生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_酵素を熱活性化する方法
出願番号:2003373916
年次:2009
IPC分類:C12N 9/12,C12N 9/16


特許情報キャッシュ

林崎 良英 JP 4216165 特許公報(B2) 20081114 2003373916 20031104 酵素を熱活性化する方法 独立行政法人理化学研究所 503359821 株式会社ダナフォーム 501293666 特許業務法人特許事務所サイクス 110000109 林崎 良英 JP 1996196330 19960725 20090128 C12N 9/12 20060101AFI20090108BHJP C12N 9/16 20060101ALI20090108BHJP JPC12N9/12C12N9/16 A C12N9/00-9/96 C12N15/09-15/11 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特開平07−025897(JP,A) 国際公開第94/23055(WO,A1) Cell,1990年,62,939−944 J.Biol.Chem.,1995年,270(26),15479−15484 Biotechniques 10(1) p.58−59 (1991) 2 2002333596 19970724 2004180677 20040702 9 20040518 2006000962 20060113 平田 和男 鵜飼 健 松波 由美子 本発明は、シャペロン作用を有する物質を用いて酵素の高温下での活性を高める方法に関する。 酵素は、一般に、至適温度を超えた温度では、至適温度における酵素活性より低い活性しか示さない。また、一定以上に高い温度に曝されると活性を失うことも知られている。そのような熱失活の温度は、酵素の種類により異なるが、常温付近に至適温度を有する酵素の場合、50℃前後に加熱されると失活することが多い。また、高温下でも安定である酵素も知られており、このような耐熱性酵素は一般に至適温度も高い。 ところで、各酵素の使用条件により、より高い温度条件を使用したい場合が多々ある。そのような場合、上記のような耐熱性酵素を利用するのが一般的であり、耐熱性酵素の例として、PCR に多用されているTaq ポリメラーゼがある。しかるに、耐熱性酵素が知られていないか、あるいは知られていても、使用条件が適合しない場合もある。 例えば、in vitroでmRNAからcDNAを得ることができる逆転写酵素(RNA依存性DNA ポリメラーゼ) としてSuperscript IIが知られている。Superscript IIは通常、42℃が至適温度として使用されている非耐熱性酵素であり、50℃を越える温度では10分以内に完全に失活してしまう(例えば、特許文献1参照)。それに対して、Tth DNA ポリメラーゼは耐熱性と逆転写活性を有する酵素であるが、酵素活性の発現のためにマンガンイオンを必要とする。しかるに、この酵素を用いて高い温度においてmRNAからcDNAを得ようとすると、共存するマンガンイオンによってmRNAが切断されてしまい、完全長cDNAを得ることは困難である。 尚、上記Superscript IIのような非耐熱性逆転写酵素が要求するマグネシウムイオンによっても、適当な緩衝液または水中での高い温度条件下で、mRNAの切断が起こる。しかし、本発明者の検討結果によれば、マンガンイオンの方がmRNAの切断効果が強く、キレート剤等によるコントロールが難しい。 また別の例として、Taq ポリメラーゼはもともと耐熱性があるが、一般にPCR 等で用いられる25サイクル〜30サイクル以上では、Taq ポリメラーゼですら活性の低下が起こる。より強力な増幅効果を期待した場合、Taq ポリメラーゼの活性低下を防止することができれば、より少ないユニット数でより高い増幅効果、より高いサイクル数を実現することができる。特開平8−187097号公報(請求項3) ところが、その他の要因から、50℃を越える温度で逆転写を行いたい場合がある。例えば、高温においてmRNAが2次構造を形成することを阻止しながら逆転写を行って完全長cDNAを得たい場合である。 しかるに、逆転写活性のある酵素については、耐熱性酵素であるTth DNA ポリメラーゼでは完全長cDNAは得られない。そこで、現在入手可能な常温で使用されるタイプの逆転写酵素を利用する他ない。 また、その他のポリメラーゼについても、同様な状況は多々ある。 変異を導入して遺伝子工学的に至適温度の高い酵素を合成できることが一部の酵素について知られている。しかし、あらゆる酵素についてそのような耐熱性の改善が可能な訳ではなく、少なくとも逆転写酵素については知られていない。 また、耐熱性を有する酵素として知られている酵素についてもより高い温度でより高い活性を示すことができれば、その利用価値はさらに向上する。 そこで本発明の目的は、より簡単にかつ効果的に酵素の耐熱性を改善し、かつ高温において高い酵素活性を発現させる方法を提供することにある。 本発明は、酵素の活性を高温下で高める方法であって、前記酵素を含有する反応液中にシャペロン作用を有する物質を存在させることを特徴とする方法に関する。 本発明の方法によれば、ポリメラーゼや制限酵素等の酵素の活性を高温下で高めることができ、ここで、高温とは、例えば、45〜110 ℃の範囲である。但し、酵素を熱安定化できる温度は、酵素の種類により異なる。通常常温で使用される酵素については、常温より高い温度で熱安定化でき、耐熱性酵素については、至適温度より高い、より高温においても熱安定化できる。本発明の方法により、糖類を共存させることにより、ポリメラーゼや制限酵素等の酵素の耐熱性を改善することができるばかりでなく、高温下でのポリメラーゼや制限酵素等の酵素の活性を高めることもできる。 以下本発明について説明する。 本発明の方法において、対象となる酵素には特に制限はない。例えば、高温下でも失活せずかつ活性も示す酵素を挙げることができる。また、通常の条件では、高温下で永久失活はしないが、ほとんど活性を示さない酵素や永久失活する酵素であっても、高温下で活性化を補助する条件下であれば、本発明の方法を適用して高温下での酵素活性を高めるができる。 本発明の方法の適用が可能な酵素の代表的な例はポリメラーゼ及び制限酵素である。ポリメラーゼとして、例えば、DNAポリメラーゼやRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、DNAリプリカーゼ、ターミナルデオキシトランスフェラーゼ、ポリAポリメラーゼ、テロメラーゼ等を挙げることができる。但し、これらに限定する意図はない。 DNAポリメラーゼとしては、シークエナーゼVer.2、T7 DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼI 等を例示することができる。さらに、耐熱性のDNAポリメラーゼとして、Taqポリメラーゼ、VentDNAポリメラーゼ、Pfuポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、サーモシーケネス等も上記DNA ポリメラーゼに含めることができる。これら耐熱性のDNAポリメラーゼについては、本発明の方法を利用することにより、耐熱性をさらに高めることが可能であることから、PCR の増幅率や増幅回数を上げることが可能になり、PCRの安定性を向上させることもできる。RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)としては、Seperscript II、AMV 逆転写酵素、MulV逆転写酵素等を例示することができる。 また、ポリメラーゼ以外に例えば、Taq I のような制限酵素の中にも、高温下でも失活せずかつ比較的活性も示す酵素もあり、このような制限酵素も本発明の方法により熱安定化することができる。 本発明の方法により熱安定化することができる制限酵素としては、高温下でも失活せずかつある程度の活性も示す、酵素遺伝子工学で使用されるあらゆる制限酵素を挙げることができる。制限酵素としては、例えば、Sty I、EcoRI、Mlu I、Nco I、DNase I、RNase I、Nde I、Pvu II、Pst I、Dra I、Hind III、Hinc II等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。 本発明の方法では、反応液中にシャペロン作用を有する物質を存在させる。シャペロン作用を有する物質としては、糖類、アミノ酸、多価アルコール及びそれらの誘導体、並びにシャペロンタンパク質を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではなく、シャペロン作用を有する物質であればよい。尚、本明細書において「シャペロン作用」とは、熱等によるストレスの為、変性したタンパク質を再生するか、またはネイティブの構造を保持させる為、熱によるタンパク質の完全変性を防止する作用を言う。 糖類として、例えば、オリゴ糖類や単糖類を挙げることができ、さらにその具体例として、例えば、トレハロース、マルトース、グルコース、スクロース、ラクトース、キシロビオース、アガロビオース、セロビオース、レバンビオース、キトビオース、2−β−グルクロノシルグルクロン酸、アロース、アルトロース、ガラクトース、グロース、イドース、マンノース、タロース、ソルビトール、レブロース、キシリトール及びアラビトール等を挙げることができる。但し、これらに限定する意図はない。上記糖類は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。尚、特に、トレハロース、ソルビトール、レブロース、キシリトール及びアラビトールは、シャペロン作用が強く、酵素の熱活性化の効果が著しい。 アミノ酸またはその誘導体として、 Ne−アセチル−β−リジン、アラニン、γ−アミノブチル酸、ベタイン、 Na−カルバモイル−L−グルタミン−1−アミド、コリン、ジメチルテチン、エコトイン、グルタメート、β−グルタミン、グリシン、オクトパイン、プロリン、サルコシン、タウリン及びトリメチルアミンN−オキシドを挙げることができる。上記アミノ酸類は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。尚、特に、ベタイン及びサルコシンは、シャペロン作用が強く、酵素の熱活性化の効果が著しい。 シャペロン作用を有する物質として多価アルコール(但し、上記糖類を除く)を挙げることができる。シャペロン作用を有する多価アルコールの例としては、例えば、グリセロールおよびポリエチレングリコールを挙げることができる。上記多価アルコールは、単独で用いても、2種を併用してもよい。 さらに、シャペロン作用を有する物質としてシャペロンタンパク質を挙げることができ、シャペロンタンパク質としては耐熱性菌のシャペロンタンパク質及びヒートショックタンパク質、例えば、HSP60、HSP70、HSP90等を挙げることができる。上記シャペロンタンパク質は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。 これらシャペロン作用を有する物質は、その種類により、また酵素の種類により、酵素に対する最適安定化濃度が異なる。従って、シャペロン作用を有する物質の種類と酵素の種類に応じて、反応系に対する添加濃度を適宜決定することができる。 また、シャペロン作用を有する物質の効果を補強するという観点から、上記1種または2種以上の糖類、アミノ酸またはシャペロンタンパク質にさらに、1種または2種以上の多価アルコールを併用することもできる。多価アルコールの例としては、例えば、グリセロール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。 以下、実施例に基づいて本発明について詳細に説明する。 実施例1 逆転写酵素の熱活性化による逆転写効率の向上 superscript IIの高温下における逆転写活性を見るため、T7 RNAポリメラーゼでin vitro転写されたRNA からcDNAを合成し、その産物に関して評価した。in vitroで転写されたRNA を鋳型にして変性ゲル電気泳動を用いると、逆転写反応の効率を各々の検体で比較でき、また、早期の逆転写の終結や反応効率の減少を示す非特異的転写の終結を評価できる。制限酵素Not Iによる切断により直線状に開裂したpBluescript II SK をT7 RNAポリメラーゼでin vitro 転写することにより鋳型RNAを調製した。この反応はpBluescript II SK の使用説明に書いてあるT7プロモーターから開始される。 コントロールとして、逆転写の標準バッファーの条件は次のものを用いた。 50mM Tris-HCl pH8.3、75mM KCl、3mM MgCl2、10mMジチオスレイトール、各dNTP (dATP, dGTP, dCTP, dTTP) 0.75mM。 上記標準バッファーに 1μg 鋳型RNA、400ngプライマー(20mer SK プライマー, CGCTCTAGAACTAGTGGATC)とsuperscript II 200 unitを20μl に調整する。 0.2 μl の [α-32P]dGTP を逆転写産物標識の為に用いた。その他の全ての基質を入れる前に、RNA とプライマーの混合検体は65℃にインキュベートされた。その後の反応は42℃1時間で実行した。反応産物は変性アガロース電気泳動法に供され、完全長cDNAの回収率と、短い不完全伸長による産物との割合を調べる為にオートラジオグフィで電気泳動パターンを調べた。結果を図1のレーン1に示す。 なお、逆転写酵素superscript IIは、上記標準バッファー条件下では50℃以上の温度にすると失活した。 オリゴ糖類を添加すると酵素反応が安定化されることを示すために、逆転写のバッファー条件を次のように設定した。 50mM Tris-HCl pH8.3、75mM KCl、3mM MgCl2、10mM ジチオスレイトール、各0.75mM dNTP (dATP, dGTP, dCTP, dTTP)、20%(w/v)トレハロース、20%(v/v) グリセロール。 上記バッファーに 1 μg鋳型RNA、400 ngプライマー(20 mer SK プライマー) と200 unit のsuperscript IIを24μl の水溶液中で反応させた。0.2 μl の [α-32P]dGTP を逆転写産物標識のために用いた。この条件下では逆転写酵素superscript IIは標準温度 (42℃) のコントロール反応より高い活性を有した。酵素活性はプライマーと鋳型RNA を37℃で2分間アニールした後、60℃で測定した。 反応産物は上記と同様に変性アガロース電気泳動法に供され、完全長cDNAの回収率と、短い不完全伸長による産物との割合を調べるためにオートラジオグフィで電気泳動パターンを調べた。結果を図1に示す。 レーン1に示すように、標準バッファー42℃での条件下では、途中の特異的な部分で逆転写が止まった産物や非特異的に逆転写が停止した産物がみられる。 レーン2に示すように、同じく42℃においては20%トレハロース20%グリセロールを加えてもこれらの途中で停止した産物は同様にみられた。 レーン3に示すように、60℃に温度を上げると、途中で合成反応が停止した産物は極めて少なくなり、完全長が合成されている。 レーン5に示すように、レーン3の条件にさらに0.125μg/μl のBSAを加えると、さらに酵素活性が安定化した。しかし、20%トレハロース20%グリセロールを添加せず、BSAのみでは酵素の熱活性化は十分ではなかった。 レーン4に示すように、レーン3の条件にさらにtriton X100 を0.05%加えると、途中で停止した不完全逆転写反応物はさらに減少した。しかし、逆転写酵素全体の活性がやや低下した。 実施例2 トレハロースの代わりにグルコースまたはマルトースを用いた以外、実施例1におけるレーン3で採用した条件と同様の条件で逆転写を行い、産物の電気泳動パターンを調べた。その結果、実施例1のレーン3のトレハロースを用いた場合と同様に途中で合成反応が停止した産物は極めて少なくなり、完全長が合成された。 実施例3 トレハロースの代わりにアラビトール、ソルビトール、レブロース、キシリトール、ベタインを用いた以外、実施例1におけるレーン3で採用した条件と同様の条件で逆転写を行い、産物の電気泳動パターンを調べた。その結果、実施例1のレーン3のトレハロースを用いた場合と同様に途中で合成反応が停止した産物は極めて少なくなり、完全長が合成された。 実施例4 制限酵素StyI 0.5単位、その基質としてλDNA0.5μg、さらにベタイン0 〜 0.6 Mまたはサルコシン0 〜 3.6 Mを含む反応液20μlを37、45、50、55、60 ℃の各温度で1時間インキュベートした。反応液の調製は、氷上で迅速に行い、インキュヘ゛ート以前に酵素反応が始まらないように注意した。インキュベート終了後、0.25% ブロモフェノールブルー、0.26% XC(キシレンシアノール)、30%グリセロール、120 mM EDTAを4μl添加して酵素反応を終了させた。この反応液を65 ℃で5分間加温し、cos siteを完全に開いた後、0.05% EtBrを含んだ0.8%アガロースゲルで電気泳動した。ベタイン添加の場合の電気泳動写真を図2に示し、サルコシン添加の場合の電気泳動写真を図3に示す。 泳動後、FOTO/UV (Model No. RM-VECO-0, FOTODYNE社製) でゲルの画像解析を行い、1kbp付近のバンド(図中に矢印を示す)の強度により酵素の活性を比較した。ベタイン0M、37℃のときの強度100とした場合の各バンドの相対強度を図4に示す。また、サルコシン0M、37℃のときの強度を100とした場合の各バンドの相対強度を図5に示す。 この結果から、適当濃度のベタインまたはサルコシンを添加することで、制限酵素の熱活性化することができることが分かる。 本発明は、高い温度条件で酵素を熱活性化さ得るため、PCR等などの分野において利用することができる。実施例1で得られたアガロースゲル泳動結果を示す図面に代わる写真。実施例4で得られたベタイン添加の場合のアガロースゲル泳動結果を示す図面に代わる写真。実施例4で得られたサルコシン添加の場合のアガロースゲル泳動結果を示す図面に代わる写真。実施例4で得られたベタイン添加の場合の各バンドの相対強度を示す。実施例4で得られたサルコシン添加の場合の各バンドの相対強度を示す。45〜110℃の範囲の温度において制限酵素または逆転写酵素を酵素反応に付す方法であって、前記反応を、グリセロールおよび/またはポリエチレングリコールの存在下で、下記(a)および(b)を満たす温度において行うことを特徴とする方法。(a)前記酵素が、該酵素の至適温度における活性を超える活性を示す温度である。(b)前記酵素の至適温度を超える温度である。前記酵素はSuperscript IIまたはSty Iである請求項1に記載の方法。


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