タイトル: | 特許公報(B2)_グリシンの製造方法 |
出願番号: | 2003402403 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C07C 227/42,C07C 229/08 |
高松 義和 佐藤 祥成 JP 4557280 特許公報(B2) 20100730 2003402403 20031202 グリシンの製造方法 旭化成ケミカルズ株式会社 303046314 酒井 正己 100116713 加々美 紀雄 100094709 高松 義和 佐藤 祥成 20101006 C07C 227/42 20060101AFI20100916BHJP C07C 229/08 20060101ALI20100916BHJP JPC07C227/42C07C229/08 C07C 227/42 C07C 229/08 B01D 9/02 特開昭59−007142(JP,A) 特開昭59−007143(JP,A) 特開平09−003015(JP,A) 特開平09−067322(JP,A) 特表2005−521553(JP,A) 特開昭59−118747(JP,A) 特開平10−130214(JP,A) 2 2005162649 20050623 9 20061201 品川 陽子 本発明は、加工食品の食品添加剤や、医薬、農薬などの原料として広く使用されているグリシンの製造方法、さらに詳しくはグリシンを望まれる結晶形に任意に製造する方法に関するものである。 従来、グリシンの製造方法としては、モノクロル酢酸のアミノ化法、ストレッカー法、ヒダントイン法などが知られている。そして、このような方法で得られるグリシンの結晶形にはα、β、γの3型のある事が非特許文献1、2等に記載されている。 また、グリシンの工業的な単離方法としては、一般的な濃縮晶析、冷却晶析、溶媒晶析等が行われ、α型グリシンとして商品化されている。α型グリシンは、輝度が高く、また、平均粒子径がγ型グリシンに比べて小さいことなどから、食品添加物用途等からの製品化要求がある。 しかしながら、このα型グリシンは、しばしば、保存中に岩石状に強固に固結し、製造上、流通保存上、使用上等に大きな問題となることが明らかとなった。即ち、α型グリシンが水分の存在下にγ型グリシンに転移する事に起因するものである。 かかる状況下、固結問題を回避する為に、γ型グリシンとして得る方法が提案されてきた。 例えば、特許文献1には、グリシンの飽和溶液に、γ晶を接種し攪拌下に徐冷することでγ晶グリシンを製造する方法が開示されている。 この方法は、グリシン飽和溶液にγ型グリシンを接種する事でγ型を製造できるとの提案であるが、その実施例によると基本的に回分式であり、冷却速度が5℃/Hrでは安定的にγ型が得られているが、50℃/Hrではα型となる事が開示されている。即ち、除熱速度によっては、α型とγ型の混合型が得られる事が推察される。安定的にγ型が得られるのは、冷却速度が5℃/Hrと緩慢な条件であり、工業的に実施する場合には、大型、或いは多くの晶析槽を必要として不利である。又、α型、γ型の望ましい結晶形のみを選択的に製造するには、緻密な除熱速度の制御が必要となる。又、当該特許明細書には、晶析操作に用いられた水の品質に関する記載は無い。 特許文献2には、晶析槽中の操作過飽和度を0.1〜2.0gグリシン/100g水の範囲に保ち、急冷下にγ型グリシンを製造する方法が報告されている。 しかしながら、この方法も操作過飽和度の厳密な制御が必要となり、制御範疇を逸脱すると、γ型とα型の混合型として得られる事が明細書にも記載されており、望まれる結晶形のグリシンを工業的に製造する方法としては満足できるものではない。又、当該特許明細書には、晶析に用いる水の品質に関する記載は無い。 また、晶析されたα型グリシンをγ型グリシンに転移させる方法が提案されている。 例えば、特許文献3には、グリシンα型をグリシンγ型共存下、かつ、水分の共存下に保ち、結晶状態でグリシンγ型に転移させるという提案であるが、明細書にも記載されている様に、グリシンα型がγ型へ転移する際に凝集、固結し易いという欠点があり、工業的に実施する場合、γ型グリシンとして製品化するには、粉砕等の操作が必要となり煩雑である。又、当該明細書には、晶析に用いる水の品質に関する記載は無い。 特許文献4は、α型グリシンをpH7〜14としたグリシン水溶液中に保ち、結晶状態でγ型グリシンに転移させるという提案であるが、先に述べた様に、グリシンα型がγ型へ転移する際に凝集、固結し易いという欠点があり、工業的に実施する場合、γ型グリシンとして製品化するには、粉砕等の操作が必要となり煩雑である。又、当該明細書には、グリシン水溶液中にアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩或いは酸化物を添加する事が提案されているが、それらの添加は、グリシン水溶液のpHを7〜14に調整する為であり、その目的はα型グリシンをγ型へ転移させる事にある。実施例では水酸化ナトリウムの例のみである。J.Amer.Chem.Soc.61,1087(1939)Proc.Japan Acad.30,109(1954)特公平2−9018号公報特開平9−67322号公報特公平2−9019号公報特開平9−3015号公報 本発明は、上記したような技術の問題点に鑑み、グリシンの結晶を晶析により工業的に製造する際に、α型とγ型の混合型となることなく、α型またはγ型の望まれる結晶形で製造する簡便なグリシンの製造方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記の課題を解決する為に、鋭意検討を重ねた結果、グリシンの結晶を晶析により製造する方法において、少なくとも1種の多価カチオンを少なくとも15μmol/L含んでいる水を用いる場合にα型グリシンを、多価カチオンを含有しない水を用いる場合にはγ型グリシンを製造する事が出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は以下に示す構成を有するものである。(1)グリシンを含有する水溶液からグリシンの結晶を晶析させるグリシンの製造方法において、晶析用溶媒として、多価カチオン濃度が0.2μmol/L以下である水を用いてγ型グリシンを晶析させることを特徴とするγ型グリシンの製造方法。(2)前記晶析用溶媒として、イオン交換処理水を用いることを特徴とする上記(1)のγ型グリシンの製造方法。 本発明によれば、工業的に簡便なる方法でグリシンを望まれる任意の結晶形(γ型、α型)で製造することが出来る。 以下、本発明について詳細に説明する。 本発明に用いられるグリシンは、一般的に知られるモノクロル酢酸のアミノ化法、シュトレッカー反応、ヒダントイン法等で得られたものが用いられる。求める製品がγ型グリシンである場合には、グリシン中に多価カチオンを含まないことが必要である。 本発明の方法では、グリシンの飽和水溶液からグリシンを晶析する方法としては、連続式晶析法、回分式晶析法のいずれの方法でも実施可能である。 本発明の方法では、晶析工程において晶析用溶媒として用いられる水の品質によって、α型グリシンとγ型グリシンを任意に製造することが出来る。β型グリシンは、通常の水晶析では得ることが出来ないことは公知である。 本発明の方法によって、γ型グリシンを得ようとする場合、晶析用溶媒としての水は、実質的に多価カチオンを含まない水を用いる。実質的に多価カチオンを含まないとは、好ましくは、水中の多価カチオン濃度が0.2μmol/L以下であることである。この様な水は、当分野で一般的に実施されているイオン交換処理、蒸留処理で容易に得ることが出来る。 本発明の方法によって、α型グリシンを得ようとする場合、晶析用溶媒としての水に、少なくとも1種の多価カチオンを少なくとも15μmol/L溶解させておく必要があり、この場合、数種の多価カチオンを混合使用しても構わない。その添加量(効果発現の最小必要量)は、晶析条件との兼ね合いによって定まるが、あまりに過剰な多価カチオンの添加は、製品への混入も考えられので、好ましくは、15〜2000μmol/Lの範囲であり、より好ましくは、50〜1000μmol/Lの範囲である。 用いる多価カチオンとしては、多価カチオンであれば特に制限は無いが、グリシンの用途を考慮すると、好ましいカチオン種としては、Ca2+、Mg2+、Fe3+、Zn2+、Al3+等が列挙され、より好ましくは、Ca2+、Mg2+である。これらのカチオンは、水の硬度成分であり、例えば、炭酸水素カルシウムとして一般の水道水に含有されているものである。従って、一般の水道水を用いれば、α型グリシンを製造することが出来る。 本発明の方法によってα型グリシンを得ようとする場合、使用する水に添加される多価カチオンは、通常、多価カチオンの塩として溶解させるが、必要量の溶解度があればその種類は問わない。例えば、塩化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられる。 本発明の方法においてイオン交換処理水を用いればγ型グリシンが製造できるのは、晶析槽内では核発生ではα型が得られるが、水の存在下に熱的に安定なγ型グリシンへ極めて速やかに転移する為と推察できる。しかしながら、極微量の多価カチオンを含有する水を用いると、驚くべきことに得られる結晶は全てがα型グリシンとなるのである。その効果要因は定かではないが、結晶成長、結晶転移のメカニズムに微量の多価カチオンが何らかの影響を与え、核発生が支配的になる為ではないかと推察される。 以下、実施例を挙げて本発明を説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものでは無く、その要旨を越えない限り、様々な変更、修飾などが可能である。<連続晶析実験(1)> 本実験において用いる水としては全てイオン交換処理水を用いた。このイオン交換処理水の成分分析結果を、後記の実施例5で用いた水道水の分析結果と共に表1に示す。Fe、Ca、Mgの分析値からこれらのカチオンの総量は、0.11μmol/Lであった。 市販のグリシンα晶3.6kgに水6.4kgを加え、ステンレス製タンクに投入し、90℃に加熱しながら溶解させ36%水溶液とした。 内容積2リットルでバッフル、ジャケット、翼径70mmプロペラ翼2段付きのガラス製セパラブルフラスコを晶析槽に用いた。ジャケットには30℃の温水を循環させた。470rpmで攪拌しながら、晶析槽内に水1リットルを投入した。しかる後、原料グリシン36%水溶液をポンプにて50ml/minの供給速度で晶析槽へ供給を開始した(即ち、原料液滞留時間は20分である。)。晶析槽内温を40℃に保つ様に、ジャケット循環温水温度を制御した。 真空ポンプで減圧にしたタンクに接続されたノズルの先端を晶析槽上部より槽内に投入し、内容積が常に、1リットルになる様に間欠的に抜き出した。この抜き出し操作を1回/2分間、実施しながら晶析操作を続けた。 実験開始から2時間後の抜き出しスラリーをろ過しケークを得た。この時、スラリー濃度は12%であり、晶析槽内のpHは6.2(39℃)であった。得られたケークを40℃で2時間真空乾燥し、グリシン結晶を得た。 得られたグリシン結晶のX線回折を測定したところ、100%γ型グリシンであった。X線回折測定結果を図1に示す。α型、γ型グリシン夫々のX線回折のパターンは、例えば、WO01/02075号公報にも記載されているが、α型では2θ=29.8°に、γ型では2θ=25.2°のその特徴的なピークがあることが知られている。 本実施例によれば、滞留時間20分といった比較的操作過飽和度が大きいと思われる条件であっても、実質的に多価カチオンを含まない水を用いて晶析した場合には得られる結晶はγ型グリシンであることが判る。<連続晶析実験(2)> 実施例1で用いたイオン交換処理水10kgに炭酸カルシウム25mgを溶解させた。即ち、Ca濃度は25μmol/Lである。この水を実験に用いた他は、実施例1と同様にして晶析実験を行なった。得られたグリシン結晶のX線回折を測定したところ、100%α型グリシンであった。X線回折測定結果を図2に示す。 本実施例によれば、多価カチオンとして25μmol/LのCaを含む水を用いて晶析した場合には得られる結晶がα型グリシンとなったことが判る。<連続晶析実験(3)> 実施例1で用いたイオン交換処理水10kgに硫酸亜鉛7水和物44mgを溶解させた。即ち、Zn濃度としては15μmol/Lである。この水を実験に用いた他は、実施例1と同様にして晶析実験を行なった。 得られたグリシン結晶のX線回折を測定したところ、100%α型グリシンであった。本実施例によれば、多価カチオンとして15μmol/LのZnを含む水を用いて晶析した場合にも得られる結晶はα型グリシンとなったことが判る。[比較例1]<連続晶析実験(4)> 実施例1で用いたイオン交換処理水10kgに塩化ナトリウム0.5gを溶解させた。即ち、Na濃度としては855μmol/Lである。この水を実験に用いた他は、実施例1と同様にして晶析実験を行なった。 得られたグリシン結晶のX線回折を測定したところ、100%γ型グリシンであった。本比較例によれば、1価カチオンであるNaを855μmol/L含む水を用いて晶析しても、イオン交換処理水を用いた場合と同様に、得られる結晶はγ型グリシンであり、Na等の一価のカチオンは、結晶多形の支配因子では無いことが判る。[比較例2]<連続晶析実験(5)> 実施例1で用いたイオン交換処理水10kgに炭酸カルシウム10mgを溶解させた。即ち、Ca濃度は10μmol/Lである。この水を実験に用いた他は、実施例1と同様にして晶析実験を行なった。得られたグリシン結晶のX線回折を測定したところ、α型グリシンとγ型グリシンの混合結晶であった。X線回折測定結果を図3に示す。 本実施例によれば、多価カチオン(Ca)の量が15μmol/L未満の水を用いて晶析した場合には安定にα型グリシンを得ることが出来ないことが判る。 本実験に用いる水は全て、イオン交換処理水(成分分析結果を表1に示す。)を用いた。 内容積50Lの晶析槽を用いてグリシン晶析実験を行なった。晶析槽には減圧蒸発による除熱システム、スラリー循環ライン、スラリー循環ポンプ、ジャケット、翼径240mmの攪拌翼、攪拌機が設置されている。晶析槽内のスラリーを循環させる方式とし、原料であるグリシン飽和水溶液供給口はスラリー循環ラインに設けた。 ステンレス製原料タンクに市販のグリシンα晶72kg、イミノジ酢酸72g、イオン交換処理水128kgを投入し、80℃に加熱しながら溶解させ、36%粗グリシン水溶液とした。一方、温水タンクには、グリシンα晶40kg、イオン交換処理水126kgを投入し、50℃に加熱しながら溶解させ、24%グリシン水溶液とした。 温水タンクからグリシン液を晶析槽内に投入、晶析槽の攪拌機を250rpmとし、循環ポンプを起動した。スラリー循環流量は1.5m3/Hrとした。 真空ポンプを起動し、徐々に晶析槽内の減圧度を上げ、液温を40℃まで下げた。一旦、装置を停止し、晶析槽内に市販のγ型グリシン3kgを種晶として添加した。種晶投入終了後、再度、攪拌機、真空ポンプ、スラリー循環ポンプを起動した。 晶析槽内温度が安定したところで、原料タンクから80℃に保温された36%粗グリシン水溶液を30L/Hrの速度で供給した。晶析槽の液レベルが一定(30L)になる様に、15分間隔でスラリーを回収しながら晶析実験を続けた。原料供給速度から、滞留時間は1時間である。 4時間経過時に、回収されたスラリーを遠心分離機で結晶と母液に分離しケークを得た。この時、晶析槽内のpHは5.64であった。得られたケークを40℃で2時間真空乾燥し、グリシン結晶を得た。晶析実験装置図を図4に示す。 得られたグリシン結晶のX線回折を測定したところ、100%γ型グリシンであった。X線回折測定結果を図5に示す。本実施例によれば、実質的に多価カチオンを含まない水を用いて晶析した場合には得られる結晶はγ型グリシンであることが判る。 実験に使用する水として、水道水(成分分析結果を表1に示す)を用いた他は、実施例4と同様に晶析実験を行なった。 得られたグリシン結晶のX線回折を測定したところ、100%α型グリシンであった。X線回折測定結果を図6に示す。本実施例によれば、多価カチオンとして、Caを550μmol/L、Mgを218μmol/L含む水道水を用いて実施例4の晶析実験を実施した場合には、γ晶の種晶を接種したとしてもα型グリシンとして得ることができることが判る。 本発明は、加工食品の食品添加剤や、医薬、農薬などの原料として広く使用されているグリシンを製造する方法についての工業的に優れた改良方法である。実施例1で得られた結晶のX線回折測定結果を示す図である。実施例2で得られた結晶のX線回折測定結果を示す図である。比較例2で得られた結晶のX線回折測定結果を示す図である。実施例4で用いた晶析装置を示す図である。実施例4で得られた結晶のX線回折測定結果を示す図である。実施例5で得られた結晶のX線回折測定結果を示す図である。 グリシンを含有する水溶液からグリシンの結晶を晶析させるグリシンの製造方法において、晶析用溶媒として、多価カチオン濃度が0.2μmol/L以下である水を用いてγ型グリシンを晶析させることを特徴とするγ型グリシンの製造方法。 前記晶析用溶媒として、イオン交換処理水を用いることを特徴とする請求項1に記載のγ型グリシンの製造方法。