生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_コリネ型細菌内で機能する挿入配列
出願番号:2003303577
年次:2005
IPC分類:7,C12N15/09


特許情報キャッシュ

柘植 陽太 二ノ宮 加奈 中田 かおり 鈴木 伸昭 乾 将行 湯川 英明 JP 2005065649 公開特許公報(A) 20050317 2003303577 20030827 コリネ型細菌内で機能する挿入配列 財団法人地球環境産業技術研究機構 591178012 岩谷 龍 100077012 柘植 陽太 二ノ宮 加奈 中田 かおり 鈴木 伸昭 乾 将行 湯川 英明 7C12N15/09 JPC12N15/00 A 4 OL 12 特許法第30条第1項適用申請有り 4B024 4B024AA20 4B024CA02 4B024DA10 4B024EA04 本発明は、コリネ型細菌由来の新規なDNA塩基配列を有する挿入配列(insertion sequence:IS)に関する。 トランスポゾン、挿入配列のような転位因子は、原核細胞・真核細胞において見いだされている。また、微生物の挿入配列は、大腸菌由来のもの、赤痢菌由来のもの、酢酸菌由来のもの、マイコプラズマ由来のものなどにおいて広く研究されている(非特許文献1〜4参照)。 微生物における転位配列の1つである挿入配列には、いくつかの特徴がある。例えば、挿入配列はおよそ1〜2kbの大きさを有しており、その両端にはインバーテッドリピート〔逆方向反復(塩基)配列:inverted repeat (sequence);IR〕が存在している。また、微生物染色体に挿入配列が挿入されたときに、ターゲットDNA塩基配列(転位部位)での重複配列が生じる等である。 近年、コリネ型細菌においても、転位因子である挿入配列やトランスポゾンが相次いで報告されている。具体的には、ISL3ファミリーに属するIS31831、ISCg1、IS13869、IS719、IS714、IS3ファミリーに属するIS1206、IS903、IS30ファミリーに属するISCg2、IS1513、IS256ファミリーに属するIS1249、IS1132などである(特許文献1〜5、非特許文献5〜11参照)。 微生物由来の挿入配列などの転位因子を単離する手法としては、枯草菌由来のsacB遺伝子産物を利用する方法が知られている(非特許文献12、13参照)。 すなわち、sacB遺伝子産物は培地中のスクロースによって誘導生産されるので、本遺伝子を有する大腸菌を、スクロースを含有する培地で培養すると、本遺伝子の発現により、大腸菌は溶菌し、生育阻害をおこすことが知られている(非特許文献14参照)。 そこで、sacB遺伝子を有するプラスミドで大腸菌を形質転換し、スクロースを含有するプレート上に生育可能になった大腸菌からプラスミドを抽出すると、このプラスミド上のsacB遺伝子が欠失もしくは挿入変異(失活)を起こしているものが得られる。この挿入変異(失活)をおこしたものより転位因子を単離することができる。 コリネ型細菌においても、sacB遺伝子は生育阻害を引き起こすことが知られている(非特許文献13参照)。 微生物に関しては、既に100株以上の全ゲノム解析が終了し、近年、コリネ型細菌に関しても全ゲノム配列があいついで決定されている(非特許文献15〜17参照)。 ゲノム情報からの発現機能を重要とするポストゲノム時代に入った現在、コリネ型細菌のような産業上重要な微生物に於いては、より効果的、効率的な遺伝子の組み換えを行なうべく、多数遺伝子導入法、多数遺伝子削除法、そして、繰り返しての染色体DNAに変異、削除、導入等の改質操作が一段と重要性を増している。 挿入配列を利用した形質転換法の場合に、2度目以降に同種の挿入配列を変異、削除又は導入に用いると、制御機構が同一なため1度目に導入した挿入配列が染色体上を再度転位する可能性があり、安定な染色体変異、削除又は導入株を得ることができない。従って、お互いに制御機構が異なる挿入配列を用いることが必要となる。特開平7− 107976号公報特開平9−70291号公報特開平9−70291号公報特開平9−70291号公報)欧州特許出願公開第0252558号公報モル.ジェン.ジェネット(Mol. Gen. Genet),1973年,第122巻,p.267−277ジャーナル オブ バクテリオロジー(J. Bacteriol),1990年,第172巻,p.4090−4099モル.マイクロバイオール(Mol. Microbiol),1993年,第9巻,211−218モル.マイクロバイオール(Mol. Microbiol),1993年,第7巻,577−584バーテス エイ.エイ.(Vertes,A.A.),外4名,モル.マイクロバイオール(Mol.Microbiol),1994年,第11巻,p.739−746ジャガー,ダブル.(Jager,W.),外3名,エフエーエムエス マイクロバイオロジー レターズ (FEMS Microbiol Lett.),1995年,第126巻,p.1−6ジーン(Gene),1996年,第170巻,p.91−94モル.マイクロバイオール(Mol. Microbiol),1994年,第11巻,738−748モル.ジェン.ジェネット(Mol. Gen. Genet),1999年,第262巻,p.568−578モル.ジェン.ジェネット(Mol. Gen. Genet),2000年,第263巻,p.1−11プラスミド(Plasmid),1995年,第34巻,p.119−131ジャーナル オブ バクテリオロジー(J. Bacteriol.),1985年,第164巻,p.918−921ジャーナル オブ バクテリオロジー(J. Bacteriol.),1992年,第174巻,p.5462−5465モル.ジェン.ジェネット(Mol. Gen. Genet),1983年,第191巻,p.138−144野中 寛,外7名,「Corynebacterium glutamicum R ゲノム解析」,日本農芸化学会2003年度大会講演要旨集,2003年4月,p.20イケダ エム.(IkedaM,),外1名,アプリ.ミクロバイオール.バイオテクノール.(Appl Microbiol Biotechnol.),2003年,第62巻,p.99−109ニシオ ワイ.(Nishio Y),外10名,ゲノム リサーチ(Genome Res.),2003年,第13巻,p.1572−1579 本発明の目的は、既知の挿入配列と異なる制御機構により染色体上に変異又は導入を可能とする新規な挿入配列を単離することである。また、本発明の別の目的は、新規な挿入配列が組み込まれたプラスミドを作成すること、又はコリネ型細菌の形質転換体を作成することである。 なお、本発明において、「挿入配列」とは、コリネ型細菌染色体上に存在しており、染色体上もしくはプラスミド上に転位することが可能なDNA塩基配列を意味するものである。 本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、sacB遺伝子を利用する方法により、転位因子の1つである配列番号1に示される配列を有する新規な挿入配列を単離することに成功し、さらに研究を進め、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、(1)コリネ型細菌内で機能する配列番号1に示されるDNA塩基配列を有することを特徴とする挿入配列、(2)挿入配列内に少なくとも一つの薬剤耐性遺伝子を含むことを特徴とする上記(1)記載の挿入配列、(3)染色体上に転位させ、増幅させることを目的として、プラスミドに組み込まれていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の挿入配列、および(4)コリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P−18976)、ATCC13032株又はATCC31831株の形質転換に使用されることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の挿入配列、に関する。 本発明の挿入配列は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来の後記配列表の配列番号1に示されるDNA塩基配列を有することを特徴とする。 そして、本発明の挿入配列は、これまでコリネ型細菌から見出された挿入配列とはDNAレベルで相同性を有さず、また、コリネ型細菌内で機能する既知挿入配列内に存在するトランスポザーゼ遺伝子(アミノ酸レベル)やインバーテッドリピート(DNAレベル)に対しても相同性を有さない新規なものである。 本発明の挿入配列は、後記実施例で示す如く、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)R株(FERM P−18976)、ATCC13032株およびATCC31831株等の幾つかのコリネ型細菌に関して、これまで見出されてきた挿入配列とは異なるものである。 本発明の挿入配列を、供給源微生物であるコリネ型細菌から調製するための基本操作の一例を述べれば次のとおりである。すなわち、本発明の挿入配列は、上記コリネ型細菌、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999株の染色体上に存在し、本菌株を、枯草菌由来のsacB遺伝子を有し、コリネ型細菌内で複製可能なプラスミド、例えばプラスミドpMV5を用いて形質転換し、スクロースを含有するプレート上に塗抹し、生育してくるスクロース耐性株よりプラスミドを抽出することにより、分離取得することができる。 より具体的には、先ず、枯草菌、例えばマールバーグ(Marburg) 株〔Biochem. Biophys. Res. Commun., 第119巻, p.795-800 (1984年)〕の培養物から染色体DNAを抽出する。この染色体DNAを鋳型として、既知のsacBおよびsacR(sacB遺伝子の発現制御遺伝子)遺伝子を含む領域をPCR法により増幅単離する。該増幅DNA断片を大腸菌・コリネ型細菌のシャトルベクターに導入し、このベクターを用いて大腸菌(エシェリヒア・コリ;Escherichia coli)JM109(宝酒造より市販)を形質転換し、形質転換体を取得する。 次いで、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを抽出し、本プラスミドを用いてコリネ型細菌、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999を形質転換し、スクロースを含有するプレート上に生育してくるスクロース耐性株よりプラスミドを抽出する。これらのプラスミドのうち、もとのプラスミドよりサイズが大きくなっているものを選択し、本プラスミドのsacBおよびsacR遺伝子領域に挿入されているDNA断片を単離することにより、挿入配列を分離取得することができる。 このようにして得られる挿入配列の一つとしては、上記コリネ型細菌、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999株の染色体DNA上に存在し、大きさが約1.2kbの断片を挙げることができる。 この約1.2kbの挿入配列を、各種の制限酵素で切断したときの認識部位数および切断断片の大きさを下記第1表に示す。 上記表1において、制限酵素による「認識部位数」は、DNA断片又はプラスミドを制限酵素で完全消化し、それらの消化物をそれ自体公知の方法に従って1%アガロースゲル電気泳動および5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、分離可能な断片の数から決定した値を採用した。 また、「切断DNA断片の大きさ」および「プラスミドの切断DNAの大きさ」は、アガロースゲル電気泳動を用いる場合には、大腸菌のラムダファージ(λphage)のDNAを制限酵素HindIIIで切断して得られる分子量既知のDNA断片の同一アガロースゲル上での泳動距離で描かれる標準線に基づき、また、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いる場合には、大腸菌のファイ・エックス174ファージ(φx174phage)のDNAを制限酵素HaeIIIで切断して得られる分子量既知のDNA断片の同一ポリアクリルアミドゲル上での泳動距離で描かれる標準線に基づき、切断DNA断片およびプラスミドの各DNA断片の大きさを算出する。 なお、各DNA断片の大きさの決定において、1kb以上の断片の大きさについては、1%アガロースゲル電気泳動によって得られる結果を採用し、約0.1kbから1kb未満の断片の大きさについては5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって得られる結果を採用することにより、より正確な断片の大きさを決定することができる。 プラスミドの大きさは、上記により得られた切断断片のそれぞれの大きさを加算して求めることができる。 一方、上記のコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999の染色体DNA由来の挿入配列の塩基配列は、プラスミドpUC118またはpUC119(宝酒造製)を用いるジデオキシヌクレオチド酵素法〔dideoxy chain termination 法、Sanger, F. et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 第74巻, p.5463 (1977年)〕により決定することができる。このようにして決定した上記約1.2kbのDNA断片の塩基配列を有する挿入配列は、後記配列表の配列番号1に示す配列を有するものである。 上記の塩基配列を包含する本発明の挿入配列は、天然のコリネ型細菌染色体DNAから分離されたもののみならず、通常用いられるDNA合成装置、例えばアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製394 DNA/RNAシンセサイザーを用いて合成されたものであってもよい。 また、前記の如くコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999の染色体DNAから取得される本発明の挿入配列は、前記挿入配列の機能を実質的に損なうことがない限り、塩基配列の一部の塩基が他の塩基と置換されていてもよく又は削除されていてもよく、或いは新たに塩基が挿入されていてもよく、さらに塩基配列の一部が転位されているものであってもよく、これら置換、削除、挿入又は転位された塩基配列のいずれもが、本発明の挿入配列に包含される。 本発明の挿入配列の単離に用いる枯草菌由来のsacB遺伝子を有しコリネ型細菌内で複製可能なプラスミドとしては、例えばプラスミドpMV5(Vertes,A.A., Inui,M., Kobayashi,M., Kurusu,Y. and Yukawa,H.:Mol.Microbiol., 第11巻, p.739-746 (1994年))が有利に使用できるが、同様の機能を有するプラスミドであれば、上記pMV5に限定するものではない。上記pMV5の外、sacBおよびsacR遺伝子領域が導入可能な大腸菌・コリネ型細菌のシャトルベクターとしては、例えば、pCR1(Kotrba, P., Inui, M., Yukawa, H.: Biochem Biophys Res Commun, 第289巻, p.1307-1313 (2001年))、特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611およびpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4およびpCG11;特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−276575号公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KEおよびpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3等を用いることができる。 上記枯草菌由来のsacB遺伝子を有しコリネ型細菌内で複製増殖可能なプラスミドで形質転換しうる宿主コリネ型細菌としては、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム (Brevibacterium lactofermentum)ATCC13869;ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)およびその由来株;ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス (Brevibacterium ammoniagenes)ATCC6871、同ATCC13745、同ATCC13746;ブレビバクテリウム・デバリカタム (Brevibacterium divaricatum)ATCC14020等を好適に用いることができる。これらコリネ型細菌の中で、本発明の挿入配列の単離には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999を宿主として用いるのが最も好ましい。 上記宿主コリネ型細菌の前記組換えプラスミドによる形質転換は、それ自体公知の方法、例えばCalvin, N. M. and Hanawalt, P. C., Journal of Bacteriology, 第170巻, p.2796 (1988年); Ito, K., Nishida, T. and Izaki. K., Agricultural and Biological Chemistry, 第52巻, p.293 (1988年) 等の文献に記載の方法により、例えば宿主微生物にパルス波を通電〔Satoh, Y. et al., Journal of Industrial Microbiology, 第5巻, p.159 (1990年)参照〕することにより行うことができる。 かくして得られる形質転換体を、前記のとおり、スクロースを2〜15%含有するプレート上に塗抹して培養し、生育してくる各スクロース耐性株を液体培養する。次いで、培養物よりそれ自体公知の通常用いられる方法、例えばアルカリ−SDS法等によりプラスミドを抽出する。抽出したプラスミドを適当な制限酵素により解析し、もとのプラスミドよりサイズが大きいプラスミドを選択する。選択したプラスミドのsacBおよびsacR遺伝子領域に挿入されているDNA断片を単離することにより本発明の挿入配列を分離取得することができる。 上記形質転換体の培養は、炭素源、窒素源、無機塩等を含む通常の栄養培地で行うことができ、炭素源としては、スクロースが好適である。窒素源としては、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。また、無機塩としては、例えばリン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン等の各種ビタミン等の栄養素を適宜培地に添加することができる。 培養は、通常、通気攪拌や振盪等(液体培養の場合)の好気条件下に、約25℃〜約35℃の温度で行うことができる。培養途中のpHは7〜8付近とすることができ、培養中のpH調整は酸又はアルカリを添加して行うことができる。培養開始時の炭素源濃度は、5〜12容量%である。 かくして得られる培養物を、前記のとおりスクロースを2〜15%含有するプレート上に塗抹して33℃で1〜3日間培養することにより、挿入配列が導入されたスクロース耐性株を取得することができる。 本発明の挿入配列は、例えば、もともとコリネ型細菌染色体上に存在し、形質転換に用いたプラスミド上には存在しなかったDNA断片が、スクロース培地培養条件下(挿入配列の転位誘発は、一般的には栄養源や温度等に関するストレス環境下の培養条件にてなされる)、染色体上からプラスミド上に転位してくる現象を観察することによって証明できる。また逆に、プラスミド上に転位した挿入配列を染色体上に転位させることによって本発明の挿入配列の機能(形質転換機能)をさらに確認することができる。 したがって、本発明の挿入配列は、相互に独立した制御機構による染色体上へのトランスポゾン転位が可能となる結果、多重遺伝子組換え等の形質転換技術が効果的、効率的に実施できる。 本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 コリネバクテリウム・グルタミカム由来の挿入配列の単離: (A)sacB耐性株の単離 プラスミドpMV5(Vertes, A. A., Inui, M.,Kobayashi, M., Kurusu, Y. and Yukawa, H. :Mol.Microbiol., 第11巻, p.739-746 (1994年))をコリネ型細菌に導入し、該細胞を形質転換した。用いた宿主コリネ型細菌は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999である。形質転換には電気パルス法を用いた。前記コリネ型細菌を100mLのA培地〔組成:尿素2g、硫酸アンモニウム7g、リン酸一カリウム0.5g、リン酸二カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物 0.5g、硫酸マンガン・4〜6水和物 6mg、硫酸鉄・7水和物 6mg、酵母エキス1g、カザミノ酸1g、ビオチン200μg、塩酸チアミン100μgを脱イオン水に溶解して1リットルとする(pH7.4)〕で対数増殖初期まで培養した後、ペニシリンGを1unit/mLとなるように添加してさらに2時間振盪培養した。培養菌体を遠心分離にて集め、20mLのパルス用溶液〔組成:272mMスクロース、7mMリン酸二水素カリウム、1mM塩化マグネシウム;pH7.4〕にて洗浄した。再度、遠心分離にて菌体を集め、5mLのパルス用溶液に懸濁し、0.75mLの細胞と上記プラスミドpMV5溶液2μL(1μg)とを混合し、氷中にて20分間静置した。ジーンパルサー(バイオラド社製)を用いて、2500ボルト25μFに設定し、パルスを印加後氷中に20分間静置した。全量を30℃にて1時間培養した後、10%スクロース、カナマイシン50μg/mLを含むA寒天培地に塗抹した。30℃で2日間培養した。(B)挿入配列の単離 出現したスクロース耐性およびカナマイシン耐性株より、プラスミドを特開平1−95785号公報記載の方法にて調製した。このプラスミドを各種制限酵素SmaIとXbaIで切断し、その大きさを確認した。その結果、コントロールである形質転換に用いたプラスミドpMV5が1.9kbで検出できるところが、2株において、3.1kbのバンドが検出され、約1.2kb大きくなったプラスミドが存在することが判明した。なお、pMV5の1.9kb SmaI・XbaI遺伝子断片は、sacB遺伝子の中に存在しており、該大きさが約1.2kbの挿入配列は、sacB遺伝子産物を不活性化していることが判明した。 コリネバクテリウム・グルタミカム由来の挿入配列の塩基配列決定: 実施例1で得られた大きさが約1.2kbの挿入配列を特定するために、その塩基配列を、pUC118またはpUC119(宝酒造製)を用いるジデオキシヌクレオチド法により決定した。この結果、配列番号1に記載の配列が明らかとなった。本配列上には、343アミノ酸からなるオープンリーディングフレーム(open reading-frame;ORF)が存在した。また、この挿入配列の両端には22bp 5’側IR1;5’-TAGCTCCCCCAAAACAAAAGCT-3’ 3’側IR2;5’-TAGCTCTCCCAAATCAAAAGCT-3’ からなるインバーテッドリピート(IR)、およびターゲット配列である2bp(5’-TA-3)のダイレクトリピートが存在した。この大きさが約1.2kbの挿入配列を、各種の制限酵素で切断したときの認識部位数および切断断片の大きさは、前記第1表のとおりであった。その制限酵素切断点地図を図1に示す。 挿入配列の存在と転位機能の確認 (A)挿入配列の存在の確認 単離した挿入配列をプローブとして、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999の染色体DNAに対して、サザンハイブリダイゼーションを行った。プローブは、実施例1で得られた約1.2kbの挿入配列を用い、ランダムラベリングキット(宝酒造より市販)を用いて作製した。サザンハイブリダイゼーションは、常法〔“Molecular Cloning ”, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989) 〕の通り行った。コントロールとして、コリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P-18976)の染色体DNAを用いた。この結果、該挿入配列は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999由来の染色体とハイブリダイズしたが、コリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P-18976)由来の染色体DNAとはハリブリダイズしなかった。すなわち、本発明の挿入配列は、コントロールであるコリネバクテリウム・グルタミカムR株の染色体には存在しないが、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999染色体中に存在し、染色体上からプラスミド上に転位することが可能であることを示している。 (B)転位機能検出プラスミドの作製 上記で得られた大きさが約1.2kbの挿入配列を、決定した配列をもとに、両末端と相補的で、かつEcoRVサイトを有するオリゴヌクレオチド(表2)を合成し、PCR法により増幅した。 得られた1.2kbのPCR断片に制限酵素EcoRV 5unitを加え、37℃で1時間反応させ完全消化後、65℃で15分間処理し、酵素を失活させた。一方、プラスミドpHSG398(宝酒造製)は、HindIII 5unitで完全消化後、DNA Blunting Kit(宝酒造製)で平滑末端処理を行い、上記EcoRV1.2kbPCR断片と混合し、50mMトリス緩衝液(pH7.6)、10mMジチオスレイトール、1mMアデノシン三リン酸(ATP)、10mM塩化マグネシウムおよびT4DNAリガーゼ1unitの各成分を添加し(各成分の濃度は最終濃度である)、4℃で15時間反応させ、結合させた。得られたプラスミド混液を用い、塩化カルシウム法〔J. Mol. Biol., 第53巻, p.159 (1970年)〕によりエシェリヒア・コリJM109(宝酒造より市販)を形質転換し、クロラムフェニコール50mgを含む培地〔トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、塩化ナトリウム5gおよび寒天16gを蒸留水1リットルに溶解〕に塗抹した。この培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、該プラスミドを制限酵素により処理し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpHSG398の大きさが2.2kbのDNA断片に加え、大きさが約1.2kbの挿入断片が認められた。次に、構築したプラスミドを、本プラスミドを1ケ所で切断する制限酵素HindIIIで切断し、カナマイシン耐性遺伝子カセット(ファルマシア製)を挿入し、クロラムフェニコールとカナマイシンの両薬剤に耐性で、かつ挿入配列を有するプラスミドpHSG398−IS14999−Kmを作製した。 尚、該プラスミドにおいて、HindIIIサイトは、約1.2kbの挿入配列の末端付近に存在し、約1.2kbのDNA断片にコードされるオープンリーディングフレーム(ORF)を破壊しない。従って、コリネ型細菌内で増殖可能な複製領域を有さない本プラスミドを用いて、コリネ型細菌を形質転換し、カナマイシン耐性を指標に形質転換体を取得すると、本プラスミドがコリネ型細菌染色体に挿入された株が得られる。このうち、クロラムフェニコール感受性の株は、挿入配列部分のみが染色体上に転位し、pHSG398−IS14999−Km全体がはいったものではないと判断でき、本発明で得られた挿入配列が、染色体上へ転位可能であることを示す。(c)転位の確認 プラスミドpHSG398−IS14999−Kmをコリネ型細菌に導入し、該細胞を形質転換した。用いた宿主コリネ型細菌は、本挿入配列をもたないコリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P-18976)である。形質転換には上記記載の電気パルス法を用いた。カナマイシン耐性株50株が得られた。このうち、4株のみがクロラムフェニコール耐性を示したが、残りは、クロラムフェニコール感受性であった。このことは、プラスミドpHSG398−IS14999−Km上に存在する挿入配列がカナマイシン耐性遺伝子と共に、染色体上に転位したことを示している。 本発明のインサーションシクエンスは、染色体上のいろいろの部位に転位・挿入することが可能であるので、遺伝子解析の有効な手段として用いることができる。また、挿入変異株の作製、遺伝子マッピング、プロモーター検索、遺伝情報の挿入そして特定遺伝子の破壊等にも利用でき、産業上有用である。本発明のインサーションシーケンスの制限酵素切断地点地図を示す図である。 コリネ型細菌内で機能する配列番号1に示されるDNA塩基配列を有することを特徴とする挿入配列。 挿入配列内に少なくとも一つの薬剤耐性遺伝子を含むことを特徴とする請求項1記載の挿入配列。 染色体上に転位させ、増幅させることを目的として、プラスミドに組み込まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の挿入配列。 コリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P−18976)、ATCC13032株又はATCC31831株の形質転換に使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の挿入配列。 【課 題】既知の挿入配列と異なる制御機構により染色体上に変異又は導入を可能とする新規な挿入配列を単離することである。また、新規な挿入配列が組み込まれたプラスミドを作成すること、又はコリネ型細菌の形質転換体を作成することである。 【解決手段】枯草菌由来のsacB遺伝子を有し、コリネ型細菌内で複製可能なプラスミド、例えばプラスミドpMV5を用いて形質転換し、スクロースを含有するプレート上に塗抹し、生育してくるスクロース耐性株よりプラスミドを抽出することにより、挿入配列を分離取得する。【選択図】なし。配列表


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る

特許公報(B2)_コリネ型細菌内で機能する挿入配列

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_コリネ型細菌内で機能する挿入配列
出願番号:2003303577
年次:2009
IPC分類:C12N 15/09


特許情報キャッシュ

柘植 陽太 二ノ宮 加奈 中田 かおり 鈴木 伸昭 乾 将行 湯川 英明 JP 4386254 特許公報(B2) 20091009 2003303577 20030827 コリネ型細菌内で機能する挿入配列 財団法人地球環境産業技術研究機構 591178012 岩谷 龍 100077012 柘植 陽太 二ノ宮 加奈 中田 かおり 鈴木 伸昭 乾 将行 湯川 英明 20091216 C12N 15/09 20060101AFI20091126BHJP JPC12N15/00 A C12N 15/00−15/90 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) 第55回日本生物工学会大会講演要旨集, 2003.8.25, 社団法人日本生物工学会, p.126 日本農芸化学会誌, 1997, 第71巻, 臨時増刊号, p.461-462 Journal of Bacteriology, 1992, Vol.174, No.16, p.5462-5465 5 2005065649 20050317 11 20060227 特許法第30条第1項適用 2003年4月1日日本大学において開催された社団法人日本農芸化学会2003年度大会で発表 引地 進 本発明は、コリネ型細菌由来の新規なDNA塩基配列を有する挿入配列(insertion sequence:IS)に関する。 トランスポゾン、挿入配列のような転位因子は、原核細胞・真核細胞において見いだされている。また、微生物の挿入配列は、大腸菌由来のもの、赤痢菌由来のもの、酢酸菌由来のもの、マイコプラズマ由来のものなどにおいて広く研究されている(非特許文献1〜4参照)。 微生物における転位配列の1つである挿入配列には、いくつかの特徴がある。例えば、挿入配列はおよそ1〜2kbの大きさを有しており、その両端にはインバーテッドリピート〔逆方向反復(塩基)配列:inverted repeat (sequence);IR〕が存在している。また、微生物染色体に挿入配列が挿入されたときに、ターゲットDNA塩基配列(転位部位)での重複配列が生じる等である。 近年、コリネ型細菌においても、転位因子である挿入配列やトランスポゾンが相次いで報告されている。具体的には、ISL3ファミリーに属するIS31831、ISCg1、IS13869、IS719、IS714、IS3ファミリーに属するIS1206、IS903、IS30ファミリーに属するISCg2、IS1513、IS256ファミリーに属するIS1249、IS1132などである(特許文献1〜5、非特許文献5〜11参照)。 微生物由来の挿入配列などの転位因子を単離する手法としては、枯草菌由来のsacB遺伝子産物を利用する方法が知られている(非特許文献12、13参照)。 すなわち、sacB遺伝子産物は培地中のスクロースによって誘導生産されるので、本遺伝子を有する大腸菌を、スクロースを含有する培地で培養すると、本遺伝子の発現により、大腸菌は溶菌し、生育阻害をおこすことが知られている(非特許文献14参照)。 そこで、sacB遺伝子を有するプラスミドで大腸菌を形質転換し、スクロースを含有するプレート上に生育可能になった大腸菌からプラスミドを抽出すると、このプラスミド上のsacB遺伝子が欠失もしくは挿入変異(失活)を起こしているものが得られる。この挿入変異(失活)をおこしたものより転位因子を単離することができる。 コリネ型細菌においても、sacB遺伝子は生育阻害を引き起こすことが知られている(非特許文献13参照)。 微生物に関しては、既に100株以上の全ゲノム解析が終了し、近年、コリネ型細菌に関しても全ゲノム配列があいついで決定されている(非特許文献15〜17参照)。 ゲノム情報からの発現機能を重要とするポストゲノム時代に入った現在、コリネ型細菌のような産業上重要な微生物に於いては、より効果的、効率的な遺伝子の組み換えを行なうべく、多数遺伝子導入法、多数遺伝子削除法、そして、繰り返しての染色体DNAに変異、削除、導入等の改質操作が一段と重要性を増している。 挿入配列を利用した形質転換法の場合に、2度目以降に同種の挿入配列を変異、削除又は導入に用いると、制御機構が同一なため1度目に導入した挿入配列が染色体上を再度転位する可能性があり、安定な染色体変異、削除又は導入株を得ることができない。従って、お互いに制御機構が異なる挿入配列を用いることが必要となる。特開平7− 107976号公報特開平9−70291号公報特開平9−70291号公報特開平9−70291号公報)欧州特許出願公開第0252558号公報モル.ジェン.ジェネット(Mol. Gen. Genet),1973年,第122巻,p.267−277ジャーナル オブ バクテリオロジー(J. Bacteriol),1990年,第172巻,p.4090−4099モル.マイクロバイオール(Mol. Microbiol),1993年,第9巻,211−218モル.マイクロバイオール(Mol. Microbiol),1993年,第7巻,577−584バーテス エイ.エイ.(Vertes,A.A.),外4名,モル.マイクロバイオール(Mol.Microbiol),1994年,第11巻,p.739−746ジャガー,ダブル.(Jager,W.),外3名,エフエーエムエス マイクロバイオロジー レターズ (FEMS Microbiol Lett.),1995年,第126巻,p.1−6ジーン(Gene),1996年,第170巻,p.91−94モル.マイクロバイオール(Mol. Microbiol),1994年,第11巻,738−748モル.ジェン.ジェネット(Mol. Gen. Genet),1999年,第262巻,p.568−578モル.ジェン.ジェネット(Mol. Gen. Genet),2000年,第263巻,p.1−11プラスミド(Plasmid),1995年,第34巻,p.119−131ジャーナル オブ バクテリオロジー(J. Bacteriol.),1985年,第164巻,p.918−921ジャーナル オブ バクテリオロジー(J. Bacteriol.),1992年,第174巻,p.5462−5465モル.ジェン.ジェネット(Mol. Gen. Genet),1983年,第191巻,p.138−144野中 寛,外7名,「Corynebacterium glutamicum R ゲノム解析」,日本農芸化学会2003年度大会講演要旨集,2003年4月,p.20イケダ エム.(IkedaM,),外1名,アプリ.ミクロバイオール.バイオテクノール.(Appl Microbiol Biotechnol.),2003年,第62巻,p.99−109ニシオ ワイ.(Nishio Y),外10名,ゲノム リサーチ(Genome Res.),2003年,第13巻,p.1572−1579 本発明の目的は、既知の挿入配列と異なる制御機構により染色体上に変異又は導入を可能とする新規な挿入配列を単離することである。また、本発明の別の目的は、新規な挿入配列が組み込まれたプラスミドを作成すること、又はコリネ型細菌の形質転換体を作成することである。 なお、本発明において、「挿入配列」とは、コリネ型細菌染色体上に存在しており、染色体上もしくはプラスミド上に転位することが可能なDNA塩基配列を意味するものである。 本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、sacB遺伝子を利用する方法により、転位因子の1つである配列番号1に示される配列を有する新規な挿入配列を単離することに成功し、さらに研究を進め、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、(1)コリネ型細菌内で機能する配列番号1に示されるDNA塩基配列を有することを特徴とする挿入配列、(2)挿入配列内に少なくとも一つの薬剤耐性遺伝子を含むことを特徴とする上記(1)記載の挿入配列、(3)染色体上に転位させ、増幅させることを目的として、プラスミドに組み込まれていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の挿入配列、および(4)コリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P−18976)、ATCC13032株又はATCC31831株の形質転換に使用されることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の挿入配列、に関する。 本発明の挿入配列は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来の後記配列表の配列番号1に示されるDNA塩基配列を有することを特徴とする。 そして、本発明の挿入配列は、これまでコリネ型細菌から見出された挿入配列とはDNAレベルで相同性を有さず、また、コリネ型細菌内で機能する既知挿入配列内に存在するトランスポザーゼ遺伝子(アミノ酸レベル)やインバーテッドリピート(DNAレベル)に対しても相同性を有さない新規なものである。 本発明の挿入配列は、後記実施例で示す如く、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)R株(FERM P−18976)、ATCC13032株およびATCC31831株等の幾つかのコリネ型細菌に関して、これまで見出されてきた挿入配列とは異なるものである。 本発明の挿入配列を、供給源微生物であるコリネ型細菌から調製するための基本操作の一例を述べれば次のとおりである。すなわち、本発明の挿入配列は、上記コリネ型細菌、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999株の染色体上に存在し、本菌株を、枯草菌由来のsacB遺伝子を有し、コリネ型細菌内で複製可能なプラスミド、例えばプラスミドpMV5を用いて形質転換し、スクロースを含有するプレート上に塗抹し、生育してくるスクロース耐性株よりプラスミドを抽出することにより、分離取得することができる。 より具体的には、先ず、枯草菌、例えばマールバーグ(Marburg) 株〔Biochem. Biophys. Res. Commun., 第119巻, p.795-800 (1984年)〕の培養物から染色体DNAを抽出する。この染色体DNAを鋳型として、既知のsacBおよびsacR(sacB遺伝子の発現制御遺伝子)遺伝子を含む領域をPCR法により増幅単離する。該増幅DNA断片を大腸菌・コリネ型細菌のシャトルベクターに導入し、このベクターを用いて大腸菌(エシェリヒア・コリ;Escherichia coli)JM109(宝酒造より市販)を形質転換し、形質転換体を取得する。 次いで、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを抽出し、本プラスミドを用いてコリネ型細菌、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999を形質転換し、スクロースを含有するプレート上に生育してくるスクロース耐性株よりプラスミドを抽出する。これらのプラスミドのうち、もとのプラスミドよりサイズが大きくなっているものを選択し、本プラスミドのsacBおよびsacR遺伝子領域に挿入されているDNA断片を単離することにより、挿入配列を分離取得することができる。 このようにして得られる挿入配列の一つとしては、上記コリネ型細菌、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999株の染色体DNA上に存在し、大きさが約1.2kbの断片を挙げることができる。 この約1.2kbの挿入配列を、各種の制限酵素で切断したときの認識部位数および切断断片の大きさを下記第1表に示す。 上記表1において、制限酵素による「認識部位数」は、DNA断片又はプラスミドを制限酵素で完全消化し、それらの消化物をそれ自体公知の方法に従って1%アガロースゲル電気泳動および5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、分離可能な断片の数から決定した値を採用した。 また、「切断DNA断片の大きさ」および「プラスミドの切断DNAの大きさ」は、アガロースゲル電気泳動を用いる場合には、大腸菌のラムダファージ(λphage)のDNAを制限酵素HindIIIで切断して得られる分子量既知のDNA断片の同一アガロースゲル上での泳動距離で描かれる標準線に基づき、また、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いる場合には、大腸菌のファイ・エックス174ファージ(φx174phage)のDNAを制限酵素HaeIIIで切断して得られる分子量既知のDNA断片の同一ポリアクリルアミドゲル上での泳動距離で描かれる標準線に基づき、切断DNA断片およびプラスミドの各DNA断片の大きさを算出する。 なお、各DNA断片の大きさの決定において、1kb以上の断片の大きさについては、1%アガロースゲル電気泳動によって得られる結果を採用し、約0.1kbから1kb未満の断片の大きさについては5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって得られる結果を採用することにより、より正確な断片の大きさを決定することができる。 プラスミドの大きさは、上記により得られた切断断片のそれぞれの大きさを加算して求めることができる。 一方、上記のコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999の染色体DNA由来の挿入配列の塩基配列は、プラスミドpUC118またはpUC119(宝酒造製)を用いるジデオキシヌクレオチド酵素法〔dideoxy chain termination 法、Sanger, F. et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 第74巻, p.5463 (1977年)〕により決定することができる。このようにして決定した上記約1.2kbのDNA断片の塩基配列を有する挿入配列は、後記配列表の配列番号1に示す配列を有するものである。 上記の塩基配列を包含する本発明の挿入配列は、天然のコリネ型細菌染色体DNAから分離されたもののみならず、通常用いられるDNA合成装置、例えばアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製394 DNA/RNAシンセサイザーを用いて合成されたものであってもよい。 また、前記の如くコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999の染色体DNAから取得される本発明の挿入配列は、前記挿入配列の機能を実質的に損なうことがない限り、塩基配列の一部の塩基が他の塩基と置換されていてもよく又は削除されていてもよく、或いは新たに塩基が挿入されていてもよく、さらに塩基配列の一部が転位されているものであってもよく、これら置換、削除、挿入又は転位された塩基配列のいずれもが、本発明の挿入配列に包含される。 本発明の挿入配列の単離に用いる枯草菌由来のsacB遺伝子を有しコリネ型細菌内で複製可能なプラスミドとしては、例えばプラスミドpMV5(Vertes,A.A., Inui,M., Kobayashi,M., Kurusu,Y. and Yukawa,H.:Mol.Microbiol., 第11巻, p.739-746 (1994年))が有利に使用できるが、同様の機能を有するプラスミドであれば、上記pMV5に限定するものではない。上記pMV5の外、sacBおよびsacR遺伝子領域が導入可能な大腸菌・コリネ型細菌のシャトルベクターとしては、例えば、pCR1(Kotrba, P., Inui, M., Yukawa, H.: Biochem Biophys Res Commun, 第289巻, p.1307-1313 (2001年))、特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611およびpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4およびpCG11;特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−276575号公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KEおよびpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3等を用いることができる。 上記枯草菌由来のsacB遺伝子を有しコリネ型細菌内で複製増殖可能なプラスミドで形質転換しうる宿主コリネ型細菌としては、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム (Brevibacterium lactofermentum)ATCC13869;ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)およびその由来株;ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス (Brevibacterium ammoniagenes)ATCC6871、同ATCC13745、同ATCC13746;ブレビバクテリウム・デバリカタム (Brevibacterium divaricatum)ATCC14020等を好適に用いることができる。これらコリネ型細菌の中で、本発明の挿入配列の単離には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999を宿主として用いるのが最も好ましい。 上記宿主コリネ型細菌の前記組換えプラスミドによる形質転換は、それ自体公知の方法、例えばCalvin, N. M. and Hanawalt, P. C., Journal of Bacteriology, 第170巻, p.2796 (1988年); Ito, K., Nishida, T. and Izaki. K., Agricultural and Biological Chemistry, 第52巻, p.293 (1988年) 等の文献に記載の方法により、例えば宿主微生物にパルス波を通電〔Satoh, Y. et al., Journal of Industrial Microbiology, 第5巻, p.159 (1990年)参照〕することにより行うことができる。 かくして得られる形質転換体を、前記のとおり、スクロースを2〜15%含有するプレート上に塗抹して培養し、生育してくる各スクロース耐性株を液体培養する。次いで、培養物よりそれ自体公知の通常用いられる方法、例えばアルカリ−SDS法等によりプラスミドを抽出する。抽出したプラスミドを適当な制限酵素により解析し、もとのプラスミドよりサイズが大きいプラスミドを選択する。選択したプラスミドのsacBおよびsacR遺伝子領域に挿入されているDNA断片を単離することにより本発明の挿入配列を分離取得することができる。 上記形質転換体の培養は、炭素源、窒素源、無機塩等を含む通常の栄養培地で行うことができ、炭素源としては、スクロースが好適である。窒素源としては、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。また、無機塩としては、例えばリン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン等の各種ビタミン等の栄養素を適宜培地に添加することができる。 培養は、通常、通気攪拌や振盪等(液体培養の場合)の好気条件下に、約25℃〜約35℃の温度で行うことができる。培養途中のpHは7〜8付近とすることができ、培養中のpH調整は酸又はアルカリを添加して行うことができる。培養開始時の炭素源濃度は、5〜12容量%である。 かくして得られる培養物を、前記のとおりスクロースを2〜15%含有するプレート上に塗抹して33℃で1〜3日間培養することにより、挿入配列が導入されたスクロース耐性株を取得することができる。 本発明の挿入配列は、例えば、もともとコリネ型細菌染色体上に存在し、形質転換に用いたプラスミド上には存在しなかったDNA断片が、スクロース培地培養条件下(挿入配列の転位誘発は、一般的には栄養源や温度等に関するストレス環境下の培養条件にてなされる)、染色体上からプラスミド上に転位してくる現象を観察することによって証明できる。また逆に、プラスミド上に転位した挿入配列を染色体上に転位させることによって本発明の挿入配列の機能(形質転換機能)をさらに確認することができる。 したがって、本発明の挿入配列は、相互に独立した制御機構による染色体上へのトランスポゾン転位が可能となる結果、多重遺伝子組換え等の形質転換技術が効果的、効率的に実施できる。 本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 コリネバクテリウム・グルタミカム由来の挿入配列の単離: (A)sacB耐性株の単離 プラスミドpMV5(Vertes, A. A., Inui, M.,Kobayashi, M., Kurusu, Y. and Yukawa, H. :Mol.Microbiol., 第11巻, p.739-746 (1994年))をコリネ型細菌に導入し、該細胞を形質転換した。用いた宿主コリネ型細菌は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999である。形質転換には電気パルス法を用いた。前記コリネ型細菌を100mLのA培地〔組成:尿素2g、硫酸アンモニウム7g、リン酸一カリウム0.5g、リン酸二カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物 0.5g、硫酸マンガン・4〜6水和物 6mg、硫酸鉄・7水和物 6mg、酵母エキス1g、カザミノ酸1g、ビオチン200μg、塩酸チアミン100μgを脱イオン水に溶解して1リットルとする(pH7.4)〕で対数増殖初期まで培養した後、ペニシリンGを1unit/mLとなるように添加してさらに2時間振盪培養した。培養菌体を遠心分離にて集め、20mLのパルス用溶液〔組成:272mMスクロース、7mMリン酸二水素カリウム、1mM塩化マグネシウム;pH7.4〕にて洗浄した。再度、遠心分離にて菌体を集め、5mLのパルス用溶液に懸濁し、0.75mLの細胞と上記プラスミドpMV5溶液2μL(1μg)とを混合し、氷中にて20分間静置した。ジーンパルサー(バイオラド社製)を用いて、2500ボルト25μFに設定し、パルスを印加後氷中に20分間静置した。全量を30℃にて1時間培養した後、10%スクロース、カナマイシン50μg/mLを含むA寒天培地に塗抹した。30℃で2日間培養した。(B)挿入配列の単離 出現したスクロース耐性およびカナマイシン耐性株より、プラスミドを特開平1−95785号公報記載の方法にて調製した。このプラスミドを各種制限酵素SmaIとXbaIで切断し、その大きさを確認した。その結果、コントロールである形質転換に用いたプラスミドpMV5が1.9kbで検出できるところが、2株において、3.1kbのバンドが検出され、約1.2kb大きくなったプラスミドが存在することが判明した。なお、pMV5の1.9kb SmaI・XbaI遺伝子断片は、sacB遺伝子の中に存在しており、該大きさが約1.2kbの挿入配列は、sacB遺伝子産物を不活性化していることが判明した。 コリネバクテリウム・グルタミカム由来の挿入配列の塩基配列決定: 実施例1で得られた大きさが約1.2kbの挿入配列を特定するために、その塩基配列を、pUC118またはpUC119(宝酒造製)を用いるジデオキシヌクレオチド法により決定した。この結果、配列番号1に記載の配列が明らかとなった。本配列上には、343アミノ酸からなるオープンリーディングフレーム(open reading-frame;ORF)が存在した。また、この挿入配列の両端には22bp 5’側IR1;5’-TAGCTCCCCCAAAACAAAAGCT-3’ 3’側IR2;5’-TAGCTCTCCCAAATCAAAAGCT-3’ からなるインバーテッドリピート(IR)、およびターゲット配列である2bp(5’-TA-3)のダイレクトリピートが存在した。この大きさが約1.2kbの挿入配列を、各種の制限酵素で切断したときの認識部位数および切断断片の大きさは、前記第1表のとおりであった。その制限酵素切断点地図を図1に示す。 挿入配列の存在と転位機能の確認 (A)挿入配列の存在の確認 単離した挿入配列をプローブとして、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999の染色体DNAに対して、サザンハイブリダイゼーションを行った。プローブは、実施例1で得られた約1.2kbの挿入配列を用い、ランダムラベリングキット(宝酒造より市販)を用いて作製した。サザンハイブリダイゼーションは、常法〔“Molecular Cloning ”, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989) 〕の通り行った。コントロールとして、コリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P-18976)の染色体DNAを用いた。この結果、該挿入配列は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999由来の染色体とハイブリダイズしたが、コリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P-18976)由来の染色体DNAとはハリブリダイズしなかった。すなわち、本発明の挿入配列は、コントロールであるコリネバクテリウム・グルタミカムR株の染色体には存在しないが、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999染色体中に存在し、染色体上からプラスミド上に転位することが可能であることを示している。 (B)転位機能検出プラスミドの作製 上記で得られた大きさが約1.2kbの挿入配列を、決定した配列をもとに、両末端と相補的で、かつEcoRVサイトを有するオリゴヌクレオチド(表2)を合成し、PCR法により増幅した。 得られた1.2kbのPCR断片に制限酵素EcoRV 5unitを加え、37℃で1時間反応させ完全消化後、65℃で15分間処理し、酵素を失活させた。一方、プラスミドpHSG398(宝酒造製)は、HindIII 5unitで完全消化後、DNA Blunting Kit(宝酒造製)で平滑末端処理を行い、上記EcoRV1.2kbPCR断片と混合し、50mMトリス緩衝液(pH7.6)、10mMジチオスレイトール、1mMアデノシン三リン酸(ATP)、10mM塩化マグネシウムおよびT4DNAリガーゼ1unitの各成分を添加し(各成分の濃度は最終濃度である)、4℃で15時間反応させ、結合させた。得られたプラスミド混液を用い、塩化カルシウム法〔J. Mol. Biol., 第53巻, p.159 (1970年)〕によりエシェリヒア・コリJM109(宝酒造より市販)を形質転換し、クロラムフェニコール50mgを含む培地〔トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、塩化ナトリウム5gおよび寒天16gを蒸留水1リットルに溶解〕に塗抹した。この培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、該プラスミドを制限酵素により処理し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpHSG398の大きさが2.2kbのDNA断片に加え、大きさが約1.2kbの挿入断片が認められた。次に、構築したプラスミドを、本プラスミドを1ケ所で切断する制限酵素HindIIIで切断し、カナマイシン耐性遺伝子カセット(ファルマシア製)を挿入し、クロラムフェニコールとカナマイシンの両薬剤に耐性で、かつ挿入配列を有するプラスミドpHSG398−IS14999−Kmを作製した。 尚、該プラスミドにおいて、HindIIIサイトは、約1.2kbの挿入配列の末端付近に存在し、約1.2kbのDNA断片にコードされるオープンリーディングフレーム(ORF)を破壊しない。従って、コリネ型細菌内で増殖可能な複製領域を有さない本プラスミドを用いて、コリネ型細菌を形質転換し、カナマイシン耐性を指標に形質転換体を取得すると、本プラスミドがコリネ型細菌染色体に挿入された株が得られる。このうち、クロラムフェニコール感受性の株は、挿入配列部分のみが染色体上に転位し、pHSG398−IS14999−Km全体がはいったものではないと判断でき、本発明で得られた挿入配列が、染色体上へ転位可能であることを示す。(c)転位の確認 プラスミドpHSG398−IS14999−Kmをコリネ型細菌に導入し、該細胞を形質転換した。用いた宿主コリネ型細菌は、本挿入配列をもたないコリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P-18976)である。形質転換には上記記載の電気パルス法を用いた。カナマイシン耐性株50株が得られた。このうち、4株のみがクロラムフェニコール耐性を示したが、残りは、クロラムフェニコール感受性であった。このことは、プラスミドpHSG398−IS14999−Km上に存在する挿入配列がカナマイシン耐性遺伝子と共に、染色体上に転位したことを示している。 本発明のインサーションシクエンスは、染色体上のいろいろの部位に転位・挿入することが可能であるので、遺伝子解析の有効な手段として用いることができる。また、挿入変異株の作製、遺伝子マッピング、プロモーター検索、遺伝情報の挿入そして特定遺伝子の破壊等にも利用でき、産業上有用である。本発明のインサーションシーケンスの制限酵素切断地点地図を示す図である。 コリネ型細菌内で機能する配列番号1に示されるDNA塩基配列からなることを特徴とする挿入配列ポリヌクレオチド。 挿入配列内に少なくとも一つの薬剤耐性遺伝子を含むことを特徴とする請求項1記載の挿入配列ポリヌクレオチド。 染色体上に転位させ、増幅させることを目的として、プラスミドに組み込まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の挿入配列ポリヌクレオチド。 コリネバクテリウム・グルタミカムR株(FERM P−18976)、ATCC13032株又はATCC31831株の形質転換に使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の挿入配列ポリヌクレオチド。 コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14999株由来のものである、請求項1〜4のいずれかに記載の挿入配列ポリヌクレオチド。配列表


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る