生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_プラスミド変異株の作出法
出願番号:2003398651
年次:2010
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/21


特許情報キャッシュ

小林 美穂 野村 将 木元 広実 藤田 泰仁 JP 4465462 特許公報(B2) 20100305 2003398651 20031128 プラスミド変異株の作出法 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 矢野 裕也 100086221 小林 美穂 野村 将 木元 広実 藤田 泰仁 20100519 C12N 15/09 20060101AFI20100422BHJP C12N 1/21 20060101ALI20100422BHJP JPC12N15/00 AC12N1/21 C12N 15/00−15/90 C12N 1/00−1/38 CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) Genes Genet. Syst., 2002, Vol.77, p.1-9 畜産草地研究成果情報, 2002, No.1, p.41-42 2 FERM P-19599 FERM P-18217 2005151931 20050616 21 20060921 特許法第30条第1項適用 日本乳酸菌学会誌第14巻第1号(2003年6月1日)東京農業大学菌株保存室発行第28ページに発表 特許法第30条第1項適用 日本畜産学会第102回大会講演要旨(2003年9月15日)社団法人日本畜産学会発行第71ページに発表 高堀 栄二 本発明は、プラスミド変異株の作出法、並びに該作出法に用いるオリゴヌクレオチドおよびプラスミドベクターに関する。詳しくは、ラクトコッカス属乳酸菌等の被検菌からプラスミド変異株を作出する方法、並びに該作出法に用いるオリゴヌクレオチドおよびプラスミドベクターに関する。 微生物の中には、染色体遺伝子の他に、1個から数個のプラスミド(plasmid=核外遺伝子)を保有しているものがいる。これらのプラスミドには、θ型で複製するものとローリングサークル型で複製するものがあり、θ型で複製するプラスミドは比較的大型である。特に、発酵乳製品のスターターとして汎用されているラクトコッカス属乳酸菌の場合、通常複数のプラスミドを保有しており、発酵特性を支配している遺伝子群をコードしている場合が多い。したがって、特定のプラスミドをキュアリング(curing=除去)すると、親株とは発酵特性の異なる菌株を得ることができ、そのようなプラスミド変異株を発酵製品の製造に使うことによって、発酵産物の味や風味を変えることができる。 θ型プラスミドのレプリコン(replicon=複製領域、約2kb)には、複製開始タンパク質をコードしている構造遺伝子と、複製開始タンパク質が結合する特殊な遺伝子配列からなる複製起点が含まれる。レプリコンの遺伝子配列には、微生物のθ型プラスミドに共通な配列と、個々のプラスミドに特異的な固有配列とがある。 同一の細菌細胞に、近縁の2種類以上のプラスミドが安定に共存できない性質を、プラスミドの不和合性と言う。プラスミドの不和合性は、プラスミドコピー数などレプリコンの特異性を支配する特定の遺伝子配列部分(不和合性決定配列)により決定される。 プラスミド不和合性は、従来プラスミドの分類の研究に応用されてきた。しかし、本性質を微生物のプラスミドのキュアリングに利用し、プラスミド変異株を作出する試みはされていない。 プラスミド変異株の作成には、その作成過程でアクリジン色素等の変異原物質を使用するプラスミドキュアリング法が一般的であった(非特許文献1および2参照)。 変異原物質を用いる方法は、遺伝子解析をはじめとした研究目的の場合には不都合はない。しかし、用いられる変異原は、菌の遺伝子にランダムに作用するため、菌の生育や、発酵性能に関与する他の有用な遺伝子群の変異も同時に誘起するほか、有害な遺伝変異が被検菌に導入される可能性も否定できない。そのため、乳酸菌のように食品の発酵に利用される菌株の改良には、安全面の問題で不向きであった。 さらに従来法では、微生物の菌体内に複数種類内在しているプラスミドのうち、任意のプラスミドだけを選択的にキュアリングすることはできなかったので、発酵産業をはじめとする産業に利用可能な実用菌株の改良方法としての適用は難しかった。Loss of Lactose Metabolism in Lactic Streptococci L.L.McKAY,K.A.BALDWIN,AND E.A.ZOTTOLA(1972)Applied Microbiology 23(6)1090-1096Plasmid Linkage of a Bacteriocin-Like Substance in Streptococcus lactis subsp.diacetylactis Strainn WM4:Transferability to Streptococcus lactis KAREN M.SCHERWITZ,KATHLEEN A.BALDWIN,and LARRY L.McKAY(1983)Applied and Environmental Microbiology 45(5)1506-1512 上記したように、従来のプラスミドキュアリング法は、非常に効率が悪く、目的プラスミド変異株の作出に多大な時間と労力を要した。また、プラスミド変異株の効率的な作出の目的で汎用されてきた変異原物質は、被検菌のみならず、人体にも有害である。 本発明の目的は、人体への安全が保障され、しかも、目的のプラスミドを選択的にキュアリングすることで、任意のプラスミド変異株を簡便に作出する方法を提供することにある。 本発明は、微生物のうち、発酵乳製品のスターターとして汎用されているラクトコッカス属乳酸菌の不和合性決定配列を増幅することができる1組のポリメラーゼ連鎖反応(以下PCRと略記することがある。)プライマーセットを提供する。 また、本発明は、プライマーセットによって増幅したDNA配列を組込むことができるプラスミドを提供する。 更に、本発明は、微生物に内在するθ型プラスミドのレプリコン内部にコードされている、プラスミドの不和合性を決定する不和合性決定配列(以下VFと略記することがある。)を増幅したDNA配列をプラスミドベクターに組込んで構築した、不和合性誘導プラスミドを利用して、選択的に被検菌のθ型プラスミドをキュアリングし、任意のプラスミド変異株を作出する方法を提供する。特に、前記のプライマーセットおよびプラスミドを利用して、被検菌であるラクトコッカス属乳酸菌のθ型プラスミドを選択的にキュアリングし、任意のラクトコッカス属乳酸菌プラスミド変異株を作出する方法を提供するものである。 すなわち、本発明者らは、ラクトコッカス属乳酸菌に内在するθ型プラスミドの複製領域の遺伝子配列を研究した結果、プラスミドの不和合性を決定している不和合性決定配列を増幅することができるプライマーセットを設計した。 また、本発明者らは、不和合性決定配列の上流および下流に、θ型プラスミドレプリコンに共通なDNA配列を結合させると、ラクトコッカス属乳酸菌で複製可能な合成レプリコンを構築できることを見い出し、係る知見を基に、特定の共通配列およびエリスロマイシン耐性遺伝子を有し、不和合性決定配列が効率よく挿入され得るプラスミドpDB1を構築した。 さらに、本発明者らは、任意のθ型プラスミドの不和合性決定配列を、選択可能な遺伝子を含むプラスミドベクターに組込んで構築した不和合性誘導プラスミドを被検菌に導入すると、前記プラスミドの安定した複製を妨害する(不和合性を示す)ので、目的のプラスミドを簡便かつ的確に選択除去(キュアリング)でき、しかも、該プラスミドのキュアリング後に、選択物質エリスロマイシンを培地から除くと、選択可能な遺伝子をコードしているpCV(X)も自然に細胞内から消失し、外来遺伝子が一切残存せず、キュアリングしたプラスミド以外のプラスミドの保有状況は野生株と同じ安全な実用菌株が得られることを見出した。 そして、被検菌としてラクトコッカス属乳酸菌を対象とした場合に、上記プライマーセットで増幅したラクトコッカス属乳酸菌に内在する任意のθ型プラスミドの不和合性決定配列を、上記プラスミドpDB1に組込んで構築した不和合性誘導プラスミドpCV(X)を被検菌に導入すると、前記プラスミドの安定した複製を妨害する(不和合性を示す)ので、目的のプラスミドを簡便かつ的確に選択除去(キュアリング)でき、しかも、該プラスミドのキュアリング後に、エリスロマイシンを培地から除くと、エリスロマイシン耐性遺伝子をコードしているpCV(X)も自然に細胞内から消失し、外来遺伝子が一切残存せず、キュアリングしたプラスミド以外のプラスミドの保有状況は野生株と同じ安全な実用菌株として発酵産業に利用することができることを確認し、本発明に到達した。 なお、この手法はラクトコッカス属乳酸菌に限定されず、他の属に属する乳酸菌は勿論のこと、他の細菌、酵母など(例えば、枯草菌、大腸菌、サルモネラ菌等)に対しても適用可能である。 請求項1記載の本発明は、配列表の配列番号3記載の塩基配列部分、配列表の配列番号4記載の塩基配列部分およびエリスロマイシン耐性遺伝子を有し、さらに、配列表の配列番号1及び2に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いたポリメラーゼ連鎖反応によって得られるラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス(Lactococcus lactis subsp.lactis)またはラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)に内在するθ型プラスミドの不和合性決定配列であるDNA増幅配列の挿入部を、配列表の配列番号3記載の塩基配列部分と配列表の配列番号4記載の塩基配列部分との間に有することを特徴とする、不和合性誘導プラスミドpCV(X)作成用のプラスミドpDB1(FERM P−19599)である。 請求項2記載の本発明は、(A)被検菌であるラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス(Lactococcus lactis subsp.lactis)またはラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)から任意のθ型プラスミドを精製する工程、(B)該プラスミドを鋳型として、配列表の配列番号1および2に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いるポリメラーゼ連鎖反応を行い、該プラスミドレプリコン内部の、プラスミド不和合性決定配列を増幅する工程、(C)ポリメラーゼ連鎖反応の結果得られる増幅配列を、請求項1記載のプラスミドベクターpDB1のDNA増幅配列挿入部に組込み、不和合性誘導プラスミドpCV(X)を得る工程、(D)前記不和合性誘導プラスミドpCV(X)を被検菌に導入する工程、(E)pCV(X)保有株をエリスロマイシン添加培地で継代培養し、目的のプラスミドをキュアリングする工程、および(F)目的プラスミドがキュアリングされた被検菌を、エリスロマイシン無添加培地で継代培養し、被検菌に内在するpCV(X)を自然に消失させる工程からなることを特徴とするラクトコッカス属乳酸菌のプラスミド変異株の作出法である。 本発明によれば、目的のプラスミドを選択的にキュアリングすることで、プラスミド変異株を効率良く作出することができる。特に、ラクトコッカス属乳酸菌に内在しているプラスミドの不和合性決定配列を簡便に増幅することができるできるオリゴヌクレオチドと、増幅配列を組込むことができ、且つPCRの鋳型としたプラスミドと不和合性を示す不和合性誘導プラスミドを構築することができるプラスミドpDB1とを用いることにより、プラスミド変異株を効率良く作出することができる。 即ち、本発明のオリゴヌクレオチドは、PCRのプライマーセットとして用いられることによって、個々のプラスミドの塩基配列決定や、プラスミドの部分分解による複製領域の特定作業を行わなくても、ラクトコッカス属乳酸菌に内在しているθ型プラスミドのレプリコン内部にコードされている、プラスミドの不和合性決定配列を簡便に増幅することができる。 また、本発明のプラスミドpDB1は、上記オリゴヌクレオチドにより得られる増幅配列を組込むことができるので、PCRの鋳型にしたプラスミドと不和合性を示す、不和合性誘導プラスミドを構築することができ、これにより前記鋳型にしたプラスミドを選択的に短時間でのキュアリングが可能となる。 そして、上記オリゴヌクレオチドおよびプラスミドpDB1を用いることにより得られるプラスミド変異株は、外来遺伝子が一切残存せず、キュアリングしたプラスミド以外の遺伝子構成は全く野生株と同様で野生株の特性を受け継いでいるため、安全な実用菌株として実用発酵食品の製造に利用することができ、味や風味の改善に役立てることができる。 従って、本発明は、菌株の改良方法として発酵産業上も極めて有用である。 以下に、本発明を詳しく説明する。 本発明によるプラスミド変異株の作出法の対象となる微生物は、θ型プラスミドを有する微生物全般であり、例えば、ストレプトコッカス属菌、ラクトコッカス属菌を含む種々の乳酸菌群、枯草菌、大腸菌などのエシェリヒア属菌、サルモネラ菌、バチルス属菌などの細菌の他、酵母を挙げることができる。このうち、特に発酵乳製品のスターターとして汎用されており、そのθ型プラスミドは発酵特性を支配している遺伝子群をコードする場合が多い点で、ラクトコッカス属乳酸菌が好ましい。 ラクトコッカス属乳酸菌としては、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチスおよびラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリスを挙げることができる。本発明において、これらのラクトコッカス属乳酸菌のプラスミド変異株を作出するにあたっては、本発明のオリゴヌクレオチドおよび本発明のプラスミドpDB1(FERM P−19599)を用いることができる。 本発明のオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号1および2記載の塩基配列の組み合わせからなることを特徴とする。 本発明のオリゴヌクレオチドのうち、配列番号1記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、データーベースであるDDBJにAccession No.AB079380として登録されている、機能未知なθ型プラスミドpDR1−1Bの全塩基配列のうち、レプリコン内部の972〜1008番目の塩基部分を基に、5´末端に制限酵素EcoT 22I切断サイトを導入して設計したものである。本発明者らは、この配列番号1記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをPFと名付けた。 一方、本発明のオリゴヌクレオチドのうち、配列番号2記載のオリゴヌクレオチドは、同じくpDR1−1Bのレプリコン内部の2029〜2061番目の塩基部分を基に、5´末端に制限酵素Xho I切断サイトを導入して設計したものである。本発明者らは、この配列番号2記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをPRと名付けた。 上記のように設計された本発明のオリゴヌクレオチドは、その配列表の配列番号1および2に記載の塩基配列に従い、DNA合成機等を用いた常法によって、人工的に合成することができる。 本発明のオリゴヌクレオチドは、ラクトコッカス属乳酸菌、例えば、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス、またはラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリスに内在するθ型プラスミドを鋳型としたPCRにおいて、プライマーセットとして用いられることにより、該プラスミドのレプリコン内部にコードされている、プラスミドの不和合性を決定しているプラスミド不和合性決定配列を増幅することができる。 また、ラクトコッカス属乳酸菌に内在するプラスミドには、2〜100kbの様々な大きさのものがあり、各プラスミドにコードされている遺伝子群が関与する形質も多岐に渡る。プラスミドは、その複製様式によってθ型プラスミドと、ローリングサークル型プラスミドに分類され、この内、θ型プラスミドは比較的大型のものが多く、発酵形質に関与する遺伝子群の多くはθ型プラスミドにコードされている。本発明のオリゴヌクレオチドは、θ型プラスミドのレプリコンの不和合性決定配列のみを認識し、ローリングサークル型プラスミドの配列は認識しない。 θ型プラスミドのレプリコンは、この不和合性決定配列(固有配列)と共通配列とからなり、不和合性決定配列を挟んで、共通配列が上流および下流に配置される形で構成されている。 共通配列は、厳密には各プラスミドで塩基配列および大きさに違いがあるものの、不和合性等には関与せず、共通配列部分を他のθ型プラスミドのものと交換しても、ラクトコッカス属乳酸菌で正常に複製することが確認されている。 一方、レプリコンの不和合性決定配列は、複製起点に特徴的なダイレクトリピート配列、複製開始遺伝子の転写プロモーター、リボソーム結合部位、および複製開始タンパク質遺伝子翻訳領域の一部を含むDNA配列である。その大きさは、各プラスミドごとに異なってるが、約1.1kbの大きさである。この不和合性決定配列は、プラスミドの不和合性を決定すると同時に、プラスミドコピー数などレプリコンの特異性を支配している。 本発明のプライマーセットによって、プラスミド不和合性決定配列を効率良く増幅することができる。このプラスミド不和合性決定配列の上流および下流に、θ型プラスミドのレプリコンに共通な、約500bpの共通配列がその上流および下流に結合されると、ラクトコッカス属乳酸菌で複製可能なレプリコンとしての機能が発揮されるので、不和合性を利用したプラスミドキュアリングに使用することができる。このように、プラスミド不和合性決定配列を挿入可能な構造を有し、機能的な合成レプリコンを再構築しうるプラスミドベクターpDB1を提供するのが、請求項1に係る本発明である。 本発明のプラスミドpDB1は、配列表の配列番号3記載の塩基配列部分、配列表の配列番号4記載の塩基配列部分およびエリスロマイシン耐性遺伝子を有し、さらに、本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いた、ポリメラーゼ連鎖反応によって得られるDNA増幅配列挿入部を、配列表の配列番号3記載の塩基配列部分と配列表の配列番号4記載の塩基配列部分との間に有することを特徴とする。 このような本発明のプラスミドpDB1は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P−19599である。 配列表の配列番号3記載の塩基配列は、データーベースであるDDBJにAccession No.AB079380として登録されている、機能未知なθ型プラスミドpDR1−1Bの全塩基配列のうち、レプリコン内部上流側の525〜991番目の塩基部分に相当し、本領域を増幅するフォワードプライマーによって5´末端に制限酵素Ban III切断サイトが、リバースプライマーによって3´末端に制限酵素Nru IおよびEco RI切断サイトが導入されたDNA配列である。該配列は、クローニングベクターのBan IIIおよびEco RI切断サイトに対応する付着末端を露出させた445bpのDNA配列である。本配列をクローニングベクターのBan IIIおよびEco RI切断サイトに結合すると、不和合性決定配列挿入部位(Nru Iサイト)が機能するように設計した。本配列中には、レプリコンの複製起点上流の共通配列が含まれている。 一方、配列表の配列番号4に記載の塩基配列は、同じくpDR1−1Bの全塩基配列のうち、レプリコン内部下流側の2040〜2520番目の塩基部分に相当し、本領域を増幅するフォワードプライマーによって末端に制限酵素Pst IおよびXho I切断サイトが導入されたDNA配列である。本配列中には、複製開始タンパク質構造遺伝子の下流部分の共通配列と、終止コドンが含まれている。終止コドンの直下には、制限酵素Xba I切断サイトがあり、pDB1の構築には本制限酵素切断サイトを利用することができる。したがって配列表の配列番号4に記載の塩基配列は、フォワードプライマーによって導入したPst I切断配列から終止コドン直下のXba I切断配列迄の466bpに相当する。 Xho I切断サイト導入位置は、複製開始タンパク質遺伝子内部であるが、Xho I切断サイト導入のための塩基置換が、翻訳タンパク質である複製開始タンパク質のアミノ酸配列に影響しないように設計した。本配列を後述のクローニングベクターのPst IおよびXba I切断サイトに結合すると、不和合性決定配列挿入部位(Xho Iサイト)が機能するように設計した。 エリスロマイシン耐性遺伝子は、抗生物質エリスロマイシンに対する耐性遺伝子であり、ラクトコッカス属乳酸菌で特に選択性が良いことから選択されたものである。本遺伝子をコードしている組み換えプラスミド保有菌株は、5μg/mlエリスロマイシン添加培地で生育することができるが、非保有菌は全く生育できないので、保有菌株を、非保有菌株から効率的に分離することができる。 なお、ラクトコッカス属乳酸菌で選択性の良い遺伝子であれば、エリスロマイシン耐性遺伝子に換えて、例えば他の薬剤耐性遺伝子、具体的には例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子などを用いることもできる。配列表の配列番号3に記載の塩基配列部分、配列表の配列番号4に記載の塩基配列部分およびエリスロマイシン耐性遺伝子は、上流からこの順に並んでいることが好ましい。 本発明のプラスミドpDB1は、さらに、本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いたポリメラーゼ連鎖反応によって得られるDNA増幅配列挿入部を、配列表の配列番号3記載の塩基配列部分と配列表の配列番号4記載の塩基配列部分との間に有する。 本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いたポリメラーゼ連鎖反応によって得られるDNA増幅配列挿入部に挿入され得るDNA増幅配列とは、プラスミド不和合性決定配列であり、不和合性決定配列であれば、微生物の種類やプラスミドの種類に関わらず、特に制限なく挿入することができる。 本発明のプラスミドpDB1に上記DNA増幅配列を組み込む際には、配列表の配列番号3記載の塩基配列部分および配列表の配列番号4記載の塩基配列部分に制限酵素Nru I切断サイトおよびXho I切断サイトを露出させるような前処理が行われ、一方、DNA増幅配列の複製起点側末端は、Nru I切断サイトに結合させるため、ブラントエンドとし、複製開始タンパク質遺伝子側末端は、Xho I切断サイトに結合させるため、適切な付着末端を生じさせるような前処理が行われる。 実際には例えば、プラスミドpDB1については、制限酵素Xho Iを含む反応溶液を調製して制限分解を行った後、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈澱を行ない、次いで制限酵素Nru Iについて同様に制限分解、抽出および沈殿を行う前処理を、一方、組込みDNA断片については、制限酵素EcoT221を含む反応溶液を調製して制限分解を行った後、ブランチングを行ない、次いで制限酵素Nru Iについて同様に制限分解をした後、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈澱を行う前処理を行って準備する。 本発明のプラスミドpDB1の製造法は、特に限定されず、例えば、上記した配列表の配列番号3に記載の塩基配列部分、配列表の配列番号4に記載の塩基配列部分およびエリスロマイシン耐性遺伝子を、クローニングベクターに配置して製造することができる。クローニングベクターとしては、ラクトコッカス属乳酸菌のレプリコンを持たないものであれば、特に限定されないが、市販のプラスミド抽出キットを使用して、簡便に大量に精製できるように、大腸菌で多コピーに複製できるプラスミドベクターが好ましい。例えば、pBluescript II,pUC18,pUC19等の市販のクローニングベクターを用いることができる。 本発明のプラスミドpDB1は、ラクトコッカス属乳酸菌に内在するθ型プラスミドのプラスミド不和合性決定配列を効率よく挿入することができ、ラクトコッカス属乳酸菌で複製可能な合成レプリコンを有する不和合性誘導プラスミドpCV(X)を構築することができる。 従って、任意のθ型プラスミドの不和合性決定配列をpDB1に組込んで構築した不和合性誘導プラスミドpCV(X)を被検菌に導入すると、前記プラスミドの安定した複製を妨害する(不和合性を示す)ので、目的のプラスミドを簡便かつ的確に選択除去(キュアリング)でき、しかも、該プラスミドのキュアリング後に、エリスロマイシンを培地から除くと、エリスロマイシン耐性遺伝子をコードしているpCV(X)も自然に細胞内から消失し、外来遺伝子が一切残存せず、キュアリングしたプラスミド以外のプラスミドの保有状況は野生株と同じ安全な実用菌株として発酵産業に利用することができる。 次に、本発明のプラスミド変異株の作出法について説明する。本発明の方法は、以下の(A)〜(F)工程からなることを特徴とする。 本発明の方法においては、まず、(A)被検菌から任意のθ型プラスミドを精製する。すなわち、全プラスミドを抽出し、そのうちキュアリングの対象となる1種類の任意のθ型プラスミドを精製する。 被検菌は、キュアリングしたい形質に関与する遺伝子をコードするものであれば、先述したようにθ型プラスミドを有する微生物のいずれであっても良い。このうち、特にラクトコッカス属乳酸菌、即ちラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス、またはラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリスが好ましい。なお、被検菌については野生株であっても良いし、野生株に何らかの突然変異処理がなされた突然変異株や、既に本発明の方法を含む何らかのプラスミド変異処理が加えられたプラスミド変異株であっても良い。 (A)工程によるθ型プラスミドの精製は、以下のような手順により進めることができる。 まず、被検菌から全プラスミドを抽出する。例えば、被検菌がラクトコッカス属乳酸菌の場合、該乳酸菌をGM17培地(M17培地に、0.5または1.0% グルコースを添加したもの),MRS培地,プラスミド抽出用培地(1%トリプシン、0.5%イーストエクストラクト、0.5% 塩化ナトリウム、1% コハク酸ナトリウム、0.5% グルコースおよび20mM DLトレオニン)などの液体培地、好ましくはプラスミド抽出用培地で培養し、遠心分離して集菌した菌体から、Anderson & Mckayの定法(Anderson,D.G.and McKay,L.L.(1983)Simple and rapid method for isolating large plasmid DNA from lactic streptococci.Applied and Environmental Microbiology 46,549-552)で全プラスミドを抽出する。 次に、全プラスミドをアガロースゲル電気泳動やセシウムクロライド遠心分離法など、分子量の相違による分離手段などによって分画した後、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイドなどで染色し可視化して、任意のプラスミドのバンドをゲルから滅菌カッターナイフなどで切出す。 次に、(B)(A)工程で精製された任意のθ型プラスミドを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応を行い、該プラスミドレプリコン内部の、プラスミド不和合性決定配列を増幅する。 (B)工程は、例えば以下のようにして進めることができる。 すなわち、前記(A)工程で精製された任意のθ型プラスミドのバンドを含むゲルと、100〜200μLの滅菌蒸留水をエッペンチューブに入れ、96〜98℃で10〜20分間加熱し、アガロースを融解する。さらにその融解物を滅菌蒸留水で1000倍に希釈したものを鋳型プラスミド溶液とする。 続いて、これを鋳型にPCRを行う。PCRは、被検菌のプラスミドレプリコン内部のプラスミド不和合性決定配列を特異的に増幅させることができる条件であれば、定法に従って行えばよく、市販されているKOD−Plus(東洋紡)やAmpliTac Gold(パーキンエルマー)等のPCR反応試薬キットを使用することによって、より簡便に行うことができる。 PCRに用いるプライマーセットとしては、例えば、被検菌に内在するθ型プラスミドの全配列のうち、レプリコン内部の塩基配列、特に不和合性決定配列部の塩基配列を基に、好ましくは両端に制限酵素サイトが設けられるようにしてデザインされたオリゴヌクレオチドを用いることができる。 ここで、被検菌がラクトコッカス属乳酸菌の場合は、本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いることが好ましい。 続いて、(C)ポリメラーゼ連鎖反応の結果得られる増幅配列を、選択可能な遺伝子を含むプラスミドベクターに組込み、不和合性誘導プラスミドを得る。 ここで用いるプラスミドベクターとは、ポリメラーゼ連鎖反応の結果得られる増幅配列、すなわちプラスミド不和合性決定配列を組み込み可能であると共に、該ベクター保有株を後述の(D)工程において特異的に選択可能とするための選択性遺伝子を含むプラスミドベクターである。 選択性遺伝子としては、各種の薬剤体制遺伝子が挙げられ、具体的には例えば、エリスロマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子などが挙げられる。 このようなプラスミドベクターとしては、被検菌に内在するθ型プラスミドの全配列のうち、レプリコン内部の塩基配列を含むもの、例えば、レプリコンの複製基点上流の共通配列が含まれる塩基配列部分、複製開始タンパク質構造遺伝子の下流部分の共通配列が含まれる塩基配列部分および上述の選択性遺伝子を有し、ポリメラーゼ連鎖反応の結果得られるDNA増幅配列挿入部を、前記2塩基部分の間に有するものが好適である。具体的には例えば、被検菌がラクトコッカス属乳酸菌の場合には、本発明のプラスミドベクターpDB1を好ましく用いることができる。 このようなプラスミドベクターの製造法は、特に限定されず、レプリコンの複製基点上流の共通配列が含まれる塩基配列部分、複製開始タンパク質構造遺伝子の下流部分の共通配列が含まれる塩基配列部分および上述の選択性遺伝子を、被検菌のレプリコンを持たないクローニングベクターに配置して作製することができる。クローニングベクターとしては、請求項1に係る本発明の説明において例示したような市販のベクターを適宜用いることができる。 本(C)工程において本発明のプラスミドベクターpDB1を用いる場合について説明すると、前記(B)工程におけるポリメラーゼ連鎖反応の結果得られる増幅配列を、本発明のプラスミドベクターpDB1のDNA増幅配列挿入部に組込み、不和合性誘導プラスミドpCV(X)を得る。 即ち、前記(B)工程において、本発明の記載のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いたPCRの結果得られる不和合性決定配列を、本発明のプラスミドpDB1のDNA増幅配列挿入部のNru IおよびXho I切断サイトに組込み、不和合性誘導プラスミドpCV(X)を得る。 図1は、(C)工程の一例を示す説明図である。図1中、Emrは、エリスロマイシン体制遺伝子を示し、ここで、請求項1に係る本発明の説明において述べたように、pDB1と不和合性決定配列の結合に際して、pDB1のNru IおよびXhoI切断サイトを露出させる必要があるため、事前にNru IおよびXho Iで切断し、直鎖化する前処理が必要である。 具体的には例えば、制限酵素Xho Iを含む反応溶液を調製して制限分解を行った後、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈澱を行ない、次いで制限酵素Nru Iについて同様に制限分解、抽出および沈殿を行う。 一方、不和合性決定配列の複製起点側末端は、Nru I切断サイトに結合させるため、ブラントエンドとし、複製開始タンパク質遺伝子側末端は、Xho I切断サイトに結合させるため、適切な付着末端を生じさせるような前処理が行われる。 具体的には例えば、制限酵素EcoT221を含む反応溶液を調製して制限分解を行った後、ブランチングを行ない、次いで制限酵素Nru Iについて同様に制限分解をした後、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈澱を行う。 増幅配列のプラスミドベクターpDB1への組込みは、市販のライゲーションキットを使用することによってより簡便に行うことができる。 こうして、約6.1kbの不和合性誘導プラスミドpCV(X)を得ることができる。ここで、pCV(X)の(X)部分には、鋳型として抽出した任意のθ型プラスミド毎に異なる数値またはアルファベットが入る。例えば、pCV1、pCV5、pCV28、pCVc8、pCVm6などである。 ここで図1は、被検菌がラクトコッカス属乳酸菌の場合の(C)工程の一例を示す説明図である。図1に示すように、PFおよびPRの組み合わせからなるプライマーセットを用いたPCRにより増幅された不和合性決定配列(VF)は、増幅同時に導入された制限酵素(Xho IおよびNru I)切断サイトにより、pDB1(Emrは、エリスロマイシン耐性遺伝子を示す。)のDNA増幅配列挿入部位に組み込まれ、pCV(X)が得られる。 そして、(D)前記不和合性誘導プラスミドを被検菌に導入する。 被検菌への導入は、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)によることが好ましい。エレクトロポレーション法は、Holo & Nesの定法(Holo,H.and Nes,I.F.(1989)High-frequency transformation by electroporation of Lactococcus lactis subsp.cremoris growing with glycine in osmotically stabilized media.Applied and Environmental Microbiolorogy 55,3119-3123)に従って行うことができる。 不和合性誘導プラスミドを保有する被検菌の選択は、不和合性誘導プラスミド中の選択性遺伝子を利用して行うことができる。例えば、不和合性誘導プラスミドがpCV(X)の場合は、エリスロマイシンを利用して行うことができる。具体的には例えば、被検菌とpCV(X)の混合懸濁液40μlをエレクトロポレーション処理した後、被検菌をSGM17液体培地(GM17培地に、シュークロースを0.5Mになるように添加する)で25倍に希釈し、30℃、2時間復帰培養した後、エリスロマイシンを添加した固形培地に、培養液100〜200μlを塗布し、30℃で1〜3日間培養してエリスロマイシン耐性菌のコロニーを釣菌する。エリスロマイシン耐性菌株は、エリスロマイシン耐性遺伝子をコードしているpCV(X)を保有している。 次に、(E)前記不和合性誘導プラスミド保有株を選択物質添加培地で継代培養し、目的のプラスミド、すなわち各保有株に内在している不和合性誘導プラスミドと不和合性を示すプラスミドをキュアリングする。 選択物質添加培地としては、被検菌が生育可能な液体培地に、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン等の抗生物質など、(C)で用いたプラスミドベクターの選択性遺伝子に対応した選択物質を、適切な濃度で添加したものを用いることができる。例えば、不和合性誘導プラスミドがpCV(X)の場合は、pCV(X)保有株を2〜5μg/ml濃度のエリスロマイシン添加培地で継代培養することになる。このエリスロマイシン添加培地としては、GM17、MRS、TYG(1% トリプシン、0.5% イーストエクストラクト、0.5% 塩化ナトリウム、1% コハク酸ナトリウム、0.5% グルコース)などのラクトコッカス属乳酸菌が生育可能な液体培地(乳酸菌生育用培地)に、エリスロマイシンを2〜5μg/mlの濃度で添加したものを用いることができる。なお、プラスミドpDB1として請求項1に係る本発明の説明で述べたように、エリスロマイシン耐性遺伝子の代わりに、他の薬剤耐性遺伝子を組込んだものを用いるには、エリスロマイシンの代わりに、それらの薬剤を添加した培地を用いることが必要である。 継代培養の培養条件は、被検菌株およびキュアリングを予定するプラスミドの種類にもよるが、例えば、被検菌がラクトコッカス属乳酸菌であり、pCV(X)保有株をエリスロマイシン添加培地で継代培養する場合を例に取ると、50世代以上、好ましくは100世代以上、25〜30℃で継続的に培養することが一般的である。 継代は、途中単一コロニーを分離し、目的プラスミドの消失を確認しながら続けることが好ましい。例えば、pCV(X)保有株の場合、GM17、MRS、TYG等の乳酸菌生育用培地に1.5%アガロースなどを添加して固めて得られるエリスロマイシン添加固形培地で5〜20世代ごとのペースで単一コロニーを分離し、目的プラスミドの消失を確認しながら続けることができる。 目的プラスミドが完全に被検菌株の細胞内から消失したことは、目的プラスミドに特有の遺伝子配列が解っている場合、該配列をPCRで検出し、確認することができる。また、目的プラスミドの遺伝子配列が未知の場合、釣菌したコロニーから全プラスミドを抽出し、プラスミドパターンを野生株と比較することによって確認することもできる。 次に、(F)目的プラスミドがキュアリングされた被検菌を、選択物質無添加培地で継代培養し、被検菌に内在する前記不和合性誘導プラスミドを自然に消失させる。即ち、前記(E)工程において目的プラスミドが完全にキュアリングされた前記被検菌を、選択物質無添加培地に植菌し、さらに継代培養することで、不和合性誘導プラスミドを細胞内から自然に消失させることができる。 選択物質無添加培地としては、(E)工程の説明で挙げたのと同様な被検菌が生育可能な液体培地を用いることができる。ここで、被検菌がラクトコッカス属乳酸菌であり、pCV(X)を利用した場合は、エリスロマイシン無添加培地、すなわち、GM17,MRS,TYG等の乳酸菌生育用培地を用いることができる。 継代培養の培養条件は、被検菌株の種類にもよるが、例えば、被検菌がラクトコッカス属乳酸菌であり、エリスロマイシン添加培地で継代培養する場合を例に取ると、一般に50世代以上、好ましくは100世代以上、より好ましくは200世代以上、25〜30℃で継続的に培養する。 細胞内から不和合性誘導プラスミドを消失した菌株を取得するためには、培養液中の被検菌を固形培地に展開し、コロニーを形成させ、コロニーを選択物質添加培地と無添加培地の両方に植菌することによって、選択物質無添加培地でのみ生育できる菌株のコロニーを増殖させる。 このような本発明の作出法によれば、選択的にプラスミドをキュアリングすることができ、発酵に必要な遺伝子群のみならず、キュアリングしたプラスミド以外の遺伝子構成は野生株と同一なプラスミド変異株を作出することができる。 特に、請求項2に係る本発明の作出法によれば、ラクトコッカス属乳酸菌から、発酵産業に利用可能な実用的プラスミド変異株を効率良く作出することができる。 以下、実施例により本発明を詳細に説明する。実施例1(プラスミドpDB1の構築) レプリコン内部にコードされている、不和合性決定配列挿入部位を持つプラスミドベクターの構築を行った。 即ちまず、以下の手順でラクトコッカス属乳酸菌に内在するθ型プラスミドの塩基配列を解明した。ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC1株(Lactococcus lactis subsp.lactis biovar.diacetylactis DRC1)(独立行政法人農業生物資源研究所の農業生物資源ジーンバンクに寄託されており、その寄託番号はMAFF No.400206である。)から、7.3kbの機能未知なプラスミドpDR1−1Bを抽出し、Sanger法(Sanger,F.,Nicklen,S.and Coulson,A.R.(1977)DNA sequencing with chain-terminating inhibitors.Proceedings of National Academy of Science USA 74,5463-5467)により全遺伝子配列を決定し、相同性検索を行った。その結果、プラスミドpDR1−1Bの総塩基数は7344bpであり、その中に、ラクトコッカス属乳酸菌のθ型プラスミドの複製起点と高いホモロジーを示す遺伝子配列、同じくθ型プラスミドの複製開始タンパク質遺伝子と高いホモロジーを示す1161bpの翻訳領域、さらにファージ耐性に関与する制限・修飾サブユニット遺伝子と高いホモロジーを示す1245bpの翻訳領域等が含まれることが確認された。 尚、プラスミドpDR1−1Bの塩基配列は、データベースであるDDBJにAccession No.AB079380として登録されている。 上記相同性検索で確認された、θ型プラスミドの複製起点と高いホモロジーを示すプラスミドpDR1−1Bの遺伝子配列および複製開始タンパク質遺伝子と高いホモロジーを示すプラスミドpDR1−1Bの翻訳領域は、それぞれ複製起点および複製開始タンパク質遺伝子としてレプリコンを構成すると考えられた。 そこで、このレプリコンの遺伝子配列を、既に報告されている、ラクトコッカス属乳酸菌に内在する以下のθ型プラスミドのレプリコンの配列と比較した。 比較の対象としたプラスミド(括弧内はそれぞれのプラスミドが属するラクトコッカス属乳酸菌株名を示す)は、pAH33(ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DPC220株,DDBJ No.AF207855)、pAH82(ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス バイオバラエティー ジアセチラクティス DPC220株,DDBJ No.AF243383)、pAW122(ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス W12株,DDBJ No.AF097472)、pCI2001(ラクトコッカス・ラクチス 275株,DDBJ No.AF179847)、pDR1−1(ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC1株,DDBJ No.AB079381)、pEW104(ラクトコッカス・ラクチス W10株,DDBJ No.AF097471)、pHP003(ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス HP株,DDBJ No.AF247159)、pIL105(ラクトコッカス・ラクチス IL964株,DDBJ No.AF116286)、pSL2(ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス Bu2株,DDBJ No.X56550)、pSRQ700(ラクトコッカス・ラクチス DCH−4株,DDBJ No.U16027)、およびpUCL22(ラクトコッカス・ラクチス Z270株,DDBJ No.X60454)の各種である。 その結果、プラスミドのコピー数などプラスミドの特異性を決定する不和合性決定配列が、プラスミドpDR1−1Bを構成する全塩基配列のうち972〜2061塩基部分の約1.1kb内にあることを見い出した。 本発明者らはこれに着目し、プラスミドpDR1−1Bのレプリコンの遺伝子配列約2kbのうち、どの部分が不和合性決定配列か調べた。 その結果、レプリコンを構成する525〜2520塩基部分のうち、525〜991塩基部分を複製起点側共通配列部、927〜2061塩基部分を不和合性決定配列部(固有配列部)、2040〜2520塩基部分を複製開始タンパク質側共通配列部に区分し、それぞれの断片を増幅しうるプライマーを設計した。 即ち、上記の不和合性決定配列部を増幅するためのPCRのプライマーセットとして、配列表の配列番号1および2に記載の塩基配列の組み合わせからなるオリゴヌクレオチド(PFおよびPR)を設計した。また、上記の複製起点側共通配列部を増幅するためのPCRのプライマーセットとして、配列表の配列番号5および6に記載の塩基配列の組み合わせからなるオリゴヌクレオチドを設計した。さらに、上記の複製開始タンパク質側共通配列部を増幅するためのPCRのプライマーセットとして、配列表の配列番号7および8に記載の塩基配列の組み合わせからなるオリゴヌクレオチドを設計した。 尚、各オリゴヌクレオチドは、それぞれ5´端寄りにクローニング用の制限酵素切断サイトが設けられるようにデザインした。 これらのオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いて、PCRを行った。 即ち、配列番号5および6に記載の塩基配列の組み合わせからなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして使用し、プラスミドpDR1−1Bを鋳型にPCRを行った結果、増幅断片の一端にBan III、もう一端にNru IおよびEcoR I切断サイトを付した複製起点側共通配列部の増幅断片を得ることができた。 クローニングベクターへの結合に際して、増幅断片はBan IIIおよびEcoR Iで切断し、445bpの組込み配列を準備した。本増幅断片445bpの全塩基配列は、配列表の配列番号3に記載した通りである。 一方、配列番号7および8に記載の塩基配列の組み合わせからなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして使用し、プラスミドpDR1−1Bを鋳型にPCRを行ったところ、増幅断片の一端にPst IおよびXho I切断サイトを付した複製開始タンパク質側共通配列部の増幅断片466bpを得ることができた。 クローニングベクターへの結合に際して、増幅断片はPst Iおよび複製開始タンパク質遺伝子の終止コドン直後にあるXba Iで切断し、468bpの組込み配列を準備した。本増幅断片468bpの全塩基配列は、配列表の配列番号4に記載した通りである。 クローニングベクターpBluescript II KS+のマルチクローニングサイトに、複製起点側共通配列部(即ち、上記の組み込み配列(配列番号3))、複製開始タンパク質側共通配列部(即ち、上記の組み込み配列(配列番号4))、エリスロマイシン耐性遺伝子を順次クローニングし、プラスミドpDB1を得ることができた。 こうして得られたプラスミドpDB1は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P−19599である。実施例2(プラスミド変異株の作出) ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC1株(MAFF No.400206)に内在する、7.3kbプラスミドpDR1−1Bを以下の手順で選択的にキュアリングし、プラスミド変異株を作出した。(A)θ型プラスミドの精製 被検菌であるラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC1株から7.3kbプラスミドpDR1−1Bを精製した。 即ち、まず、DRC1株をプラスミド抽出用培地(1%トリプシン、0.5%イーストエクストラクト、0.5% 塩化ナトリウム、1% コハク酸ナトリウム、0.5% グルコース、20mM DLトレオニン)10mlを用いて30℃で1晩培養し、遠心分離して集菌した菌体から、Anderson & Mckayの方法(Anderson,D.G.and McKay,L.L.(1983)Simple and rapid method for isolating large plasmid DNA from lactic streptococci.Applied and Environmental Microbiology 46,549-552)を一部改変した方法で全プラスミドを抽出した。 全プラスミドの抽出の手順は、以下に示す(1)〜(9)の通りとした。(1)菌体を1回滅菌蒸留水で洗浄した後、遠心分離で回収し、400mlのSTEバッファー(6.7% シュークロース、50mMトリス、1mM EDTA、pH8.0)に懸濁した。(2)これに100mlのリゾチーム溶液(10mg リゾチーム/25mM トリス、pH8.0)と、RNase溶液20μl(10mg RNase/ml、10mM トリス、15mM NaCl、pH7.5)を加えて、37℃で30分間静置した。 (3)続いて、48.2μlの50mM トリス、0.25M EDTA(pH8.0)、ついで、27.6μlの20% SDS、50mM トリスおよび20mM EDTA(pH8.0)を加えて転倒混和し、37℃で10分間静置した。(4)さらに27.6μlの3N NaOHを加えて10分間転倒混和した。(5)そして、50μlの2M トリス(pH7.0)を加えて3分間転倒混和した。(6)これに、71.7μlの5M NaClを加えて混和後、750μlのTE飽和フェノール(和光純薬)を加えて、10〜15分間転倒混和した。 (7)遠心分離して上清を回収し、700μlのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(和光純薬)を加えて10〜15分間転倒混和した。(8)さらに遠心分離して上清を回収し、等量のイソプロピルアルコールを加えて−20℃で30分以上静置した後、遠心分離で沈澱を回収した。(9)沈澱は、75% エタノールで1回洗浄し、再び遠心分離で回収した後、風乾した。 次に、風乾した全プラスミドを、20μlのTE(10mM トリス、1mM EDTA、pH8.0)に溶解し、その全量をアガロースゲル電気泳動で分画した(1.0%ゲル、電気泳動装置(商品名:ミューピッド、アドバンテック社製))。電気泳動後のゲルは、エチジウムブロマイド染色によって可視化し、プラスミドpDR1−1Bのバンドを、アガロースゲルから滅菌カッターナイフで切出した。(B)PCR 前記(A)工程で得られるプラスミドpDR1−1Bを鋳型として、前記実施例1で設計した配列表の1および2からなる塩基配列の組み合わせからなるオリゴヌクレオチド(PFおよびPR)をプライマーセットとして用いるポリメラーゼ連鎖反応を行い、pDR1−1Bレプリコン内部の、プラスミド不和合性決定配列を増幅した。 すなわち、まず、前記(A)工程で得られるpDR1−1Bのバンドを含むゲルと、100〜200μlの滅菌蒸留水をエッペンチューブに入れ、96℃で15分間加熱し、アガロースを融解した。さらにその融解物を滅菌蒸留水で1000倍に希釈したものを鋳型プラスミド溶液として調製した。 続いて、これを鋳型にPCRを行った。 すなわち、キット付属の反応緩衝液5μl、dNTP mixture 0.2mM、プライマー(PFおよびPR)各0.4μM、鋳型DNA溶液5μlおよびAmpliTac Goldポリメラーゼ 1.0Uを含むPCR反応液(総量50μl)を調製した。GeneAmp PCR System(パーキンエルマー社)を用いて、95℃で9分間の予備加熱後、変性を95℃で30秒、アニーリングを55℃で30秒、伸長を72℃で80秒で行ない、このサイクルを40サイクル行った。(C)不和合性誘導プラスミドpCV5の調製 前記(B)工程で得られるプラスミドpDR1−1Bの不和合性決定配列を、実施例1で得られるプラスミドpDB1(FERM P−19599)のDNA増幅配列挿入部のNru IおよびXho I切断サイトに組込み、不和合性誘導プラスミドpCV5を作成した。 まず、プラスミドpDB1のNru IおよびXho I切断サイトを露出させる必要があるため、Nru IおよびXho Iで切断し、直鎖化する前処理を行った。前処理の手順は、以下に説明する(1)〜(6)の通りとした。(1)Xho I分解 Xho I 1μl、10×バッファー2μl、サンプル(pDB1)4μl(2〜10μg DNA)および滅菌蒸留水13μlからなる反応溶液(20μl容量)を、37℃で一晩処理してXho I分解処理した。(2)フェノール/クロロホルム抽出 反応が終わった後の前記(1)の反応溶液に、180μlのTE(10mM トリスおよび1mM EDTA、pH8.0)、20μlの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)、および200μlのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(和光純薬)を加えて約5分間震盪した後、遠心分離して上清を回収した。(3)エタノール沈澱 前記(2)で回収した上清に、2倍量のエタノールを加えて−30℃で30分間静置した後、12000rpmで10分間遠心分離を行った。その後、75%エタノールで1回洗浄した後、再び遠心分離し、沈澱を風乾して15μlの滅菌蒸留水に溶解した。(4)Nru I分解 Nru I 1μl、10×バッファー2μl、10×BSA 2μl、および前記(3)で得られたサンプル15μlからなる反応溶液を、37℃で2時間処理してNru I分解した。(5)フェノール/クロロホルム抽出 反応が終わった後の前記(4)の反応溶液を用いた他は、(2)と同様にして行った。(6)エタノール沈澱 前記(5)で回収した上清を用いた他は、(3)と同様にして行った。 一方、(B)工程で得られるプラスミドpDR1−1Bの不和合性決定配列の複製起点側末端は、Nru I切断サイトに結合させるため、ブラントエンドとし、複製開始タンパク質遺伝子側末端は、Xho I切断サイトに結合させるため、適切な付着末端を生じさせるような前処理を行った。前処理の手順は、以下に説明する(1)〜(4)の通りとした。(1)EcoT221分解 PCR後の増幅産物50μlを、フェノール/クロロホルム処理およびエタノール沈澱で精製、風乾し、34μlの10mM トリス(pH8.5)に溶解した。 これにEcoT22I 2μlおよび10×バッファー 4μlを加えて37℃で2時間処理してEcoT221分解した。 続いてフェノール/クロロホルム処理およびエタノール沈澱で精製、風乾し、ブランチング処理に供した。(2)ブランチング 風乾した前記(1)のサンプルを、Bulunting Kit 2(タカラバイオ)を使用して平滑末端化した後、フェノール/クロロホルム処理およびエタノール沈澱で精製、風乾し、34μlの10mM トリス(pH8.5)に溶解した。(3)Xho I分解 前記(2)で得られるサンプルに、Xho I 2μlおよび10×バッファー 4μlを加えて37℃で2時間処理してXho I分解した。(4)フェノール/クロロホルム抽出 反応が終わった後の前記(3)の反応溶液を用いた他は、前記したプラスミドの前処理の(2)と同様にして行った。(5)エタノール沈澱 前記(4)で回収した上清を用いた他は、前記したプラスミドの前処理の(3)と同様にして行った。 制限酵素分解後、精製して風乾したpDB1および不和合性決定配列断片は、一緒に10μlの10mM トリス(pH8.5)に溶解し、ライゲーションキットVer 2(タカラバイオ)を使用してライゲーション反応を行った。 こうして、約6.1kbの不和合性誘導プラスミドpCV5を得た。pCV5は、必要に応じて市販の大腸菌XL1−Blueで増幅し、市販のプラスミド抽出用キットで抽出精製して使用した。なお、野生株(DRC1)を受容菌として、pCV5を導入した場合の形質転換効率は、8.3×104(個/1μgDNA)であった。(D)被検菌への導入前記(C)工程で得たプラスミドpCV5を、被検菌であるDRC−1株にHolo & Nesの方法(Holo,H.and Nes,I.F.(1989)High-frequency transformation by electroporation of Lactococcus lactis subsp.cremoris growing with glycine in osmotically stabilized media.Applied and Environmental Microbiolorogy 55,3119-3123)を利用して、エレクトロポレーションにより導入した。 すなわち、0.1cmエレクトロポレーション用キュベット(BIO−RAD)に、コンピテントセル40μl、pCV5 2μl(1〜5μgプラスミドDNA)を入れ、電圧1.8kV、2.5msec.の条件で処理した。電気パルスをかけた後、素早くSGM17液体培地(GM17培地にシュークロースを0.5Mになるように添加したもの)を1ml加えて25倍に希釈し、30℃、2時間復帰培養した後、エリスロマイシンを添加した固形培地に、培養液200μlを塗布し、30℃で3日間培養して、出現したpCV5保有菌のコロニーを釣菌した。(E)プラスミドpDR1−1Bのキュアリング pCV5保有株をエリスロマイシン添加培地で継代培養した。 即ち、エリスロマイシンを添加(5μg/ml)したTYG培地を用いて、30℃で12時間おきに継代し、100世代培養を続けた。10世代目、50世代目および100世代目において、エリスロマイシン添加固形培地(エリスロマイシン添加培地に1.5%アガロースを添加して固めた培地。)で単一コロニーを分離し、目的プラスミドpDR1−1Bが完全に被検菌DRC1株の細胞内から消失した変異株の出現を確認すると同時に、本変異株の出現割合を測定した。 即ち、コロニーを構成している菌体を直接PCR反応の鋳型にして、pDR1−1Bにコードされている制限・修飾サブユニット遺伝子を特異的に認識するプライマーを使ってPCRを行い、pDR1−1Bが菌体内に残存しているか否かを確認した。 継代培養の過程におけるpDR1−1Bの消失割合を図2に示す。 なお、1個の細胞が2個に分裂することを以て1世代とカウントしているので、1回の植え継ぎで、約10世代継代するものとして計算した。 図2に示すように、10世代目まではpDR1−1Bがほとんど消失していないが、50世代目には30%程度となり、100世代目には完全に消失した。 このことから、100世代の継代培養により、被検菌DRC1株からプラスミドpDR1−1Bを完全にキュアリングできることが確認された。(F)pCV5の消失 前記(E)工程において得られた、目的プラスミドpDR1−1Bがキュアリングされた被検菌を、エリスロマイシン無添加培地で継代培養した。 即ち、前記(E)工程で用いた液体培地を用いて、30℃で12時間おきに継代し、100世代培養を続けた。 培養後、培養液中の被検菌をTYG固形培地に展開し、30℃で1晩培養した。培地中に形成したコロニーを、前記(E)工程で用いたエリスロマイシン添加培地と、上述のエリスロマイシン無添加培地の両方に植菌し、30℃で1晩培養した。その結果、エリスロマイシン無添加培地でのみ生育できるコロニーの存在が確認され、このコロニーはpCV5が自然消失した被検菌、即ち目的のプラスミド変異株であることが確認できた。そのコロニーをさらに増殖させ、目的のプラスミド変異株を得ることができた。実施例3(プラスミド変異株の作出) ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス 712株(Lactococcus lactis subsp.cremoris 712)(農業生物資源ジーンバンクに寄託されており、その寄託番号はMAFF No.400104である。)に内在する、機能未知な多コピープラスミドを選択的にキュアリングし、プラスミド変異株を作出した。 変異株の作出は、実施例2と基本的に同様の手順で行った。 すなわち、実施例2の工程(A)〜(C)において、被検菌をラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス 712株とし、プラスミドを該菌株に内在する機能未知な多コピープラスミドとした他は同様の条件で行い、不和合性誘導プラスミドpCVm6を得た。 続いて、実施例2の工程(D)と同様の条件で、プラスミドpCVm6を上記712株に導入した。 次に、工程(E)としてpCVm6保有株から機能未知な多コピープラスミドをキュアリングした。即ち実施例2の工程(E)と同様にしてpCVm6保有株をエリスロマイシン添加培地で継代培養した。ここで、この目的プラスミドの機能および遺伝子配列は未知であるため、実施例2の方法では目的プラスミドのキュアリングの確認が困難である。そこで、継代培養の各世代の培養液をエリスロマイシン固形培地に塗布してコロニーを形成させた点は、実施例2の工程(E)と同様としたが、その後単一コロニー由来の菌株からプラスミドを抽出して電気泳動し、そのプラスミドパターンを、712野生株のそれと比較することにより、目的プラスミドが菌体内に残存しているか否かを確認した。 その結果、pCVm6保有株を分離してから20世代継代培養すると、目的プラスミドキュアリング株を得ることができた。 その後、目的プラスミドがキュアリングされた被検菌を、継代培養を50世代とした他は実施例2の(E)工程と同様にしてpCVm6を消失させた。その結果、エリスロマイシン無添加培地でのみ生育できるコロニーの存在が確認され、このコロニーはpCVm6が自然消失した被検菌、即ち目的のプラスミド変異株であることが確認できた。そのコロニーをさらに増殖させ、目的のプラスミド変異株を得ることができた。 本実施例3の結果から、実施例2で対象としたDRC1株とは亜種(=サブスピーシーズ)を異にするラクトコッカス乳酸菌(クレモリス)を被検菌とする場合においても、本発明の方法が有効であることが確認された。実施例4(プラスミド変異株の作出) ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス バイオバラエティー ジアセチラクティス N7株(Lactococcus lactis subsp.lactis biovar.diacetylactis N7)(農業生物資源ジーンバンクに寄託されており、その寄託番号はMAFF No.400207である。また、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その寄託番号はFERM P−18217である。)に内在する、クエン酸資化性プラスミドを、選択的にキュアリングし、プラスミド変異株を作出した。 変異株の作出は、実施例2と基本的に同様の手順で行った。 すなわち、実施例2の工程(A)〜(C)において、被検菌をラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス バイオバラエティー ジアセチラクティス N7株とし、プラスミドを、該菌株に内在するクエン酸資化性プラスミドとした他は同様の条件で行い、不和合性誘導プラスミドpCVc8を得た。 続いて、実施例2の工程(D)と同様の条件で、プラスミドpCVc8を上記N7株に導入した。 次に、工程(E)としてpCVc8保有株から機能未知な多コピープラスミドをキュアリングした。即ち実施例2の工程(E)と同様にしてpCVc8保有株をエリスロマイシン添加培地で継代培養した。ここで、目的プラスミドはクエン酸資化を支配する遺伝子(クエン酸透過酵素遺伝子)をコードしており、その配列は既知である。そこで、本遺伝子の塩基配列を認識するプライマーセットを合成し、これをコロニーを構成している菌体を直接鋳型としたPCRに用いた他は実施例2の工程(E)と同様にして、目的プラスミドが菌体内に残存しているか否かを確認した。 その結果、pCVc8保有株を分離してから20世代継代培養すると、目的プラスミドキュアリング株を得ることができた。 その後、目的プラスミドがキュアリングされた被検菌を、実施例2の(E)工程と同様にしてpCVc8を消失させた。その結果、エリスロマイシン無添加培地でのみ生育できるコロニーの存在が確認され、このコロニーはpCVc8が自然消失した被検菌、即ち目的のプラスミド変異株であることが確認できた。そのコロニーをさらに増殖させ、目的のプラスミド変異株を得ることができた。 クエン酸資化性プラスミドの消失によって、被検菌はクエン酸を資化することができなくなり、フレーバー成分の1つであるジアセチルを生成しなくなることがわかっている。そこで、本実施例4において得られたプラスミド変異株が、実際にジアセチルを生成しない性質を有しているか否かの確認を行った。 すなわち、作出したプラスミド変異株で実際に発酵乳を作成した。すなわち、10%スキムミルクにプラスミド変異株を添加し、1〜2晩培養して発酵乳を作製した。一方、比較対照として、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス バイオバラエティー ジアセチラクティス N7株(野生株、すなわち、プラスミド変異していないもの)を用いた他は同様にして発酵乳を作製した。 得られる発酵乳について、クレアチンテストでジアセチルの生成を試験した。すなわち、発酵乳5mlに、0.5% クレアチン溶液1mlおよび5% α−ナフトール(2.5N NaOH)1mlを混合し、室温で1時間処理した。赤色が観察された場合には、ジアセチルが生成されたと判定した。 その結果、野生株で作成した発酵乳にはジアセチルが生成していたが、変異株で作成した発酵乳では生成していないことを確かめた。 本実施例4の結果から、N7株を被検菌とする場合においても、本発明の方法が有効であることが確認されるとともに、得られたプラスミド変異株は、親株とは発酵特性を異にし、発酵特性(風味成分)の異なる発酵産物を生産する能力を有することが実証された。 本発明によれば、目的のプラスミドを選択的にキュアリングすることで、プラスミド変異株を効率良く作出することができる。特に、ラクトコッカス属乳酸菌に内在しているプラスミドの不和合性決定配列を簡便に増幅することができるできるオリゴヌクレオチドと、増幅配列を組込むことができ、且つPCRの鋳型としたプラスミドと不和合性を示す不和合性誘導プラスミドを構築することができるプラスミドpDB1とを用いることにより、プラスミド変異株を効率良く作出することができる。 即ち、本発明のオリゴヌクレオチドは、PCRのプライマーセットとして用いられることによって、個々のプラスミドの塩基配列決定や、プラスミドの部分分解による複製領域の特定作業を行わなくても、ラクトコッカス属乳酸菌に内在しているθ型プラスミドのレプリコン内部にコードされている、プラスミドの不和合性決定配列を簡便に増幅することができる。 また、本発明のプラスミドpDB1は、上記オリゴヌクレオチドにより得られる増幅配列を組込むことができるので、PCRの鋳型にしたプラスミドと不和合性を示す、不和合性誘導プラスミドを構築することができ、これにより前記鋳型にしたプラスミドを選択的に短時間でのキュアリングが可能となる。 そして、上記オリゴヌクレオチドおよびプラスミドpDB1を用いることにより得られるプラスミド変異株は、外来遺伝子が一切残存せず、キュアリングしたプラスミド以外の遺伝子構成は全く野生株と同様で野生株の特性を受け継いでいるため、安全な実用菌株として実用発酵食品の製造に利用することができ、味や風味の改善に役立てることができる。従って、本発明は、菌株の改良方法として発酵産業上も極めて有用である。(C)工程の一例を示す説明図である。継代培養の過程におけるpDR1−1Bの消失割合を示す。 配列表の配列番号3記載の塩基配列部分、配列表の配列番号4記載の塩基配列部分およびエリスロマイシン耐性遺伝子を有し、さらに、配列表の配列番号1及び2に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いたポリメラーゼ連鎖反応によって得られるラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス(Lactococcus lactis subsp.lactis)またはラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)に内在するθ型プラスミドの不和合性決定配列であるDNA増幅配列の挿入部を、配列表の配列番号3記載の塩基配列部分と配列表の配列番号4記載の塩基配列部分との間に有することを特徴とする、不和合性誘導プラスミドpCV(X)作成用のプラスミドpDB1(FERM P−19599)。(A)被検菌であるラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ ラクチス(Lactococcus lactis subsp.lactis)またはラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)から任意のθ型プラスミドを精製する工程、(B)該プラスミドを鋳型として、配列表の配列番号1および2に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いるポリメラーゼ連鎖反応を行い、該プラスミドレプリコン内部の、プラスミド不和合性決定配列を増幅する工程、(C)ポリメラーゼ連鎖反応の結果得られる増幅配列を、請求項1記載のプラスミドベクターpDB1のDNA増幅配列挿入部に組込み、不和合性誘導プラスミドpCV(X)を得る工程、(D)前記不和合性誘導プラスミドpCV(X)を被検菌に導入する工程、(E)pCV(X)保有株をエリスロマイシン添加培地で継代培養し、目的のプラスミドをキュアリングする工程、および(F)目的プラスミドがキュアリングされた被検菌を、エリスロマイシン無添加培地で継代培養し、被検菌に内在するpCV(X)を自然に消失させる工程からなることを特徴とするラクトコッカス属乳酸菌のプラスミド変異株の作出法。配列表


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