生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_アリイナーゼ及びこれを用いるアリシンの製造法
出願番号:2003299378
年次:2005
IPC分類:7,C12N9/88,C12N1/14,C12N1/20,C12P11/00,C12N15/09,C12P41/00


特許情報キャッシュ

田中 俊雄 谷口 浩子 小池田 聡 後藤 真孝 JP 2005065578 公開特許公報(A) 20050317 2003299378 20030822 アリイナーゼ及びこれを用いるアリシンの製造法 天野エンザイム株式会社 000216162 西尾 章 100109597 田中 俊雄 谷口 浩子 小池田 聡 後藤 真孝 7C12N9/88C12N1/14C12N1/20C12P11/00C12N15/09C12P41/00C12N1/14C12R1:77C12N1/20C12R1:01C12N9/88C12R1:77C12N9/88C12R1:01 JPC12N9/88C12N1/14 AC12N1/20 AC12P11/00C12N15/00 AC12P41/00 AC12N1/14 AC12R1:77C12N1/20 AC12R1:01C12N9/88C12R1:77C12N9/88C12R1:01 17 7 OL 14 4B024 4B050 4B064 4B065 4B024AA01 4B024BA07 4B024CA01 4B024CA11 4B024DA05 4B024DA11 4B024GA19 4B050DD02 4B050DD03 4B050EE02 4B050LL05 4B064AE61 4B064CA02 4B064CA05 4B064CA21 4B064CB30 4B064CC03 4B064CD13 4B064CD24 4B064CE02 4B064DA01 4B065AA01X 4B065AA65X 4B065AC14 4B065BA22 4B065BB12 4B065BB13 4B065BB26 4B065BD01 4B065CA27 4B065CA44 本発明は、アリインからアリシンを生成させるアリイナーゼ (Alliinase, アリイン リアーゼ、EC 4.4.1.4)活性を有する微生物に由来するアリイナーゼ及びこれを用いるアリシンの製造法に関する。 アリシンは、ニンニク、タマネギ、ネギ等のアリウム属植物に呈味、芳香成分として含まれ、血流改善作用、脂質代謝改善作用、抗菌作用など多彩な生理活性を有するために近年注目を集めている。アリシンは、アリウム属植物の葉肉貯蔵細胞に存在する前駆体アリインに鱗茎や茎葉部に存在するアリイナーゼが作用し、図1の反応式に示すように縮合反応と脱離反応により副生産物のピルビン酸とアンモニアと共に生成する。従って、アリイナーゼを用いてアリシンの酵素生産ができれば、アリシンを多彩な生理活性を有する医薬としての実用化が可能となる。 しかし、植物由来のアリイナーゼは、極めて不安定であり、アリシンの工業化・実用化生産には不向きである(非特許文献1参照)。そのため、にんにくアリイナーゼを固定化して用いる固定化アリイナーゼ及びアリシンを連続生産する技術の提案がある(特許文献1参照)。S.Schwimmer, M.Mazelis, Arch.Biochem. Biophys.,100,66(1963)特表2000-508535号公報 しかし、不安定な植物由来のアリイナーゼを工業的に用いるには上記のように固定化が必要で、製造設備の複雑化や製造コスト面での問題があった。また、これまでにフザリウム属あるいは細菌類が生産するアリイナーゼに関する報告はない。 本発明は、工業的規模で簡便かつ効率的にアリインからアリシンを生成させ、アリシンの医薬としての実用化に供することが可能な微生物に由来するアリイナーゼを提供し、また、これを用いるアリシンの製造法を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記の課題を解決するために、アリイナーゼ生産能を有する微生物を広く自然界に求め、鋭意探索を試みた結果、土壌から得られた菌株が、本目的のアリイナーゼを生産することを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、フザリウム(Fusarium)属に属する微生物が生産し、アリインからアリシンを生成させる活性を有するアリイナーゼを要旨とする。 本明細書において、アリイナーゼは、微生物の培養により得られるアリインからアリシンを生成させる活性を有する粗酵素あるいは精製酵素をいい、粗酵素は菌体、菌体破砕物、菌体で生産され外部に放出されるもの、菌体破砕液など前記活性を有するもののすべてを含む。 上記の発明において、微生物はFERM P-19485として寄託されたフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株である。また、アリイナーゼは耐熱性を有する。アリイナーゼは下記の理化学的性質を有する。 (1)作用及び基質特異性:(+)アリイン及び/又は(-)アリインに特異的に作用して、アリシンを生成する。 (2)最適pH:最適pHは7.5である。 (3)最適温度:最適温度は37℃である。 (4)温度安定性:2時間の処理条件において、20℃まで安定であるが、35℃で約80%の活性が残存する。 また、本発明は、細菌類が生産し、アリインからアリシンを生成する活性を有するアリイナーゼを要旨とする。 上記の発明において、細菌類はFERM P-19486として寄託されたエンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株である。また、アリイナーゼは、(−)アリインに対して選択的に作用する光学特異性を有する。さらには、(−)S-ピリジルエチル-L−システィン スルフォキシド((−)PECS)に対して選択的に作用する光学特異性を有する。 また、本発明は、アリイナーゼの生産能を有するフザリウム(Fusarium)属に属する微生物を培養し、培養物中にアリイナーゼを産生せしめ、これを採取するアリイナーゼの製造法を要旨とする。 上記の発明において、培地中にL-システィン、S-アリル L-システィン、N-アセチル L-システィン、アリインから選ばれた少なくとも1種以上を添加して培養する。また、誘導物質が添加されない培地で所定期間培養後、アリインのみを誘導物質として添加した培地で更に培養する。 また、本発明は、アリイナーゼの生産能を有する細菌類に属する微生物を培養し、培養物中にアリイナーゼを産生せしめ、これを採取するアリイナーゼの製造法を要旨とする。 また、本発明は、寄託番号がFERM P-19485であるアリイナーゼを生産するフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株を要旨とする。 また、本発明は、配列表の配列番号1で示す28SrDNAのD2領域と98%以上の相同性を示すD2領域を有する糸状菌でかつアリイナーゼを生産する菌株を要旨とする。 また、本発明は、寄託番号がFERM P-19486であるアリイナーゼを生産するエンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株を要旨とする。 また、本発明は、配列表の配列番号2で示す16SrDNAと97%以上の相同性を示す細菌でかつアリイナーゼを生産する菌株を要旨とする。 また、本発明は、アリウム属植物の抽出物またはアリインを含む溶液に上記のアリイナーゼを作用させ、アリシンを生成させるアリシンの製造法を要旨とする。 本発明のアリイナーゼは、耐熱性を有し安定性があるので、固定化することなく工業的規模で簡便かつ効率的にアリインからアリシンを製造できる。また、本発明のアリイナーゼは、(−)アリイン及び(−)アリイン誘導体に対して選択的に作用してアリシンを生成できるので、アリイン誘導体の光学分割が可能となる。 本発明のアリイナーゼの製造法は、上記の性質を有するアリイナーゼを生産できるので、アリシンの効率的な製造に資することができる。 本発明のアリシンの製造法は、工業的規模で簡便かつ効率的にアリシンを製造できるので、多彩な生理活性を有する医薬としてのアリシンを提供できる。 本発明のアリイナーゼは、フザリウム(Fusarium)属又は細菌類の微生物により生産される。このような微生物として土壌中から見出された新規な微生物、フザリウム(Fusarium)属に属するフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株及び細菌類のエンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株を挙げることができる。 フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株の形態学的特徴は次の通りであった。 Bacto Potate Dextrose Agar (PDA) (Becton Dickinson, NJ, USA : 以下BD), Bacto Oatmeal Agar (OA) (BD)および2% Bacto Malt extract (BD) + 1.5% Agar (MEA)の各プレートに接種し、25℃で最長2週間の培養を行い、コロニーの巨視的特徴の観察を行った。 コロニー色調に関する記述は Korncrup & Wanscher (1978)に従った。(巨視的観察結果) 気中菌糸はビロード状(veltinous)から綿毛状(cottony)で、表面色調はwhite-yellowish white (3A1-2)を示し、OAプレートでは茶褐色の裏面着色(reverse coloration)を示した。 分生子(conidia)の着生によるコロニー表面の色調変化は認められなかった。長期培養後のPDAおよびOAプレートからは透明の滲出液 (exudate)の産生が認められ、OAプレートにおいて茶褐色の可溶性色素 (soluble pigment)の産生が観察された。(微視的観察) 小分生子 (microconidia)と大分生子 (macroconidia) が観察された。小分生子はフィアロ型 (phialidic)。 分生子柄はほぼ単生、柄 (stipe)の長さは中程度で、分枝 (branching)はほとんど観察されない。 小分生子は、柄先端より塊状 (slimy)となり、形状は紡錘型 (fusiform)や三日月 (luniform)。大分生子は気中菌糸基部を中心に観察され、三日月形で、脚胞 (foot cell)を有していた。大分生子の幅はやや肉厚で長さは比較的短い。 また、長期培養検体から圧壁胞子 (chlamydospore) やテレオモルフ (teleomorph)は確認されない。 また、28SrDNA(rRNA遺伝子)のD2領域の約320bp(配列表の配列番号1)の遺伝子配列を決定し、分子遺伝学的手法によりどの分類群の菌種に近縁であるかの推定を行った。当該塩基配列をDDBJ/GENE BANKデータベースを基にブラストサーチを行うことにより、98%以上の高い相同性が認められるフザリウム属あるいはフザリウムソラニーコンプレックスに最も近縁であることが示唆された。また、系統関係を導くため任意のフザリウム属菌株及びAMA9394株に分子遺伝学的に近縁と推定される株を選定し、系統樹を作成した(図3)。 その結果フザリウム属菌株は系統的に幾つかのグループが認められたが、AMA9394株は、ある一群のグループに属し、99%以上の相同性によりフザリウム エスピー1株、フザリウム エスピー2株(AF513980、AY234907)と最も近縁であった。また、3株めのフザリウムソラニ種と近縁であることも示唆された。この新規なアリイナーゼ活性物質を生産する微生物は、上記の形態学的特徴及び分子遺伝学的な解析により不完全菌亜門Fusaruiumであると判断され、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD、〒305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)に寄託され、その受託番号はFERM P-19485である。本発明のアリイナーゼを生産する菌株は、前記の寄託されたものに限定されず、配列番号1の28SrDNA(rRNA遺伝子)のD2領域と好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、最も好ましくは100%の相同性を示すD2領域を有する糸状菌でかつアリイナーゼを生産するものを用いることができる。 また、エンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株のYMA培地における形態学的特徴は以下の通りであった。 形態 形:桿状 大きさ:長さ(1.2〜2.0μ)、直径(0.6〜0.7μ) 配列:単独又は2〜3個連鎖 運動性:有り 胞子:無し コロニー:ほぼ円形で凸円状の突起を有し白〜黄白色。スライム状をなし表面は滑面である。 また、新規な微生物、エンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株は、アピ及びバイオログを使った同定法により、Rhizobiaceae(リゾビエイシー)に属し、リゾビウム、アグロバクテリウムグループであることが示唆された。また、16SrDNA(rRNA遺伝子)約1.4kbpの塩基配列の決定を行い(配列表の配列番号2)、分子遺伝学的手法によりどの属の菌種に近縁であるかの推定を行った。当該塩基配列をDDBJ/GENE BANKデータベースを基にブラストサーチを行うことにより、95%以上の高い相同性が認められるシノリゾビウム属あるいはエンサイファ属に最も近縁であることが示唆された。また、系統関係を導くためシノリゾビウム属、エンサイファ属、任意の菌株及びAMA9794株に分子遺伝学的に近縁と推定される株を選定し、系統樹を作成した(図4)。その結果シノリゾビウム属菌株及びエンサイファ属菌株は系統的に1つのグループを形成した。AMA9794株は系統樹および、16SrDNAがエンサイファ アドヘレンスの基準株であるATCC33212株と99.5%以上の相同性が認められることから、エンサイファ アドヘレンスと同定した。近年、ウイルエムスらによって(IJSEM,53,(4),1207-1217,2003)エンサイファ属は系統及び種々の性質よりシノリゾビウム属に統合すべきであるとの提案がなされ、認められる方向にある。よって当該エンサイファ属はシノリゾビウム属と同等であり、当該分離株はシノリゾビウム アドヘレンスAMA9794株として扱うことも可能であると考えられる。この新規なアリイナーゼを生産する微生物は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD、〒305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)に寄託され、その受託番号はFERM P-19486である。本発明のアリイナーゼを生産する菌株は、前記の寄託されたものに限定されず、配列番号2の16SrDNA(rRNA遺伝子)と好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは99.5%以上、最も好ましくは100%の相同性を示し、細菌類でかつアリイナーゼを生産するものを用いることができる。 これらの菌株を利用して、アリイナーゼを生産するためには、当該菌株が良好に生育し、酵素を順調に生産するために必要な炭素源、窒素源、無機塩等の栄養源を含有する合成培地又は天然培地中でこれを培養する。培養するための培地は格別である必要はなく、通常の培地を用いることができる。 炭素源としては、例えば、澱粉又はその組成画分、グルコース、スクロース等の炭水化物が使用できる。 窒素源としては、例えば、ポリペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー或いは大豆又は大豆粕などの抽出物等の有機窒素源物質、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩窒素化合物、グルタミン酸等のアミノ酸類を使用できる。 アリイナーゼの生産性を高めるために、L-システイン、S-アリル-L-システイン、N-アセチル-L-システイン等のシステイン誘導体やアリインを使用できる。特に、誘導物質が添加されない培地で所定期間培養した後、誘導物質としてアリインのみを添加した培地で更に培養することが好ましい。この培養方法により、アリイナーゼを高生産できる。 無機塩類としては、例えば、リン酸1カリウム、リン酸2カリウム等のリン酸塩、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化カリウム等のカリウム塩、硫酸鉄のような鉄塩、硫酸亜鉛等の亜鉛塩、硫酸銅等の銅塩を使用できる。 培養は、振盪培養若しくは、通気攪拌培養等の好気的条件下に於いて培地pH5〜10の範囲、好ましくはpH6〜8の範囲に調整し、温度10〜40℃の範囲、好ましくは、25〜37℃で実施するのが望ましいが、この条件以外であっても微生物が生育し、目的とする酵素を生成する条件であれば特に制限されない。 このようにして培養を行うと、通常は培養を開始して2〜7日間で菌体中にアリイナーゼが生産される。 次いで、培養液から菌体を回収し、リン酸緩衝液等で洗浄しグラスビーズ等により菌体を破砕し、酵素を回収する。 こうして得られた粗酵素のアリイナーゼは、そのままでもアリシン生成反応に使用できるが、必要に応じて、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、疎水クロマト樹脂、ゲルろ過による分画等公知の精製操作を講じて精製酵素として使用することもできる。 以上説明したフザリウム(Fusarium)属の微生物が生産するアリイナーゼは、耐熱性を有し安定性があるので、工業的規模の酵素反応でアリインからアリシンを製造するのに有用である。また、細菌類が生産するアリイナーゼは、アリインの光学異性体に選択的に作用してアリシンを製造するのに有用である。 以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 〔参考例1〕(アリインの製造) 下記の各実施例で用いたアリインは、以下のように製造した。 L-アリル-システィン(東京化成工業社製)にH2O2溶液をモル濃度で10倍量になるように混合した。室温で30分反応させた後、アセトンを90%になるように混合し、軽く撹拌した後氷浴で30分放置した。沈殿を確認した後、5000rpmで5分遠心し、上清を捨てた。沈殿に新たに90%アセトンを加え、同様の作業を2, 3 回繰り返した。洗滌した沈殿をデシケーターにて一晩乾燥させた。これにより、異性体を含む(±)アリイン(S(±)-L-システィン スルフォキシド)が合成された。L-アリル-システィンと(±)アリインは、TLC(1-ブタノール:酢酸:H2O=4:1:1)によって分離され、ニンヒドリン反応によって検出した。 〔参考例2〕(アリイナーゼ活性の測定法) 下記の各実施例におけるアリイナーゼの酵素活性は、以下のように測定した。 基質として、200 mM (±)アリイン 20μl、100 mM ピリドキサル5'リン酸 20μl、20%グリセロールを含む100 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 6.5) 40μlにエンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株の無細胞胞抽出液 20μlを加え、全容を100μlとした反応液 100μlを30℃で30分間インキュベートした。反応後、1 mM 2, 4-ジニトロフェニルヒドラゾン(2,4-dinitrophenyl hydrazone )溶液−2 N 塩酸を100μl加え、室温で20分間放置した。その後0.4 NのNaOHを1. 0 ml加え、軽く撹拌したのち、分光光度計にてピルビン酸に由来する505 nmの吸光度を測定し、アリイナーゼ活性を測定した。 ピルビン酸の測定は以下のように測定した。図2にその反応式を示す。 100μlの1 mM 2, 4-ジニトロフェニルヒドラジン(2,4-dinitorophenyl hydorazine)溶液- 2 N 塩酸に100μlの酵素反応液を加えて室温にて20分間放置する。その後、0.4 Nの水酸化ナトリウムを1.0 ml加え、攪拌した後、505 nmの吸収を測定する。その際反応前の反応液も測定しておきUV吸収値は正味の増加量を測定値とする。予め購入しておいたピルビン酸ナトリウムで検量線を引いておき測定値を濃度に換算する。 この測定条件で、1分間に1μMのピルビン酸を生成する酵素量を1単位とした。なお、フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株が生産するアリイナーゼの酵素活性についても同様の方法で測定した。 〔実施例1〕 L-システイン、S-アリル-L-システイン, N-アセチル-L-システイン、アリインをそれぞれ酵母エキス 1.0 %、ポリペプトン 2.0%、グルコース 2.0 % からなる培地(YPD培地)中に0.5 % 含んだ培養液にてフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株を37℃、4日間培養し、乾燥重量及びアリイナーゼ活性を測定した。培養はすべて試験管にて行い、5 ml の培地を用いた。 培養後、菌体をリン酸バッファ(50 mM, pH 6.5)と10 % グリセロールを含む溶液による洗滌 (溶液を加え数秒voltexした後、8000 rpm 30分で沈殿させ上清を捨てる)を数回行った後、グラスビーズにより1分 voltex, 1分 氷浴を1サイクルとし、15サイクル(30分)行った。この時菌糸が破壊されているかを光学顕微鏡により確認し、十分に破壊されてなければさらに数サイクルを行い粗酵素の菌体破砕液を得た。 各培養後の菌体を蒸留水で数回洗滌し、60℃の通風乾燥機で2日間乾燥させた後の重量を菌体の乾燥重量とした。なお、活性測定のアリインの終濃度は100 mMで行った。その結果を表1に示す。 表1より菌体破砕液のアリイナーゼ活性が高まったのはS-アリル-L-システイン、N-アセチル-L-システインを含む培地であり、菌体の乾燥重量も他と比較し増加していた。しかし、アリインを添加した場合、極端に乾燥重量が減少し菌体の生育は十分でなかった。 〔実施例2〕 YPD培地 5 mlを試験管に入れ、常法にて殺菌後フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株を接種し、37℃にて4日間培養した。 YPD培地にて培養後、菌体をリン酸バッファ(50 mM, pH 6.5)で数回洗滌した後、K2HPO4 0.1%、MgSO4・7H2O 0.05%、KCl 0.001 %、FeSO4・7H2O 0.001%、ZnSO4・7H2O 0.0005 %、CuSO4・5H2O 0.0005 % にアリインを終濃度 0.5 %となるように添加し、pH 7.0に調整した培地(A培地)にてさらに37℃、1日間培養した。 その結果をYPD培地のみで37℃、5日間培養した場合のそれと比較検討した。 A培地にて培養後、菌体をリン酸バッファ(50 mM, pH 6.5)と10 % グリセロールを含む溶液により洗滌 (溶液を加え数秒voltexした後、8000 rpm 30分で沈殿させ上清を捨てる)を数回した後、グラスビーズにより1分 voltex, 1分 氷浴 を1サイクルとし、15サイクル(30分)行った。この時菌糸が破壊されているかを光学顕微鏡により確認し、十分に破壊されてなければさらに数サイクルを行い粗酵素の菌体破砕液を得た。 蒸留水で数回洗滌し、60℃の通風乾燥機で2日間乾燥させた後の重量を菌体の乾燥重量とする。なお、活性測定のアリインの終濃度は100 mMで行った。結果を表2に示す。 YPD培地で4日間培養した後、A培地で1日間培養することで菌体破砕液のアリイナーゼ活性が高まったことから、アリイナーゼがその間に誘導生成されることが判明した。また、アリインの添加により菌体重量が減少することはなく、菌体が十分に生育しアリイナーゼを高生産させることができた。 〔実施例3〕 アリイナーゼの理化学的性質を、実施例2のYPD培地とA培地で培養して得られた菌体破砕液を用いて検討した。対照として、ニンニク断片を破砕し、濾過を行った濾過液(以下、ニンニク破砕液)を用いた。なお、以下の図5〜図8において、フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株に由来するアリイナーゼをAMA9394、ニンニクに由来するアリイナーゼをニンニクと表示した。 (1)最適温度 各種温度にてアリインに菌体破砕液とニンニク破砕液を各々作用させ、それぞれのアリイナーゼ活性を測定し、その結果を図5に示した。 図5から明らかなように菌体破砕液中のアリイナーゼ(以下、本酵素ともいう)はニンニク破砕液中のアリイナーゼと同様に37℃に最適温度を有していた。 (2)最適pH pH 4〜9のpH条件下で、アリインに菌体破砕液とニンニク破砕液を各々作用させて酵素反応を行い、それぞれのアリイナーゼ活性を測定し、その結果を図6に示した。なお、緩衝液として、10%グリセロールを含む500mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH4〜9)を使用した。 図6から明らかなように本酵素の最適pHは7.5付近であり、ニンニク破砕液のアリイナーゼは6.5付近であった。 (3)温度安定性 菌体破砕液とニンニク破砕液を0〜55℃の温度下で2時間放置後、それぞれの残存活性を測定し、その結果を図7に示した。 図7から明らかなように本酵素は、35℃で約80%の残存活性を示したが、ニンニク破砕液のアリイナーゼは10%以下と極めて悪かった。 (4)光学異性体に対する特異性 基質である(+)アリイン、(-)アリインの終濃度はいずれも500 mMとして、光学異性体に対する菌体破砕液とニンニク破砕液の作用を検討した。なお、(+)アリイン、(-)アリインをHPLCによって分離した (ODSカラム、流速 1.0 ml/min、10 mM リン酸バッファ (pH 7.5, 5 mM リン酸2水素テトラ n-ブチルアンモニウム)、UV 220 nm 検出)。 反応液を各時間ごとにサンプリングし、HPLC分析を行った。そして、予め作成した検量線を用いて、ピークエリアを濃度に換算した。その結果を図8に示した。 図8から本酵素は、ニンニク破砕液と同様に(-)アリインに比べ(+)アリインにより反応した。また両者を比較すると、(-)アリインに対する作用に若干の差があった。 〔実施例4〕 エンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株を3%乾燥ブイヨン(日水製薬社製)にて、30℃で2日間振盪培養し、菌体破砕液を得た。菌体の破砕及び上清の調製は、実施例1と同様に行った。 40mM (±)アリイン、20mM(+)アリインの基質に上記の菌体破砕液を作用させたときのHPLC分析結果を図9に示した。 図9より、本酵素は(+)アリインに比べ(−)アリインに対してより選択的に光学特異性を有していた。 アリインのピリジルエチル(pyridyl ethyl)誘導体のS-ピリジルエチル-L−システィン スルフォキシド(PECS)40mMを基質として上記の菌体破砕液を添加し、HPLC分析を行った。同時にニンニク由来のアリイナーゼについて比較した。図10にPECSに作用させたときのニンニク由来のものと比較したHLPC分析結果を示した。なお、図中、エンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株に由来するアリイナーゼはAMA9794、ニンニクに由来するアリイナーゼをニンニクと表示した。 図10より、ニンニク由来の酵素は(+)PECSに優先的に作用するが、本酵素は(-)PECSに優先的に作用し、光学特異性が異なっていた。アリイナーゼによるアリインからアリシンが生成される反応式を示す。アリイナーゼ活性の測定法における反応式を示す。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株を同定するために作成した系統樹を示す。エンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株を同定するために作成した系統樹を示す。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株由来のアリイナーゼとニンニク由来アリイナーゼを比較した最適温度のグラフである。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株由来のアリイナーゼとニンニク由来アリイナーゼを比較した最適pHのグラフである。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株由来のアリイナーゼとニンニク由来アリイナーゼを比較した温度安定性のグラフである。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株由来のアリイナーゼとニンニク由来アリイナーゼを比較した光学異性体への反応性を示すグラフである。(±)アリイン及び(+)アリインを各々基質とし、エンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株由来のアリイナーゼを作用させる前後のHPLCのチャートを示す。S-ピリジルエチル-L−システィン スルフォキシド(PECS)を基質とし、エンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株由来のアリイナーゼ及びニンニク由来アリイナーゼを各々作用させる前後のHPLCのチャートを示す。 フザリウム(Fusarium)属に属する微生物が生産し、アリインからアリシンを生成させる活性を有するアリイナーゼ。 微生物がFERM P-19485として寄託されたフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株である請求項1に記載のアリイナーゼ。 耐熱性を有する請求項1又は請求項2に記載のアリイナーゼ。 下記の理化学的性質を有する請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアリイナーゼ。 (1)作用及び基質特異性:(+)アリイン及び/又は(-)アリインに特異的に作用して、アリシンを生成する。 (2)最適pH:最適pHは7.5である。 (3)最適温度:最適温度は37℃である。 (4)温度安定性:2時間の処理条件において、20℃まで安定であるが、35℃で約80%の活性が残存する。 細菌類が生産し、アリインからアリシンを生成する活性を有するアリイナーゼ。 細菌類がFERM P-19486として寄託されたエンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株である請求項5に記載のアリイナーゼ。 (−)アリインに対して選択的に作用する光学特異性を有する請求項5又は請求項6に記載のアリイナーゼ。 (−)S-ピリジルエチル-L−システィン スルフォキシド((−)PECS)に対して選択的に作用する光学特異性を有する請求項5又は請求項6に記載のアリイナーゼ。 アリイナーゼの生産能を有するフザリウム(Fusarium)属に属する微生物を培養し、培養物中にアリイナーゼを産生せしめ、これを採取するアリイナーゼの製造法。 培地中にL-システィン、S-アリル L-システィン、N-アセチル L-システィン、アリインから選ばれた誘導物質の少なくとも1種以上を添加して培養する請求項9に記載のアリイナーゼの製造法。 誘導物質が添加されない培地で所定期間培養後、アリインのみを誘導物質として添加した培地で更に培養する請求項10に記載のアリイナーゼの製造法。 アリイナーゼの生産能を有する細菌類に属する微生物を培養し、培養物中にアリイナーゼを産生せしめ、これを採取するアリイナーゼの製造法。 寄託番号がFERM P-19485であるアリイナーゼを生産するフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株。 配列表の配列番号1で示す28SrDNAのD2領域と98%以上の相同性を示すD2領域を有する糸状菌でかつアリイナーゼを生産する菌株。 寄託番号がFERM P-19486であるアリイナーゼを生産するエンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株。 配列表の配列番号2で示す16SrDNAと97%以上の相同性を示す細菌でかつアリイナーゼを生産する菌株。 アリウム属植物の抽出物またはアリインを含む溶液に請求項1〜請求項8のいずれかに記載のアリイナーゼを作用させ、アリシンを生成させるアリシンの製造法。 【課題】工業的規模で簡便かつ効率的にアリインからアリシンを生成させ、アリシンの医薬としての実用化に供することが可能な微生物に由来するアリイナーゼを提供し、また、これを用いるアリシンの製造法を提供する。 【解決手段】フザリウム(Fusarium)属に属する微生物が生産し、アリインからアリシンを生成させる活性を有するアリイナーゼ。このアリイナーゼは、FERM P-19485として寄託されたフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株が生産できる。細菌類が生産し、アリインからアリシンを生成する活性を有するアリイナーゼ。このアリイナーゼは、FERM P-19486として寄託されたエンサイファ アドヘレンス(Ensifer adhaerens)AMA9794株が生産できる。これらのアリイナーゼをアリウム属植物の抽出物またはアリインを含む溶液に作用させ、アリシンを生成させるアリシンの製造法。【選択図】図7配列表


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特許公報(B2)_アリイナーゼ及びこれを用いるアリシンの製造法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_アリイナーゼ及びこれを用いるアリシンの製造法
出願番号:2003299378
年次:2009
IPC分類:C12N 9/88,C12P 11/00,C12N 15/09,C12P 41/00,C12N 1/14,C12R 1/77


特許情報キャッシュ

田中 俊雄 谷口 浩子 小池田 聡 後藤 真孝 JP 4308604 特許公報(B2) 20090515 2003299378 20030822 アリイナーゼ及びこれを用いるアリシンの製造法 天野エンザイム株式会社 000216162 西尾 章 100109597 田中 俊雄 谷口 浩子 小池田 聡 後藤 真孝 20090805 C12N 9/88 20060101AFI20090716BHJP C12P 11/00 20060101ALI20090716BHJP C12N 15/09 20060101ALN20090716BHJP C12P 41/00 20060101ALN20090716BHJP C12N 1/14 20060101ALN20090716BHJP C12R 1/77 20060101ALN20090716BHJP JPC12N9/88C12P11/00C12N15/00 AC12P41/00 AC12N1/14 AC12N9/88C12R1:77C12N1/14 AC12R1:77C12P41/00 AC12R1:77 C12N 9/88 C12P 11/00 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) CAplus(STN) PubMed Science Direct JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開平10−052265(JP,A) Biosci.Biotechnol.Biochem.,1998,62(1),p.117-22 Vitamins,1960,20,p.126-31 Biochim.Biophys.Acta,1971,235(3),p.518-20 Appl.Environ.Microbiol.,1983,45(4),p.1380-8 5 FERM P-19485 2005065578 20050317 10 20060220 三原 健治 本発明は、アリインからアリシンを生成させるアリイナーゼ (Alliinase, アリイン リアーゼ、EC 4.4.1.4)活性を有する微生物に由来するアリイナーゼ及びこれを用いるアリシンの製造法に関する。 アリシンは、ニンニク、タマネギ、ネギ等のアリウム属植物に呈味、芳香成分として含まれ、血流改善作用、脂質代謝改善作用、抗菌作用など多彩な生理活性を有するために近年注目を集めている。アリシンは、アリウム属植物の葉肉貯蔵細胞に存在する前駆体アリインに鱗茎や茎葉部に存在するアリイナーゼが作用し、図1の反応式に示すように縮合反応と脱離反応により副生産物のピルビン酸とアンモニアと共に生成する。従って、アリイナーゼを用いてアリシンの酵素生産ができれば、アリシンを多彩な生理活性を有する医薬としての実用化が可能となる。 しかし、植物由来のアリイナーゼは、極めて不安定であり、アリシンの工業化・実用化生産には不向きである(非特許文献1参照)。そのため、にんにくアリイナーゼを固定化して用いる固定化アリイナーゼ及びアリシンを連続生産する技術の提案がある(特許文献1参照)。S.Schwimmer, M.Mazelis, Arch.Biochem. Biophys.,100,66(1963)特表2000-508535号公報 しかし、不安定な植物由来のアリイナーゼを工業的に用いるには上記のように固定化が必要で、製造設備の複雑化や製造コスト面での問題があった。また、これまでにフザリウム属あるいは細菌類が生産するアリイナーゼに関する報告はない。 本発明は、工業的規模で簡便かつ効率的にアリインからアリシンを生成させ、アリシンの医薬としての実用化に供することが可能な微生物に由来するアリイナーゼを提供し、また、これを用いるアリシンの製造法を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記の課題を解決するために、アリイナーゼ生産能を有する微生物を広く自然界に求め、鋭意探索を試みた結果、土壌から得られた菌株が、本目的のアリイナーゼを生産することを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株(FERM P-19485)を培養した後の菌体破砕液に含まれる粗酵素であり、ニンニク由来のアリイナーゼに比べ耐熱性のあるアリイナーゼを要旨とする。 また、本発明は、アリイナーゼの生産能を有するフザリウム(Fusarium)属に属する微生物を培養し、培養物中にアリイナーゼを産生せしめ、これを採取するアリイナーゼの製造法を要旨とする。 上記の発明において、培地中にL-システィン、S-アリル L-システィン、N-アセチル L-システィン、アリインから選ばれた少なくとも1種以上を添加して培養する。また、誘導物質が添加されない培地で所定期間培養後、アリインのみを誘導物質として添加した培地で更に培養する。 また、本発明は、アリウム属植物の抽出物またはアリインを含む溶液に上記のアリイナーゼを作用させ、アリシンを生成させるアリシンの製造法を要旨とする。 本発明のアリイナーゼは、耐熱性を有し安定性があるので、固定化することなく工業的規模で簡便かつ効率的にアリインからアリシンを製造できる。 本発明のアリイナーゼの製造法は、上記の性質を有するアリイナーゼを生産できるので、アリシンの効率的な製造に資することができる。 本発明のアリシンの製造法は、工業的規模で簡便かつ効率的にアリシンを製造できるので、多彩な生理活性を有する医薬としてのアリシンを提供できる。 本発明のアリイナーゼは、フザリウム(Fusarium)属の微生物により生産される。このような微生物として土壌中から見出された新規な微生物、フザリウム(Fusarium)属に属するフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株を挙げることができる。 フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株の形態学的特徴は次の通りであった。 Bacto Potate Dextrose Agar (PDA) (Becton Dickinson, NJ, USA : 以下BD), Bacto Oatmeal Agar (OA) (BD)および2% Bacto Malt extract (BD) + 1.5% Agar (MEA)の各プレートに接種し、25℃で最長2週間の培養を行い、コロニーの巨視的特徴の観察を行った。 コロニー色調に関する記述は Korncrup & Wanscher (1978)に従った。(巨視的観察結果) 気中菌糸はビロード状(veltinous)から綿毛状(cottony)で、表面色調はwhite-yellowish white (3A1-2)を示し、OAプレートでは茶褐色の裏面着色(reverse coloration)を示した。 分生子(conidia)の着生によるコロニー表面の色調変化は認められなかった。長期培養後のPDAおよびOAプレートからは透明の滲出液 (exudate)の産生が認められ、OAプレートにおいて茶褐色の可溶性色素 (soluble pigment)の産生が観察された。(微視的観察) 小分生子 (microconidia)と大分生子 (macroconidia) が観察された。小分生子はフィアロ型 (phialidic)。 分生子柄はほぼ単生、柄 (stipe)の長さは中程度で、分枝 (branching)はほとんど観察されない。 小分生子は、柄先端より塊状 (slimy)となり、形状は紡錘型 (fusiform)や三日月 (luniform)。大分生子は気中菌糸基部を中心に観察され、三日月形で、脚胞 (foot cell)を有していた。大分生子の幅はやや肉厚で長さは比較的短い。 また、長期培養検体から圧壁胞子 (chlamydospore) やテレオモルフ (teleomorph)は確認されない。 また、28SrDNA(rRNA遺伝子)のD2領域の約320bp(配列表の配列番号1)の遺伝子配列を決定し、分子遺伝学的手法によりどの分類群の菌種に近縁であるかの推定を行った。当該塩基配列をDDBJ/GENE BANKデータベースを基にブラストサーチを行うことにより、98%以上の高い相同性が認められるフザリウム属あるいはフザリウムソラニーコンプレックスに最も近縁であることが示唆された。また、系統関係を導くため任意のフザリウム属菌株及びAMA9394株に分子遺伝学的に近縁と推定される株を選定し、系統樹を作成した(図3)。 その結果フザリウム属菌株は系統的に幾つかのグループが認められたが、AMA9394株は、ある一群のグループに属し、99%以上の相同性によりフザリウム エスピー1株、フザリウム エスピー2株(AF513980、AY234907)と最も近縁であった。また、3株めのフザリウムソラニ種と近縁であることも示唆された。この新規なアリイナーゼ活性物質を生産する微生物は、上記の形態学的特徴及び分子遺伝学的な解析により不完全菌亜門Fusaruiumであると判断され、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD、〒305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)に寄託され、その受託番号はFERM P-19485である。本発明のアリイナーゼを生産する菌株は、前記の寄託されたものに限定されず、配列番号1の28SrDNA(rRNA遺伝子)のD2領域と好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、最も好ましくは100%の相同性を示すD2領域を有する糸状菌でかつアリイナーゼを生産するものを用いることができる。 この菌株を利用して、粗酵素のアリイナーゼを生産するためには、当該菌株が良好に生育し、酵素を順調に生産するために必要な炭素源、窒素源、無機塩等の栄養源を含有する合成培地又は天然培地中でこれを培養する。培養するための培地は格別である必要はなく、通常の培地を用いることができる。 炭素源としては、例えば、澱粉又はその組成画分、グルコース、スクロース等の炭水化物が使用できる。 窒素源としては、例えば、ポリペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー或いは大豆又は大豆粕などの抽出物等の有機窒素源物質、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩窒素化合物、グルタミン酸等のアミノ酸類を使用できる。 アリイナーゼの生産性を高めるために、L-システイン、S-アリル-L-システイン、N-アセチル-L-システイン等のシステイン誘導体やアリインを使用できる。特に、誘導物質が添加されない培地で所定期間培養した後、誘導物質としてアリインのみを添加した培地で更に培養することが好ましい。この培養方法により、アリイナーゼを高生産できる。 無機塩類としては、例えば、リン酸1カリウム、リン酸2カリウム等のリン酸塩、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化カリウム等のカリウム塩、硫酸鉄のような鉄塩、硫酸亜鉛等の亜鉛塩、硫酸銅等の銅塩を使用できる。 培養は、振盪培養若しくは、通気攪拌培養等の好気的条件下に於いて培地pH5〜10の範囲、好ましくはpH6〜8の範囲に調整し、温度10〜40℃の範囲、好ましくは、25〜37℃で実施するのが望ましいが、この条件以外であっても微生物が生育し、目的とする酵素を生成する条件であれば特に制限されない。 このようにして培養を行うと、通常は培養を開始して2〜7日間で菌体中にアリイナーゼが生産される。 次いで、培養液から菌体を回収し、リン酸緩衝液等で洗浄しグラスビーズ等により菌体を破砕し、酵素を回収する。 こうして得られた粗酵素のアリイナーゼは、そのままでもアリシン生成反応に使用できるが、必要に応じて、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、疎水クロマト樹脂、ゲルろ過による分画等公知の精製操作を講じて精製酵素として使用することもできる。 以上説明したフザリウム(Fusarium)属の微生物が生産するアリイナーゼは、耐熱性を有し安定性があるので、工業的規模の酵素反応でアリインからアリシンを製造するのに有用である。 以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 〔参考例1〕(アリインの製造) 下記の各実施例で用いたアリインは、以下のように製造した。 L-アリル-システィン(東京化成工業社製)にH2O2溶液をモル濃度で10倍量になるように混合した。室温で30分反応させた後、アセトンを90%になるように混合し、軽く撹拌した後氷浴で30分放置した。沈殿を確認した後、5000rpmで5分遠心し、上清を捨てた。沈殿に新たに90%アセトンを加え、同様の作業を2, 3 回繰り返した。洗滌した沈殿をデシケーターにて一晩乾燥させた。これにより、異性体を含む(±)アリイン(S(±)-L-システィン スルフォキシド)が合成された。L-アリル-システィンと(±)アリインは、TLC(1-ブタノール:酢酸:H2O=4:1:1)によって分離され、ニンヒドリン反応によって検出した。 〔参考例2〕(アリイナーゼ活性の測定法) 下記の各実施例におけるアリイナーゼの酵素活性は、以下のように測定した。 基質として、200 mM (±)アリイン 20μl、100 mM ピリドキサル5'リン酸 20μl、20%グリセロールを含む100 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 6.5) 40μlにフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株の無細胞抽出液 20μlを加え、全容を100μlとした反応液 100μlを30℃で30分間インキュベートした。反応後、1 mM 2, 4-ジニトロフェニルヒドラゾン(2,4-dinitrophenyl hydrazone )溶液−2 N 塩酸を100μl加え、室温で20分間放置した。その後0.4 NのNaOHを1. 0 ml加え、軽く撹拌したのち、分光光度計にてピルビン酸に由来する505 nmの吸光度を測定し、アリイナーゼ活性を測定した。 ピルビン酸の測定は以下のように測定した。図2にその反応式を示す。 100μlの1 mM 2, 4-ジニトロフェニルヒドラジン(2,4-dinitorophenyl hydorazine)溶液- 2 N 塩酸に100μlの酵素反応液を加えて室温にて20分間放置する。その後、0.4 Nの水酸化ナトリウムを1.0 ml加え、攪拌した後、505 nmの吸収を測定する。その際反応前の反応液も測定しておきUV吸収値は正味の増加量を測定値とする。予め購入しておいたピルビン酸ナトリウムで検量線を引いておき測定値を濃度に換算する。 この測定条件で、1分間に1μMのピルビン酸を生成する酵素量を1単位とした。 〔実施例1〕 L-システイン、S-アリル-L-システイン, N-アセチル-L-システイン、アリインをそれぞれ酵母エキス 1.0 %、ポリペプトン 2.0%、グルコース 2.0 % からなる培地(YPD培地)中に0.5 % 含んだ培養液にてフザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株を37℃、4日間培養し、乾燥重量及びアリイナーゼ活性を測定した。培養はすべて試験管にて行い、5 ml の培地を用いた。 培養後、菌体をリン酸バッファ(50 mM, pH 6.5)と10 % グリセロールを含む溶液による洗滌 (溶液を加え数秒voltexした後、8000 rpm 30分で沈殿させ上清を捨てる)を数回行った後、グラスビーズにより1分 voltex, 1分 氷浴を1サイクルとし、15サイクル(30分)行った。この時菌糸が破壊されているかを光学顕微鏡により確認し、十分に破壊されてなければさらに数サイクルを行い粗酵素の菌体破砕液を得た。 各培養後の菌体を蒸留水で数回洗滌し、60℃の通風乾燥機で2日間乾燥させた後の重量を菌体の乾燥重量とした。なお、活性測定のアリインの終濃度は100 mMで行った。その結果を表1に示す。 表1より菌体破砕液のアリイナーゼ活性が高まったのはS-アリル-L-システイン、N-アセチル-L-システインを含む培地であり、菌体の乾燥重量も他と比較し増加していた。しかし、アリインを添加した場合、極端に乾燥重量が減少し菌体の生育は十分でなかった。 〔実施例2〕 YPD培地 5 mlを試験管に入れ、常法にて殺菌後フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株を接種し、37℃にて4日間培養した。 YPD培地にて培養後、菌体をリン酸バッファ(50 mM, pH 6.5)で数回洗滌した後、K2HPO4 0.1%、MgSO4・7H2O 0.05%、KCl 0.001 %、FeSO4・7H2O 0.001%、ZnSO4・7H2O 0.0005 %、CuSO4・5H2O 0.0005 % にアリインを終濃度 0.5 %となるように添加し、pH 7.0に調整した培地(A培地)にてさらに37℃、1日間培養した。 その結果をYPD培地のみで37℃、5日間培養した場合のそれと比較検討した。 A培地にて培養後、菌体をリン酸バッファ(50 mM, pH 6.5)と10 % グリセロールを含む溶液により洗滌 (溶液を加え数秒voltexした後、8000 rpm 30分で沈殿させ上清を捨てる)を数回した後、グラスビーズにより1分 voltex, 1分 氷浴 を1サイクルとし、15サイクル(30分)行った。この時菌糸が破壊されているかを光学顕微鏡により確認し、十分に破壊されてなければさらに数サイクルを行い粗酵素の菌体破砕液を得た。 蒸留水で数回洗滌し、60℃の通風乾燥機で2日間乾燥させた後の重量を菌体の乾燥重量とする。なお、活性測定のアリインの終濃度は100 mMで行った。結果を表2に示す。 YPD培地で4日間培養した後、A培地で1日間培養することで菌体破砕液のアリイナーゼ活性が高まったことから、アリイナーゼがその間に誘導生成されることが判明した。また、アリインの添加により菌体重量が減少することはなく、菌体が十分に生育しアリイナーゼを高生産させることができた。 〔実施例3〕 アリイナーゼの理化学的性質を、実施例2のYPD培地とA培地で培養して得られた菌体破砕液を用いて検討した。対照として、ニンニク断片を破砕し、濾過を行った濾過液(以下、ニンニク破砕液)を用いた。なお、以下の図4〜図7において、フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株に由来するアリイナーゼをAMA9394、ニンニクに由来するアリイナーゼをニンニクと表示した。 (1)最適温度 各種温度にてアリインに菌体破砕液とニンニク破砕液を各々作用させ、それぞれのアリイナーゼ活性を測定し、その結果を図4に示した。 図4から明らかなように菌体破砕液中のアリイナーゼ(以下、本酵素ともいう)はニンニク破砕液中のアリイナーゼと同様に37℃に最適温度を有していた。 (2)最適pH pH 4〜9のpH条件下で、アリインに菌体破砕液とニンニク破砕液を各々作用させて酵素反応を行い、それぞれのアリイナーゼ活性を測定し、その結果を図5に示した。なお、緩衝液として、10%グリセロールを含む500mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH4〜9)を使用した。 図5から明らかなように本酵素の最適pHは7.5付近であり、ニンニク破砕液のアリイナーゼは6.5付近であった。 (3)温度安定性 菌体破砕液とニンニク破砕液を0〜55℃の温度下で2時間放置後、それぞれの残存活性を測定し、その結果を図6に示した。 図6から明らかなように本酵素は、35℃で約80%の残存活性を示したが、ニンニク破砕液のアリイナーゼは10%以下と極めて悪かった。 (4)光学異性体に対する特異性 基質である(+)アリイン、(-)アリインの終濃度はいずれも500 mMとして、光学異性体に対する菌体破砕液とニンニク破砕液の作用を検討した。なお、(+)アリイン、(-)アリインをHPLCによって分離した (ODSカラム、流速 1.0 ml/min、10 mM リン酸バッファ (pH 7.5, 5 mM リン酸2水素テトラ n-ブチルアンモニウム)、UV 220 nm 検出)。 反応液を各時間ごとにサンプリングし、HPLC分析を行った。そして、予め作成した検量線を用いて、ピークエリアを濃度に換算した。その結果を図7に示した。 図7から本酵素は、ニンニク破砕液と同様に(-)アリインに比べ(+)アリインにより反応した。また両者を比較すると、(-)アリインに対する作用に若干の差があった。アリイナーゼによるアリインからアリシンが生成される反応式を示す。アリイナーゼ活性の測定法における反応式を示す。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株を同定するために作成した系統樹を示す。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株由来のアリイナーゼとニンニク由来アリイナーゼを比較した最適温度のグラフである。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株由来のアリイナーゼとニンニク由来アリイナーゼを比較した最適pHのグラフである。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株由来のアリイナーゼとニンニク由来アリイナーゼを比較した温度安定性のグラフである。フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株由来のアリイナーゼとニンニク由来アリイナーゼを比較した光学異性体への反応性を示すグラフである。 フザリウム エスピー(Fusarium sp.)AMA9394株(FERM P-19485)を培養した後の菌体破砕液に含まれる粗酵素であり、ニンニク由来のアリイナーゼに比べ耐熱性のあるアリイナーゼ。 アリイナーゼの生産能を有するフザリウム(Fusarium)属に属する微生物を培養し、培養物中にアリイナーゼを産生せしめ、これを採取するアリイナーゼの製造法。 培地中にL-システィン、S-アリル L-システィン、N-アセチル L-システィン、アリインから選ばれた誘導物質の少なくとも1種以上を添加して培養する請求項2に記載のアリイナーゼの製造法。 誘導物質が添加されない培地で所定期間培養後、アリインのみを誘導物質として添加した培地で更に培養する請求項3に記載のアリイナーゼの製造法。 アリウム属植物の抽出物またはアリインを含む溶液に請求項1に記載のアリイナーゼを作用させ、アリシンを生成させるアリシンの製造法。配列表


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