タイトル: | 公開特許公報(A)_新規乳酸菌、その乳酸菌が産生する抗菌性物質およびその製造法 |
出願番号: | 2003348478 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N1/20,A23L1/20,A23L3/3526,A23L3/3571,C07K14/195,C12P21/00 |
柴 田 達 人 坂 智 秀 田 屋 春 樹 山 崎 京 子 高 重 洋 治 出 雲 耕 二 森 田 昭 博 JP 2005110566 公開特許公報(A) 20050428 2003348478 20031007 新規乳酸菌、その乳酸菌が産生する抗菌性物質およびその製造法 株式会社桃屋 591104848 吉武 賢次 100075812 中村 行孝 100091487 紺野 昭男 100094640 横田 修孝 100107342 柴 田 達 人 坂 智 秀 田 屋 春 樹 山 崎 京 子 高 重 洋 治 出 雲 耕 二 森 田 昭 博 7C12N1/20A23L1/20A23L3/3526A23L3/3571C07K14/195C12P21/00C12N1/20C12R1:01C12P21/00C12R1:01 JPC12N1/20 AA23L1/20 104ZA23L3/3526 501A23L3/3571C07K14/195C12P21/00 AC12N1/20 AC12R1:01C12P21/00 AC12R1:01 9 OL 16 4B020 4B021 4B064 4B065 4H045 4B020LB02 4B020LC07 4B020LK18 4B021MC01 4B021MK06 4B021MK23 4B064AG01 4B064CA02 4B064CE04 4B064CE06 4B064CE09 4B064CE11 4B064DA10 4B065AA01X 4B065AC14 4B065BD14 4B065CA24 4B065CA41 4B065CA42 4H045AA20 4H045CA11 4H045EA01 4H045FA73 4H045GA06 4H045GA10 4H045GA23 本発明は、新規乳酸菌株およびその乳酸菌が産生する新規抗菌性物質ならびにその製造法および用途に関し、更に具体的には、本発明は、乳酸菌をはじめ多くのグラム陽性菌に対して抗菌性を示す物質を産生するラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する新規乳酸菌株、上記抗菌性物質の製造法ならびに食品へのその用途に関するものである。 乳酸菌は様々な機能を有していることが知られており、その中でも抗菌作用は近年注目されてきている。乳酸菌が生産する抗菌性物質として、乳酸や酢酸などの有機酸、過酸化水素、ジアセチル、ロイテリン、バクテリオシンなどがある。 その中でバクテリオシンは、一般に近縁のグラム陽性菌に対して抗菌作用を示すタンパク質性もしくはペプチド性の物質である。乳酸菌のバクテリオシンは、人間の消化酵素で分解消化されること、乳酸菌が古くから広く食品に利用されていて安全性が高いことなどから、精力的にその探索が実施されてきている。 バクテリオシンの中で特に有名なものにナイシンがある。ナイシンは現在多くの国々で食品保存料として実用化されており、乳製品や缶詰など特定の食品に添加されている。ナイシンを生産するものとして、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスが知られている(Nature 154: 551-553 (1944)(文献1))。ナイシンは酸性域で安定であり、例えば、pH 2.0で115.6℃の条件下で安定であるが、pH5.0では40%、pH6.8では90%以上が不活性化される(Adv. Appl. Microbiol. 27: 85-123 (1981)(文献2))。 従って、ナイシンの性質上、使用の用途としては、主として酸性食品に制限されているのが現状である。 一方で、バクテリオシン生産菌を用いて味噌の麹発酵中のバチルス属細菌の汚染による品質低下の防止を試みたり(Biosci. Biotechnol. Biochem., 63 (4), 642-647, 1999)(文献3))、バクテリオシンを含む培養上清あるいは粗精製物を種々の加工食品(明太子や豆腐など)に適用してみる(日本乳酸菌学会誌,10 (1), 2-18, 1999(文献4))など様々な試みがなされてきている。Nature 154: 551-553 (1944)Adv. Appl. Microbiol. 27: 85-123 (1981)Biosci. Biotechnol. Biochem., 63 (4), 642-647, 1999日本乳酸菌学会誌, 10 (1), 2-18, 1999 このような現状から、ナイシンに代わる有用で、かつ、特にpH5〜7の中性域で安定なバクテリオシン生産菌の探索は重要である。本発明は、特に中性域で安定である新規抗菌性物質およびその抗菌性物質を産生する新規乳酸菌を提供することを目的とするものである。 本発明者等は、上記問題点に鑑み、酸性域のみならず中性域など広いpH範囲で安定なバクテリオシン生産菌の探索を行なった結果、市販の発酵漬物(台湾産のメンマ)から単離したラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する新規乳酸菌KMR−7株が、中性域を含む酸性域〜アルカリ域で安定で、乳酸菌をはじめ多くのグラム陽性菌に対して抗菌性を示す物質を産生することを見出し、この知見を基に本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は下記の発明を包含するものである。 pH2〜9において安定であってグラム陽性菌に対して抗菌性を示すペプチド(もしくはタンパク質)含有物質を産生する能力を有する、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する乳酸菌もしくは乳酸菌株、代表的にはKMR−7株。 上記の乳酸菌株を培養して得ることができ、下記の性質を有する抗菌性物質。 (イ)抗菌性のペプチドもしくはタンパク質を含有する。 (ロ)プロテアーゼで完全消化される。 (ハ)pH2〜9で安定で、特にpH5〜9で高い安定性を示す。 (二)pH7.0、110℃で10分間の処理条件下で熱安定性を示す。 上記のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する乳酸菌を培養し、その培養物を採取することを特徴とする、抗菌性物質の製造法。 上記乳酸菌もしくは乳酸菌株の食品製造のための使用。上記の乳酸菌を用いて製造された発酵原料または発酵食品。上記の抗菌性物質を含んでなる食品保存剤。 本発明により、酸性〜アルカリ性、特に中性付近のpHで安定な抗菌性物質を産生する新規乳酸菌ならびにその抗菌性物質および当該抗菌性物質を製造する方法が提供される。 本発明乳酸菌は、酸性〜アルカリ性の種々の食品、特に発酵用食品に用いて、他の雑菌等の繁殖を抑制しながら発酵食品等の食品を製造することが可能である。また、本発明による抗菌性物質は、酸性〜アルカリ性の種々の一般食品に対して添加して、酸性の食品のみならず中性〜アルカリ性の種々の食品中の雑菌等の繁殖を抑制する保存料等の使用に有用である。 さらに、本発明抗菌性物質が熱および特に中性付近のpHで安定であるという特性により、特に通常の乳酸菌が腐敗や品質低下などの原因になるような食品に添加してその保存性を高めることが可能である。新規乳酸菌 本発明によるラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する乳酸菌もしくは乳酸菌株は、pH2〜9において安定であってグラム陽性菌に対して抗菌性を示すペプチド(もしくはタンパク質)含有物質を産生する能力を有するものであることは前記したところであり、この乳酸菌の代表的な例はラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスKMR−7株である。 ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスKMR−7株の菌学的性質は以下に示す通りである。これらの菌学的性質は、Bergey’s manual of systematic bacteriology Vol. 2 (1986)に記載の方法および乳酸菌実験マニュアル(朝倉書店、1992年2月25日発行)(1992)に記載の方法に準拠した。(1)形態 菌の大きさは0.8〜1.0μmで、連鎖球菌である。グラム陽性で非運動性、非胞子形成菌である。(2)生理学的性質 (a) カタラーゼ − (b) 生育温度 10℃ + 45℃ − (c) 食塩耐性 4% + 6.5% − (d) pH 9.2 + 9.6 − (e) 0.3%メチレンブルー耐性 + (f) 40%胆汁抵抗性 + (g) アルギニン加水分解 + (h) クエン酸発酵性の有無 − (i) グルコースからのガス産生 − (j) 糖の発酵性の有無 グルコース + L−アラビノース + D−リボース + D−キシロース + フルクトース + マンノース + ラクトース + シュクロース + トレハロース + ラフィノース − マン二トール + ソルビトール − グルコン酸ナトリウム + デキストリン + ラムノース −(3)化学的性質 (a) GC含量 35.6% (b) ペプチドグリカンタイプ Lys−Asp これらの結果を基にBergey’s manual of systematic bacteriology Vol. 2 (1986)で照会したところ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスであると同定された。しかし、特に生産するバクテリオシン含有物質の性質(pH域による活性、抗菌スペクトルなど)の違いからこの種に属する公知の菌とは明らかに異なる菌であると認められ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスKMR−7株と命名した。 このラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスKMR−7株は、平成12年11月14日に本願出願人によって通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号:FERM P−18121として寄託されている。 本発明による新規微生物としてのラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する乳酸菌株は、その代表例であるKMR−7株自体はもちろん、上述した能力(すなわち、pH2〜9において安定であってグラム陽性菌に対して抗菌性を示すペプチド含有物質を産生する能力)を有するその変異体を包含するものである。 変異体は、自然的変異あるいは通常の人工的変異手段(例えば紫外線、放射線照射、トランスポゾン、薬品(例えば亜硝酸ナトリウム、ニトロソグアニジン)等により変異した株であっても、上述した能力を有するものであれば本発明に包含される。 本発明菌株は、例えば、市販の発酵食品材料である台湾産メンマ等の一部を乳酸菌用の培地で培養し、この培地中または培地上で、上述したような種々の性質を指標として目的の菌株をスクリーニング、分離することにより得ることができる。新規抗菌性物質 本発明による抗菌性物質は、pH2〜9において安定であってグラム陽性菌に対して抗菌性を示すペプチド含有物質であることは前記したところであり、その代表的な態様は下記の性質を有するものである。 (イ)抗菌性のペプチドもしくはタンパク質を含有する。 (ロ)プロテアーゼで完全消化される。(上記ペプチドもしくはタンパク質はプロテアーゼで分解され、抗菌性物質の活性が消失する。) (ハ)pH2〜9で安定で、特にpH5〜9で高い安定性(抗菌活性)を示す。従って、本抗菌性物質は、従来のバクテリオシンが不安定であった中性域(pH5〜9、特にpH6〜7あるいは6〜8程度)でも安定で高い抗菌活性を示す。 (二)pH7.0、110℃で10分間の処理条件下で熱安定性(抗菌活性)を示す。 本発明による抗菌性物質の代表例は、各種構造に関する機器分析(質量分析、NMR等)、遺伝子解析等から、34のアミノ酸からなる分子量3328の抗菌性ペプチドもしくはタンパク質を含み、このペプチドは、ナイシンZのアミノ酸配列(Eur.J.Biochem. 201, 581-584(1991)参照)と同じ配列を有するペプチドである。 本発明の抗菌性物質としては、具体的には、本発明乳酸菌もしくは乳酸菌株を液状または固形培地で培養した培養物、すなわち培養液(菌体含有)、コロニー、培養上清(菌体不含)、粗精製物(後述)、それらの希釈物(水等による)などを例示することができるが、培養上清が特に好ましい。抗菌性物質の形態は液状、ペースト状、乾燥状態等いずれの形態であってもよい。本発明による抗菌性物質は、本発明乳酸菌の培養によって得られ、特にpH2〜9において安定性を示すものであり、後述のように、中性pH域で不安定になる(抗菌活性が低下する)抗菌性ペプチドの精製物(HPLC、電気泳動等による)は本発明の抗菌性物質には包含されない。本発明の好ましい態様において、培養上清では特にpH5〜9で高い安定性を示し、粗精製物では特にpH4〜7あるいは5〜7で高い安定を示す。 ここで、精製物とは上記ペプチドの精製度が70%以上のもの、粗精製物とはその精製度が0%より大きく70%未満、例えば60%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは20%以下、最も好ましくは15%以下のものであって、本発明における上記pH安定性を有するものをいう。ここで、精製度とは純度(抗菌性タンパク質重量/全成分重量(水以外))を意味し、精製度0%とは培養物自体を指すものとする。本明細書において、%表示は特に断りのない限り重量%を意味する。 本発明による抗菌性物質の諸性質および抗菌活性については、後記実施例において更に具体的に記載されている。抗菌性物質の製造 本発明による抗菌性物質は、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する乳酸菌もしくは乳酸菌株(代表的にはKMR−7株)を培養し、その培養物(培養液、培養上清またはコロニー)を採取することにより得ることができる。本乳酸菌の培養に用いる培地としては、炭素源、窒素源、無機塩類、ビタミン、アミノ酸等を含む通常用いられる培地(液体培地、固体培地など)が使用できるが、好ましくは、通常、乳酸菌を培養する液体培地が用いられる。乳酸菌を培養する培地としては、例えば、GYP、M17、ROGOSA、MRS培地等が挙げられるが、望ましくはMRS培地が用いられる。 培養条件としては、好気的条件下および嫌気的条件下のいずれでもよい。培地の初発pHは通常6〜8であり、好ましくは6.8〜7.0がよい。培養温度は通常20〜35℃、好ましくは30℃程度がよい。培養時間は通常5〜24時間であり、好ましくは10〜12時間がよい。また、pHを6〜8、特に6.7〜6.8の間で一定になるように調整したジャーファーメンター(微生物培養装置もしくは細胞培養装置)での培養では、さらに活性の高い培養液を調製することができ、この時の培養温度は28〜30℃で、培養時間は8〜10時間程度が好ましい。 上記の培養によって得られる培養物は、菌体、菌体を含む培養液および菌体を含まない培養上清のいずれも利用できるが、通常、培養液から菌体を遠心分離等によって分離し、好ましくは培養上清液のpHを炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等により中性(pH6〜7程度)にして、本発明の抗菌性物質として利用(例えば食品保存剤など)できる。また、培養上清液の粗精製物を抗菌性物質として利用することもできる。上記粗精製物質は、例えば培養上清液をイオン交換、限外濾過、逆浸透、ゲル濾過等の方法で処理することにより得ることができる。なお、本発明による抗菌性物質の製造法については、後記実施例にさらに具体的に記載されている。本発明乳酸菌および抗菌性物質の用途 上述したような本発明乳酸菌もしくは乳酸菌株および抗菌性物質の特徴から、本発明は特に食品分野への適用が可能である。 本発明による乳酸菌は、食品製造、特に発酵原料または発酵食品の製造に使用することができる。すなわち、本発明は、本発明によるラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する乳酸菌(代表的にはKMR−7株)を用いて製造した食品、特に発酵原料、発酵食品も包含するものである。 発酵原料としては麹、野菜、果物、乳等の発酵原料があげられ、これは漬物、味噌、醤油、乳製品等の食品に添加する調味料、原材料等として使用することができる。例えば麹では、米、大麦、豆腐などの原料に麹菌と組み合わせて使用することができ、具体的には、例えば蒸煮した原料に麹菌と本発明乳酸菌株を0.1〜10%の量で添加し、20〜35℃の条件で製麹すればよい。また、野菜、果物等では0.1〜10%の量で添加し、20〜35℃で発酵させればよく、乳等では0.1〜10%の量で添加し、20〜35℃で発酵させればよい(%表示はいずれも重量%)。 発酵食品としては、例えば漬物、ヨーグルト等の乳酸発酵食品に使用することができる。例えば、漬物食品では、塩漬けした食品に本発明乳酸菌株を0.1〜10%の量で添加し、20〜35℃の条件で製造することができる。 本発明乳酸菌は、必要に応じて発酵原料、発酵食品等の食品に他の食品用微生物と組み合わせて使用することができる。このような微生物は本菌株により阻害を受けないものであり、具体的には例えば麹菌(アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)、酵母(Saccharomyces cerevisiaeなど)等があげられる。本発明抗菌性物質の用途 本発明による抗菌性物質は、グラム陽性菌であるラクトバチルス属、ラクトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属等の乳酸菌に対して特に強い抑制力を有し、このほかバチルス属、スタフィロコッカス属、ミクロコッカス属等の多くのグラム陽性の細菌に対しても抑制力を有する。 従って、本発明による抗菌性物質、例えば前記したような本発明乳酸菌もしくは乳酸菌株(代表的にはKMR−7株)の培養物またはその培養上清は一般的食品(例えば漬物など)の製造に特に保存料、発酵調味料等として使用することができる。また、本発明による抗菌性物質は、熱および中性付近のpHに対しても安定であるため、培養液、培養上清の形で、あるいは培養液から分離、粗精製(イオン交換、限外濾過、逆浸透等)した後に食品、特に通常の乳酸菌が腐敗や品質低下などの原因になるような食品(漬物等)に添加してその保存性を高めることが可能である。抗菌性物質の食品への配合量は食品の種類などにより適宜設定すればよいが、例えば食品1容量に対して0.001〜0.1容量の割合(本発明乳酸菌の定常期培養液(例えば実施例1の培養液)として)を添加すればよい。 以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。[実施例1] MRS培地(ポリペプトン10.0g/L、肉エキス 8.0g/L、酵母エキス 4.0g/L、グルコース 20g/L、「ツイーン80」1.0g/L、リン酸水素二カリウム2.0g/L、クエン酸水素二アンモニウム2.0g/L、酢酸ナトリウム三水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.2g/L、硫酸マンガン四水和物0.05g/L)をオートクレーブ中121℃で15分間滅菌したものに本発明のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスKMR7‐株をMRS BROTH(OXOID社製)で一晩前培養した培養液を培地量の1%量で植菌し、30℃で8時間培養した。培養後、遠心分離(7500×g、4℃、15分間)により菌体を除去し、さらに有機酸による影響を取り除くために培養上清液を1.0Nまたは2.0Nの水酸化ナトリウムでpHを7.0に調整した。[実施例2]抗菌スペクトル 実施例1で得られた培養上清液を用いて抗菌スペクトルを測定した。まず、滅菌したプラスチックのペトリ皿にグルコース濃度を0.2%にしたMRS寒天培地(ポリペプトン10.0g/L、肉エキス8.0g/L、酵母エキス4.0g/L、グルコース2.0g/L、「ツイーン80」1.0g/L、リン酸水素二カリウム2.0g/L、クエン酸水素二アンモニウム2.0g/L、酢酸ナトリウム三水和物5.0g/L,硫酸マグネシウム七水和物0.2g/L、硫酸マンガン四水和物0.05g/L、寒天12g/L)を分注した平板培地に供試菌株をMRS BROTHで一晩前培養した培養液を1%接種したMRS軟寒天培地(前記組成、寒天7.0g/L)を重層し、直径3ミリの穴をコルクボーラーであけ、培養上清液を20μ1ずつ分注し、それぞれ供試菌株の最適温度で培養し、穴の周囲に形成した阻止円の直径を測定することにより行った(Appl. Environ. Microbiol. 1989 55(8) 1901‐1906)。抗菌スペクトルの試験の結果を表1に示す。 表1 供試菌株 発育阻止円(直径mm)ラクトバチルス・カゼイ ATCC 7469 15.63 (Lactobacillus casei)ラクトバチルス・プランタラム ATCC 8014 8.59 (Lactobacillus plantarum)ラクトバチルス・カルバタス ATCC 7469 8.44 (Lactobacillus curvatus)ラクトバチルス・ハロトレランス ATCC 35410 14.96 (Lactobacillus halotolerans)ラクトバチルス・ヒルガルディー ATCC 8290 13.65 (Lactobacillus hilgardii)ラクトバチルス・ブレビス IFO 3345 8.66 (Lactobacillus brevis)ラクトコッカス・ラクティス・ サブスピーシーズ・クレモリス IFO 3427 11.53 (Lactococcus lactis subsp. cremoris)エンテロコッカス・フェーカリス JCM 5803 4.61 (Enterococcus faecalis)エンテロコッカス・フェーシウム JCM 5804 5.61 (Enterococcus faecium)エンテロコッカス・フェーシウム IFO 13131 5.04 (Enterococcus faecium)ロイコノストック・メセンテロイデス・ サブスピーシーズ・メセンテロイデス JCM 6124 6.61 (Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides)ロイコノストック・メセンテロイデス・ サブスピーシーズ・メセンテロイデス IFO 3426 8.94 (Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides)ロイコノストック・メセンテロイデス・ サブスピーシーズ・デキストラニカム IFO 3349 5.20 (Leuconostoc mesenteroides subsp. dextranicum)ロイコノストック・ラクティス JCM 6124 5.41 (Leuconostoc lactis)ロイコノストック・パラメセンテロイデス NRIC 1542 12.10 (Leuconostoc paramesenteroides)バチルス・サブチリス IFO 3335 5.33 (Bacillus subtilis)バチルス・セレウス IFO 13494 − (Bacillus cereus)バチルス・コアグランス IFO 12583 4.70 (Bacillus coagulans)バチルス・リケニフォルミス IFO 12200 − (Bacillus licheniformis)バチルス・サーキュランス IFO 13262 − (Bacillus circulans)ミクロコッカス・ルーテウス IFO 12708 18.28 (Micrococcus luteus)スタフィロコッカス・オウレウス IFO 13276 4.93 (Staphylococcus aureus)エッシェリシア・コリ IFO 3301 − (Escherichia coli)シュードモナス・フローレセンス JCM 5963 − (Pseudomonas fluorescens)アシネトバクター・クローセティクス IFO 12552 − (Acinetobacter cloacetics)デバリオミセス・ハンセニー IFO 0094 − (Debaryomyces hansenii)サッカロセス・セレビシエ IFO 2735 − (Sacchromyces cerevisiae) 「実施例3」タンパク質分解酵素に対する感受性 実施例1で得られた培養上清液に、各種酵素を1.0mg/m1となるように添加し、37℃または25℃で18時間反応させた。ラクトバチルス・カゼイ ATCC 7469を指標菌とし、抗菌活性を測定することにより感受性の有無を調べた。抗菌活性の測定は、滅菌したプラスチックのペトリ皿に実施例2に記載のMRS寒天培地を分注した平板培地にラクトバチルス・カゼイ ATCC 7469を接種した実施例2に記載のMRS軟寒天培地を重層し、コルクボーラーで直径3ミリの穴をあけ、培養上清液の2倍希釈液列を調製したものを20μ1ずつ穴に接種し、30℃で24時間嫌気培養した後、生育を完全に阻害した最高希釈倍率を調べた。抗菌活性の定量化は、生育を完全に阻害した最高希釈倍率を50倍して1m1あたりの力価(AU/m1)を求めた。この結果を表2に示す。 表2 酵素 抗菌活性(AU/ml) ペプシン 400 パパイン 200 トリプシン 400 プロテアーゼ 0 未処理 800 [実施例4]熱安定性 実施例1で得られた培養上清液を100,110,120,130℃でそれぞれ10分間加熱し、冷却後実施例3の方法でラクトバチルス・カゼイATCC 7469を指標菌とし、抗菌活性の定量により熱安定性を調べた。結果を表3に示す。 表3 温度(℃) 抗菌活性(AU/ml) 100 800 110 800 120 400 130 200 未処理 800 [実施例5]pH安定性 実施例1で得られた培養上清液を1.0Nまたは0.1NのNaOH、1.0Nまたは0.1NのHClにてpHを2〜9に調整して、30℃で60分間処理し、pHを7.0に再調整して、実施例3の方法でラクトバチルス・カゼイ ATCC 7469を指標菌とし、抗菌活性の定量によりpH安定性を調べた。結果を表4に示す。 表4 pH 抗菌活性(AU/ml) 2 800 3 800 4 800 5 1600 6 1600 7 1600 8 1600 9 1600 [実施例6] 実施例1のMRS培地5Lをオートクレーブ中121℃で30分間滅菌したものに本発明のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスKMR‐7株をMRS BROTHで一晩前培養した培養液を培地量の1%量で植菌し、培養中の培地のpHを6.7〜6.8で一定に調整しながら、ジャーファーメンターで30℃で8時間培養した。培養後は実施例1の通りに行った。実施例6と実施例1でそれぞれ培養した場合の増殖曲線と抗菌活性の関係を図1に示す。表1〜表4より、本発明のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスKMR‐7株の産生する抗菌性物質は、乳酸菌をはじめ多くのグラム陽性菌(食品汚染菌もしくは食品腐敗菌を含む)に対して抗菌性を示す抗菌スペクトルを有し、ペプシン、パパイン、トリプシン、プロテアーゼに対して感受性があり、特にプロテアーゼに対しては完全消化されることからタンパク質もしくはペプチドで、典型的なバクテリオシンの特徴を示すものである。また、本発明の抗菌性物質は110℃で10分間、pH2〜9、特に5〜9で高い安定性を示すものである。さらにpHを調整(pH6.7〜6.8程度)してジャーファーメンターで培養すると、抗菌活性が2倍以上のものを得ることができる。[実施例7]抗菌物質の精製 実施例1のMRS培地(前記組成)からツイーン80を除いた培地で培養して得られた培養液9Lを遠心分離(9000×g、4℃、15分間)し、培養上清液を得た。得られた培養上清液に硫酸アンモニウムを加え、20%飽和溶液とし、4℃で一夜静置した。その後、これを遠心分離(9000×g、4℃、15分間)して沈殿画分を分取し、25mM Tris‐HCl緩衝液(pH7.0)に懸濁した。 次に分画サイズ3000の限外濾過を利用した遠心分離による濃縮、脱塩器(ミリポア社製)により精製、濃縮、脱塩を行った(2500×g、4℃、30分間)。 ここで得られた分画サイズ3000以上の画分を粗精製物とした。この粗精製物をCM‐トヨパール650(東ソー社製)を充填したカラム(カラム内径3.5cm、長さ33cm)に流速0.85ml/分で通液して吸着させ、1M NaClを含む25mM Tris‐HCl緩衝液(pH7.0)のリニアグラジエントにより溶出させ、(フラクションボリューム6ml)、フラクションナンバー31〜36の所で活性画分を得た。その結果を図2に示す。得られた活性画分は前記の分画サイズ3000の限外濾過を利用した遠心分離による濃縮、脱塩器により、濃縮、脱塩を行った(2500×g、4℃、30分間)。ここで分画サイズ3000以上の画分を得た。これをオクタデシル‐2PW (Octadecyl‐2PW;東ソー社製)を充填したカラム(カラム内径6.0mm,長さ15cm)を用いて、流速1ml/分で逆相の高速液体クロマトグラフィーを行った。これより得られた活性画分をバクテリオシン精製物とした。 [実施例7−1]実施例7記載の方法に従い、粗精製物を調製した。粗精製物をCMトヨパール650を充填したカラムに流速0.85ml/分で通液して吸着させ、1M NaClを含む25mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)のリニアグラジエントにより溶出させ、活性画分を得た。本法(陽イオン交換クロマトグラフィー)における総タンパク質量(全画分)に対する活性画分のタンパク質量の割合は15%であった(図7)。更に得られた活性画分について高速液体クロマトグラフィーで確認したところ、活性画分のタンパク質量の割合は70%であった(図8)。 得られた精製物を、実施例7記載の方法に従い、高速液体クロマトグラフィーで2回精製を行ったところ、純度は90%以上になった。[実施例8]SDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動 実施例7で得られたバクテリオシン精製物の純度を確認するために、常法に従いSDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、精製した。ゲルはアクリルアミドの25%の固定濃度のものを調製した。架橋剤はN,N’‐メチレンビスアクリルアミドを用いた。また電極液はグリシンをトリシンに変更して用いた。泳動したゲルは銀染色法により染色し、単一バンドとして検出された。[実施例9−1]精製度とpH安定性の検討 実施例7の各精製段階(培養上清、陽イオン交換クロマトグラフィー(粗精製物)、HPLC(精製物))におけるpH安定性の検討を実施例5の方法に準じて行った。その結果を抗菌活性の変化率(相対活性%)として表5に示す。 表5 抗菌活性(変化率%) (精製段階) 培養上清 陽イオン交換クロ HPLC マトグラフィー pH 2 (100) (100) (100) 3 100 100 200 4 100 200 200 5 200 200 200 6 200 200 200 7 200 200 100 8 200 100 50 9 200 50 50 表5の結果より、培養上清および粗精製物は広いpH域において高いpH安定性を示したが、精製物は特にpH中性〜アルカリ域において安定性が低下していた(図5参照)。[実施例9−2]ナイシン類とのpH安定性の比較 ナイシンA生産菌(Lactococcus lactis subsp. lactis IFO 12007株)およびナイシンZ生産菌(Lactococcus lactis subsp. lactis JCM 7638株)の培養上清について、KMR−7株と同様にしてpH安定性の試験を行なった(実施例1、5参照)。 その結果、図6に示されるように、ナイシンAおよびZの培養上清は酸性域で安定な結果が得られたが、アルカリ域では低下した。一方、KMバクテリオシン(KMR−7株による)の培養上清は、低pH〜アルカリ側(特にpH5〜9)でも安定性を示していた。[実施例10]アミノ酸配列 実施例7で得られたバクテリオシン精製物について気相配列決定装置(ヒューレットパッカード社製)を用いてアミノ酸配列の解析を行い配列情報を得た。結果から、抗菌性物質に含まれるペプチドは、ナイシンZのアミノ酸配列(Eur.J.Biochem. 201, 581-584(1991)参照)と同じ配列を有するペプチドであることが判明した。[実施例11]質量分析 実施例7で得られたバクテリオシン精製物を常法に従い、ESI-MSスペクトルを測定した。測定されたマススペクトラムの結果から、バクテリオシン精製物の分子量はナイシンZと同じ3328であることが明らかとなった(図3、4参照)。[実施例12] 市販の料理用つゆ95mlをpH7.0に調整し、オートクレーブ滅菌後、実施例1で得られた培養上清液を1%および5%になるように添加し、全量を100mlとした。続いてラクトバチルス・カゼイ ATCC 7469の前培養液を各試験区に0.1%量ずつ接種し、25℃にて保存して経時的に菌数測定を行った。一般細菌数が108/mlになるまでの日数を有効保存日数とした。結果を表6に示す。 表6 添加量 有効保存日数(25℃) 無添加 3日 1% 6日 5% 8日 表6から明らかなように、本発明の抗菌性物質の添加により有効保存日数が長くなっている。[実施例13] 市販の豆腐100gをポリ容器に入れ、実施例1で得られた培養上清液、pH、食塩濃度を調製した滅菌調製液を150ml添加し、25℃及び4℃で保存して経時的に菌数測定を行った。一般細菌数が105/mlになるまでの日数を有効保存日数とした。結果を表7に示す。 表7 試験区 有効保存日数 25℃ 1日 4℃ 6日 4℃+pH4 7日 4℃+NaC1 5% 11日 4℃+培養上清20% 7日 4℃+pH4+NaC1 5%+培養上清20% 16日 表7から明らかなように、本発明の抗菌性物質の添加により有効保存日数が長くなり、さらにpH調整および食塩添加による相乗効果でさらに有効保存日数が長くなっている。本発明でジャーファーメンターを用いてpHを一定に調整して培養した場合と、pH未調整で通常の培養をした場合の増殖曲線と抗菌活性の関係を示す説明図。本発明による抗菌物質のCM−トヨパール650クロマトグラフィーによる溶出プロフィールを示す説明図。本発明による抗菌物質のESI−MSスペクトラムを示す説明図。ナイシンZのESI−MSスペクトラムを示す説明図。KMR−7株の培養上清、粗精製物、精製物におけるpH安定性を示すグラフ。各バクテリオシン生産菌の培養上清におけるpH安定性を示すグラフ。陽イオン交換クロマトグラフィーによる粗精製物の溶出プロフィールを示す説明図。HPLCによる精製物の溶出プロフィールを示す説明図。 pH2〜9において安定であってグラム陽性菌に対して抗菌性を示すペプチド含有物質を産生する能力を有することを特徴とする、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する乳酸菌。 KMR−7株(受託番号FERM P−18121)である、請求項1に記載の乳酸菌。 請求項1または2に記載の乳酸菌株を培養して得ることができ、下記の性質を有する抗菌性物質。 (イ)抗菌性のペプチドもしくはタンパク質を含有する。 (ロ)プロテアーゼで完全消化される。 (ハ)pH2〜9で安定で、特にpH5〜9で高い安定性を示す。 (二)pH7.0、110℃で10分間の処理条件下で熱安定性を示す。 抗菌性物質が乳酸菌株の培養物である、請求項3に記載の抗菌性物質。 請求項1または2に記載の乳酸菌株を培養し、その培養物を採取することを特徴とする、抗菌性物質の製造法。 pH6〜8でジャーファーメンターで培養を行なう、請求項5に記載の製造法。 請求項1または2に記載の乳酸菌株の、食品製造のための使用。 請求項1または2に記載された乳酸菌株を用いて製造された、発酵原料または発酵食品。 請求項3または4に記載の抗菌性物質を含んでなる、食品保存剤。 【課題】 酸性からアルカリ性、特に中性からアルカリ域のpHで安定である抗菌性ペプチド含有物質およびその物質を産生する新規乳酸菌を提供する。【解決手段】 pH2〜9において安定であってグラム陽性菌に対して抗菌性を示すペプチド含有物質を産生する能力を有するラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに属する乳酸菌(代表的にはKMR−7株)。 上記の乳酸菌株を培養して得ることができ、次の性質を有する抗菌性物質。(イ)抗菌性のペプチドまたはタンパク質を含有する。(ロ)プロテアーゼで完全消化される。(ハ)pH2〜9で安定で、特にpH5〜9で高い安定性を示す。(二)pH7.0、110℃で10分間の条件下で熱安定性を示す。 上記の乳酸菌株を培養し、その培養物を採取することを特徴とする抗菌性物質の製造法。 上記の乳酸菌株の、食品製造のための使用。上記の抗菌性物質またはその含有物を含んでなる食品保存剤。上記の乳酸菌株を用いて製造された発酵原料または発酵食品。【選択図】 なし