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タイトル:特許公報(B2)_エゾウコギを用いた予防薬、並びにその製造方法
出願番号:2004013814
年次:2011
IPC分類:A61K 36/25,A61K 36/00,A61P 25/16


特許情報キャッシュ

藤川 隆彦 JP 4774481 特許公報(B2) 20110708 2004013814 20040122 エゾウコギを用いた予防薬、並びにその製造方法 株式会社三重ティーエルオー 802000042 藤川 隆彦 20110914 A61K 36/25 20060101AFI20110825BHJP A61K 36/00 20060101ALI20110825BHJP A61P 25/16 20060101ALI20110825BHJP JPA61K35/78 MA61K35/78 YA61P25/16 A61K 36/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開平05−186360(JP,A) 特開2002−284695(JP,A) 林産試だより,1993年,10月号,第6-13頁 3 2005206509 20050804 13 20061225 金子 亜希 本発明は、パーキンソン病の予防効果があるエゾウコギを用いた薬剤、並びにその薬剤をエゾウコギから製造する方法等に関するものである。 ウコギ科ウコギ属に分類される植物であるエゾウコギ(本発明のいうエゾウコギとは学名Acanthopanax senticosus harmsが指す植物と同じである)の有効成分を抽出したエキスは、従来よりストレスに起因する胃粘膜損傷、免疫機能の低下、高血圧等を予防することで知られている。エゾウコギは、中国では、刺五加と呼ばれており、血圧調整、強壮、精神安定、リウマチ性関節痛等に用いられる。また、旧ソ連では、Siberian Ginseng(旧学名“Eleutherococus senticosus Maxim”)と呼ばれており、降圧作用、精腺や副腎皮質機能亢進作用、抗ストレス作用を有することが知られる。 エゾウコギの効果は、同じウコギ科で、より高価な朝鮮人参の効果と類似しているため、朝鮮人参に代わる安価な漢薬として用いられる。朝鮮人参の有効成分のほとんどは、すでに明らかにされているといわれる。一方、エゾウコギの有効成分や、その生化学的な作用機構はそれほど明らかにされておらず、さらなる解明が待望されている。 本発明者は、長らくエゾウコギの研究に携わっており、多くの研究開発を行ってきている。例えば、特開2002−284695号公報、特開2002−3391号公報には、本発明者の成果の一部が開示されている。 ところで、パーキンソン病とは、黒質でのドパミン産生細胞の異常な低下とニューロンの変性を特徴とする脳疾患である。脳の黒質でつくられたドパミンは、線条体に送られ、アセチルコリンと協働して筋肉に運動の指令を送る。パーキンソン病になると、ドパミンをつくる黒質の神経細胞が何らかの原因で障害され、線条体にドパミンを充分に送ることができなくなり、線条体が正常に機能しなくなって、無動、筋硬直、振戦等の運動機能障害が生じる。パーキンソン病の原因は十分に解明されてはいないものの、農薬のロテノン(Rotenone)が実験動物にパーキンソン病を発症させることが判明している。 パーキンソン病の治療薬としては、減少したドパミンを補う目的でレボドパLevodopa(L−DOPA)の投与が広く応用されている。この他にパーキンソン病の治療薬としては、ドパミン受容体を直接刺激する薬剤(非麦角アルカロイド、麦角アルカロイドなど)、アセチルコリンの働きを押さえてドパミンとのバランスを調整する薬剤(抗コリン薬など)、ドパミン神経終末からドパミン遊離を促進させるドパミン遊離促進薬、さらには脳内で不足したノルアドレナリンを補充するノルアドレナリンのプロドラッグ等が用いられている。 これらの薬を用いることによってパーキンソン病の症状は改善されるが、それぞれ副作用を伴う。例えば、L−DOPA製剤では、胃部不快感、嘔気、嘔吐などの消化器症状や、起立性低血圧、不整脈等の循環器症状や、幻覚、妄想等の精神症状が現れる場合がある。また、ドパミン受容体刺激薬においては、投与初期に胃部不快感、嘔気、嘔吐等の消化器症状、眠気、幻覚、妄想等の精神症状、ふらつき、起立性低血圧等の循環器症状が現れることがある。抗コリン剤では、こうかつ、便秘、排尿障害等の消化器症状、幻覚、妄想等の精神症状が現れる場合がある。更に、抗コリン剤の長期投与は、かえって痴呆症状を促進させる懸念があるとされている。また、ドパミン遊離促進剤では、興奮、幻覚、せん妄等の精神症状が出現することがある。ノルアドレナリンのプロドラッグでは、幻覚、妄想等の精神症状や血圧上昇が現れる場合がある。このようにパーキンソン病の治療薬としては、充分に満足できるものが提供されていない現状がある。 また、パーキンソン病の予防剤については、候補物質として期待される薬剤はあったが、顕著な効果を有し、副作用が無く、製造が容易なものは知られていない。 前述のように、本発明者が提供したエゾウコギの抽出物を主成分とし、明確な効能としてパーキンソン病予防が含まれる薬剤があるものの(特開2002−284695号公報)、未だに改良の余地が残されていた。 一方で、うつ病の予防薬、治療薬は数多く知られており、さらに副作用の軽減された医薬組成物も知られている。例えば、治療効果、即効性などが高い上、副作用が少ないものとして選択的セロトニン再吸収阻害剤がある。選択的セロトニン再吸収阻害剤にはフルオキセチン、サートラリン、パロキセチン、フルボキサミン、シタロプラム等がある。また、セントジョンズウォートと称されるハーブは、軽度から中等度のうつ症状に有効な天然の抗うつ剤として使用されているが、このハーブは肝臓で多くの薬剤の代謝を阻害し、薬剤の作用増強を引き起こす重大な副作用が知られている。また、このハーブの飲用は人の光感受性を高めるため、太陽光線によって皮膚に湿疹や痒みが生じる場合があることが報告されている。 本発明者は、エゾウコギの抽出物を主成分とするうつ病の予防及び治療薬を提供しているものの(特開2002−284695号公報)、未だに改良の余地が残されていた。また、エゾウコギには、全体が炭状となるまで蒸焼させた後に、抽出物を製造する方法があるが(特開平5−186360号)、この修治エゾウコギ(MASH)には、後述のように通常状態においても脳内神経細胞からドパミンを過剰に放出させ、細胞内のドパミンの枯渇を引き起こしてしまうという副作用が認められることから、改良の余地がある。特開2002−284695号公報特開2002−3391号公報特開平5−186360号公報 上記のように、従来しられていたエゾウコギ抽出物についても、更なる改良の余地が残されていた。本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、パーキンソン病の予防に対して高い効果を有するエゾウコギを用いた薬剤を提供すること、及びその薬剤をエゾウコギから製造する方法等を提供することにある。課題を解決するための手段、発明の作用、及び発明の効果 本発明者は、鋭意努力して検討した結果、エゾウコギの抽出物を得るために新規な製造方法を見出すに至った。更に、この製造方法が、他の木質系生薬の有用物質の抽出方法にも応用可能であることに思い至り、基本的には本発明を完成するに至った。 従来、木質系生薬材料から有用物質を抽出するには、材料をそのまま或いは適当に乾燥させた後に、溶媒で抽出するという方法が取られている。また、材料全体を蒸焼した後に、溶媒で抽出するという方法もしられている。 しかしながら、本発明者の研究によれば、これら木質系生薬材料の表面のみを焼いた後に、溶媒で抽出することにより、従来には得られなかった新規な効果を備えた有用物質が抽出されることが見出されるに至ったのである。 こうして、第1の発明に係る抽出物の製造方法は、エゾウコギの表面部を断面積比が5%、炭化度が10%になるように焼いた後に、水、熱水、アルコールの何れか1つ、若しくはこれらを任意に組み合わせた溶媒で被抽出物を抽出することを特徴とする。 「木質系生薬材料」とは、従来から漢方等で用いられている材料(例えば、皮類生薬の基原植物:キハダ(Phellodendron amurense Rupr., P. Chinese Schneid)、Cinnamomum cassia Blume、セイロンケイヒ(Cinnamomum. zeylanicum Nees)叉は他の近縁植物、ホウノキ(ホオノキ)(Magnolia obovata Thunb叉は他の近縁植物、ヤマザクラ(Prunus jamasakura Sieb.)叉は他の近縁植物、ウコギ(Acanthopanax sieboldianus Makino)叉は他の近縁植物、ヌルデ(Rhus javanica L.)、ヌルデシロアラブムシ(Schlechtendalia chinesis Bell)、ザクロ(Punica granatum L.)、タラノキ(Aralia elata Seem.)、クヌギ(Quercus acutissima Carruth.)叉は他の近縁植物、ヤマモモ(Myrica rubra. Sied. Et Zucc.)等。茎及び枝類生薬の基原植物:ニガキ(Picrasma quassioides Benn.)、アケビ(Akebia quinata Decne、トチュウ(Eucommia ulmoides D. Oliver)、ミツバアケビ(A.trifoliate Koidz、オオツズラフジ(Sinomenium acutum Rehd. Ey Wils)、アオツズラフジ(Cocculus trilobus DC.)、エゾウコギ(Acanthopanax senticosus Harms)、ウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fisch)、スペインカンゾウ(G.glabra L. )、チャ(Thea sinensis)叉は他の近縁植物等。)であり、枝・幹・根からの抽出物を取り出して用いることが可能なものを意味している。 「表面部」とは、具体的には、断面上の表面から内部に向かって約5%〜約80%の断面積を意味している。 「焼いた」とは、材料の表面部分を火にかけることを意味している。 「炭化度」とは、焼いた後の木質系生薬材料において、炭化した表面部を剥ぎ取った際に、「炭化した表面部の重量/木質系生薬材料の重量x100」(%)を意味している。炭化度は、好ましくは約5%〜約60%、更に好ましくは約10%〜約40%である。 「溶媒」とは、例えば、水または熱水、アルコール等の有機溶媒、或いはアルコール等の有機溶媒と水との適当な混合比の混合溶媒を意味している。熱水の場合には、約50℃以上に熱せられた水を用いることができる。抽出時間については、木質系生薬材料の種類・溶媒量等に応じて、適宜に設定することができる。一般的には、抽出時間としては、数時間以上〜約1昼夜以上が好ましく、約2昼夜がさらに好ましい。 第1の発明によれば、従来に用いられていたエゾウコギから、新規或いは顕著な効果を備えた抽出物が得られる。エゾウコギ(特に、地上茎、及び枝が好ましい)表面部の約5%程度を炭化度が約10%以上となるまで焼いた後に、熱水抽出をした場合には、単に従来の効果を量的に加えたものに留まらず、質的に異なる効果を備えた抽出物が得られる(実施例を参照)。なお、本発明の方法によって、従来法とは質的に異なる抽出物が得られる理由については必ずしも明確ではなく、その機序については今後の検討が待たれるところである。なお、木質系生薬材料としては、地上茎を選択することが好ましい。この場合には、材料の根部分を地中に残しているので、その後に根部分から地上茎部分が生えてくる。このため、資源の枯渇が懸念される生薬材料(例えば、日本国のエゾウコギ)の場合には、資源の有効利用という点で有効な方法となる。 第1の発明に係るエゾウコギ抽出物の製造方法は、エゾウコギの表面部を断面積比が5%、炭化度が10%になるように焼いた後に水、熱水、アルコールの何れか1つ、若しくはこれらを任意に組み合わせた溶媒で前記エゾウコギから抽出物を抽出する工程を含むことを特徴とする。 第2の発明に係るエゾウコギ抽出物は、エゾウコギの表面部を断面積比が5%、炭化度が10%になるように焼いた後に水、熱水、アルコールの何れか1つ、若しくはこれらを任意に組み合わせた溶媒で抽出された抽出物であることを特徴とする。第3の発明に係るパーキンソン病の予防薬は、エゾウコギの表面部を断面積比が5%、炭化度が10%になるように焼いた後に抽出された抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。 第1の発明及び第2の発明において、エゾウコギの表面部は、少なくとも断面積の約5%〜約80%を焼いた後に抽出することが好ましい。本発明者の知見に基づけば、エゾウコギ(特に、地上茎)においては、その表面部分に有効成分が集中しているように考えられた。このため、この部分を焼くことによって、高い効率で有効成分を抽出すると共に、新たな抽出物を得ることが可能となるからである。また、エゾウコギの地上茎の表面部を焼いて抽出物を抽出する場合には、その抽出工程において、エゾウコギ由来の他部位の材料(例えば、葉、枝など)は、そのまま或いは地上茎と同様に表面部を焼いて抽出物を抽出することが好ましい。 このように本発明によれば、予め木質系生薬材料の表面部を焼いた後に、適当な溶媒で抽出することにより、新規かつ有効な抽出物を得ることができる。この発明は、実施例に示したエゾウコギのみならず、他の木質系生薬材料にも有効に適用することができるものと考えられた。 なお、本発明の抽出物は、経口投与物として用いることができる。また、これらの抽出物は、常法により液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤などの剤型にすることができる。 次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。 <実施例1>エゾウコギ抽出物の製造方法 本発明をエゾウコギに応用した実施例について説明する。 エゾウコギ(7年以内)の地上茎、枝、及び葉を木質系生薬材料として用いた。この材料のうち、直径が約1cm〜約7cmの地上茎の表面部分を焼いた。焼く面積としては、地上茎の断面積の少なくとも約5%程度とした。また、その炭化度は約10%であった。こうして焼かれた地上茎、枝、及び葉を、約5倍量の約60℃に熱した水(熱水)中に入れて、有効成分を抽出した。抽出時間は約2昼夜とした。抽出後の溶液を遠心分離して、抽出液1と残渣1とに分離した。 残渣1については、更に3倍量の約100℃に熱した水(熱水)中に入れて、有効成分を約1昼夜抽出した。抽出後の溶液を遠心分離して、抽出液2と残渣2とに分離した。 上記抽出液1と抽出液2とを1:3の液量で混合した後、液量が半分になるまで濃縮したものを「MASH0312」と命名し、以下の薬効評価試験に供した。 なお、抽出液1と抽出液2とは、エキス含量を増加させるために混合したものであり、いずれか一方を単独で用いても、以下の効果は同等か、そのエキス含量に依存する。また、抽出液1と抽出液2とを混合する場合には、その量比は特に限定されないが、1:100〜100:1の間の任意の比率で混合することができる。 <実施例2>MASH0312を経口投与したラットにロテノンによるパーキンソン病疾患誘導を行なった場合の運動機能障害に及ぼす効果確認試験 試験方法:農薬であるロテノン(Rotenone)を投与することにより、ラットにパーキンソン病の病態を発生させられることが知られている。本試験では、このロテノンをモデル動物作製用に用いた。また、薬物投与群として、MASH(エゾウコギを炭化するまで蒸焼した後に、抽出物を製造したもの。特開平5−186360号公報に開示の技術に基づいて製造されたものを用いた。)、またはMASH0312(実施例1)を用いた。 ラットA1群:予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。 ラットA2群:予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。また、MASHの投与開始から4週間して、ロテノン(2.5mg/kg)を一日一回、4週間に渡って腹腔内注射した。 ラットB1群:予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH0312(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。 ラットB2群:予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH0312(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。また、MASH0312の投与開始から4週間して、ロテノン(2.5mg/kg)を一日一回、4週間に渡って腹腔内注射した。 ラットC1群(陰性コントロール):予備飼育し、通常に8週間に渡って飼育した。 ラットC2群(陽性コントロール):予備飼育し、4週間して、ロテノン(2.5mg/kg)を一日一回、4週間に渡って腹腔内注射した。 上記6群(1群当り4例)の各被験群について、試験開始時点(0)、試験開始後1、4、5、6、7及び8週目にポール試験を行なって運動機能を調べた。 ポール試験は、(1)被験ラットを上端部にグリップの付いた100cmのポールに上向きに掴ませ、その時点を試験開始時点とし、(2)試験開始時点からラットが下向きに方向転換するまでの時間(Time to turn downward)、及び(3)ラットが下向きに方向を転換してからポールを降りて地面に達するまでの時間(Timeto reach the floor)を計測した。 試験結果:図1は、ラットが試験開始時点から下向きに方向転換するまでの時間を計測した結果を示したグラフである。グラフの縦軸はラットが方向転換に要した秒数(Time to turn downward)を、横軸は飼育日数であって各被験群に投与を開始してから経過した日数(週:week)をそれぞれ示している。 図1において、ラットC1群(H2O)では、試験開始0週目〜8週目までに渡って、方向転換までに要した秒数は、ほぼ同等または学習効果による減少傾向を示した。また、ラットC2群(H2O+Rotenone(2.5mg/kg,ip))では、試験開始4週目(ロテノンの投与開始週)から秒数が増加し、8週目まで増加し続けた。8週目では、試験開始時(約8秒)の約4倍(約32秒)まで増加し、パーキンソン病の病態を発症していることが確認された。 その他の4群(A1群、A2群、B1群、B2群)については、ロテノンの投与を開始した4週目〜8週目のいずれの期間においても、試験開始0週目との間に大きな差違は認められなかった。このことより、MASH及びMASH0312のいずれにも、ロテノンが誘導するパーキンソン病を予防する効果があることが示された。 図2は、ラットが試験開始時点からポールを降りて地面に達するまでの時間を計測した結果を示したグラフである。グラフの縦軸はラットが地面に達するまでの秒数(Time to reach the floor)を、横軸は飼育日数であって各被験群に投与を開始してから経過した日数(週:week)をそれぞれ示している。図2において、ラットC1群(H2O)では、試験開始0週目〜8週目までに渡って、やや増減は認められるものの、全体として、ほぼ同等の秒数を示した。また、ラットC2群(H2O+Rotenone(2.5mg/kg,ip))では、試験開始4週目(ロテノンの投与開始週)から徐々に秒数が増加し、6週目〜8週目まで顕著に増加した。8週目では、試験開始時(約12秒)の約3倍(約35秒)まで増加し、パーキンソン病の病態を発症していることが確認された。 その他の4群(A1群、A2群、B1群、B2群)については、ロテノンの投与を開始した4週目〜8週目のいずれの期間においても、試験開始0週目との間に大きな差違は認められなかった。このことより、MASH及びMASH0312のいずれにも、ロテノンが誘導するパーキンソン病を予防する効果があることが示された。 なお、投与開始時(グラフの横軸が0)におけるポールを降りて地面に達するまでの秒数の各被験群間の差は統計学上有意な差ではない。このことから、予備飼育の段階で、個々のラットの運動能力差にかかる各被験群間の運動能力差が生じないように予め調整した後試験がなされていることが示される。 <実施例3>MASH0312を経口投与したラットにロテノンによるパーキンソン病疾患誘導を行なった場合のカタレプシーに及ぼす効果確認試験 試験方法:薬物として、MASH0312(実施例1)、及びMASHを用いた。 実施例2と同様にして飼育された6群のラット(A1群,A2群,B1群,B2群,C1群,C2群;各群について、N=4)を用意した後、各群について、試験開始時点(0)、試験開始後1、4、5、6、7及び8週目にカタレプシー(Catalepsy)試験を行なった。 カタレプシー試験は、不動化状態の試験であって、まず被験ラットの両後足が地面に着いた状態で両前足を箱の上に載せた時点を試験開始時点とし、ラットがその体姿勢をとり続ける不動状態時間(秒数)を計測した。 試験結果:図3は、カタレプシー試験の測定結果を示したグラフである。グラフの縦軸はラットの不動状態時間(Catalepsy)を、横軸は飼育日数であって各被験群に投与を開始してから経過した日数(週:week)をそれぞれ示している。 図3において、ラットC1群(H2O)では、試験開始0週目〜8週目までに渡って、不動状態時間は、ほとんど0秒に近いままであり、増加または減少は見られなかった(すなわち、被験ラットは、試験開始後、速やかに前足を箱から離して、通常の四足歩行の姿勢に戻った)。また、ラットC2群(H2O+Rotenone(2.5mg/kg,ip))では、試験開始6週目(ロテノンの投与開始から2週目)から秒数が増加し、8週目まで顕著に増加した。8週目では、試験開始時の約0秒から約120秒)まで増加し、うつ状態を示すことが確認された。 その他の4群(A1群、A2群、B1群、B2群)については、ロテノンの投与を開始した4週目〜8週目のいずれの期間においても、試験開始0週目との間に差違は認められなかった。このことより、MASH及びMASH0312のいずれにも、ロテノンが誘導するうつ状態を予防する効果があることが示された。また、黒質線条体系とうつ行動との関係が示唆された。 <実施例4>脳内各部位のドパミン(DA)濃度に及ぼす効果確認試験 試験方法:MASH0312(実施例1)、MASH、及びASH(エゾウコギを100%エタノール、50%エタノール、蒸留水で順次抽出したエキスを混合した混合エキスであり、商品名リンパザイムとして市販されているもの)を用いた。 ラットASH群:予備飼育し、ゾンデを用いて、ASH(0.5%)を一日一回、4週間に渡って経口投与した。 ラットMASH群:予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH(0.5%)を一日一回、4週間に渡って経口投与した。 ラットMASH0312群:予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH0312(0.5%)を一日一回、4週間に渡って経口投与した。 コントロール群(H2O):予備飼育し、通常に4週間に渡って飼育した。 上記4群の各被験群について、試験開始から4週間目にラットを解剖し、脳内各部位(大脳皮質、視床下部、線条体、海馬、及び黒質)におけるDA濃度を測定した。下表1には、コントロール群(H2O)との濃度を比較したものを示した。 この表より、エゾウコギからの抽出物(ASH、MASH、及びMASH0312)は、いずれもコントロール群に比べると、脳内DA濃度を上昇させる効果があることが示された。また、その効果は、ASH < MASH0312 < MASHの順に強いことが示された。 <実施例5>MASH0312を経口投与したラットにロテノンによるパーキンソン病疾患誘導を行なった場合の黒質(substantia nigra)内のDA陽性細胞数に及ぼす効果確認試験 試験方法:実施例2及び3に示したロテノンによるパーキンソン病ラットモデルを用いた。また、薬物として、ASH、MASH、及びMASH0312を用いた。 コントロール群(Normal):ラットを予備飼育し、通常に8週間に渡って飼育した。 ASH群:ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、ASH(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。 MASH群:ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。 MASH0312群:ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH0312(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。 ロテノン群(H2O+Rotenone):ラットを予備飼育し、4週間して、ロテノン(2.5mg/kg)を一日一回、4週間に渡って腹腔内注射した。 ASH−ロテノン群(ASH+Rotenone):ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、ASH(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。また、ASHの投与開始から4週間して、ロテノン(2.5mg/kg)を一日一回、4週間に渡って腹腔内注射した。 MASH−ロテノン群(MASH+Rotenone):ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。また、MASHの投与開始から4週間して、ロテノン(2.5mg/kg)を一日一回、4週間に渡って腹腔内注射した。 MASH0312−ロテノン群(MASH0312+Rotenone):ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH0312(0.5%)を一日一回、8週間に渡って経口投与した。また、MASH0312の投与開始から4週間して、ロテノン(2.5mg/kg)を一日一回、4週間に渡って腹腔内注射した。 上記8群(1群当り5例)の各被験群について、試験開始から8週後にラットを解剖し、黒質内のDA陽性細胞数の増減を調べた。 試験結果:図4は、コントロール群(Normal)の黒質内DA陽性細胞数を100%としたときの各群におけるDA陽性細胞数の増減状態を計測した結果を示したグラフである。ロテノン群(H2O+Rotenone)では、コントロール群に比べて、有意に(**)DA陽性細胞数が減少していることから、パーキンソン病の病態を発症していることが確認された。 また、図の右半部に示すようにエゾウコギ抽出物を投与した三つのエゾウコギ抽出物+ロテノン群(ASH+Rotenone、MASH+Rotenone、MASH0312+Rotenone)では、いずれもロテノン群に比べて、有意に(###)DA陽性細胞数が上昇していた。このことから、エゾウコギ抽出物は、ロテノン誘導パーキンソン病を予防する効果があることが示された。また、ASH+Rotenone投与群では、コントロール群との間に有意さ(*)が認められ、充分にDA陽性細胞数が上昇していないのに対し、MASH及びMASH0312を投与した群では、コントロール群との間には有意さが認められなかった。これより、MASH及びMASH0312は、ASHに比べると、パーキンソン病を予防する効果が高いことが示された。なお、MASHとMASH0312との効果は、共に同等であることが示された。 また、図の左半部には、ロテノンを投与しない場合の黒質内DA陽性細胞数の増減を示した。これによれば、ASH群及びMASH0312群では、コントロール群との間に有意なDA陽性細胞数の減少は認められないものの、MASH群にいては、有意に(**)細胞数の減少が認められた。このことから、MASHを継続的に投与することにより、通常状態においては、脳内DA陽性細胞が減少させる副作用が懸念されることが示された。一方、MASH0312については、通常状態においてはそのような副作用は小さいことが分かった(なお、ASHについては、そのような副作用は更に小さい)。 以上の結果を総合的に判断すると、MASH0312は、パーキンソン病を予防する効果においてはMASHと同等であり、かつ副作用が小さいことから、ASH及びMASHよりも効果の高い抽出物であることが示された。 <実施例6>MASH0312の胃潰瘍に対する抑制効果確認試験 試験方法:薬物として、ASH、MASH、及びMASH0312を用いた。 コントロール群(H2O):ラットを予備飼育し、そのまま継続して飼育した。 ASH群:ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、ASH(0.5%)を一日一回、2週間に渡って経口投与した。 MASH群:ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH(0.5%)を一日一回、2週間に渡って経口投与した。 MASH0312群:ラットを予備飼育し、ゾンデを用いて、MASH0312(0.5%)を一日一回、2週間に渡って経口投与した。 薬物投与開始後、速やかにラットの首から下部位を7時間、水に浸漬した後に、ラットを解剖し、胃潰瘍の大きさを確認した。なお、いずれの群においても、一群5例とした。 試験結果:図5は、胃潰瘍の大きさ(mm)を測定した結果を示したグラフである。コントロール(H2O)群では、平均して約58mmの大きさの胃潰瘍が確認された。これに対し、ASH群では、胃潰瘍の大きさは約23mmであり、コントロール群に比べて有意な(***)胃潰瘍形成抑制効果が認められた(抑制率60.2%)。また、MASH0312群では、胃潰瘍の大きさは約38mmであり、コントロール群に比べて有意な(**)胃潰瘍形成抑制効果が認められた(抑制率39.1%)。一方、MASH群では、胃潰瘍の大きさは約56mmであり、コントロール群との間に有意さは認められなかった(抑制率5.8%))。なお、ASH群とMASH0312群との間には、統計的に有意な(#)差違が認められた。 これらのことより、エゾウコギ抽出物のうち、ASH及びMASH0312には、有意に胃潰瘍抑制効果が認められ、その効果はASHの方が強いことがわかった。また、MASHには、そのような効果は認められないことがわかった。 <まとめ> 以上のように、本実施形態によれば、木質系生薬材料であるエゾウコギの表面を焼いた後に抽出物を抽出した物質(MASH0312)には、それ以外の方法により得られた抽出物(例えば、そのまま抽出した物質(ASH)、或いは全体を焼いた(内部まで炭化させた)後に抽出した物質(MASH))に比べると、量的のみならず、質的にも異なる物質を得られることが判明した。 また、本実施形態の新規なエゾウコギ抽出物であるMASH0312は、パーキンソン病の発症を有効に予防できることが明らかになった。このとき、MASH0312は、パーキンソン病に対する予防効果が他の抽出物(ASH)よりも高く、かつ通常状態における副作用は他の抽出物(MASH)よりも小さいことから、より有効で、そして安全性を高めたエゾウコギ抽出物であることが示された。 本実施形態のMASH0132によれば、エゾウコギは朝鮮人参等の漢薬と比較して安価であり、しかもエタノール等の有機物による抽出工程を含まず、抽出法が簡易であるので製造が容易である。従って、安価に入手することが可能となり、長期服用時の服用者の経済的な負担が比較的少ないという効果もある。 また、エゾウコギは朝鮮人参等の漢薬や、レボドパ等の薬剤の欠点である副作用の心配がないことが近年報告されているので、長期服用時の副作用の心配のないパーキンソン病の予防薬を提供することが可能となる。 更に、本実施形態のMASH0312は、うつ病を予防することから、副作用のないうつ病の予防薬を提供することができる。 また、今回の試験では、ロテノンがパーキンソン病だけでなく、うつ病も発症させることがわかり、パーキンソン病患者がうつ病を併発している可能性が示唆された。更に、MASH0312はパーキンソン病を誘導するロテノンによって発症したうつ病を予防したことから、パーキンソン病にうつ病が伴う場合の予防に対しても有効であると考えられた。ロテノンによるパーキンソン病疾患誘導を行った場合の運動機能障害に対するエゾウコギ抽出物の効果を示すグラフである。ロテノンによるパーキンソン病疾患誘導を行った場合の運動機能障害に対するエゾウコギ抽出物の効果を示すグラフである。ロテノンによるパーキンソン病疾患誘導を行った場合のうつ行動に対するエゾウコギ抽出物の効果を示すグラフである。ロテノンによるパーキンソン病疾患誘導を行った場合の黒質内のDA陽性細胞数の減少に対するエゾウコギ抽出物の効果を示すグラフである。ラット胃潰瘍モデルに対するエゾウコギ抽出物の効果を示すグラフである。エゾウコギの茎の表面部を断面積比が5%、炭化度が10%になるように焼いた後に、水、熱水、アルコールの何れか1つ、若しくはこれらを任意に組み合わせた溶媒で抽出して得られることを特徴とするエゾウコギ抽出物の製造方法。エゾウコギの茎の表面部を断面積比が5%、炭化度が10%になるように焼いた後に、水、熱水、アルコールの何れか1つ、若しくはこれらを任意に組み合わせた溶媒で抽出して得られることを特徴とするエゾウコギ抽出物。エゾウコギの茎の表面部を断面積比が5%、炭化度が10%になるように焼いた後に、水、熱水、アルコールの何れか1つ、若しくはこれらを任意に組み合わせた溶媒で抽出して得られる被抽出物を有効成分として含有することを特徴とするパーキンソン病の予防薬。


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