タイトル: | 特許公報(B2)_微生物保存用分散媒及び微生物保存用容器 |
出願番号: | 2003414632 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C12N 1/04,C12M 1/00,C12M 1/24 |
西山幸司 篠原弘亮 JP 3937019 特許公報(B2) 20070406 2003414632 20031212 微生物保存用分散媒及び微生物保存用容器 独立行政法人農業環境技術研究所 501245414 鈴木 敦 100119002 西山幸司 篠原弘亮 20070627 C12N 1/04 20060101AFI20070607BHJP C12M 1/00 20060101ALI20070607BHJP C12M 1/24 20060101ALI20070607BHJP JPC12N1/04C12M1/00 ZC12M1/24 C12N 1/00−7/08 C12M 1/00 C12M 1/24 PubMed JSTPlus(JDream2) 特開昭54−143585(JP,A) 西山幸司,「凍結・融解の反復処理によって生じる保存細菌の死滅を緩和するための分散媒の検討」,日本植物病理学会関東部会プログラム&講演要旨集,日本,2003年 9月19日,p. 14 4 2005168424 20050630 8 20031215 特許法第30条第1項適用 平成15年9月19日発行の「平成15年度日本植物病理学会関東部会要旨集」に発表 植原 克典 本発明は、微生物保存用分散媒及び微生物保存用容器に関し、更に詳しくは、保存中に凍結と解凍を反復する使用をしても、微生物の長期保存が可能な微生物保存用分散媒、及び微生物保存用容器に関する。 微生物の保存法は大別すると、凍結法、乾燥法、及び継代培養法に分けられる。これらのうち長期安定保存法としては凍結法と乾燥法が用いられ、それらの技術が適用できない微生物に対しては継代培養法が用いられている。 前記凍結法は、目的とする微生物の細胞内水分を凍結することによって生活反応を停止させ、休止状態において長期間の生存を図る方法である。目的とする微生物を入れたアンプルやバイアル等の保存用容器は、−50℃〜−80℃の超低温槽あるいは液体窒素槽からなる冷凍庫内に保存される。凍結処理に耐性のある微生物は凍結法で保存することができる。 又、前記乾燥法は、目的とする微生物の細胞内水分を除去することによって生活反応を停止させ、休止状態において長期間の生存を図る方法である。該乾燥法は水分の除去方法の違いで二分され、凍結後に固相より昇華によって水分を除去する凍結乾燥法と、凍結せず液相より蒸発によって水分を除去するL−乾燥法とがある。 前記凍結乾燥法は、目的とする微生物を入れた保存用容器を真空凍結乾燥機に装着して水分を除去する。前記により水分が除去された乾燥標本は、真空下で熔封するか、常圧に戻した後密閉し、冷暗所に保存する。前記凍結乾燥法は、乾燥処理にも凍結処理にも耐性のある微生物にのみ適用できる方法である。 前記L−乾燥法は、目的とする微生物を保存用容器に入れて真空凍結乾燥機に装着し、減圧沸騰や凍結をさせないようにして、微生物細胞内外の水分を液相より蒸発によって除去する方法である。水分が除去された乾燥標本は、真空下で熔封し、冷暗所に保存する。乾燥処理に耐性のある微生物はL−乾燥法で保存できる。 一方前記継代培養法は、定期的に微生物を植え継ぎ活性状態を保ちつつ保存する方法であり、培養可能なすべての微生物に適用できる反面、微生物細胞が休止状態でないため、微生物株の性質が変化する危険性は、凍結法や乾燥法に比べて高い。 長期保存微生物株を使用するときは、前記凍結法においては凍結保存標本を冷凍庫から取り出して、室温乃至37℃の湯に浸して融解した後に、該内容物を培地に移植して微生物を増殖させて使用する。前記乾燥法においては保存標本を開封し、滅菌蒸留水を加えて内容物を液状化した後に、該内容物を培地に移植して微生物を増殖させて使用する。いずれの方法においても使用後の保存標本は廃棄処分される。 前記凍結法における凍結、あるいは乾燥法における乾燥の操作は、微生物に有害に作用して生菌数の減少をまねくので、保存しようとする微生物は、微生物を保存する目的で調合された物質(以下、分散媒という。)中に懸濁された後、保存用容器に分注され、凍結や乾燥の保存処理が行われる。前記凍結法の分散媒としてはグリセリン、ジメチルスルホキシドなどが使用され、その他にフルクタン(例えば特許文献1を参照。)等を加える方法が報告されている。前記乾燥法の分散媒としてはスキムミルク、蔗糖、ブドウ糖、ブイヨン、グルタミン酸ナトリウム、システイン、ゼラチンが使用され、その他にセルロース系バイオポリマーを加える方法(例えば特許文献2を参照。)や、アルギニン等のアミノ酸を添加する方法(例えば特許文献3参照。)等が報告されている。 しかし、微生物を使用する際に、その都度前記凍結法又は乾燥法による保存標本から復元すれば、使用頻度の高い微生物に対しては大量の保存標本を保持しなければならない。そのため、一般には適宜の間隔で、前記方法により長期保存微生物株を復元し、前回の復元から次回の復元までの間は、前記継代培養法でつなぐ方法が用いられている。しかし前記継代培養法でつなぐ方法は短期間ではあっても上記の問題を有し、また労力的にも煩雑である。 そのために、凍結・融解の反復が可能な微生物においては前記継代培養法の代わりに、反復使用を前提とした凍結保存法(以下、反復使用凍結保存法という。)が用いられ、継代培養法でつなぐ方法による労力、その他の問題の軽減が図られている。 前記反復使用凍結保存法により保存微生物を使用する時は、前記凍結法、または乾燥法による保存用容器の内容物を培地に移植して微生物を増殖させ、更に増殖した微生物を分散媒が入った反復使用凍結保存用の保存容器に入れて保存する。 前記反復使用凍結保存法による保存微生物を使用する時は、前記反復使用凍結保存用の保存容器を、室温〜37℃に保温して内容物を融解し、分散媒とともに懸濁している微生物の一部を取り出して培地に移植し、微生物を増殖させて使用する。保存用容器の中に残っている微生物を懸濁した分散媒は、再び冷凍庫に入れて凍結し、当該保存微生物を次の使用時まで保存する。 反復使用凍結保存法に用いる分散媒としては、グルタミン酸ナトリウムを添加したスキムミルクが一般に使用されていた。又、反復凍結保存法における保存温度は、作業効率をあげるために操作者が素手で取り扱っても凍傷害の恐れが少ない、−20℃〜−40℃の範囲であることが一般的である。 しかし前記反復使用凍結保存法においては、反復処理回数の増加に伴って、生き残っている菌の数が著しく減少するものが多く、使用できる微生物の種類が限定されるため、分散媒の有する凍結障害防護性能の向上が望まれていた。特開平7−99965号公報特開平10−243781号公報特開2003−219862号公報 本発明は前記の問題を解決し、反復使用凍結保存法を用いても、多様の微生物への使用を可能とする分散媒の提供と、該分散媒を入れた保存用容器を提供することを課題とする。 本発明者等は、反復使用凍結保存法において従来使用されていたスキムミルクとグルタミン酸ナトリウムからなる分散媒に、二糖類を加えることにより、広い範囲の微生物に対して反復して凍結・融解処理を施しても長期保存が可能であることを見出し、本発明をするに至った。即ち本発明は下記のとおりである。 微生物保存用分散媒において、グルタミン酸ナトリウム、スキムミルク、及び二糖類を含み、保存中に凍結及び解凍の反復使用が可能なことを特徴とする微生物保存用分散媒である。 前記微生物保存用分散媒において、グルタミン酸ナトリウムが0.5〜3.0質量%、スキムミルクが3〜20質量%、二糖類が3〜20質量%の範囲にある微生物保存用分散媒である。 前記微生物保存用分散媒において、前記二糖類がラクトース、トレハロース、マルトース、スクロースのいずれか1種または2種以上である微生物保存用分散媒である。 更に本発明は、グルタミン酸ナトリウム、スキムミルク、及び二糖類が容器に入れられていることを特徴とする微生物保存用容器である。 前記微生物保存用容器において、前記グルタミン酸ナトリウムが0.5〜3.0質量部、スキムミルクが3〜20質量部、二糖類が3〜20質量部の範囲にある微生物保存用容器である。 前記保存用容器において、前記二糖類がラクトース、トレハロース、マルトース、スクロースのいずれか1種または2種以上である微生物保存用容器である。 前記保存用容器が滅菌されている微生物保存用容器である。 本発明の微生物保存用分散媒は、反復使用凍結保存法を用いても多様の微生物への使用を可能とし、長期安定保存を目的とする凍結法、あるいは乾燥法による標本数が少量で済み、微生物の各種実験を効率的に行うことを可能とする。更に、本発明の微生物保存用容器はあらかじめ本発明の分散媒の成分を入れて滅菌した容器であり、滅菌蒸留水を加えることで容易に凍結保存する微生物の分散媒の作製を可能とする。 本発明の微生物保存用分散媒はグルタミン酸ナトリウム、スキムミルク、及び二糖類を含むことを特徴とし、好ましくは前記二糖類がラクトース、トレハロース、マルトース、スクロースのいずれか1種または2種以上である。 前記グルタミン酸ナトリウムは分散媒の0.5〜3.0質量%であることが好ましく、さらには1.0〜2.0質量%であることがより好ましい。又、前記グルタミン酸ナトリウムは必ずしも高純度である必要はなく、市販の食用のグルタミン酸ナトリウム等も好ましく用いることができる。 前記スキムミルクは分散媒の3〜20質量%であることが好ましく、さらには5〜15質量%であることがより好ましい。前記スキムミルクは必ずしも高純度である必要はなく、市販の食用のスキムミルク等も、好ましく用いることができるが、微生物試験用のスキムミルクがより好ましい。 前記二糖類としてはラクトース、トレハロース、マルトース、スクロースのいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。中でもラクトース、トレハロース,マルトースがより好ましく、入手の容易な点からはラクトースが特に好ましい。該二糖類は分散媒の3〜20質量%であることが好ましく、さらには5〜15質量%であることがより好ましい。 又、グルタミン酸ナトリウム、スキムミルク、及び二糖類の割合は、概ねグルタミン酸ナトリウム3質量部に対しスキムミルク20質量部、二糖類10〜20質量部が好ましい。 本発明の分散媒の溶媒としては、水、及びグリセリン水溶液が好ましい。 更に本発明は、グルタミン酸ナトリウム0.5〜3.0質量部、スキムミルク3〜20質量部、二糖類3〜20質量部が容器に入れられていることを特徴とする微生物保存用容器である。 前記保存用容器はガラス製、プラスチック製等材質は選ばないが、+125℃〜−196℃の範囲において変形・変質しないものであることが好ましい。 前記保存容器は滅菌されていることが好ましい。滅菌方法は特に限定はされないが、加熱による場合は110℃〜115℃で滅菌されることが好ましい。放射線を照射する方法も好ましく用いることができ、中でもγ線を照射する方法により滅菌されることが特に好ましい。 以下に本発明について実施例に基づき更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお以下に単に「部」というときは質量部を、「%」というときは質量%をいう。<実施例1> 市販の微生物試験用スキムミルク(商品名:DIFCO 232100、BECTONDICKINSON社製)10部、グルタミン酸ナトリウム(商品名:グルタミン酸ナトリウム一水和物,和光試薬特級、和光純薬工業社製)1.5部、ラクトース(商品名:ラクトース一水和物、JIS試薬特級、和光純薬工業社製)5部に、蒸留水を総質量が100部になるように加え、溶解して試験1の分散媒を調製した。前記分散媒を外径16.5mm、長さ12cmのスクリューキャプ試験管に2mlずつ分注し、高圧蒸気滅菌器(商品名:HICLAVE HV−50型、平山製作所社製)を用いて115℃で、15分間、高圧滅菌した。 更に、前記試験1に対してラクト−ス含量のみを、5部から10部(試験2)、15部(試験3)、及び0部(比較1)に替えた以外は試験1の分散媒と同様として、試験2、試験3、比較1の分散媒を作製した。 試験には、軟腐病菌 (Erwinia carotovora subsp. carotovora MAFF 301393)を用いた。なお、前記MAFF 301393は農林水産省微生物遺伝資源の略号である。前記試験細菌は、凍結法によりバイアル中に保存されていたものを溶解し、培地において増殖させ、更に斜面培地に1日間室温で培養し、滅菌蒸留水に懸濁して約107cfu/ml濃度に調整した。この懸濁液を、前記試験1乃至試験3、及び比較1の分散媒が注入された試験管に、100μl分注した後、直ちに−20℃の冷凍庫に入れて保存した。 前記−20℃の冷凍庫に入れて保存した試験管を、1日後に水道水に10分間浸けて、内容物を融解した。これを凍結・融解の処理回数の1回とした。その後融解した標本を直ちに−20℃の冷凍庫に戻し、以後毎日、同様の凍結・融解の処理を行ない、2日目を処理回数が2回、3日目が3回とし、該処理回数が1回、8回、12回について調査した。生残菌数は、凍結標本を融解後に滅菌蒸留水で希釈し、希釈液の50μlを直径9センチの普通寒天平板に塗抹し、4日間室温下で培養した後、生じた集落数を測定し、希釈率を乗じて元の細菌数を算出した。結果を表1に示す。 表1の結果から、ラクトースを含まない従来から利用されていた比較1の分散媒に比べて,試験1乃至試験3の分散媒はいずれも、処理回数が8回のときは6〜8倍,処理回数が12回のときは22〜32倍の細菌数が得られた。<実施例2> 実施例1において試験1のラクトースに替えて、トレハロース(商品名:トレハロース二水和物,和光試薬特級、和光純薬工業社製、試験4)、マルトース(商品名:マルトース一水和物,和光試薬特級、和光純薬工業社製、試験5)、スクロース(商品名:スクロース、JIS試薬特級、和光純薬工業社製、試験6)を用いた以外は試験1と同様にして、試験4乃至試験6の分散媒を作製した。 凍結・融解の方法は試験1と同様とし、処理回数は1回、及び12回について調査した。生残菌数は実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。 表2の結果から、スクロースにおいて若干劣ったが、ラクトースと同様にトレハロース、マルトースを添加した場合もこれらの添加が凍害の緩和に効果のあることが認められた。<実施例3> 実施例2において供試した試験細菌の軟腐病菌に替えて、大腸菌 (Escherichia coli JCM 1649) を用いた以外は、実施例2と同様に実施例3の分散媒を調製した。凍結・融解の処理方法、及び生残菌数の測定は実施例1と同様に行ない、処理回数は1回及び15回について調査した。なお、前記JCM 1649は理化学研究所系統保存施設の略号である。結果を表3に示す。 表3の結果から、本発明の分散媒は、大腸菌においても有効であることが分る。 本発明によって、反復使用凍結保存法を用いても、従来該方法では使用し得なかった植物病原細菌である軟腐病菌や大腸菌という多様の微生物への使用が可能となり、微生物の保存管理と利用が容易になった。又、本発明の分散媒組成物を滅菌容器に入れたものを、あらかじめ作製しておくことにより、分散媒入り保存容器を容易に入手することが可能となった。微生物の保存方法において、グルタミン酸ナトリウム0.5〜3.0質量%、スキムミルク3〜20質量%、二糖類10〜15質量%を含む微生物保存用分散媒を用いることにより、凍結及び解凍を反復することを特徴とする微生物の保存方法。前記二糖類がラクトース、トレハロース、マルトース、スクロースのいずれか1種または2種以上である請求項1に記載の微生物の保存方法。前記微生物保存用分散媒が微生物保存用容器に入れられた請求項1又は請求項2に記載の微生物の保存方法。前記微生物保存用容器が滅菌されている請求項3に記載の微生物の保存方法。