生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_組成分析方法
出願番号:2003341703
年次:2005
IPC分類:7,G01N1/28,G01N21/73


特許情報キャッシュ

田村 俊之 小西 美穂 谷口 咲子 平松 隆 西村 正人 JP 2005106686 公開特許公報(A) 20050421 2003341703 20030930 組成分析方法 株式会社村田製作所 000006231 小原 肇 100096910 田村 俊之 小西 美穂 谷口 咲子 平松 隆 西村 正人 7G01N1/28G01N21/73 JPG01N1/28 XG01N21/73 4 2 OL 14 2G043 2G052 2G043AA01 2G043BA01 2G043CA03 2G043CA05 2G043DA02 2G043EA08 2G043FA03 2G052AA11 2G052AA14 2G052AD32 2G052AD46 2G052FD10 2G052GA15 2G052JA09 本発明は、組成分析方法に関し、更に詳しくは、物質中の複数の元素成分を分析する組成分析方法に関するものである。 従来から化学分析における組成分析では、主として試料を全て溶液化した上で定量分析を行う手法が採られている。しかし、このような定量分析の場合には分析時間を短縮するために、試料の溶解時間を如何に短縮するかが重要であると考えられてきた。また、従来から微細部分を部分的に組成分析する場合には、TEM(透過型電子顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)、WDX(波長分散型X線分析装置)、XRD(X線回折装置)、XPS(X線光電子分光装置)等の分析装置を用いて試料の部分的な視野で分析を行っている。 化学分析による定量分析の手法として例えば特許文献1に記載された焼結体の分析方法が知られている。この場合には、まず酢酸水溶液を用いて焼結体の粒界相を溶解させ、その水溶液をICP発光分光分析することにより粒界相の元素成分を定量分析した後、酢酸水溶液に対して残った未溶解の粉末をアルカリ融解し、この溶液をICP発光分光分析することにより結晶相の元素成分を定量分析している。つまり、試料の全てを溶液化するのではなく、粒界成分と考えられる成分のみを選択的に溶出させ、溶出成分をICP発光分光分析している。特開2000‐185973号公報 しかしながら、特許文献1に記載された焼結体の分析方法の場合には、酢酸溶液を用いて焼結体の粒界部を溶解させた後ICP発光分光分析により粒界成分の定量分析を行い、溶解せずに残った結晶部分についてはアルカリ融解した後同様の手法で定量分析を行うが、この方法では粒界部分の成分及び結晶部分の成分を一気に溶解あるいは融解しているため、粒界成分と結晶成分の一部が同時に溶解したり、粒界成分中の残った成分が結晶成分と同時に溶解するなどし、粒界成分と結晶成分とを区別することができず、焼結体、延いては物質の構造を詳細に解析することが困難であった。また、TEM、SEM、EDX、WDX、XRD、XPS等の分析装置を用いて全体的な視野を評価するためには、著しく多くの点を採取して評価する必要があるため、実質的には時間、費用が莫大になるという課題があった。これらのことは焼結体のような無機物質に限らず、有機物質あるいはこれら両者が含まれる複合物質についても同様のことが云える。 本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、低コストで比較的短時間に複数の元素を含む物質の表面から内部に至る全領域の組成元素の分布状態及び組成比を把握し、より正確な構造解析を行うことができる組成分析方法を提供することを目的としている。 本発明者等は、複数の元素を含む物質の組成分析方法について種々検討した結果、従来の化学分析のように物質の溶解時間を短縮するという常識的な発想とは全く逆の発想、つまり物質の溶解時間を多少とも長くするとの発想に基づくことにより、物質内における複数の元素の分布状態を求めることができ、より詳細な物質の構造解析を実現できるとの知見を得た。 本発明は上記知見に基づいてなされたもので、本発明の請求項1に記載の組成分析方法は、複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に段階的に溶出させ、上記各段階で得られたそれぞれの溶液中に溶出した元素を定量分析することにより、上記物質の表面から内部に至る組成を段階的に分析することを特徴とするものである。 また、本発明の請求項2に記載の組成分析方法は、複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に溶出させる第1の工程と、上記物質から上記溶液中に溶出した元素を定量分析する第2の工程と、上記元素が溶解した上記物質を更に溶液中に溶出させる第3の工程と、第3の工程における物質からその溶液中に溶出した元素を定量分析する第4の工程と、第3、第4の工程を繰り返すことにより、上記物質の表面から内部に至る組成を分析する方法であって、上記物質の溶出速度が0.5[wt%/分]以下であることを特徴とするものである。 また、本発明の請求項3に記載の組成分析方法は、請求項1または請求項2に記載の発明において、上記溶液として酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いることを特徴とするものである。 また、本発明の請求項4に記載の組成分析方法は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、上記物質がセラミック、ガラスセラミック、ガラス及び金属の少なくとも一つを含むことを特徴とするものである。 本発明の組成分析方法に用いられる複数の元素を含む物質とは、複数の元素を含む物質であれば、特に制限されるものではなく、無機物質、有機物質あるいはこれら両者を含むものであっても良い。このような物質としては、例えばセラミック焼結体や金属片等の単一物だけでなく、積層セラミックコンデンサ等のように、セラミック、金属、有機物等の複数の物質から構成されているものを挙げることができる。また、セラミックとしては、例えば、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化亜鉛、酸化鉄等を挙げることができる。 また、本発明の組成分析方法では、無機物質、有機物質あるいはこれら両者を含む複合物質の場合に、複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に段階的に溶出させる。従って、複数の元素を含む物質を溶液中に一気に短時間で溶解させるのではなく、物質の表面から内部に至るまで物質を複数の段階に分けて徐々に溶解させる。そして、各段階で得られた溶液中に溶解した元素をそれぞれ定量分析することにより、物質の表面から内部に至る全領域における元素の分布状態を解析することができる。従って、物質の表面から内部に至る各層の元素の組成比を解析し、延いては物質の構造を解析することができる。ところで、物質の表面とは、溶液に直接接触する部分を指す。溶出速度の異なる部位が物質の表面に分布している場合には、溶出速度の速い部位が優先的に溶解する。例えば焼結体は、粒内と粒界部分を有し、粒界部分は粒内より溶出速度が速い。従って、焼結体の場合には、粒界部分が粒内よりも優先的に溶出し、粒内が粒界部分より遅く溶出する。 つまり、本発明の組成分析方法は、複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に溶出させる第1の工程と、上記物質から上記溶液中に溶出した元素を定量分析する第2の工程と、上記元素が溶解した上記物質を更に溶液中に溶出させる第3の工程と、第3の工程における物質からその溶液中に溶出した元素を定量分析する第4の工程と、第3、第4の工程を繰り返すことにより、上記物質の表面から内部に至る全領域における元素の分布状態を解析することができる。 上述のように複数の元素を含む物質を複数段階(複数の工程)で溶解させるには、物質を溶解させる溶液、及び物質の表面からの組成元素の溶出速度が重要な要素になる。溶出速度は溶液の種類、濃度及び温度によって区々である。溶出速度が速すぎると従来の場合と同様に物質が溶液内に一気に溶解し、物質の表面から内部に至る全領域の組成元素を詳細に把握することができない。従って、溶出速度は可能な限り遅い方が好ましい。 そこで、本発明の組成分析方法では、物質の溶出速度を0.5[wt%/分]以下に調整する。溶出速度が0.5[wt%/分]以下であると、物質をその表面から内部の全領域に渡って徐々に複数段階に分けて溶解させることができ、溶液中に溶解した物質の各層の組成元素を確実に定量することができ、延いては組成元素の分布状態及び元素組成を確実に把握することができる。従って、例えば、コアシェル構造のセラミック焼結体等の場合には粒界部、コア部、シェル部それぞれにおける組成元素を確実に定量し、それぞれの組成比や組成変動を解析することができる。これに対して溶出速度が0.5[wt%/分]を超えると物質の溶解が一気に進行し、つまり溶解する各層が厚くなって組成元素の分布状態及び元素組成の変化の把握が難しくなる虞がある。 また、溶液としては酸性溶液またはアルカリ性溶液が好ましく、これらの溶液は無機、有機のいずれの溶液であっても良い。溶液としては酸性溶液がアルカリ性溶液より好ましく、また、有機酸溶液より無機酸溶液が好ましい。物質の種類によっては、溶液として水(純水)を用いることもできる。また、物質を溶媒中に溶出させる方法としては、例えば、電気炉、ホットプレートを用いて温度を上げる方法、マイクロ波を当てる方法、超音波を当てる方法、あるいは圧力を上げる方法等もある。 本発明の請求項1〜請求項4に記載の発明によれば、低コストで比較的短時間に複数の元素を含む物質の表面から内部に至る全領域の組成元素の分布状態及び組成比を把握し、より正確な構造解析を行うことができる組成分析方法を提供することができる。 本実施形態では酸性溶液を用いてセラミック焼結体の組成分析を行って良好な結果が得られた。 本実施例ではMg、Si、Dyが微量に添加された粒径0.3μmのBaTiO3焼結体を粉砕したものを用いて組成分析を行った。 また、本実施例では溶出速度を制御することにより焼結体の微小領域での組成分析が可能となることを示すために、TEM、EDXを用いてBaTiO3焼結体の微小部分の組成を予め調査した。この際、BaTiO3焼結体の組成を全体的な視野で調べるために、測定点を50点に設定した。その結果、粒界部分ではMg、Siが検出され、粒界から20nm離れた部分からはSiは検出されず、Dy、Mgのみが検出された。 また、0.01mol/Lの酢酸溶液に300分浸漬させた後、同様の測定を行ったところ、TiとBa以外の元素は検出されなかった。また、このBaTiO3焼結体は、TEMによる観察結果によれば、シェル厚みが約50nmであるコアシェル構造になっていることが確認できた。 TEM、EDX及びTEMの調査結果から、本実施例で用いたBaTiO3焼結体は、粒界部分にMgとSiが存在し、シェル部分にDyとMgの相をもつコアシェル構造であることが判った。 また、BaTiO3焼結体の溶液中への溶出挙動を予想するために未粉砕のBaTiO3焼結体を0.01mol/Lの酢酸溶液に浸漬し、FE−SEMを用いて観察した。溶出試験前と100分溶出後における未溶解サンプルを用いてFE-SEMにより観察し、それぞれのSEM像を模式化して図1の(a)、(b)に示した。 溶出試験前のSEM像を示す図1の(a)では表面の凹凸が観察できなかったが、100分溶出後には図1の(b)に示すように明確に粒界が観察されるようになった。また、更にBaTiO3焼結体の溶出を行ったところ、粒径が徐々に小さくなっていく様子が観察された。このことから、溶出は粒界→シェル部→コア部の順序で進行していくことが判った。 また、下記表1に示す各濃度で調製した25℃の酢酸溶液(試料No.1〜No.5)50mlが入ったポリ容器それぞれに予め粉砕したBaTiO3焼結体をそれぞれ一定量ずつ投入し、図2の(a)〜(e)に示すようにそれぞれ所定時間静置し、BaTiO3焼結体を各ポリ容器内の酢酸溶液中に溶出させた。そして、5分おきにBaTiO3焼結体をポリ容器から取り出し、酢酸溶液中のBa、Ti、Mg、Dy、Siの量をICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光法)で測定した。一回目の定量を終えた後、酢酸溶液を新しくして2回目の定量を行った。 また、各ポリ容器から取り出したBaTiO3焼結体の重量を測定し、各酢酸溶液による時間当たりの溶出量(溶出速度)をそれぞれ計算したところ、下記表2に示す結果が得られた。 また、試料No.1〜No.5の各酢酸溶液に対する溶出時間と溶出量との関係を図2の(a)〜(e)に示した。図2の(a)〜(e)では溶出挙動が著しく異なる区間についてそれぞれA区間からS区間まで分類を行った。各区間における各元素の溶出挙動をそれぞれ評価し、各評価結果を下記表3に示した。更に、下記表3における各元素の溶出挙動をTEM、EDX、SEMから予想される溶出挙動にそれぞれ当て嵌めた結果を下記表4に示した。 上記表3及び上記表4に示すように、溶出速度が0.5[wt%/分]以下である図2の(a)、(b)、(c)の場合にはTEM、EDX、SEMから予想される溶出挙動と同じ挙動を示し、従来の部分的な視野でしか評価できなかった微小部分の組成分析を行うことができた。一方、溶出速度が0.5[wt%/分]を超える図2の(d)及び(e)の場合には溶出速度が速いため、表面部とコア部を区別することはできるものの、粒界部とシェル部を区別することができなかった。これらの結果から、溶出速度は0.5[wt%/分]以下であることが必要であることが判った。 更に、図2の(a)、(b)、(c)間で比較した場合、溶出速度が遅いほど詳細で信頼性の高いプロファイルを得ることができ、定量可能な範囲でより遅い速度で溶出させることが好ましいことが判った。 また、図2の(a)、(b)、(c)において、A区間とF区間の粒界が選択的に溶出している区間において、MgとSiの組成比(Mg:Si)が1:1であることが判った。このことから、粒界にはMgとSiがMgSiO3として存在していると考えられる。また、シェル相が選択的に溶出しているCとHの区間においては、それぞれの区間の最初の部分と終わりの部分でDyとMgの組成比が異なることにより、シェル相は内側の相と外側の相に分かれていることが判った。また、外側の相では組成比(Dy:Mg)が1:1であることからDyとMgがDy2Mg2O7として存在し、内側の相では組成比(Dy:Mg)が2:1であることからDyとMgがDy2MgO5として存在していると推測することができる。また、コア相においても、(a)の初期の段階では常にTiよりもBaが多く溶出していることから、コア部の外側ではBaリッチな相が存在していることが判った。 以上説明したように本実施例によれば、溶出速度が0.5[wt%/分]以下の場合には、TEMやEDXでは解明できなかった粒界成分の組成比及びコアシェルの微細構造の解析を詳細に行うことができた。また、この結果と他の分析方法による結果とを組み合わせることで、より信頼性の高い解析を行うことができる。また、本実施例によれば、他の分析方法では得られない全体的な視野での情報を簡単に得ることができる。 本実施例ではPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体を主成分とする圧電セラミック板を粉砕したものを用いてPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の組成分析を行った。また、この試料には添加物としてSiO2、Al2O3が添加されている。 また、本実施例では溶出速度を制御することにより焼結体の微小領域での組成分析が可能となることを示すために、TEM、EDXを用いてPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の微小部分の組成を予め調査した。この際、PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の組成を全体的な視野で調べるために、測定点を50点に設定した。 図3は、PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体をTEMで観察した結果に基づいてTEM像を模式化した図である。図3において、1は鉛酸化物を含有するセラミック焼結体の一部を示し、2A、2B、2Cはそれぞれ結晶粒である。また、図3において、3は結晶粒によって囲まれた三重点であり、三重点は一辺が400〜500nm程度の大きさで、略三角形状であり、ガラス相4によって満たされていた。また、ガラス相4は網目形成酸化物と微結晶粒から構成されている。網目形成酸化物及び微結晶粒の組成分析をそれぞれ行ったところ、網目形成酸化物からはPb、Si、Alが検出され、微結晶粒からはAlが検出された。また、粒界からはSi、Alは検出されず、粒界部分にはガラス相が存在していないことが判った。 また、PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の溶出挙動を予想するために未粉砕のPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体を0.01mol/Lの塩酸溶液に浸漬して溶出させた。そして、溶出後の焼結体をTEMで観察したところ、まず、ガラス相の網目形成酸化物が選択的に溶解し、その後微結晶粒が溶解していくのが観察された。 下記表5に示す各温度に設定された0.01mol/Lの塩酸溶液(試料No.6〜No.10)50mlが入ったポリ容器にPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体を投入し、図4の(a)〜(e)に示すようにそれぞれ所定時間静置し、PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体を塩酸溶液中に溶出させた。そして、5分おきにPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)O3焼結体を各ポリ容器から取り出し、塩酸溶液中のPb、Ti、Zr、Si、Nb、Alの量をICP-AESで測定した。 また、各ポリ容器から取り出したPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の重量を測定し、各塩酸溶液による時間当たりの溶出量(溶出速度)を計算したところ、下記表6に示す結果が得られた。 また、試料No.6〜No.10の塩酸溶液の各温度に対する溶出時間と溶出量との関係を図4の(a)〜(e)に示した。図4の(a)〜(e)では溶出挙動が著しく異なる区間についてそれぞれA区間からM区間まで分類を行った。各区間における各元素の溶出挙動をそれぞれ評価し、各評価結果を下記表7に示した。更に、下記表7における各元素の溶出挙動とTEM、EDXから予想される溶出挙動とをそれぞれ当て嵌めた結果を下記表8に示した。 上記表7及び上記表8に示すように、溶出速度が0.5[wt%/分] 以下である図4の(a)、(b)、(c)の場合にはTEM、EDXから予想される溶出挙動と同じ挙動を示し、従来の部分的な視野でしか評価できなかった微小部分の組成分析を行うことができた。一方、溶出速度が0.5[wt%/分]を超える図4の(d)及び(e)の場合には表面相と鉛酸化物相を区別することはできるものの、それ以上の詳細な情報を得ることができなかった。これらの結果から、本実施例においても溶出速度は0.5[wt%/分]以下であることが必要であることが判った。 更に、図4の(a)と(b)で比較した場合、(a)ではC区間の鉛酸化物相の溶出速度が選択的に生じる区間において、初期では仕込み組成(PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3)に対しZrリッチとなっていることが判った。同様のことは図4の(b)、(c)のグラフからは読み取れなかった。従って、溶出速度はより遅いほど詳細で信頼性の高いプロファイルを得ることができ、定量可能な範囲でより遅い速度での溶出が好ましいことが判った。また、このような情報はTEMやEDXでは得られなかった。 従って、本実施例によれば、実施例1の場合と焼結体、溶液の種類及び溶出時の温度が違っていても、溶出速度が0.5[wt%/分]以下であれば、実施例1と同様の作用効果が得られることが判った。 本実施例では平均粒径5μmのAg-Cu合金粉末を用いて組成分析を行った。また、このAg-Cu合金粉末にはSiO2がコーティングされている。 また、本実施例では溶出速度を制御することにより合金粉末の微小領域での組成分析が可能となることを示すために、TEM、EDX、XRF、XRDを用いてAg-Cu合金粉末の微小部分の組成等を予め調査した。この合金粉末をXRDで構造解析したところ、Ag-Cu合金粉末のピークが検出され、この粉末がAg-Cu合金であることが確認できた。また、XRFを用いた測定により、合金の組成比は原子比でCuとAgの比率が1.7:1であることが判った。また、TEM、EDXによりSiは合金粉末上にコーティングされていた。 また、下記表9に示す各濃度で調製した25℃の硝酸溶液(試料No.11〜No.15)とフッ化水素(HF)0.002mol/Lが入ったポリ容器それぞれにAg-Cu合金粉末を一定量ずつ投入し、図5の(a)〜(e)に示すようにそれぞれ所定時間静置し、Ag-Cu合金粉末を硝酸溶液中に溶出させた。そして、5分おきにAg-Cu合金粉末をポリ容器から取り出し、硝酸溶液中のCu、Ag、Siの量をICP-AESで測定した。 また、各ポリ容器から取り出したAg-Cu合金粉末の重量を測定し、時間当たりの溶出量(溶出速度)を計算したところ、下記表10に示す結果が得られた。 また、試料No.11〜No.15硝酸溶液の各濃度に対する溶出時間と溶出量との関係を図5の(a)〜(e)に示した。図5(a)〜(e)では溶出挙動が著しく異なる区間についてそれぞれA区間からM区間まで分類を行った。各区間における各元素の溶出挙動をそれぞれ評価し、各評価結果を下記表11に示した。更に、下記表11における各元素の溶出挙動と他の分析機器による解析から予想される溶出挙動とをそれぞれ当て嵌めた結果を下記表12に示した。 上記表11及び上記表12に示すように、溶出速度が0.5[wt%/分]以下である図5の(a)、(b)、(c)の場合にはTEM、EDX、XRF、XRDから予想される溶出挙動と同じ挙動を示し、従来の部分的な視野でしか評価できなかった微小部分の組成分析を行うことができた。一方、溶出速度が0.5[wt%/分]を超える(d)及び(e)の場合には表面組成と内部組成を区別することはできるものの、それ以上の情報を得ることができなかった。従って、本実施例においても溶出速度は0.5[wt%/分]以下であることが必要であることが判った。更に、Cu、Ag相の溶出初期部分では、内部のAg-Cu比率よりもAgが多く溶出していることが判った。従って、Ag-Cu合金粉末は表面がAgリッチ相になっていることが判った。このような情報はTEMやEDXでは得られなかった。 従って、本実施例によれば、実施例1、2の場合と焼結体、溶液の種類及び溶出時の温度が違っていても、溶出速度が0.5[wt%/分]以下であれば、実施例1と同様の作用効果が得られることが判った。 本発明の組成分析方法は、複数の元素を含む物質、例えばセラミックや合金等の無機物質、有機物質、あるいはこれら両者の複合物質の内部における各元素の分布状態や元素組成を解析する場合に広く用いることができる。実施例1に用いられたBaTiO3焼結体の溶出過程を示すFE-SEMの模式図で、(a)は各組成物の溶出前を示す図、(b)は200分溶出後を示す図である。(a)〜(e)はそれぞれ実施例1における各濃度の酢酸溶液に対するBaTiO3焼結体の溶出時間と溶出量との関係を示すグラフである。実施例2に用いられたPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の溶出過程を示すTEMの模式図である。(a)〜(e)はそれぞれ実施例2における各温度の塩酸溶液に対するPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の溶出時間と溶出量との関係を示すグラフである。(a)〜(e)はそれぞれ実施例3における各濃度の硝酸溶液に対するAg-Cu合金の溶出時間と溶出量との関係を示すグラフである。符号の説明 1 PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の一部 複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に段階的に溶出させ、上記各段階で得られたそれぞれの溶液中に溶出した元素を定量分析することにより、上記物質の表面から内部に至る組成を段階的に分析することを特徴とする組成分析方法。 複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に溶出させる第1の工程と、上記物質から上記溶液中に溶出した元素を定量分析する第2の工程と、上記元素が溶解した上記物質を更に溶液中に溶出させる第3の工程と、第3の工程における物質からその溶液中に溶出した元素を定量分析する第4の工程と、第3、第4の工程を繰り返すことにより、上記物質の表面から内部に至る組成を分析する方法であって、上記物質の溶出速度が0.5[wt%/分]以下であることを特徴とする組成分析方法。 上記溶液として酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の組成分析方法。 上記物質がセラミック、ガラスセラミック、ガラス及び金属の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の組成分析方法。 【課題】従来の化学分析では、物質の表面から内部に至る全領域の元素分布や元素組成を詳細に把握できなかった。また、機器分析では全体的な視野を評価するためには著しく多くの点を採取して評価する必要であった。【解決手段】複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に溶出させる第1の工程と、上記物質から上記溶液中に溶出した元素を定量分析する第2の工程と、上記元素が溶解した上記物質を更に溶液中に溶出させる第3の工程と、第3の工程における物質からその溶液中に溶出した元素を定量分析する第4の工程と、第3、第4の工程を繰り返すことにより、上記物質の表面から内部に至る組成を分析する方法であって、上記物質の溶出速度が0.5[wt%/分]以下である。【選択図】図2


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特許公報(B2)_組成分析方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_組成分析方法
出願番号:2003341703
年次:2009
IPC分類:G01N 1/28,G01N 21/73


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田村 俊之 小西 美穂 谷口 咲子 平松 隆 西村 正人 JP 4374971 特許公報(B2) 20090918 2003341703 20030930 組成分析方法 株式会社村田製作所 000006231 小原 肇 100096910 田村 俊之 小西 美穂 谷口 咲子 平松 隆 西村 正人 20091202 G01N 1/28 20060101AFI20091112BHJP G01N 21/73 20060101ALN20091112BHJP JPG01N1/28 XG01N21/73 G01N 1/28 G01N 21/73 特開平04−198864(JP,A) 特開昭62−214354(JP,A) 特開2000−185973(JP,A) 特開平11−344428(JP,A) 田村俊之, 谷口咲子, 西村正人, 原田淳,マイクロ波加熱分解法を用いたガラス溶解方法の検討,日本分析化学会年会講演要旨集,日本,2000年 9月12日,Vol.49th,Page.96 4 2005106686 20050421 14 20060810 ▲高▼見 重雄 本発明は、組成分析方法に関し、更に詳しくは、物質中の複数の元素成分を分析する組成分析方法に関するものである。 従来から化学分析における組成分析では、主として試料を全て溶液化した上で定量分析を行う手法が採られている。しかし、このような定量分析の場合には分析時間を短縮するために、試料の溶解時間を如何に短縮するかが重要であると考えられてきた。また、従来から微細部分を部分的に組成分析する場合には、TEM(透過型電子顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)、WDX(波長分散型X線分析装置)、XRD(X線回折装置)、XPS(X線光電子分光装置)等の分析装置を用いて試料の部分的な視野で分析を行っている。 化学分析による定量分析の手法として例えば特許文献1に記載された焼結体の分析方法が知られている。この場合には、まず酢酸水溶液を用いて焼結体の粒界相を溶解させ、その水溶液をICP発光分光分析することにより粒界相の元素成分を定量分析した後、酢酸水溶液に対して残った未溶解の粉末をアルカリ融解し、この溶液をICP発光分光分析することにより結晶相の元素成分を定量分析している。つまり、試料の全てを溶液化するのではなく、粒界成分と考えられる成分のみを選択的に溶出させ、溶出成分をICP発光分光分析している。特開2000‐185973号公報 しかしながら、特許文献1に記載された焼結体の分析方法の場合には、酢酸溶液を用いて焼結体の粒界部を溶解させた後ICP発光分光分析により粒界成分の定量分析を行い、溶解せずに残った結晶部分についてはアルカリ融解した後同様の手法で定量分析を行うが、この方法では粒界部分の成分及び結晶部分の成分を一気に溶解あるいは融解しているため、粒界成分と結晶成分の一部が同時に溶解したり、粒界成分中の残った成分が結晶成分と同時に溶解するなどし、粒界成分と結晶成分とを区別することができず、焼結体、延いては物質の構造を詳細に解析することが困難であった。また、TEM、SEM、EDX、WDX、XRD、XPS等の分析装置を用いて全体的な視野を評価するためには、著しく多くの点を採取して評価する必要があるため、実質的には時間、費用が莫大になるという課題があった。これらのことは焼結体のような無機物質に限らず、有機物質あるいはこれら両者が含まれる複合物質についても同様のことが云える。 本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、低コストで比較的短時間に複数の元素を含む物質の表面から内部に至る全領域の組成元素の分布状態及び組成比を把握し、より正確な構造解析を行うことができる組成分析方法を提供することを目的としている。 本発明者等は、複数の元素を含む物質の組成分析方法について種々検討した結果、従来の化学分析のように物質の溶解時間を短縮するという常識的な発想とは全く逆の発想、つまり物質の溶解時間を多少とも長くするとの発想に基づくことにより、物質内における複数の元素の分布状態を求めることができ、より詳細な物質の構造解析を実現できるとの知見を得た。 本発明は上記知見に基づいてなされたもので、本発明の請求項1に記載の組成分析方法は、少なくとも一種の元素を含む相が複数混在する物質を溶液中に浸漬し、上記溶液に対して溶出速度に差のある上記各相を上記物質の表面から上記溶液中に上記溶出速度の差に即して段階的に溶出させ、上記各段階で所定時間毎に上記物質を上記溶液から取り出して得られたそれぞれの溶液中に溶出した上記各相の元素をそれぞれ定量分析することにより、上記物質の表面から内部に至る上記各相の組成を段階的に分析することを特徴とするものである。 また、本発明の請求項2に記載の組成分析方法は、少なくとも一種の元素を含む相が複数混在する物質を溶液中に浸漬し、上記溶液に対して溶出速度に差のある上記各相を上記物質の表面から上記溶液中に上記溶出速度の差に即して溶出させる第1の工程と、所定時間毎に上記溶液から上記物質を取り出して得られたそれぞれの上記溶液中に溶出した元素を定量分析する第2の工程と、上記第1の工程で上記元素が溶解した後の上記物質を新たな溶液中に溶出させる第3の工程と、第3の工程で上記物質からその溶液中に新たに溶出した元素を上記第2の工程と同一手順で定量分析する第4の工程と、第3、第4の工程を繰り返すことにより、上記物質の表面から内部に至る上記各相の組成を分析することを特徴とするものである。 また、本発明の請求項3に記載の組成分析方法は、請求項1または請求項2に記載の発明において、上記溶液として酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いることを特徴とするものである。 また、本発明の請求項4に記載の組成分析方法は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、上記物質がセラミック、ガラスセラミック、ガラス及び金属の少なくとも一つを含むことを特徴とするものである。 本発明の組成分析方法に用いられる複数の元素を含む物質とは、複数の元素を含む物質であれば、特に制限されるものではなく、無機物質、有機物質あるいはこれら両者を含むものであっても良い。このような物質としては、例えばセラミック焼結体や金属片等の単一物だけでなく、積層セラミックコンデンサ等のように、セラミック、金属、有機物等の複数の物質から構成されているものを挙げることができる。また、セラミックとしては、例えば、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化亜鉛、酸化鉄等を挙げることができる。 また、本発明の組成分析方法では、無機物質、有機物質あるいはこれら両者を含む複合物質の場合に、複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に段階的に溶出させる。従って、複数の元素を含む物質を溶液中に一気に短時間で溶解させるのではなく、物質の表面から内部に至るまで物質を複数の段階に分けて徐々に溶解させる。そして、各段階で得られた溶液中に溶解した元素をそれぞれ定量分析することにより、物質の表面から内部に至る全領域における元素の分布状態を解析することができる。従って、物質の表面から内部に至る各層の元素の組成比を解析し、延いては物質の構造を解析することができる。ところで、物質の表面とは、溶液に直接接触する部分を指す。溶出速度の異なる部位が物質の表面に分布している場合には、溶出速度の速い部位が優先的に溶解する。例えば焼結体は、結晶相と粒界相を有し、粒界相は結晶相より溶出速度が速い。従って、焼結体の場合には、粒界相が結晶相よりも優先的に溶出し、結晶相が粒界相より遅く溶出する。 つまり、本発明の組成分析方法は、複数の元素を含む物質をその表面から溶液中に溶出させる第1の工程と、上記物質から上記溶液中に溶出した元素を定量分析する第2の工程と、上記元素が溶解した上記物質を更に溶液中に溶出させる第3の工程と、第3の工程における物質からその溶液中に溶出した元素を定量分析する第4の工程と、第3、第4の工程を繰り返すことにより、上記物質の表面から内部に至る全領域における元素の分布状態を解析することができる。 上述のように複数の元素を含む物質を複数段階(複数の工程)で溶解させるには、物質を溶解させる溶液、及び物質の表面からの組成元素の溶出速度が重要な要素になる。溶出速度は溶液の種類、濃度及び温度によって区々である。溶出速度が速すぎると従来の場合と同様に物質が溶液内に一気に溶解し、物質の表面から内部に至る全領域の組成元素を詳細に把握することができない。従って、溶出速度は可能な限り遅い方が好ましい。 そこで、本発明の組成分析方法では、物質の溶出速度を0.5[wt%/分]以下に調整する。溶出速度が0.5[wt%/分]以下であると、物質をその表面から内部の全領域に渡って徐々に複数段階に分けて溶解させることができ、溶液中に溶解した物質の各相の組成元素を確実に定量することができ、延いては組成元素の分布状態及び元素組成を確実に把握することができる。従って、例えば、コアシェル構造のセラミック焼結体等の場合には粒界相、コア相、シェル相それぞれにおける組成元素を確実に定量し、それぞれの組成比や組成変動を解析することができる。これに対して溶出速度が0.5[wt%/分]を超えると物質の溶解が一気に進行し、つまり溶解する各相が厚くなって組成元素の分布状態及び元素組成の変化の把握が難しくなる虞がある。 また、溶液としては酸性溶液またはアルカリ性溶液が好ましく、これらの溶液は無機、有機のいずれの溶液であっても良い。溶液としては酸性溶液がアルカリ性溶液より好ましく、また、有機酸溶液より無機酸溶液が好ましい。物質の種類によっては、溶液として水(純水)を用いることもできる。また、物質を溶媒中に溶出させる方法としては、例えば、電気炉、ホットプレートを用いて温度を上げる方法、マイクロ波を当てる方法、超音波を当てる方法、あるいは圧力を上げる方法等もある。 本発明によれば、低コストで比較的短時間に少なくとも一種の元素を含む相が複数混在する物質の表面から内部に至る全領域の各相それぞれの組成元素の分布状態及び組成比を解析し、物質の構造解析をより正確に行うことができる組成分析方法を提供することができる。 本実施形態では酸性溶液を用いてセラミック焼結体の組成分析を行って良好な結果が得られた。 本実施例ではMg、Si、Dyが微量に添加された粒径0.3μmのBaTiO3焼結体を粉砕したものを用いて組成分析を行った。 また、本実施例では溶出速度を制御することにより焼結体の微小領域での組成分析が可能となることを示すために、TEM、EDXを用いてBaTiO3焼結体の微小部分の組成を予め調査した。この際、BaTiO3焼結体の組成を全体的な視野で調べるために、測定点を50点に設定した。その結果、粒界相ではMg、Siが検出され、粒界相から20nm離れた部分からはSiは検出されず、Dy、Mgのみが検出された。 また、0.01mol/Lの酢酸溶液に300分浸漬させた後、同様の測定を行ったところ、TiとBa以外の元素は検出されなかった。また、このBaTiO3焼結体は、TEMによる観察結果によれば、シェル厚みが約50nmであるコアシェル構造になっていることが確認できた。 TEM、EDX及びTEMの調査結果から、本実施例で用いたBaTiO3焼結体は、粒界相にMgとSiが存在し、シェル相にDyとMgの相をもつコアシェル構造であることが判った。 また、BaTiO3焼結体の溶液中への溶出挙動を予想するために未粉砕のBaTiO3焼結体を0.01mol/Lの酢酸溶液に浸漬し、FE−SEMを用いて観察した。溶出試験前と100分溶出後における未溶解サンプルを用いてFE-SEMにより観察し、それぞれのSEM像を模式化して図1の(a)、(b)に示した。 溶出試験前のSEM像を示す図1の(a)では表面の凹凸が観察できなかったが、100分溶出後には図1の(b)に示すように明確に粒界が観察されるようになった。また、更にBaTiO3焼結体の溶出を行ったところ、粒径が徐々に小さくなっていく様子が観察された。このことから、溶出は粒界相→シェル相→コア相の順序で進行していくことが判った。 また、下記表1に示す各濃度で調製した25℃の酢酸溶液(試料No.1〜No.5)50mlが入ったポリ容器それぞれに予め粉砕したBaTiO3焼結体をそれぞれ一定量ずつ投入し、図2の(a)〜(e)に示すようにそれぞれ所定時間静置し、BaTiO3焼結体を各ポリ容器内の酢酸溶液中に溶出させた。そして、5分おきにBaTiO3焼結体をポリ容器から取り出し、酢酸溶液中のBa、Ti、Mg、Dy、Siの量をICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光法)で測定した。一回目の定量を終えた後、酢酸溶液を新しくして2回目の定量を行った。 また、各ポリ容器から取り出したBaTiO3焼結体の重量を測定し、各酢酸溶液による時間当たりの溶出量(溶出速度)をそれぞれ計算したところ、下記表2に示す結果が得られた。 また、試料No.1〜No.5の各酢酸溶液に対する溶出時間と溶出量との関係を図2の(a)〜(e)に示した。図2の(a)〜(e)では溶出挙動が著しく異なる区間についてそれぞれA区間からS区間まで分類を行った。各区間における各元素の溶出挙動をそれぞれ評価し、各評価結果を下記表3に示した。更に、下記表3における各元素の溶出挙動をTEM、EDX、SEMから予想される溶出挙動にそれぞれ当て嵌めた結果を下記表4に示した。 上記表3及び上記表4に示すように、溶出速度が0.5[wt%/分]以下である図2の(a)、(b)、(c)の場合にはTEM、EDX、SEMから予想される溶出挙動と同じ挙動を示し、従来の部分的な視野でしか評価できなかった微小部分の組成分析を行うことができた。一方、溶出速度が0.5[wt%/分]を超える図2の(d)及び(e)の場合には溶出速度が速いため、表面相とコア相を区別することはできるものの、粒界相とシェル相を区別することができなかった。これらの結果から、溶出速度は0.5[wt%/分]以下であることが必要であることが判った。 更に、図2の(a)、(b)、(c)間で比較した場合、溶出速度が遅いほど詳細で信頼性の高いプロファイルを得ることができ、定量可能な範囲でより遅い速度で溶出させることが好ましいことが判った。 また、図2の(a)、(b)、(c)において、A区間とF区間の粒界が選択的に溶出している区間において、MgとSiの組成比(Mg:Si)が1:1であることが判った。このことから、粒界にはMgとSiがMgSiO3として存在していると考えられる。また、シェル相が選択的に溶出しているCとHの区間においては、それぞれの区間の最初の部分と終わりの部分でDyとMgの組成比が異なることにより、シェル相は内側の相と外側の相に分かれていることが判った。また、外側の相では組成比(Dy:Mg)が1:1であることからDyとMgがDy2Mg2O7として存在し、内側の相では組成比(Dy:Mg)が2:1であることからDyとMgがDy2MgO5として存在していると推測することができる。また、コア相においても、(a)の初期の段階では常にTiよりもBaが多く溶出していることから、コア部の外側ではBaリッチな相が存在していることが判った。 以上説明したように本実施例によれば、溶出速度が0.5[wt%/分]以下の場合には、TEMやEDXでは解明できなかった粒界成分の組成比及びコアシェルの微細構造の解析を詳細に行うことができた。また、この結果と他の分析方法による結果とを組み合わせることで、より信頼性の高い解析を行うことができる。また、本実施例によれば、他の分析方法では得られない全体的な視野での情報を簡単に得ることができる。 本実施例ではPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体を主成分とする圧電セラミック板を粉砕したものを用いてPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の組成分析を行った。また、この試料には添加物としてSiO2、Al2O3が添加されている。 また、本実施例では溶出速度を制御することにより焼結体の微小領域での組成分析が可能となることを示すために、TEM、EDXを用いてPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の微小部分の組成を予め調査した。この際、PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の組成を全体的な視野で調べるために、測定点を50点に設定した。 図3は、PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体をTEMで観察した結果に基づいてTEM像を模式化した図である。図3において、1は鉛酸化物を含有するセラミック焼結体の一部を示し、2A、2B、2Cはそれぞれ結晶相である。また、図3において、3は結晶相によって囲まれた三重点であり、三重点は一辺が400〜500nm程度の大きさで、略三角形状であり、ガラス相4によって満たされていた。また、ガラス相4は網目形成酸化物と微結晶粒から構成されている。網目形成酸化物及び微結晶粒の組成分析をそれぞれ行ったところ、網目形成酸化物からはPb、Si、Alが検出され、微結晶粒からはAlが検出された。また、粒界からはSi、Alは検出されず、粒界相にはガラス相が存在していないことが判った。 また、PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の溶出挙動を予想するために未粉砕のPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体を0.01mol/Lの塩酸溶液に浸漬して溶出させた。そして、溶出後の焼結体をTEMで観察したところ、まず、ガラス相の網目形成酸化物が選択的に溶解し、その後微結晶粒が溶解していくのが観察された。 下記表5に示す各温度に設定された0.01mol/Lの塩酸溶液(試料No.6〜No.10)50mlが入ったポリ容器にPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体を投入し、図4の(a)〜(e)に示すようにそれぞれ所定時間静置し、PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体を塩酸溶液中に溶出させた。そして、5分おきにPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)O3焼結体を各ポリ容器から取り出し、塩酸溶液中のPb、Ti、Zr、Si、Nb、Alの量をICP-AESで測定した。 また、各ポリ容器から取り出したPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の重量を測定し、各塩酸溶液による時間当たりの溶出量(溶出速度)を計算したところ、下記表6に示す結果が得られた。 また、試料No.6〜No.10の塩酸溶液の各温度に対する溶出時間と溶出量との関係を図4の(a)〜(e)に示した。図4の(a)〜(e)では溶出挙動が著しく異なる区間についてそれぞれA区間からM区間まで分類を行った。各区間における各元素の溶出挙動をそれぞれ評価し、各評価結果を下記表7に示した。更に、下記表7における各元素の溶出挙動とTEM、EDXから予想される溶出挙動とをそれぞれ当て嵌めた結果を下記表8に示した。 上記表7及び上記表8に示すように、溶出速度が0.5[wt%/分] 以下である図4の(a)、(b)、(c)の場合にはTEM、EDXから予想される溶出挙動と同じ挙動を示し、従来の部分的な視野でしか評価できなかった微小部分の組成分析を行うことができた。一方、溶出速度が0.5[wt%/分]を超える図4の(d)及び(e)の場合には表面相と鉛酸化物相を区別することはできるものの、それ以上の詳細な情報を得ることができなかった。これらの結果から、本実施例においても溶出速度は0.5[wt%/分]以下であることが必要であることが判った。 更に、図4の(a)と(b)で比較した場合、(a)ではC区間の鉛酸化物相の溶出速度が選択的に生じる区間において、初期では仕込み組成(PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3)に対しZrリッチとなっていることが判った。同様のことは図4の(b)、(c)のグラフからは読み取れなかった。従って、溶出速度はより遅いほど詳細で信頼性の高いプロファイルを得ることができ、定量可能な範囲でより遅い速度での溶出が好ましいことが判った。また、このような情報はTEMやEDXでは得られなかった。 従って、本実施例によれば、実施例1の場合と焼結体、溶液の種類及び溶出時の温度が違っていても、溶出速度が0.5[wt%/分]以下であれば、実施例1と同様の作用効果が得られることが判った。 本実施例では平均粒径5μmのAg-Cu合金粉末を用いて組成分析を行った。また、このAg-Cu合金粉末にはSiO2がコーティングされている。 また、本実施例では溶出速度を制御することにより合金粉末の微小領域での組成分析が可能となることを示すために、TEM、EDX、XRF、XRDを用いてAg-Cu合金粉末の微小部分の組成等を予め調査した。この合金粉末をXRDで構造解析したところ、Ag-Cu合金粉末のピークが検出され、この粉末がAg-Cu合金であることが確認できた。また、XRFを用いた測定により、合金の組成比は原子比でCuとAgの比率が1.7:1であることが判った。また、TEM、EDXによりSiは合金粉末上にコーティングされていた。 また、下記表9に示す各濃度で調製した25℃の硝酸溶液(試料No.11〜No.15)とフッ化水素(HF)0.002mol/Lが入ったポリ容器それぞれにAg-Cu合金粉末を一定量ずつ投入し、図5の(a)〜(e)に示すようにそれぞれ所定時間静置し、Ag-Cu合金粉末を硝酸溶液中に溶出させた。そして、5分おきにAg-Cu合金粉末をポリ容器から取り出し、硝酸溶液中のCu、Ag、Siの量をICP-AESで測定した。 また、各ポリ容器から取り出したAg-Cu合金粉末の重量を測定し、時間当たりの溶出量(溶出速度)を計算したところ、下記表10に示す結果が得られた。 また、試料No.11〜No.15硝酸溶液の各濃度に対する溶出時間と溶出量との関係を図5の(a)〜(e)に示した。図5(a)〜(e)では溶出挙動が著しく異なる区間についてそれぞれA区間からM区間まで分類を行った。各区間における各元素の溶出挙動をそれぞれ評価し、各評価結果を下記表11に示した。更に、下記表11における各元素の溶出挙動と他の分析機器による解析から予想される溶出挙動とをそれぞれ当て嵌めた結果を下記表12に示した。 上記表11及び上記表12に示すように、溶出速度が0.5[wt%/分]以下である図5の(a)、(b)、(c)の場合にはTEM、EDX、XRF、XRDから予想される溶出挙動と同じ挙動を示し、従来の部分的な視野でしか評価できなかった微小部分の組成分析を行うことができた。一方、溶出速度が0.5[wt%/分]を超える(d)及び(e)の場合には表面組成と内部組成を区別することはできるものの、それ以上の情報を得ることができなかった。従って、本実施例においても溶出速度は0.5[wt%/分]以下であることが必要であることが判った。更に、Cu、Ag相の溶出初期部分では、内部のAg-Cu比率よりもAgが多く溶出していることが判った。従って、Ag-Cu合金粉末は表面がAgリッチ相になっていることが判った。このような情報はTEMやEDXでは得られなかった。 従って、本実施例によれば、実施例1、2の場合と焼結体、溶液の種類及び溶出時の温度が違っていても、溶出速度が0.5[wt%/分]以下であれば、実施例1と同様の作用効果が得られることが判った。 本発明の組成分析方法は、複数の元素を含む物質、例えばセラミックや合金等の無機物質、有機物質、あるいはこれら両者の複合物質の内部における各元素の分布状態や元素組成を解析する場合に広く用いることができる。実施例1に用いられたBaTiO3焼結体の溶出過程を示すFE-SEMの模式図で、(a)は各組成物の溶出前を示す図、(b)は200分溶出後を示す図である。(a)〜(e)はそれぞれ実施例1における各濃度の酢酸溶液に対するBaTiO3焼結体の溶出時間と溶出量との関係を示すグラフである。実施例2に用いられたPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の溶出過程を示すTEMの模式図である。(a)〜(e)はそれぞれ実施例2における各温度の塩酸溶液に対するPbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の溶出時間と溶出量との関係を示すグラフである。(a)〜(e)はそれぞれ実施例3における各濃度の硝酸溶液に対するAg-Cu合金の溶出時間と溶出量との関係を示すグラフである。符号の説明 1 PbNb0.10(Zr0.40Ti0.50)0.90O3焼結体の一部 少なくとも一種の元素を含む相が複数混在する物質を溶液中に浸漬し、上記溶液に対して溶出速度に差のある上記各相を上記物質の表面から上記溶液中に上記溶出速度の差に即して段階的に溶出させ、上記各段階で所定時間毎に上記物質を上記溶液から取り出して得られたそれぞれの溶液中に溶出した上記各相の元素をそれぞれ定量分析することにより、上記物質の表面から内部に至る上記各相の組成を段階的に分析することを特徴とする組成分析方法。 少なくとも一種の元素を含む相が複数混在する物質を溶液中に浸漬し、上記溶液に対して溶出速度に差のある上記各相を上記物質の表面から上記溶液中に上記溶出速度の差に即して溶出させる第1の工程と、所定時間毎に上記溶液から上記物質を取り出して得られたそれぞれの上記溶液中に溶出した元素を定量分析する第2の工程と、上記第1の工程で上記元素が溶解した後の上記物質を新たな溶液中に溶出させる第3の工程と、第3の工程で上記物質からその溶液中に新たに溶出した元素を上記第2の工程と同一手順で定量分析する第4の工程と、第3、第4の工程を繰り返すことにより、上記物質の表面から内部に至る上記各相の組成を分析することを特徴とする組成分析方法。 上記溶液として酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の組成分析方法。 上記物質がセラミック、ガラスセラミック、ガラス及び金属の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の組成分析方法。


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