タイトル: | 公開特許公報(A)_D型ボツリヌス神経毒素の精製法 |
出願番号: | 2003322193 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C07K14/33,A61K35/74,A61P21/00,A61P25/08,A61P25/28,A61P27/02,C07K1/16,C07K1/34 |
大山 徹 渡部 俊弘 JP 2005089336 公開特許公報(A) 20050407 2003322193 20030912 D型ボツリヌス神経毒素の精製法 学校法人東京農業大学 598096991 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 遠山 勉 100089244 大山 徹 渡部 俊弘 7C07K14/33A61K35/74A61P21/00A61P25/08A61P25/28A61P27/02C07K1/16C07K1/34 JPC07K14/33A61K35/74 GA61P21/00A61P25/08A61P25/28A61P27/02C07K1/16C07K1/34 3 1 OL 8 4C087 4H045 4C087AA01 4C087AA02 4C087AA05 4C087BC68 4C087CA10 4C087NA05 4C087ZA06 4C087ZA15 4C087ZA29 4C087ZA33 4C087ZA94 4H045AA20 4H045AA30 4H045CA11 4H045DA83 4H045EA20 4H045FA73 4H045GA22 本発明は、D型ボツリヌス神経毒素の精製法に関する。 従来より、斜視、斜頸、眼瞼や顔面の痙攣、各種のジストニアなどの治療が行われており、ボツリヌスA型(分子量90万)あるいはB型(50万)毒素複合体が使用されている。しかし、いずれも高い有効性と安全性が認められているものの、毒素複合体を用いるため、複数回投与を繰り返した場合、約10%の患者において抗体価の上昇が認められ、以後の治療が困難になることが報告されている。このような毒素投与による抗体産生を防ぐため、毒素複合体から分離・精製した分子量約15万の神経毒素を用いて、ヒトに対する応用が試みられている。 C、DおよびF型の神経毒素は、治療に際して最初に使用されるAまたはB型神経毒素に対して、抗体が産生された場合の代わりの治療薬として使用可能となり、長期に渡る治療などに有用と考えられる。また、C、DおよびF型の神経毒素は、上記疾患のみならず、脳血管障害後遺症や脳性麻痺などの痙縮における使用の可能性も考えられることから、我が国の医療にも大きな貢献が期待される。 神経毒素の分離方法については、弱アルカリ条件下での毒素複合体からの神経毒素の分離が知られている(例えば非特許文献1参照)。しかしながら、非ニック型D型毒素複合体からの神経毒素からの分離は報告されていない。G. Sakaguchi, Pharmacol. Ther. 1983, 19: 165-194 本発明の課題は、従来の方法では、神経毒素を分離することが困難であった、D型4947株の産生する毒素複合体のようにニックの全く入っていない毒素複合体(特にL毒素)から神経毒素を分離する方法を提供することである。 本発明者らは、緩衝液のpHや濃度の様々な条件により、精製L毒素からの神経毒素の分離・精製法を検討した結果、高塩濃度かつ高pHの条件で分離を行うことにより、非ニック型D型毒素複合体からでも効率よくD型ボツリヌス神経毒素を精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、以下のものに関する。 (1)非ニック型D型ボツリヌス毒素複合体を、0.15〜0.8MのNaClに相当する塩濃度かつpH7.8〜11の条件下でゲルろ過し、分離されたD型ボツリヌス神経毒素を回収することを含むD型ボツリヌス神経毒素の精製法。 (2)(1)の精製法により得られたD型ボツリヌス神経毒素。 (3)(2)記載のD型ボツリヌス神経毒素を有効成分とする医薬。 本発明の精製法によれば、D型4947株が産生する毒素複合体のようにニックの全く入っていない毒素複合体(特にL毒素)であっても、それから神経毒素を分離することができる。しかも分離した神経毒素は、再構成実験によってその安定性が認められ、精製後においてもその活性を十分に維持していると考えられる。 本発明の精製法は、非ニック型D型ボツリヌス毒素複合体を、0.15〜0.8MのNaClに相当する塩濃度かつpH7.8〜11の条件下でゲルろ過し、分離されたD型ボツリヌス神経毒素を回収することを特徴とする。 ボツリヌス神経毒素とは、ボツリヌス毒素複合体を構成する無毒蛋白質から分離された神経毒素を意味する。非ニック型とは、毒素複合体を形成するポリペプチドに切断(ニック)の存在しないことを意味する。 毒素複合体は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等を適宜組み合わせて精製することができる。例えばMiyazaki, S., et al., Infect. Immun., 17, 395, 1977、Kouguchi, H. et al. J. Biol. Chem., 277, 2650-2656(2002)に記載された方法により精製することが可能である。 具体的には非ニック型毒素複合体を産生するD型ボツリヌス菌の培養上清から、毒素複合体を例えば硫安塩析、プロタミン処理等の方法により濃縮する。その後、例えば陽イオン交換クロマトグラフィーにより粗精製し、毒素活性のある分画を集めて、更にゲルろ過や、アフィニティークロマトグラフィーで精製する。アフィニティークロマトグラフィーとしては、例えばβ-ラクトースゲルカラムに吸着させ、β-ラクトースで溶出させる方法があげられる。毒素活性は、例えばマウス腹腔内注射法(マウス腹腔内に投与してLD50から毒素活性を求める方法)により測定し、マウス1LD50を1単位とする。また、場合によってはマウスを死亡させる最小致死量を1MLDとして表示することも許される。D型ボツリヌス細菌は好ましくはD-4947株である。 ゲルろ過の工程は、0.15〜0.8M、好ましくは0.4〜0.8MのNaClに相当する塩濃度かつpH7.8〜11、好ましくは8.8〜11の条件とする他は、通常の方法に従って行うことができる。塩の種類は特に限定されず、イオン強度が上記濃度のNaClに相当する濃度で使用すればよい。このような条件でゲルろ過を行うことにより、従来の方法によっては、分離が困難であった神経毒素と無毒蛋白質とを分離することができる。分離した神経毒素は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過等の方法で、あるいはそれらを組み合わせることにより精製することができる。 場合によっては、毒素複合体を単離する工程を経ずに、最初から上記の条件でゲルろ過を行い、神経毒素を精製することも許される。 本発明の医薬は、上記のように精製したボツリヌス神経毒素を有効成分とするものであるが、必要により、精製したボツリヌス神経毒素とボツリヌス神経毒素安定化物質を含んでなる医薬組成物としてもよい。 ボツリヌス神経毒素安定化物質は、上記の組成物が保存される条件において、ボツリヌス神経毒素を安定化することができかつボツリヌス神経毒素の筋緊張疾患治療効果の即効性を損なわないものであればよい。安定化は、ボツリヌス神経毒素をその物質の存在下及び非存在下で保存し、ボツリヌス神経毒素の毒素活性を、存在下の場合と非存在下の場合との間で比較することにより評価できる。即効性を損なうか否かは、ボツリヌス神経毒素をその物質の存在下及び非存在下で保存し、ボツリヌス神経毒素の上記治療効果を、存在下の場合と非存在下の場合との間で比較することにより評価できる。 ボツリヌス神経毒素安定化物質の例としては、ヒト血清アルブミンが挙げられる。 本発明における好ましい医薬組成物は、精製したボツリヌス神経毒素をヒト血清アルブミンと混合する工程により製造することができる。従って、本発明は、(1)ボツリヌス神経毒素を精製する工程、(2)ボツリヌス神経毒素をヒト血清アルブミンと混合する工程を含んでなる、ボツリヌス神経毒素を含んでなる医薬組成物を製造する方法も提供する。 ボツリヌス神経毒素を精製する工程は、上述のようにして行うことができる。また、精製工程の後は、ボツリヌス神経毒素をヒト血清アルブミンと混合する工程を含む限り、特に限定されず、例えばボツリヌス神経毒素とボツリヌス神経毒素安定化物質を溶媒に溶解後、無菌ろ過し、アンプル、バイアル等に充填して本発明の組成物を製造することができる。また、ボツリヌス神経毒素を予めボツリヌス神経毒素安定化物質を溶解した溶媒に溶解後、無菌ろ過しアンプル等に充填することもできる。溶媒は、注射用蒸留水、生理食塩水、0.01M〜0.1Mのリン酸緩衝液等を用いることができ、必要に応じて、エタノール、グリセリン等を混合することもできる。 更に、ボツリヌス神経毒素とボツリヌス神経毒素安定化物質を溶媒に溶解後、無菌ろ過し、バイアル等に充填後、凍結乾燥して発明の組成物を製造することもでき、また、ボツリヌス神経毒素とボツリヌス神経毒素安定化物質を混合後、バイアル等に無菌充填して本発明の医薬組成物を製造することもできる。 具体的には、精製した神経毒素を、神経毒素安定化物質、好ましくはヒト血清アルブミン、更に好ましくはヒトでの安全性が確保された日赤ヒト血清アルブミンを、最終濃度が0.1〜5 mg/ml、好ましくは0.5〜2 mg/mlになるように加え、冷蔵保存、冷凍保存あるいは凍結乾燥することが挙げられる。 本発明の治療剤には、必要に応じさらに、マンニトール、グルコース、乳糖等の糖類、食塩、リン酸ナトリウム等の添加剤を混合することができる。溶解状態での本発明にかかる医薬組成物のpHは、通常3〜8であり、好ましくは4〜7であり、より好ましくは5〜7である。 本発明の医薬の治療対象となる疾患としては、斜視、斜頸、眼瞼や顔面の痙攣、ジストニア脳血管障害後遺症や脳性麻痺などの痙縮、ジストニア、他の不随意運動、異常筋収縮その他が挙げられる。 本発明の医薬は、治療に有効な量投与される。ヒトに投与する場合、その投与形態は好ましくは局所的投与、更に好ましくは筋肉内注射であるが、全身に送達する投与法も除外されない。また、それらの投与タイミングや投与量も、特に限定されず、症状の程度等により異なる。投与量は症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態等に応じて異なるが、例えば成人ならば1〜50単位を、好ましくは5〜300単位を、1回筋肉内注射する。ここで1単位とは、マウスに腹腔内投与した時に半数のマウスが死亡する毒素の量(1LD50)である。 本発明を下記実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれに限られるものではない。 (1)菌株及び培養 Clostridium botulinum D-4947を用いた。毒素産生は、SyutoおよびKubo(Jpn. J. Vet. Res. 20, 19-30(1972))の透析培養法に従った。すなわち、1 l容の大試験管へ2%ポリペプトン(日本製薬)、2% ラクトアルブミン(和光純薬)、1%ペプトン(極東製薬工業)および1%イーストエキストラクト(Difco)からなるpH 7.6の培養液1 lを満たし、この培養液の中に20%グルコース、4% NaClおよび1%システイン塩酸塩を含む50 mlの透析内液およびボツリヌス菌の懸濁液10 mlを入れた透析チューブを挿入し、37℃で5日間培養した。 (2)毒素複合体の分離・精製 培養液を10,000×Gで20分間遠心分離して菌体を除き、培養上澄み液を得た。その上澄み液へ60%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、毒素タンパク質画分を沈殿させた。沈殿は0.2 M NaClを含む50 mM 酢酸緩衝液(pH 4.0)に溶解させた後、同緩衝液に対して透析した。透析液は、あらかじめ同緩衝液で平衡化したSP-Toyopearl 650Sカラム(1.6×30 cm)に負荷した。吸着した毒素を0.2〜0.8 M NaCl濃度勾配によって溶出させ、L毒素画分を回収した。0.15 M NaClを含む50 mM リン酸緩衝液(pH 6.0)で平衡化したHiLoad 16/60 Superdex 200pgゲルろ過カラム(1.6×60 cm)に負荷し、L毒素を分離した。L毒素画分を20 mM 酢酸緩衝液(pH 5.0)で平衡化したMono Sカラムに負荷し、吸着した毒素を0〜0.5 M NaCl濃度勾配によって溶出し、精製した。純度はSDS-PAGEおよびネイティブ-PAGEにより検定した。 (3)神経毒素の分離・精製 神経毒素の分離・精製条件を検討するため、精製L毒素標品を表1に示す種々の緩衝液に対して一晩透析した。タンパク質量は、ウシ血清アルブミンを標準タンパク質として、BCA protein assay kit(Pierce)によって定量した。タンパク質量500μgの透析液をあらかじめ同緩衝液で平衡化したSuperdex 200 HR 10/30ゲルろ過カラム(1.0×30 cm)に負荷し、得られたゲルろ過クロマトグラムから、神経毒素が分離しないL毒素および無毒成分複合体を含む画分と神経毒素のみの画分の溶出面積比を求めた。また、L毒素および無毒成分複合体を含む画分のSDS-PAGEバンドパターンをデンシトメトリー(NIH Image)により測定し、分離効率(%)を算出した。 結果を図1に示す。得られたゲルろ過クロマトグラムから、神経毒素が分離しないL毒素および無毒成分複合体を含む画分と神経毒素画分の溶出面積比を求めた結果、0.4 M NaClを含む20 mM Tris-HCl(pH 8.8)を用いた時、神経毒素の分離が最も良いことが判明した。SDS-PAGEバンドパターンのデンシトメトリーにより、神経毒素の分離効率は約90%であった。 (4)無毒成分複合体の精製 アルカリ条件下でのゲルろ過クロマトグラフィーにより得られたL毒素および無毒成分複合体を含む画分を、あらかじめ20 mM Tris-HCl(pH 7.8)で平衡化したMono Qカラムに負荷し、0〜0.5 M NaCl濃度勾配によって溶出した。精製した無毒成分複合体の純度は、SDS-PAGEにより検定した。 (5)分離成分の再構成 精製した神経毒素標品および無毒成分複合体標品を、それぞれ0.15 M NaClを含む50 mMリン酸緩衝液(pH 6.0)に対して一晩透析した。両画分をモル比1:1で混合し、同緩衝液で平衡化したSuperdex 200 HR 10/30ゲルろ過カラム(1.0×30 cm)に負荷した。各成分の再構成は、溶出画分の溶出位置およびSDS-PAGEバンドパターンにより観察した。 結果を図2及び図3に示す。図2に示すように、0.15 M NaClを含む50 mM リン酸緩衝液(pH 6.0)に対して一晩透析した神経毒素と無毒成分複合体をモル比1:1で混合し、Superdex 200 HR 10/30ゲルろ過カラムに負荷すると、神経毒素および無毒成分複合体とは異なる溶出容積10.26 mlの位置に新しいピークの出現が確認された。この画分をSDS-PAGEに供すると、図3に示すようにL毒素と同様の電気泳動バンドパターンが見られたことより、L毒素への再構成が認められた。従って、この精製法により精製された神経毒素は精製の間安定であったことが分かった。D-4947 L毒素のゲルろ過クロマトグラムを示す。神経毒素(NT)と無毒成分複合体(NTNHA/HAs)の再構成の結果を示す。ゲルろ過クロマトグラフィーの溶出画分のSDS-PAGEの結果を示す。非ニック型D型ボツリヌス毒素複合体を、0.15〜0.8MのNaClに相当する塩濃度かつpH7.8〜11の条件下でゲルろ過し、分離されたD型ボツリヌス神経毒素を回収することを含むD型ボツリヌス神経毒素の精製法。請求項1の精製法により得られたD型ボツリヌス神経毒素。請求項2記載のD型ボツリヌス神経毒素を有効成分とする医薬。 【課題】 非ニック型D型ボツリヌス神経毒素を精製する方法を提供する。 【解決手段】 非ニック型D型ボツリヌス毒素複合体を、0.15〜0.8MのNaClに相当する塩濃度かつpH7.8〜11の条件下でゲルろ過し、分離されたD型ボツリヌス神経毒素を回収することを含むD型ボツリヌス神経毒素の精製法、この精製法により得られたD型ボツリヌス神経毒素、及び、このD型ボツリヌス神経毒素を有効成分とする医薬。【選択図】 図1