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タイトル:特許公報(B2)_レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌、および大豆オリゴ糖高含有納豆
出願番号:2004016130
年次:2010
IPC分類:C12N 1/21,A23L 1/20,C12N 15/09,C12R 1/125


特許情報キャッシュ

竹村 浩 小川 伸 JP 4428556 特許公報(B2) 20091225 2004016130 20040123 レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌、および大豆オリゴ糖高含有納豆 株式会社ミツカングループ本社 398065531 松本 久紀 100097825 戸田 親男 100075775 竹村 浩 小川 伸 JP 2003404222 20031203 20100310 C12N 1/21 20060101AFI20100218BHJP A23L 1/20 20060101ALI20100218BHJP C12N 15/09 20060101ALN20100218BHJP C12R 1/125 20060101ALN20100218BHJP JPC12N1/21A23L1/20 109ZC12N15/00 AC12N1/21C12R1:125 C12N 1/00−1/38 A23L 1/00−1/48 C12N 15/00−15/90 PubMed JSTPlus(JDreamII) 特開昭60−133852(JP,A) 特開2003−235492(JP,A) 特開平03−195470(JP,A) 特開平09−131183(JP,A) 国際公開第97/040135(WO,A1) 国際公開第95/032279(WO,A1) Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,1998, Vol.62, No.5, pp.833-836 福岡女子大学家政学部紀要,1985年, 第16巻, pp,1-5 8 FERM BP-08538 FERM BP-08584 2005185270 20050714 17 20061121 伊達 利奈 本発明は、新規納豆菌及び該納豆菌を用いて製造された新規納豆に関し、さらに詳細には、レバンシュクラーゼ欠損性納豆菌、及び該納豆菌を用いて製造された大豆オリゴ糖高含有納豆に関する。 大豆オリゴ糖(スタキオース、ラフィノース)は、腸内のビフィズス菌を増殖させ、腸内菌そうの改善、腸内腐敗産物の抑制、便性改善などの優れた健康機能を有することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。 大豆オリゴ糖は大豆中に含まれ、大豆を食することによって上記の健康機能が発揮されることが期待されるが、一方、納豆は大豆から生産される健康食品でありながら、発酵過程において煮豆中に含まれる大豆オリゴ糖が納豆菌により消費されるため、ほとんど大豆オリゴ糖を含まないことが知られていた(例えば、非特許文献2参照)。 このような背景の中で、納豆の原料となる煮豆中に、納豆菌によって消費されないオリゴ糖類を添加して発酵させ、オリゴ糖含有量を高めた納豆を製造する方法も開発されていた(例えば、特許文献1参照)。 しかし、この方法では、本来大豆中に含有されている大豆オリゴ糖(スタキオース、ラフィノース)そのものの含量を高めることはできず、大豆オリゴ糖の有する上記の健康機能を高めるという点では充分に満足できるものではなかった。このように、本来大豆中に存在してはいるものの納豆菌によって消費される大豆オリゴ糖を高含有する納豆を、製品納豆に大豆オリゴ糖を強化する方法ではなく、発酵法によって直接製造するのに成功した例は未だ報告されていない。「健康・栄養食品研究、3巻、p.89〜91、2000年」「日本食品工業学会誌、29巻、p.105〜110ぺージ、1982年」特開2003−235492号公報 本発明は、大豆中に本来含有されている大豆オリゴ糖(スタキオース、ラフィノース)の含量を高めた納豆を製造する方法を提供し、大豆本来の健康機能を発揮させることを目的とした。 上記課題に鑑み、本発明者らは、各方面から検討を行い、納豆菌由来の各種酵素の研究の課程において、レバンシュクラーゼ(レバンシュークラーゼあるいはレバンスクラーゼともいわれるが、本明細書ではレバンシュクラーゼという)に着目した。 このように、レバンシュクラーゼは納豆菌がつくる酵素であり、大豆中の主要な炭素源であるショ糖の資化作用に必要な酵素の一つであることと言われており、該酵素を欠損させると納豆菌の生育が悪くなることが予測される。 さらに、レバンシュクラーゼは、納豆の糸引き成分の一つであるレバンの生合成にかかわっているので、該酵素活性を欠損させると納豆の品質、特に糸引きの悪化を引き起こす可能性があることも予想された。 したがって、納豆菌の生育において、レバンシュクラーゼは必須の酵素であって、理論上当然のことながら、これを欠損した納豆菌は生育が困難であるため、納豆の製造には使用することができない。しかしながら、本発明者らは、発想を転換して、このような技術常識に敢えて挑戦し、レバンシュクラーゼについて更に検討した。そして、煮豆に含まれる大豆オリゴ糖(ラフィノース、スタキオース等)は納豆菌のレバンシュクラーゼによって分解されている可能性に着目し、レバンシュクラーゼ活性を欠損させた納豆菌を開発し、該納豆菌を用いて納豆を製造すれば、大豆オリゴ糖が分解されず大豆オリゴ糖を高含有した新規納豆が製造できるのではないかという新規着想を得た。 そこでこの新規着想に基づき、鋭意研究努力の結果、レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌の創製、取得に成功し、それを用いて納豆を製造することにより、納豆中の大豆オリゴ糖含有量、納豆菌の生育、納豆品質などに及ぼす影響を確認した結果、悪影響は殆どないことが確認でき、上記技術常識とは全く逆に、大豆オリゴ糖含有納豆の創製にはじめて成功し、本発明を完成させることが出来たのである。 すなわち本発明は、大豆に本来含まれているオリゴ糖であって、発酵の課程において納豆菌によって消費されるオリゴ糖を高含有する新規納豆の製造に関するものであって、その実施態様としては、例えば次のものが包含される。 (1)レバンシュクラーゼ活性を欠損ないし低下せしめたことを特徴とする納豆菌。 (2)sacB遺伝子を破壊した納豆菌、ないしは、破壊したsacB遺伝子を導入したプラスミド(例えば、pSCEN1)で形質転換した納豆菌。 (3)Bacillus subtilis sacB22(バシラス サチリス sacB22)(FERM BP−08538)。 (4)Bacillus subtilis B−1(バシラス サチリス B−1)(FERM BP−08584)。 (5)上記(1)〜(4)の少なくとも1項に記載の納豆菌を使用すること、を特徴とする大豆オリゴ糖高含有納豆の製造方法。 (6)大豆オリゴ糖及び/又は大豆オリゴ糖含有物の存在下で行うこと、を特徴とする上記(5)に記載の方法。 (7)大豆オリゴ糖含有物が大豆煮汁及び/又はその処理物(濃縮物、ペースト化物、乾燥物、希釈物の少なくともひとつ)であること、を特徴とする上記(6)に記載の方法。 (8)上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の方法で製造してなる大豆オリゴ糖高含有納豆。 本発明により、大豆中に本来含有されている大豆オリゴ糖を高濃度で含有する納豆を提供できる。また、必要に応じて大豆オリゴ糖を添加した場合にも、ほとんど大豆オリゴ糖が消費されず、より高濃度に大豆オリゴ糖を含有した健康機能により優れた大豆オリゴ糖高含有納豆を提供できる。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明で育種改良に用いる元の納豆菌には特に制限はないが、通常納豆工業で使用されている発酵能力に優れた納豆菌や、自然界から分離取得された納豆菌、およびさらに改良を重ねて得られた優れた納豆菌などを用いるのが望ましい。 納豆菌は、枯草菌バシルス・サチリス(Bacillus subtilis)に分類されているが、粘質物(糸引物質)などの納豆としての特徴をつくり出すことができ、納豆発酵での主体をなす細菌であって、また生育にビオチンを要求するとされるなどの特性を有していることなどから、バシルス・ナットウ(Bacillus natto)として分類されたり、枯草菌の変種としてBacillus subtilis var. nattoあるいはBacillus subtilis(natto)などと枯草菌と区別して分類する場合もある。納豆菌としては、Bacillus natto IFO3009株、Bacillus subtilis IFO3335株、同IFO3336株、同IFO3936株、同IFO13169株などがあるほか、各種の納豆菌が広く使用できる。 具体的には、市販納豆から分離したO−2株や該株の形質転換効率向上性変異株であるr22株(例えば、特開2000−224982号公報参照)が挙げられ、また市販の納豆種菌である高橋菌(T3株、東京農業大学菌株保存室)や宮城野菌(宮城野納豆製作所)など各種の納豆菌が適宜使用可能である。 本発明では、まず、これら納豆菌のレバンシュクラーゼ遺伝子を欠損させ、該酵素活性を失活させた納豆菌を育種することにより、大豆オリゴ糖の消費能力を抑えた納豆菌を取得するのである。 育種法の一つとして相同組換えを利用した遺伝子改良法が採用可能であるが、本方法の利点は狙いを定めた遺伝子だけを特異的に欠損させることが可能であり、そのため納豆菌などの工業的に利用される微生物においては、他の優れた特性は壊さずに、欠点となっている性質に関与する遺伝子だけに変異を起こさせて改良することができることである。 さらに、スタールらが枯草菌バシルス・サチリス(Baci1llus subtilis)において開発した相同組換え能を利用した遺伝子失活法(例えば、「ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)、158巻、p.411〜418、1984年」参照)を納豆菌用に改変した方法も利用可能である。この方法は、最終的には、育種のための遺伝子破壊などの目的で納豆菌に導入した異種遺伝子を完全に除去することができる方法であるため、育種された菌は遺伝子組換え菌とはならないなどの長所を有している。 また、このような遺伝子組換え法を納豆菌で利用するには、納豆菌への遺伝子導入のための形質転換系が必要であるが、納豆菌を遺伝子導入活性が高くなる状態にするいわゆるコンピテンス法(例えば、「ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journa1 of Molecu1ar Biology)、56巻、p.209〜221、1971年」参照)が利用可能である。 また、納豆菌の遺伝子組換え系の一つとしては、ファージベクターを利用した形質導入法が既に開発されており(例えば、「アプライド・アンド・エンバイロンメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)、63巻、p.4083−4089、1997年」参照)、本発明ではこの方法も利用可能である。 本発明においては、上記の育種方法を用いて、納豆菌のレバンシュクラーゼの生合成に関与する遺伝子を欠損させることによって目的のレバンシシュクラーゼ活性欠損性納豆菌を作製するのであるが、納豆菌のレバンシュクラーゼ生合成に関与する遺伝子の詳細な情報は知られていない。 そこで本発明者らは、各方面から鋭意検討した結果、可能性のある遺伝子としては、近年完成した枯草菌バシルス・サチリス(Bacillus subtilis)の総ゲノム情報(例えば、「ネイチャー(Nature)、390巻、p.249〜256、1997年」参照)から推定したsacB遺伝子が有力なものの一つとして選択した。 なお、上記のような遺伝子組換え技術以外によっても、すなわち、既に目的遺伝子が欠損している納豆菌を自然界から選抜するいわゆるスクリーニング法や、薬剤変異法などによってこれらの遺伝子を変異欠損させるなどの突然変異法など、従来から実施されているような他の方法によっても育種が可能である。 突然変異処理としては、上記した薬剤処理による変異法のほか、物理的処理による変異法等の常法が適宜使用される。薬剤処理としては、例えば、エチルメタンスルホネート、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、N−メチル−N−ニトログアニジン、エチジウムブロマイド、ナイトロジェンマスタード、ジエポキシブタン、コルヒチン、パーオキサイド、、プリン誘導体、亜硝酸、アクリジン系色素等による処理が挙げられ、物理的処理としては、γ線、紫外線、温度差処理等が例示される。 レバンシュクラーゼ欠損性納豆菌の分離方法としては、枯草菌バシルス・サチリス(Bacillus subtilis)のレバンシュクラーゼ欠損株はショ糖を炭素源に含むプレート上で生育させたときのコロニー形態が親株と異なるため(例えば、特表昭60−550598号公報参照)、該コロニー形態を指標として蛮異株を選抜する方法などによっても分離可能である。 このようにして開発されたレバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌の納豆生産への利用は、従来から実施されている方法を採用すれば良く、何ら制限がない。 例えば、納豆は丸大豆を原料として製造されたいわゆる丸大豆納豆が一般的であるが、一部には予め挽割った大豆を原料とする挽割り納豆もある。丸大豆納豆の製造方法は、一般に原料である丸大豆を冷水に十数時間浸漬した後、蒸煮釜で加圧蒸気を用いて加圧蒸煮(1.5〜2Kg/cm2、128〜133℃)して得られた蒸煮大豆に対して、高温状態(70〜100℃)で納豆菌を接種し混合した後、所定の容器に充填してから発酵室に搬入して比較的高温度(40〜55℃程度)で所定時間(12〜48時間程度)発酵させた後、5℃前後で冷蔵熟成(12〜72時間程度)して完成させるのが一般的である。また、挽割り納豆の場合は、予め挽割った大豆を水に浸漬する以外は、通常の丸大豆納豆の場合と同様の方法で製造される。 このような従来の納豆の製造方法において、本発明では発酵工程で用いる納豆菌を、前記方法によって育種改良したレバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌に代えて使用することによって製造される。 このようにしてレバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌を用いて生産した納豆と、従来から利用されている通常の納豆菌を用いた納豆とを比較すると、レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌で製造した納豆は、大豆オリゴ糖を高濃度で含有しており、大豆本来の健康機能が発揮される優れた納豆であることが確認できる。 さらに、本発明においては、より高濃度で大豆オリゴ糖を含有する納豆を製造する方法として、大豆に対して、大豆オリゴ糖及び/又は大豆オリゴ糖含有物を添加含有させた後、上記レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌を用いて発酵することができる。 添加する大豆オリゴ糖としては、ラフィノースやスタキオースなどの大豆中に含有される大豆オリゴ糖がよく、また、大豆から抽出精製した大豆オリゴ糖製品、例えばSOYA OLIGO(カルピス社製)などが例示される。 大豆オリゴ糖の添加時期は納豆菌で発酵させる工程以前が望ましく、さらに大豆を水に浸漬する工程や、引き続いて大豆を蒸煮する工程、あるいは大豆蒸煮後の工程などがより望ましい。 更に、大豆オリゴ糖含有物としては、大豆オリゴ糖を含有する物であれば全ての物が含まれ、例えば精製度の高くないオリゴ糖を含有する大豆抽出物も利用できる。このような精製度の低いものとしては、例えば大豆蒸煮工程で得られる大豆煮汁及び/又はその処理物(濃縮物、ペースト化物、乾燥物、乾燥粉末、希釈物から選ばれる少なくともひとつ)が挙げられる。納豆は、常に大豆の蒸煮工程を経て製造されることになるが、蒸煮工程においては大豆煮汁が発生するのが一般的であり、大豆煮汁は最終的には蒸煮釜の外部に流出させ、廃棄されるのが常である。 しかし、この大豆煮汁中には大豆中の水溶性の糖類、特に大豆オリゴ糖を初めとする各種の有効成分が溶出含有されている。本発明においては、このような大豆煮汁を有効利用する方法として、蒸煮大豆に添加して利用することが可能である。 大豆煮汁を大豆に添加する方法としては、例えば特開平11−225700号公報に開示の方法や、特開昭57−102155号公報、特開昭52−105245号公報開示の方法などが採用可能であるが、特に限定されるものではない。大豆煮汁の添加量についても格別の限定はないが、例えば、大豆煮汁としてその2倍濃縮汁を使用する場合、蒸煮大豆40gに対して、1〜20g、好ましくは5〜15g添加することができる。他の処理物の場合はもとより、大豆オリゴ糖自体を添加使用する場合は、上記に準じてその量を定めればよい。 以上の方法によって、大豆オリゴ糖を高濃度で含有する納豆を製造することが可能になる。このようにして本発明によれば、納豆50g当り、大豆オリゴ糖400〜500mg以上の納豆を得ることができ、例えば大豆煮汁その他大豆オリゴ糖を添加した場合には、更に濃度を高めることができ、800mg以上、場合によっては煮豆と同等レベルの高濃度オリゴ糖含有納豆を得ることも可能である。 以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。(レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌の作製)(1)基本条件 レバンシュクラーゼ活性を欠損させる親株としては、納豆菌バシルス・サチリスr22(Bacillus subtilis r22)株(以下、r22株と称する場合もある)(例えば、特開2000−224982号公報参照)を用いた。r22株は、市販納豆から常法により分離した納豆菌であるO−2株を、ニトロソグアニジン(NTG)を用いて化学変異処理することにより取得した形質転換能を高めた変異株である。また、他には大腸菌DH5α(Escherichia coli DH5α)株(タカラバイオ社製)、及び大腸菌INV110(Escherichia coli INV110)株を用いた。 プラスミドベクターとしては、pUC19(タカラバイオ社製)及びpE194(ATCCより入手)を用いた。 なお、特に記載しない限り、培養条件、培地及びその他の遺伝子組換え技術は、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manua1)、2版(1992)、Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY」の記載に従った。 また、基本的な培養は、以下の表1に示すNB培地を用いて行った。 PCRによるDNA断片の増幅には、Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を使用し、反応条件は、Taqポリメラーゼに添付のマニュアルに従った。 納豆菌の形質転換等は、以下の方法によった。 すなわち、納豆菌の染色体DNAは、市販のキットを使用して調製し、形質転換は「ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)、56巻、p.209〜221、1971年」の方法に従った。 納豆菌の胞子は、以下の表2に示すSterlini−Madelstam置換培地を用いて調製した。(2)ベクター構築 ベクター構築に用いた各DNA断片の作製概略を図1に示した。 すなわち、r22株のsacB遺伝子の5’フランキング領域の増幅にはプライマー1(配列表の配列番号1(図4)に記載)及びプライマー2(配列表の配列番号2(図5)に記載)を、3’フランキング領域の増幅にはプライマー3(配列表の配列番号3(図6)に記載)及びプライマー4(配列表の配列番号4(図7)に記載)を使用した。 pE194のエリスロマイシン耐性遺伝子の増幅には、プライマー5(配列表の配列番号5(図8)に記載)及びプライマー6(配列表の配列番号6(図9)に記載)を用いた。 それぞれのプライマーは、枯草菌バシルス・サチリス(Bacillus subtilis)のsacB遺伝子の塩基配列(例えば、「ネイチャー(Nature)、390巻、p.249〜256、1997年」参照)を、またpE194のエリスロマイシン耐性遺伝子の塩基配列(例えば、「プロシージングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・USA(Proceedings of National Academy of Science in U.S.A.)、77巻、12号、p.7079〜7083、1980年」参照)をもとにして設計し合成した。 すなわち、r22株の全DNAを鋳型にし、プライマー1(配列表の配列番号1に記載)及びプライマー2(配列表の配列番号2に記載)を用いsacB遺伝子の5’フランキング領域を増幅するとともに制限酵素サイトSacIおよびBamHIを両端に導入した(DNA断片1)(図1)。また、r22株の全DNAを鋳型にしプライマー3(配列表の配列番号3に記載)及びプライマー4(配列表の配列番号4に記載)を用いsacB遺伝子の3’フランキング領域を増幅するとともに制限酵素サイトXbaIおよびPstIを両端に導入した(DNA断片2)(図1)。 さらに、pE194を鋳型にしプライマー5(配列表の配列番号5に記載)及びプライマー6(配列表の配列番号6に記載)を用いエリスロマイシン耐性遺伝子を増幅するとともに制限酵素サイトXbaIおよびBamHIを遺伝子両端に導入した(DNA断片3)(図1)。 続いて、上記DNA断片を用いてベクターを構築したが、その概略は図2に示した。すなわち、DNA断片1を制限酵素Sac1およびBamHIで、DNA断片2をXbaIおよびPstIで、DNA断片3をXbaIおよびBamHIで処理した。得られた断片をpUC19のマルチクローニングサイト上のSacI−PstI間にDNA断片1、DNA断片3、DNA断片2の順に順次導入し、プラスミドpSCEN1を得た(図2)。(3)形質転換 PstI処理し直鎖化したpSCEN1を用いてr22株を形質転換した。形質転換株の選択はエリスロマイシン2μg/mlを添加したLB培地で37℃、18時間培養することによって行った。このようにして得られた形質転換株は、これをBacillus subtilis sacB22(バシラス サチリス sacB22)と命名し、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM BP−08538として国際寄託した。 得られた形質転換株バシラス・サチリスsacB22(Bacillus subtilis sacB22)株(以下、sacB22株と称する場合もある)のsacB遺伝子は、塩基番号991〜992の2塩基がエリスロマイシン耐性遺伝子に置換していることが、PCR法による解析などによって確認された。(図3) また、以下の方法によって、sacB22株のレバンシュクラーゼ活性も、親株r22株に比べて、失活していることを確認した。 すなわち、sacB22株ならびにr22株をL培地(10g/L tryptone、5g/L yeast extract、5g/L NaCl、10g/L ショ糖)により培養し、OD660で調べた濁度が1.4になるまで培養し、遠心して菌体を除き、培養上清を採取した。培養時間はsacB22株において3.75時間、r22株において3.25時間要した 採取した培養上清をMICROCON YM−3(ミリポア社製)で限外濾過することにより、培養液中に含まれるタンパクを5倍程度に濃縮し、これを粗酵素液とした。 この粗酵素液100μlを8%ショ糖含有50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)500μlに添加して37℃で40分間反応、反応中に遊離するグルコース量をグルコースCII−テストワコー(和光純薬社製)で測定した。1分間に1μmolグルコースを遊離させるレバンシュクラーゼ活性を1U(酵素単位)として、レバンシュクラーゼ活性を測定した。また、粗酵素液のタンパク量については、protein assay(BioRad社製)で測定し、タンパク質1mg当りの活性(比活性)で表わした結果を表3に示した。 その結果、sacB22株においては、レバンシュクラーゼ活性がまったく検出されず、レバンシュクラーゼ活性欠損性が確認された。(納豆試作と品質評価) 常法に従い、r22株、およびsacB22株(FERM BP−08538)の胞子液を調整した。すなわち、r22株またはsacB22株を表1に示したNB培地に1白金耳植菌し、37℃、1晩培養後、その培養液を表2に示した胞子形成培地に1%植菌し、37℃、24時間培養して胞子液を調製した。 以下、それぞれの胞子液を種菌として使用し、常法に従い納豆を試作した。すなわち、極小大豆を水道水で4℃、1晩浸漬し、圧力蒸煮釜で蒸気圧2kpaで8分間蒸煮した。このようにして調製した蒸煮大豆に対して、上記のr22株またはsacB22株の胞子液を滅菌水で100倍に希釈し、蒸煮大豆100gあたり0.8ml種菌し、39℃で18時間発酵した。発酵後、4℃で24時間保存して、納豆を調製した。 sacB22株を用いて発酵を行った場合、r22株を用いて発酵した場合と比べて、発酵時間の遅延、発酵中の納豆品温の低下等は見られず、レバンシュクラーゼ欠損変異が納豆菌の生育に影響を及ぼさないことが分かった。 続いて試作により得られた納豆を官能検査に供した。 その結果、親株(r22株)と変異株(sacB22株)とで品質上に違いが見られず、sacB22株を種菌に用いて作製した納豆が、納豆として必要な品質を具備していることが確認できた。 なお、納豆中のレバンの分析は以下の方法によった。すなわち、10gの納豆に20mlの2.5%トリクロロ酢酸を加え50℃、10分保温する。上清を50mlのメスフラスコに移す。残った納豆に更に20mlの2.5%トリクロロ酢酸を加え50℃、10分保温する。ナイロンメッシュでろ過し納豆を除く。 ろ液を1回目の抽出時の上清とあわせた後50mlまでメスアップする。メスアップした抽出液を12,000rpm、20分、30℃で遠心する。上清を20ml採取し、NaOHでpH7.0〜7.2に調節する。pH調節後、25mlまでメスアップする。その内5mlを採取し、20mlのエタノールを加え氷上に10分間置く。12,000rpm、10分遠心し、沈殿を回収し自然乾燥させる。沈殿を20mlの20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、粗抽出液とした。 粗抽出液0.6mlに、レゾルシン−チオ尿素試薬(レゾルシン0.1g、チオ尿素0.25g、酢酸100ml)0.3ml、30%塩酸0.21mlを加え、80℃、10分加熱した。急冷した後、A500を測定した。フラクトース溶液を用いて作成した検量線に、レバンの加水分解による増加分を考慮し0.9を乗じてレバン濃度を計算した。 以上の方法により、納豆中のレバンを分析した結果を表4に示したが、sacB22株ではr22株に比べレバンの生成が減少しており、レバンシュクラーゼ遺伝子欠損の効果が見られた。かつ、レバンの減少は、納豆の糸引きに影響を与えないことがわかった。 さらに、納豆中の大豆オリゴ糖を下記の方法に従って分析した。すなわち、納豆または煮豆1gを乳鉢ですりつぶし、5mlの脱イオン水に懸濁した。懸濁液に20mlのエタノールを加え攪拌後、超音波処理(15分間)し、さらに3,000rpm、10分遠心した。遠心後の上清を濾過(ポワーサイズ0.45μm)し、粗抽出液を得た。 粗抽出液中の糖(ショ糖、ぶどう糖、果糖)および大豆オリゴ糖(スタキオース、ラフィノース)濃度をHPLCを用いて測定した。HPLCは、以下の条件で実施した。(HPLC条件) 溶出液:78%アセトニトリル カラム:Shodex NH2P−50 4E カラム温度:30℃ 流速:1ml/分 検出器:示差屈折計 以上の方法によって分析した納豆中の糖およびオリゴ糖の濃度を表4に示した。 上記結果から明らかなように、親株(r22株)を用いて作成した納豆では、オリゴ糖がすべて分解されて検出されなかった。一方、レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌(sacB22株:FERM BP−08538)を用いて作成した納豆には煮豆の約7割の大豆オリゴ糖が残留しており、所期の目的どおりレバンシュクラーゼ欠損納豆菌を用いることにより大豆オリゴ糖を含んだ納豆を実現できた。 また、sacB22株においてもショ糖の分解は起こっており、納豆菌がレバンシュクラーゼ以外にショ糖の分解資化系を有していることが分かった。この系があるため、レバンシュクラーゼの欠損が、納豆菌の生育に影響を及ぼさなかったと思われる。(煮汁添加方法による大豆オリゴ糖高含有納豆の製造) 以下の方法で納豆を試作した。すなわち胞子液の調製、及び納豆の発酵方法は基本的に実施例2で示した方法に準じた。 一方、極小大豆を水道水で4℃、1晩浸漬し、圧力蒸煮釜で蒸気圧2kpaで8分間蒸煮して蒸煮大豆を調製後、圧力蒸煮釜から回収した大豆煮汁を400g採取し、約100℃の湯浴で200gまで加熱濃縮した2倍濃縮煮汁を調製した。このようにして調製した2倍濃縮煮汁中の糖類およびオリゴ糖成分は、表5に示す通りであった。 このようにして調製した蒸煮大豆及び2倍濃縮煮汁を用いて、以下納豆を調製した。 すなわち、一方は、実施例2と同様にして、2倍濃縮煮汁を添加せず、蒸煮大豆そのものにr22株またはsacB22株を種菌し、納豆を調製した。 また、2倍濃縮煮汁を添加した納豆の製造は、上記2倍濃縮煮汁を蒸煮大豆40gに対して10g添加した後、上記と同様にして納豆を調製した。 以上の方法で調製した納豆について、熟練したパネル30名により、品質を評価し、また、糖組成を分析した。 なお、品質評価は糸引き:1(弱い)〜5(強い)、菌膜の厚さ:1(薄い)〜4(厚い)、豆の色:2(暗い)〜4.5(明るい)、香り:1(異臭有り)〜3(異臭無し)、熟度(発酵の進み具合):1(未熟)〜10(過熟)について行い、結果を表6に示した。 表6の結果から、2倍濃縮煮汁を添加することにより、菌膜が厚く、豆の色が暗くなる傾向がみられたが、納豆の品質としては、間題のないレベルであることが確認できた。 また、できた納豆中の糖組成を、実施例2と同様の方法で測定した。結果を表7に示した。 表7の結果から、r22株で発酵した場合は、もともと蒸煮大豆中に存在した大豆オリゴ糖は、そのほとんどが発酵中に消費され、納豆中には残存していなかったのに対して、sacB22株を用いて調製した納豆では、大豆煮汁を添加しなかった場合にも、かなりの大豆オリゴ糖が残存しており、大豆オリゴ糖高含有納豆が製造可能であることが確認できた。さらに、大豆煮汁を添加した場合には、大豆煮汁中の大豆オリゴ糖が付加され、ほぼ蒸煮大豆並みの大豆オリゴ糖を含有する納豆が製造可能であることが確認できた。(変異株の取得と、大豆オリゴ糖高含有納豆の製造)(1)変異株の取得 Bacillus subtilis OUV23481(以下、OUV23481株又は親株ということもある:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−6659として国際寄託されている)を、NB培地(表1)で一晩37℃で振とう培養した後、遠心分離して滅菌生理食塩水で洗浄した。 この洗浄菌体を約107cfu/mlの濃度で滅菌生理食塩水に懸濁した後、20mg/リッターの濃度となるようにN−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジンを添加し、30分間振とうして、変異処理を行った。このときの生存率は約2%であった。 変異処理した菌体をNB培地で培養し形質を発現させ、その後に滅菌生理食塩水で洗浄し、さらに10%ショ糖を含むNB培地プレート(寒天1.5%含有)に塗抹した。 そして37℃で1日間培養した後、親株のコロニーと比較しコロニー表面にレバンを産生していない特徴を示すコロニーを取得した。 得られたコロニーについてレバンシュクラーゼ活性を測定し、この中から該酵素活性が完全に失活している変異株を得た。そしてこれをBacillus subtilis B−1(バシラス サチリス B−1)と命名し、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM BP−08584として国際寄託した。 このようにして新たに分離した変異株は、レバンシュクラーゼ活性が欠損している点を除き、他は親株と何ら相違するところは認められなかった。すなわち、本変異株は、形態、各培地における生育状態、生理学的性質のいずれにおいても親株と格別の相違は認められず、また、生育にビオチンを要求し、納豆を製造しうる点でも親株との相違は認められなかった。また、製品納豆についても、後記するように、オリゴ糖に関する点を除き、風味、食感、糸引き性等の納豆の性質には、変異株は、親株と格別に相違するところはなく、納豆菌にほかならないことが確認された。 なお、Bacillus subtilis B−1株(以下、B−1株と称する場合もある)のレバンシュクラーゼ活性の欠損性は、以下の試験で確認した。 すなわち、B−1株ならびに親株OUV23481株をL培地(10g/L tryptone、5g/L yeast extract、5g/L NaCl、10g/L ショ糖)を用いて、OD660で調べた濁度が1.4になるまで培養し、その後遠心して菌体を除き、培養上清を採取した。培養時間はB−1株において3時間、親株OUV23481株において3.15時間であった。 採取した培養上清をMICROCON YM−3(ミリポア社製)で限外濾過することにより、培養液中に含まれるタンパク質を5倍程度濃縮し、これを粗酵素液とした。 この粗酵素液0.1mlを8%ショ糖含有50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)0.5mlに添加して37℃で40分間反応させ、反応中に遊離するグルコース量をグルコースCII−テストワコー(和光純薬社製)で測定した。1分間に1μmolグルコースを遊離させるレバンシュクラーゼ活性を1U(酵素単位)として、レバンシュクラーゼ活性を測定した。また、粗酵素液のタンパク質については、protein assay(Bio Rad社製)で測定し、タンパク質1mgあたりの活性(比活性)で表わした結果を表8に示した。 その結果、B−1株においては、レバンシュクラーゼ活性がまったく検出されず、レバンシュクラーゼ活性欠損性が確認された。(2)納豆発酵試験 上記で得られたB−1株及び親株OUV23481株の胞子液を用いて、常法通り納豆を作製した。 すなわち、浸漬した大豆を水切りし、1.8Kgf/cm2で18分間蒸煮した。蒸煮大豆1gあたり3,000〜5,000個の胞子となるように、上記胞子液を各々植菌し、50gずつPSPトレーにいれ、薄い被膜で表面を覆い、蓋をした後に、バッチ式納豆発酵室へ入れ、室温39℃で高湿下で発酵を行った。発酵終了後、熟成させて納豆を製造した。 その後、納豆中のレバン、糖、大豆オリゴ糖(ラフィノースとスタキオース)の含量を実施例2と同様にして分析し、その結果を表9に示した。 上記結果から明らかなように、親株(OUV23481株)を用いて作成した納豆では、オリゴ糖がすべて分解されて検出されなかった。一方、レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌(B−1株)を用いて作成した納豆には蒸煮大豆の約7割の大豆オリゴ糖が残留しており、所期の目的どおり、レバンシュクラーゼ活性欠損性納豆菌を用いることにより大豆オリゴ糖を含んだ納豆を実現できた。DNA断片作製の概略を示した図である。ベクター構築の概略を示す図である。sacB遺伝子欠損工程の概略を示す図である。プライマー1を示す。プライマー2を示す。プライマー3を示す。プライマー4を示す。プライマー5を示す。プライマー6を示す。<110> Mitsukan Group Corporation<120> Levansucrase Activity Lacked Bacillus subtilis and Natto Containing a Large Amount of Soybean Olygosaccharides<130> 6768<141> 2004-1-23<160> 6 レバンシュクラーゼ活性を欠損させたことを特徴とする、バシルス・サチリス(Bacillus subtilis)に分類され、納豆を製造しうる納豆菌。 Bacillus subtilis sacB22(バシラス サチリス sacB22)(FERM BP−08538)。 Bacillus subtilis B−1(バシラス サチリス B−1)(FERM BP−08584)。 請求項1、2又は3に記載の納豆菌を使用すること、を特徴とする大豆オリゴ糖高含有納豆の製造方法。 請求項1、2又は3に記載の納豆菌を用い、大豆オリゴ糖又は大豆オリゴ糖含有物を添加して製造すること、を特徴とする大豆オリゴ糖高含有納豆の製造方法。 大豆オリゴ糖含有物が大豆煮汁又はその処理物であること、を特徴とする請求項5に記載の方法。 該処理物が大豆煮汁の濃縮物、ペースト化物、乾燥物、希釈物の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項6に記載の方法。 請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法で製造してなる、大豆オリゴ糖(スタキオース、ラフィノース)を納豆50g当り400mg以上含有する大豆オリゴ糖高含有納豆。配列表


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