生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_嘔吐型セレウス菌の検出法
出願番号:2003360515
年次:2005
IPC分類:7,C12N15/09,C12Q1/06,C12Q1/68


特許情報キャッシュ

仲野 茂 前島 秀樹 松村 敦 大野 克利 山田 敏広 JP 2005124409 公開特許公報(A) 20050519 2003360515 20031021 嘔吐型セレウス菌の検出法 日清食品株式会社 000226976 三枝 英二 100065215 掛樋 悠路 100076510 小原 健志 100086427 斎藤 健治 100099988 藤井 淳 100105821 関 仁士 100099911 中野 睦子 100108084 仲野 茂 前島 秀樹 松村 敦 大野 克利 山田 敏広 7C12N15/09C12Q1/06C12Q1/68 JPC12N15/00 AC12Q1/06C12Q1/68 A 7 2 OL 22 4B024 4B063 4B024AA11 4B024CA01 4B024CA11 4B024HA11 4B063QA01 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ06 4B063QQ42 4B063QQ43 4B063QQ52 4B063QQ53 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR35 4B063QR39 4B063QR42 4B063QR62 4B063QS16 4B063QS25 4B063QS36 4B063QX01 本発明は、嘔吐型セレウス菌の検出手段に主に関する。特に、嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列を利用して試料中の嘔吐型セレウス菌を特異的に検出する方法に関する。 バチルス属のセレウス菌は土壌や河川水等の自然環境、そして農水産物や畜産物などの食料、飼料等に広く分布する好気性の芽胞形成桿菌である。本菌は食品への汚染の機会が多く、食品の腐敗・変敗の原因となり、また、食中毒をもたらすこともあり、近年、食品衛生上、重要視されている(非特許文献1)。 セレウス菌の食中毒は臨床症状によって嘔吐型と下痢型の2つがある。1971年に、イギリスにおいて米飯を原因とする嘔吐型食中毒の発生が報告されており、日本においても、2001年に、熊本であん入り餅を原因とする嘔吐型食中毒の発生が報告されている。また、1960年に岡山県で脱脂粉乳による下痢型食中毒の発生が報告され、これらの報告に伴って、日本では、1982年より行政的にセレウス菌が食中毒細菌として扱われるようになった。現在、セレウス菌は市販の選択培地で概ね検出可能であるが、この選択培地によって嘔吐型と下痢型の識別は出来ない。 下痢型食中毒は、下痢型セレウス菌が産生する毒素蛋白質が原因であることが知られており、抗体を利用して同毒素蛋白質を検出する方法が商品化されている(セレウス菌エンテロトキシン検出用キット CRET-RPLA「生研」、デンカ生研社)。また、同毒素蛋白質の遺伝子を検出する方法も報告されている(非特許文献2)。 一方、嘔吐型食中毒は、嘔吐型セレウス菌が産生する耐熱性の環状ペプチドからなる嘔吐毒が原因であることが知られており、セレウリドと命名されている。 嘔吐型セレウス菌の従来の検出方法としては、同菌が生産する耐熱性の環状ペプチドであるセレウリドを質量分析計で化学的に分析する方法並びに、セレウリドの薬理効果を動物培養細胞内部に出現する空胞を観察する空胞化試験が知られている(非特許文献3)。 質量分析計で化学的に分析する方法とは、菌培養液からメタノールまたはn−ペンタンで抽出された試料を高速液体クロマトグラフィーで分離後、質量分析計でセレウリドに特有なマススペクトルを直接検出する方法である(非特許文献4及び非特許文献5)。 また、空胞化試験とは、加熱処理した菌培養液上清あるいは、菌培養液からメタノールまたはn−ペンタンで抽出された試料を添加したHEp-2等の動物培養細胞の内部に出現するミトコンドリアの膨潤による空胞の有無を観察する方法であり、セレウリドの薬理的効果を分析する方法である(非特許文献3及び非特許文献6) 。 一方、セレウス菌の遺伝子型をさまざまな手法を用いて分析し、特徴的な遺伝子配列を求めることによって、嘔吐型セレウス菌を核酸分析によって検出するような試みがなされているが、現状では、有効な方法は見いだされていないようである(非特許文献7)。たとえば、RAPD(Random Amplified polymorphic DNA)法によって得られるDNAの複数部位から生じる多様なPCR増幅産物をアガロースゲル上で複数の特徴的なバンドパターンとして分離し、嘔吐型セレウス菌に特徴的なバンドパターンの有無を調べることによって嘔吐型セレウス菌を検出する方法も想定されるが、RAPD法の再現性を常にコントロールすることは非常に困難なため、得られる結果の信頼性は一般的に低い。それ故に、このようなRAPDを用いた方法のみで嘔吐型セレウス菌を検出することは、好ましい方法とは言い難い。 さらに、嘔吐型セレウス菌は澱粉分解能が陰性であり、血清型がH1であるとの報告もあるが、これらの特徴は嘔吐型でないセレウス菌にも見られるため、嘔吐型セレウス菌のみを特定するための指標としては十分ではない(非特許文献8)。 上述の質量分析計で化学的に分析する方法では、大変高価な分析装置を必要とするため、必ずしも汎用性の高い分析方法ではないという問題を有している。また、空胞化試験では、常に試験に使用する動物培養細胞を継代培養するという煩雑性があり、また、結果の解釈には熟練を要し、種々の観察経験を有する研究者以外の者にとっては、利用することが非常に難しいという問題を有している。さらに、上記の二つの方法は、被験菌からセレウリドを産生させる培養工程と培養液から被験試料を調製する工程も必要とするため、分析結果を得るのにおよそ2日〜3日の期間を要するという問題も有している。 これら質量分析計で化学的に分析する方法及び空胞化試験の2つ方法は、セレウリド自体を検出する検査法として、現在のところ、最良の方法と考えられるが、上述のような問題点があることから、より簡便かつ迅速に嘔吐型セレウス菌を検出する方法、あるいは、これらの質量分析による方法や空胞化試験を実施する前段階の分析法として嘔吐型セレウス菌を簡便かつ迅速にスクリーニングし得る検出法が待望されていた(非特許文献3)。Ueda S.;Bokin Bobai;25:659-669 (1997)Hsieh Y. M., S. J. Sheu, Y. L. Chen, and H. Y. Tsen;Enterotoxigenic profiles and polymerase chain reaction detection of Bacillus cereus group cells and B. cereus strains from foods and food-borne outbreaks;J. Appl. Microbiol., 87:481-490(1999).Ueda S.;Bokin Bobai;30:511-524(2002)Haggblom M. M., C. Apetroaie, M. A. Andersson, and M. S. Salkinoja-Salonen; Quantitative analysis of cereulide, the emetic toxin of Bacillus cereus, produced under various conditions; Appl. Environ. Microbiol. 68:2479-2483(2002)Hansen B. M., and N. B. Hendriksen; Detection of enterotoxic Bacillus cereus and Bacillus thuringiensis strains by PCR analysis;Appl. Environ. Microbiol. 67:185-189(2001)Andersson M. A., R. Mikkola, J. Helin, M. C. Andersson, M. Salkinoja-Salonen;A novel sensitive bioassay for detection of Bacillus cereus emetic toxin and related depsipeptide ionophores;Appl. Environ. Microbiol. 64:1338-1343(1998)Ripabelli G., J. McLauchlin, V. Mithani, E. J. Threlfall; Epidemiological typing of Bacillus cereus by amplified fragment length polymorphism;Lett. Appl. Microbiol. 30:358-363(2000)Pirttijarvi T. S., M. A. Andersson, A. C. Scoging, and M. S. Salkinoja-Salonen; Evaluation of methods for recognising strains of the Bacillus cereus group with food poisoning potential among industrial and environmental contaminants;Syst. Appl. Microbiol. 22:133-144(1999) 本発明は、嘔吐型セレウス菌を簡便にスクリーニングすることのできる検出手段を提供することを主目的とする。 上記課題を達成するために、本発明者らは、分子生物学的観点から、嘔吐型セレウス菌を検出する手法を鋭意研究した。その結果、嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列を見出し、該配列を利用して核酸分析を行うことで、嘔吐型セレウス菌を簡便に検出し得ることを見出し、更に鋭意検討を重ねて、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は、以下の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド、嘔吐型セレウス菌検出法、並びに、嘔吐型セレウス菌検出用キットに係る。 1.配列番号1で表される塩基配列における220位〜275位又は370位〜468位の領域の一部あるいは全部を含む配列又はその相補配列を有する嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド。好ましくは、配列番号1で表される塩基配列における220位〜275位又は370位〜468位の領域の一部あるいは全部からなる配列又はその相補配列を有する嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド。 2.配列番号2〜4のいずれかで表される塩基配列又はその相補配列を有する嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド。 3.a)項1又は項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを少なくとも1つ含むプライマーセットを用いて、試料中のDNAにおける標的ヌクレオチド配列を増幅させる工程、b)a)で増幅される産物を測定して、試料中に嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列が存在しているか否かを検出する工程、を有する嘔吐型セレウス菌の検出法。 4.a')項1又は項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを少なくとも1つ含むプライマーセットを用いて、試料中のDNAにおける標的ヌクレオチド配列を増幅させる工程、b')a')で増幅される産物を、項1又は項2に記載のオリゴヌクレオチドを標識化したプローブとハイブリダイズさせ、該標識プローブに由来するシグナルを測定して、試料中に嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列が存在しているか否かを検出する工程、を有する嘔吐型セレウス菌の検出法。 5.a'')項1又は項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを標識化して標識プローブとする工程、b'')a'')の標識プローブと試料中のDNAとをハイブリダイズさせる工程、c'')標識プローブに由来するシグナルにより、b'')におけるハイブリダイズ形成の有無を検出する工程、を有する嘔吐型セレウス菌の検出法。 6.項1又は項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドからなるプライマーまたは該オリゴヌクレオチドを標識化した標識プライマーを含む嘔吐型セレウス菌検出用キット。好ましくは、項1又は項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド からなるプライマーまたは該オリゴヌクレオチドを標識化した標識プライマー、デオキシリボヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼを含む嘔吐型セレウス菌検出用キット。 7.項1又は項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを標識化した標識プローブを含む嘔吐型セレウス菌検出用キット。 以下、本発明について、更に具体的に説明する。 嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド 本発明の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドは、嘔吐型セレウス菌に特徴的な塩基配列を有する。従って、核酸分析などの方法を用いて嘔吐型セレウス菌を特異的に検出することができる。 ここで、核酸分析とは、個々の種によって特異的な塩基配列が存在することを利用して、その特有な塩基配列の有無を分析することによって、その生物の種を把握するのに有効な手段であって、特定の微生物の検出や生物種の同定などに有用に用いられる方法である。 核酸としては、DNAやRNAが挙げられる。 嘔吐型セレウス菌に特有の塩基配列は、例えば、RFLP、PCR、RAPD(Random Amplified polymorphic DNA)(以下、RAPD という。)法などを用いて特定することができる。中でも、多様なPCR増幅産物を得ることが可能であるという観点から、RAPD法が適当である。 RAPD法は、通常のPCRと異なり、PCR反応条件、合成プライマーの塩基配列や長さなどを任意に変えることによって、得られる複数の部位から多様なPCR増幅産物のDNA多型を利用する方法である。この方法は、8〜12塩基といった比較的少ない任意の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを増幅プライマーとして使用し、PCRにおけるプライマーのアニーリング温度も30℃〜40℃といった低温条件が使用されるため、RAPD法の再現性を常にコントロールすることは非常に困難であるという欠点を含む。しかし、実験条件を厳密にコントロールすることによって再現性の向上も可能である。DNAの多型は、得られたPCR増幅産物を電気泳動にかけて得られるバンドパターンによって把握することができ、これにより嘔吐型セレウス菌に特徴的なバンドについて塩基配列を決定し、前記同菌に特異的な配列を見出すことができる。 具体的には、嘔吐型セレウス菌やその類縁菌のゲノムDNAのRAPD解析により、嘔吐型セレウス菌のみに特異的に確認されるPCR増幅産物を電気泳動のバンドパターンから選定する。安定して検出される再現性の良好なバンドを選定し、得られたバンドについて塩基配列を決定する。例えば、そのバンドを適当なプラスミドにサブクローニングして、バンドに相当する塩基配列を決定する。 そのようにして得られる嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列として、具体的には、配列表の配列番号1で表される塩基配列を挙げることが出来る。 そして、得られた嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列をさらにDDBJ/EMBL/GenBankデータベース上で相同性検索を行ない、比較的広い範囲で既知のDNA配列と相同性が低く、かつ嘔吐型セレウス菌にのみ特徴的と考えられる領域を選定し、核酸分析用の配列領域とすることができる。 そのようにして得られる嘔吐型セレウス菌にのみ特徴的な配列領域として、具体的には、配列表の配列番号1で表される塩基配列における220位〜275位及び370位〜468位の領域の配列を挙げることができる。 そして、得られた嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列領域から嘔吐型セレウス菌のDNAと特異的にハイブリダイズするような配列を選択して、各種オリゴヌクレオチドを設計することにより、嘔吐型セレウス菌の検出に好適なオリゴヌクレオチドを得ることができる。 選択される配列は、配列表の配列番号1で表される塩基配列における220位〜275位及び370位〜468位の領域から選ばれる配列又はその相補配列の一部又は全部を少なくとも含む配列であれば、特に限定されず、220位〜275位及び370位〜468位以外の領域の配列或いは他の任意の配列を一部含んで構成されるものであってもよい。 そのように設計される具体的なオリゴヌクレオチドとしては、例えば、配列表の配列番号2〜4のいずれかで表される塩基配列を有するオリゴヌクレチド等を挙げることができる。配列番号2で表される塩基配列は、配列番号1で表される配列の239位〜258位に相当する部分である。配列番号3で表される塩基配列は、配列番号1で表される配列の450位〜472位に相当する部分の相補配列である。配列番号4で表される塩基配列は、配列番号1で表される配列の373位〜396位に相当する部分の相補配列である。 配列番号1で表される塩基配列における220位〜275位及び370位〜468位の領域は、下痢型セレウス菌、炭疽菌及びその他の生物とは異なる、嘔吐型セレウス菌にのみ特徴的な配列である。このような嘔吐型セレウス菌にのみ特徴的な領域の配列を利用することにより、嘔吐型セレウス菌を特異的に検出することが可能になる。 該領域から選択される配列の長さは特に制限されないが、試料と確実にハイブリダイズし得るような塩基長になるよう設定することが好ましい。通常、10塩基以上、好ましくは17塩基以上である。 また、本発明の検出用オリゴヌクレオチドには、プローブ又はプライマー等として好適に用いることができる。プローブの場合、オリゴヌクレオチドの塩基長は、およそ10〜25程度である。プライマーの場合はおよそ15〜30、好ましくは17〜24程度である。 また、本発明のオリゴヌクレオチドは、必要に応じて適当な標識を施して用いることができる。例えば、細菌DNAの検出用標識プローブやPCR増幅産物の検出用標識プローブ、リアルタイムPCR等で用いられる増幅産物の内部配列検出標識プローブなどとして用いることができる。 検出法 上記本発明の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを用いて、試料中におけるDNAなどの核酸を分析することにより、試料中の嘔吐型セレウス菌を特異的に検出することが可能となる。 検出法(核酸分析)の種類は特に限定されず、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、プライマーを用いてPCR増幅する方法、PCR増幅産物をプローブで検出する方法、試料中のDNAをプローブで検出する方法等を例示することができる 例えば、プライマーを用いてPCR増幅する方法としては、上記本発明の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを少なくとも1つ含むプライマーセットを用いて、試料中のDNAにおける標的ヌクレオチド配列を選択的に増幅させ、増幅された産物の有無を測定、または増幅産物をプローブで検出して測定することにより、試料中に嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列が存在しているか否かを検出する方法が挙げられる。 プライマーセットは、上記本発明の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを組み合わせたものでもよい。また、上記本発明の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドと他のオリゴヌクレオチド、例えば、本発明の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドと配列番号1で表される配列における220位〜275位及び370位〜468位以外の領域の配列からなるオリゴヌクレオチドとを組み合わせたものでもよい。 DNA増幅の有無の確認は、通常、PCR産物をアガロースゲル電気泳動により分離し、エチジウムブロマイド、サイバーグリーンIなどで核酸染色することにより行うことができる。リアルタイムPCR装置を用いてPCRを行う場合は、その装置の検出システムにより自動的に短時間でDNA増幅の有無を確認することができる。例えば、PCR反応液中にサイバーグリーンIを添加した場合では、サイバーグリーンIが二本鎖DNAに結合したときに発する蛍光値から増幅産物量をサイクル毎にモニターすることが可能である。さらに、PCR後に融解曲線分析を行うことによりPCR増幅産物が目的の増幅産物であるかどうかを確認できる。判断が困難な場合は、アガロースゲル電気泳動によって増幅産物の大きさを確認すればよい。 また、PCR増幅産物をプローブで検出する方法としては、Taq Man法に代表されるように、PCR増幅産物を該増幅産物とハイブリダイズするような蛍光物質標識プローブを反応液に添加し、増幅産物を該プローブによる蛍光強度値として、リアルタイムPCR装置で自動的に検出することによってDNA増幅の有無を確認する方法を挙げることができる。例えば、配列番号2で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号3で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、配列番号4で表される塩基配列における全部もしくは一部の配列を有するオリゴヌクレオチドを増幅産物検出用標識プローブとする。 具体的には、以下の方法が挙げられる。 例えば、Taq Man法の場合、配列番号2で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号3で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、該両配列間に位置する配列番号4で表される塩基配列の全部もしくは一部の配列を含むオリゴヌクレオチドを、PCR増幅産物検出用の標識プローブ、すなわちTaq Manプローブとして使用することができる。PCR増幅産物にハイブリダイズした該プローブがDNA Taq polymeraseによって分解されるときに生じる蛍光強度値をリアルタイムPCR装置で自動的に検出することによってDNA増幅の有無を確認することもできる。 また、Molecular Beacon法の場合、例えば、配列番号2で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号3で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、該両配列間に位置する配列番号4の全部もしくは一部の配列を含むオリゴヌクレオチドを利用したPCR増幅産物検出用標識プローブをMolecular Beacon プローブとして使用することができる。PCR増幅産物に該プローブがハイブリダイズしたときに生じる該プローブの標識物質の蛍光強度値をリアルタイムPCR装置で自動的に検出することによってDNA増幅の有無を確認することもできる。 また、CycleavePCR法の場合、例えば、配列番号2で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号3で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、該両配列間に位置する配列番号4の全部もしくは一部の配列を含むオリゴヌクレオチドを、PCR増幅産物検出用標識プローブ、すなわちCycleavePCRで用いるDNA-RNAキメリックヌクレオチドプローブとして使用することができる。PCR増幅産物とハイブリダイズした該プローブがRNase Hによって分解されるときに生じる蛍光強度値をリアルタイムPCR装置で自動的に検出することによってDNA増幅の有無を確認することもできる。 また、ハイブリプローブを利用する場合、例えば、配列番号2で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号3で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、該両配列間に位置する配列番号4の全部もしくは一部の配列を含む、隣り合う2組の標識オリゴヌクレオチドをハイブリプローブとして使用することができる。PCR増幅産物とハイブリダイズした2つの該プローブが隣り合うようにハイブリダイズするときに生じる蛍光強度値をリアルタイムPCR装置で自動的に検出することによってDNA増幅の有無を確認することもできる。 また、試料中のDNAをプローブで検出する方法としては、本発明の配列番号2や配列番号3、配列番号4等で表される配列を含む嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを標識プローブとして用いて、嘔吐型セレウス菌の検出を行うこともできる。より具体的には、嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを標識化して標識プローブとし、次いで、該標識プローブと試料中のDNAとをハイブリダイズさせ、標識プローブに由来するシグナルにより、ハイブリダイズ形成の有無を検出して、試料中の嘔吐型セレウス菌の検出を行う方法を挙げることができる。 すなわち、嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列を含むプローブとのハイブリダイズ形成の有無により、未知の被験菌又は試料の核酸中に、既知の嘔吐型セレウス菌に特異的な塩基配列が存在するか否かを調べ、特異的な塩基配列を有していれば、既知の嘔吐型セレウス菌と同種、又は同系統に属する可能性が高いと判断することが可能となる。逆に、特異的な配列を有していなければ、当該既知の嘔吐型セレウス菌と異種、又は異系統に属する可能性が高いと判断することができる。 オリゴヌクレオチドの標識の種類及び標識に由来するシグナルの検出法は特に限定されず、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、1)放射性同位元素により標識化し、オートラジオグラフィー法により可視化する方法、2)ジゴキシゲニンにより標識化し、抗ジゴキシゲニン抗体を用いた免疫組織化学法により可視化する方法、3)ビオチンにより標識化し、抗ビオチン抗体によって検出する方法、さらには、ストレプトアビジンまたはアビジンを用いて検出する方法、4)フルオレッセイン等の蛍光標識を用いて蛍光シグナルを検出する方法などが挙げられる。 また、より正確な試験結果を得るために、上記のように本発明の嘔吐型セレウス菌の検出法を行った後、更に他の公知の検出試験を行ってもよい。例えば、本発明の検出法により、特異的にPCR増幅されるDNA断片が検出されたり、あるいはプローブによって特異的なDNAが検出されて、嘔吐型セレウス菌の陽性の結果が得られた場合には、次いで、セレウリドを質量分析計で化学的に分析する試験(LC-MS分析)、並びに、セレウリドを薬理効果的に検出する空胞化試験等を実施することができる。これにより、被験菌のセレウリドの産生性(能)をより正確に確定することができる。 本発明の嘔吐型セレウス菌の系統を特異的に検出する方法において、対象となる被験試料の種類は特に限定されない。 例えば、被験試料としては、食品や臨床試料等が挙げられる。より具体的に、食品としては、澱粉含有量の多い食品或いは牛乳等が挙げられる。澱粉含有量の多い食品としては、例えば、米飯類、餅、和菓子、麺類、パン等が挙げられる。また、臨床試料としては、罹患した可能性のある患者から調製した試料やその試料から分離された菌株及び、患者が摂取した食品から分離された菌株等が挙げられる。 また試料の形態も特に限定されない。通常、セレウス菌の検出は専用の選択培地、例えば、卵黄添加NGKG寒天基礎培地(日水製薬社)等で実施されることが多いが、この寒天培地上に出現したセレウス菌のコロニーを適当なDNA抽出処理を施して得られたDNA抽出液を、上記の検出法に適用することができる。また、食品や臨床試料を含む検体を適当な培養液で短時間培養後、その培養液で増殖した細菌からDNA抽出処理を施して得られたDNA抽出液も、上記の検出法に適用することができる。 検出用キット 本発明は、また、嘔吐型セレウス菌検出用キットに関する。該キットは、上記本発明の嘔吐型検出用オリゴヌクレオチドを少なくとも1つ含んで成るものであれば、その構成は特に限定されない。 具体的には、配列番号1で表される塩基配列における220位〜275位又は370位〜468位の領域の一部あるいは全部を含む配列又はその相補配列を有する嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド又は該オリゴヌクレオチドを標識化して得られた標識核酸プローブを含む嘔吐型セレウス菌検出用キットが挙げられる。又は、配列番号1で表される塩基配列における220位〜275位又は370位〜468位の領域の一部あるいは全部を含む配列又はその相補配列を有する嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドからなるプライマーまたは該オリゴヌクレオチドを標識化した標識プライマーを含む嘔吐型セレウス菌検出用キットなどが挙げられる。 該キットには、使用目的等に応じて、適当な試薬や検出手段、各種容器等を含めることができる。 例えば、プライマー伸長生成物を合成するための重合用試薬、例えば酵素や、標識を検出するための手段、試料中に含まれる2本鎖DNAの鎖を分離するための手段、デオキシリボヌクレオチドなどを含めることができる。 酵素としては、例えば、DNAポリメラーゼなどが挙げられる。 本発明は、嘔吐型セレウス菌を従来の方法よりも迅速かつ簡便に検出できるという有利な効果を奏する。 また、本発明は、PCR等を用いた核酸分析による、精度の高い嘔吐型セレウス菌のスクリーニングを可能にし、比較的小規模な分析機関等でも、嘔吐型セレウス菌の検出・確認が容易に実施可能であるという効果を奏する。 さらに、本発明の検出法を行った後、より正確な結果を得るためにセレウリド自体を確認するLC-MS分析や空胞化試験などの追加の検査を行うことができるが、その場合には陽性の結果の場合にのみ、追加の検査を実施すれば良く、陰性の場合には、LC-MS分析や空胞化試験といった大がかりな確認検査をしなくても高い精度で結果を得ることができる。このように、本発明の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを用いる検出法は、LC-MS分析や空胞化試験などの検査の前段階に行なう一次スクリーニング手段としても有効に用いることができる。 本発明をより具体的に説明するために、以下に実施例又は試験例を用いて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。 実施例1 嘔吐型セレウス菌に特異的な塩基配列の決定及び、同菌検出用プライマーセットの設計 嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus DSM4312株、食中13株、食中55株、食中98株、食中112株、食中138株、食中149株、食中160株のゲノムDNAに共通かつ特異的な塩基配列を検出することを目的として、RAPD解析を実施した。食中は、女子栄養大学・衛生学教室(上田助教授)で管理されている食中毒由来のセレウス菌株であることを示す。 10merの配列からなる数種類のプライマーを用いてRAPD解析すると共に、嘔吐型セレウス菌に特異的かつ再現性の高い増幅バンドを選定し、そのバンドの塩基配列を決定後、この塩基配列から嘔吐型セレウス菌を検出するための新規なプライマーを設計した。設計したセンス/アンチセンスプライマーを用いてPCRを行ない、嘔吐型セレウス菌のDNAを特異的に検出するかどうかを電気泳動のバンドパターンによって調べた。具体的には、以下のように行った。 図1に示されたバチルス・セレウス菌及び、その他のバチルス・セレウスグル−プの各細菌株をBHI液体培地で培養し、PUREGENE DNA Isolation Kit (Gentra 社、Minneapolis、USA)を用いて調製された各々のDNAをRAPD解析に使用した。ここで、バチルスセレウスグループとは、遺伝子的、生物的性状がバチルス・セレウス菌と類似しているバチルス・シュリンジェンシス、バチルス・マイコイデェス、バチルス・ヴァイエンセファネシス、バチルス・アンスラシス(炭疽菌)及びバチルス・セレウスを含むグループのことである。 RAPD解析のためのPCR反応液は、ニッポンジーン社のGene Taq FPを用いて調製した。すなわち、0.5μLのTaq DNA polymerase (5units/μL)(Gene Taq FP)及び、5μLの10×Gene Taq Universal Buffer (Gene Taq FP)、4μLのdNTP Mixture (各2.5mM)(Gene Taq FP)、10μLの5mM MgCl2、10μLのRAPD用のプライマー (5pg/μL)、4μLの被験DNA試料(5ng/μL)、16.5μLの蒸留水を含む50μLの反応液を調製した。PCRは初期変性を95℃で5分間行った後、95℃で1分間、36℃で1分間及び、72℃で2分間を1サイクルとし、これを45サイクル行い、さらに72℃で1分間保温後、4℃にまで降温させた。 反応液をアガロース電気泳動し、得られた増幅バンドのパターンから嘔吐型セレウス菌において特徴的で比較的再現性の良い増幅バンドの形成の有無を調べたところ、5'-CCCGTCAGCA-3'のプライマーを用いたときに、嘔吐型セレウス菌に特徴的で比較的再現性の良い増幅バンドの形成を確認した。この約0.95 kbのサイズからなる増幅バンドを嘔吐型セレウス菌に特徴的で比較的再現性の良い増幅バンドとして選定した。 図1に5'-CCCGTCAGCA-3'のプライマーを用いた場合のRAPD解析結果を示す電気泳動図及び、選定された増幅バンドを示す。レーン1からレーン8は嘔吐型セレウス菌株であり、それぞれBacillus cereus DSM 4312株、食中13株、食中55株、食中98株、食中112株、食中138株、食中149株、食中160株を示す。レーン9から17は嘔吐型ではないセレウス菌株であり、それぞれBacillus cereus DSM 8438株、ATCC 7004株、ATCC 10987株、ATCC 11778株、ATCC 33018株、ATCC 14579T株、ATCC 10876株、DSM 4313株、DSM 4384株を示す。レーン18〜20はバチルス・シュリンジェンシス株であり、それぞれBacillus thuringiensis ATCC 10792T 株、ATCC 13366株、ATCC 33679株を示す。レーン21はBacillus mycoides NCIMB 13305Tを示し、レーン22はBacillus weihenstephanensis DSM11821株を示す。MはDNA分子量マーカーを、レーンBはネガティブコントロールを示す。 図1の□で示されたバンドは、嘔吐型セレウス菌株に特徴的なバンドとして選定された約0.95 kbの増幅バンドを示す。 各々の嘔吐型セレウス菌株(Bacillus cereus DSM 4312株、食中13株、食中55株、食中98株、食中112株、食中138株、食中149株、食中160株)由来の約0.95 kbの増幅バンドの精製物を、TOPO TA Cloning kit (Invitrogen社、California、USA)を用いてクローニングし、そのバンドに相当する塩基配列をサイクルシーケンス法で決定した。決定された塩基配列は、各々の嘔吐型セレウス菌株において、すべて同一であった。RAPD解析で使用された増幅用プライマー配列を除いた増幅バンドの塩基配列を配列表の配列番号1に示す。 配列番号1の塩基配列をDDBJ/EMBL/GenBankデータベース上で相同性検索を行ない、比較的広い範囲で既知のDNA配列と相同性が低かった領域(220塩基から275塩基及び、370塩基から468塩基)を選定し、PCR用のプライマー領域とした。これらのプライマー領域から嘔吐型セレウス菌DNAと特異的にハイブリダイズするようなセンスプライマー(配列番号2)とアンチセンスプライマー(配列番号3、配列番号4)を設計し、人工的に合成した(キアゲン、サワディー社)。 以下に述べるPCRでは、配列番号2と配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたプライマーセット及び、配列番号2と配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたプライマーセットを使用した。 PCR反応用のキットであるTakara Ex Taq R-PCR Version (Takara Bio社、Otsu、Japan)の説明書に従って、総量20μLのPCR反応液を調製した。すなわち、2μLの10xR-PCR Buffer(Mg2+ free)、0.16μLの250mM Mg2+ Solution for R-PCR、0.4μLのdNTP Mixture(各10mM)、0.2μL のTaKara EX TaqTM R-PCR(5units/μL)、0.8μLの0.125% SYBRTM Green I (Fmc Bioproducts社、Rockland、USA)、1.0μLのDNAプライマー液(配列番号2のDNAプライマー及び配列番号3のDNAプライマーを各々5μM含有、もしくは、配列番号2のDNAプライマー及び配列番号4のDNAプライマーを各々5μM含有)及び16.44μLの蒸留水を含む19μLの調製液に、被験DNA溶液1μLを加えて20μLにしたPCR反応液を調製した。 PCRはロシュ・ダイアグノスティックス社のLightCyclerを用いて次のように行った。すなわち、初期変性を95℃で1分間行った後、95℃で5秒間、54℃で10秒間、及び72℃で20秒間、蛍光測定(PCRによる増幅産物の測定)を1サイクルとし、これを35サイクル行ない、続いて増幅産物の融解曲線分析のために、97℃で0秒、60℃で10秒後、0.2℃/秒の速度で97℃まで昇温させると同時に連続的な蛍光測定により各温度に対する増幅産物の二本鎖DNA量を測定し、最後に40℃まで降温させた。 PCR終了後、融解曲線解析を同PCR装置のソフトウェアで行ない、増幅産物のTm値を求めることで特異的な増幅産物の有無を判定した。さらに、Mupidミニゲル泳動槽(ADVANCE社)を用いて1.8%アガロースゲルによる電気泳動を行ない、エチジウムブロマイド溶液でゲルを染色して、目的の増幅バンドの有無を確認することにより、増幅産物の有無を確認した。 嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus DSM 4312株DNA(50 pg)及び、下痢型セレウス菌であるBacillus cereus ATCC14579T株DNA(50 pg)を被験DNAとし、配列番号2のDNAプライマー及び配列番号3のDNAプライマーからなるプライマーセット及び、配列番号2のDNAプライマー及び配列番号4のDNAプライマーからなるプライマーセットを用いて前述したようにしてPCRを実施した。 図2にPCR後の反応液を電気泳動したゲルを示す。レーン1と3はBacillus cereus DSM 4312株を示し、レーン2と4はBacillus cereus ATCC14579T株を示す。レーンMはDNA分子量マーカーを、レーンBはネガティブコントロールを示す。レーン1、レーン2及びレーン1左のBは配列番号2のDNAプライマー及び配列番号3のDNAプライマーからなるプライマーセットを用いた場合の結果を示す。レーン3、レーン4及びレーン3左のBは配列番号2のDNAプライマー及び配列番号4のDNAプライマーからなるプライマーセットを用いた場合の結果を示す。 図2の結果に示されるように、配列番号2のDNAプライマーと配列番号3のDNAプライマーセットを使用したPCRにおいては、嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus DSM 4312株において、234bpの増幅産物を形成したが、下痢型セレウス菌であるBacillus cereus ATCC14579T株においては、増幅産物を形成しなかった。すなわち、配列番号2のDNAプライマーと配列番号3のDNAプライマーセットを使用したPCRによる検出法では、嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus DSM 4312株DNAは検出するが、下痢型セレウス菌であるBacillus cereus ATCC14579T株DNAは検出しないことが確認された。 同様に、配列番号2のDNAプライマー及び配列番号4のDNAプライマーを用いた場合のPCRでは、嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus DSM 4312株において、158bpの増幅産物を形成したが、下痢型セレウス菌であるBacillus cereus ATCC14579T株においては、増幅産物を形成しなかった。すなわち、配列番号2のDNAプライマーと配列番号4のDNAプライマーセットを使用したPCRによる検出法においても、嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus DSM 4312株DNAは検出するが、下痢型セレウス菌であるBacillus cereus ATCC14579T株DNAは検出しないことが確認された。 実施例2 嘔吐型セレウス菌及び他の細菌に対する各種検出法による反応性の確認 (1)セレウス菌グループに属する細菌(Bacillus cereus、Bacillus thuringiensis、Bacillus mycoides、Bacillus weihenstephanensis)及び、同グループに属さないバチルス属細菌(Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Bacillus pumilus)のセレウリドの産生能を、セレウリドを質量分析計で化学的に分析する方法(以下、LC-MS分析と称す)、並びに、セレウリドを薬理効果的に検出する空胞化試験(以下、空胞化試験と称す)によって確認した。 各々の被験菌をBHI培地に植菌し、32℃で20時間、振盪培養した。この培養液を用いて100〜500 CFU/mLとなるように10% skim milk培地(BD Difco社)に植菌し、21℃で72時間、振盪培養によって好気的に本培養を行った。培養後の培養液は、等量のn−ペンタンで疎水性画分を2回抽出し、集めた抽出液を窒素ガス流下において常温で乾固した。乾固物を等量のメタノールに溶かしたものをセレウリド抽出液とした。 LC-MS分析は、上田ら(Bokin Bobai, 30, 511-524 (2002))の方法に準拠して、YMC-Pack ODS-AM(C18 5μm 2.0×250mm)、guard column (2.0×20mm)(ワイエムシィ社)を装備した高速液体クロマトグラフ装置(Waters 600 series、ウォーターズ社)でオンラインされた質量分析計(TSQ7000、(Finnigan mat社)を用いて次のように実施した。95%アセトニトリル、4.9%水、0.1%トリフルオロ酢酸からなる移動相を用い、0.2mL/minの流速条件下で上記の高速液体クロマトグラフ装置によって10μLのセレウリド抽出液を分離後、オンラインで質量分析計に導入し、ESI(positive)モードで分析した。ESI(positive)モードの条件は、sheath gas 70 psi、aux gas 10 unit、spray volts 4.5 kv、capillary temperature 250℃であり、測定するmass rangeは 1128.2-1129.2 m/z と 1170.3-1171.3 m/z とした。得られたイオンクロマトグラムは装置に添付された分析ソフトで解析され、1128.7 のシングルイオン(NH4+ adducts)をバリノマイシン、1170.8のシングルイオン(NH4+ adducts)をセレウリドとしてモニターした。バリノマイシンは、被験試料測定前後に分析系のリファレンス物質として分析された。セレウリドの標準品が入手困難であったため、得られた結果は定性結果として表1に記載した。表中+(プラス)はセレウリドが検出されたことを示し、−(マイナス)はセレウリドが検出されなかったことを示す。 空胞化試験は、上田ら(Bokin Bobai, 30, 511-524 (2002))の方法に準拠して、次のように実施した。上述したように本培養された培養液の遠心分離後の上清を100℃で10分間加熱処理したものを空胞化試験用の試料とした。PBS(カルシウムとマグネシウムを含まない)で空胞化試験用の試料の2倍希釈系列(最終濃度1/5〜1/1280倍)を調製し、これを96穴プレートに25μl/穴で分注した。これに、1×105細胞/mLのHEp-2細胞(大日本製薬社)を含む1% 牛胎児血清含MEM(minimum essential medium; GIBCO製)を100μl/穴で添加し、37℃、5% CO2で24時間培養した。培養終了後、位相差顕微鏡で細胞の空胞化を観察し、一つの細胞内に10個以上の空胞を保有する細胞が1穴あたり30%以上を占めるものを陽性とした。陽性を示す最終希釈倍率の逆数をその嘔吐毒検定用試料の嘔吐毒力価(タイター)とした。得られた嘔吐毒力価の数値は、嘔吐毒の薬理効果の強度を示す指標として、表1に記載した。 (2)セレウス菌グループに属する細菌(Bacillus cereus、Bacillus thuringiensis、Bacillus mycoides、Bacillus weihenstephanensis)及び、同グループに属さないバチルス属細菌(Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Bacillus pumilus)の特徴を確認するために、下痢型毒素産生性試験と澱粉分解性試験を実施した。 下痢型毒素産生性試験は、逆受身ラテックス凝集反応によるセレウス菌エンテロトキシン検出用キット(CRET-RPLA「生研」、デンカ生研社)を用い、キットの説明書に従って実施した。得られた結果は定性結果として表1に記載した。表中+(プラス)は下痢型毒素産生性が陽性であることを示し、−(マイナス)は陰性であることを示す。 澱粉分解性試験は、上田ら(Bokin Bobai, 30, 511-524 (2002))の方法に準拠して、次のように実施した。1% 可溶性澱粉を含む標準寒天培地上に被験菌株を画線塗沫し、30℃で培養後、ルゴール液(0.33% ヨウ素、0.66% ヨウ化カリウム)を培養後の寒天培地に噴霧した。塗沫部周辺部及び塗沫線部直下が透明で、他の紫褐色部分と明らかに判別される場合を陽性とし、寒天培地全体が紫褐色の場合を陰性とした。得られた結果は定性結果として表1に記載した。表中+(プラス)は澱粉分解性が陽性であることを示し、−(マイナス)は陰性であることを示す。 (3)次に、セレウス菌グループに属する細菌(Bacillus cereus、Bacillus thuringiensis、Bacillus mycoides、Bacillus weihenstephanensis)及び、同グループに属さないバチルス属細菌(Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Bacillus pumilus)を含む各種細菌に対する反応特異性を、配列番号2と配列番号3で表される配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーセットに用いたPCRにより下記のように確認した。 各細菌株をそれぞれに適合する培地を用いて培養し、実施例1と同様にしてDNA溶液を調製した。各DNA溶液のDNA量を測定し、各細菌株のDNA濃度を50 pg/μL程度にした被験DNA溶液を調製した。これらの各細菌株DNAに対する配列番号2と配列番号3のDNAプライマーセットの反応性を調べるために、上記の各被験DNA溶液1μLに対する上記のDNAプライマーセットを用いたPCRを実施例1と同様にして実施した。PCR増幅産物の有無を、実施例1と同様にしてアガロースゲルによる電気泳動で確認した。 また、各細菌株DNAの存在を確認するために、配列番号2及び3のプライマーセットに代えて、細菌一般を検出できるプライマーセット(prbac)( J. Dent. Res. 78:850-856(1999)Rupf, S., K. Merte, and K. Eschrich;Quantification of bacteria in oral samples by competitive polymerase chain reaction) を用いて同様にしてPCRを実施した。但し、PCRは次の反応条件に置換して実施した。すなわち、初期変性を95℃で1分間行なった後、95℃で5秒間、59℃で10秒間、及び72℃で20秒間、蛍光測定(PCRによる増幅産物の測定)を1サイクルとし、これを30サイクル実施した。これらのPCRの結果は表1に記載した。表中+(プラス)は電気泳動によりバンドが検出されたことを示し、−(マイナス)はバンドが検出されなかったことを示す。 上記(1)〜(3)で得られた結果を記載した表1(表1−1及び表1−2)を以下に示す。なお、表1中のNAは未実施の分析、検査を示す。また、細菌株欄の食中は、女子栄養大学・衛生学教室(上田助教授)で管理されている食中毒由来のセレウス菌株を示す。 (4)表1の結果から、LC-MS分析や空胞化試験においてセレウリドの産生が確認されたすべてのセレウス菌株は、下痢毒素産生性が陰性であり、澱粉溶解性も陰性であったが、下痢毒素産生性が陰性でありながらセレウリドの産生性が陰性のセレウス菌や、澱粉溶解性が陰性でありながらセレウリドの産生性が陰性のセレウス菌も存在することが明らかとなった。すなわち、下痢毒素産生や澱粉分解性といった指標は、嘔吐型セレウス菌を同定する上での十分な指標にならないことが示唆された。一方、配列番号2と配列番号3のDNAプライマーセットを使用したPCR分析は、セレウリドの産生が確認されたすべてのセレウス菌株を検出した。但し、セレウリドの産生が認められない1株(Bacillus cereus ATCC 7004)を擬陽性として検出した。すなわち、配列番号2と配列番号3のDNAプライマーセットを使用した検出法の場合、陰性反応の場合は、被験菌は当該菌でないと確定することができ、LC-MS分析や空胞化試験の前段階的なスクリーニング手段として有用性が高いことが確認された。 実施例3 NGKG寒天培地上のコロニーに対する嘔吐型セレウス菌のPCRによる検出 NGKG寒天培地上のコロニーを被験試料とした場合の、配列番号2と配列番号3のDNAプライマーセット及び、配列番号2と配列番号4のDNAプライマーセットを使用したPCR分析法の有効性を調べるために、下記のような実験を実施した。 Bacillus cereus菌 DSM 4312株及び、食中13株、食中160株、ATCC 14579T株、DSM 4313株、ATCC 10987株を約50 CFU/寒天培地となるように、卵黄添加NGKG寒天培地に植菌し、30℃で24時間培養した。出現した各々の菌株コロニーから2つのコロニーを任意に選択し、それぞれのコロニーの極微量を200μLの10%キレックス液[10%(W/V)キレックス(バイオラッド社)、10mM Tris-HCl、0.1mM EDTA、pH 8.0]に懸濁後、ヒートブロックを用いて99℃で5分間加熱し、13,000×gで3分間遠心した上清を採取した。上清中には簡易抽出された細菌DNAが含まれており、PCRに使用するDNA溶液とした。得られたDNA溶液1μLを試料とし、実施例1に記載された方法と同様の方法でPCRを行ない、PCR増幅産物の有無を確認した。また、コロニーから簡易抽出されたDNA溶液中の各細菌株DNAの存在を確認するために、前記記載の2つプライマーセットに代えて、細菌一般を検出できるプライマーセット(prbac)( J. Dent. Res. 78:850-856(1999)Rupf, S., K. Merte, and K. Eschrich;Quantification of bacteria in oral samples by competitive polymerase chain reaction) を用いて同様にしてPCRを実施した。但し、PCRは次の反応条件に変えて実施した。すなわち、初期変性を95℃で1分間行なった後、95℃で5秒間、59℃で10秒間、及び72℃で20秒間、蛍光測定(PCRによる増幅産物の測定)を1サイクルとし、これを30サイクル実施した。 アガロースゲルによる電気泳動パターンを図3に示す。図3(A)は配列番号2及び3のDNAプライマーセットを用いた場合、図3(B)は配列番号2及び4のDNAプライマーセットを用いた場合、図3(C)はprbacプライマーセットを用いた場合を示す。図3(A)、(B)及び(C)において、レーン1と2はBacillus cereus菌 DSM 4312株を示し、レーン3と4は食中13株を示し、レーン5と6は食中160株を示し、レーン7と8はATCC 14579T株を示し、レーン9と10はDSM 4313株を示し、レーン11と12はATCC 10987株を示す。レーンMはDNA分子量マーカーを、レーンBはネガティブコントロールを示す。 図3(C)の結果から、すべての被験DNA溶液中に細菌DNAが存在することが確認できた。 図3(A)の結果から、配列番号2と配列番号3のDNAプライマーセットを用いたPCR分析は、NGKG寒天培地上のコロニーから簡易調製された菌体DNAをDNA溶液として使用した場合、嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus菌 DSM 4312株及び、食中13株、食中160株を検出するが、嘔吐型セレウス菌でないBacillus cereus菌 ATCC 14579T株及び、DSM 4313株、ATCC 10987株を検出しないことが確認できた。 同様に、図3(B)の結果から、配列番号2と配列番号4のDNAプライマーセットを用いたPCR分析は、NGKG寒天培地上のコロニーから簡易調製された菌体DNAをDNA溶液として使用した場合、嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus菌 DSM 4312株及び、食中13株、食中160株を検出するが、嘔吐型セレウス菌でないBacillus cereus菌 ATCC 14579T株及び、DSM 4313株、ATCC 10987株を検出しないことが確認できた。 実施例4 PCRによる食品中の嘔吐型セレウス菌の検出 一般生菌に汚染されていないことを予め確認済みの市販の蒸し焼きそば(低温流通品)及び市販の牛乳(130℃、2秒殺菌、低温流通品)をそれぞれ2個ずつ準備し、嘔吐型セレウス菌であるBacillus cereus DSM 4312株を指標菌として、それぞれの食品1gあたり20〜50 CFU程度となるように添加したもの及び、無添加のものを調製した。それぞれ食品重量の9倍量のBHI液体培地を加え、ストマッカーを用いて無菌的に攪拌混合した。 これらの食品希釈混合液10mLを15mL容の培養管に移し、35℃で振盪培養した。PCRで使用するDNA溶液の調製のために、0時間と7時間後の培養液を1.3mLづつ採取した。 採取した培養液を100×gで1分間遠心した後の上清をさらに13,000×gで5分間遠心して沈殿を得た。この沈殿を洗浄するために0.5mLのTE緩衝液(10mM Tris-HCl、0.1mM EDTA、pH 8.0)に懸濁後、13,000×gで5分間遠心して沈殿を得た。この沈殿に10%キレックス液[10%(W/V)キレックス(バイオラッド社)、10mM Tris-HCl、0.1mM EDTA、pH 8.0]200μLを加えて沈殿を懸濁後、ヒートブロックを用いて99℃で5分間加熱し、13,000×gで3分間遠心した上清を採取した。上清中にはDNAが含まれており、これをPCRに使用するDNA溶液とした。 得られたDNA溶液1μLを試料とし、配列番号2及び3のDNAプライマーセットを用いて実施例1に記載されたと同様の方法でPCRを行ない、PCR増幅産物の有無を確認した。アガロースゲルによる電気泳動パターンを図4に示す。 図4の(A)は市販の蒸し焼きそばの場合の電気泳動パターンであり、図4の(B)は市販の牛乳の場合の電気泳動パターンである。また、図(A)、(B)ともに、レーン1、2、3及び4は、細菌を添加せずに食品の培養時間をそれぞれ0、0、7及び7時間にしたサンプルである。またレーン5、6、7及び8は、食品に細菌を添加した後のDNAを抽出する前の培養時間をそれぞれ0、0、7及び7時間にしたサンプルである。 図4の(A)に示すように、市販の蒸し焼きそば1gあたり20〜50 CFU程度のBacillus cereus DSM 4312株の指標菌が存在する場合、DNA抽出前に食品を7時間培養すれば、前記PCRによってその細菌DNAを検出できることが確認できた。また、図4の(B)に示すように、市販の牛乳1gあたり20〜50 CFU程度のBacillus cereus DSM 4312株の指標菌が存在する場合、DNA抽出前に食品を7時間培養すれば、前記PCRによってその細菌DNAを検出できることが確認できた。 本発明は、食品や臨床試料等の試料中の嘔吐型セレウス菌を検出する手段として有効に利用することができる。また、嘔吐型セレウス菌の指標であるセレウリドの分析を質量分析計で化学的に分析する方法や空胞化試験で実施する前に行う、嘔吐型セレウス菌の簡便かつ迅速な一次スクリーニング手段としても有効に利用することができる。RAPD解析から得られた嘔吐型セレウス菌に特異的なバンドを示す電気泳動図である。本発明のオリゴヌクレオチドを用いたプライマーセットによる、嘔吐型セレウス菌のPCR産物を示す図である。本発明のオリゴヌクレオチドを用いたプライマーセットによる、NGKG寒天培地上のコロニーに対する嘔吐型セレウス菌のPCR産物を示す図である。本発明のオリゴヌクレオチドを用いたプライマーセットによる、嘔吐型セレウス菌添加食品の短時間培養液を被験試料とした場合の嘔吐型セレウス菌のPCR産物を示す図である。配列番号1で表される塩基配列における220位〜275位又は370位〜468位の領域の一部あるいは全部を含む配列又はその相補配列を有する嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド。配列番号2〜4のいずれかで表される塩基配列又はその相補配列を有する嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド。a)請求項1又は請求項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを少なくとも1つ含むプライマーセットを用いて、試料中のDNAにおける標的ヌクレオチド配列を増幅させる工程、b)a)で増幅される産物を測定して、試料中に嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列が存在しているか否かを検出する工程、を有する嘔吐型セレウス菌の検出法。a')請求項1又は請求項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを少なくとも1つ含むプライマーセットを用いて、試料中のDNAにおける標的ヌクレオチド配列を増幅させる工程、b')a')で増幅される産物を、請求項1又は請求項2に記載のオリゴヌクレオチドを標識化したプローブとハイブリダイズさせ、該標識プローブに由来するシグナルを測定して、試料中に嘔吐型セレウス菌に特徴的な配列が存在しているか否かを検出する工程、を有する嘔吐型セレウス菌の検出法。a'')請求項1又は請求項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを標識化して標識プローブとする工程、b'')a'')の標識プローブと試料中のDNAとをハイブリダイズさせる工程、c'')標識プローブに由来するシグナルにより、b'')におけるハイブリダイズ形成の有無を検出する工程、を有する嘔吐型セレウス菌の検出法。請求項1又は請求項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドからなるプライマーまたは該オリゴヌクレオチドを標識化した標識プライマーを含む嘔吐型セレウス菌検出用キット。請求項1又は請求項2に記載の嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチドを標識化した標識プローブを含む嘔吐型セレウス菌検出用キット。 【課題】嘔吐型セレウス菌を特異的に検出可能とする手段を提供すること。【解決手段】食中毒嘔吐型Bacillus cereus菌の染色質DNAの該菌株に特異的な領域の一部あるいは全部を含む配列又はその相補配列を有する嘔吐型セレウス菌検出用オリゴヌクレオチド。該オリゴヌクレオチドを用いた嘔吐型セレウス菌の検出法。及び、該オリゴヌクレオチドを含んでなる嘔吐型セレウス菌検出用キット。【選択図】図2配列表


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