タイトル: | 公開特許公報(A)_アンモニア酸化細菌の培養方法 |
出願番号: | 2003325973 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N1/20,C02F3/00 |
乾 貴誌 田中 良春 JP 2005087113 公開特許公報(A) 20050407 2003325973 20030918 アンモニア酸化細菌の培養方法 富士電機システムズ株式会社 591083244 松井 茂 100086689 篠部 正治 100088339 乾 貴誌 田中 良春 7C12N1/20C02F3/00 JPC12N1/20 AC02F3/00 G 4 OL 11 4B065 4B065AA01X 4B065BB02 4B065CA46 4B065CA56 本発明は、土壌、海水及び河川水などの自然界に広く分布し、廃水、下水及びし尿処理設備における窒素処理や、水中の化学成分をモニタリングすることを目的としたバイオセンサ応用水質計測器に用いられるアンモニア酸化細菌の培養方法に関する。 硝化細菌は、二酸化炭素を唯一の炭素源とする独立栄養細菌であり、アンモニアを亜硝酸塩に酸化するアンモニア酸化細菌と、亜硝酸塩を硝酸塩に酸化する亜硝酸酸化細菌の2つの細菌群からなる。 従来より、硝化細菌は、下水及びし尿処理設備等において、汚濁水中の窒素化合物を除去するために用いられている。また、硝化細菌は種々の外乱(温度・pH変動、有害化学物質の混入等)に対して極めて弱いことが知られており、その特性を利用して、有害化学物質検知用バイオセンサも開発されている。 しかしながら、硝化細菌は一般的な従属栄養細菌と比べて増殖速度が遅く、一定の菌体量を得るには長時間を要するため、下・廃水プロセスや浄化装置等において、馴致期間の短縮や硝化能力の向上を図りたい場合には、硝化細菌の硝化・増殖速度を向上させる必要がある。 また、上記バイオセンサの性能を保証するためには、硝化細菌固定化膜の品質を安定化させる必要があるが、硝化細菌の継代培養による菌株保存状態に大きな変動の無いことが前提となる。 従来、微生物の保存法としては、継代培養法、凍結乾燥法、L−乾燥法等が知られているが、硝化細菌については継代培養法が最も適した保存法であると言われている。なお、継代培養法とは細菌を培地に植菌し、一定温度で所定の期間培養した後(硝化細菌の場合は1週間程度)、得られた培養液の一部を新鮮な培地に再度植菌するという操作を繰り返すことによって菌株保存を行う方法である。 また、硝化細菌の培養方法や保存方法として、例えば、下記特許文献1には、硝化細菌液或いはこれを含有する硝化細菌資材中に存在する亜硝酸態窒素イオン濃度が500mg/L以下であり、保存温度が0℃以上30℃以下とすることを特徴とする硝化細菌及び硝化細菌資材の保存方法が開示されている。 下記特許文献2には、高濃度アンモニアによって増殖が阻害を受け、低濃度アンモニアに親和性の高い、基質感受性のアンモニア酸化細菌を培養するため、該アンモニア酸化細菌の培養液中に従属栄養細菌、その培養液又は培養ろ液を添加することを特徴とするアンモニア酸化細菌の培養法が開示されている。 下記特許文献3には、亜硝酸菌を保存する方法において、亜硝酸菌をピルビン酸もしくはその塩、オキサル酢酸もしくはその塩、α−L−ラムノース、α−L−フコース、D−グルクロン酸もしくはその塩、N−アセチル−D−ムラミン酸、α−L−ラムノース1分子とD−グルクロン酸1分子およびD−グルコース2分子を1ユニットとし該ユニットが直鎖状に重合した高分子多糖類のうち少なくとも1種類以上の有機化合物を含む培地で培養した菌液をシリカゲルと混合後、凍結保存することを特徴とする亜硝酸菌の保存方法、及び上記凍結保存した亜硝酸菌を復元する方法において、上記有機化合物、乳酸もしくはその塩、クエン酸もしくはその塩、コハク酸もしくはその塩、フマル酸もしくはその塩、リンゴ酸もしくはその塩、グルタミン酸もしくはその塩、アスパラギン酸もしくはその塩、セリンもしくはその塩のうち少なくとも1種以上の有機化合物を含む培地で培養することを特徴とする亜硝酸菌の復元方法が開示されている。特開2002−27976号公報特開平11−253153号公報特開平5−308955号公報 しかしながら、一般に、微生物の継代培養法には、操作が煩雑で多くの労力を要する、遺伝的変異が起こりやすい、雑菌汚染の危険性が高い等の問題点があった。 特に硝化細菌は、1)硝化・増殖速度が遅い、2)長期的に継代培養を行う場合、硝化・増殖速度の突発的、あるいは経時的低下が起こりやすい、3)外乱の影響、例えば、イオン交換水等の培地調製水の微妙な水質の違いによっても硝化・増殖速度が左右されてしまう等の問題があった。 例えば、通常、硝化細菌の継代培養用液体培地として用いられるPramer培地では、硝化・増殖速度が遅いという難点があり、ATCCで指定された凍結保存菌株復元用培地では、緩衝能がほとんど無いため、培養中にpH調整を行う必要があり、操作が煩雑になることや、雑菌汚染の機会が増えるといった難点があった。 また、凍結保存菌株のように低温環境下で継代培養時よりも活性が低下している場合は、更にアンモニア酸化細菌の硝化・増殖速度が遅くなってしまうという問題があった。 したがって、本発明の目的は、アンモニア酸化細菌の継代培養や凍結保存菌株を復元する際に、アンモニア酸化細菌の硝化・増殖速度を適度に向上させることができ、アンモニア酸化細菌の長期菌株保存及び復元を、作業性よく、安定して行うことができるアンモニア酸化細菌の培養方法を提供することにある。 上記目的を達成するため、本発明のアンモニア酸化細菌の培養方法の一つは、凍結保存したアンモニア酸化細菌を復元する際に、凍結保存菌株復元用培地として、リン酸及び銅を含む培地を用いることを特徴とする。 上記アンモニア酸化細菌の培養方法によれば、アンモニア酸化細菌の凍結保存菌株復元用培地として、リン酸及び銅を含む培地を用いることにより、凍結保存によって活性が低下したアンモニア酸化細菌の硝化・増殖速度を適度に向上させることができ、アンモニア酸化細菌の凍結保存菌株を効率よく復元することができる。 また、本発明のアンモニア酸化細菌の培養方法のもう一つは、アンモニア酸化細菌を継代培養する際に、継代培養用培地として、リン酸及び銅を含む培地を用いることを特徴とする。 上記アンモニア酸化細菌の培養方法によれば、アンモニア酸化細菌の継代培養用培地として、リン酸及び銅を含む培地を用いることにより、作業性が良く、雑菌汚染の心配が少ないだけでなく、長期的な継代培養に伴う、硝化・増殖速度の突発的、あるいは経時的低下を防ぐことができる。 本発明のアンモニア酸化細菌の培養方法においては、前記凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地として、銅を銅イオン及び/又は銅錯体として0.8〜42.4μg/L含む培地を用いることが好ましい。 これによれば、アンモニア酸化細菌の硝化・増殖速度の促進効果をより確実に付与することができる。 また、前記凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地のベース培地として、Pramer培地を用いることが好ましい。 本発明のアンモニア酸化細菌の培養方法によれば、リン酸及び銅を含む培地を、アンモニア酸化細菌の凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地として用いることにより、アンモニア酸化細菌の硝化・増殖速度を適度に向上させることができるので、アンモニア酸化細菌凍結菌株を効率よく復元できる。また、培地調製水の水質といった外乱の影響を受けることなく、液体培地を用いた継代培養によるアンモニア酸化細菌の長期菌株保存も安定して行うことができる。 更に、本発明の培養方法によれば、培養中に培養液のpHの再調整等が不用であるので作業性が良好で、また、雑菌汚染の懸念も少ない。 本発明において、アンモニア酸化細菌とは、アンモニア態窒素を酸化して亜硝酸態窒素を生成する細菌を意味し、例えば、ニトロソモナス(Nitrosomonas)属、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属、ニトロソスピラ(Nitrosospira)属、ニトロソロバス(Nitrosolobus)属等に属する菌が挙げられる。具体的には、ニトロモナス・ユーロパエア(Nitrosomonas europaea:ATCC25978、ATCC19718)、ニトロソコッカス・モビリス(Nitrosococcus mobilis:ATCC25380)、ニトロソロバス・マルティフオルミス(Nitrosolobus multiformis:ATCC25196)等が例示できる。 本発明において、アンモニア酸化細菌の凍結保存菌株復元用培地及び継代培養用培地は、アンモニア酸化細菌の培養、復元に用いられている培地をベース培地として、これにリン酸及び/又は銅を所定量添加することにより調製できる。例えば、銅は、銅イオン及び/又は銅錯体として、好ましくは0.8〜42.4μg/L、より好ましくは2〜42μg/L含むように銅化合物を添加すればよい。銅化合物の添加量が少な過ぎると、十分な硝化・増殖速度の促進効果を得ることができず、多過ぎると、増殖速度が速すぎて、培養終了時の菌体活性低下の懸念が生じたり、アンモニア酸化細菌の硝化反応に対して阻害作用を示すことがあるため好ましくない。上記銅化合物としては、水溶液中で銅イオン及び/又は銅錯体を形成するものであればよく、具体的には、硫酸銅(II)(水和物も含む)、塩化銅(II)(水和物も含む)、Cu(II)−EDTA等が例示できる。 一方、リン酸は、アンモニア酸化細菌の栄養源であると同時に緩衝能を持たせるための成分であり、目標とするpH(アンモニア酸化細菌の生育至適pHであって、好ましくはpH7〜9、最も好ましくはpH8.0)に応じてリン酸化合物の添加量を適宜調整すればよい。 上記リン酸化合物としては、水溶液中でリン酸イオンを形成するものであればよく、具体的には、リン酸水素2ナトリウム(水和物も含む)、リン酸2水素カリウム等が例示でき、モル比でリン酸水素2ナトリウム:リン酸2水素カリウム=95:5の割合で用いることが好ましい。 また、アンモニア酸化細菌の凍結保存菌株復元用培地及び継代培養用培地のベース培地として用いられる培地としては、具体的には、Pramer培地(Lewis, R.F. and D. Pramer, J. Bacteriol., 76, 524-528 (1958), “Isolation of Nitrosomonas in pure culture”)やATCCで指定された凍結保存菌株復元用培地(以下、ATCC培地という)が好ましく用いられる。本発明においては、緩衝能が大きく、亜硝酸生成によるpH変動が比較的小さいので、培養中に培養液のpH調整が不用である点、無機培地であり、塩濃度が比較的高く、雑菌の繁殖が起こりにくい等の点から、Pramer培地が特に好ましく用いられる。なお、Pramer培地やATCC培地に類似した組成の培地(例えば、Pramer培地やATCC培地における各種塩の代替塩を用いた培地等)を用いることもできる。表1に、Pramer培地及びATCC培地の組成を示す。 例えば、表1に示す組成のPramer培地をベースとする場合、Pramer培地は、銅を全く含まないため、銅化合物を、銅イオン及び/又は銅錯体として、好ましくは2.12〜42.4μg/L、より好ましくは2.12〜4.24μg/L含むように添加することにより、本発明で用いられる凍結保存菌株復元用培地及び継代培養用培地を調製することができる。 また、表1に示す組成のATCC培地をベースとする場合、ATCC培地は緩衝能力が低いため、Pramer培地と同様のリン酸添加量とすることにより、本発明で用いられる凍結保存菌株復元用培地及び継代培養用培地を調製することができる。なお、銅については、元々十分な濃度の銅が含まれているため、これ以上添加する必要はない。 本発明のアンモニア酸化細菌の培養方法においては、上記所定の濃度のリン酸及び銅を含む凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地を用いて、常法にしたがってアンモニア酸化細菌を培養すればよい。 例えば、凍結保存したアンモニア酸化細菌を復元する場合は、適切に保存された凍結保存菌株を、上記凍結保存菌株復元用培地に植菌して、30℃程度で4〜6日間振とう培養(振とう機回転数150〜180rpm)すればよい。 なお、アンモニア酸化細菌凍結保存菌株は、例えば、アンモニア酸化細菌をPramer培地やATCC培地、あるいは上記凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地を用いて培養して得られた培養液を濃縮し、この濃縮液と当量の20%(v/v)グリセロールを添加して−80℃以下で凍結保存することにより調製することができる。 一方、継代培養する場合は、一定温度(通常、30℃程度)で所定期間(アンモニア酸化細菌の場合は1週間程度)培養して得られた培養液の一部、あるいは5〜10℃で適当な期間保存された前培養液を、上記継代培養用培地に、通常、5〜20%(v/v)接種して、30℃で4〜6日間振とう培養すればよい。そして、所定期間培養した後、上記と同様にして培養液の一部を、新しい継代培養用培地に植え継いでいけばよい。 以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例において、アンモニア酸化細菌はニトロモナス・ユーロパエア(Nitrosomonas europaea:ATCC25978)を用い、培地調製水は、純水製造装置(商品名「Elix10」、Millipore社製)で製造した純水(比抵抗:15MΩ以上)を用いた。また、アンモニア酸化細菌の培養状態の良否は、JIS K 0101(工業用水試験方法 37.1.1 ナフチルエチレンジアミン吸光光度法)にしたがって培養液の亜硝酸態窒素(NO2−−N)濃度を測定して判定した。 下記表2に示すPramer培地、ATCC培地及び銅添加Pramer培地(銅添加濃度4.24μg/L)の3種の培地を高圧滅菌して用いた。 アンモニア酸化細菌の凍結保存菌株は、Pramer培地を用いて前培養したアンモニア酸化細菌培養液を20倍濃縮した後、該濃縮液と等量の20%(v/v)グリセロールを添加して調製し、−80℃で保存した。 1ヶ月間冷凍保存したアンモニア酸化細菌凍結保存菌株を、上記3種類の培地に植菌して、温度30℃で6日間振とう培養(振とう機回転数150rpm)を行った。培養期間中、0、2、4、6日目に各培養液をサンプリングして培養液中のNO2−−N濃度を測定した。そして、凍結保存菌株の復元性、作業性、雑菌汚濁の可能性について評価した。それらの結果を表3に示す。 表3に一例を示すように、Pramer培地を用いた場合に比べて、銅添加Pramer培地を用いた場合は、培養終了時のNO2−−N濃度が約2倍であり、硝化・増殖速度が大きく向上していることから、復元性に優れていることが分かる。なお、Pramer培地及び銅添加Pramer培地は、培養期間中にpHの再調整を行う必要がなく、作業性に優れており、雑菌汚染の心配もなかった。 一方、ATCC培地を用いた場合は、硝化・増殖速度が最も速かったが、培養2、4日目のサンプリング時にpHを8.5に再調整する必要があり、Pramer培地や銅添加Pramer培地に比べて作業性や雑菌汚染の点で難点があった。また、培養終了時における培地のpHが8.0であり、培養4日目のpH再調整時からほとんど低下していない場合があった。この場合、培養終了時の培養令が死滅期に移行してしまった可能性が高く、次継代で増殖不良となる懸念があった。 以上の結果から、復元性・作業性・雑菌汚染の観点から3種の培地を総合的に比較した場合、銅添加Pramer培地が凍結保存菌株復元用培地として最も適していると判断された。 上記表2に示すPramer培地及びATCC培地を用いて、アンモニア酸化細菌の継代培養を4回行った。具体的には、Pramer培地及びATCC培地に、アンモニア酸化細菌の前培養液を10%(v/v)接種し、30℃で6日間振とう培養(振とう機回転数150rpm)を行った。そして、新しいPramer培地及びATCC培地に、培養6日目の各培養液をそれぞれ10%(v/v)接種し、上記と同様の条件で培養した。上記のような植え継ぎを計4回行った。なお、各継代培養期間において、0、2、4、6日目に培養液をサンプリングし、培養液中のNO2−−N濃度を測定した。それらの結果を図1及び図2に示す。 図1から分かるように、Pramer培地を用いて継代培養を行った場合、継代培養1回目以降、硝化速度の低下傾向が見られ、培養終了時のNO2−−N濃度が漸減し、継代培養4回目では硝化反応が全く進行しなくなっていることが分かる。これは、Pramer培地組成には含まれていない、硝化反応に必要な何らかの物質が培地調製水に不足しており、継代を重ねるごとに培養液中の上記物質濃度が低下して、硝化速度が低下するものと考えられた。Pramer培地では培地調製水の水質によって、アンモニア酸化細菌の安定した継代培養が困難な場合があることから、Pramer培地組成に硝化・増殖速度を促進する物質を加える必要があることが示唆された。 一方、図2から分かるように、ATCC培地を用いた場合、継代培養3回目までは培養終了時のNO2−−N濃度が620〜730mg/Lであり、良好な培養状態であったが、継代培養4回目で突然、硝化反応が全く進行しなくなった。これは、継代培養3回目において、培養4日目のNO2−−N濃度が700mg/Lであり、培養終了時のNO2−−N濃度とほとんど変わらないことから、硝化・増殖速度が速すぎて、培養終了時の培養令が死滅期に移行してしまったことが原因であると考えられた。 そこで、硝化・増殖速度を低下させるため、前培養液を5%(v/v)接種した場合についても検討したが、10%(v/v)接種の場合と同様の現象が発生することがあった。 以上の結果から、ATCC培地の場合、培養中に培養液のpHが変動しやすく、培養液のpHの再調整が必要であること、菌の接種量を操作することによる硝化・増殖速度の制御も困難であること等から、アンモニア酸化細菌の継代培養による長期菌株保存は困難であることが示唆された。 上記結果を踏まえ、Pramer培地組成には含まれていないが、ATCC培地組成には含まれている硫酸銅・五水和物をPramer培地組成に加え、銅イオン濃度が0.42μg/L(ATCC培地組成の1/100)及び4.24μg/L(ATCC培地組成の1/10)となるように調製した培地(pH8.0)を用いて、上記と同様にしてアンモニア酸化細菌の継代培養を5回行った。それらの結果を図3及び図4に示す。 図3から、銅イオン濃度が0.42μg/Lとなるように硫酸銅・五水和物をPramer培地に添加した培地を用いた場合、継代培養2回目及び3回目では培養終了時のNO2−−N濃度が340mg/Lであり、良好な培養状態であることが分かる。しかし、継代培養4回目以降は、銅無添加のPramer培地の場合と同様に硝化速度の低下傾向が見られ、培養終了時のNO2−−N濃度が漸減していることが分かる。 一方、図4から、銅イオン濃度が4.24μg/Lとなるように硫酸銅・五水和物をPramer培地に添加した培地を用いた場合、継代培養1〜2回目において、銅無添加Pramer培地の結果とは異なり、硝化速度の上昇傾向が見られ、継代培養2回目以降においても培養終了時のNO2−−N濃度が460〜470mg/Lと安定していることが分かる。 更に、銅イオン濃度の条件を詳細に調べるために、Pramer培地に銅イオン濃度が0.42、0.84、2.12、4.24μg/Lとなるように硫酸銅・五水和物を添加した培地(pH8.0)を用いて継代培養を12回行った。その結果を図5に示す。 図5から、銅イオン濃度が0.42μg/Lの場合には、NO2−−N濃度が初期値に対して40%減少しており、継代培養を繰り返すことによってアンモニア酸化細菌の活性が低下していることが分かる。一方、銅イオン濃度が0.84μg/L以上の場合は、NO2−−N濃度の減少が見られず、継代培養を繰り返してもアンモニア酸化細菌の活性が良好に維持されていることが分かる。 以上の結果から、Pramer培地に所定濃度以上の銅イオンを添加することにより、アンモニア酸化細菌の硝化反応が促進され、硝化速度が向上することが分かった。そして、培養液中の銅イオン濃度が0.42μg/Lでは不充分であるが、0.84μg/L以上では、安定した継代培養を長期継続することができることが示唆された。 また、継代培養安定性・作業性・雑菌汚染の観点から、Pramer培地、ATCC培地及び銅添加Pramer培地の3種の培地を総合的に比較した結果を表4に示す。 表4から、銅添加Pramer培地が継代培養用培地として最も適していると判断された。 また、銅イオン濃度が4.24μg/Lの条件で4回の継代培養を行った後、継代培養の5回目において、銅イオン濃度が42.4μg/L(ATCC培地組成と同濃度)及び424μg/L(ATCC培地組成の10倍)となるように調製した培地を用いて、培養を並列して行った。その結果を図6に示す。 図6に示すように、銅イオン添加濃度が4.24、42.4μg/Lの条件間では、硝化速度にほとんど違いがみられなかったが、424μg/Lの条件では、上記2条件と比較して硝化速度が低下していることが分かる。この結果は、アンモニア酸化細菌バイオセンサの毒性試験結果において、高濃度(mg/Lオーダー)の銅イオンは、アンモニア酸化細菌の硝化反応に対して阻害作用を示すという知見と一致している。 以上の結果から、Pramer培地に、銅イオン濃度が0.84〜42.4μg/Lとなるように銅化合物を添加することにより、継代培養によるアンモニア酸化細菌の硝化・増殖速度の低下を防ぎ、安定して継代培養を行うことができることが分かった。 本発明の方法は、アンモニア酸化細菌の継代培養や凍結保存菌株を復元する際に、アンモニア酸化細菌の硝化・増殖速度を適度に向上させることができ、アンモニア酸化細菌の長期菌株保存及び復元を作業性よく安定して行うことができるので、例えば、バイオセンサ応用水質計測器に用いられるアンモニア酸化細菌の培養方法に好適である。Pramer培地を用いて、アンモニア酸化細菌(ATCC25978)の継代培養を行った際の培養液中の亜硝酸態窒素濃度を測定した結果を示す図である。ATCC培地を用いて、アンモニア酸化細菌(ATCC25978)の継代培養を行った際の培養液中の亜硝酸態窒素濃度を測定した結果を示す図である。銅添加Pramer培地(Cu:0.42μg/L)を用いて、アンモニア酸化細菌(ATCC25978)の継代培養を5回行った際の培養液中の亜硝酸態窒素濃度を測定した結果を示す図である。銅添加Pramer培地(Cu:4.24μg/L)を用いて、アンモニア酸化細菌(ATCC25978)の継代培養を5回行った際の培養液中の亜硝酸態窒素濃度を測定した結果を示す図である。各濃度の銅添加Pramer培地(Cu:0.42〜4.24μg/L)を用いて、アンモニア酸化細菌(ATCC25978)の継代培養を12回行った際の培養液中の亜硝酸態窒素濃度を測定した結果を示す図である。銅添加Pramer培地(Cu:4.24μg/L)を用いて、アンモニア酸化細菌(ATCC25978)の継代培養を4回行った後、銅イオン濃度が42.4μg/L及び424μg/Lとなるように調製した培地で5回目の継代培養を行った際の培養液中の亜硝酸態窒素濃度を測定した結果を示す図である。 凍結保存したアンモニア酸化細菌を復元する際に、凍結保存菌株復元用培地として、リン酸及び銅を含む培地を用いることを特徴とするアンモニア酸化細菌の培養方法。 アンモニア酸化細菌を継代培養する際に、継代培養用培地として、リン酸及び銅を含む培地を用いることを特徴とするアンモニア酸化細菌の培養方法。 前記凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地として、銅を銅イオン及び/又は銅錯体として0.8〜42.4μg/L含む培地を用いる、請求項1又は2に記載のアンモニア酸化細菌の培養方法。 前記凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地のベース培地として、Pramer培地を用いる、請求項1〜3のいずれか一つに記載のアンモニア酸化細菌の培養方法。 【課題】 アンモニア酸化細菌の継代培養や凍結保存菌株を復元する際に、アンモニア酸化細菌の硝化・増殖速度を適度に向上させることができ、アンモニア酸化細菌の長期菌株保存、及び復元を、作業性よく、安定して行うことができるアンモニア酸化細菌の培養方法を提供する。【解決手段】 アンモニア酸化細菌の凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地として、リン酸及び銅を含む培地を用いる。前記培地として、銅を銅イオン及び/又は銅錯体として0.8〜42.4μg/L含む培地を用いることが好ましい。また、前記凍結保存菌株復元用培地又は継代培養用培地のベース培地として、Pramer培地を用いることが好ましい。【選択図】 なし