生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_注意欠陥多動性障害(ADHD)モデルマウス
出願番号:2004016395
年次:2007
IPC分類:A01K 67/027,G01N 33/50,G01N 33/15


特許情報キャッシュ

和田 由美子 城石 俊彦 若菜 茂晴 JP WO2005043992 20050519 JP2004016395 20041105 注意欠陥多動性障害(ADHD)モデルマウス 独立行政法人理化学研究所 503359821 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 深見 伸子 100120905 和田 由美子 城石 俊彦 若菜 茂晴 JP 2003376957 20031106 A01K 67/027 20060101AFI20070413BHJP G01N 33/50 20060101ALI20070413BHJP G01N 33/15 20060101ALI20070413BHJP JPA01K67/027G01N33/50 ZG01N33/15 Z AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LU,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20070517 2005515305 14 2G045 2G045AA29 2G045AA35 2G045DA13 本発明は、行動障害の一種である注意欠陥多動性障害(ADHD)のモデルマウス及びその使用に関する。 注意欠陥多動性障害 (Attention-deficit hyperactivity disorder: 以下,「ADHD」という)とは、小児の2〜7%に見られ、注意障害、多動性、衝動性を特徴とする行動障害である。その病因は未だ明らかではないが、胎性期や出産時の異常のほか、遺伝要因の関与が示唆されている。 既存のADHD遺伝性モデル動物としては、選択交配によって確立されたラット2系統(SHRとNHE)、ジーンターゲティングにより作成されたマウス1系統(DAT-KO)、中性子照射 (neutron irradiation)による染色体欠損でつくられたマウス1系統 (Coloboma mutant mouse)、脳梁離脱(acallosal)の表現型を示す近交系マウス1系統 (I/LnJ)の計5系統が知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、各モデルはそれぞれ次のような問題点を有している。 まず、選択交配によって作成されたラット2系統については、利用可能な遺伝マーカーがラットで少ないこともあり、これらの系統を用いてADHD原因遺伝子候補を探索することは非常に困難である。ドーパミントランスポーター遺伝子のノックアウトマウス(DAT-KO)は、ADHD類似の多動を示すことが知られており、ヒトを被検体とした研究でも、DATの多型とADHDとの関連性が示唆されている。しかし、同時にDATとADHDの関連性を否定する研究も多く存在することから、DAT-KOだけではモデル動物として十分といえない。Coloboma mutant mouseは、中性子照射によってつくられたミュータントマウスで、2番染色体のdistal側に1-2Mb程度の染色体欠損がある。このマウスはADHD様の多動を示すことから、欠損している染色体部分に多動の原因遺伝子があると考えられる。しかし、特定遺伝子の変異ではなく、当該領域にある30個近いすべての遺伝子を欠くという点で、ヒトADHDのモデル動物としての妥当性に欠ける。また、脳梁離脱(acallosal)の表現型を示すマウス近交系I/LnJについては現段階では十分にキャラクタライゼーションが進んでいない状況であり、ADHDと脳梁離脱の間の関連性も未だ証明されていない。 以上のことから、現存するADHD遺伝性モデル動物には有用なものが少なく、ヒトADHDとの関連性の高い、新たな遺伝性モデル動物の開発が求められている。Davids, E., Zhang, K., Tarazi, F.I, & Baldessarini, R.J. 2003, Animal models of attention-deficit hyperactivity disorder. Brain Research Reviews, 42, 1-21 従って、本発明は、ヒトADHDとの関連性が高い遺伝性ADHDモデル動物を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、化学変異原ENU誘発突然変異によりADHD類似の行動異常を示す突然変異マウス(M100174)を見出し、そのマウスにおけるADHD様行動異常の原因遺伝子のマッピングを行ったところ、該原因遺伝子の染色体上の領域がヒトQTL解析によるADHD原因遺伝子領域(2q, 9q; Fisher, et al., 2002)とシンテニーが認められた。また、前記突然変異マウスを野生型の近交系DBA/2Jマウスに戻し交配することによって前記突然変異形質を遺伝したマウス又はその子孫をも樹立することにも成功した。本発明はかかる知見により完成されたものである。 即ち、本発明は以下の発明を包含する。(1) マウス第2染色体上のマイクロサテライトマーカーD2Mit465とD2Mit521の間に存在する単一の遺伝子の変異によって行動異常を呈することを特徴とする、注意欠陥多動性障害(ADHD)モデルマウス。(2) 行動異常が以下の(a)〜(d)を含むものである、(1)に記載のADHDモデルマウス。(a)新奇場面および居住場面の双方において高活動を示す。(b)正常個体では活動量を増強させる精神刺激薬の投与によって活動促進を示さない。(c)行動抑制の欠如を示す。(d)注意持続時間の短縮を示す。(3) 突然変異マウスM100174である、(1)又は(2)に記載のADHDモデルマウス。(4) 突然変異マウスM100174を野生型マウスに戻し交配することによって作出したマウス又はその子孫である、ADHDモデルマウス。(5) ヘテロ接合体である、(4)に記載のADHDモデルマウス。(6) (1)から(5)のいずれかに記載のADHDモデルマウスに被験物質を投与し、該被験物質が行動異常を抑制するかどうかを判定することを含む、ADHDの治療及び/又は予防のための医薬をスクリーニングする方法。(7) 前記ADHDモデルマウスの移動行動、受動的回避行動、探索行動からなる群から選ばれる1又は2以上の項目について判定する、(6)に記載の方法。 本発明によれば、単一遺伝子の変異により行動異常を呈するADHDモデルマウスが提供される。本発明のADHDモデルマウスは、ヒトADHDの原因遺伝子領域とシンテニーを有するので、ADHD原因遺伝子の同定、ADHD病因の究明と病態の解析、遺伝性研究、ADHD治療及び/又は予防のための医薬のスクリーニングなどに有用である。 以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2003年11月6日に出願された日本国特許出願2003-376957号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。図1は、G1個体のオープンフィールド移動距離分布における変異個体M100174の位置を示す。図2は、ENU投与をしていない正常個体産仔(N2)オープンフィールド移動距離分布、及びM100174の産仔(N2)のオープンフィールド移動距離分布を示す。図3は、ADHD原因遺伝子のマッピング結果を示す(ヒトのQTL解析による原因遺伝子領域とシンテニーが認められる)。図4は、M100174の子孫(N3)のオープンフィールド移動距離を示す。図5は、M100174の子孫(N3)のホームケージにおける活動量を示す。図6は、M100174の子孫(N4)のオープンフィールド活動量に及ぼすメチルフェニデート(MPH)の効果を示す。図7は、M100174の子孫(N3)の受動的回避学習の効果を示す。図8は、M100174の子孫(N3)における同種他個体に対する探索行動を示す。1.ADHDモデルマウスの表現型に関する特徴 本発明のADHDモデルマウスは、以下の行動異常を示すことを特徴とする。(a)新奇場面及び居住場面の双方において高活動を示す。(b)正常個体では活動量を増強させる精神刺激薬の投与によって活動促進を示さない。(c)行動抑制の欠如を示す。(d)注意持続時間の短縮を示す。 本発明のADHDモデルマウスの行動異常は、上記の少なくとも(a)及び(b)を呈するものであればよいが、(c)、(d)、又は他のADHD類似行動異常を呈することが好ましい。 本発明において、「高活動」とは、20分間の総移動距離が、10000〜20000cm、好ましくは12000〜20000cmであることをいう。また、精神刺激薬としては、メチルフェニデート、アンフェタミンなどが挙げられる。 ADHDの原因遺伝子のマッピングは、MITデータベース(http://www-genome.wi.mit.edu/SNP/mouse/)により公開されるマウスの多型遺伝マーカー(SNP、マイクロサテライト)を用いる連鎖解析により行うことができ、該解析によれば、ADHDの原因遺伝子は、マウスの第2染色体上のマイクロサテライトマーカーD2Mit465とD2Mit521の間に存在すると考えられる(図3)。2.ADHDモデルマウスの作出、維持 本発明のADHDモデルマウスは、例えば、以下の手法により作出、維持することができる。 まず、化学変異剤(ENU:N-エチル-ニトロソ尿素)により精子に点突然変異を誘発した初代(GO世代)の雄マウスと野生型の雌から生まれた第1世代マウス(G1)の中から「高活動」を示す表現型により突然変異マウスをスクリーニングする。 次に、この突然変異G1雄マウス(+/M)を野性型の雌(+/+)と交配すると、第2世代マウス(G2)において、野生型(+/+)、ヘテロ接合体(+/M)が1:1の割合で出現(行動異常:正常が1:1に分離)し、変異に遺伝性があることを確認できる。 さらに、G1雄マウス(+/M)とG2雌マウス(+/M)を交配すると、第3世代マウス(G3)において、いわゆるメンデルの分離の法則に従い、野生型(+/+)、ヘテロ接合体(+/M)、ホモ接合体(M/M)が、1:2:1の割合で出現(行動異常:正常が3:1に分離)することが予想される。 このような戻し交配を10世代以上繰り返すことにより、単一の遺伝子座だけに変異が認められるコンジェニック系統が樹立できる。 本発明において点突然変異を誘発した雄マウスは上記のような遺伝形式をとることから、本突然変異は単一の劣性遺伝子に支配されていることいえる。従って、作出される各世代のヘテロ接合体(+/M)マウスは、前記の行動異常を示し、かつ致死も認められないので、ADHDモデルマウスとして有用であるとともに、ホモ接合体(M/M)マウスの製造の親動物としても利用できる。 また、突然変異G1雄マウス(+/M)の精子を凍結保存しておくことにより、マウスが死滅又は老化などの理由により不妊となっている場合であっても、その凍結精子を用時融解し、未受精卵との体外受精、あるいは培養によって受精胚を作製して偽妊娠雌マウスの子宮に移植することによって産仔を得ることができ、本突然変異マウスを維持することが可能である。 本発明のADHDモデルマウスとなる突然変異マウスM100174の精子は、独立行政法人理化学研究所 ゲノム科学総合研究センター(横浜市戸塚区前田町214)、およびバイオリソースセンター(つくば市高野台3-1-1)施設において、凍結保存されており、特許後においては希望者に分譲する。3.ADHDモデルマウスの用途 本発明のADHDモデルマウスは、以下の態様で医薬品のスクリーニングに使用することができる。 すなわち、本発明によれば、ADHDモデルマウスに被験物質を投与し、該被験物質が、行動異常を抑制するかどうかを判定することを含む、ADHDの治療及び/又は予防のための医薬をスクリーニングする方法が提供される。 判定は、移動行動、受動的回避行動、探索行動からなる群から選ばれる1又は2以上の項目において行うことが好ましく、その試験は後記実施例に従って行えばよい。 例えば、被験物質を投与したADHDモデルマウスにおいて高活動の抑制が認められる場合の被験物質は、ADHD治療及び/又は予防のための医薬の候補とすることができる。ここで、高活動の抑制は、例えば、ADHDモデルマウスの移動距離が有意水準5%で統計的に有意に減少したと判断される場合にその被験物質の効果があったと評価することができる。 本発明のスクリーニング方法の対象となる被験物質の種類は特に限定されない。例えば、天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸など);脂質、ステロイド、グリコペプチド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど;あるいは天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);及び天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)、ペプチドライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)などが挙げられる。 被験物質の投与量や濃度は適宜設定することができるが、例えば、希釈系列を作成するなどして複数の投与量を設定してもよい。被験物質の投与期間も適宜設定することができるが、例えば、1日から数週間までの期間に渡って投与することができる。本発明のADHDモデルマウスに被験物質を投与する場合の投与経路は特に限定されず、被験物質の種類に応じて経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射等の投与形態を適宜使用することができる。 以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。(実施例1) ADHDモデルマウスの製造(1)ENUによる突然変異の誘発と高活動個体の検出 化学変異原ENU(N-エチル-N-ニトロソ尿素)を、1回あたり55-100 mg/kg、総量150-250mg/kgを1週間間隔でC57BL/6J雄マウス(G0)に2〜3回腹腔内投与し、突然変異を誘発した。G0の子孫(G1)を作成するためにG0とDBA/2J雌マウスとの交配を実施し、生産されたG1を用いて活動性に関するスクリーニングを行った。スクリーニングは、オープンフィールドテストにより実施し、40W×40D×35Hcmの塩化ビニール製の箱にG1マウスを投入し、移動距離を20分間計測した。スクリーニングの結果、G1の中からオープンフィールドで高活動を示すミュータント候補M100174を検出した(図1)。 次に、この高活動が遺伝性のものかどうかを確認するため、M100174をDBA/2Jの雌と交配して22匹の産仔を得、その仔のオープンフィールド活動性を調べたところ、22匹中12個体が高活動を示し(図2)、M100174の高活動が遺伝性のものであることが確認された。(2)原因遺伝子のマッピング 全染色体を約10cM間隔でカバーできるよう、MITデータベース(http://www-genome.wi.mit.edu/SNP/mouse/)を用いて、C57BL/6JとDBA/2Jの間に多型のあるSNPマーカー76個を選び出した。プライマーの塩基配列とPCRの条件設定に関する情報もMITデータベースから得た。アレル判定のためには、TaqMan MGBプローブ(Applied Biosystems, USA)を使用した。22匹のM100174産仔 (N2)の尾部よりゲノムDNAを抽出し、表現型データ(高活動)とSNPマーカーのアリルをもとに原因遺伝子のマッピングを行った(図3)。その結果、2番染色体上のSNPマーカー:M-11362-1とM-05667-1の間にM100174の高活動の原因遺伝子が存在することが明らかとなった。この領域内に存在するマイクロサテライトマーカーを用いて、アリルと表現型の関係をさらに調べた結果、D2Mit465とD2Mit521の間(物理的距離:3Mbp)に原因遺伝子が存在することが明らかとなった。(実施例2) ADHDとの行動類似性(1)高活動表現型の確認 ADHDとの行動類似性を確認するため、M100174のN2個体をDBA/2J雌と交配して得た産仔(N3)19匹を用い、オープンフィールド活動性の再確認とホームケージにおける活動量を調べた。N3個体の尾部DNAを用い、M100174の原因遺伝子があるD2Mit465とD2Mit521の間に存在するマイクロサテライトマーカーD2Mit81を調べた。このマーカーがC57BL/6J(M)由来かDBA/2J(+)由来かをもとにN3個体を+/+と+/Mに分類し、8週齢、9週齢、35週齢において、オープンフィールドにおける移動距離を調べた結果、いずれの週齢においてもC57BL/6J由来のD2Mit81マーカーを持つ個体(+/M)はDBA/2J由来のマーカーを持つ個体(+/+)よりも高活動であることが確認された(図4)。 また、赤外線センサーを用いてホームケージにおける活動量を7週齢、36週齢において4日間測定した結果、いずれの週齢においても57BL/6J由来のD2Mit81マーカーを持つ個体(+/M)はDBA/2J由来のマーカーを持つ個体(+/+)よりも高活動であることが明らかとなった(図5)。以上の結果から、M100174は新奇場面のみならず居住場面においても高活動を示すことが示された。(2)メチルフェニデートが活動量に及ぼす影響 正常個体にメチルフェニデートを投与すると活動量が上昇することが知られているが、ADHDの患者では逆に活動を沈静化する効果がある。M100174でも同様の効果が見られるかどうかを確認するために、M100174の子孫(N4) 26匹を用いて、メチルフェニデートがオープンフィールド活動量に及ぼす影響を検討した。検査時の週齢は15-16週齢であった。被験体はオープンフィールドテストを実施する30分前にメチルフェニデート0mg/kg(生理食塩水)又は30mg/kgを腹腔内投与し、その後20分間のオープンフィールド活動量を測定した。1週間後に、0mg/kgを投与した個体には30mg/kgを、30mg/kgを投与した個体には0mg/kg投与し、同様のテストを行った。その結果、+/+個体では、メチルフェニデート投与により活動性が増加するのに対し、+/M個体では活動性の増加が生じないことが明らかとなった(図6)。+/M個体が正常個体とは異なる薬物反応性を示したことから、+/M個体においてはADHD患者と類似した脳内変化が起こっている可能性が示唆される。 以上のデータは、M100174がADHDとの類似性を有しており、ADHDの遺伝性モデル動物として有用であることを示すものである。(3)行動抑制の欠如 ADHDの患者は、多動性の他に「行動の抑制が効きにくい」という特徴も有する。そこで、M100174とADHDとの類似性を示すため、M100174の子孫(N3) の受動的回避学習を調べた。受動的回避学習とは、特定の行動を「抑制する」ことによって、罰を回避する学習のことである。実験には明箱と暗箱2つから構成される装置を用いた、2つの箱の間には往来できる小さな出入り口があり、出入り口はギロチンドアにより開閉できるようになっている。まず、ギロチンドアを閉めた状態で被験体を明箱に入れ、20秒後にドアを開放し、暗箱に入るまでの時間を計測した。マウスは暗い場所を好むので、60秒以内にはほとんどの個体が暗箱に進入した。マウスが暗箱に完全に入ると、暗箱の床に0.3mAの電撃が流れ、マウスが明箱に逃げてきた時点でその日の試行を終了した(コンディショニング)。翌日、マウスを再び明箱に入れ、暗箱に入るまでの時間を計測した (リテンション)。観察時間は300秒とした。その結果、電撃を受ける前のコンディショニング時における暗箱進入時間に+/+と+/Mの差は見られないが、電撃を受けた後のリテンション時においては、+/Mでは+/+と比べて暗箱に進入するまでの時間が短いことがわかった(図7)。しかし、+/+と同様に+/Mの暗箱進入時間もコンディショニング時と比べてリテンション時に長くなっているので、+/M個体においても暗箱イコール電撃という関係性の学習は成立していると言える。このことから、+/M個体の暗箱進入時間の短縮は、学習の障害というよりは「暗箱への進入抑制の障害」を反映したものである可能性が高く、ADHDの「行動の抑制が効きにくい」という症状との類似性が示唆された。(4)注意持続時間の短縮 ADHDの中心的な症状である注意の障害を調べるために、M100174の子孫(N4)の探索行動に関するテストを行った。透明チューブに入れた同種他個体(C57BL/6J雄マウス)をオープンフィールドの中央部に置き、そのチューブをマウスが探索した時間を10分間計測した。+/Mの探索行動の総時間(Total duration)は+/+と比べて短く、また1回あたりの探索行動の持続時間(duration)も+/+より+/Mで短かった(図8)。このような探索行動時間の短縮、特に1回あたりの探索持続時間の短縮は、M100174の注意持続時間の短さを反映したものであると考えられる。注意の障害はADHDの中心的な症状であり、これはADHDのモデル動物として期待の持てる表現型である。 本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。 マウス第2染色体上のマイクロサテライトマーカーD2Mit465とD2Mit521の間に存在する単一の遺伝子の変異によって行動異常を呈することを特徴とする、注意欠陥多動性障害(ADHD)モデルマウス。 行動異常が以下の(a)〜(d)を含むものである、請求項1に記載のADHDモデルマウス。(a)新奇場面及び居住場面の双方において高活動を示す。(b)正常個体では活動量を増強させる精神刺激薬の投与によって活動促進を示さない。(c)行動抑制の欠如を示す。(d)注意持続時間の短縮を示す。 突然変異マウスM100174である、請求項1又は2記載のADHDモデルマウス。 突然変異マウスM100174を野生型マウスに戻し交配することによって作出したマウス又はその子孫である、ADHDモデルマウス。 ヘテロ接合体である、請求項4に記載のADHDモデルマウス。 請求項1から5のいずれかに記載のADHDモデルマウスに被験物質を投与し、該被験物質が行動異常を抑制するかどうかを判定することを含む、ADHDの治療及び/又は予防のための医薬をスクリーニングする方法。 判定をADHDモデルマウスの移動行動、受動的回避行動、探索行動からなる群から選ばれる1又は2以上の項目について行う、請求項6に記載の方法。 本発明は、ヒト注意欠陥多動性障害(ADHD)との関連性が高い遺伝性ADHDモデル動物を提供することを課題とする。 本発明によれば、マウス第2染色体上のマイクロサテライトマーカーD2Mit465とD2Mit521の間に存在する単一の遺伝子の変異によって行動異常を呈することを特徴とする、注意欠陥多動性障害(ADHD)モデルマウスが提供される。


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