タイトル: | 特許公報(B2)_合成金雲母粉体、その製法及び該粉体を含有する化粧料 |
出願番号: | 2003427628 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C01B 33/42,A61K 8/25 |
安孫子 昌周 井ノ久保 徹 林 剛芳 JP 4490682 特許公報(B2) 20100409 2003427628 20031224 合成金雲母粉体、その製法及び該粉体を含有する化粧料 トピー工業株式会社 000110251 岩橋 祐司 100092901 安孫子 昌周 井ノ久保 徹 林 剛芳 20100630 C01B 33/42 20060101AFI20100610BHJP A61K 8/25 20060101ALI20100610BHJP JPC01B33/42A61K8/25 C01B 33/20−39/54 特開昭63−185810(JP,A) 特開2000−302437(JP,A) 特開2003−252620(JP,A) 6 2005187229 20050714 13 20060118 西山 義之 本発明は合成金雲母粉体、特に酸に対する溶解性が非常に低く、フッ素イオンの溶出もほとんどない、使用感の良好な合成金雲母粉体に関する。 現在、雲母は人工的に合成することが可能である。天然雲母の結晶構造と同じようにOHを含む合成雲母は加圧下で原料混合物を溶融することが必要であるが、天然雲母結晶中のOHをフッ素で置き換えたフッ素雲母は常圧下で溶融して合成できるので、工業的に合成されている雲母はほとんどがフッ素雲母であり、合成雲母は通常このようなフッ素雲母を指す。 工業的に採用されているフッ素雲母の一般的な製造方法として溶融法があり、この方法では、SiO2、Al2O3、MgOなどの酸化物、およびK2SiF6、KFなどのフッ素化合物、あるいは炭酸塩等を原料とし、これらを目的とする合成雲母の組成に応じて混合し、この原料混合物を電気炉中約1400〜1600℃で溶融させる。そして、得られた溶融体を冷却して結晶を析出させた後、用途に応じて、粉砕、分級等を行い、粉末製品とする。 カリウム金雲母[理論式:KMg3(AlSi3O10)F2]は、天然金雲母[理論式:KMg3(AlSi3O10)(OH)2]のOHがフッ素に置き換えられた構造を有する合成フッ素金雲母である。カリウム金雲母は天然金雲母と同様に非膨潤性であり、天然のものに比べて不純物を含まないので、近年化粧料の体質顔料等として多用されている。 一般的に、層間イオンがカリウムイオンである場合には水に対して非膨潤性であり、層間イオンがナトリウムイオンやリチウムイオンである場合には水に対して膨潤性を示すと考えられ、カリウム金雲母のカリウムがナトリウムに置き換えられたナトリウム金雲母[理論式:NaMg3(AlSi3O10)F2]は、膨潤性を示すとされている。 しかしながら、ナトリウム金雲母は天然ではいまだ発見された例はなく、人工的な合成においても、高純度のナトリウム金雲母を得ることはできていなかった。 すなわち、従来のように電気炉中で原料混合物を溶融し、ナトリウム金雲母を合成しようとした場合には、その理論式に相当する割合で原料を混合したものを用いても膨潤性の合成雲母を得ることができず、原料混合物にさらに過剰のフッ化ナトリウムを原料として仕込む必要がある(非特許文献1)。そのため、生成物中に不純物相が含まれてしまい、所期の膨潤性や陽イオン交換能を有する粉体を得ることはできなかった。また、過剰のフッ化ナトリウムを用いるために、原料コストが高くなってしまい、さらにはフッ素イオンの溶出量が通常の膨潤性雲母に比べても著しく高いという問題もあった。 フッ素イオンの溶出は、非膨潤性のフッ素雲母ではほとんどないのに対し、膨潤性のフッ素雲母では水中で膨潤して層間距離が広がるために、フッ素イオンが溶出しやすい。化粧料分野においては、現在、溶出フッ素イオンによる安全性や、組成物の品質に対する影響を懸念して、100℃、1時間の熱水溶出試験におけるフッ素イオン溶出量が20ppm以下であることが使用基準とされている。市販の膨潤性フッ素雲母のフッ素イオン溶出量は、100〜10000ppmと非常に高く、このため、膨潤性のフッ素雲母は増粘ゲル化能や乳化能、あるいはその陽イオン交換能により様々な有機化合物や無機化合物と複合体を形成することができるという能力を有するにもかかわらず、化粧料分野においては膨潤性フッ素雲母の実用化が進んでいないのが現状である。 フッ素雲母からのフッ素イオン溶出性を低減させる方法として、例えばフッ素雲母を600〜1350℃で熱処理することが知られている(特許文献1)。 しかし、上記のような過剰のフッ化ナトリウムを含む原料混合物を用いて合成したナトリウム金雲母では、上記のような熱処理を行ったとしても、上記のような過酷溶出試験の基準値をクリアすることはできなかった。 本発明者らは、特願2003−304868号において、高周波誘導炉中で原料混合物を溶融すると、過剰のフッ化ソーダを加えなくとも、原料をナトリウム金雲母の理論式組成に相当する割合で混合した混合物を用いて、不純物をほとんど含まないナトリウム金雲母が得られることを報告した。このナトリウム金雲母粉体は純度が高いために陽イオン交換容量(CEC)が非常に高く、また、フッ素イオン溶出量も従来の電気炉溶融法に比べて非常に低い。さらに、このナトリウム金雲母の粉体に上記特許文献1の焼成処理を行えば、化粧品安全基準の過酷溶出試験におけるフッ素イオン溶出量が20ppm以下の粉体とすることができる。そして、このナトリウム金雲母粉体は、カリウム金雲母などにはない、柔らかで、しっとりとした非常に良好な感触を有するという、非常に優れたものであった。 しかしながら、このナトリウム金雲母粉体では、酸可溶物試験における酸可溶物量が30〜40%と非常に高く、耐酸性に問題があった。 雲母に関しては、フッ素溶出量以外にも、品質に対する影響を懸念して酸に対する溶解性が低いこと、具体的には酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下であることが化粧品安全基準により定められている。よって、化粧料分野での実用化においては、この酸可溶物試験の基準値を満足することも重要である。なお、カリウム金雲母では、このような基準を満たしているものもあるが、ナトリウム金雲母のような柔らかでしっとりとした感触に欠ける。Fluorine micas p.123-141、第16章 水膨潤性フッ素雲母及びフッ素モンモリロナイト、著者:Haskiel R. Shell & Kenneth H. Ivey、発行元:U.S. Dept. of the Interior, Bureau of Mines、発行年:1969年。特公平7−115858号公報 本発明は、前記背景技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、フッ素イオンの溶出性、ならびに酸に対する溶解性が非常に低く、且つ手触りは柔らかで、しっとりとした非常に良好な感触の合成金雲母粉体を提供することにある。 上記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、高周波誘導炉で溶融合成した合成ナトリウム金雲母粉体を、イオン半径が1.20Å以上の一価の陽イオンYと接触させ、ナトリウム金雲母のナトリウムイオンの一部を陽イオンYで置換すると、耐酸性が高くフッ素イオン溶出性がほとんどない金雲母粉体とすることができることを見いだした。また、この金雲母粉体の感触は陽イオン溶液と接触させる以前の合成ナトリウム金雲母粉体と比べて遜色なく、柔らかで、しっとりとした感触を有することも見いだし、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明にかかる合成金雲母粉体は、合成ナトリウム金雲母粉体中のナトリウムのうち5〜50モル%がイオン半径1.20Å以上の一価陽イオンYで置換され、酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下、100℃1時間の熱水溶出試験におけるフッ素溶出量が20ppm以下であることを特徴とする。 本発明の合成金雲母粉体において、Yがカリウム(K)、アンモニウム(NH4)、銀(Ag)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)より成る群から選ばれる一種以上であることが好適である。 また、本発明にかかる合成金雲母粉体の製造方法は、合成ナトリウム金雲母粉体を、イオン半径1.20Å以上の一価陽イオンYと接触させ、合成ナトリウム金雲母粉体中のナトリウムのうち5〜50モル%をイオン半径1.20Å以上の一価陽イオンYで置換することを特徴とする。 本発明の方法において、高周波誘導加熱により溶融することにより得られた合成ナトリウム金雲母粉体に対して前記一価陽イオンYの接触処理を行い、さらに600〜1350℃で熱処理することが好適である。 また、本発明の方法において、高周波誘導加熱により溶融することにより得られた合成ナトリウム金雲母粉体を600〜1350℃で熱処理した後、前記一価陽イオンYとの接触処理を行うことが好適である。 また、本発明にかかる化粧料は、前記何れかに記載の合成金雲母粉体を配合したことを特徴とする。 本発明の合成金雲母粉体は、化粧品安全基準の酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下、熱水溶出試験におけるフッ素イオンの溶出量が20ppm以下であり、また、その使用感が柔らかくしっとりとした感触で非常に良好であるので、化粧料原料として特に好適である。 まず本発明の合成金雲母粉体の製造方法について説明する。 本発明の合成金雲母粉体の製造は、合成ナトリウム金雲母粉体をイオン半径が1.20Å以上の一価の陽イオンYと接触させることを特徴とする。この接触処理においては、ナトリウム金雲母のナトリウムイオンの一部を一価陽イオンYで置換する。 本発明の合成金雲母粉体においては、Na:Yのモル比が95:5〜50:50であることが好適である。陽イオンYの置換率が5モル%未満の場合は、酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下とならず、安全基準を満足できないことがある。一方、陽イオンYの置換率の上限は、本発明の方法では、多くとも50モル%程度である。 一価陽イオンYによる接触処理方法は、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、例えば、陽イオンYを含む溶液に合成ナトリウム金雲母粉体を接触させることにより好適に行うことができる。本処理は、大気中、常圧で可能である。 一価陽イオンYとしては、具体的には銀イオン(Ag+)、カリウムイオン(K+)、アンモニウムイオン(NH4+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)などであり、好ましくはカリウムイオン(K+)、アンモニウムイオン(NH4+)である。なお、本発明においてイオン半径は、Shannon(1976) ActaCrystallogr., A32, 751に記載されている値に基づいている。 接触処理に用いる陽イオンYは、イオン半径1.20Å以上で且つ一価のものでなければならない。イオン半径が1.20Å未満の一価あるいは多価の陽イオン[例えば、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、アルミニウムイオン(Al3+)など]や、イオン半径が1.20Å以上でも二価の陽イオン[例えば、バリウムイオン(Ba2+)]などを含む溶液では、酸可溶物試験法での酸可溶物量が2.0%以下とならない。また、これらの陽イオン溶液と接触させるとフッ素溶出量をかえって増大させてしまい、20ppmを遙かに超えた値となってしまうことがある。 一価陽イオンYの溶液は、陽イオンYを含む塩化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩や酢酸塩などの無機、有機酸塩などを水に溶解して調整することができ、これらの混合物や硫酸アンモニウムカリウムなどの複合塩も使用可能である。 一価陽イオンYの使用量は、原料ナトリウム金雲母粉体1gに対し、9.0×10−5mol以上、好ましくは1.8×10−4mol以上、さらに好ましくは9.0×10−4mol以上用いる。一例を挙げれば、原料雲母粉体1gに対し9.0×10−5molの一価陽イオンYを接触させようとする場合、濃度0.03重量%の塩化カリウム水溶液300gに雲母粉体15gを混合して接触させればよい。 接触温度は陽イオンY溶液の種類、濃度、雲母粉体の粒径など各条件によって適宜設定すればよいが、通常5℃〜100℃であり、好ましくは10℃〜70℃、さらに好ましくは25℃〜40℃である。 接触時間も、陽イオンY溶液の種類、濃度、雲母粉体の粒径など各条件によって適宜設定すればよいが、通常10分〜12時間であり、好ましくは30分〜6時間、さらに好ましくは1時間〜3時間である。なお、陽イオンY溶液との接触は攪拌子などを使用して、原料雲母粉体と溶液中の一価陽イオンYとを均一に接触させた方が効果的である。このような接触処理の後、必要に応じて洗浄や乾燥、分級などを行い、製品粉体を得る。 本発明の合成金雲母粉体の粒径は、用途によって適宜決定されるが、化粧料に配合する場合には通常1〜60μm、厚さ0.05〜2μmである。 本発明の金雲母粉体は、公知の化粧料基材に配合することが可能であり、例えば、ファンデーション、化粧下地、ほお紅、マスカラ、口紅、ネイルエナメル等のメークアップ化粧料の他、、日焼け止め化粧料、毛髪化粧料等が挙げられる。特に、柔らかさやしっとり感を十分に発揮させる場合には、パウダリーファンデーション、フェースパウダー、アイシャドー、アイブロウ等の粉末化粧料が好適である。 次に、一価陽イオンYで接触処理される原料合成ナトリウム金雲母粉体について説明する。本発明においては、高周波誘導炉にて溶融合成したナトリウム金雲母の粉体を使用することが望ましい。なお、陽イオンYとの接触処理のみでもフッ素溶出量はある程度低減することができるが、20ppm以下とするためには、陽イオンYとの接触処理の前あるいは後に600〜1350℃で熱処理を行うことが望ましい。具体的には、ナトリウム金雲母の理論組成どおりに原料配合し高周波誘導炉にて溶融合成したナトリウム金雲母粉体を熱処理後、接触処理を行う、あるいは高周波誘導炉にて溶融合成したナトリウム金雲母粉体を接触処理後、熱処理を行うことができる。 電気炉を用いて溶融合成されたナトリウム金雲母粉体では、ナトリウム金雲母以外の不純物が多量に含まれてしまうため、イオン半径が1.20Å以上の一価の陽イオンYと接触させても酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下にならないことがある。また、該ナトリウム金雲母粉体はフッ素溶出量も高く、熱処理や接触処理を行ってもフッ素溶出量を20ppm以下とすることが困難な場合がある。さらに、電気炉で合成したナトリウム金雲母粉体では、高周波誘導炉で合成したナトリウム金雲母粉体のような、柔らかでしっとりとした感触も得られない。 高周波誘導加熱による合成ナトリウム金雲母の合成は、特願2003−304868号公報に記載の通りである。すなわち、高周波誘導炉を用いて大気中、常圧で原料混合物を溶融する。高周波誘導炉の仕様は溶融のスケールによって適宜決定することができ、原料混合物が均一に溶融するように溶融条件を設定すればよい。一例を挙げれば、溶融量2.5kg、発熱体としてカーボンルツボを使用した場合、高周波の周波数500Hz〜10kHz、好ましくは1kHz〜3kHz、高周波出力15kW〜100kW、好ましくは25kW〜50kWで溶融を行う。 高周波誘導炉にて加熱溶融された溶融体は、鉄、炭素などで作られた鋳型に移して常温まで冷却し、結晶化させてナトリウム金雲母鉱塊を得る。得られた鉱塊は従来公知の工程と同様に、乾式及び/又は湿式粉砕後、必要に応じて分級して雲母粉体を得る。 このようにして得られたナトリウム金雲母粉体は、電気炉等で得られたナトリウム金雲母粉体に比べてフッ素イオン溶出量が非常に少なく、1000ppm以下、さらには800ppm以下とすることができ、さらに前記特許文献1記載の方法に準じて600〜1350℃で熱処理することにより、フッ素イオン溶出量を20ppm以下にまで低下させることができる。 熱処理装置としては、例えば、外熱式加熱炉、内熱式加熱炉、ロータリーキルン等の公知の加熱装置が用いられる。熱処理雰囲気としては、酸化雰囲気、還元雰囲気、不活性ガス雰囲気、アンモニアガス雰囲気中、常圧〜真空条件下で行うことができる。熱処理温度としては、600〜1350℃、好ましくは700〜1200℃、さらに好ましくは900〜1100℃である。加熱時間は、各条件によって適宜設定すればよいが、通常30分〜10時間である。なお、熱処理は、粗粉砕粉体よりも微粉砕粉体に処理する方が効果的である。このような熱処理の後、必要に応じて洗浄や乾燥等を行うこともできる。 溶融原料としては、従来の溶融法で使用される公知の原料粉末を用いることができる。例えば、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、炭酸ソーダ、フッ化ソーダ、ケイフッ化ソーダ等をナトリウム金雲母の理論式組成となるように換算して混合したものを原料混合物として使用することができる。 高周波誘導加熱による製造方法では、ナトリウム金雲母の理論式組成と同等のモル比となるように混合した原料を使用できる。なお、原料の混合割合は、本発明の効果を損なわない限り変動可能であるが、好ましくは理論式組成から換算した各原料の量に対して95〜105モル%程度である。 高周波誘導炉ではなく電気炉等を用いて溶融を行う場合には、ナトリウム金雲母理論組成と同等モル比の原料混合物を用いても、非膨潤性、あるいは膨潤性が非常に低い粉体しか得ることができない。過剰のフッ化ナトリウムを原料に配合すれば、電気炉で溶融しても膨潤性の粉体を得ることができる。しかし、その場合にはナトリウム金雲母以外の不純物が生成してしまう。また、過剰のフッ化ナトリウムを用いるためフッ素溶出量が非常に多く、例え上記のような熱処理を施した場合でも約8000ppm以上ものフッ素イオン溶出量となってしまう。 高周波誘導加熱により、高純度のナトリウム金雲母が得られる理由については充分に解明されているわけではないが、高周波誘導加熱では電極が不要で原料全体が急速に加熱、混合されて均一な溶融体となることが一因として考えられる。 高周波誘導加熱により得られたナトリウム金雲母粉体は、過剰のフッ化ナトリウムを使用せず、その理論式組成と同等のモル比の原料混合物を用いて製造されるので、不純物がほとんど含まれず、非常に高い陽イオン交換能、膨潤性を発揮する。また、フッ素イオン溶出性も低い。さらに、化粧料に配合すると柔らかさや、しっとり感を付与することができる。なお、このようなナトリウム金雲母粉体のCECは50meq/100g以上、さらには100meq/100g以上であることが好適である。 以下具体例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明で用いた試験方法は次の通りである。(1)陽イオン交換容量(CEC)の測定 水20mlに被験粉体0.2gを添加し、90℃に加熱後1/20M CaCl2溶液を8ml滴下し、水を加え全量200mlとし、メルク社製の緩衝指示薬(コードNo. 1.08430.0500)一粒とアンモニア水を加え赤色に呈色させた。この赤色溶液に、0.01M EDTA溶液を滴下し、赤色が消えるまでのEDTA量から、以下の式を用いてCECを算出した。 CEC=80×FCaCl2−8×FEDTA×v(meq/100g) ただし、FCaCl2:1/20M CaCl2のファクター、FEDTA:0.01M EDTA溶液のファクター、v:滴定したEDTA溶液量(ml)である。(2)フッ素イオン溶出量の測定 化粧品安全基準に則り、水100mlに対し、被験粉体5gを添加し、100℃で1時間煮沸処理した後、イオンクロマトグラフィー分離にて水中の陰イオンをフッ素イオンのみとし、電気伝導度を測定することで、被験粉体質量に対するフッ素イオン溶出量を算出した。(3)酸可溶物の測定 化粧品安全基準に則り、被験粉体1gに23.6vol%の希塩酸20mlを加え、50℃で15分かき混ぜながら加温した後、水を加えて正確に50mlとし、濾過した。初めの濾液15mlを除き、次の濾液25mlを正確にとり、水浴上で蒸発乾固し、恒量になるまで強熱し、デシケーター中で冷却した後、その重量を測定することで、被験粉体質量に対する酸可溶物量を算出した。(4)Na、接触陽イオンYの分析 試料0.1gを白金ルツボに量りとり、過塩素酸5ml及びフッ化水素酸10mlを加え電熱器上で加熱した。過塩素酸の白煙を十分に発散させた後冷却し、被験物質を水でビーカーに移動させ、塩酸2mlを加えて加熱溶解させた。放冷後、テフロン容器に移し定量とし、ICP発光分光分析計により分析した。(5)感触の評価 20名の専門パネルによって、陽イオン溶液の接触前、接触後の各粉体について、柔らかさ、及びしっとり感に違いがあるか無いかを評価した。違いが無いと評価した人数が15人以上であった場合、感触に有意な差がないとした。(6)50%メジアン径の測定 堀場製作所製、LA−500を使用し、レーザー回折法により測定した。合成金雲母粉体の製造製造例1(1)ナトリウム金雲母粉体の合成: ケイフッ化ソーダ15.2重量%、炭酸ソーダ4.3重量%、酸化マグネシウム29.3重量%、酸化アルミニウム12.4重量%及び二酸化ケイ素38.8重量%からなる調合物を十分混合した。この混合物のNa,Mg,Al,Si,Fの割合は、ナトリウム金雲母の理論式のモル比と同じである。 この混合物を、富士電波工業(株)社製高周波るつぼ形誘導炉(電源:FTH−30−3M、炉体:FBT−20)を用い、発熱体としてカーボンルツボ、高周波周波数3kHz、高周波出力30kWの条件で溶融した。その後、溶融体を鋳型に取り出し、冷却し、合成ナトリウム金雲母結晶を得た。この雲母結晶を乾式粉砕し、50%メジアン径50μmの雲母粉体を得た。この雲母粉体のフッ素イオン溶出量は634ppm、CECは140meq/100gであった。 この雲母粉体を湿式粉砕によりさらに微粉砕化し、分級し、50%メジアン径12μmの雲母粉体を得た。この雲母粉体を1000℃で4時間熱処理後、水洗、脱水、乾燥、解砕してナトリウム金雲母粉体を得た。この粉体は、フッ素溶出量が18ppm、CECが80meq/100gであり、柔らかくしっとりとした非常に良好な感触であった。(2)一価陽イオン(K+)による置換: 上記(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを、25℃で0.67重量%塩化カリウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。その後、脱水、乾燥して目的とする粉体を得た。製造例2(1)ナトリウム金雲母粉体の合成: 上記製造例1(1)と同様に溶融を行い、その後、溶融体を鋳型に取り出し、冷却し、合成ナトリウム金雲母結晶を得た。この雲母結晶を乾式粉砕し、さらに湿式粉砕して微粉砕化し、50%メジアン径12μmのナトリウム金雲母粉体を得た。この粉体のフッ素イオン溶出量は892ppm、CECは120meq/100gであり、柔らかくしっとりとした非常に良好な感触であった。(2)一価陽イオン(K+)による置換: このナトリウム金雲母粉体15gを25℃で0.67重量%塩化カリウム水溶液300mlに均一に1時間接触させ、脱水、乾燥後、さらに1000℃、4時間の熱処理を行い、以下製造例1と同様に処理し、目的とする粉体を得た。製造例3 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを、25℃で0.067重量%塩化カリウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。製造例4 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、70℃で6.7重量%塩化カリウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。製造例5 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で0.5重量%水酸化カリウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。製造例6 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で1.8重量%の硝酸銀水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。製造例7 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で0.58重量%の塩化アンモニウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。比較例1 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で0.006重量%塩化カリウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。比較例2 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で0.42重量%塩化ナトリウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。比較例3 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で0.31重量%塩化リチウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。比較例4 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で1.2重量%塩化カルシウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。比較例5 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で0.50重量%の塩化亜鉛水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。比較例6 製造例1(1)で得られたナトリウム金雲母粉体15gを使用し、25℃で2.8重量%の酢酸バリウム水溶液300mlに均一に1時間接触させた。以下、製造例1(2)と同様に処理して、目的とする粉体を得た。 表1に、各製造例ならびに各比較例で得られた粉体のCEC、フッ素溶出量、酸可溶物量および粉体中のナトリウムと接触陽イオンYのモル比を示す。また、表2に使用感の官能評価結果を示す。 表1からわかるように、接触陽イオンYとして1.20Å以上の一価陽イオン(K+、Ag+、又はNH4+)を用いた場合(製造例1〜7)には、酸可溶物量を2.0%以下にまで低減することができた。また、フッ素溶出量についても低減する傾向があり、何れの粉体も20ppm以下の基準値を満足していた。また、製造例1〜7で原料として用いた合成ナトリウム金雲母粉体に比べ、陽イオンYで処理して得られた粉体は何れもCECが低下する傾向があった。このように、陽イオンYとの接触処理により耐酸性やフッ素溶出性、CEC等の性質は変化したが、使用感については表2に示すように有意な低下は見られず、接触処理前と同じく、柔らかでしっとりとした感触を維持していた。 これに対して、Na+、Li+、Ca2+、Zn2+などイオン半径が1.20Å未満の陽イオンの場合(比較例2〜5)、あるいはBa2+などイオン半径が1.20Å以上でも二価陽イオンの場合(比較例6)には、接触処理により使用感触は変化しなかったものの、酸可溶物量も低減せず、フッ素溶出量についてはかえって増大する傾向があり、何れも基準値を満足することはできなかった。 従って、酸可溶物量ならびにフッ素溶出量が共に低い合成金雲母粉体とするためには、イオン半径が1.20Å以上の一価陽イオンで接触処理を行うことが必要であることが理解される。 なお、比較例1のように、イオン半径が1.20Å以上の一価陽イオンの使用量が少ない場合には置換が不十分となり、その結果酸可溶物量を2.0%以下とすることができないことがあった。また、フッ素溶出量の低減効果もほとんどなかった。よって、本発明の合成ナトリウム金雲母粉体においては、粉体中の一価カチオン(NaとYとの和)に対する陽イオンYの置換率は5モル%以上であることが好適である。合成カリウム金雲母との比較比較例7 ケイフッ化カリウム18.2重量%、炭酸カリウム4.7重量%、酸化マグネシウム28.2重量%、酸化アルミニウム11.9重量%及び二酸化ケイ素37.0重量%からなる調合物を十分混合した。この混合物のK,Mg,Al,Siの割合は、カリウム金雲母の理論組成と同じである。 この混合物を、アルミナルツボを使用し、電気炉中1450℃で溶融後、炉内冷却し合成フッ素金雲母を得た。この雲母結晶を乾式粉砕し、50%メジアン径50μmの雲母粉体を得た。この雲母粉体を湿式粉砕によりさらに微粉砕化し、分級し、50%メジアン径12μmの雲母粉体を得た。この雲母粉体を1000℃で4時間熱処理後、水洗、脱水、乾燥、解砕してカリウム金雲母粉体を得た。この粉体は、フッ素溶出量が16ppm、CECが0meq/100gの非膨潤性粉体であった。 製造例1及び2の合成金雲母粉体と、比較例7のカリウム金雲母粉体について、5名の専門パネルによって、被験粉体を肌上に塗布したときに柔らかさ及びしっとり感の各項目ごとに、下記1−5の5段階の官能評価を行った。 1・・・悪い 2・・・やや悪い 3・・・普通 4・・・やや良い 5・・・良い 結果は5名の5段階評価の平均値として、下記のようにして評価した。 ◎・・・・4.5−5.0 ○・・・・3.5−4.4 □・・・・2.5−3.4 △・・・・1.5−2.4 ×・・・・1.0−1.4 表3のように、本発明の合成金雲母粉体は、カリウム金雲母粉体に比べて、柔らかさやしっとり感において優れた使用感を有することが理解される。化粧料への配合 上記製造例の合成金雲母粉体を実際に化粧料(パウダリーファンデーション)に配合し、その原料のナトリウム金雲母粉体を配合した化粧料とその使用感触を比較し、評価を行った。被験処方は次の通りである。<処方>(1)被験粉体 55部(2)酸化チタン 7部(3)白雲母 3部(4)タルク 20部(5)ナイロンパウダー 2部(6)赤色酸化鉄 0.5部(7)黄色酸化鉄 1部(8)黒色酸化鉄 0.1部(9)シリコーンオイル 1部(10)パルチミン酸2−エチルヘキシル 9部(11)セスキオレイン酸ソルビタン 1部(12)防腐剤 0.3部(13)香料 0.1部<製法> 上記成分1〜8をヘンシェルミキサーで混合し、この混合物に加熱溶解混合した成分9〜13を添加混合した後、パルベライザーで粉砕し、これを150kg/cm2の圧力で直径53mmの中皿に成形して、パウダリーファンデーションを得た。 表3に、各製造例の粉体を、上記の処方で化粧料に配合した際の使用感の官能評価結果を示す。 表4のように、本発明に製造例1〜7を配合した化粧料では、柔らかでしっとりとした使用感を得ることができ、接触処理前の原料であるナトリウム金雲母粉体を配合した化粧料と比較しても遜色ないものであった。 以上のように、本発明の金雲母粉体は、酸可溶物量、フッ素イオン溶出量が非常に低く、また、出発物質であるナトリウム金雲母粉体の柔らかさ、しっとり感といった使用感触を維持している。従って、本発明の金雲母粉体は、従来の金雲母粉体が使用されている各種分野において使用可能であるが、特に化粧料原料として有用である。 合成ナトリウム金雲母粉体中のナトリウムのうち5〜50モル%がイオン半径1.20Å以上の一価陽イオンYで置換され、酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下、100℃1時間の熱水溶出試験におけるフッ素溶出量が20ppm以下であることを特徴とする合成金雲母粉体。 請求項1記載の合成金雲母粉体において、Yがカリウム(K)、アンモニウム(NH4)、銀(Ag)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)より成る群から選ばれる一種以上であることを特徴とする合成金雲母粉体。 合成ナトリウム金雲母粉体を、イオン半径1.20Å以上の一価陽イオンYと接触させ、合成ナトリウム金雲母粉体中のナトリウムのうち5〜50モル%をイオン半径1.20Å以上の一価陽イオンYで置換することを特徴とする請求項1又は2記載の合成金雲母粉体の製造方法。 請求項3記載の方法において、高周波誘導加熱により溶融することにより得られた合成ナトリウム金雲母粉体に対して前記一価陽イオンYの接触処理を行い、さらに600〜1350℃で熱処理することを特徴とする合成金雲母粉体の製造方法。 請求項3記載の方法において、高周波誘導加熱により溶融することにより得られた合成ナトリウム金雲母粉体を600〜1350℃で熱処理した後、前記一価陽イオンYとの接触処理を行うことを特徴とする合成金雲母粉体の製造方法。 請求項1又は2記載の合成金雲母粉体を配合したことを特徴とする化粧料。