タイトル: | 特許公報(B2)_PDMS基板と他の合成樹脂基板との接着方法及びマイクロチップの製造方法 |
出願番号: | 2004009010 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | B81C 3/00,B29C 65/48,C09J 5/00,G01N 37/00,B29K 83/00 |
原地 美智恵 井上 政夫 JP 4313682 特許公報(B2) 20090522 2004009010 20040116 PDMS基板と他の合成樹脂基板との接着方法及びマイクロチップの製造方法 アイダエンジニアリング株式会社 000100861 梶山 佶是 100079555 山本 富士男 100079957 原地 美智恵 井上 政夫 20090812 B81C 3/00 20060101AFI20090723BHJP B29C 65/48 20060101ALI20090723BHJP C09J 5/00 20060101ALI20090723BHJP G01N 37/00 20060101ALI20090723BHJP B29K 83/00 20060101ALN20090723BHJP JPB81C3/00B29C65/48C09J5/00G01N37/00 101B29K83:00 B81C 3/00 B29C65/48 − 65/12 C09J 5/00 G01N37/00 特開2003−136500(JP,A) 特開2003−139065(JP,A) 特開2001−304440(JP,A) 特表2003−534538(JP,A) 特開2001−157855(JP,A) 米国特許第5965237(US,A) 国際公開第02/40181(WO,A1) 特開2004−361205(JP,A) Jong Soo Ko et al.,A polymer-based microfluidic device for immunosensing biochips,Lab Chip,2003年 4月30日,vol. 3,p.106-113 10 2005199394 20050728 18 20040318 太田 良隆 本発明はポリジメチルシロキサン(PDMS)とその他の合成樹脂基板との接着方法及び微細な流路等を構造として基板内に有する、いわゆるマイクロチップの製造方法に関する。 最近、マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロチップ」と呼ばれる。 マイクロチップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロチップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。 従来のマイクロチップ100は、例えば、図6に示されるように、第1の基板102に少なくとも1本のチャネル104が形成されており、このチャネル104の少なくとも一端には入出力ポートとなるべきウェル106が形成されており、基板102の下面側に透明又は不透明な素材(例えば、ガラス又は合成樹脂フィルム)からなる対面基板108が接着されている。この対面基板108の存在により、ウェル106及びチャネル104の底部が封止される。対面基板108側にもチャネルを配設し、第1の基板のチャネルと対面基板のチャネルとを微細な位置関係のもとに重ねて貼り合わせることもできる。 マイクロチップの材質や構造及び製造方法は例えば、特許文献1及び特許文献2などに提案されている。その中で、エラストマータイプのシリコン樹脂であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いたことを特徴とする一連のマイクロチップが開発されている。PDMSはチャネルなどの微細構造を有するマスター(鋳型)に対する良好なモールド転写性や透明性、耐薬品生、生体適合性などを有し、マイクロチップの構成部材として特に優れた特徴を有している。 PDMS製マイクロチップの製造上の更なる利点は、PDMS基板と対面基板との貼り合わせに、いわゆる恒久接着(パーマネント・ボンディング)が利用できることである。第1の基板と対面基板との貼り合わせにおいては、チャネルなどの微細構造を損なうことなく、かつ、微細構造を良好に封止しなければならない。従って、一般的な接着剤を用いた貼り合わせは行うことができない。PDMS基板の恒久接着では、貼り合わせ面を適宜表面改質処理した後、両方の基板の貼り合わせ面を密着して重ね合わせ、一定時間放置することで、容易に接着が行えるものである。 例えば、ガラス製マイクロチップにおけるガラス同士の貼り合わせには、一般的に熱溶着などの手法が用いられる。これはガラスを高温・高圧に維持して接着することからなる。従って、ガラスの熱溶着のための設備は高価であり、微細構造を損なうことなく貼り合わせるには、高い技術力を必要とする。 また、アクリルなどの樹脂製マイクロチップにおける樹脂同士の貼り合わせには、同じく高温・高圧を要する拡散接合などの手法が用いられるが、これらも特殊で高度な技術である。その他、レーザ溶着を樹脂フィルムを貼り合わせる方法などがある。 一方、PDMS製マイクロチップの恒久接着は、既存技術であるプラズマやコロナ放電、電子ビーム、紫外線(UV光)などを用いた表面改質処理を行うだけでよく、誰でも容易に行え、かつ、高い量産性もある。このPDMSという素材が持つ恒久接着という他に類を見ない特異な性質は、今後のマイクロチップの実用化・量産化において極めて重要なものとなっている。 しかし、対面基板の材質によってはPDMS基板との恒久接着の難易に差が生じる。ガラスやシリコンなどからなる対面基板はPDMS基板との恒久接着が比較的行い易い。その一つの要因は、ガラスやシリコンは研磨などにより鏡面加工を施すことができ、その高い鏡面性が恒久接着に有利に働くからと考えられる。更に、ガラスやシリコンにもエッチングなどにより微細構造を形成することが可能であり、マイクロチップとして多彩な構造を作り出せる利点がある。これらの理由から、研究開発を行う現場で製作される多くのPDMS製のマイクロチップは恒久接着する対面基板としてガラスやシリコンを多用してきた。しかし、ガラスやシリコンからなる対面基板を有するPDMS製マイクロチップは次のような問題点を有している。 (1)使用済みマイクロチップの廃棄が行い難い。 恒久接着したガラスやシリコンからPDMSを引き剥がすことは非常に困難であり、各基板の分別廃棄が困難となる。 (2)ガラスやシリコンは割れる恐れがある。 割れたガラスやシリコンは鋭利な刃物と同様で、人体に怪我を及ぼし易い。従って、ガラスやシリコンを接着したマイクロチップは、保存や輸送、取り扱いに十分な注意が必要である。 (3)ガラスやシリコンへの機械加工が困難で高価である。 マイクロチップとしてチャネルなどの微細構造を配設することの他に、入出力ポートとなる穴加工などが必要である。更に、マイクロチップ実用化の上では、チップ方向を示したり、装置への誤挿入防止のための切り欠きやノッチ、装置内への装着時の位置決め用スプロケットホールやピン・突起、光学読取位置基準マーク、ハンドリング用ノブ、製品番号や型式の刻印、検査情報などを記録保存したICタグの埋め込みなど、各種の要件を盛り込む必要性が出てくる。その観点から、ドリル穴加工や切削加工などの機械加工が行い難いガラスやシリコンは必ずしも好ましい材料であるとは言えない。 (4)ガラスやシリコンは一般的に量産性が無い。 ガラスは一部に低融点でモールド成形が行えるものが出てきたが、量産性や製造コストでは樹脂の射出成形などとは比べ物にならない。 (5)ガラスやシリコンは一般的に材料費が高い。 ガラスやシリコンは原料単価が高いが、更に板材としての単価も高い。 (6)ガラスやシリコンは質量が大きい。 PDMSを含めた一般的な樹脂の比重は水とほぼ同等であるのに対し、ガラスやシリコンはその2倍以上である。マイクロチップを一枚一枚扱う場合に、その重さは問題とはならないが、量産して大量に保存・輸送する場合には好ましくない。 ガラスやシリコンの代わりに合成樹脂基板を使用することが試みられたが、合成樹脂基板は次のような問題点を有することが指摘されている。 (a)樹脂基板の貼り合わせ面の平滑性が不十分である。 PDMSによる恒久接着が行われるには、貼り合わせる面同士が分子の大きさに近いレベルまで接近する必要があると想像される。ガラスやシリコンはその表面を研磨することにより、面粗さがRa(算術平均粗さ)で0.001μmオーダーかそれ以下の鏡面に仕上げることが可能である。一方、樹脂基板の多くは、その表面の機械的強度が低く(すなわち、軟らかい)、研磨による鏡面仕上げ加工を行うことが困難である。透明性を上げる目的で一部の樹脂(例えば、アクリルなど)にバフ研磨などが施される例があるが、その場合も局部的に十分な面粗さは達成されても、例えば、100μmの距離に0.1μmオーダーの起伏が生じてしまうなど、数十mmに及ぶ広い貼り合わせ面全体にわたって十分な平滑性を得ることが困難である。 仮に十分な平滑性を得られたとしても、ポリエチレンやポリスチレンなどの樹脂によっては、表面の機械的強度が極端に低く、布で擦っただけでも面の精度が損なわれてしまうことがある。従って、このような樹脂基板の保存や取り扱い、洗浄などが極めて困難となる。また、前記のように樹脂は射出成形という極めて高い生産性のある成形手法がとれる。その射出成形の後工程として生産性の低い面仕上加工が必要となるのは、不合理かつ不経済である。更に、射出成形で最初から高い平滑性の成形を行うことが考えられるが、その場合は高い鏡面加工された金型が必要となり、極めて高価なものとなる。 (b)樹脂基板の表面改質処理において、有効な処理強度が小さく、許容範囲が極めて狭い。 PDMS基板と樹脂基板を恒久接着するには、貼り合わせの前処理として、PDMS基板に対して適切な表面改質処理を必ず施さなければならない。同時に、樹脂基板に対しても、その樹脂に応じた適切な表面改質処理を必ず施さなければならない場合が多い。しかし、ガラスなどに比べると一般的に樹脂は表面改質処理に対する耐性が低く、恒久接着が良好に行われる処理強度が小さく、許容範囲が極めて狭い。 例えば、反応性イオンエッチング(RIE)装置による酸素プラズマ処理を例にとると、ガラスに対しては処理強度としてRF出力150W、照射時間15秒を超えると恒久接着が行われ難くなるが、ポリスチレン樹脂に対しては僅かに25W、10秒を超えると恒久接着が困難になることが実験的に確認された。また、微弱なRF出力で、極短時間のプラズマを安定的に発生させることは難しく、処理強度のバラツキが起こり易いために、樹脂とPDMSとが再現性良く恒久接着し難い一因であるとも考えられる。特開2001−157855号公報米国特許第5965237号明細書 従って、本発明の目的は、PDMS基板と合成樹脂基板とを再現性良く安定的に恒久接着させる方法を提供することである。 また、本発明の別の目的は前記接着方法を用いて、PDMS基板と合成樹脂基板とからなるマイクロチップを製造する方法を提供することである。 前記課題はPDMS基板が不完全硬化状態にあるうちに、材質がPDMS以外の合成樹脂基板と貼り合わせ、その後、PDMS基板を完全に硬化させて両者を恒久接着させることにより解決される。 従って、請求項1の発明は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)基板と、材質がPDMS以外の合成樹脂基板との接着方法であって、 (a)支持部材の上面にPDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を塗布するステップと、 (b)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を加熱して前記PDMSプレポリマーを硬化させるが、不完全硬化状態で加熱を停止するステップと、 (c)不完全硬化状態のPDMS基板の上面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させて貼り合わせるステップと、 (d)不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるステップとからなることを特徴とする接着方法である。 請求項2の発明は、前記ステップ(d)において、不完全硬化状態のPDMS基板を再加熱することにより完全に硬化させることを特徴とする請求項1に記載の接着方法である。 請求項3の発明は、少なくとも2枚の基板からなり、少なくとも一方の基板に微細な流路が形成され、他方の基板は前記一方の基板の微細流路形成面側に貼合わされているマイクロチップの製造方法において、 (a)支持部材の上面にPDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を塗布するステップと、 (b)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を加熱して前記PDMSプレポリマーを硬化させるが、不完全硬化状態で加熱を停止するステップと、 (c)不完全硬化状態のPDMS基板の上面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板のマイクロチャネル形成面を密着させて貼り合わせるステップと、 (d)不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるステップとからなることを特徴とするマイクロチップの製造方法である。 請求項4の発明は、前記ステップ(a)において、前記支持部材の塗布面にフルオロカーボン(CHF3)剥離膜が形成されており、 前記ステップ(c)において、不完全硬化状態のPDMS基板の上面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させる前に、不完全硬化状態のPDMS基板の上面と、前記合成樹脂基板のマイクロチャネル形成面の表面改質処理を行い、 前記ステップ(d)において、不完全硬化状態のPDMS基板を再加熱することにより完全に硬化させることを特徴とする請求項3に記載の製造方法である。 請求項5の発明は、少なくとも2枚の基板からなり、少なくとも一方の基板に微細な流路が形成され、他方の基板は前記一方の基板の微細流路形成面側に貼合わされているマイクロチップの製造方法において、 (a)上面に所定の形状のレジスト突起パターンを有するマスターを準備するステップと、 (b)前記マスターのレジスト突起パターン面にPDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を塗布するステップと、 (c)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を加熱して前記PDMSプレポリマーを硬化させるが、不完全硬化状態で加熱を停止するステップと、 (d)不完全硬化状態のPDMS基板の上面に、支持部材を密着させて貼り合わせるステップと、 (e)不完全硬化状態のPDMS基板と、支持部材との貼合せ複合体を前記マスターから剥離するステップと、 (f)前記マスターから剥離された前記不完全硬化状態のPDMS基板と、支持部材との貼合せ複合体の不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面側に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させて貼り合わせるステップと、 (g)不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるステップとからなることを特徴とするマイクロチップの製造方法である。 請求項6の発明は、前記ステップ(a)において、前記レジスト突起パターン形成面にフルオロカーボン(CHF3)剥離膜が形成されており、 前記ステップ(f)において、不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させる前に、不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面と、前記合成樹脂基板の貼合せ面の表面改質処理を行い、 前記ステップ(g)において、不完全硬化状態のPDMS基板を再加熱することにより完全に硬化させることを特徴とする請求項5に記載の製造方法である。 請求項7の発明は、少なくとも2枚の基板からなり、少なくとも一方の基板に微細な流路が形成され、他方の基板は前記一方の基板の微細流路形成面側に貼合わされているマイクロチップの製造方法において、 (a)上面に所定の形状のレジスト突起パターンを有するマスターを準備するステップと、 (b)前記マスターのレジスト突起パターン面にPDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を塗布するステップと、 (c)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液塗布層の上面に支持部材を貼合わせるステップと、 (d)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を加熱して前記PDMSプレポリマーを硬化させるが、不完全硬化状態で加熱を停止するステップと、 (e)不完全硬化状態のPDMS基板と、支持部材との貼合せ複合体を前記マスターから剥離するステップと、 (f)前記マスターから剥離された前記不完全硬化状態のPDMS基板と、支持部材との貼合せ複合体の不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面側に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させて貼り合わせるステップと、 (g)不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるステップとからなることを特徴とするマイクロチップの製造方法である。 請求項8の発明は、前記ステップ(a)において、前記レジスト突起パターン形成面にフルオロカーボン(CHF3)剥離膜が形成されており、 前記ステップ(f)において、不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させる前に、不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面と、前記合成樹脂基板の貼合せ面の表面改質処理を行い、 前記ステップ(g)において、不完全硬化状態のPDMS基板を再加熱することにより完全に硬化させることを特徴とする請求項7に記載の製造方法である。 請求項9の発明は、前記支持部材はポリスチレン板、アクリル樹脂板、ポリスチレンフィルム、アクリル樹脂フィルム及び完全硬化PDMS板からなる群から選択されることを特徴とする請求項1、3、5又は7に記載の方法である。 請求項10の発明は、前記材質がPDMS以外の合成樹脂基板はポリスチレン及びポリエチレンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1、3、5又は7に記載の方法である。 本発明によれば、PDMS基板と、材質がPDMS以外の合成樹脂基板とを再現性良く安定的に恒久接着させることができる。PDMS基板に材質がPDMS以外の合成樹脂基板を恒久接着させたマイクロチップは次のような利点を有する。 (1)マイクロチップの廃棄が行い易い。 使用済みのマイクロチップには、人体に有害な薬液やウイルスに汚染されたサンプルが残留している場合がある。従って、使用後のマイクロチップは、そのまま一括で廃棄処分する、いわゆる使い捨て(ディスポーザブル)タイプであることが望まれる。マイクロチップを全てプラスチック樹脂から製造することができれば、そのまま高温で焼却処理することができ、バイオハザード防止の観点から安全かつ経済的である。 これまで多くの器材や器具を用いていた検査・解析の作業が、今後小さなマイクロチップ内に集約されることで、汚染されたそれらの器材や器具類を作業後に処分したり洗浄したりする必要がなくなる。これはマイクロチップが有する最大の利点の一つである。マイクロチップが使い捨てとできるかどうかは、マイクロチップの実用化の点で大きな鍵となる。 (2)樹脂製マイクロチップは割れる恐れが低く、取り扱いが容易になる。 (3)樹脂基板への穴や溝、切り欠き、ノッチなどの機械加工は比較的容易にできる。 (4)樹脂基板は量産性に極めて優れた射出成形により作製することができる。 ポリエチレンやポリスチレンなどの熱可塑性樹脂は、量産性に極めて優れた射出成形により基板とすることができる。この射出成形の際、単なる板状に成形するだけでなく、穴や溝なども同時に成形することができるという利点がある。また、近年、金型技術の進歩などにより、射出成形でもミクロンオーダーの微細な流路などが成形できるようになってきたことは注目される。すなわち、高い生産性のある射出成形で樹脂による微細構造を成形し、その封止のために微細構造を有しない単なるPDMS基板を恒久接着してマイクロチップとすることも可能となってきた。 (5)一般的に、材料費が安価である。 エンジニアリングプラスチックなどとは異なり、ポリエチレンやポリスチレンなどの汎用プラスチックは、原料単価が極めて安い。 (6)樹脂は質量が小さく、マイクロチップの軽量化が可能である。 (7)疎水性や親水性などの特性を変化させることができる。 樹脂は一般に疎水性であるが、酸素プラズマやエキシマUVといった表面改質処理を施すことにより、容易に良好な親水性を示すようになるため、液体を取り扱う種類のマイクロチップにおいては、液体導入が容易になるなどの利点がある。 (8)マイクロチップの用途が拡大される。 樹脂として特にポリスチレンは、シャーレやマイクロタイタープレートなどのような生化学実験器具の形成材料に使用されるように、細胞の吸着性に優れるなど生物系の実験に適した材料である。これは主にポリスチレンが副鎖としてフェニル基(−C6H5)を有するポリマーであることに起因する。このことは同時に、その他の有益な官能基又は置換基により修飾し易いという特性も示す。こうした特異な性質を有するポリスチレンを、マイクロチップの部材として使用することは、マイクロチップの用途を大きく広げる可能性がある。 以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施態様について説明する。図1は本発明のPDMS基板と合成樹脂基板との接着方法の一例を示す工程図である。 先ず、ステップ(a)において、支持部材1を準備する。必要に応じて、支持部材1の上面を予めフルオロカーボン(CHF3)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理することができる。このフルオロカーボン存在下の反応性イオンエッチング処理は、後のステップにおいて、PDMSの支持部材1からの離型性を改善する。 次いで、ステップ(b)において、支持部材1のCHF3処理面又は非処理面に、PDMSプレポリマーと硬化剤を適度な割合で混合し、脱気したPDMSプレポリマー混合液3をスピンコートや、単に水平に置かれた支持部材1上に垂れ流し重力により自然と平坦になるのを待つなどの常法により所定の厚さになるように塗布する。この際、型枠を使用し、鋳込み型とし、その中にPDMSプレポリマー混合液を流し込んで型取りすることもできる。塗布するPDMSプレポリマー混合液の厚さは最終的なPDMS基板の強度を考慮すると、数mm程度あるほうが好ましい場合がある。PDMSプレポリマー混合液としては、例えば、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERが好適に使用できる。これは液状のPDMSプレポリマーと硬化剤を10対1の割合で混合するものである。 その後、ステップ(c)において、塗布されたPDMSプレポリマー混合液を加熱して不完全硬化させる。PDMSプレポリマー混合液を適度に加熱すると透明性の高いゴム状の樹脂5として硬化する。硬化時間は加熱温度に反比例する。例えば、25℃では24時間、65℃では4時間、100℃では1時間、150℃では15分間で完全硬化する。従って、本発明では、例えば、加熱温度を50℃〜70℃の範囲内とし、加熱時間を20分間〜30分間程度に留めることによりPDMSを不完全硬化状態とすることができる。加熱温度が70℃超になると、プラスチック素材からなる支持部材を使用した場合に、支持部材に熱変形などの悪影響が出るので好ましくない。加熱温度が50℃未満の場合、処理時間が長くなり、作業性が低下するので好ましくない。不完全硬化状態のPDMS5は既に液状ではなくなり、モールド型の微細構造が転写される程度には硬化しているが、PDMSの持つ吸着性や弾力性は完全硬化した場合に比べて未だ非常に高い状態である。 次いで、ステップ(d)において、前記のようにして製作された不完全硬化状態のPDMS5を、支持部材1から引き剥がすことなく、支持部材1に接していない面(すなわち、大気に曝露されている面)に対して表面改質処理を行う。表面改質処理を行うとPDMS基板表面に水酸基が形成され、その水酸基の作用により樹脂基板との接着性が改善される効果が得られる。表面改質処理は例えば、PDMS基板の露出表面に酸素プラズマを照射するか又はエキシマUV光を照射することにより実施できる。酸素プラズマやエキシマUV光によって発生したオゾンや励起酸素原子が、直接処理面に到達して表面改質作用を発揮する。 その後、ステップ(e)において、不完全硬化状態のPDMS基板5の表面改質処理された面上に樹脂基板7を貼り合わせる。樹脂基板のPDMS基板との貼合せ面側には微細構造9(例えば、マイクロチャネルなど)が予め形成されていてもよい。 次いで、ステップ(f)において、PDMS基板5と樹脂基板7を貼り合わせた複合体11を再加熱し、不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させる。樹脂基板7を貼り合わせた直後は未だPDMSが完全硬化していない。そのまま室温で一定時間放置しても完全硬化させることができるが、硬化まで長い時間を要する。そこで、硬化時間を早めるために、本発明では樹脂基板7の貼り合わせ後に再加熱を行う。再加熱は樹脂基板に悪影響の出ない温度を使用して実施することが好ましい。例えば、ポリスチレンの場合、熱変形温度は約90℃なので、再加熱の温度は80℃程度を上限とすることが好ましい。具体的には、50℃〜70℃の範囲内の温度で、不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるのに必要十分な時間にわたって加熱処理することにより行う。再加熱の開始は、PDMS基板5と合成樹脂基板7との接着が完了してからでもよく、また完了する前に再加熱を開始してもよい。 この完全硬化が完了した段階で完成品とすることもできるが、その後、ステップ(g)において、必要に応じて支持部材1から完全硬化PDMS基板5と樹脂基板7との貼合せ複合体11を剥離する。図示されていないが、得られた貼合せ複合体11について更に外形トリミング(外形を切断して形状を整えること)や入出力ポートとなる穴開け加工を施して最終的にマイクロチップとして完成させる。 本発明の方法で支持部材1を使用する理由は、不完全硬化のPDMSは粘着性があり、特に薄い板状のものは破れ易く、不完全硬化のPDMSを手で把持して樹脂基板に貼り合わせることは極めて困難なので、不完全硬化のPDMSを支持部材1の上面で一旦板状に形成し、支持部材1に支持された状態のまま不完全硬化PDMSに樹脂基板を貼り合わせなければならないからである。本発明の方法で使用できる支持部材1としては、PDMS基板5の透明性を確保するために、PDMS基板5と接する面が鏡面仕上げされていることが好ましい。支持部材1の接合面が鏡面仕上げされていることにより、完全硬化後の引き剥がしが容易になるという利点がある。支持部材1としては各種の材料が利用できる。合成樹脂(例えば、ポリスチレン又はポリメチルメタクリレートなど)又は或る程度の強度を有する合成樹脂フィルム(ポリスチレンフィルム又はポリメチルメタクリレートフィルムなど)を使用できる。また、完全硬化したPDMSも支持部材として使用することもできる。支持部材1の厚さは一般的に、数mm〜数十mm程度であることが好ましい。 本発明の方法で使用できる合成樹脂基板7としては、ポリエチレン又はポリスチレンなどの熱可塑性プラスチックなどが好適である。これらのプラスチック基板はPDMS基板と恒久接着することができる。合成樹脂基板7の厚さは数mm程度であることが好ましい。合成樹脂基板7があまり薄すぎると、合成樹脂基板内にマイクロチャネルなどの微細構造を形成するのが困難になる。 本発明の方法において、不完全硬化状態のPDMS基板5が合成樹脂基板7と接着し易い理由は、恒久接着の現象そのものが未だ十分に解明されていないので、正確に説明できるとは思われないが、概ね次のようなものであると推察される。不完全硬化のPDMSが呈する吸着性(粘着性に近い)や弾力性及び柔軟性が、恒久接着に必要なPDMS基板と合成樹脂基板との密着性を良くしているものと思われる。これは特に、平滑性が不十分な合成樹脂基板に対し有効である。また、不完全硬化のPDMSでは、未だ重合反応が進んでいる活性な状態にあり、これが恒久接着にも有利に働く可能性がある。 本発明の方法によって得られる、PDMS基板5と合成樹脂基板7との接着の程度は、PDMSとガラスとの間で行われる恒久接着と同等か、それに近いものである。具体的にPDMSとガラスとの良好な恒久接着では、ガラスよりPDMSを引き剥がそうとするとPDMSが千切れ、ガラスにPDMSの跡が残るものである。また、それに近い接着の程度とは、PDMSが千切れることなく引き剥がせるが、PDMSの吸着性だけで貼り付いている程度よりも遙かに高いものである。 図2は図1に示された本発明の方法において、支持部材1として完全硬化のPDMS基板を使用した実施態様を示す概要断面図である。完全硬化のPDMS基板1の上面にPDMSプレポリマー混合液を塗布して加熱処理し、不完全硬化PDMS層5を形成させ、合成樹脂基板7を貼り合わせてから再加熱処理すると、PDMS製の支持部材1とPDMS層5とはほぼ一体のPDMS基板となる。従って、この実施態様では、完成後もPDMS製の支持部材1は剥離されることなく、そのままマイクロチップの部材として使用される。 図3はPDMS基板内にマイクロチャネルなどの微細構造が形成されているマイクロチップの製造方法の一例を示す工程図である。 先ず、ステップ(a)において、上面にマイクロチャネルなどの原型となる微細構造13を有するマスター15を準備し、必要に応じてこのマスター15の上面を予めフルオロカーボン(CHF3)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、離型膜を形成させておく。そして、このマスター15の上面にPDMSプレポリマーと硬化剤を適度な割合で混合し、脱気したPDMSプレポリマー混合液3を流し込むか又はスピンコートなどの常法により塗布する。なお、微細構造13を有するマスター15自体は公知慣用の光リソグラフィー技術により作製することができる。このようなマスターの作製方法の詳細は当業者に周知であり、特段の説明は不要であろう。 次いで、ステップ(b)において、塗布されたPDMSプレポリマー混合液を加熱して不完全硬化させる。 その後、ステップ(c)において、前記のようにして製作された不完全硬化状態のPDMS5Aを、マスター15から引き剥がすことなく、マスター15に接していない面(すなわち、大気に曝露されている面)に対して、必要に応じて、表面改質処理を行い、不完全硬化状態のPDMS基板5Aの表面改質処理された面上に支持部材1Aを貼り合わせる。 次いで、ステップ(d)において、支持部材1Aと不完全硬化PDMS基板5Aとの貼合わせ複合体17をマスター15から引き剥がす。 その後、ステップ(e)において、マスター15から引き剥がされた貼合わせ複合体17の不完全硬化PDMS基板5Aの露出面と、合成樹脂基板7Aの貼り合わせ面とを、必要に応じて、表面改質処理を行い、不完全硬化状態のPDMS基板5Aの表面改質処理された面(すなわち、微細構造9Aを有する面)上に合成樹脂基板7Aを貼り合わせ、再加熱するか又は室温で放置してPDMSを完全に硬化させ、支持部材1Aと不完全硬化PDMS基板5Aと合成樹脂基板7Aとからなる貼合わせ複合体19を得る。図示されていないが、得られた貼合せ複合体19Aについて更に外形トリミング(外形を切断して形状を整えること)や入出力ポートとなる穴開け加工を施して最終的にマイクロチップとして完成させる。 図4は、PDMS基板5Aと合成樹脂基板7のどちら側にもマイクロチャネルなどの微細構造9を有する貼り合わせ複合体19Aの実施態様を示す概要断面図である。図4に示された貼り合わせ複合体19Aにおける合成樹脂基板は図1に示された合成樹脂基板7と同一又は同等なものである。 図3に示される方法において使用される支持部材1Aは次の2つの要件を満たすことが好ましい。(a)不完全硬化PDMS基板との接着が比較的短時間で可能であること。 PDMSは一般的に難接着性材料であり、その接着方法は限られる。また、接着に長い時間を要すると、その間に不完全硬化のPDMS基板の硬化が進んでしまうため、比較的短時間で接着が完了することが好ましい。(b)型から引き剥がしやすいように弾性であること。 型はリジッドであるため、そこから引き剥がすには、支持部材側がしなる(すなわち、或る程度コシがある)ことが必要である。 図3に示される方法において使用される支持部材1Aとしては、合成樹脂(例えば、ポリスチレン又はポリメチルメタクリレートなど)又は或る程度の強度を有する合成樹脂フィルム(ポリスチレンフィルム又はポリメチルメタクリレートフィルムなど)などを使用できるが、完全硬化PDMS基板が最も好ましい。2mm〜10mm程度の厚さの完全硬化PDMS基板は適度なゴム弾性を有し、マスター15からの引き剥がしは容易となる。不完全硬化PDMS基板5Aと、完全硬化PDMS基板からなる支持部材1Aとの接着方法としては次の3種類がある。(a)恒久接着 PDMS同士は恒久接着が可能で、最適な条件で表面改質処理したPDMS同士は、貼り合わせた瞬間に恒久接着が完了する、恒久接着による接着面は透明であり、ほぼ一体的なPDMS基板となる点においても有利である。(b)プライマー処理と接着剤 それぞれのPDMS基板の表面を適当な薬剤(プライマー)で処理し、その後に瞬間接着剤などの接着剤を用いて接着する。この接着方法では接着面の透明性が損なわれるという欠点がある。(c)シリコン一液型室温硬化性ゴムで接着する 室温硬化性の一液型シリコンゴムはそのままでもPDMSに接着する。但し、接着面は不透明となる欠点がある。 支持部材1AとしてPDMS以外の材料を用いる場合に、接着剤やシリコンゴムが必要になることがある。 図5は、PDMS基板内にマイクロチャネルなどの微細構造が形成されているマイクロチップの別の製造方法を示す工程図である。 先ず、ステップ(a)において、上面にマイクロチャネルなどの原型となる微細構造13を有するマスター15を準備し、必要に応じてこのマスター15の上面を予めフルオロカーボン(CHF3)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、離型膜を形成させておく。そして、このマスター15の上面にPDMSプレポリマーと硬化剤を適度な割合で混合し、脱気したPDMSプレポリマー混合液3を流し込むか又はスピンコートなどの常法により塗布する。 次いで、ステップ(b)において、PDMSプレポリマー混合液3の上から支持部材1Aを貼り合わせる。この時、PDMSプレポリマー混合液3と支持部材1Aとの間に空気を挟み込まないように注意する。マスター15と支持部材1AをPDMSプレポリマー混合液3で接着するような作業となる。PDMSプレポリマー混合液3の塗布厚は数百μm程度が好ましい。正確な厚さを必要とする場合は、マスター15と支持部材1Aとの間に所望のスペーサを適宜挿入する。 その後、ステップ(c)において、貼り合わせ複合体を加熱し、PDMSプレポリマー混合液を加熱し、不完全硬化状態のPDMS基板5Aを形成する。 次いで、ステップ(d)において、支持部材1Aと不完全硬化PDMS基板5Aとの貼合わせ複合体17をマスター15から引き剥がす。これは、PDMSプレポリマーは硬化すると支持部材1Aとの間で或る程度の接着性を示すため、この特性を利用している。接着力は支持部材1Aの材質などによって異なる。接着性を高くするには、支持部材1AのPDMSとの貼り合わせ面に或る程度の面粗さを持たせるとよい。また、相対的にマスターとPDMS基板5Aとの接着性を低くし、引き剥がし易くしておくことが好ましい。このため、ステップ(a)において、マスター15の表面に離型膜を形成させておくことが好ましい。 その後、ステップ(e)において、マスター15から引き剥がされた貼合わせ複合体17の不完全硬化PDMS基板5Aの露出面と、合成樹脂基板7Aの貼り合わせ面とを、必要に応じて、表面改質処理を行い、不完全硬化状態のPDMS基板5Aの表面改質処理された面(すなわち、微細構造9Aを有する面)上に合成樹脂基板7Aを貼り合わせ、再加熱するか又は室温で放置してPDMSを完全に硬化させ、支持部材1Aと不完全硬化PDMS基板5Aと合成樹脂基板7Aとからなる貼合わせ複合体19を得る。図示されていないが、得られた貼合せ複合体19について更に外形トリミング(外形を切断して形状を整えること)や入出力ポートとなる穴開け加工を施して最終的にマイクロチップとして完成させる。 図5に示された方法において使用される支持部材1Aとしては、完全硬化したPDMS基板が最も好ましいが、合成樹脂(例えば、ポリスチレン又はポリメチルメタクリレートなど)又は或る程度の強度を有する合成樹脂フィルム(ポリスチレンフィルム又はポリメチルメタクリレートフィルムなど)なども使用できる。なお、場合によっては支持部材1Aを取り除くことも可能である。透明性を必要とするマイクロチップでは、不透明な支持部材1Aは取り除いて使用する。特に、支持部材1Aとして鏡面を転写した完全硬化PDMS基板を使用した場合、PDMSプレポリマーとの間で適度な接着性を有するので、貼り合わせたまま使用してもよく、取り除いてもよい。図5に示された方法の利点は、PDMS基板5Aと支持部材1Aとの接着に接着剤などを使用する必要が無いこと、及び、支持部材1Aとして完全硬化PDMS基板を使用した場合、下部のPDMS基板5Aと光学的に一体的なPDMS基板となることである。 厚さ1mm、縦横各10mmのサイズのポリスチレン製支持部材の一方の表面をフルオロカーボン(CHF3)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、表面にCHF3剥離膜を形成した。支持部材の剥離膜形成面上に、PDMSプレポリマー混合液として、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを厚さ0.5mmになるようにスピンコート法により塗布した。PDMSプレポリマー混合液が塗布された支持部材を、前もって60℃に加熱したオーブンに入れた。オーブン内の空気はファンにより適宜撹拌した。 30分間経過後に、オーブンから不完全硬化PDMS基板を有する支持部材を取り出し、別に用意した厚さ1mm、縦横各10mmサイズで、一方の表面に幅100μm、深さ20μm、長さ5mmのマイクロチャネルが形成されているポリスチレン基板と共に、反応性イオンエッチング装置内で酸素プラズマにより各貼り合わせ面の表面改質処理を行った。表面改質処理条件は酸素ガス流量20SCCM、チャンバー内圧力20Pa、RF出力25W、RF印加時間5秒間であった。 表面改質処理の後、直ちに支持部材の不完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板のマイクロチャネル形成面を密着させて貼り合わせ、そのまま24時間放置した。放置後のPDMS基板は完全に硬化していた。その後、支持部材を剥離した。 完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板との接着強度を測定するため剥離試験を行った。完全硬化PDMS基板の端部を把持し、ポリスチレン基板から剥離するために力を加えたところ、ポリスチレン基板から剥がれるのではなく、PDMS基板が千切れてしまった。この結果から、完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板とが恒久接着していることが確認された。 表面改質処理条件を、RF出力10W〜25W、RF印加時間5秒間〜10秒間の範囲内で様々に変化させて、PDMS基板とポリスチレン基板との接着強度を測定したが、何れも恒久接着が形成されていることが確認された。 実施例1に述べた方法の通りに表面改質処理した後、直ちに支持部材の不完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板を密着させて貼り合わせた。その後、PDMS基板は完全に硬化していた。その後、支持部材を剥離した。次いで、実施例1に述べた方法と同様な方法により接着強度を測定したところ、完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板とが恒久接着していることが確認された。 支持部材として、厚さ3mm、縦横各10mmのサイズの完全硬化PDMS基板を使用した。この完全硬化PDMS基板表面にCHF3剥離膜を形成することなく、PDMSプレポリマー混合液として、SYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを厚さ1mmになるようにスピンコート法により塗布した。PDMSプレポリマー混合液が塗布された完全硬化PDMS支持部材を、前もって60℃に加熱したオーブンに入れた。オーブン内の空気はファンにより適宜撹拌した。 30分間経過後に、オーブンから不完全硬化PDMS基板を有する完全硬化PDMS支持部材を取り出し、別に用意した厚さ1mm、縦横各10mmサイズで、一方の表面に幅100μm、深さ20μm、長さ5mmのマイクロチャネルが形成されているポリスチレン基板と共に、反応性イオンエッチング装置内で酸素プラズマにより各貼り合わせ面の表面改質処理を行った。表面改質処理条件は酸素ガス流量20SCCM、チャンバー内圧力20Pa、RF出力25W、RF印加時間5秒間であった。 表面改質処理の後、直ちに支持部材の不完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板のマイクロチャネル形成面を密着させて貼り合わせ、この貼り合わせ体を再度60℃のオーブンに入れ、4時間経過後に取り出した。支持部材とポリスチレン基板との間のPDMS基板は完全に硬化していた。また、この中間PDMS基板は下部のPDMS支持部材と一体化していた。 支持部材と一体化した完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板との接着強度を測定するため剥離試験を行った。支持部材と一体化した完全硬化PDMS基板の端部を把持し、ポリスチレン基板から剥離するために力を加えたところ、ポリスチレン基板から剥がれるのではなく、支持部材と一体化した完全硬化PDMS基板が千切れてしまった。この結果から、支持部材と一体化した完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板とが恒久接着していることが確認された。 厚さ625μm、縦横各10mmサイズのシリコン基板の一方の表面上に、高さ20μm、幅100μm、長さ3mmのレジスト突起パターンを常法により形成した。このシリコンマスターのレジストパターン形成面に、フルオロカーボン(CHF3)の存在下で反応性イオンエッチングシステムで処理することによりCHF3剥離膜を形成した。次いで、レジストパターン形成面に、PDMSプレポリマー混合液として、SYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを厚さ1mmになるようにスピンコート法により塗布した。PDMSプレポリマー混合液が塗布されたシリコンマスターを、前もって60℃に加熱したオーブンに入れた。オーブン内の空気はファンにより適宜撹拌した。 30分間経過後に、オーブンから不完全硬化PDMS基板を有するシリコンマスターを取り出し、別に用意した厚さ1mm、縦横各10mmサイズのポリスチレン支持部材と共に、反応性イオンエッチング装置内で酸素プラズマにより各貼り合わせ面の表面改質処理を行った。表面改質処理条件は酸素ガス流量20SCCM、チャンバー内圧力20Pa、RF出力25W、RF印加時間5秒間であった。表面改質処理終了後、不完全硬化PDMS基板の表面にポリスチレン支持部材を密着させて貼り合わせた。 その後、シリコンマスターから不完全硬化PDMS基板とポリスチレン支持部材との貼合わせ体を剥離した。この貼合わせ体を、別に用意した厚さ1mm、縦横各10mmサイズで、一方の表面に幅100μm、深さ20μm、長さ5mmのマイクロチャネルが形成されているポリスチレン基板と共に、反応性イオンエッチング装置内で酸素プラズマにより各貼り合わせ面の表面改質処理を行った。表面改質処理条件は酸素ガス流量20SCCM、チャンバー内圧力20Pa、RF出力25W、RF印加時間5秒間であった。表面改質処理終了後、不完全硬化PDMS基板の表面にポリスチレン基板のマイクロチャネル形成面を密着させて貼り合わせた。 次いで、ポリスチレン支持部材と不完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板とからなる貼合わせ体を再度60℃のオーブンに入れ、4時間経過後に取り出した。ポリスチレン支持部材とポリスチレン基板との間のPDMS基板は完全に硬化していた。 完全硬化PDMS基板とポリスチレン支持部材及びポリスチレン基板との接着強度を測定するため剥離試験を行った。ポリスチレン支持部材及びポリスチレン基板の端部を把持し、ポリスチレン基板から剥離するために力を加えたところ、ポリスチレン支持部材及びポリスチレン基板から剥がれるのではなく、PDMS基板が千切れてしまった。この結果から、完全硬化PDMS基板とポリスチレン支持部材及びポリスチレン基板とが恒久接着していることが確認された。 実施例4で使用したシリコンマスターと同じシリコンマスターを使用した。更に、実施例4と同様にCHF3剥離膜を形成した。次いで、レジストパターン形成面に、PDMSプレポリマー混合液として、SYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを厚さ1mmになるようにスピンコート法により塗布した。 次いで、PDMSプレポリマー混合液面上に、厚さ1mm、縦横各10mmサイズのポリスチレン支持部材を、間に空気を挟み込まないように慎重に載置し、貼り合わせた。その後、この貼合わせ体を前もって60℃に加熱したオーブンに入れた。オーブン内の空気はファンにより適宜撹拌した。 30分間経過後に、オーブンから、ポリスチレン支持部材と不完全硬化PDMS基板とシリコンマスターからなる貼合わせ体を取り出し、この貼合わせ体からシリコンマスターを剥離し、ポリスチレン支持部材と不完全硬化PDMS基板とからなる貼り合わせ体を回収した。この貼合わせ体を、別に用意した厚さ1mm、縦横各10mmサイズで、一方の表面に幅100μm、深さ20μm、長さ5mmのマイクロチャネルが形成されているポリスチレン基板と共に、反応性イオンエッチング装置内で酸素プラズマにより各貼り合わせ面の表面改質処理を行った。表面改質処理条件は酸素ガス流量20SCCM、チャンバー内圧力20Pa、RF出力25W、RF印加時間5秒間であった。表面改質処理終了後、不完全硬化PDMS基板の表面にポリスチレン基板のマイクロチャネル形成面を密着させて貼り合わせた。 次いで、ポリスチレン支持部材と不完全硬化PDMS基板とポリスチレン基板とからなる貼合わせ体を再度60℃のオーブンに入れ、4時間経過後に取り出した。ポリスチレン支持部材とポリスチレン基板との間のPDMS基板は完全に硬化していた。 完全硬化PDMS基板とポリスチレン支持部材及びポリスチレン基板との接着強度を測定するため剥離試験を行った。ポリスチレン支持部材及びポリスチレン基板の端部を把持し、ポリスチレン基板から剥離するために力を加えたところ、ポリスチレン支持部材及びポリスチレン基板から剥がれるのではなく、PDMS基板が千切れてしまった。この結果から、完全硬化PDMS基板とポリスチレン支持部材及びポリスチレン基板とが恒久接着していることが確認された。 本発明の接着方法は、医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産など様々な分野で使用されるマイクロチップの製造に好適に利用することができる。特に、本発明の接着方法により製造された樹脂基板マイクロチップは、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なマイクロチップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で使用できる。本発明によるPDMSと樹脂との接着方法の一例を示す工程図である。図1に示された本発明の方法において、支持部材として完全硬化のPDMS基板を使用した実施態様を示す概要断面図である。PDMS基板内にマイクロチャネルなどの微細構造が形成されているマイクロチップの製造方法を示す工程図である。PDMS基板と樹脂基板のどちら側にもマイクロチャネルなどの微細構造を有する貼り合わせ複合体19Aの実施態様を示す概要断面図である。PDMS基板内にマイクロチャネルなどの微細構造が形成されているマイクロチップの別の製造方法を示す工程図である。従来のマイクロチップの一例の概要断面図である。符号の説明 1、1A 支持部材 3 PDMSプレポリマー混合液 5、5A 不完全硬化PDMS基板 7、7A 樹脂基板 9,9A 微細構造11、17、19、19A 貼合わせ複合体13 レジストパターン15 シリコン基板ポリジメチルシロキサン(PDMS)基板と、材質がPDMS以外の合成樹脂基板との接着方法であって、 (a)支持部材の上面にPDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を塗布するステップと、 (b)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を加熱して前記PDMSプレポリマーを硬化させるが、不完全硬化状態で加熱を停止するステップと、 (c)不完全硬化状態のPDMS基板の上面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させて貼り合わせるステップと、 (d)不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるステップとからなることを特徴とする接着方法。前記ステップ(d)において、不完全硬化状態のPDMS基板を再加熱することにより完全に硬化させることを特徴とする請求項1に記載の接着方法。少なくとも2枚の基板からなり、少なくとも一方の基板に微細な流路が形成され、他方の基板は前記一方の基板の微細流路形成面側に貼合わされているマイクロチップの製造方法において、 (a)支持部材の上面にPDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を塗布するステップと、 (b)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を加熱して前記PDMSプレポリマーを硬化させるが、不完全硬化状態で加熱を停止するステップと、 (c)不完全硬化状態のPDMS基板の上面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板のマイクロチャネル形成面を密着させて貼り合わせるステップと、 (d)不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるステップとからなることを特徴とするマイクロチップの製造方法。前記ステップ(a)において、前記支持部材の塗布面にフルオロカーボン(CHF3)剥離膜が形成されており、 前記ステップ(c)において、不完全硬化状態のPDMS基板の上面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させる前に、不完全硬化状態のPDMS基板の上面と、前記合成樹脂基板のマイクロチャネル形成面の表面改質処理を行い、 前記ステップ(d)において、不完全硬化状態のPDMS基板を再加熱することにより完全に硬化させることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。少なくとも2枚の基板からなり、少なくとも一方の基板に微細な流路が形成され、他方の基板は前記一方の基板の微細流路形成面側に貼合わされているマイクロチップの製造方法において、 (a)上面に所定の形状のレジスト突起パターンを有するマスターを準備するステップと、 (b)前記マスターのレジスト突起パターン面にPDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を塗布するステップと、 (c)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を加熱して前記PDMSプレポリマーを硬化させるが、不完全硬化状態で加熱を停止するステップと、 (d)不完全硬化状態のPDMS基板の上面に、支持部材を密着させて貼り合わせるステップと、 (e)不完全硬化状態のPDMS基板と、支持部材との貼合せ複合体を前記マスターから剥離するステップと、 (f)前記マスターから剥離された前記不完全硬化状態のPDMS基板と、支持部材との貼合せ複合体の不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面側に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させて貼り合わせるステップと、 (g)不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるステップとからなることを特徴とするマイクロチップの製造方法。前記ステップ(a)において、前記レジスト突起パターン形成面にフルオロカーボン(CHF3)剥離膜が形成されており、 前記ステップ(f)において、不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させる前に、不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面と、前記合成樹脂基板の貼合せ面の表面改質処理を行い、 前記ステップ(g)において、不完全硬化状態のPDMS基板を再加熱することにより完全に硬化させることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。少なくとも2枚の基板からなり、少なくとも一方の基板に微細な流路が形成され、他方の基板は前記一方の基板の微細流路形成面側に貼合わされているマイクロチップの製造方法において、 (a)上面に所定の形状のレジスト突起パターンを有するマスターを準備するステップと、 (b)前記マスターのレジスト突起パターン面にPDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を塗布するステップと、 (c)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液塗布層の上面に支持部材を貼合わせるステップと、 (d)前記PDMSプレポリマーと硬化剤との混合液を加熱して前記PDMSプレポリマーを硬化させるが、不完全硬化状態で加熱を停止するステップと、 (e)不完全硬化状態のPDMS基板と、支持部材との貼合せ複合体を前記マスターから剥離するステップと、 (f)前記マスターから剥離された前記不完全硬化状態のPDMS基板と、支持部材との貼合せ複合体の不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面側に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させて貼り合わせるステップと、 (g)不完全硬化状態のPDMS基板を完全に硬化させるステップとからなることを特徴とするマイクロチップの製造方法。前記ステップ(a)において、前記レジスト突起パターン形成面にフルオロカーボン(CHF3)剥離膜が形成されており、 前記ステップ(f)において、不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面に、材質がPDMS以外の合成樹脂基板を密着させる前に、不完全硬化状態のPDMS基板のマイクロチャネル形成面と、前記合成樹脂基板の貼合せ面の表面改質処理を行い、 前記ステップ(g)において、不完全硬化状態のPDMS基板を再加熱することにより完全に硬化させることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。前記支持部材はポリスチレン板、アクリル樹脂板、ポリスチレンフィルム、アクリル樹脂フィルム及び完全硬化PDMS板からなる群から選択されることを特徴とする請求項1、3、5又は7に記載の方法。前記材質がPDMS以外の合成樹脂基板はポリスチレン及びポリエチレンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1、3、5又は7に記載の方法。