タイトル: | 特許公報(B2)_全血を用いる測定法 |
出願番号: | 2003427964 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 33/543,G01N 33/531,C12N 9/99 |
岡村 佳和 栗原 隆 横井 宏行 小川 順一 JP 4567326 特許公報(B2) 20100813 2003427964 20031224 全血を用いる測定法 三菱化学メディエンス株式会社 591122956 森田 憲一 100090251 山口 健次郎 100139594 長谷川 曉司 100103997 岡村 佳和 栗原 隆 横井 宏行 小川 順一 20101020 G01N 33/543 20060101AFI20100930BHJP G01N 33/531 20060101ALI20100930BHJP C12N 9/99 20060101ALN20100930BHJP JPG01N33/543 555MG01N33/543 555DG01N33/531 BC12N9/99 G01N 33/543 G01N 33/531 C12N 9/99 特開平02−207800(JP,A) 国際公開第96/004558(WO,A1) 国際公開第01/096868(WO,A1) 特許第3350730(JP,B2) 特開平05−223816(JP,A) 6 2005188987 20050714 14 20060720 淺野 美奈 本発明は、全血を試料とする測定法に関する。さらに詳しくは、全血を含む試料中に含まれる被検物質の測定法において、内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤を用いる方法に関する。 アルカリフォスファターゼは、酵素免疫測定法や酵素免疫染色法等において、抗体の標識体として繁用されている酵素である。アルカリフォスファターゼは動物の体内にも広く存在する酵素であるため、例えば、ヒト由来の試料を用いた場合に、試料中に存在するアルカリフォスファターゼ(以下、これを「内因性アルカリフォスファターゼ」と称することがある)が酵素免疫測定法や酵素免疫染色法の結果に影響を与えることが知られている。 これを回避するため、例えば、内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤を用いる免疫検定のためのキット(例えば、特許文献1参照)や、内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤と界面活性剤を併用してバックグラウンドを低下させるための洗浄組成物(例えば、特許文献2参照)、失活アルカリフォスファターゼを吸収剤として用いる方法(例えば、特許文献3参照)等が報告されている。内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤とは、アルカリフォスファターゼには複数種の種類があることに基づいて、標識体として用いるアルカリフォスファターゼは阻害せず、内因性アルカリフォスファターゼのみを阻害し得る阻害剤である。 一方、近年臨床検査において重要視されているPOCT(Point of Care Testing)分野等においては、小型で取り扱いやすく、医療現場において医師や看護婦が迅速に検査を行えるような装置や検査法が求められている。そのため、POCT分野で用いられる測定装置では、迅速な検査を達成させるために採血後の全血をそのまま用いることが求められている。全血を試料として用いることができれば、検査はより迅速になり、熟練者以外でも簡便に操作することができ、また、遠心分離機等の大型機器が不要となるためである。 しかし、全血を試料として用いると、夾雑物質が非常に多く含まれるために、バックグラウンドが高くなって測定の精度が低下したり、微量の被検物質の測定が困難になったりといった問題が生じていた。特にバックグラウンドの上昇は、正しい検査値が得られなかったり、誤判定を生じたりする等、臨床検査において重大な問題を引き起こす可能性があるが、そのような問題を回避するための手法は未だ確立されているとは言い難い。例えば、近年、アルカリフォスファターゼとそれに対する高感度の化学発光基質とを用いる化学発光免疫測定法等が確立されつつあるが、このような高感度の測定法であるほど、全血を試料として用いるとバックグラウンドが大きく上昇してしまい、十分な測定精度が得られないという問題が生じることがあった。しかしその原因は、何らかの夾雑物質による妨害、血球膜等の夾雑蛋白質の非特異的吸着等、複数にわたると考えられ、詳細は未解明であった。現在、このような問題を解決し、高感度かつ高精度の全血を試料として用いる測定法の確立が切望されている。特公平8−20446号公報特許第3350730号公報特開2000−193666号公報 本発明は、全血を試料として用いる測定法を提供するためになされたものである。 本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、全血を試料として用いる測定法において、内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤の存在下で酵素反応を行うことにより、全血を試料として用いた場合に特有のバックグラウンドの上昇が大きく抑制されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。 すなわち本発明によれば、(1)全血を含む試料と、不溶性担体に担持され当該試料中に含まれる被検物質に特異的に結合する第1の物質、および前記被検物質に特異的に結合するアルカリフォスファターゼで標識化された第2の物質とを含む反応系を形成させ、被検物質と第1および第2の物質とを反応させる反応工程、および、形成された反応生成物を前記アルカリフォスファターゼによる酵素反応に基づき測定する測定工程を含む被検物質の測定法であって、少なくとも該測定工程が内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤の存在下で行われることを特徴とする方法、(2)内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤が、レバミソール、テトラミゾール、ホモアルギニン、および、それらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも一種の物質である上記(1)に記載の方法、(3)内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤が、標識体として用いるアルカリフォスファターゼの基質溶液に添加されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の方法、(4)内因性アルカリフォスファターゼが血球成分由来のものである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法、(5)基質が、1,2−ジオキセタン系化合物またはアクリダンフォスフェート系化合物である上記(3)に記載の方法が提供される。また、本発明の別の態様からは、(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法に用いるための試薬キットであって、少なくとも内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤を含むことを特徴とするキット、(7)内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤が、標識体として用いるアルカリフォスファターゼの基質溶液に添加されていることを特徴とする上記(6)に記載のキットが提供される。 本発明によれば、全血を試料として用いる測定法において、アルカリフォスファターゼとそれに対する高感度の化学発光基質を用いた場合でも、バックグラウンドを低減し、精度の高い測定を行うことができる。 以下、本発明を更に詳細に説明する。1.本発明の測定法 本発明の被検物質の測定法は、全血を含む試料と、不溶性担体に担持され当該試料中に含まれる被検物質に特異的に結合する第1の物質、および前記被検物質に特異的に結合するアルカリフォスファターゼで標識化された第2の物質とを含む反応系を形成させ、被検物質と第1および第2の物質とを反応させる反応工程、および、形成された反応生成物を前記アルカリフォスファターゼによる酵素反応に基づき測定する測定工程を含む被検物質の測定法であって、該測定工程が内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤の存在下で行われることを特徴とする方法である。(1)試料および被検物質 全血を含む試料としては、例えば、全血そのものが挙げられる。全血とは、ヒト等の測定対象から採取された血液そのものであり、血球等が未分離のものを意味する。ただし、本発明においては、この全血に適当な緩衝液等を混合して希釈したもの、血液凝固阻害剤やプロテアーゼ阻害剤等の添加剤を添加したもの等も同様に用いることができる。 全血を希釈するための緩衝液としては、例えば、全血中の血球成分が溶血したり、種々の成分が変質したりしないような量もしくは性質の溶液であれば任意に選択して用いることができる。具体的には、例えば、リン酸緩衝液(Phosphate-buffered saline; PBS)、生理食塩水、生理的塩類溶液等の、生理的なpH、浸透圧、塩濃度等に調整された溶液等を用いることができる。また、そのように調整された溶液以外のものでも、血球成分やその他の成分に影響を与えないような程度の量であれば混合することができる。ただし、ここで、被検物質が全血中にごく微量にしか含まれていない物質である場合には、全血そのもの、もしくは混合割合が低いものを用いて測定を行うことが好ましい。 血液凝固阻害剤としては、例えば、ヘパリン、EDTA、クエン酸等を用いることができる。これらは、好ましくは、ヒト等の測定対象から採血を行う際に、あらかじめ採血管等に添加して用いることができる。 本発明では、このような試料中に含まれる被検物質を測定する。被検物質としては、例えば、抗原、抗体、タンパク質、リガンド、酵素、基質、DNA、ベクターDNA、RNA、又はプラスミド等の、免疫学的物質、生物学的物質、分子生物学的物質等が挙げられる。その具体例としては、例えば、B型肝炎ウィルス表面抗原(HBsAg)、C型肝炎ウィルス(HCV)抗体および抗原、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)抗体、ヒトT細胞白血病ウィルス−1(HTLV−1)抗体、梅毒トレポネーマ(TP)抗体等が挙げられる。また、各種心筋マーカー(クレアチンキナーゼ(CKMB)、ミオグロビン、トロポニン)、D−ダイマー(D−Dimer)、フィブリン分解産物(FDP)、C反応性蛋白(CRP)、糖鎖抗原19−9(CA19−9)、がん胎児性抗原(CEA)、糖鎖抗原125(CA125)、前立腺特異抗原(PSA)、各種ホルモン類、血清蛋白等が挙げられる。(2)測定法 本発明においては、上記したような被検物質を、該被検物質に特異的に結合する第1の物質と、該被検物質に特異的に結合するアルカリフォスファターゼで標識化された第2の物質とを用いて測定する。このような第1および第2の物質の組み合わせとしては、抗体と抗原、抗体と抗体、蛋白質とリガンド、糖鎖とレクチン、相補的な配列を有する核酸等が挙げられ、各々の組み合わせのうち、どちらを第1の物質として用いてもよい。この中でも、抗体と抗原、抗体と抗体の組み合わせが好ましく用いられ、抗体と抗原の組み合わせが特に好ましく用いられる。このように、本発明において「特異的に結合する」とは、生化学的に特異的に結合して反応生成物を形成することを意味する。 また、本発明の測定法は、被検物質に特異的に結合する第1の物質を担持させた不溶性担体と、該被検物質に特異的に結合するアルカリフォスファターゼで標識化された第2の物質とを用いるヘテロジニアスアッセイである。このような方法としては、前記全血を含む試料中の被検物質と第1および第2の物質を反応させる反応工程と、形成された反応生成物を測定する測定工程を含んでいるものであればいかなる方法でもよい。具体的には、例えば、該試料に、不溶性担体に担持された被検物質に特異的に結合する第1の物質、および該被検物質に結合する第2の物質を添加して反応させる方法が挙げられ、被検物質と第1および第2の物質は、同時に反応させてもよいし順に反応させてもよいが、順に反応させることが好ましい。順に反応させる場合、被検物質と第1の物質を反応させて第1の反応生成物を形成させる第1の反応工程の後には、B/F分離(第1の分離工程)を行うことがより好ましい。さらに、B/F分離された第1の反応生成物に第2の物質を反応させて第2の反応生成物を形成させる第2の反応工程の後、2度目のB/F分離(第2の分離工程)を行うことが好ましい。このような操作により、さらに高感度の測定を行うことができる。これらの各工程の条件等は、被検物質とそれと特異的に結合する物質の組み合わせに応じて適宜選択すればよい。 例えば、全血中に含まれるある抗原を被検物質として、これを測定する場合には、該抗原に特異的に結合する抗体(第1の物質)を担持させた不溶性担体、およびアルカリフォスファターゼで標識化されたもう一つの抗体(第2の物質)とを混合して免疫複合体を形成させ、洗浄によって未反応の抗体および抗原を除去(B/F分離)した後、不溶性担体に結合したアルカリフォスファターゼの量を測定することによって行うことができる。より具体的には、例えば、全血を含む試料と第1の抗体を担持させた磁性粒子(不溶性担体)とを反応槽に分注、攪拌した後、所定の温度・時間で抗原抗体反応を行わせる。反応後、磁力を利用したB/F分離により未反応の物質を反応槽から排除する。次に、アルカリフォスファターゼで標識化された第2の抗体を反応槽に分注し、所定の温度・時間で反応させ、再び磁力を利用したB/F分離を行って未反応の抗体を排除する。最後に、生成した反応生成物中に含まれるアルカリフォスファターゼの量を測定すれば、被検物質量を測定することができる。 不溶性担体としては、測定に用いられる種々の溶液に実質的に不溶性のものであれば特に限定されないが、磁性粒子、ポリスチレン等の高分子またはそのラテックス、ゼラチン、リポソーム等を用いるのが好ましい。中でも、迅速簡便なB/F分離を実現する観点においては磁性粒子が特に好ましく、具体的には、例えば、四酸化三鉄(Fe3O4)、三酸化二鉄(Fe2O3)、種々のフェライト、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロムなどの金属、コバルト、ニッケル、マンガンなどの合金からなる微粒子等の磁性粒子が好ましく用いられる。また、これらの磁性粒子を、ポリスチレン等の高分子のラテックスや、ゼラチン、リポソーム等の内部に含まれる形で調製したり、表面に固定化したものを好ましく用いることができる。 これらの不溶性担体の粒径は、精度良くB/F分離を行うことができればいかなる大きさでもよいが、粒径が小さすぎると分離の効率が悪く、凝集し易くなり、大きすぎると沈殿し易くなる。従って、粒径の下限は、0.05μm、好ましくは0.1μm、上限は10μm、好ましくは4μm、より好ましくは3μmが適当であり、粒径の範囲はこれら上限と下限の組み合わせから選ばれる。担体の粒径の具体的範囲としては、通常、0.05〜10μm、好ましくは0.05〜4μm、より好ましくは0.1〜4μm、特に好ましくは1〜3μmである。 このような不溶性担体への、被検物質に特異的に結合する第1の物質の担持は、それ自体公知の通常用いられる方法により行うことができる。具体的には、例えば、化学結合法、物理吸着法等が挙げられる。 かくして調製される不溶性担体を用いた測定法におけるB/F分離は、フィルター法、二抗体法、沈降法等により行うことができるが、中でも磁性粒子の場合には、永久磁石、電磁石等で磁場を与え、磁力を利用することにより、迅速簡便に行うことができる。 反応生成物中に含まれるアルカリフォスファターゼの量を測定する測定工程は、アルカリフォスファターゼによる酵素反応に基づいて行われる。すなわち、アルカリフォスファターゼによる酵素反応を行い、反応によって基質から生じた発光、発色、蛍光等(以下、これらを総称して「シグナル」と称することがある)の量を測定することによりアルカリフォスファターゼの量を求めることができる。本発明においては、これらの中でも、発光の量を測定する方法(以下、これを「化学発光法」と称することがある)が好ましく用いられる。各測定法およびそれに用いる装置等は、基質に応じて、それ自体公知の通常用いられるものの中から適宜選択して用いることができる。 アルカリフォスファターゼの基質としては、例えば、化学発光法により測定を行う場合には、1,2−ジオキセタン系化合物またはアクリダンフォスフェート系化合物が好ましく用いられる。1,2−ジオキセタンから誘導された化学発光基質としては、例えば、アダマンチルメトキシフェニルホスホリルジオキシセタン(AMPPD)、2−クロロ−5−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)−1−フェニルリン酸二ナトリウム(商品名「CDP−STAR」:トロピックス社製)等が好ましく用いられる。また、アクリダンフォスフェート系化合物であるAPS−5(ルミジェン社製)等も好ましく用いられる。発色法により測定を行う場合には、4−ニトロフェニルフォスフェート(4-nitrophenylphosphate)等が用いられる。蛍光法により測定を行う場合には、4−メチルウンベリフェリルフォスフェート(4-methylumbelliferylphosphate)等が用いられる。(3)内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤を用いる測定工程 本発明の測定法は、上記した測定工程を、内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤の存在下で行うことを特徴としている。 従来、第2の物質の標識体としてアルカリフォスファターゼを用いる前記のような測定法において、全血を試料として用いると、血漿や血清を用いる場合に比べて特にバックグラウンドが大きく正しい測定結果を得にくいという重大な問題があった。特に、高感度の基質を用いる化学発光法等では、その問題は顕著であった。本発明者らは、その原因を鋭意解析した結果、全血を試料として用いた場合に特に生じるバックグラウンドが大きく上昇する現象が、血球成分に含まれる多量のアルカリフォスファターゼが原因であることを明らかにした。また、この血球由来のアルカリフォスファターゼによるバックグラウンドの上昇が、前記測定工程を内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤の存在下で行うことにより大きく抑制され、高精度の測定が達成されることを見出した。本発明は、これらの問題を解決することにより、全血を試料とする測定を高感度かつ高精度で行うことができるという優れた効果を奏するものである。 ここで、内因性アルカリフォスファターゼとは、標識体として用いるアルカリフォスファターゼ以外の、予め試料中に含まれるアルカリフォスファターゼを意味する。アルカリフォスファターゼには複数のアイソフォームが知られており、本発明においては、このアイソフォームの違いに基づいて、標識体として用いたアルカリフォスファターゼは実質的に阻害せず、内因性アルカリフォスファターゼのみを阻害する機能を有する阻害剤を用いる。ここで、実質的に阻害しないとは、酵素反応における標識体としての機能が実質的に阻害されず、十分な精度で測定結果を与えられる程度であることを意味する。 アルカリフォスファターゼのアイソフォームとしては、例えば、肝臓、腎臓、膀胱、卵巣、唾液腺、骨、好中球、一部のリンパ球等に由来するもの(組織型)、小腸由来のもの(小腸型)、胎盤由来のもの(胎盤型)等が挙げられる。例えば、全血を試料として用い、内因性アルカリフォスファターゼとして血球由来の組織型のものが問題となる場合には、これらを阻害する活性を有する阻害剤を選択すればよい。好ましくは、標識体として小腸型のアルカリフォスファターゼを用い、阻害剤としては組織型のアルカリフォスファターゼに対する阻害剤を用いる。 具体的には、内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤としては、レバミソール、テトラミゾール、ホモアルギニン、L−フェニルアラニン、および、それらの誘導体等が挙げられる。これらの中でも、主に組織型および/または胎盤型のアルカリフォスファターゼを阻害する能力を有する、レバミソール、テトラミゾール、および、ホモアルギニンが好ましく用いられる。その中でも、特異性に優れたレバミソールが特に好ましく用いられる。また、これらのうちいくつかを併用することもできる。これらの物質は、それ自体公知の化合物であり、試薬として購入したり、容易に合成することができる。 阻害剤の添加濃度は、内因性アルカリフォスファターゼの活性を抑制し、測定結果に影響を与えなくさせることのできる量であればよい。ただし、多量に添加しすぎると標識体として用いるアルカリフォスファターゼに悪影響を及ぼす可能性があるので、上限は、そのような影響を与えないような濃度とすることが好ましい。 阻害剤の添加濃度は、例えば、バックグラウンドが測定や結果の判定に影響を与えない程度に十分に低いこと、もしくは、血漿または血清と同程度に低いことを指標にして決定することができる。例えば、標識体を含まないことのほかは全て通常どおりの測定法に従って任意の被検物質を測定すると、試料由来の内因性アルカリフォスファターゼが存在した場合には、これと基質が反応してバックグラウンドの値が上昇する。この系において測定工程に阻害剤、例えばレバミソールを添加し、測定や結果の判定に影響を与えない程度にバックグラウンドの値が低下することを指標に決定すればよい。また、血漿または血清を試料として同様の測定を行った場合に得られるバックグラウンドの値と比較し、これらと同程度に低いことを指標にして決定することもできる。 また、標識体として用いるアルカリフォスファターゼとそれに対する基質の酵素反応から生じるシグナルの量を指標にして決定することもできる。例えば、血漿または血清もしくは緩衝液等を試料として用いた場合のシグナルの量と、全血を試料として用いた場合のシグナルの量が同等になるように前記阻害剤を添加すれば、全血中の血球由来の内因性アルカリフォスファターゼに由来するバックグラウンドを抑制することのできる添加濃度を決定することができる。 かくして決定される阻害剤の添加濃度は、レバミソールの場合、酵素反応時の最終濃度が、下限が通常0.01mM、好ましくは0.1mM、特に好ましくは0.2mMであり、上限が50mM、好ましくは5mM、特に好ましくは1mMである。阻害剤の濃度範囲は、これら下限と上限の組み合わせの範囲として規定されるが、レバミソールの場合、0.01〜50mM、好ましくは0.1〜5mM、特に好ましくは0.2〜1mMである。阻害剤は少なくとも測定工程、すなわち標識体として用いるアルカリフォスファターゼと基質との反応工程に存在するように添加すればよく、添加方法は特に制限されない。 阻害剤は、例えば、基質溶液、反応液、B/F洗浄液等に添加することができるが、好ましくは基質溶液に添加して用いられる。高感度の基質を用いる化学発光法により測定を行う場合には、基質溶液に添加することが特に好ましい。基質溶液に添加することにより、高感度の基質が内因性アルカリフォスファターゼと反応してしまう現象を効果的に抑制することができる。 また、本発明においては、内因性アルカリフォスファターゼとして全血中の血球由来のものがバックグラウンドの上昇の主原因となることから、試料に実質的な溶血が生じないようにすることが好ましい。例えば、試料の溶血を防止するような手法を、本発明の方法と組み合わせて用いることが好ましい。溶血を防止する手法としては、それ自体公知の通常用いられる手法を用いることができる。ここで、実質的な溶血を生じないとは、すなわち、全血を含む試料に溶血が引き起こされないか、または、測定に影響を与えない程度に溶血が少ないことを意味する。 具体的には、例えば、実質的な溶血を起こさないような界面活性剤を添加する方法、生理食塩水等の等張液で調整する方法、細胞核の破壊を防ぐためにマグネシウムイオン等を添加する方法等が挙げられる。また、これらを併用してもよい。実質的な溶血を起こさないような界面活性剤を添加する方法とは、実質的な溶血を起こさず、被検物質とそれに特異的に結合する第1および第2の物質との反応を実質的に阻害せず、かつ、反応系中に存在する成分によって引き起こされる反応系への影響を防止しうるような濃度および種類の界面活性剤を反応系に存在させる方法である。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン系またはスルホベタイン系の界面活性剤等が用いられる。該方法は、WO02/73203号公報等に詳細が開示されている。 このような手法を適宜組み合わせることにより、本発明の方法の効果をさらに高め、高い精度で測定を行うことができる。 なお、全血を用いて測定を行う場合には、一般に測定後ヘマトクリット補正を行う必要があるとされているが、殆どの試料の場合、ヘマトクリット値は男性で約40〜50%、女性で約35〜45%である。また、特に測定項目が感染症のように陽性か陰性を判定する定性測定の場合、ヘマトクリット補正はさほど重要ではないので、検体毎にヘマトクリット値を測定しなくても実用上問題は生じないことがある。もちろん、ヘマトクリット値が得られる場合には、ヘマトクリット補正[測定結果×100 /(100−ヘマトクリット値(%))]を行うことによって、より精度の高い測定結果を得ることができる。2.本発明の試薬キット 本発明の試薬キットは、少なくとも内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤を含むことを特徴とするキットであって、上記した測定法において用いられるものである。 本発明の試薬キットは、内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤を含むほかは、通常の全血または血漿・血清中の被検物質を測定するためのキット等と同様の構成によって提供される。すなわち、上記不溶性担体に担持され被検物質に特異的に結合する第1の物質、該被検物質に特異的に結合するアルカリフォスファターゼで標識化された第2の物質等を含み、本発明の測定法に用いられるものである。該試薬キットには、さらに希釈液、基質溶液、洗浄液、反応停止液等を含んでいてもよい。内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤は、好ましくは基質溶液に添加される。 このような試薬キットを用いることにより、本発明の測定法を迅速簡便に、かつ、精度良く安定的に行うことができる。 本発明の測定法は、それ自体公知の自動測定装置や、該装置に収載されるカートリッジ等によって実施することができる。その具体例としては、例えば、WO01/84152号公報、特許第3115501号公報、特開平11−316226号公報等に開示されたカートリッジおよび装置が挙げられる。また、本発明の試薬キットも、このような自動測定用のカートリッジにパッケイジングされ、前記自動測定装置において好適に用いられる。このような自動測定装置、カートリッジ等と併用されることにより、本発明の測定法および試薬キットを用いた、より迅速・簡便で、高感度の測定法が提供される。 以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。全血中の酵素免疫測定に影響を与える因子の解析 従来、アルカリフォスファターゼ標識化抗体とそれに対する高感度基質を用いた従来法による酵素免疫測定法を行っている際に、全血を試料として用いると、血漿や血清を試料として用いた場合と比べてバックグラウンドが大きく上昇する現象が確認されていた。そこで、原因を解明するために、以下の実験を行った。 試料としては、健常人から得られた5検体を用いた。いずれも、採血時にヘパリンが添加されている。各検体を、全血のまま用いるもの(全血試料)、遠心分離を行って血漿としたもの(血漿試料)、さらに、全血に溶血剤を添加して全溶血させたもの(溶血試料)の3種類の試料として調製した。 各試料は、心臓トロポニンI(cTnI)測定用の試薬を用いて測定した。この試薬は、cTnIに対する第一抗体溶液(磁性粒子溶液)、標識化第二抗体溶液、B/F洗浄液、基質溶液等より成り、後述の自動免疫測定装置に収載されるようにカートリッジに封入されている。ただし、通常は第二抗体としてアルカリフォスファターゼ(以下、これを「ALP」と称することがある)で標識化された抗体を用いるが、ここでは、標識化抗体を含まない緩衝液を第二抗体溶液の代わりに用いた。測定には、特許第3115501号公報等に開示されているものと同様の磁性粒子を用いた免疫測定を自動的に行うことのできる自動免疫測定装置を用いた。該装置は、液体の吸引・吐出ラインとして配設されたチップ内で磁力により効果的にB/F分離を行うことができ、高い洗浄効率を示す。該装置の測定ステップは下記のとおりである。 なお、基質としては、化学発光基質「CDP−Star」(トロピックス社製)を用い、光電子増倍管(PMT)により検出される発光カウントを測定結果とした。自動免疫測定装置による測定 自動測定用カートリッジに、試料、試料希釈液、磁性粒子溶液(第一抗体が担持されている)、B/F分離用の洗浄液、第二抗体溶液、基質溶液等を充填し、装置にセットする。以下、通常の運転方法に従い、各操作が行われる。(1)希釈液を用いて任意の希釈倍率に調整された試料溶液、磁性粒子溶液、および、第二抗体溶液を混合し、抗原抗体反応を行わせて免疫複合体を生成させる。(2)未反応の物質を除去するためにB/F分離を行う。まず、液体吸引ラインとしてセットされたチップを通じて反応液を吸引し、磁石をチップ外壁面に接触させて磁性粒子を捕集する。次に、磁性粒子がチップ内壁面に吸着保持された状態で溶液を吐出して分離を行った後、別の反応容器に充填されたB/F分離用の洗浄液を吸引・吐出して洗浄を行う。(3)前記チップの外壁面から磁石を離脱させて磁力の影響をなくした後に、基質溶液を吸引・吐出し、チップ内壁面に吸着保持された磁性粒子を分散させ、酵素反応を行わせる。(4)PMTにより発光量を測定する。 表1に、測定結果を示した。 測定の結果、ほとんどの全血試料では、対応する血漿試料に比べて発光カウントが高くなることがわかった。さらに、溶血試料では、その傾向はさらに強くなることがわかった。 また、第二抗体溶液として通常用いられるALP標識化抗体の代わりにALPを含まない緩衝液を用いたにも拘わらず、バックグラウンドの上昇が見られたことから、内因性ALPがその原因であることが示唆された。全血中の酵素免疫測定法に影響を及ぼす成分の同定 上記実施例1の結果より、全血中に含まれる内因性ALPが酵素免疫測定法に影響を与えることが示唆されたので、その原因となる成分を同定した。 試料としては、全血試料と、全血に溶血剤を加えて溶血させた溶血試料とを用いた。これらをそれぞれ遠心分離(3000rpm、10分間)し、各試料中に含まれる赤血球、白血球を常法に従って分画した。次に、各試料ごとに、遠心分離して得られた血漿と、(1)生理食塩水、(2)白血球、(3)赤血球を、それぞれ1:1で混合した。 調製した6種類の試料について、上記実施例1と同様に、cTnI測定用の試薬を用いて自動免疫測定装置により測定を行った。表2に、測定結果を示した。 測定の結果より、白血球中に含まれる内因性ALPがバックグラウンドの上昇を引き起こしていることがわかった。また、その現象は溶血により増長することがわかった。 次に、溶血を起こしてALPが高値になることが予め確認されている全血試料を用いて、濾過処理による影響を検討した。濾過した全血試料の濾液は、赤色透明であった。濾過処理は、ポアサイズが0.8μm(MILLEX−PF:ミリポア社製)と1.2μm(Minisart:ザルトリウス社製)のシリンジ用フィルターユニットをシリンジに装着し、常法に従って行った。得られた濾過処理後の溶血試料を、上記と同様にしてcTnI測定用試薬と自動免疫測定装置を用いて測定したが、このとき、第二抗体としてALP標識化抗体を用いた。表3に、測定結果として発光カウントを示した。 測定結果から、全血試料を濾過することにより明らかにバックグラウンドの値の低下が見られた。ALPそのものがこのようなポアサイズの膜により濾過されるとは考えにくいため、溶血により反応液中に増加する内因性ALPの大部分は、血球膜等に結合した状態で存在する性質があると考えられた。従って、磁性粒子を用いる酵素免疫測定法では、血球膜や磁性粒子等に内因性ALPが非特異的に結合し、通常のB/F分離用の洗浄液では洗浄しきれなかったものがバックグラウンドの上昇の原因となることが推測された。 以上の結果から、このバックグラウンドの上昇という問題は全血試料で起きやすい問題であり、全血試料の溶血を完全に防止することは困難であるため、この内因性ALPを阻害することが非常に効果的な手段であると考えられた。レバミソールによる全血中の内因性ALP阻害効果の検討 免疫染色法や通常の免疫反応において、内因性ALPの阻害剤として繁用されているレバミソールを用いて、上記実施例1および2で明らかになった全血試料で生じる内因性ALPによるバックグラウンドの上昇を抑制できるかどうかを検討した。 試料としては、実施例1で高いバックグラウンドを示した全血試料を全血陰性コントロールとし、これを遠心分離して血漿化したものを、血漿陰性コントロールとした。さらに、前記全血試料に市販のcTnIを10ng/ml添加して全血陽性コントロールとし、また、それを遠心分離して血漿化し、血漿陽性コントロールとした。これらの4種類の試料を用いて、上記実施例1および2と同様にcTnI測定用試薬と自動免疫測定装置を用いた測定を行ったが、このとき、第二抗体としてALP標識化抗体を用いた。 また、内因性ALP阻害効果を見るために、レバミソール(SIGMA社製)を用いた。レバミソールは、磁性粒子溶液または基質溶液もしくは両方にそれぞれ0.2mMとなるよう添加し、その効果を比較することとした。すなわち、磁性粒子溶液に添加された場合は、上記実施例1で詳述した自動免疫測定装置の測定ステップ(1)において作用することになる。基質溶液に添加された場合は、測定ステップ(3)で作用することになる。 表4に、測定結果を示した。各測定値のほか、各試料ごとの陰性コントロールと陽性コントロールの比(S/N)、各条件における全血試料と血漿試料の比、レバミソール無添加の全血陰性コントロールまたは全血陽性コントロールに対する各全血試料の比を求め、これらの結果についても表4に示した。 以上の結果から、全血試料や溶血試料における内因性ALPによるバックグラウンドの上昇は、レバミソール添加により大きく改善されることがわかった。また、その効果は磁性粒子溶液に添加した場合よりも、基質溶液に添加した場合に顕著であった。さらに、レバミソールを添加しても陽性コントロールにおいて反応性の低下はほとんど見られず、標識体として用いられているALPへの悪影響はほとんどないことがわかった。また、磁性粒子溶液と基質溶液の両者にレバミソールを添加しても大きな相乗効果はなく、特に基質溶液に添加することが重要であることがわかった。患者検体を用いたレバミソール添加効果の解析 上記実施例3において、全血試料におけるバックグラウンド上昇へのレバミソールの効果が示されたので、次に、患者の検体を用いた陽性・陰性の判定を行い、測定結果の信頼性について解析した。 試料としては、健常人およびcTnI陽性患者の全血試料及び血漿試料を用いた。健常人6検体、cTnI陽性患者6検体は、いずれもヘパリンが添加された採血管を用いて得られた全血である。この12の全血試料と、これらを遠心分離して血漿化した血漿試料とを測定に用いた。測定は、上記実施例3と同様にALP標識化された第二抗体を含むcTnI測定用試薬と自動免疫測定装置を用いて行ったが、このとき、0.4mMレバミソールが添加された基質溶液を用い、それ以外はすべて通常どおりで測定を行った。 測定後、得られた発光カウントから検量線を用いてcTnI濃度を算出した。全血試料の場合には、さらにヘマトクリット値(Hct値)による補正を行った。得られた健常人6検体の結果を表5に、cTnI陽性患者6検体の結果を表6に示した。また、評価方法としては、検出限界以下(<0.05)を陰性とし、実測値が得られたものを陽性とした。 健常人検体では、全血試料を用いた測定でも非特異的な高値を示す検体はなく、血漿試料の結果と同じくすべてが陰性であった(表5参照)。また、cTnI陽性患者の検体ではすべてが陽性であり、すべての全血試料の測定値と血漿試料の測定値がほぼ一致していた(表6参照)。 これらの結果から、レバミソールを基質溶液に添加して用いれば、全血を試料として用いても、血漿を試料として用いた場合と同等の高精度の測定が可能になることが示された。 本発明によれば、全血を試料として用いる測定法において、バックグラウンドを低減し、高精度で測定を行うことができる。高感度のアルカリフォスファターゼの基質を用いる高感度化学発光法等においては、特に効果的である。全血を試料として用いることができるので操作が簡便・迅速になり、高感度かつ高精度の測定法が達成されるので、該方法はPOCT分野等において特に有用である。 全血を含む試料と、不溶性担体に担持され当該試料中に含まれる被検物質に特異的に結合する第1の物質、および前記被検物質に特異的に結合するアルカリフォスファターゼで標識化された第2の物質とを含む反応系を形成させ、被検物質と第1および第2の物質とを反応させる反応工程、および、形成された反応生成物を前記アルカリフォスファターゼによる酵素反応に基づき測定する測定工程を含む被検物質の測定法であって、前記反応系が、前記試料に実質的な溶血が生じない反応系であり、少なくとも該測定工程が内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤の存在下で行われることを特徴とする方法。 内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤が、レバミソール、テトラミゾール、ホモアルギニン、および、それらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも一種の物質である請求項1に記載の方法。 内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤が、標識体として用いるアルカリフォスファターゼの基質溶液に添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。 内因性アルカリフォスファターゼが血球成分由来のものである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 基質が、1,2−ジオキセタン系化合物またはアクリダンフォスフェート系化合物である請求項3に記載の方法。 請求項1〜5のいずれかに記載の方法に用いるための試薬キットであって、(1)不溶性担体に担持され、全血中に含まれる被検物質に特異的に結合する第1の物質、(2)前記被検物質に特異的に結合するアルカリフォスファターゼで標識化された第2の物質、(3)内因性アルカリフォスファターゼの阻害剤が添加されている、標識体として用いる前記アルカリフォスファターゼの基質溶液を含むことを特徴とするキット。