脳血管障害慢性期の重度失語症を有する患者に有効量を投与することによる脳血管障害慢性期の重度失語症を治療する方法に関するものである。 また、脳血管障害慢性期の重度失語症として診断され、3年以上の言語リハビリテーション期間を経過しても症状の改善が見込めない患者を対象に、ピラセタムを有効成分とする薬剤を9〜40g/日で投与し、2ヶ月以上の長期投与を行うことによる失語症の治療方法に関するものである。 本発明以前の脳血管障害慢性期の失語症に対する治療は言語療法のみであり、患者本人、またそれを介護する家族、さらに言語療法士の苦しみといらだちは言葉で尽くせないものがあった。このような画期的な化合物の存在すら世の中では信じられていなかった。ピラセタムはこの状況を劇的に改善し本人やその家族に希望をもたらし、しかも安全で副作用がないものである。従って、式(I)で示される化合物は脳血管障害慢性期の重度失語症に対する治療剤として優れたものである。 [図1]図1は、実施例1の患者の治療開始前安静時覚醒状態における側頭平面の核磁気共鳴(MRI)で測定した断層図である。[図2]図2は、実施例3の患者の治療開始前安静時覚醒状態における側頭平面のMRIで測定した断層図である。[図3]図3は、実施例4の患者の言語障害発症時安静時覚醒状態における側頭平面のMRIで測定した断層図である。[図4]図4は、実施例4の患者の治療開始前安静時覚醒状態における側頭平面のMRIで測定した断層図である。 以下に本発明を詳細に説明する。 式(I)の化合物は、例えば、特公昭42−19093号(米国特許3,459,738号)公報に記載された方法で製造することができる。また、式(I)の化合物を有効成分として含有するミオカーム内服液は、大鵬薬品工業(株)等から販売されている。 中でも、重度失語症として診断され、3年以上の言語リハビリテーション期間を経過しても症状の改善が見込めない患者については、式(I)で示される化合物を9〜40g/日で投与し、2ヶ月以上の長期投与を行うことにより好ましい失語症の治療効果を期待することができる。投与量については、9〜24g/日で投与することが好ましく、12〜18g/日で投与することがより好ましい。投与期間としては、3カ月以上投与することが好ましく、6ヶ月以上投与することがより好ましい。投与は連続して行うことが好ましいが、患者の症状・健康状態により効果を低下させない範囲で途中数日抜けても良い。また、患者の症状・健康状態により、上記投与量の範囲において、適宜増減することができる。また、例えば、腎障害患者又は腎機能が低下している患者に関して、腎クレアチニン・クリアランス値が20〜40mL/分の患者は、初回投与量を3g/日程度から開始し、その後患者の状態を診ながら投与量を本発明投与量に漸増することも可能である。 本発明において「脳血管障害」とは脳の血管の器質的もしくは機能的異常により神経症状をもたらす病態の総称を示す(内科診断検査アクセス,日本医事新報社,1989)。脳血管障害は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作(TIA)に大別される。脳梗塞は虚血による脳組織の壊死(軟化)で、脳動脈の粥状硬化による脳血栓症と頭蓋外からの塞栓子による脳塞栓症とがある。出血には脳実質内への脳出血とくも膜下腔へのくも膜下出血がある。神経症状が発症後24時間以内に消失するものを一過性脳虚血発作と呼ぶが、いずれの病態も本発明に含まれる。また、「脳血管障害慢性期」とは、上述の脳血管障害発症後、意識障害などの神経症状が改善し、血圧などの全身状態が安定した時期のことを言う。脳血管障害慢性期の診断は、例えば問診などによる神経学的診察や血圧測定等の理学的検査により診断される。 本発明において、重度失語症とは、Goodglassらの重症度分類で重症とされる症例(The assessment of aphasia and related disorders,2nd ed.Philadelphia,Lea & Febiger,1983)のことを言う。また、失語症の古典的分類基本8タイプ(失語症言語治療の基礎,診断と治療社,2003,p37−52)にあてはめた場合は、全失語の症例、またはBroca失語あるいはWernicke失語に分類される症例で重度のものが該当する。重度失語症の診断は、例えば標準失語症検査、CADL検査(実用コミュニケーション能力検査)やWAB失語症検査、失語症スクリーニングのための簡易テスト(bedside aphasia examination 本村,1992)等により診断される。 式(I)で示される化合物の投与方法は経口、非経口投与のいずれでもよい。 式(I)で示される化合物の投与剤型としては錠剤、カプセル剤、散在、顆粒剤、注射剤等を上げることができる。これらの剤型は、通常の賦形剤、崩壊剤、安定化剤、滑沢剤および結合剤等の添加物と共に公知の製剤技術によって製造することができる。経口用固形製剤を調製する場合は、有効成分に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。経口液状製剤を調製する場合には、有効成分に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により、内服液剤、シロップ剤等を製造することができる。注射剤を調製する場合には、有効成分にpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により、皮下、筋肉内、静脈内用注射剤を製造することができる。直腸坐剤を調製する場合には、有効成分に賦形剤、さらに必要に応じて界面活性剤等を加えた後、常法により坐剤を製造することができる。軟膏剤、例えばペースト、クリーム及びゲルの形態に調製する際には、通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて配合され、常法により混合、製剤化される。基剤として例えば白色ワセリン、パラフィン、グリセリン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト等を使用できる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が使用できる。貼付剤を製造する場合には、通常の支持体に上記軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布すればよい。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルムあるいは発泡体シート等が適当である。 式(I)で示される化合物の投与量は、患者の症状、年齢、体重、症状の程度に応じて適宜増減してもよい。経口投与の場合、一般的に成人一人一日当たり9〜40gの範囲の投与量でよく、好ましくは9〜24g/日であり、より好ましくは12〜18g/日の範囲であり、これを1日1回又は数回に分けて投与する。 また、非経口投与の場合の投与量は、成人一人一日当たり9〜40gの範囲の投与量でよく、好ましくは9〜24g/日であり、より好ましくは12〜18g/日の量を静脈内注入または点滴静脈内注入するのが適当である。 本発明の失語症治療薬は通常知られた方法によって製剤化が可能であるが、例として、本発明の実験で使用された化合物を用いた処方例を次に示す。 本発明の失語症治療薬は他の薬剤と組み合わせて用いることによって、各種疾病の予防および治療に相加的効果または相乗的効果が期待できる。このような薬剤としては、例えば脳循環代謝改善剤(例えば、イブラジスト(販売名:ケタス)、酒石酸イフェンプロジル(販売名:セロクラール)、ニセルゴリン(販売名:サアミオン))等を挙げることができる。 なお、式(I)で示される化合物について、急性毒性を検討したところ、安全性の高い化合物であることが確認されている。さらに外国での治療報告では小脳変性症の歩行失調に対して60g/日で投与を行い、安全性に問題はなかったとの報告がある(Movement Disorder,2003,18,457−459ページ参照)。 [製剤例] 次に製剤処方例を下記に示す。製剤例1 錠剤ピラセタム 1200mgトウモロコシデンプン 50mg微結晶セルロース 50mgハイドロキシプロピルセルロース 15mg乳糖 47mgタルク 2mgステアリン酸マグネシウム 2mgエチルセルロース 30mg不飽和グリセリド 2mg二酸化チタン 2mg 上記配合割合で、常法に従い、1錠当たり1400mgの錠剤を調製した。 製剤例2 顆粒剤ピラセタム 1600mg乳糖 540mgトウモロコシデンプン 100mgハイドロキシプロピルセルロース 50mgタルク 10mg 上記配合割合で、常法に従い、1包当たり2300mgの顆粒剤を調製した。 製剤例3 カプセル剤ピラセタム 400mg乳糖 30mgトウモロコシデンプン 50mg微結晶セルロース 10mgステアリン酸マグネシウム 3mg 上記配合割合で、常法に従い、1カプセル当たり493mgのカプセル剤を調製した。 製剤例4 注射剤ピラセタム 3000mg塩化ナトリウム 3.5mg注射用蒸留水適量(1アンプル当たり15ml) 上記配合割合で、常法に従い、注射剤を調製した。 製剤例5 内服液剤ピラセタム 1200mgパラヒドロキシ安息香酸エチル 5mgパラヒドロキシ安息香酸ブチル 5mg香料適量着色料適量精製水適量 上記配合割合で、常法に従い、シロップ剤を調製した。 以下に実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定するものではない。 [試験例1]脳血管障害慢性期の失語症に対する治療効果 脳血管障害慢性期の患者(発症より3年以上を経過し現在言語療法は行っていない)で、ほとんど麻痺はなく食事や排泄などの日常生活は可能であったが主な症状が失語症であり、運動性失語症が前景である患者4名を対象とした。ほとんどの症例が抗痙攣剤と脳循環代謝改善剤を服用していた既往歴をもつが、失語症については全く症状の改善を認めず無効であった。患者またはその家族から同意を得た後、ミオカーム内服液を27〜36ml(ピラセタムとして9〜12g)/日より投与開始し、漸増減し約2〜4週で45ml(ピラセタムとして15g)/日を維持量とし、その後更に4週以上投与した(ただし患者の腎機能が低下している場合は、腎クレアチニン・クリアランス値が20〜40ml/分の場合はピラセタムの初回投与量を1/4に、40〜60ml/分の場合はピラセタムの初回投与量を1/2に調整して投与した)。 失語症の臨床症状は、至適投与量決定後4週ごとを観察日として失語症の程度を患者との会話、家族からの聞き取りで下記の5段階で評価した(Goodglassらの重症度分類、臨床失語症学ハンドブック、医学書院,2000,p82参照)。1.自発言語なし2.意味不明だが声を出すようになった3.片言でもなんとか聞き取れる単語がある4.ゆっくりだが話せるようになった5.日常のコミュニケーションにそれほど不自由がなくなった また、全般改善度は投与開始日と比較して12週後の失語症の改善度を下記の6段階で評価した。1.著名改善(3段階以上の改善)2.中等度改善(2段階以上の改善)3.軽度改善(1段階以上の改善)4.不変5.悪化6.判定不能 その他、投与開始前後で血液生化学検査や聞き取り調査を行い、副作用の発現について検討した。 [表1] 上表から明らかな如く、下記の治療効果が認められた。(1)全実施例4例中、中等度改善以上が75%及び軽度改善以上が100%という高い治療効果が認められた。(2)また臨床検査成績からも全症例で安全性に問題はなかった。 [実施例1] 83歳男性。約4年前、言語障害で発症。開眼し明らかな麻痺は存在せず従命動作も認められたが、発語のみが混乱し理解不能であった。MRI(磁気共鳴画像)にて左Broca領域に不規則な高信号域を認め不整脈があり脳塞栓として保存的に治療した。言語障害のみを残し退院した。他院で経過観察中であったが、約2年後、言語障害の悪化と記憶障害が出現、左後側頭葉に新たな脳梗塞の再発を認め入院した。このときは明らかな麻痺は無く従命動作もあったが、会話は混乱しかろうじて意味が想像できる程度であった。ADL(日常生活動作)は自立しているが、発語は無く問いかけに対してうなずくのみであった。 ミオカーム投与開始前のMRI画像では、左前頭葉、側頭葉、後頭葉の広汎な脳梗塞を認めた(図1)。 発症後約3年4ヶ月目よりミオカーム内服液(販売元:大鵬薬品工業)を投与した。腎クレアチニン・クリアランス(Ccr)が30mL/分であったため、投与量を9ml(ピラセタムとして3g)/日で開始し、2週間目には「大分良いです」と発語が聴かれるようになった。投与後約3ヶ月目には「全く日常会話に不自由しなくなった」と自ら伝えることが出来るようになった。初回投与時から1年後に投与量を30ml(ピラセタムとして10g)/日に増量し維持量とし、投与4カ月目の失語症検査において、CADL検査(実用コミュニケーション能力検査)では4を示し、WAB失語症検査における失語指数(AQ)は62.7であり、著明な改善が見られた。 [実施例2]68歳女性。約9年前、重症のくも膜下出血にて発症。その後、失語症のみを残し、リハビリ目的で転院した。約5年後、動きが鈍くなったということで再受診した。CT上、水頭症の進行はないが左前頭側頭葉の脳血管攣縮による脳梗塞を認めた。麻痺はなくADLは自立していたが発語は簡単な単語のみであった。発症後約7年9ヶ月目よりミオカーム内服液を36ml(ピラセタムとして12g)/日で投与した。投与4ヶ月目には挨拶の言葉を発するようになった。投与1年1カ月目の失語症検査において、CADL検査では3を示し、WAB失語症検査におけるAQは45.1であり、著明な改善が見られた。 [実施例3] 69歳男性。約5年前、脳塞栓症(失語症)にて発症。明らかな麻痺は認めなかったが、言語障害は著明で「あ〜、う〜」の発語のみであった。MRIでは左前頭側頭葉の陳旧性の脳塞栓巣を認めた。 ミオカーム投与開始前のMRI画像では、左側頭葉、前頭葉、後頭葉の広汎な脳塞栓症の後の状態であり、脳は皮質、灰白質ともに融解し、神経細胞及び神経線維の脱落が明らかであった(図2)。 発症後4年7ヶ月目よりミオカーム内服液の投与を36ml(ピラセタムとして12g)/日で開始し、漸増し45ml(ピラセタムとして15g)/日で維持量とし、3ヶ月間投与した。投与2週目には名前も言えるほどに改善し、体の動きもよくなった。1ヵ月目には人の名前も言えるようになり、3ヶ月目には発言する語彙も豊富になった。 [実施例4] 59歳男性。約10年前、TIA(一過性脳虚血発作)にて発症。一度、入院保存的加療にてADLは自立し退院したが、2年前に脳梗塞を再発し、言語障害を呈した。この時も明らかな麻痺は無く、従命動作もあり言語障害も軽度で、保存的な治療にてADLは自立し退院した。 言語障害発症時のMRAでは左内頚動脈の高度狭窄を示した他、MRI画像では多発性の脳梗塞巣と左前頭、側頭、後頭の広汎で中程度の脳萎縮を認めた(図3)。 その後、言語障害が進行し、1年前からはほとんど発語しなくなった。 ミオカーム投与開始前のMRI画像では、左大脳半球の萎縮が高度に進行していた(図4)。 発症後9年8ヶ月目よりミオカーム内服液の投与を27ml(ピラセタムとして9g)/日から開始した。漸増し45ml(ピラセタムとして15g)/日を維持量とした。この頃より表情が明るくなり、車の乗り降りも自力で出来るようになったが、発語はまだであった。投与3ヶ月目には混乱した言語が出るようになり、簡単な「痛い」又は服薬の継続の可否に対する問いかけに「はい」等の単語も出るようになった。 本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。 本出願は、2003年12月24日出願の日本特許出願(特願2003−427424)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。 本発明は、脳血管障害後遺症としての重度失語症を治療する安全で副作用のない治療剤又は治療方法を提供する。 2−オキソ−1−ピロリジンアセトアミドを有効成分とする脳血管障害慢性期の重度失語症に対する治療剤。 2−オキソ−1−ピロリジンアセトアミドを有効成分とする薬剤を脳血管障害慢性期の重度失語症を有する患者に有効量を投与することによる脳血管障害慢性期の重度失語症を治療する方法。 脳血管障害慢性期の重度失語症として診断され、3年以上の言語リハビリテーション期間を経過しても症状の改善が見込めない患者を対象に、2−オキソ−1−ピロリジンアセトアミドを有効成分とする薬剤を9〜40g/日で2ヶ月以上の長期投与を行うことによる重度失語症の治療方法。 脳血管障害慢性期の重度失語症を治療する薬剤の製造のための2−オキソ−1−ピロリジンアセトアミドの使用。 2−オキソ−1−ピロリジンアセトアミドを有効成分とする脳血管障害慢性期の重度失語症に対する治療剤または治療方法に関する。