タイトル: | 公開特許公報(A)_チオール化合物の製造方法 |
出願番号: | 2003305668 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C07C319/02,C07C323/12,C08G59/16,C07C327/28 |
道井 誠 奥村 美明 田中 秀人 JP 2005075746 公開特許公報(A) 20050324 2003305668 20030829 チオール化合物の製造方法 日本ペイント株式会社 000230054 道井 誠 奥村 美明 田中 秀人 7C07C319/02C07C323/12C08G59/16C07C327/28 JPC07C319/02C07C323/12C08G59/16C07C327/28 7 OL 7 4H006 4J036 4H006AA02 4H006AC63 4H006TA04 4H006TB35 4J036AA01 4J036CC01 4J036JA15 本発明は、エポキシ化合物からチオールエステルを経てチオール化合物を得る、チオール化合物の製造方法に関する。 チオール化合物は−SHで表されるチオール基を有する化合物である。ペプチドやタンパク質などの生体成分にはこのチオール基を有するものがあり、それぞれ重要な機能に関与していることが知られている。また、チオール基と金属とが強い相互作用を有することが知られており、最近では、アルキルチオール類を金表面に吸着させた自己組織化単分子膜の応用が検討されている。また、複数のチオール基を有するチオール化合物は、硬化剤としての利用が検討されている。 このチオール化合物の製造方法としては、特に複数のチオール基を有する化合物を得るのに、エポキシ化合物に硫化水素を反応させる方法がよく知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、ここで用いられる硫化水素は、悪臭防止法施行令で特定悪臭物質に指定されており、また、労働安全衛生法施行令で特定化学物質等に指定され、中毒により死亡するおそれのある有毒な気体である。また、硫化水素が気体であることから、密閉系で反応を行う必要があるなど製造上の制約を有している。これらのことから、硫化水素を使用しないチオール化合物の製造方法が求められている。特開平11−209459号公報(3ページ4段21行目〜4ページ5段32行目) 本発明の目的は、硫化水素を使用しないチオール化合物の製造方法を提供することにある。 本発明のチオール化合物の製造方法は、エポキシ基を有するエポキシ化合物に、チオカルボン酸を反応させてチオールエステル化を行う工程、上記工程で得られたチオールエステルを加水分解してチオール化合物を得る工程からなるものである。ここで上記エポキシ化合物が少なくとも2個のエポキシ基を有するものであってよい。また、上記エポキシ化合物が有するエポキシ基のモル量と上記チオカルボン酸が有するチオカルボキシル基のモル量との比率が、20/80〜45/55であってよい。さらに、上記エポキシ化合物がポリグリシジルエーテル、またはエポキシ樹脂であってよい。 本発明のチオール化合物は先に記載の製造方法により得られたものである。 本発明のチオール化合物前駆体は、先に記載の製造方法におけるチオールエステル化工程で得られたものである。 本発明の製造方法は、有害な気体である硫化水素を使用せずにチオール化合物を得ることができるので、製造に関与する人の健康を損なうおそれを低減できるとともに、製造装置を密閉系にする必要がなく、製造上の制約を受けにくい。 また、本発明の製造方法は、原料としてエポキシ化合物を使用するので、この原料エポキシ化合物を基本骨格とする種々のチオール化合物を得ることができる。 さらに本発明のチオール化合物前駆体は、水の添加により比較的穏和な条件で加水分解してチオール化合物を生成するので、有用性が高い。 本発明のチオール化合物の製造方法は、基本的に2つの工程からなる。第1の工程は、エポキシ基を有するエポキシ化合物に、チオカルボン酸を反応させてチオールエステル化を行う工程である。上記エポキシ化合物は、少なくともエポキシ基を1つ持つ化合物であればよく、好ましくは、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物である。なお、本明細書における「化合物」には、高分子のものも含まれる。 上記エポキシ基を1つ持つ化合物の例として、ブチルグリシジルエーテルやフェニルグリシジルエーテルが挙げられる。一方、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物として、多価アルコールのポリグリシジルエーテルがある。上記多価アルコールのうち、2価のアルコールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物、1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。さらに3価以上のアルコールとして、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられる。なお、上記多価アルコールが3価以上である場合には、少なくとも2個の水酸基がグリシジルエーテル化されていればよく、水酸基が残存していてもよい。上記多価アルコールのポリグリシジルエーテルの中で、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。 また、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物はエポキシ樹脂であってもよく、このようなエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ノボラック型エポキシ樹脂、イソシアヌル酸エポキシ樹脂、テレフタル酸エポキシ樹脂などが挙げられる。また、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物は、エポキシ基を有するアクリル樹脂であってもよく、この場合、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有するアクリルモノマーを、当業者によく知られた方法で単独重合または共重合させることにより、上記エポキシ基を有するアクリル樹脂が得られる。上記エポキシ基を有するアクリル樹脂は、そのエポキシ当量を調節しやすいので有用である。上記少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物がエポキシ樹脂またはアクリル樹脂である場合、エポキシ基1個あたりの分子量を示すエポキシ当量は、150〜15000であるものが好ましい。150未満のものはその入手が困難であり、15000を超えると導入されるチオール基の量が十分でない。 本発明のチオール化合物の製造方法では、上記エポキシ基を有するエポキシ化合物にチオカルボン酸を反応させる。上記エポキシ基を有するエポキシ化合物がフェニルグリシジルエーテルであり、上記チオカルボン酸がチオ酢酸であるモデルケースを想定した場合、この工程はチオールエステルが生じる下記の式(1)で表されると考えられる。 上記チオカルボン酸の具体的なものとして、チオ酢酸やチオ安息香酸などが挙げられる。反応性の点から上記チオール化合物として、チオ酢酸を用いることが好ましい。 上記チオールエステル化工程において、上記エポキシ化合物が有するエポキシ基のモル量と上記チオカルボン酸が有するチオカルボキシル基のモル量との比率は、20/80〜45/55に設定されることが好ましい。下限値のさらに好ましい値は、40/60である。上記比率が20/80未満だと、残存するチオカルボン酸の量が多いため効率的でなく、45/55を超えると反応を終了させるのに時間がかかる他、官能基濃度が高い場合には、エポキシ基が開環して生じた2級OHと未反応のエポキシ基とが反応することにより、ゲル化してしまうおそれがある。 上記チオールエステル化工程では、系内でエポキシ基の量よりもチオカルボキシル基の量が過剰となるように滴下条件などを設定することが好ましい。また、上記チオールエステル化工程における反応温度は、用いる原材料が分解しなければ特に限定されないが、例えば、40〜200℃で行うことができる。さらに好ましい反応温度は60〜110℃である。反応には、カルボン酸とエポキシ基との反応に用いられる触媒を使用することも可能である。なお、上記チオールエステル化工程には、通常、溶媒は必要ないが、用いるのであれば、エポキシ基およびチオカルボキシル基と反応しないものが選択される。 上記チオールエステル化工程の終了は、エポキシ基の消失やチオールエステル化の進行度合いについて、一般的分析手法により測定を行い、この結果に基づいて反応終了を判断することができる。例えば、エポキシ基の消失確認には、エポキシ基の量を滴定により測定し、その量が反応を行う前の5%以内に入れば、反応終了と判断することができる。一方、チオールエステル化については、IRスペクトルにおける1690cm−1のピークの増加が飽和した状態をもって反応が終了したものと判断することができる。なお、反応時間は通常、30分〜5時間程度である。 上記チオールエステル化工程が終了してから、後述するように得られた反応生成物を精製することも可能であるが、通常はそのまま次の工程に移る。 本発明のチオール化合物の製造方法における第2の工程は、加水分解工程である。この加水分解工程では、上記チオールエステル化工程で得られたチオールエステルに水を加えて加水分解を進行させることによってチオール化合物を得る。先の工程の反応を説明するのに用いた式(1)において得られるチオールエステルをモデル化合物として用いると、この工程の加水分解反応は下記の式(2)で表されると考えられる。 上記水の添加は、上記チオールエステル化工程の生成物に対して行われる。通常、水を添加することにより、加水分解反応は速やかに進行するため、特に系を加熱しなくても構わない。この工程で添加する水の量は、先の工程で生成したチオールエステル基に対して等モル倍の量であることが好ましく、1.1倍以上であることがさらに好ましい。上限は特に規定されないが、添加する水によって系が極端に不相溶な状態になることは避けることが好ましい。なお、上記先の工程で生成したチオールエステル基の量は、原料として用いたエポキシ化合物が有するエポキシ基の量とみなしてよい。また、触媒については特に使用しなくてもよい場合が多いが、先の工程でチオカルボン酸とエポキシ基との反応に用いられる触媒を使用した場合、これがそのまま触媒として作用する可能性が高い。また、先の工程で触媒を使用しなかった場合に用いることができる触媒は、有機、無機を問わない、一般的な酸または塩基化合物である。溶媒は先のチオールエステル化工程と同様、特に用いる必要はないが、添加する水と先の工程の反応生成物との相溶性が十分でない場合には、セロソルブ類、ケトン類、ピロリドン類などの水と混和しやすい溶剤を適量用いることもできる。 上記加水分解反応の終点は、IRスペクトルにおける1690cm−1のピークに基づくチオールエステル基の消失や生成したチオール基の量をヨウ素で滴定して調べることで判断できる。例えば、原料として用いたエポキシ基の量と同程度のチオール基が生成していることが上記滴定により確認できれば反応終了の判断とすることができる。反応時間は、通常、10分〜2時間程度である。 加水分解反応終了後、得られたチオール化合物は、通常、系の溶媒となっている水と不相溶である場合にはデカンテーションによって取り出すことができる。取り出されたチオール化合物は、加水分解反応で生成するカルボン酸や溶媒などを除くために、水や希塩酸で洗浄することが好ましい。また、得られたチオール化合物が系に溶けている場合には、減圧下での濃縮や水/キシレンなどを用いた汎用な分液法により、チオール化合物を取り出すことが可能である。また、さらに必要に応じて、蒸留やカラムクロマトグラフィーを用いた一般的によく知られた精製方法を適用することもできる。 このようにして得られるチオール化合物は、種々の分析方法によりその構造を確認することができる。例えば、チオール基の存在については、IRスペクトルにおけるチオール基に帰属される2550cm−1のピーク確認により可能であり、また、ヨウ素による滴定によりチオール基の定量が可能である。いずれにせよ、当業者であれば、原料として用いたエポキシ化合物およびチオカルボン酸から、どのような構造のチオール化合物が得られ、その構造をどうやって特定するかを決定することはそれほど困難ではない。 なお、先のチオールエステル化工程で得られる反応生成物は、水を加えることにより、容易にチオール化合物を得ることができることから、チオール化合物前駆体と見なすことができる。このチオールエステル化工程で得られたチオール化合物前駆体も本発明の1つである。先のチオール化合物の製造方法についての説明では、上記チオールエステル化工程の終了後、そのまま次の加水分解工程に移るのが通常であるとしたが、上記チオール化合物前駆体を得るのであれば、当業者によく知られた方法により、上記チオール化合物前駆体を取り出すことが好ましい。取り出されたチオール化合物前駆体は、水分と接触しないようにして保管しておき、必要に応じて水を加えることにより、チオール化合物を得ることができる。フェニルグリシジルエーテルをエポキシ化合物としたチオール化合物の製造<チオールエステル化工程> ジムロート、窒素ガス導入管、温度センサー、フッ素樹脂製の攪拌羽根を取り付けたガラス製の300mlの4つ口セパラブルフラスコにエポキシ化合物として、フェニルグリシジルエーテル64.55g(エポキシ基の量:0.430mol)と、チオ酢酸35.45g(チオカルボキシル基の量:0.466mol)とを量り取り、外部よりマントルヒーターにて80℃まで昇温しながら攪拌した。そのまま80℃で4時間、引き続き100℃で5時間加熱したところ、滴定によって求められたエポキシ基の量が0.02molまで減少するとともに、IRスペクトルにおける1690cm−1のピークの増加が認められなくなったので、加熱を停止して、チオールエステル化を終了した。1H−NMRスペクトル測定により、反応生成物中に70.0gのフェニルグリシジルエーテルのチオールエステル化物が生成していることが確認できた。<加水分解工程> 上記反応生成物(チオールエステル基の量:0.211mol)にブチルセロソルブ57.14gを投入し、80℃まで昇温した。そこへトリエタノールアミン33.19gと脱イオン水45.17g(2.51mol)とからなるアミン水溶液を20分かけ滴下し、10分間エージングを行った後、放冷した。攪拌を止めたところ、系は二層に分離した。IRスペクトル測定により、下層側にチオール基が存在していることが確認できたため、デカンテーションにて上層を除去し、さらに0.1規定の塩酸30mlを加えて洗浄を行い、1H−NMRスペクトルおよびIRスペクトル測定により、1−スルファニル−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロパン34.0gが得られていることが確認された。多価アルコールのポリグリシジルエーテルをエポキシ化合物としたチオール化合物の製造<チオールエステル化工程> エポキシ化合物として、デナコールEX−521(ナガセケムテックス社製、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、エポキシ価183)68.09g(エポキシ基の量:0.372mol)を用いるとともに、チオ酢酸の量を31.91g(チオカルボキシル基の量:0.419mol)とし、加熱を80℃で1時間、引き続き90℃で1.5時間の条件で行う以外は、実施例1のチオールエステル化工程と同様にして行ったところ、滴定によって求められたエポキシ基の量が0.01molにまで減少するとともに、IRスペクトルにおける1690cm−1のピークの増加が認められなくなったので、加熱を停止して、チオールエステル化を終了した。<加水分解工程> 実施例1の加水分解工程において、ブチルセロソルブの量を29.56gとし、トリエタノールアミン47.01gと脱イオン水49.64gとからなるアミン水溶液を用い、さらに0.1規定の塩酸の量を50mlとした以外は同様にして、チオール基濃度3.15mmol/gのポリグリセロール骨格を有するチオール化合物45.5gを得た。エポキシ基を有するアクリル樹脂をエポキシ化合物としたチオール化合物の製造<チオールエステル化工程> エポキシ化合物として、エポキシ基を有するアクリル樹脂(グリシジルメタクリレートとn−ブチルアクリレートとの共重合体、エポキシ価183、平均重量分子量160000、樹脂固形分67.4質量%、酢酸ブチル溶液)87.39g(エポキシ基の量:0.478mol)を用いるとともに、チオ酢酸の量を41.10g(チオカルボキシル基の量:0.540mol)とし、加熱を80℃で1時間、引き続き90℃で4時間の条件で行う以外は、実施例1のチオールエステル化工程と同様にして行ったところ、滴定によって求められたエポキシ基の量が0.02molにまで減少するとともに、IRスペクトルにおける1690cm−1のピークの増加が認められなくなったので、加熱を停止して、チオールエステル化を終了した。<加水分解工程> 実施例1の加水分解工程において、ブチルセロソルブの量を70.0gとし、トリエタノールアミン78.42gと脱イオン水82.81gとからなるアミン水溶液を用い、さらに0.1規定の塩酸の量を80mlとした以外は同様にして、チオール基濃度4.05mmol/gのチオール基を有するアクリル樹脂を固形分で38.5g得た。 本発明は、エポキシ化合物を原料とした、硫化水素を使用しないチオール化合物の製造方法に関する。 エポキシ基を有するエポキシ化合物に、チオカルボン酸を反応させてチオールエステル化を行う工程、前記工程で得られたチオールエステルを加水分解してチオール化合物を得る工程からなる、チオール化合物の製造方法。 前記エポキシ化合物が少なくとも2個のエポキシ基を有するものである請求項1記載のチオール化合物の製造方法。 前記エポキシ化合物が有するエポキシ基のモル量と前記チオカルボン酸が有するチオカルボキシル基のモル量との比率が、20/80〜45/55である請求項1または2記載のチオール化合物の製造方法。 前記エポキシ化合物がポリグリシジルエーテルである請求項1〜3のいずれか1つに記載のチオール化合物の製造方法。 前記エポキシ化合物がエポキシ樹脂である請求項1〜3のいずれか1つに記載のチオール化合物の製造方法。 請求項1〜5のいずれか1つに記載の製造方法により得られたチオール化合物。 請求項1〜6のいずれか1つに記載の製造方法において、チオールエステル化工程で得られたチオール化合物前駆体。 【課題】硫化水素を使用しないチオール化合物の製造方法を提供する。【解決手段】本発明のチオール化合物の製造方法は、エポキシ基を有するエポキシ化合物に、チオカルボン酸を反応させてチオールエステル化を行う工程、上記工程で得られたチオールエステルを加水分解してチオール化合物を得る工程からなるものであり、上記エポキシ化合物は、ポリグリシジルエーテルやエポキシ樹脂などの少なくとも2個のエポキシ基を有するものであってよく、また、上記エポキシ化合物が有するエポキシ基のモル量と上記チオカルボン酸が有するチオカルボキシル基のモル量との比率が、20/80〜45/55であってよい。