タイトル: | 公開特許公報(A)_アトピー性皮膚炎の疾患マーカー及びその利用 |
出願番号: | 2003350569 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N15/09,A61K45/00,A61P17/00,A61P37/08,A61P43/00,C12Q1/02,C12Q1/68,G01N33/15,G01N33/50,G01N33/53,C07K16/18 |
杉浦 久嗣 海老瀬 速雄 木村 徹 JP 2005110602 公開特許公報(A) 20050428 2003350569 20031009 アトピー性皮膚炎の疾患マーカー及びその利用 住友製薬株式会社 000183370 住友化学株式会社 000002093 五十部 穣 100121588 杉浦 久嗣 海老瀬 速雄 木村 徹 7C12N15/09A61K45/00A61P17/00A61P37/08A61P43/00C12Q1/02C12Q1/68G01N33/15G01N33/50G01N33/53C07K16/18 JPC12N15/00 AA61K45/00A61P17/00A61P37/08A61P43/00 111C12Q1/02C12Q1/68 AG01N33/15 ZG01N33/50 PG01N33/50 QG01N33/50 ZG01N33/53 QC07K16/18 19 OL 44 2G045 4B024 4B063 4C084 4H045 2G045AA25 2G045AA30 2G045BA11 2G045BB03 2G045BB20 2G045CB01 2G045CB09 2G045DA12 2G045DA13 2G045DA14 2G045DA36 2G045DA77 2G045FB02 2G045FB03 2G045FB05 4B024AA01 4B024AA11 4B024CA04 4B024CA09 4B024HA14 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ03 4B063QQ43 4B063QR55 4B063QR62 4B063QR77 4B063QS25 4B063QS34 4C084AA17 4C084NA14 4C084ZA891 4C084ZA892 4C084ZB131 4C084ZB132 4C084ZC022 4H045AA11 4H045AA30 4H045BA10 4H045CA40 4H045DA75 4H045EA50 本発明はアトピー性皮膚炎の診断に有用な疾患マーカーに関する。より詳細には、本発明は、アトピー性皮膚炎の診断においてプライマーまたは検出プローブとして有効に利用できる疾患マーカーに関する。また本発明は、かかる疾患マーカーを利用したアトピー性皮膚炎の検出方法(診断方法)に関する。 さらに本発明は、上記疾患マーカーを利用して、アトピー性皮膚炎の改善薬または治療薬として有効な物質をスクリーニングする方法、並びに該方法によって得られる物質を有効成分とするアトピー性皮膚炎の改善薬または治療薬に関する。 アトピー性皮膚炎の発症や病態形成には免疫系の異常が関与すると考えられているが、多種多様な要因が影響し合うことからそのメカニズムは非常に複雑で、未だその実態は明らかでない。近年行われたアトピー性皮膚炎の連鎖解析では、アトピー性皮膚炎と関連する領域のうちの3個所が、同じく免疫系の異常が関与するとされる炎症性皮膚疾患である乾癬に関連する領域と共通することが明らかにされ、両疾患が共通する遺伝子の影響を受けることが示唆されている(非特許文献1を参照)。 アトピー性皮膚炎の病変部皮膚組織を用いた網羅的な遺伝子発現解析はこれまでほとんどなされておらず、アトピー性皮膚炎の発症および病態形成に関与する因子が明らかにされることが望まれていた。Nat. Genet., 2001, Apr;27(4):p372-3 本発明は、アトピー性皮膚炎の診断及び治療に有用な疾患マーカーを提供することを目的とする。より詳細には、本発明はアトピー性皮膚炎を反映した疾患マーカーを提供することを目的とする。さらに本発明は、該疾患マーカーを利用したアトピー性皮膚炎の検出方法(遺伝子診断方法)、該疾患の改善または治療に有用な薬物をスクリーニングする方法、並びに該疾患の改善または治療に有用な薬物を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行っていたところ、従来はアトピー性皮膚炎との関連が明らかではなかった以下の遺伝子:S100 calcium binding protein A8 (以下、S100A8と称する)遺伝子、S100 calcium binding protein A7 (以下、S100A7と称する)遺伝子、Keratin 6A (以下、KRT6Aと称する)遺伝子、Keratin 6B (以下、KRT6Bと称する)遺伝子、Keratin 16 (以下、KRT16と称する)遺伝子およびSerine proteinase inhibitor, clade B, member 13 (以下、SERPINB13と称する)遺伝子が、アトピー性皮膚炎患者の病変皮膚組織において、正常皮膚組織(正常人の皮膚組織)と比較して、その発現レベルが顕著に上昇していることを見出した。また、従来はアトピー性皮膚炎との関連が明らかではなかった以下の遺伝子:Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、Chondroitin sulfate proteoglycan 2 (以下、CSPG2と称する)遺伝子およびFibronectin 1遺伝子が、アトピー性皮膚炎患者の病変皮膚組織において、正常皮膚組織(正常人の皮膚組織)と比較して、その発現レベルが顕著に低下していることを見出した。 以上の知見から、アトピー性皮膚炎において、これらS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子、ならびにこれらの発現産物(タンパク質)に対する抗体が、優れた疾患マーカーであることが明らかとなった。さらに、これら遺伝子の発現抑制、または当該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現抑制や機能(活性)抑制を指標としたスクリーニング系は、アトピー性皮膚炎の予防、改善または治療薬の探索に有効であることが明らかとなった。 本発明はかかる知見を基礎にして完成するに至ったものである。 すなわち、本発明は、下記に掲げるものである:(1) S100A8遺伝子の塩基配列、S100A7遺伝子の塩基配列、KRT6A遺伝子の塩基配列、KRT6B遺伝子の塩基配列、KRT16遺伝子の塩基配列、Loricrin遺伝子の塩基配列、Filaggrin遺伝子の塩基配列、SERPINB13遺伝子の塩基配列、CSPG2遺伝子の塩基配列およびFibronectin 1遺伝子の塩基配列のいずれかにおいて、連続する少なくとも15塩基を含有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、アトピー性皮膚炎の疾患マーカー、(2) 配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17および19のいずれかに記載の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を含有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、上記(1)記載の疾患マーカー、(3) アトピー性皮膚炎の検出においてプローブまたはプライマーとして使用される上記(1)または(2)記載の疾患マーカー、(4) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、アトピー性皮膚炎の検出方法:(a) 被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと上記(1)〜(3)いずれか記載の疾患マーカーとを結合させる工程、(b) 該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを測定する工程、(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程、(5) 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、上記(4)記載のアトピー性皮膚炎の検出方法:(a) 被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドと、上記(1)に記載の疾患マーカーのうち、S100A8遺伝子の塩基配列、S100A7遺伝子の塩基配列、KRT6A遺伝子の塩基配列、KRT6B遺伝子の塩基配列、KRT16遺伝子の塩基配列およびSERPINB13遺伝子の塩基配列のいずれかに基づく疾患マーカーとを結合させる工程、(b) 上記疾患マーカーに特異的に結合した生体試料由来のRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを測定する工程、(c) 上記(b)で得られる被験者の測定結果が、正常な生体試料について得られる結果に比して疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程、(6)下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、上記(4)記載のアトピー性皮膚炎の検出方法:(a) 被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドと、上記(1)に記載の疾患マーカーのうち、Loricrin遺伝子の塩基配列、Filaggrin遺伝子の塩基配列、CSPG2遺伝子の塩基配列およびFibronectin 1遺伝子の塩基配列のいずれかに基づく疾患マーカーとを結合させる工程、(b) 上記疾患マーカーに特異的に結合した生体試料由来のRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを測定する工程、(c) 上記(b)で得られる被験者の測定結果が、正常な生体試料について得られる結果に比して疾患マーカーへの結合量が減少していることを指標として、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程、(7) S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかを認識する抗体を含有する、アトピー性皮膚炎の疾患マーカー、(8) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18および20のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質を認識する抗体を含有する、上記(7)記載のアトピー性皮膚炎の疾患マーカー、(9) アトピー性皮膚炎の検出においてプローブとして使用される上記(7)または(8)記載の疾患マーカー、(10) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むアトピー性皮膚炎の検出方法:(a) 被験者の生体試料由来のタンパク質と上記(7)〜(9)いずれか記載の疾患マーカーとを結合させる工程、(b) 該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質またはその部分ペプチドを測定する工程、(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程、(11) 工程(a)において用いられる疾患マーカーが、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16およびSERPINB13のいずれかのタンパク質を認識する抗体であり、且つ工程(c)におけるアトピー性皮膚炎の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標としてなされるものである、上記(10)記載のアトピー性皮膚炎の検出方法、(12) 工程(a)において用いられる疾患マーカーが、Loricrin、Filaggrin CSPG2およびFibronectin 1のいずれかのタンパク質を認識する抗体であり、且つ工程(c)におけるアトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が減少していることを指標として判断するものである、上記(10)に記載のアトピー性皮膚炎の検出方法、(13) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:(a) 被験物質とS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、(b) 被験物質を接触させた細胞におけるS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現量を減少させる被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程、(14) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、S100A8および/またはS100A7の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:(a) 被験物質とS100A8および/またはS100A7を発現可能な細胞とを接触させる工程、(b) 被験物質を接触させた細胞におけるS100A8および/またはS100A7の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8および/またはS100A7の発現量を減少させる被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程、(15) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、S100A8および/またはS100A7の機能または活性を抑制する物質のスクリーニング方法:(a) 被験物質をS100A8および/またはS100A7に接触させる工程、(b) 上記(a)の工程に起因して生じるS100A8および/またはS100A7の機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のS100A8および/またはS100A7の機能または活性と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8および/またはS100A7の機能または活性の低下をもたらす被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程、(16) S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする、アトピー性皮膚炎の改善または治療剤、(17) S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質が上記(13)記載のスクリーニング法により得られるものである、上記(16)記載のアトピー性皮膚炎の改善または治療剤、(18) S100A8および/またはS100A7の発現量、機能または活性を抑制する物質を有効成分とする、アトピー性皮膚炎の改善または治療剤、ならびに(19) S100A8および/またはS100A7の発現量、機能または活性を抑制する物質が、上記(14)または(15)に記載のスクリーニング法により得られるものである、上記(18)記載のアトピー性皮膚炎の改善または治療剤。 上記のように、本発明によれば、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子、若しくはこれら遺伝子の発現産物(タンパク質)を利用したアトピー性皮膚炎の疾患マーカー、該疾患の検出系、前記本発明の遺伝子またはその発現産物(タンパク質)を利用したアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質のスクリーニング系等が提供される。 本発明は、前述するように、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子が、アトピー性皮膚炎患者の病変皮膚組織において、正常皮膚組織(正常者の皮膚組織)と比較して顕著に発現上昇していることを見出したこと、および、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子が、アトピー性皮膚炎患者の病変皮膚組織において、正常皮膚組織(正常者の皮膚組織)と比較して顕著に発現低下していることを見出したことに基づくものである。従って、これらの遺伝子及びその発現産物〔タンパク質、(ポリ)(オリゴ)ペプチド〕は、アトピー性皮膚炎の解明、診断、予防及び治療に有効に利用することができ、かかる利用によって医学並びに臨床学上、有用な情報や手段を得ることができる。さらに、個体(生体組織)における、上記遺伝子の発現またはその発現産物の検出、または該遺伝子の変異またはその発現異常の検出は、アトピー性皮膚炎の解明や診断に有効に利用することができる。 また、これらの遺伝子およびその発現産物並びにそれらからの派生物(例えば、遺伝子断片、抗体など)は、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子またはSERPINB13遺伝子の発現を抑制する物質、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の発現を促進する物質、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16またはSERPINB13の発現、機能もしくは活性を抑制する物質、Loricrin、Filaggrin、CSPG2またはFibronectin 1の発現、機能もしくは活性を促進する物質のスクリーニングに有用であり、該スクリーニングによって得られる物質は、アトピー性皮膚炎の予防、改善および治療薬として有効である。 特に薬剤ターゲットとなる機能を有するS100A8またはS100A7の遺伝子、およびその発現産物並びにそれらからの派生物(例えば、遺伝子断片、抗体など)は、S100A8遺伝子またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質、S100A8またはS100A7の発現、機能もしくは活性を抑制する物質のスクリーニングに有用であり、該スクリーニングによって得られる物質は、アトピー性皮膚炎の予防、改善および治療薬として特に有効である。更に、これらの遺伝子のアンチセンス核酸(アンチセンスヌクレオチド)は、アトピー性皮膚炎の予防、改善及び治療薬として有用である。 以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。 本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1,3,5,7,9,11,13,15,17及び19)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(1-1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1,3,5,7,9,11,13,15,17及び19で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。 例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。 なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。 従って本明細書において「S100A8遺伝子」または「S100A8のDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:1)で示されるヒトS100A8遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトS100A8遺伝子(GenBank Accession No. NM_002964)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「S100A7遺伝子」または「S100A7のDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:3)で示されるヒトS100A7遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:3に記載のヒトS100A7遺伝子(GenBank Accession No. NM_002963)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「KRT6A遺伝子」または「KRT6AのDNA」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:5)で示されるヒトKRT6A遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:5に記載のヒトKRT6A遺伝子(GenBank Accession No. NM_005554)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「KRT6B遺伝子」または「KRT6BのDNA」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:7)で示されるヒトKRT6B遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:7に記載のヒトKRT6B遺伝子(GenBank Accession No. NM_005555)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「KRT16遺伝子」または「KRT16のDNA」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:9)で示されるヒトKRT16遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:9に記載のヒトKRT16遺伝子(GenBank Accession No. NM_005557)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「Loricrin遺伝子」または「LoricrinのDNA」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:11)で示されるヒトLoricrin遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:11に記載のヒトLoricrin遺伝子(GenBank Accession No.NM_000427)や、そのマウスホモログ、ラットホモログが包含される。 また本明細書において「Filaggrin遺伝子」または「FilaggrinのDNA」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:13)で示されるヒトFilaggrin遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:13 に記載のヒトFilaggrin遺伝子(GenBank Accession No. XM_048104)や、GenBank Accession No.M60502 または GenBank Accession No.M60503 に記載の遺伝子、またはこれらのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「SERPINB13遺伝子」または「SERPINB13のDNA」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:15)で示されるヒトSERPINB13遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:15に記載のヒトSERPINB13遺伝子(GenBank Accession No. NM_012397)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「CSPG2遺伝子」または「CSPG2のDNA」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:17)で示されるヒトCSPG2遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:17に記載のヒトCSPG2遺伝子(GenBank Accession No. NM_004385)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「Fibronectin 1遺伝子」または「Fibronectin 1のDNA」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:19)で示されるヒトFibronectin 1遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:19に記載のヒトFibronectin 1遺伝子(GenBank Accession No. NM_002026)や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、及び合成のRNAのいずれもが含まれる。 本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:2,4,6,8,10,12,14,16,18または20)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。 従って本明細書において「S100A8タンパク質」または単に「S100A8」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:2)で示されるヒトS100A8やその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2(GenBank Accession No. NM_002964)に記載のアミノ酸配列を有するヒトS100A8や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「S100A7タンパク質」または単に「S100A7」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:4)で示されるヒトS100A7やその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:4(GenBank Accession No. NM_002963)に記載のアミノ酸配列を有するヒトS100A7や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「KRT6Aタンパク質」または単に「KRT6A」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号6)で示されるヒトKRT6Aやその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号: 6(GenBank Accession No.NM_005554)に記載のアミノ酸配列を有するヒトKRT6Aや、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「KRT6Bタンパク質」または単に「KRT6B」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:8)で示されるヒトKRT6Bやその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:8(GenBank Accession No.NM_005555)に記載のアミノ酸配列を有するヒトKRT6Bや、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「KRT16タンパク質」または単に「KRT16」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:10)で示されるヒトKRT16やその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:10(GenBank Accession No. NM_005557)に記載のアミノ酸配列を有するヒトKRT16や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「Loricrinタンパク質」または単に「Loricrin」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:12)で示されるヒトLoricrinやその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:12(GenBank Accession No. NM_000427)に記載のアミノ酸配列を有するヒトLoricrinや、そのマウスホモログ、ラットホモログが包含される。 また本明細書において「Filaggrinタンパク質」または単に「Filaggrin」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:14)で示されるヒトFilaggrinやその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:14(GenBank Accession No. XM_048104)に記載のアミノ酸配列を有するヒトFilaggrinや、GenBank Accession No.M60502 または GenBank Accession No.M60503 に記載のFilaggrin、またはこれらのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「SERPINB13タンパク質」または単に「SERPINB13」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:16)で示されるヒトSERPINB13やその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:16(GenBank Accession No. NM_012397)に記載のアミノ酸配列を有するヒトSERPINB13や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「CSPG2タンパク質」または単に「CSPG2」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:18)で示されるヒトCSPG2やその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:18(GenBank Accession No.NM_004385)に記載のアミノ酸配列を有するヒトCSPG2や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 また本明細書において「Fibronectin 1タンパク質」または単に「Fibronectin 1」といった用語を用いる場合も、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:20)で示されるヒトFibronectin 1やその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:20(GenBank Accession No. NM_002026)に記載のアミノ酸配列を有するヒトFibronectin 1や、そのマウスホモログ、ラットホモログなどが包含される。 本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。 本明細書における「アトピー性皮膚炎」とは、表皮のなかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる、慢性に経過する炎症と掻痒をその病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患である。 さらに本明細書において「疾患マーカー」とは、アトピー性皮膚炎の罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を診断するために、またアトピー性皮膚炎の予防、改善または治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、アトピー性皮膚炎の罹患に関連して生体組織、特に皮膚組織において、発現が変動する遺伝子またはタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、皮膚組織、細胞内などで発現した上記遺伝子及びタンパク質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。 本明細書において診断対象となる「生体組織」とは、皮膚組織またはその周辺組織を指す。 以下、これらのS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子(以下これらの遺伝子を併せて本発明遺伝子と称する場合がある)、並びにこれらの発現産物(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1、以下これらのタンパク質を併せて本発明タンパク質と称する場合がある)、およびそれらの派生物について、具体的な用途を説明する。(1)アトピー性皮膚炎の疾患マーカーおよびその応用(1-1) ポリヌクレオチド 本発明における S100A8遺伝子は、S100 calcium binding protein A8遺伝子とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えばヒト由来のS100A8遺伝子としては、配列番号:1に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_002964)。 本発明におけるS100A7遺伝子は、S100 calcium binding protein A7遺伝子またはPsoriasin 1遺伝子とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えばヒト由来のS100A7遺伝子としては、配列番号:3に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_002963)。 本発明におけるKRT6A遺伝子は、Keratin 6A遺伝子とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えばヒト由来のKRT6A遺伝子としては、配列番号:5に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_005554)。 本発明におけるKRT6B遺伝子は、Keratin 6B遺伝子とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えばヒト由来のKRT6B遺伝子としては、配列番号:7に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_005555)。 本発明におけるKRT16遺伝子は、Keratin16遺伝子とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えばヒト由来のKRT16遺伝子としては、配列番号:9に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_005557)。 本発明におけるLoricrin遺伝子は公知の遺伝子である。例えばヒト由来のLoricrin遺伝子としては、配列番号:11に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_000427)。 本発明におけるFilaggrin遺伝子は公知の遺伝子である。例えばヒト由来のFilaggrin遺伝子としては、配列番号:13に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. XM_048104)。 本発明におけるSERPINB13遺伝子は、Serine proteinase inhibitor, clade B, member 13遺伝子とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えばヒト由来のSERPINB13遺伝子としては、配列番号:15に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_012397)。 本発明におけるCSPG2遺伝子は、Chondroitin sulfate proteoglycan 2遺伝子またはversican遺伝子とも呼ばれる公知の遺伝子である。例えばヒト由来のCSPG2遺伝子としては、配列番号:17に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_004385)。 本発明におけるFibronectin 1遺伝子は公知の遺伝子である。例えばヒト由来のFibronectin 1遺伝子としては、配列番号:19に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No. NM_002026)。 以上の本発明の各遺伝子は、配列番号:1,3,5,7,9,11,13,15,17,19に記載の塩基配列、または前記各アクセッション番号に開示された塩基配列の適当な部分をハイブリダイゼーションのプローブまたはPCRのプライマーに用いて、例えば正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)由来のcDNAライブラリー(タカラバイオ社製)をスクリーニングすることなどによりクローニングすることができる。該クローニングは、例えばMolecular Cloning 2nd Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の基本書に従い、当業者ならば容易に行うことができる。 本発明は、前述するように、アトピー性皮膚炎に罹患した患者の病変皮膚組織において、正常皮膚組織(健常人の皮膚組織)に比して、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子が顕著に発現上昇しており、またLoricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子が顕著に発現低下しているという知見を発端に、これらの遺伝子発現の有無や発現の程度を検出することによって上記アトピー性皮膚炎の罹患の有無や罹患の程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという知見に基づくものである。 上記ポリヌクレオチドは、従って、被験者における上記遺伝子の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者がアトピー性皮膚炎に罹患しているか否かまたはその罹患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。 また上記ポリヌクレオチドは、後述の(3-1)項に記載するようなアトピー性皮膚炎の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。 本発明の疾患マーカーは、前記S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなることを特徴とするものである。 具体的には、本発明の疾患マーカーは、配列番号:1に記載のS100A8遺伝子の塩基配列、配列番号:3に記載のS100A7遺伝子の塩基配列、配列番号:5に記載のKRT6A遺伝子の塩基配列、配列番号:7に記載のKRT6B遺伝子の塩基配列、配列番号:9に記載のKRT16遺伝子の塩基配列、配列番号:11に記載のLoricrin遺伝子の塩基配列、配列番号:13に記載のFilaggrin遺伝子の塩基配列、配列番号:15に記載のSERPINB13遺伝子の塩基配列、配列番号:17に記載のCSPG2遺伝子の塩基配列、または配列番号:19に記載のFibronectin 1遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなるものを挙げることができる。 ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、前記S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。 ここで、正鎖側のポリヌクレオチドには、前記S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の塩基配列、またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。 さらに上記正鎖のポリヌクレオチド及び相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されてもよい。 本発明のアトピー性皮膚炎の疾患マーカーは、具体的には、前記S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。またこれら本発明遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列またはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列またはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも15個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。 なお、ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子、Fibronectin 1遺伝子、またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT-PCR法においては、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子、Fibronectin 1遺伝子、またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または生成物がこれらの遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。 本発明の疾患マーカーは、例えば配列番号:1に記載のS100A8遺伝子の塩基配列、配列番号:3に記載のS100A7遺伝子の塩基配列、配列番号:5に記載のKRT6A遺伝子の塩基配列、配列番号:7に記載のKRT6B遺伝子の塩基配列、配列番号:9に記載のKRT16遺伝子の塩基配列、配列番号:11に記載のLoricrin遺伝子の塩基配列、配列番号:13に記載のFilaggrin遺伝子の塩基配列、配列番号:15に記載のSERPINB13遺伝子の塩基配列、配列番号:17に記載のCSPG2遺伝子の塩基配列、または配列番号:19に記載のFibronectin 1遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記本発明遺伝子の塩基配列を primer 3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。 本発明の疾患マーカーは、上述するように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであればよいが、具体的にはマーカーの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。(1-2)プローブまたはプライマーとしてのポリヌクレオチド 本発明においてアトピー性皮膚炎の検出(診断)は、被験者の生体組織、特に皮膚組織におけるS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子から選ばれるいずれかの遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することによって行われる。この場合、上記本発明の疾患マーカーは、上記遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し増幅するためのプライマーとして、または該RNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するためのプローブとして利用することができる。 本発明疾患マーカーをアトピー性皮膚炎の検出(遺伝子診断)においてプライマーとして用いる場合には、通常15bp〜100bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、通常15bp〜全配列の塩基数、好ましくは15bp〜1kb、より好ましくは100bp〜1kbの塩基長を有するものが例示できる。 本発明の疾患マーカーは、ノーザンブロット法、RT-PCR法、in situハイブリダーゼーション法などといった、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によってアトピー性皮膚炎におけるS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。 測定対象試料としては、使用する検出方法の種類に応じて、被験者の皮膚組織の一部を採取し、そこから常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。 また、生体組織における本発明遺伝子の遺伝子発現レベルは、DNAチップを利用して検出あるいは定量することができる。この場合、本発明の疾患マーカーは当該DNAチップのプローブとして使用することができる(例えば、アフィメトリックス社の Gene Chip HG-U133Aの場合、25bpの長さのポリヌクレオチドプローブとして用いられる)。かかるDNAチップを、生体組織から採取したRNAをもとに調製される標識DNAまたはRNAとハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブ(本発明疾患マーカー)と標識DNAまたはRNAとの複合体を、該標識DNAまたはRNAの標識を指標として検出することにより、生体組織中での本発明遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)が評価できる。 上記DNAチップは、本発明遺伝子のいずれかと結合し得る1種または2種以上の本発明疾患マーカーを含んでいれば良い。複数の疾患マーカーを含むDNAチップの利用によれば、ひとつの生体試料について、同時に複数の遺伝子の発現の有無または発現レベルの評価が可能である。 本発明の疾患マーカーは、アトピー性皮膚炎の診断、検出(罹患の有無や罹患の程度の診断)に有用である。具体的には、該疾患マーカーを利用したアトピー性皮膚炎の診断は、被験者の皮膚組織と正常者の皮膚組織におけるS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの遺伝子の遺伝子発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。この場合、遺伝子発現レベルの違いには、発現のある/なしの違いだけでなく、被験者の皮膚組織と正常者の皮膚組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量の格差が2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的には、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現上昇しているので、当該遺伝子のうち少なくとも3個、好ましくは4個、更に好ましくは5個以上の遺伝子が、被験者の皮膚組織のみで発現しているか、或いは該発現量が正常者の皮膚組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上多ければ、被験者についてアトピー性皮膚炎の罹患が疑われる。この場合のアトピー性皮膚炎の検出(診断)には、上記本発明遺伝子に対応するいずれかの塩基配列(具体的には配列番号:1,3,5,7,9および15のいずれかの塩基配列)において、連続する少なくとも15塩基長を有するポリヌクレオチドおよび/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなる本発明の疾患マーカーが有用である。 中でも S100A8遺伝子は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で著しく発現上昇しているので、当該S100A8遺伝子の塩基配列(具体的には配列番号:1に記載の塩基配列)において、連続する少なくとも15塩基長を有するポリヌクレチドおよび/またはそれに相補的なポリヌクレチドからなる本発明の疾患マーカーは特に有用である。この場合、S100A8遺伝子の発現量が正常者の皮膚組織の発現量と比べて10倍以上、好ましくは15倍以上、より好ましくは20倍以上多ければ、被験者についてアトピー性皮膚炎の罹患が疑われる。 一方、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現低下しているので、当該遺伝子のうち少なくとも2個、好ましくは3個、更に好ましくは4個の遺伝子が、被験者の皮膚組織で発現していないか、或いは該発現量が正常者の皮膚組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上減少していれば、被験者についてアトピー性皮膚炎の罹患が疑われる。この場合のアトピー性皮膚炎の検出(診断)には、上記本発明遺伝子に対応するいずれかの塩基配列(具体的には配列番号:11,13,17および19のいずれかの塩基配列)において、連続する少なくとも15塩基長を有するポリヌクレオチドおよび/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなる本発明の疾患マーカーが有用である。(1-3)抗体 本発明は、アトピー性皮膚炎の疾患マーカーとして、S100A8遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「S100A8」ともいう)、S100A7遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「S100A7」ともいう)、KRT6A遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「KRT6A」ともいう)、KRT6B遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「KRT6B」ともいう)、KRT16遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「KRT16」ともいう)、Loricrin遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「Loricrin」ともいう)、Filaggrin遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「Filaggrin」ともいう)、SERPINB13遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「SERPINB13」ともいう)、CSPG2遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「CSPG2」ともいう)、またはFibronectin 1遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「Fibronectin 1」ともいう)を特異的に認識することのできる抗体を提供する。 ここで、S100A8としては配列番号:1に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、S100A7としては配列番号:3に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、KRT6Aとしては配列番号:5に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、KRT6Bとしては配列番号:7に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、KRT16としては配列番号:9に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、Loricrinとしては配列番号:11に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、Filaggrinとしては配列番号:13に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、SERPINB13としては配列番号:15に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、CSPG2としては配列番号:17に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、Fibronectin 1としては配列番号:19に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を挙げることができる。 なお、配列番号:1に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番号:3に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:4で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番号:5に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:6で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番号:7に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:8で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番:9に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:10で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番号:11に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:12で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番号:13に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:14で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番号:15に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:16で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番号:17に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:18で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、配列番号:19に示されるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の具体的様態としては配列番号:20で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を例示することができる。 ここで配列番号:2に示すタンパク質はヒト由来のS100A8遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(J Immunol. 2002 Sep 15;169(6):3307-13)に記載されるように公知である。 また配列番号:4に示すタンパク質はヒト由来のS100A7遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(Biochemistry. 2001 Mar 13;40(10):3167-73)に記載されるように公知である。 また配列番号:6に示すタンパク質はヒト由来のKRT6A遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、配列番号:8に示すKRT6Bタンパク質と同様の方法で取得することができる。具体的にはKRT6B遺伝子のcDNAに代えて、文献(J Biol Chem. 1995 Aug 4;270(31):18581-92)に記載されている方法等で取得できるKRT6A遺伝子のcDNAを用いて、文献(J Cell Biol. 1996 Feb;132(3):381-97)に記載のKRT6Bタンパク質の取得方法に従って取得することができる。 また配列番号:8に示すタンパク質はヒト由来のKRT6B遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(J Cell Biol. 1996 Feb;132(3):381-97)に記載されるように公知である。 また配列番号:10に示すタンパク質はヒト由来のKRT16遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(J Cell Biol. 1996 Feb;132(3):381-97)に記載されるように公知である。 また配列番号:12に示すタンパク質はヒト由来のLoricrin遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(J Biol Chem. 1995 Nov 3;270(44):26382-90)に記載されるように公知である。 また配列番号:14に示すタンパク質はヒト由来のFilaggrin遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(Int Arch Allergy Immunol. 1998 Apr;115(4):294-302)に記載されるように公知である。 また配列番号:16に示すタンパク質はヒト由来のSERPINB13遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(Biochemistry. 2003 Jun 24;42(24):7381-9)に記載されるように公知である。 また配列番号:18に示すタンパク質はヒト由来のCSPG2遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(J Biol Chem. 1989 Apr 5;264(10):5981-7)に記載されるように公知である。 また配列番号:20示すタンパク質はヒト由来のFibronectin 1遺伝子によってコードされる公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(Methods Enzymol. 1982;82 Pt A:803-31)に記載されるように公知である。 本発明は、前述するように、アトピー性皮膚炎に罹患した患者の病変皮膚組織において、正常皮膚組織(健常人の皮膚組織)に比して、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子が顕著に発現上昇しており、またLoricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子が顕著に発現低下しているという知見を発端に、これら遺伝子の発現産物(タンパク質)の有無やその発現の程度を検出することによって上記アトピー性皮膚炎の罹患の有無や罹患の程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという発想に基づくものである。 上記抗体は、従って、被験者における上記タンパク質の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者がアトピー性皮膚炎に罹患しているか否かまたはその疾患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。 また上記抗体は、後述の(3-2)項に記載するようなアトピー性皮膚炎の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかの発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。 本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかを免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。さらにこれら本発明タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。 これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1を用いて、あるいは常法に従ってこれら本発明タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1、あるいはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。 抗体の作製に免疫抗原として使用されるS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1は、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1,3,5,7,9,11,13,15,17,19)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。 具体的には、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1をコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としてのタンパク質を得ることができる。また、これらS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1の部分ペプチドは、本発明により提供されるアミノ酸配列の情報(配列番号2,4,6,8,10,12,14,16,18,20)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。 なお、本発明のS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1には、配列番号: 2,4,6,8,10,12,14,16,18または20に示す各アミノ酸配列に関わるタンパク質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、上記配列番号:2,4,6,8,10,12,14,16,18および20のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ改変前の元のタンパク質と免疫学的に同等の活性を有するタンパク質を挙げることができる。 ここで同等の免疫学的活性を有するタンパク質としては、適当な動物あるいはその細胞において特定の免疫反応を誘発し、かつS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1に対する抗体と特異的に結合する能力を有するタンパク質を挙げることができる。 なお、タンパク質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その免疫学的活性が保持される限り制限はない。免疫学的活性を喪失することなくアミノ酸残基が、どのように、何個置換、挿入あるいは欠失されればよいかを決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、置換後に得られるタンパク質がS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1と同等の免疫学的活性を保持している限り、特に制限されないが、タンパク質の構造保持の観点から、残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性並びに両親媒性など、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe及びTrpは互いに非極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn及びGlnは互いに非荷電性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Asp及びGluは互いに酸性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、またLys、Arg及びHisは互いに塩基性アミノ酸に分類されるアミノ酸である。ゆえに、これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択することができる。 本発明抗体は、また、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴ(ポリ)ペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1と同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1のアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴ(ポリ)ペプチドを例示することができる。 かかるオリゴ(ポリ)ペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。 本発明の抗体は、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1に特異的に結合する性質を有することから、該抗体を利用することによって、被験者の組織内に発現した上記タンパク質を特異的に検出することができる。すなわち、当該抗体は被験者の組織内におけるS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1のタンパク発現の有無を検出するためのプローブとして有用である。 具体的には、患者の皮膚組織の一部を採取し、そこから常法に従ってタンパク質を調製して、例えばウェスタンブロット法、ELISA法など公知の検出方法において、上記抗体を常法に従ってプローブとして使用することによって、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1を検出することができる。 アトピー性皮膚炎の診断に際しては、被験者の皮膚組織におけるS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれか少なくとも一つと正常な皮膚組織におけるこれらのタンパク質との量の違いを判定すればよい。この場合、タンパク量の違いには、タンパクのある/なし、あるいはタンパク量の違いが2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。 具体的には、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16およびSERPINB13は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現上昇しているので、当該タンパク質の少なくとも3種以上が、好ましくは4種以上が、更に好ましくは5種以上が、被験者の皮膚組織のみで該タンパク質(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、SERPINB13)が発現しているか、或いは該量が正常な皮膚組織の該タンパク質量と比べて1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上多ければ、被験者についてアトピー性皮膚炎の罹患が疑われる。この場合のアトピー性皮膚炎の検出(診断)には、上記本発明タンパク質(具体的には配列番号:2,4,6,8,10および16のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質)を認識する抗体を含有する本発明の疾患マーカーが有用である。 中でも S100A8は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で著しく発現上昇しているので、当該S100A8(具体的には配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)を認識する抗体を含有する本発明の疾患マーカーは特に有用である。この場合、S100A8の発現量が正常者の皮膚組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上多ければ、被験者についてアトピー性皮膚炎の罹患が疑われる。 一方、Loricrin、Filaggrin、CSPG2およびFibronectin 1は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現低下しているので、被験者の皮膚組織で該タンパク質(Loricrin、Filaggrin、CSPG2、Fibronectin 1)4種のうち少なくとも2種以上のタンパクが、好ましくは3種以上のタンパクが、更に好ましくは4種全てのタンパクが発現していないか、或いは該量が正常な皮膚組織の該タンパク質量と比べて1.5倍以上、好ましくは2倍、より好ましくは3倍以上減少していれば、被験者についてアトピー性皮膚炎の罹患が疑われる。この場合のアトピー性皮膚炎の検出(診断)には、上記本発明タンパク質(具体的には配列番号:12,14,18および20のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質)を認識する抗体を含有する本発明の疾患マーカーが有用である。(2)アトピー性皮膚炎の検出方法(診断方法) 本発明は、前述した本発明疾患マーカーを利用したアトピー性皮膚炎の検出方法(診断方法)を提供するものである。 具体的には、本発明の検出方法(診断方法)は、被験者の皮膚組織の一部を採取し、そこに含まれるアトピー性皮膚炎に関連するS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの遺伝子発現レベル、およびこれらの遺伝子に由来するタンパク質(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2、Fibronectin 1)の量(レベル)を検出し、その遺伝子発現量またはそのタンパク質量を測定することにより、アトピー性皮膚炎の罹患の有無またはその程度を診断するものである。また本発明の検出(診断)方法は、例えばアトピー性皮膚炎患者において、該疾患の改善のために治療薬を投与した場合における、該疾患の改善の有無またはその程度を検出(診断)することもできる。 本発明の検出方法は次の(a)、(b)及び(c)の工程を含むものである:(a) 被験者の生体試料と本発明の疾患マーカーを接触させる工程、(b) 生体試料中のS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの遺伝子発現レベル、またはS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかのタンパク質量を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、(c) (b)の結果をもとに、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程。 ここで用いられる生体試料としては、被験者の生体組織(皮膚組織及びその周辺組織など)から調製される試料を挙げることができる。具体的には、該組織から調製されるRNA含有試料、若しくはそれからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む試料、または上記組織から調製されるタンパク質を含む試料を挙げることができる。かかるRNA、ポリヌクレオチドまたはタンパク質を含む試料は、被験者の皮膚組織を採取し、そこから常法に従って調製することができる。 本発明の診断方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。(2-1) 測定対象の生体試料としてRNAを利用する場合 測定対象物としてRNAを利用する場合、アトピー性皮膚炎の検出は、具体的に下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと、前記本発明の疾患マーカー(S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又は該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド)とを結合させる工程、(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを測定する工程、(c)上記(b)の測定結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程。 測定対象物としてRNAを利用する場合は、本発明の検出方法(診断方法)は、該RNA中のS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現レベルを検出し、測定することによって実施される。具体的には、前述のポリヌクレオチドからなる本発明の疾患マーカー(S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチド)をプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などの公知の方法を行うことにより実施できる。 ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明の疾患マーカー(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された疾患マーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、疾患マーカーの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って疾患マーカー(プローブDNA)を標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、疾患マーカーの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。 RT-PCR法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプライマーとして用いることによって、RNA中のS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現の有無や発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子の領域が増幅できるように、本発明の疾患マーカーから調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。 DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明の疾患マーカーから調製される標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。また、上記DNAチップとして、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの遺伝子発現レベルの検出、測定が可能なDNAチップを用いることもできる。かかる遺伝子の発現レベルを検出、測定することができるDNAチップとしては、Affymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A, B,C, D, EやGene Chip HG-U133Aなどを挙げることができる。かかるDNAチップを用いた、被験者RNA中のS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの遺伝子発現レベルの検出、測定については、実施例において詳細に説明する。(2-2) 測定対象の生体試料としてタンパク質を用いる場合 測定対象物としてタンパク質を用いる場合は、本発明のアトピー性皮膚炎の検出方法(診断方法)は、生体試料中のS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかを検出し、その量を測定することによって実施される。具体的には下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と抗体に関する本発明の疾患マーカー(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1を認識する抗体)とを結合させる工程、(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を測定する工程、(c)上記(b)の測定結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程。 より具体的には、本発明の疾患マーカーとして抗体(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1を認識する抗体)を用いて、ウエスタンブロット法などの公知方法で、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1のいずれかを検出、定量する方法を挙げることができる。 ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。 なお、上記において測定対象とするS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のうち機能または活性が既知のものについては、上記タンパク質の量の測定に代えて、該タンパク質の機能または活性の測定を行うことによっても、本発明のアトピー性皮膚炎の検出(診断)を実施することができる。すなわち本発明は、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1の公知の機能または活性を指標として、これを公知の方法に従って測定、評価することからなる、アトピー性皮膚炎の検出(診断)方法をも包含する。(2-3)アトピー性皮膚炎の診断 アトピー性皮膚炎の診断は、例えば、被験者の皮膚組織におけるS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの遺伝子発現レベル、もしくはこれらの遺伝子の発現産物であるタンパク質(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2、Fibronectin 1)の量、機能若しくは活性(以下これらを合わせて「タンパク質レベル」ということがある)を、正常な皮膚組織における当該遺伝子発現レベルまたは当該タンパク質レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。 この場合、正常な皮膚組織から採取調製した生体試料(RNAまたはタンパク質を含む試料)が必要であるが、これらはアトピー性皮膚炎に罹患していない人の皮膚組織を採取することによって取得することができる。当該「アトピー性皮膚炎に罹患していない人」を以下、本明細書では単に正常者若しくは健常者という場合もある。 被験者の皮膚組織と正常な皮膚組織(アトピー性皮膚炎に罹患していない人の皮膚組織)との遺伝子発現レベルまたはタンパク質のレベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。並行して行わない場合は、複数(少なくとも2つ、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常な皮膚組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの遺伝子発現レベル、若しくはこれらの遺伝子の発現産物であるタンパク質(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2、Fibronectin 1)の量(レベル)の平均値または統計的中間値を、正常者の遺伝子発現レベル若しくはタンパク質レベルとして、比較に用いることができる。 被験者が、アトピー性皮膚炎であるかどうかの判断は、被験者の皮膚組織と正常者の皮膚組織におけるS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの遺伝子の遺伝子発現レベル、あるいはこれらの遺伝子に由来するタンパク質(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2、Fibronectin 1)のレベルの違いを判定することによって行うことができる。この場合、遺伝子発現レベル若しくはタンパク質レベルの違いには、ある/なしの違いだけでなく、被験者の皮膚組織と正常者の皮膚組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量の格差が1.5倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。 具体的には、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子、およびこれら遺伝子に由来するタンパク質(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、SERPINB13)は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現上昇している。従って、当該遺伝子のうち少なくとも3種以上、好ましくは4種以上、更に好ましくは5種以上が、被験者の皮膚組織でのみ発現しているか、或いは該発現量が正常者の皮膚組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上多い場合には、被験者についてアトピー性皮膚炎であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。また、当該遺伝子に由来するタンパク質のうち少なくとも3種以上、好ましくは4種以上、更に好ましくは5種以上が、被験者の皮膚組織でのみ発現しているか、或いは該発現量が正常者の皮膚組織の発現量と比べて1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上多い場合にも、被験者についてアトピー性皮膚炎であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。 中でも S100A8遺伝子およびその発現産物(S100A8)は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で著しく発現上昇している。従って、S100A8遺伝子の発現レベルが正常者の皮膚組織の量と比べて10倍以上、好ましくは15倍以上、より好ましくは20倍以上多い場合には、被験者についてアトピー性皮膚炎であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。また、S100A8タンパク質のレベルが正常者の皮膚組織の量と比べて2倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上多い場合にも、被験者についてアトピー性皮膚炎であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。 一方、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子、およびこれら遺伝子に由来するタンパク質(Loricrin、Filaggrin、CSPG2、Fibronectin 1)は、正常者の皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現低下している。従って当該遺伝子のうち少なくとも2種類、好ましくは3種類、更に好ましくは4種類が、被験者の皮膚組織で発現していないか、或いは該発現量が正常者の皮膚組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上減少している場合には、被験者についてアトピー性皮膚炎であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。また、当該遺伝子に由来するタンパク質のうち少なくとも2種類、好ましくは3種類、更に好ましくは4種類が、被験者の皮膚組織で発現していないか、或いは該発現量が正常者の皮膚組織の発現量と比べて1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上減少している場合にも、被験者についてアトピー性皮膚炎であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。 前記本発明の遺伝子発現レベル若しくはタンパク質レベルは、1種の遺伝子若しくはタンパク質レベルを測定することもできれば、2種以上を組み合わせて測定し評価することもできる。特に S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子およびKRT16遺伝子に関しては、乾癬患者の皮膚組織においても発現上昇していることが知られているため、これらの遺伝子の発現レベル若しくはこれら遺伝子に由来するタンパク質(S100A8、S100A7、KRT6A、KRT16)のレベルを測定する場合には、他の遺伝子(KRT6B遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子またはFibronectin 1遺伝子)またはこれに由来するタンパク質(KRT6B、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2、Fibronectin 1)のいずれかの発現レベルを併せて測定することが好ましい。 検出(診断)の精度や正確性を高めるためには、本発明遺伝子若しくはそれに由来するタンパク質のうちの2以上、好ましくは複数個、より好ましくは4分の1以上、さらに好ましくは半数以上について、遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルを評価し、その結果からアトピー性皮膚炎を検出(診断)することが望ましい。(3)候補薬のスクリーニング方法(3-1) 遺伝子発現レベルを指標とするスクリーニング方法 本発明は、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子のいずれかの発現を抑制するか、若しくはLoricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現を促進する物質のスクリーニング方法を提供する。 本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:(a)被験物質とS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかを発現可能な細胞とを接触させる工程、(b)被験物質を接触させた細胞におけるS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、(c)上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子のいずれかの発現量を減少させるか、若しくはLoricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現量を上昇させる被験物質を、アトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 このうちS100A8遺伝子およびS100A7遺伝子は、本発明スクリーニングの薬剤ターゲットとして特に好ましい。従って本発明のスクリーニング方法の好ましい形態として、本発明は、次の工程(a)、(b)及び(c)を含むスクリーニング方法を提供する:(a) 被験物質とS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、(b) 被験物質を接触させた細胞におけるS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現量を減少させる被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 以下、これらS100A8遺伝子およびS100A7遺伝子を例にとり本発明のスクリーニング方法を説明するが、本発明のスクリーニング方法はこれらに限定されるものではない。 前記本発明のスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子を発現する培養細胞全般を挙げることができる。培養細胞においてこれら本発明遺伝子が発現しているか否かは、公知のノーザンブロット法やRT-PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。当該スクリーニングに用いられる細胞の具体例としては、S100A8遺伝子を発現するものとして HL-60細胞(ATCC No. CCL-240)等を、またS100A7遺伝子を発現するものとしてMCF-10A細胞(ATCC No. CRL-10317)等を、それぞれ挙げることができる。また、これら内在性にS100A8遺伝子、S100A7遺伝子を発現している細胞の他、通常遺伝子導入に用いられる宿主細胞、すなわちCOP、L、C127、Sp2/0、NS-1、NIH3T3、ST2等のマウス由来細胞、ラット由来細胞、BHK、CHO等のハムスター由来細胞、COS1、COS3、COS7、CV1、Vero等のサル由来細胞、HeLa、293等のヒト由来細胞、またはSf9、Sf21、High Five等の昆虫由来細胞に本発明のS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子を導入した形質転換細胞も挙げることができる。 さらに、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織なども含まれる。 本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(本発明遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。 また本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死滅せず且つ本発明遺伝子を発現できる培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択するのが好ましい。 実施例に示すように、アトピー性皮膚炎に罹患した患者の皮膚組織では、正常な皮膚組織に比して、S100A8遺伝子およびS100A7遺伝子が発現上昇している。さらに、これらS100A8遺伝子およびS100A7遺伝子は、いずれもアトピー性皮膚炎の原因領域であることが示唆されている染色体1q21領域に位置している。これらの知見から、これらの遺伝子の発現亢進はアトピー性皮膚炎の原因を構成していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現レベルを指標として、その発現を抑制する物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、アトピー性皮膚炎の緩和/抑制作用を有する(アトピー性皮膚炎に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。 すなわち本発明のスクリーニング方法は、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質を探索することによって、アトピー性皮膚炎の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。 候補物質の選別は、具体的にはS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子が発現している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞におけるこれら遺伝子の発現レベルが、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のそのレベルに比して低くなることをもって、行うことができる。 より具体的には、例えばHL-60細胞(ATCC No. CCL-240)やMCF-10A細胞(ATCC No. CRL-10317)を用いてアトピー性皮膚炎の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質をスクリーニングするには、被験物質を加えない細胞(対照細胞)と、被験物質を加えた細胞とで、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現レベルを比較し、その発現レベルの減少を指標として候補物質を選別することができる。 このような本発明のスクリーニング方法における遺伝子発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと本発明の疾患マーカーとを用いて、前記(2-1)項に記述したように、ノーザンブロット法、RT-PCR法、あるいはDNAチップを利用する方法に従って実施できる。指標とする遺伝子発現レベルの低下(抑制、減少)の程度は、被験物質(候補物質)を接触させた細胞におけるS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現が、被験物質(候補物質)を接触させない対照細胞における発現量と比較して10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上の低下(抑制、減少)を例示することができる。 またS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、これら本発明遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来のタンパク質の活性を測定することによっても実施できる。本発明のS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現抑制物質のスクリーニング方法には、かかるマーカー遺伝子の発現量を指標として標的物質を探索する方法も包含されるものであり、この意味において、請求項13および16に記載する「S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子」の概念には、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現制御領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子が含まれる。 なお、上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、上記のルシフェラーゼ遺伝子のほか、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、及びエクオリン遺伝子などのレポーター遺伝子が例示できる。 また、ここで前記本発明遺伝子の発現制御領域は、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbを用いることができる。 本発明遺伝子の発現制御領域は、例えば(i)5'-RACE法(例えば、5'full Race Core Kit(宝酒造社製)等を用いて実施される)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5'末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5'-上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することができる。また融合遺伝子の作成、およびマーカー遺伝子由来の活性測定は公知の方法で行うことができる。 本発明のスクリーニング方法により選別される物質は、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の遺伝子発現抑制剤として位置づけることができる。これらの物質が有する本発明遺伝子に対する発現抑制作用は、皮膚炎症の抑制に深く関わっているものと考えられる。よってこれらの物質は、アトピー性皮膚炎を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補物質となる。(3-2)タンパク質の発現量を指標とするスクリーニング方法 本発明は、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16およびSERPINB13のいずれかの発現を抑制する(減少させる)か、若しくはLoricrin、Filaggrin、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかの発現を促進する物質のスクリーニング方法を提供する。 本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:(a)被験物質とS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかを発現可能な細胞とを接触させる工程、(b)被験物質を接触させた細胞におけるS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、(c)上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16およびSERPINB13のいずれかの発現量を減少させるか、若しくはLoricrin、Filaggrin、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかの発現量を上昇させる被験物質を、アトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 このうちS100A8およびS100A7は、本発明スクリーニングの薬剤ターゲットとして特に好ましい。従って本発明のスクリーニング方法の好ましい形態として、本発明は、次の工程(a)、(b)及び(c)を含むスクリーニング方法を提供する:(a) 被験物質とS100A8および/またはS100A7を発現可能な細胞とを接触させる工程、(b) 被験物質を接触させた細胞におけるS100A8および/またはS100A7の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8および/またはS100A7の発現量を減少させる被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 以下、これらS100A8およびS100A7を例にとり本発明のスクリーニング方法を説明するが、本発明のスクリーニング方法はこれらに限定されるものではない。 前記本発明のスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子を発現し、発現産物としてのS100A8および/またはS100A7を産生する培養細胞全般を挙げることができる。ここでS100A8および/またはS100A7の発現は、遺伝子産物であるタンパク質を公知のウエスタン法にて検出することにより、容易に確認することができる。該細胞としては、具体的には、前記(3−1)項に記載したような、内在性または外来性にS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子を発現する細胞が挙げられる。また当該細胞の範疇には、その細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分なども含まれる。 本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(本発明遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞や細胞膜画分と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。 実施例に示すように、アトピー性皮膚炎に罹患した患者の皮膚組織では、正常な皮膚組織に比して、S100A8遺伝子およびS100A7遺伝子が発現上昇している。さらに、これらS100A8遺伝子およびS100A7遺伝子は、いずれもアトピー性皮膚炎の原因領域であることが示唆されている染色体1q21領域に位置している。これらの知見から、これらS100A8遺伝子、S100A7遺伝子の発現産物(S100A8、S100A7)の発現亢進はアトピー性皮膚炎の原因を構成していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、これらS100A8および/またはS100A7のタンパク発現レベルを指標として、その発現量を低下させる物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、アトピー性皮膚炎の緩和/抑制作用を有する(アトピー性皮膚炎に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。 すなわち本発明のスクリーニング方法は、S100A8および/またはS100A7の発現量を低下させる物質を探索することによって、アトピー性皮膚炎の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。 候補物質の選別は、具体的にはS100A8および/またはS100A7を発現産生している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞におけるS100A8および/またはS100A7のタンパク量(レベル)が、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のその量(レベル)に比して低くなることを指標として、行うことができる。 より具体的には、例えば例えばHL-60細胞(ATCC No. CRL-10317)やMCF-10A細胞(ATCC No. CRL-10317)等を用いてアトピー性皮膚炎の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質をスクリーニングするには、被験物質を加えない細胞(対照細胞)と、被験物質を加えた細胞とで、S100A8および/またはS100A7のタンパク質の量(レベル)を比較し、その量(レベル)の減少を指標として候補物質を選別することができる。 本発明のスクリーニング方法にかかるS100A8および/またはS100A7の産生量は、前述したように、例えば抗体に関する本発明疾患マーカー(S100A8タンパク質を認識する抗体、S100A7タンパク質を認識する抗体)を用いたウエスタンブロット法などの公知方法に従って定量できる。ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。(3-3) タンパク質の機能(活性)を指標とするスクリーニング方法 本発明は、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16またはSERPINB13の機能(活性)を抑制するか、若しくはLoricrin、Filaggrin、CSPG2またはFibronectin 1の機能(活性)を促進する物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:(a)被験物質を S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1に接触させる工程、(b)上記(a)の工程に起因して生じるS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1の機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1の機能または活性と比較する工程、(c)上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16またはSERPINB13の機能または活性の低下をもたらすか、若しくはLoricrin、Filaggrin、CSPG2またはFibronectin 1の機能または活性の上昇をもたらす被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 本発明のスクリーニング方法おいては、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1の公知の機能・活性に基づく如何なる機能・活性測定方法をも利用することができる。すなわち、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2またはFibronectin 1の公知の機能・活性測定系に被験物質を添加し、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16またはSERPINB13の機能または活性の低下をもたらすか、若しくはLoricrin、Filaggrin、CSPG2またはFibronectin 1の機能または活性の上昇をもたらす被験物質を、アトピー性皮膚炎に対して改善/治療効果を有する候補物質として選択するスクリーニング方法であれば、本発明のスクリーニング方法の範疇に含まれる。 このうちS100A8およびS100A7は本発明スクリーニングの薬剤ターゲットとして特に好ましい。従って本発明のスクリーニング方法の好ましい形態として、本発明は、次の工程(a)、(b)及び(c)を含むスクリーニング方法を提供する:(a) 被験物質をS100A8および/またはS100A7に接触させる工程、(b) 上記(a)の工程に起因して生じるS100A8および/またはS100A7の機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のS100A8および/またはS100A7の機能または活性と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8および/またはS100A7の機能または活性の低下をもたらす被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 以下、これらS100A8およびS100A7を例にとり本発明のスクリーニング方法を説明するが、本発明のスクリーニング方法はこれらに限定されるものではない。 前記前記本発明のスクリーニングは、S100A8またはS100A7を含む水溶液、細胞または該細胞から調製した細胞画分と、被験物質とを接触させることにより行うことができる。 ここでS100A8またはS100A7を含む水溶液としては、例えばS100A8またはS100A7を含む通常の水溶液の他、これらのタンパク質を含む細胞溶解液、細胞破砕液、核抽出液あるいは細胞の培養上清などを例示することができる。 また、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞としては、内在性及び外来性を問わず、S100A8またはS100A7を発現し得る細胞を挙げることができる。該細胞としては、具体的には、前記(3−1)項に記載したような、内在性または外来性にS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子を発現する細胞が挙げられる。 また本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞画分とは、上記細胞に由来する各種の画分を意味し、これには、例えば細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分などが含まれる。 前記スクリーニングにおいて用いられるS100A8およびS100A7は、いずれも公知のタンパク質であり、前記(1-3)に記述したように、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号:1,3)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換細胞の培養、および必要に応じて培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。 実施例に示すように、アトピー性皮膚炎に罹患した患者の皮膚組織では、正常な皮膚組織に比して、S100A8遺伝子およびS100A7遺伝子が発現上昇している。さらに、これらS100A8遺伝子およびS100A7遺伝子は、いずれもアトピー性皮膚炎の原因領域であることが示唆されている染色体1q21領域に位置している。これらの知見から、これらS100A8遺伝子、S100A7遺伝子の発現産物(S100A8、S100A7)のの機能(活性)亢進は、アトピー性皮膚炎の原因を構成していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、これらS100A8、S100A7、またはその両方の機能(活性)を指標として、該タンパク質の機能(活性)を抑制する物質を探索する方法が包含される。本発明スクリーニング方法によれば、S100A8および/またはS100A7の機能または活性を抑制する物質を探索でき、かくしてアトピー性皮膚炎の緩和/抑制作用を有する(アトピー性皮膚炎に対して改善/治療効果を発揮する)候補物質が提供される。 すなわち本発明のスクリーニング方法は、S100A8および/またはS100A7の機能または活性を抑制する物質を探索することによって、アトピー性皮膚炎の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。 本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、蛋白質(S100A8またはS100A7に対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記水溶液、細胞または細胞画分と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。 以下、S100A8の機能または活性、あるいはS100A7の機能または活性を抑制する物質のスクリーニング方法につき、具体的に例示する。(1)S100A8の機能(活性)に基くスクリーニング方法 S100A8の機能として、ヒト好中球の遊走活性の誘導(J Immunol. 2003 Mar 15;170(6):3233-42)などが知られている。従って、該S100A8の公知の性質に基づいて、S100A8の機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングすることができる。 具体的には、例えば次のような方法を用いて細胞の遊走性を指標にしてスクリーニングを実施できる。 まず文献(J Immunol. 2002 Sep 15;169(6):3307-13)に記載の方法等を用いて S100A8タンパク質を取得する。次に10-12〜10-11MのS100A8タンパク質を1.3mMのCa2+、0.8mMのMg2+及び10mMのHEPESを含有するHBSS緩衝液に溶解する。 次に、溶解したS100A8タンパク質をNeuroprobe社製ボイデンチャンバー等を使用して、孔径8mmのポリカーボネート製フィルターを隔てて37℃、30分間ヒト好中球と接触させる。このときにフィルターで仕切られたチャンバーの下層にS100A8タンパク質を含む緩衝液を、上層にヒト好中球を入れる。試験群ではS100A8タンパク質を含む下層にさらに被験物質を加える。この際被験物質のチャンバー中の濃度は好ましくは100μg/ml以下、更に好ましくは50μg/ml以下、更に好ましくは10μg/ml以下にすることが重要である。ここにおいてヒト好中球の調製は例えば文献(Immunol. 2003 Mar 15;170(6):3233-42)に記載の公知の方法が利用できる。規定の接触時間が終了した後、チャンバーの下層に移行したヒト好中球細胞数を計測し、被険物質を加えた場合と加えなかった場合を比較する。被験物質を加えた場合において、加えていない場合と比較してS100A8タンパク質を含む下層に移行した細胞数が有意に減少した場合を、スクリーニングヒット化合物とする。(2)S100A7の機能(活性)に基くスクリーニング方法 S100A7の機能として、ヒトCD4+Tリンパ球およびヒト好中球の遊走活性の誘導(J Invest Dermatol. 1996 Jul;107(1):5-10)などが知られている。従って、該S100A7の公知の性質に基づいて、S100A8の機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングすることができる。 具体的には、例えば次のような方法を用いて細胞の遊走性を指標にしてスクリーニングを実施できる。 まず文献(Biochemistry. 2001 Mar 13;40(10):3167-73)に記載の方法等を用いてS100A7タンパク質を取得する。次に10-11MのS100A7タンパク質を0.5%のBSAを含有するRPMI1640培養液に溶解する。 ヒトCD4+Tリンパ球の遊走活性の誘導を指標とする場合には、溶解したS100A7タンパク質をNeuroprobe社製48ウェルケモタキシスチャンバー等を使用して、孔径5mmのポリカーボネート製フィルターを隔てて37℃、120分間CD4+Tリンパ球と接触させる。このときにフィルターで仕切られたチャンバー下層にはS100A7タンパク質を含む培養液を、上層にはヒトCD4+Tリンパ球を入れる。試験群ではS100A7タンパク質を含む下層にさらに被験物質を加える。この際被験物質のチャンバー中の濃度は好ましくは100μg/ml以下、更に好ましくは50μg/ml以下、更に好ましくは10μg/ml以下にすることが重要である。ここにおいてヒトCD4+Tリンパ球の調製は例えば文献(J Immunol. 1995 Apr 15;154(8):3742-52)に記載の公知の方法が利用できる。規定の接触時間が終了した後、チャンバー下層に移行したヒトCD4+Tリンパ球細胞数を計測し、被険物質を加えた場合と加えなかった場合を比較する。被験物質を加えた場合において加えていない場合と比較して、S100A7タンパク質を含む下層に移行した細胞数が有意に減少した場合をスクリーニングヒット化合物とする。 ヒト好中球の走化性誘導を指標とする場合には、溶解したS100A7タンパク質をNeuroprobe社製48ウェルケモタキシスチャンバー等を使用して、孔径3mmのポリカーボネート製フィルターを隔てて37℃、45分間好中球と接触させる。このときにフィルターで仕切られたチャンバーの下層にはS100A7タンパク質を含む培養液を、上層にはヒト好中球を入れる。試験群ではS100A7タンパク質を含む下層にさらに被験物質を加える。この際被験物質のチャンバー中の濃度は好ましくは100μg/ml以下、更に好ましくは50μg/ml以下、更に好ましくは10μg/ml以下にすることが重要である。ここにおいてヒト好中球の調製は例えば文献(J Invest Dermatol. 1996 Jul;107(1):5-10)に記載の公知の方法が利用できる。規定の接触時間が終了した後、チャンバー下層に移行したヒト好中球細胞数を計測し、被険物質を加えた場合と加えなかった場合を比較する。被験物質を加えた場合において加えていない場合と比較して、S100A7タンパク質を含む下層に移行した細胞数が有意に減少した場合をスクリーニングヒット化合物とする。 かくして選抜取得される被験物質は、アトピー性皮膚炎を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補となる。 上記(3-1)〜(3-3)に記載する本発明のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらに例えばアトピー性皮膚炎の自然発症モデル動物であるNC/Ngaマウス(J Immunol. 1999 Jan 15;162(2):1056-63)、あるいは人為的な抗原の投与によりアトピー様症状を発現するTNP-IgEマウス(Int Immunol. 1999 Jun;11(6):987-94)などを用いた薬効試験、安全性試験、さらにアトピー性皮膚炎患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的なアトピー性皮膚炎の改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。 なお、上記(3-1)〜(3-3)に記載するスクリーニング方法は、アトピー性皮膚炎の改善または治療薬の候補物質を選別するのみならず、アトピー性皮膚炎の既存の若しくは新規な改善または治療薬(候補薬)が、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現を抑制するか否か、あるいはS100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかの発現若しくは機能・活性を抑制するか否かを評価、確認するためにも用いることができる。すなわち本発明のスクリーニング方法の範疇には、候補物質の探索のみならず、このような評価あるいは確認を目的とするものも含まれる。(4)アトピー性皮膚炎の改善・治療剤 本発明は、アトピー性皮膚炎の改善・治療剤を提供するものである。 本発明はS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子、Fibronectin 1遺伝子及びこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質が、アトピー性皮膚炎と関係しているという新たな知見から、これら遺伝子のうちS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子のいずれかの発現量を減少させる物質、あるいは、これら遺伝子によりコードされるタンパク質の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質、またLoricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現量を上昇させる物質、あるいは、これら遺伝子によりコードされるタンパク質の発現若しくは機能(活性)を促進する物質が、上記疾患の改善または治療に有効であるという考えに基づくものである。 すなわち、本発明のアトピー性皮膚炎の改善・治療剤は、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子のいずれかの発現量を減少させる物質、あるいは、これら遺伝子によりコードされるタンパク質の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質、またLoricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子のいずれかの発現量を上昇させる物質、あるいは、これら遺伝子によりコードされるタンパク質の発現若しくは機能(活性)を促進する物質を有効成分とするものである。 とりわけ本発明のアトピー性皮膚炎の改善・治療剤は、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質、あるいはS100A8および/またはS100A7の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質を有効成分とすることが好ましい。以下、これらS100A8およびS100A7を例にとり本発明のアトピー性皮膚炎の改善・治療剤を説明するが、本発明の改善・治療剤はこれらに限定されるものではない。 当該有効成分となるS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現抑制物質、あるいはS100A8および/またはS100A7の発現若しくは機能(活性)抑制物質は、上記のスクリーニング方法を利用して選別されたもののみならず、選別された物質に関する情報に基づいて常法に従って工業的に製造されたものであってもよい。 S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現抑制物質、あるいはS100A8および/またはS100A7の発現若しくは機能(活性)抑制物質は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて経口投与または非経口投与することができる。また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、1日投与用量として、数mg〜2g程度、好ましくは数十mg程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。 また、上記の物質がDNAによりコードされるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。更に、上記有効成分物質がS100A8遺伝子またはS100A7遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、そのままもしくは遺伝子治療用ベクターにこれを組込むことにより、遺伝子治療を行うこともできる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。 上記アンチセンスヌクレオチドを利用する遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接患者の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはアンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。 ここで「アンチセンスヌクレオチド」には、S100A8遺伝子またはS100A7遺伝子の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。具体的には、配列番号:1または3に記載の塩基配列の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。 また、その化学修飾体には、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体("Antisense RNA and DNA" WILEY-LISS刊、1992年、pp.1-50、J. Med. Chem. 36, 1923-1937(1993))が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。 アンチセンスヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、目的遺伝子の発現、即ちS100A8遺伝子またはS100A7遺伝子の発現を抑制することができ、かくしてS100A8またはS100A7の機能(活性)を抑制することができる。 アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接生体内に投与する方法において、用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学修飾体は、好ましくは5-200塩基、さらに好ましくは8-25塩基、最も好ましくは12-25塩基の長さを有するものとすればよい。その投与に当たり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。 アンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるアンチセンスRNAは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞にアンチセンス遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞にアンチセンス遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20-45頁、月刊薬事, 36 (1), 23-48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。 上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムにアンチセンスヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。 遺伝子治療用製剤組成物は、上述したアンチセンスヌクレオチドまたはその化学修飾体、これらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、S100A8遺伝子またはS100A7遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む注射剤などの投与形態の他に、例えばS100A8遺伝子またはS100A7遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)-リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、上記S100A8遺伝子またはS100A7遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するベクターを導入したウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、S100A8遺伝子またはS100A7遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、患者成人1人当たり約0.0001-100mg、好ましくは約0.001-10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。アンチセンスヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1×103pfu-1×1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。アンチセンスヌクレオチドを導入した細胞の場合は、1×104細胞/body-1×1015細胞/body程度を投与すればよい。 次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。アトピー性皮膚炎患者の病変皮膚の採取およびtotal RNAの調製 少なくとも試料採取前の1ヶ月間に局所または全身へのコルチコステロイドによる治療を施されていない17人のアトピー性皮膚炎の患者(男性13人、女性4人、平均27歳)および4人の健常者より皮膚組織の利用についてのインフォームドコンセントを得た。全ての患者はWilliamsらの診断基準(Br. J. Dermatol., 1994, Sep;131(3):p406-16)を満たしており、研究計画は滋賀医科大学の倫理委員会および住友製薬株式会社のヒト組織利用研究倫理委員会により承認された。生検試料としてアトピー性皮膚炎患者の病変皮膚および健常者の正常皮膚を採取し、RNA抽出のためクリオスタットで薄片とした。それぞれの試料からTRIzol(Invitorogen, Carlsbad, CA)およびRneasy Kit(Qiagen, Valencia, CA)を用い、添付の手順に従ってTotal RNAを調製した。DNAチップ解析 実施例1に示したサンプルより調製したtotal RNAを用いて、DNAチップ解析を行った。なお、DNAチップ解析はAffymetrix社Gene Chip Human Genome U95セットを用いて行った。具体的には、解析は、(1) total RNAからcDNAの調製、(2) 該cDNAからラベル化cRNAの調製、(3) ラベル化cRNAのフラグメント化、(4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ、(5) プローブアレイの染色、(6) プローブアレイのスキャン、及び(7) 遺伝子発現解析、の手順で行った。 (1) total RNAからのリニアー増幅によるcDNAの調製 200 ngのtotal RNAからSuperScript Choice System(Invitrogen社製)、100 pmolのT7-(dT)24プライマー(T7プロモーター付加オリゴdTプライマー:Amersham社製)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAをDNA精製カラム(QIAGEN社製)で精製し、エタノール沈殿で濃縮した後当該cDNAを鋳型にしてMEGAscript T7 Kit(Ambion社製)を用いてin vitro転写によりcRNAを合成した。cRNAをRNA精製カラム(QIAGEN社製)で精製し、再度SuperScript Choice Systemを用いてcDNAを合成した。2回目のcDNA合成時のプライマーは、ファーストストランド(センス)合成時にはランダムヘキサマー(Applied Biosystems社製)を、セカンドストランド(アンチセンス)合成時にはT7-(dT)24プライマーを用いた(注:cRNA=アンチセンス)。合成したcDNAはDNA精製カラムで精製後、濃度を測定した。 (2) cDNAからラベル化cRNAの調製 各cDNA溶液5μLに、DEPC処理水17μL、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(ENZO社製)に含まれる10×HY Reaction Buffer 4μL、該キットに含まれる10×Biotin Labeled Ribonucleotides 4μL、該キットに含まれる10×DTT 4μL、該キットに含まれる10×RNase Inhibitor Mix 4μL、該キットに含まれる20×T7 RNA Polymerase 2μLを混合し、37℃で5時間反応させて、ラベル化cRNAを調製した。反応後、該反応液にDEPC処理水60μLを加えたのち、RNeasy Mini Kit(GIAGEN社製)を用いて添付プロトコールに従い、調製したラベル化cRNAを精製した。 (3) ラベル化cRNAのフラグメント化 各ラベル化cRNA 20μgを含む溶液に、5×Fragmentation Buffer(200mMトリス−酢酸 pH8.1(Sigma社製)、 500mM酢酸カリウム(Sigma社製)、150mM酢酸マグネシウム(Sigma社製))8μLを加えた反応液40μLを、94℃で35分間加熱した後、氷中に置いた。これによって、ラベル化cRNAをフラグメント化した。 (4) フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ 各フラグメント化cRNA 40μLに、5nM Control Oligo B2(Amersham社製)4μL、100×Control cRNA Cocktail 4μL、Herring sperm DNA(Promega社製)40μg、Acetylated BSA(Gibco-BRL社製)200μg、2×MES Hybridization Buffer(200mM MES、2M [Na+], 40mM EDTA、0.02% Tween20 (Pierce社製)、pH6.5〜6.7) 200μL、及びDEPC処理水144μLを混合し、400μLのハイブリカクテルを得た。得られた各ハイブリカクテルを99℃で5分間加熱し、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温で14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。 一方、1×MESハイブリダイゼーションバッファーで満たしたGeneChip HG-U133Aアレイ(Affymetrix社製)を、ハイブリオーブン内で、45℃、60rpmで10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼーションバッファーを除去してプローブアレイを調製した。上記で得られたハイブリカクテル上清200μLを該プローブアレイにそれぞれ添加し、ハイブリオーブン内で45℃、60rpmで16時間回転させ、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを得た。 (5) プローブアレイの染色 上記で得られたハイブリダイズ済みプローブアレイそれぞれからハイブリカクテルを回収除去した後、Non-Stringent Wash Buffer(6×SSPE(20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈)、0.01%Tween20、0.005%Antifoam0-30(Sigma社製))で満たした。次にNon-Stringent Wash BufferおよびStringent Wash Buffer(100mM MES、0.1M NaCl、0.01%Tween20)をセットしたGeneChip Fluidics Station 400(Affymetrix社製)の所定の位置にフラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを装着した。その後染色プロトコールEuKGE-WS2に従って、1次染色液(10μg/mL Streptavidin Phycoerythrin (SAPE)(MolecμLar Probe社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl(Ambion社製)、0.05%Tween20、0.005%Antifoam0-30)、 2次染色液(100μg/mL Goat IgG (Sigma社製)、3μg/mL Biotinylated Anti-Streptavidin antibody (Vector Laboratories社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl、0.05%Tween20、0.005%Antifoam0-30)により染色した。 (6) プローブアレイのスキャン、及び (7) 遺伝子発現量解析 染色した各プローブアレイをHP GeneArray Scanner(Affymetrix社製)に供し、染色パターンを読み取った。染色パターンはMicro Array Suite 5.0を使用して定量し、得られた定量データからBioconductor(www.bioconductor.org)用パッケージAffy 1.1 (Nucleic Acids Res., 2003, Feb 15;31(4):e15)により発現シグナルを算出した。シグナル算出の各ステップ「Background Correction」、「Normalization」、「Probe Specific Correction」および「Summarization」では「mas」、「invariantset」、「pmonly」、および「liwong」のアルゴリズムをそれぞれ用いた。病変皮膚と健常皮膚との間での個々の遺伝子発現レベルの比較にはマン・ホイットニー検定を用い、有意な差(P < 0.05)が示されたものを抽出した。発現レベルの変動の指標には中央値の比率を使用した。発現変動解析 病変皮膚と正常皮膚との比較において、特に大きな発現レベルの変動が見られた遺伝子に注目した。最も大きな発現レベルの変化がみられた10遺伝子の内訳を表1に示す。 また、他の関連遺伝子の発現レベルを併せて解析した結果を表2に示す。 表中、Gene nameは各遺伝子の名称を示す。また表中、Probe setはGeneChip HG-U133Aアレイ(Affymetrix社)上のプローブセットのID番号を、AccessionはEntrez Nucleotides database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Nucleotide)のAccession番号を、Locationは各遺伝子の染色体上の位置を、Fold change/Directionは病変皮膚での各遺伝子の発現量(mRNA量)の健常皮膚での各遺伝子の発現量(mRNA量)に対する比率を、P-valueはマン・ホイットニー検定により算出された健常皮膚での各遺伝子の発現量(mRNA量)と病変皮膚での各遺伝子の発現量(mRNA量)との間に統計学上の有意差が存在しない確率を、それぞれ示す。 最も大きな発現レベルの変化がみられた10遺伝子は、以下の(1)〜(5)の遺伝子であった。(1)角化細胞の増殖や分化と相関する3種のケラチン遺伝子であるKRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子およびKRT16遺伝子。(2)皮膚組織のバリア機能を担う2種のCornified Cell Envelope(CE)構成タンパク質(J. Biol. Chem., 1995, Jul. 28;270(30):p17702-11)遺伝子であるFilaggrin遺伝子およびLoricrin遺伝子。(3)2種のS100 カルシウム結合タンパク質遺伝子である S100A7遺伝子およびS100A8遺伝子。(4)コラーゲンやフィブロネクチンを分解するCathepsin Lに対する阻害作用を有すると言われている(Arch Biochem Biophys. 2003 Jan 15;409(2):367-74)、Serine proteinase inhibitor, cladeB, member13遺伝子。(5)細胞外マトリックス構成タンパク質である Chondroitin sulfate proteoglycan 2 遺伝子およびFibronectin 1遺伝子。 このうち4遺伝子(KRT6A遺伝子、KRT16遺伝子、S100A7遺伝子およびS100A8遺伝子)が乾癬患者の病変皮膚においても発現レベルの上昇が認められている遺伝子であり(Hum. Mol. Genet., 2001, Aug 15;10(17):p1793-805)、4遺伝子(Filaggrin遺伝子、Loricrin遺伝子、S100A7遺伝子およびS100A8遺伝子)が、アトピー性皮膚炎と乾癬のいずれにおいても疾患との関連が指摘されている染色体1q21領域(Nat. Genet., 2001, Apr;27(4):p372-3)に位置する遺伝子であった。 角化細胞の増殖や分化と相関するケラチン(J Invest Dermatol. 2001 May;116(5):633-40)の中では、活性化され過剰増殖する角化細胞で発現するとされるKRT6およびKRT16の遺伝子発現レベルが、アトピー性皮膚炎の病変皮膚で顕著に上昇していた。一方、基底状態の角化細胞で発現するKRT5遺伝子およびKRT14遺伝子や、分化した角化細胞で発現するKRT1遺伝子およびKRT10遺伝子の発現レベルに有意な変動は見られなかった(表2)。同様の結果は乾癬の病変皮膚の解析においても認められている(Hum. Mol. Genet., 2001, Aug 15;10(17):p1793-805)。 皮膚組織のバリア機能を担うCE構成タンパク質遺伝子の発現変動も乾癬で報告されている(Hum. Mol. Genet., 2001, Aug 15;10(17):p1793-805)。乾癬の病変皮膚ではCystatin A遺伝子、Elafin遺伝子、SPRR1B遺伝子、SPRR2A遺伝子、およびSPRK遺伝子がいずれも顕著な発現レベルの上昇を示していたのに対して、アトピー性皮膚炎の病変皮膚では、2倍以上の発現レベルの上昇が確認できたのはSPRK遺伝子のみであった。一方、2種類のCE構成タンパク質遺伝子、すなわちCEの大部分を占めているLoricrin遺伝子と、ケラチンフィラメント遺伝子との結合に関与するとされるFilaggrinの遺伝子発現レベルが顕著に低下していた(表2)。 また、Elafinは生体防御タンパクでもあると言われているが、同様に生体防御タンパクとして知られているdefensin,beta 2も乾癬の病変皮膚では遺伝子発現レベルが顕著に上昇していたが(Hum. Mol. Genet., 2001, Aug 15;10(17):p1793-805)、アトピー性皮膚炎の病変皮膚ではほとんど変動がみられなかった(表2)。 これらの結果を総合すると乾癬とアトピー性皮膚炎とでは、いずれの疾患においても病変部で角化細胞の過剰増殖を裏付けるケラチン遺伝子の発現上昇が特徴的に認められる一方で、角化細胞のProtecting LayerであるCEの構成タンパク質や宿主防御タンパク質の遺伝子発現は大きく異なっていることが明らかとなった。この事実から、乾癬の病変部では角化細胞の過剰増殖に伴ってCE形成や生体防御タンパク質発現の誘導が認められるが、アトピー性皮膚炎の病変部では角化細胞は過剰増殖するものの正常なCE形成は行われず、結果として皮膚表面がバリア機能の不十分な細胞で構成される状態になるものと考えられた。このような遺伝子発現の相違は両疾患の表皮組織の形態学的な相違ともよく対応している。 S100カルシウム結合タンパク質は変動上位の10遺伝子中の2遺伝子の他に、2倍以上の有意な発現変動を示す遺伝子として更に2種(S100A2およびS100A9)が見出され(表2)、いずれも乾癬の病変皮膚でも発現レベルの上昇がみられる遺伝子であった(Hum. Mol. Genet., 2001, Aug 15;10(17):p1793-805)。これら4種のS100 カルシウム結合タンパク質はいずれもChemoattractantであり(Int. J. Biochem. Cell Biol., 2001, Jul;33(7):p637-68)、特にS100A8およびS100A9は炎症の惹起に関与する因子であった(J. Immunol., 2003, Mar 15;170(6):p3233-42)。 乾癬の病変皮膚ではS100A9が特に顕著な発現レベルの上昇を示していたのに対して(Hum Mol Genet. 2001 Aug 15;10(17):1793-805)、アトピー性皮膚炎ではS100A8の発現レベルの上昇が著しく(表2)、両疾患において相違が認められた。 アトピー性皮膚炎の病変皮膚において2倍以上の有意な発現変動の見られた4種のS100 カルシウム結合タンパク質と3種のCE構成タンパク質遺伝子はすべて染色体1q21領域に位置する遺伝子であった(表2)。1q21領域には多数の疾患の原因領域が位置付けられることは広く知られており、これらの遺伝子の中にアトピー性皮膚炎の遺伝的背景因子として関与しているものが含まれると考えられた。 以上のように、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子、Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、SERPINB13遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子は、いずれも正常皮膚組織に比してアトピー性皮膚炎の病変皮膚において顕著な発現変動が認められたため、これらの遺伝子またはその発現産物(タンパク質)は、アトピー性皮膚炎の疾患マーカーとして応用可能であることが明らかとなった。また、これらの遺伝子またはその発現産物(タンパク質)を用いることによって、アトピー性皮膚炎を緩和、抑制する治療薬の候補薬をスクリーニングすることが可能であると考えられた。特に染色体1q21領域に位置するS100A8遺伝子、S100A7遺伝子、およびその発現産物(タンパク質)は、前記スクリーニングの好ましいターゲットであり、これらの遺伝子またはタンパク質の発現や機能(活性)を抑制する物質は、アトピー性皮膚炎治療薬の好ましい候補物質となると考えられた。S100A8の機能(活性)抑制剤のスクリーニング S100A8の機能として、ヒト好中球の遊走活性の誘導(J Immunol. 2003 Mar 15;170(6):3233-42)が知られており、該S100A8の公知の性質に基づいてS100A8の機能(活性)抑制剤をスクリーニングすることができる。 まず文献(J Immunol. 2002 Sep 15;169(6):3307-13)に記載の方法等を用いてS100A8タンパク質を取得する。次にS100A8タンパク質を10-12〜10-11Mの濃度となるように1.3mMのCa2+、0.8mMのMg2+及び10mMのHEPESを含有するHBSS緩衝液に溶解する。また、文献(Immunol. 2003 Mar 15;170(6):3233-42)に記載の方法を用いて調製したヒト好中球を2.5×105cells/mlの濃度となるように、1.3mMのCa2+、0.8mMのMg2+及び10mMのHEPESを含有するHBSS緩衝液に懸濁する。 次に、これらのS100A8タンパク質を含む緩衝液およびヒト好中球を含む緩衝液を用いて、Neuroprobe社製ボイデンチャンバー等の遊走活性アッセイ用チャンバー内でS100A8タンパク質を孔径8mmのポリカーボネート製フィルターを隔てて37℃、30分間ヒト好中球と接触させる。このときにフィルターで仕切られたチャンバーの下層にはS100A8タンパク質を含む緩衝液を、上層にはヒト好中球を含む緩衝液を入れる。被験物質を加える場合にはS100A8タンパク質を含む下層に加える。この際被験物質のチャンバー内の濃度は100μg/ml以下、好ましくは50μg/ml以下、更に好ましくは10μg/ml以下にする。 規定の接触時間が終了した後、S100A8タンパク質を含むチャンバー下層に移行したヒト好中球細胞数を計測し、被験物質を加えた場合を加えていない場合と比較する。被験物質を加えた場合において、下層に移行した細胞数が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上減少していた被験物質を、アトピー性皮膚炎を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。S100A7の機能(活性)抑制剤のスクリーニング S100A7の機能として、ヒトCD4+Tリンパ球およびヒト好中球の遊走活性の誘導(J Invest Dermatol. 1996 Jul;107(1):5-10)が知られており、該S100A7の公知の性質に基づいてS100A8の機能(活性)抑制剤をスクリーニングすることができる。(1)ヒトCD4+Tリンパ球の遊走活性の誘導を指標とする場合 まず文献(Biochemistry. 2001 Mar 13;40(10):3167-73)に記載の方法等を用いてS100A7タンパク質を取得する。次にS100A7タンパク質を10-11Mの濃度となるように0.5%のBSAを含有するRPMI1640培養液に溶解する。また文献(J Immunol. 1995 Apr 15;154(8):3742-52)に記載の方法を用いて調製したヒトCD4+Tリンパ球を5×106cells/mlの濃度となるように0.5%のBSAを含有するRPMI1640培養液に懸濁する。 次に、これらのS100A8タンパク質を含む培養液およびヒトCD4+Tリンパ球を含む培養液を用いて、Neuroprobe社製48ウェルケモタキシスチャンバー等の遊走活性アッセイ用チャンバー内でS100A7タンパク質を孔径5mmのポリカーボネート製フィルターを隔てて37℃、120分間ヒトCD4+Tリンパ球と接触させる。このときにフィルターで仕切られたチャンバーの下層にはS100A7タンパク質を含む培養液をを、上層にはヒトCD4+Tリンパ球をを含む培養液を入れる。被験物質を加える場合にはS100A8タンパク質を含む下層に加える。この際被験物質のチャンバー内の濃度は100μg/ml以下、好ましくは50μg/ml以下、更に好ましくは10μg/ml以下にする。 規定の接触時間が終了した後、S100A7タンパク質を含むチャンバー下層に移行したヒトCD4+Tリンパ球細胞数を計測し、被験物質を加えた場合を加えていない場合と比較する。被験物質を加えた場合において、下層に移行した細胞数が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上減少していた被験物質を、アトピー性皮膚炎を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。(2)ヒト好中球の走化性誘導を指標とする場合 まず文献(Biochemistry. 2001 Mar 13;40(10):3167-73)に記載の方法等を用いてS100A7タンパク質を取得する。次にS100A7タンパク質を10-11Mの濃度となるように0.5%のBSAを含有するRPMI1640培養液に溶解する。また文献(J Invest Dermatol. 1996 Jul;107(1):5-10)に記載の方法を用いてヒト好中球を調製し、5×106cells/mlの濃度となるように0.5%のBSAを含有するRPMI1640培養液に懸濁する。 次に、これらのS100A8タンパク質を含む培養液および好中球を含む培養液を用いて、Neuroprobe社製48ウェルケモタキシスチャンバー等の遊走活性アッセイ用チャンバー内でS100A7タンパク質を孔径3mmのポリカーボネート製フィルターを隔てて37℃、45分間ヒト好中球と接触させる。このときにフィルターで仕切られたチャンバーの下層にはS100A7タンパク質を含む培養液を、上層にはヒト好中球を含む培養液を入れる。被験物質を加える場合にはS100A8タンパク質を含む下層に加える。この際被験物質のチャンバー内の濃度は100μg/ml以下、好ましくは50μg/ml以下、更に好ましくは10μg/ml以下にする。 規定の接触時間が終了した後、S100A7タンパク質を含むチャンバー下層に移行したヒト好中球細胞数を計測し、被験物質を加えた場合を加えていない場合と比較する。被験物質を加えた場合において、下層に移行した細胞数が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上減少していた被験物質を、アトピー性皮膚炎を緩和、抑制(改善、治療)する候補化合物として選択する。 本発明によって、アトピー性皮膚炎患者の病変皮膚組織において、正常皮膚組織と比較して発現増大している遺伝子(S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子)、および発現低下している遺伝子(Loricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子)が明らかになった。かかる遺伝子はアトピー性皮膚炎の遺伝子診断に用いられるマーカー遺伝子(プローブ、プライマー)として有用である。かかるマーカー遺伝子によればアトピー性皮膚炎であるかどうかを明らかにすることができ(診断精度が向上)、これによりより適切な治療を施すことが可能となる。すなわち、アトピー性皮膚炎の適切な治療のためのツールとして利用することができる。 また、上記遺伝子の発現変動とアトピー性皮膚炎との関連性から、S100A8遺伝子、S100A7遺伝子、KRT6A遺伝子、KRT6B遺伝子、KRT16遺伝子およびSERPINB13遺伝子の発現を抑制する化合物、あるいはLoricrin遺伝子、Filaggrin遺伝子、CSPG2遺伝子およびFibronectin 1遺伝子の発現を促進する化合物は、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用であると考えられる。従って、これら遺伝子の発現の抑制または促進、または当該遺伝子がコードするタンパク質の発現や機能(活性)の抑制または促進を指標とすることによって、アトピー性皮膚炎の治療薬となり得る候補薬をスクリーニングし選別することが可能である。本発明は、このようなアトピー性皮膚炎治療薬の開発技術をも提供する。 S100 calcium binding protein A8 (以下、S100A8と称する)遺伝子の塩基配列、S100 calcium binding protein A7 (以下、S100A7と称する)遺伝子の塩基配列、Keratin 6A (以下、KRT6Aと称する)遺伝子の塩基配列、Keratin 6B (以下、KRT6Bと称する)遺伝子の塩基配列、Keratin 16 (以下、KRT16と称する)遺伝子の塩基配列、Loricrin遺伝子の塩基配列、Filaggrin遺伝子の塩基配列、Serine proteinase inhibitor, clade B, member 13 (以下、SERPINB13と称する)遺伝子の塩基配列、Chondroitin sulfate proteoglycan 2 (以下、CSPG2と称する)遺伝子の塩基配列およびFibronectin 1遺伝子の塩基配列のいずれかにおいて、連続する少なくとも15塩基を含有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、アトピー性皮膚炎の疾患マーカー。 配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17および19のいずれかに記載の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を含有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、請求項1記載の疾患マーカー。 アトピー性皮膚炎の検出においてプローブまたはプライマーとして使用される請求項1または2記載の疾患マーカー。 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、アトピー性皮膚炎の検出方法:(a) 被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと請求項1〜3いずれか記載の疾患マーカーとを結合させる工程、(b) 該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを測定する工程、(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程。 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、請求項4記載のアトピー性皮膚炎の検出方法:(a) 被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドと、請求項1に記載の疾患マーカーのうち、S100A8遺伝子の塩基配列、S100A7遺伝子の塩基配列、KRT6A遺伝子の塩基配列、KRT6B遺伝子の塩基配列、KRT16遺伝子の塩基配列およびSERPINB13遺伝子の塩基配列のいずれかに基づく疾患マーカーとを結合させる工程、(b) 上記疾患マーカーに特異的に結合した生体試料由来のRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを測定する工程、(c) 上記(b)で得られる被験者の測定結果が、正常な生体試料について得られる結果に比して疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程。 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、請求項4記載のアトピー性皮膚炎の検出方法:(a) 被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドと、請求項1に記載の疾患マーカーのうち、Loricrin遺伝子の塩基配列、Filaggrin遺伝子の塩基配列、CSPG2遺伝子の塩基配列およびFibronectin 1遺伝子の塩基配列のいずれかに基づく疾患マーカーとを結合させる工程、(b) 上記疾患マーカーに特異的に結合した生体試料由来のRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを測定する工程、(c) 上記(b)で得られる被験者の測定結果が、正常な生体試料について得られる結果に比して疾患マーカーへの結合量が減少していることを指標として、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程。 S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16、Loricrin、Filaggrin、SERPINB13、CSPG2およびFibronectin 1のいずれかを認識する抗体を含有する、アトピー性皮膚炎の疾患マーカー。 配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18および20のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質を認識する抗体を含有する、請求項7記載のアトピー性皮膚炎の疾患マーカー。 アトピー性皮膚炎の検出においてプローブとして使用される請求項7または8記載の疾患マーカー。 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むアトピー性皮膚炎の検出方法:(a) 被験者の生体試料由来のタンパク質と請求項7〜9いずれか記載の疾患マーカーとを結合させる工程、(b) 該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質またはその部分ペプチドを測定する工程、(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程。 工程(a)において用いられる疾患マーカーが、S100A8、S100A7、KRT6A、KRT6B、KRT16およびSERPINB13のいずれかのタンパク質を認識する抗体であり、且つ工程(c)におけるアトピー性皮膚炎の罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標としてなされるものである、請求項10記載のアトピー性皮膚炎の検出方法。 工程(a)において用いられる疾患マーカーが、Loricrin、Filaggrin CSPG2およびFibronectin 1のいずれかのタンパク質を認識する抗体であり、且つ工程(c)におけるアトピー性皮膚炎の罹患を判断する工程が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が減少していることを指標として判断するものである、請求項10に記載のアトピー性皮膚炎の検出方法。 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:(a) 被験物質とS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、(b) 被験物質を接触させた細胞におけるS100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現量を減少させる被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、S100A8および/またはS100A7の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:(a) 被験物質とS100A8および/またはS100A7を発現可能な細胞とを接触させる工程、(b) 被験物質を接触させた細胞におけるS100A8および/またはS100A7の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応するタンパク質の発現量と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8および/またはS100A7の発現量を減少させる被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、S100A8および/またはS100A7の機能または活性を抑制する物質のスクリーニング方法:(a) 被験物質をS100A8および/またはS100A7に接触させる工程、(b) 上記(a)の工程に起因して生じるS100A8および/またはS100A7の機能または活性を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のS100A8および/またはS100A7の機能または活性と比較する工程、(c) 上記(b)の比較結果に基づいて、S100A8および/またはS100A7の機能または活性の低下をもたらす被験物質をアトピー性皮膚炎の改善または治療剤の候補物質として選択する工程。 S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする、アトピー性皮膚炎の改善または治療剤。 S100A8遺伝子および/またはS100A7遺伝子の発現を抑制する物質が請求項13記載のスクリーニング法により得られるものである、請求項16記載のアトピー性皮膚炎の改善または治療剤。 S100A8および/またはS100A7の発現量、機能または活性を抑制する物質を有効成分とする、アトピー性皮膚炎の改善または治療剤。 S100A8および/またはS100A7の発現量、機能または活性を抑制する物質が、請求項14または15に記載のスクリーニング法により得られるものである、請求項18記載のアトピー性皮膚炎の改善または治療剤。 【課題】 アトピー性皮膚炎を反映する疾患マーカー、該疾患マーカーを利用したアトピー性皮膚炎の検出方法、該疾患の改善に有用な薬物のスクリーニング方法を提供する。【解決手段】 S100A8遺伝子の塩基配列、S100A7遺伝子の塩基配列、KRT6A遺伝子の塩基配列、KRT6B遺伝子の塩基配列、KRT16遺伝子の塩基配列、Loricrin遺伝子の塩基配列、Filaggrin遺伝子の塩基配列、SERPINB13遺伝子の塩基配列、CSPG2遺伝子の塩基配列およびFibronectin 1遺伝子の塩基配列のいずれかにおいて、連続する少なくとも15塩基を含有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを、アトピー性皮膚炎の疾患マーカーとして利用する。【選択図】 なし配列表