生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_グリーンな香りをもつ生成物、その取得方法およびそれを含有するアルコール飲料
出願番号:2003188712
年次:2005
IPC分類:7,C12P7/24,C11B9/00,C12G3/04


特許情報キャッシュ

小路 博志 三上 重明 JP 2005021055 公開特許公報(A) 20050127 2003188712 20030630 グリーンな香りをもつ生成物、その取得方法およびそれを含有するアルコール飲料 独立行政法人酒類総合研究所 301025634 アサヒビール株式会社 000000055 友松 英爾 100094466 岡本 利郎 100116481 小路 博志 三上 重明 7 C12P7/24 C11B9/00 C12G3/04 JP C12P7/24 C11B9/00 J C11B9/00 L C12G3/04 9 OL 14 4B015 4B064 4H059 4B015LH12 4B015MA03 4B064AC24 4B064CA05 4B064CA21 4B064CB11 4B064CB17 4B064CC03 4B064CC06 4B064CC08 4B064CC12 4B064CD06 4B064CD07 4B064CE01 4B064DA10 4B064DA16 4H059BA19 4H059BA22 4H059BC23 4H059DA09 4H059EA35 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、グリーンな香りをもつ生成物、その取得方法およびそれを含有するアルコール飲料に関する。【0002】【従来の技術】蒸留酒製造において、ウイスキーに含まれるグリーンな香りが非常に重視されてきている。その理由は、個性のあるモルトウイスキーを組み合せて商品ができているからである(既存の商品にもグリーンな香りは含まれている)。またグリーンな香りは複数の成分が組み合わさってかもし出されている。【0003】非特許文献1によれば、ウイスキーにはグリーンな香りが含まれていることはわかっていたが、その含有量が微量であるため、その分析方法を研究してモルトウイスキーA、BおよびC中に含まれるグリーンな香りの成分としてE,Z−2,6−ノナジエナール、ノナン−2−オール、4−ヘプテン−1−オール、E−2−ノナネール、1−オクテン−3−オールが0.01〜0.18mg/リットルの範囲で含まれていたことを報じており、非特許文献2には、かき(oyster)中に含まれている(E,E)−2,4−ヘプタジエナールは、グリーンでマッシュルーム的香りをもち、閾値は非常に低い旨報じでおり、非特許文献3ではサワークリーム、バターミルクの製造工程中における前記E,Z−2,6−ノナジエナールの生成について検討しており、非特許文献4では、E,Z−2,6−ノナジエナール(不飽和C9−アルデヒド)の起源、化学的および生物学的特性、合成法などについて報じでいる。【0004】特許文献1では、生大豆を60℃以下で磨砕し、これにリパーゼを添加し、空気または酸素の供給下に60℃以下で撹拌することにより青臭香味物質を製造する方法を開示しており、そのなかで、従来青臭の主要成分は中級の脂肪族アルデヒド、アルコールであり、その具体例としてn−ヘキサナール、n−ヘキサノール、ヘキセン−3−オールを例示したうえで、この発明方法の実施例により特許文献1の発明の青臭香味物質の主体はn−ヘキサナールであると解析している。【0005】特許文献2では、リポキシゲナーゼおよびヒドロぺルオキシド−リアーゼの供給源と、不飽和脂肪酸の天然供給源にリパーゼを作用させて脂肪酸を生じさせ、この酵素の働きによって、グリーンな香りを効率的に生成する方法を開示している。【0006】また、特許文献3では、オイゲノールやサフロールなどの前駆物質に、植物または動物由来のリポキシゲナーゼを作用させて、バニリン、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、パラ−ヒドロキシベンズアルデヒド、ヘリオトロピン、プロトカテクニックアルデヒドなどの芳香族物質を製造する方法を開示している。【0007】【特許文献1】特開昭62−130661号公報【特許文献2】特表平8−504084号公報【特許文献3】特許第3242111号公報【非特許文献1】Flavour Fragr.J. 2002年 第17巻 207〜211頁【非特許文献2】J.Agric.Food.Chem. 2000年 第48巻 No.10 4851〜4857頁【非特許文献3】Int.Dairy Journal 1997年 第7巻 667〜674頁【非特許文献4】Perfumer&Flavorist 1993年 第18巻、9月/10月号 23〜25頁【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、グリーンな香りをもつ生成物を取得するための新規な方法、それにより得られた生成物およびそれを用いたアルコール飲料例えば蒸留酒に関する。【0009】【課題を解決するための手段】本発明の第1は、培地中において不飽和脂肪酸にリポキシゲナーゼを作用させることを特徴とするグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法に関する。本発明の第2は、培地中において不飽和脂肪酸にリポキシゲナーゼを作用させた後、アルコール(好ましくはエチルアルコール)による抽出および蒸留を行うことを特徴とするグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法に関する。本発明の第3は、前記不飽和脂肪酸が多不飽和脂肪酸である請求項1または2記載のグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法に関する。本発明の第4は、前記リポキシゲナーゼがAspergillus属(麹かび)由来のものである請求項1〜3いずれか記載のグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法に関する。本発明の第5は、前記培地が、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水溶性塩を含有するものである請求項1〜4いずれか記載のグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法に関する。本発明の第6は、ヘキサナール、ヘキセナール、2,4−ヘプタジエナールおよび2,6−ノナジエナールを含有している請求項1〜5いずれか記載の方法により得られたグリーンな香りをもつ生成物に関する。本発明の第7は、ヘキサナール57〜67重量%、ヘキセナール21〜31重量%、2,4−ヘプタジエナール2〜6重量%、2,6−ノナジエナール5〜11重量%の割合でヘキサナール、ヘキセナール、2,4−ヘプタジエナールおよび2,6−ノナジエナールを含有していることを特徴とするグリーンな香りをもつ生成物に関する。本発明の第8は、さらに、3,5−オクタジェン−2−オンを含有するものである請求項6または7記載のグリーンな香りをもつ生成物に関する。本発明の第9は、請求項1〜8記載のグリーンな香りをもつ生成物をアルコール飲料に添加して得られたアルコール飲料に関する。【0010】本発明で用いる不飽和脂肪酸は、モノ不飽和脂肪酸でもよいが、多不飽和脂肪酸の方が好ましい。3つの不飽和基をもつ脂肪酸としてはシス−9,トランス−11,トランス−13−オクタデカトリエン酸(α−エレオステアリン酸)、トランス−9,トランス−11,トランス−13−オクタデカトリエン酸(β−エレオステアリン酸)、シス−9,シス−11,トランス−13−オクタデカトリエン酸、シス−9,シス−12,シス−15−オクタデカトリエン酸(リノレン酸)、トランス−9,トランス−12,トランス−15−オクタデカトリエン酸(リノレンエライジン酸)、トランス−10,トランス−12,トランス−14−オクタデカトリエン酸(プソイドエレオステアリン酸)などがあり、4つ以上の不飽和基をもつ脂肪酸としては、9,11,13,15−オクタデカテトラエン酸(α−パリナリン酸)、9,11,13,15−オクタデカテトラエン酸(β−パリナリン酸)、5,8,11,14−エイコサテトラエン酸(アラギドン酸)、4,8,12,15,19−ドコサペンタエン酸(グルバノドン酸)、5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸(EPA)、5,8,11,14,17−ドコサへキサンエン酸(DHA)などがあり、2つの不飽和基をもつ脂肪酸としては2,4−ヘキサジエン酸(ソルビン酸)、トランス−8,トランス−10−オクタデカジエン酸、シス−9,シス−12−オクタデカジエン酸(リノール酸)、トランス−9,トランス−12−オクタデカジエン酸(リノライジン酸)、シス−9,トランス−11−オクタデカジエン酸、トランス−10,シス−12−オクタデカジエン酸、シス−9,シス−11−オクタデカジエン酸、シス−10,シス−12−オクタデカジエン酸、トランス−10,トランス−12−オクタデカジエン酸、トランス−9,トランス−11−オクタデカジエン酸、トランス−8,トランス−10−オクタデカジエン酸、2,2−ジメチル−シス−9,シス−12−オクタデカジエン酸、12,20−ヘンエイコサジエン酸、9,13−ドコサジエン酸、2,2−ジメチル−シス−11,シス−14−エイコサジエン酸、9,15−テトラコサジエン酸などを挙げることができる。【0011】本発明では、前記多不飽和脂肪酸そのものを原料とすることもできるが、前記多不飽和脂肪酸を多く含有する酵母を原料とすることもできる。例えばリノレン酸を多く含有する酵母としては、キャンディダ属酵母、ピキア属酵母、クリべロミセス属酵母などを挙げることができる。また、不飽和脂肪酸を多く含むアマニ油、シソ油、ローズヒップ油などの植物油、ピーナッツ、ヒマワリなどの種子も原料として使用することができる。【0012】Aspergillus属(麹かび)の分生子の色により、黒麹菌、黄麹菌などと呼ぶことがあるが、いずれも使用可能である。【0013】水溶性塩を形成するアルカリ金属やアルカリ土類金属としては、Naがもっとも汎用的であるが、K、Mg、Ca、Znなどを使用できる。それぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。例えばNaに少量のK、Mg、Ca、Znなどを1種または複数種併用してもよい。これら金属の塩としては、塩酸塩がもっとも一般的であるが、酢酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩などを用いてもよいし、勿論多種併用であってもよい。【0014】培地の添加する前記水溶性塩は、その濃度を調節することにより、グリーンの香りの発生する成分の量を非常に高めることができる。たとえば、水溶性塩としてNaClを用いた場合には、下記表に示すような結果が得られた。【0015】【表1】なお、このときの培地は、Difco社製 Czapek−Dox培地であり、その組成はNaNO3:0.3wt%、K2HPO4:0.1wt%、KCl:0.05wt%、MgSO4・7H2O:0.05wt%、FeSO4:0.001wt%、サッカロース(saccharose):3wt%、水:残、よりなるものである。【0016】【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。使用する菌株は、出願人の酒類総合研究所に保存してあるAspergillus属(麹かび)約250株の中から、NRIB40、NRIB128(以上A.oryzae)、NRIB910、NRIB919(以上A.sojae)、NRIB2804(A.awamori)、IFO4308(A.kawachii)、NRIB2004(A.usamii)、NRIB2501(A.shirousamii)の計8株を選択した。【0017】使用する培地は(イ)Czapek−Dox培地(Difco社製)NaNO3:0.3wt%、K2HPO4:0.1wt%、KCl:0.05wt%、MgSO4・7H2O:0.05wt%、FeSO4:0.001wt%、サッカロース:3wt%、水:残(ロ)DPY培地デキストリン:2wt%、ポリペプトン:1wt%、酵母エキス:0.5wt%、KH2PO4:0.5wt%、MgSO4:0.05wt%、水:残【0018】(脂肪酸減少率の測定)図1に示すように、各培地に菌体を植菌し、30℃で6日間振とう培養し、培養液を図2に示すようにG3のガラスフィルターで濾過し、残渣を滅菌水で洗浄した後、滅菌した0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)に加えて懸濁させたものを菌体サンプルとした。前記濾過により得られた濾液を、さらに0.22μmのメンブランフィルターでろ過し、これを培養上清サンプルとした。図3に示すように菌体サンプルや、培養上清サンプルのいずれでもよいが、いずれかの3mlをスクリューキャップ付試験管にとり、エタノールにリノレン酸を加えて10000ppmの濃度とした溶液を前記試験管に加え、試験管中のリノレン酸の最終濃度が100ppmとなるように調製した。この試験管を30℃で1〜19時間振とうした。振とう操作中にリノレン酸が他の化学物質に変換され、その一部が更に変換されることによりグリーンな香りが生成する。振とう操作中のリノレン酸減少率の測定は以下のように行った。図4に示すように、まず反応液中のリノレン酸を測定する。すなわち、所定時間振とうした反応液3mlを含むスクリューキャップ付試験管に、内部標準としてエタノールに溶解した10000ppmのエラルゴン酸溶液0.03mlを添加した後、濃塩酸を添加しpHを3.0以下にし、酢酸エチル:メタノール(9:1)3mlを添加し、10分間振とう抽出した。抽出後の溶媒層を他の試験管に取り出し、残った水層に再度酢酸エチル:メタノール(9:1)3mlを添加して10分間振とうした。溶媒層を前記試験管中の溶媒層に加えて混合し、無水硫酸ナトリウムにより脱水し、得られた抽出成分含有溶媒層をGC分析によりそのリノレン酸を定量した。これにより得られたリノレン酸の値をAとした。一方、図5に示すように、リノレン酸定量のために標準品(菌体を添加しないのでグリーンな香りを生成しない場合)を作製するために、前記菌体サンプルまたは培養上清サンプルの代わりに蒸留水3mlをスクリューキャップ付試験管に加えて、上記サンプルの場合と同様の操作を行い、これを標準品とし、これをGC分析によりリノレン酸の定量値Bとした。上記のようにして得られたデータより、リノレン酸減少率は(1−A/B)×100(%)として算出した。【0019】リノレン酸定量のためのGC分析条件は以下の通りである。ヒューレット・パッカード社製(現在はアジレント社)GC5890を使用した。使用カラムはアジレント社製、INNOWAXを用いた。カラム内径は0.25mm。カラム長は25m。膜厚は0.25μm。昇温条件について述べると、カラムの温度は50℃からスタートし、10℃/minの割合で昇温し、230℃に適したとき、その温度で、32分間保った。ついでカラム内に前記抽出成分含有溶媒2μlを注入した。インジェクション、ディテクター(FID)温度は共に250℃とした。グリーン香定量のためのGC/MS及びGC−Olfactometry(GC/O)分析は以下のように行った。すなわち、図3に示す操作をスケールアップし、前記培養上清サンプル100mlに前記濃度のリノレン酸1mlを添加し、グリーンな香りを生成させた。反応終了後、99.5%エタノールを10ml添加し(最終濃度約10%となるように)、ガラス製蒸留機を用い、常圧蒸留を行い70ml回収した。OASISカラム(Waters社製)を用いて固相抽出し、2mlのジクロロメタンにて溶出させた。無水硫酸ナトリウムにより脱水し、窒素ガスで約300μlに濃縮した。GC/MS分析条件は以下の通りである。アジレント社製GC6890Nにアジレント社製質量検出器5973を連結したものを使用した。使用カラムはDB−Wax(アジレント社製)、カラム内径は0.25mm、カラム長は30m、膜厚は0.25μmを使用した。カラム内流速は1ml/min.とした。昇温条件は40℃、1分間、3℃/min、230℃、10分間で行った。フロントインレットは230℃とした。1μlをスプリットレス注入した。GC/O分析条件は以下の通り。アジレント社製GC6890Nを使用し、検出器側にて分岐を行い片方にスニッフィングポートを、片方に質量検出器5973(アジレント社製)を連結させた。使用カラムはDB−Wax(アジレント社製)、カラム内径は0.32mm、カラム長は15m、膜厚は0.25μmを使用した。加温条件は30℃で2分間保った後、1分間に5℃づつ昇温し、220℃になったとき、この温度で22分間保った。フロントインレットは230℃とした。1μlをスプリットレス注入した。【0020】培地の違いによる添加リノレン酸減少率比較まずNRIB40株を用い、培地の違いによる添加リノレン酸の減少率を調べた。その結果を図6に示す。DPY培地は栄養リッチであり増殖も早かったが添加リノレン酸の減少率は30%と低かった。わずかながら、グリーンな香りは生成していた。Czapek−Dox培地は糸状菌の最小培地であるが、栄養分が少なすぎるのか、増殖が極端に悪く、添加リノレン酸の減少率も30%と低かった。Czapek−Dox培地に0.5%NaClを含有する培地(Czapek−Dox+NaCl)の場合、DPY培地ほどではないが増殖がかなり早くなり、添加リノレン酸の減少率は約90%と一番高かった。グリーンな香りもより多く生成していた。Czapek−Dox培地に2%カザミノ酸を含有する培地(Czapek−Dox+カザミノ酸)の場合、栄養リッチであり増殖もDPYと同等となったが、添加リノレン酸の減少率は10%と一番低かった。栄養がリッチとなると添加リノレン酸の減少率が低くなり、最小限の栄養素(糖とミネラル)でよいと推測された。酵素の精製という点を考慮するとCzapek−Dox+NaCl培地はタンパクを含有しないことから有利であろうと考慮して、この培地を使用して実験を進めた。【0021】各菌株による添加リノレン酸減少率比較Czapek−Dox+NaCl培地を用いて、選択した菌株NRIB40、NRIB128、NRIB910、NRIB919、NRIB2804、IFO4308、NRIB2004、NRIB2501の8種の菌株をそれぞれ培養し、培養上清中の添加リノレン酸減少率を比較した。その結果を図7に示す。A.oryzaeの2株はどちらも添加したリノレン酸を50%以上減少させた。それ以外の株については、A.sojaeの一株を除いて、リノレン酸をまったく減少させなかった。Czapek−Dox+NaCl培地での増殖に問題なかったのにリノレン酸を減少させない株も存在した。今後、菌株のスクリーニングを行うのであれば、まずはA.oryzaeを中心に進めたほうがよりよい株を選択できる可能性が高いと予想される。一番リノレン酸を減少させたのはNRIB40株(A.oryzae)であったため、以降はこの株を用いて実験を進めた。【0022】グリーン香気成分の推定(GC/MS分析、GC/O分析)添加リノレン酸の減少とグリーンな香りの生成には時間的に差がある。図8に示すように、添加リノレン酸の減少は4時間程度で終了するのに対して、グリーン香の生成は4時間でも若干生成するが、一晩程度反応を行った方がよりグリーンな感じが強くなった。リポキシゲナーゼ反応以降の段階で時間を要すると推測される。一晩反応させたグリーンな香りを持つ溶液を、蒸留、固相抽出することによりグリーンな香りを回収した。これをGC/O解析したところ、グリーンな香りをもつリテンションタイムの異なる5成分のピークを認めることができた。GC/O解析により認められた5成分について、各成分のGC/O解析のリテンションインデックスをGC/MSのリテンションタイムに変換し、それらのリテンションタイムに検出されるピーク成分をGC/MS解析することにより、グリーン香成分を同定した。すなわち、前記培養上清サンプル100mlに前記濃度のリノレン酸1mlを添加し、グリーンな香りをもつ溶液、すなわちグリーン溶液を得た。反応終了後、99.5%純度のエタノールを10ml添加し(最終濃度約10%となるように)、ガラス製蒸留機を用い、常圧蒸留を行い70ml回収した。OASISカラム(Waters社製)を用いて固相抽出し、2mlのジクロロメタンにて溶出させた。無水硫酸ナトリウムにより脱水し、窒素ガスで10倍濃縮した。これにより当初のグリーン溶液からみると500倍濃縮されたことになる。これを使用カラムDB−Wax、0.25mm×30m、膜厚0.25μm、昇温は40℃、1分間、3℃/min、230℃、10分間、フロントインレットは230℃で行い、1μlをスプリットレス注入することにより、GC/MS分析を行った。ライブラリー“WILEY”中のデータベースと今回GC/MS解析により得られた各ピークのマススペクトルデータを比較し、また標準物質が入手できるもの〔n−ヘキサナール、(E)−ヘキセナール、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール、(E,Z)−2,6−ノナジエナール〕はそれらのリテンションタイムとマススペクトルを比較することによりどのピークが何の物質であるか同定した。その結果、図9に示すように、リテンションタイム5.95のマススペクトルがn−ヘキサナール(n−hexanal)、リテンションタイム10.07のマススペクトルが(E)−ヘキセナール〔(E)−hexenal〕、リテンションタイム20.77のマススペクトルが(E,E)−2,4−ヘプタジエナール〔(E,E)−2,4−heptadienal〕、リテンションタイム21.92のマススペクトルが(E,E)−3,5−オクタジエン−2−オン〔(E,E)−3,5−octadien−2−one〕、リテンションタイム24.42のマススペクトルが(E,Z)−2,6−ノナジエナール〔(E,Z)−2,6−nonadienal〕であり、各成分の時間的なずれは0.1分以内であった。なお、マススペクトルとは化合物が分解していくときの分子量を示す。つまりとある物質が分解するときには最初Aという分子量であったが、次に分解されてAより小さい分子量Bとなり、次にBより小さいCとなる。このような分解されていくときの分子量の変換パターンには規則性があり、このパターンを比較することにより物質名が推測される。これらのマススペクトルのパターンをまとめたものがライブラリーと呼ばれる。今回用いているのは“WILEY”という名のライブラリーである。“WILEY”の中のマススペクトルデータと今回GC/MS解析により得られた各ピークのマススペクトルデータを比較することにより物質を特定している。比較はもちろんコンピューターのソフトで行い、一般的にはMatch qualityという数値(%)で表される。70%以上で同定と言われるが、すべて90%以上であった。【0023】定量分析の結果、(a)n−ヘキサナール(n−hexanal)は938ppb、(b)(E)−ヘキセナール〔(E)−hexenal〕は386ppb、(c)(E,E)−2,4−ヘプタジエナール〔(E,E)−2,4−heptadienal〕は65ppb、(d)(E,Z)−2,6−ノナジエナール〔(E,Z)−2,6−nonadienal〕は126ppb含有されていることが判ったが、3,5−オクタジエン−2−オン(3,5−octadien−2−one)は標準物質が入手できず、定量できなかった。定量できた(a)、(b)、(c)、(d)の4成分の合計量に対する各成分の占める割合は、(a)61.9wt%、(b)25.5wt%、(c)4.3wt%、(d)8.3wt%であった。【0024】<グリーン溶液を添加したウイスキー、焼酎の作成>この実験で使用したグリーン溶液中にはn−ヘキサナール(n−hexanal)は577ppb、(E)−ヘキセナール〔(E)−hexenal〕は300ppb、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール〔(E,E)−2,4−heptadienal〕は34ppb、(E,Z)−2,6−ノナジエナール〔(E,Z)−2,6−nonadienal〕は36ppb含有していた。この溶液100mlに原料用アルコール(アルコール度数95.6%)を10ml添加し、ガラス製の蒸留機により常圧蒸留を行った。蒸留液を10mlずつ回収したが、最初の10mlにグリーンな香りが強く感じられたのでこの部分(グリーン香蒸留物)を焼酎またはウイスキーに添加した。単純に成分が10倍になっていたとすると、n−ヘキサナール(n−hexanal)は5770ppb、(E)−ヘキセナール〔(E)−hexenal〕は3000ppb、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール〔(E,E)−2,4−heptadienal〕は340ppb、(E,Z)−2,6−ノナジエナール〔(E,Z)−2,6−nonadienal〕は360ppb含有していることになる。ウイスキーまたは焼酎に1/100量添加した場合、n−ヘキサナール(n−hexanal)は57.7ppb、(E)−ヘキセナール〔(E)−hexenal〕は30.0ppb、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール〔(E,E)−2,4−heptadienal〕は3.4ppb、(E,Z)−2,6−ノナジエナール〔(E,Z)−2,6−nonadienal〕は3.6ppb含有し、1/200量添加した場合、n−ヘキサナール(n−hexanal)は28.9ppb、(E)−ヘキセナール〔(E)−hexenal〕は15ppb、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール〔(E,E)−2,4−heptadienal〕は1.7ppb、(E,Z)−2,6−ノナジエナール〔(E,Z)−2,6−nonadienal〕は1.8ppb含有し、1/400量添加した場合、n−ヘキサナール(n−hexanal)は14.5ppb、(E)−ヘキセナール〔(E)−hexenal〕は7.5ppb、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール〔(E,E)−2,4−heptadienal〕は0.9ppb、(E,Z)−2,6−ノナジエナール〔(E,Z)−2,6−nonadienal〕は0.9ppb含有し、1/800量添加した場合、n−ヘキサナール(n−hexanal)は7.3ppb、(E)−ヘキセナール〔(E)−hexenal〕は3.8ppb、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール〔(E,E)−2,4−heptadienal〕は0.5ppb、(E,Z)−2,6−ノナジエナール〔(E,Z)−2,6−nonadienal〕は0.5ppb含有していることになる。【0025】<グリーン溶液添加ウイスキーまたは焼酎の官能評価>蒸留酒の専門パネラー5名に、上述のグリーン香蒸留物を添加した市販の焼酎〔アサヒ協和(株)製造品、商品名「玄海」〕、ウイスキー〔ニッカウヰスキー(株)製造品、商品名「ブラッククリアブレンド」〕の官能評価を行った。下記表のように悪いを1点、普通を3点、よいを5点として全体評価を行った。またその際の味および香気に関するコメントも載せた。グリーンな香り以外に興味深い意見として、香味が味に変化を及ぼすという点であった。グリーンな香気が感じられると、味が甘く、スーと伸びる感じとなるように感じられ、味が良くなるという点で長所をもつと思われた。また、ウイスキーにおいては味・香りのバランスが非常に重要であるが、明らかにグリーンな香気が感じられなくても、味も含めて効果があると言える。【0026】【表2】【0027】<市販麦焼酎(商品名「玄海」)に前記グリーン香蒸留物を添加した場合の官能検査結果>【表3】結果が示すように、1/400量添加時が最も効果があると思われた。1/100量添加では、香りが強すぎる傾向があり、好ましくなく、1/800量添加では余り差は認められなかった。【0028】<市販ウィスキー(商品名「ブラッククリアブレンド」)に前記グリーン香蒸留物を添加した場合の官能検査結果>【表4】【0029】結果に示されるように、グリーンな個性的なタイプのウィスキーという点においては1/200量添加が一番イメージに合うものであった。また、全体のバランスが保たれており、グリーンな香りと味わいが適度にバランスしているという点では、1/400量添加および1/800量添加時が好ましい結果を示した。ウィスキーに添加した結果が焼酎に添加した場合と異なっているのは、ベースとなる蒸留酒に含まれる香気成分が異なっているためであると考えられる。すなわち、ウィスキーには焼酎に含まれるよりも多くの複雑な香気成分が含まれていることを示していると思われる。【0030】以上の結果から、焼酎にグリーン香蒸留物を添加するときの好ましい添加量は、1/150乃至1/600、ウィスキーにグリーン香蒸留物を添加するときの好ましい添加量は、1/150乃至1/900であると考えられる。【0031】【発明の効果】(1)本発明により、グリーンな香りをもつ生成物を取得するための新しい方法を提供するとともにそれにより得られた新規なグリーンな香りをもつ生成物を提供できた。(2)この新規なグリーンな香りをもつアルコール性生成物をアルコール飲料に適量添加すると、アルコール飲料の香りのみならず、味も改良することができた。【図面の簡単な説明】【図1】菌体の培養を説明するためのモデル図である。【図2】培養後、濾過により菌体と培養液を分離する工程を示すモデル図である。【図3】グリーンな香りの生成工程を示すモデル図である。【図4】ガスクロマトグラフィー(GC)分析による添加したリノレン酸の定量における第1工程であるグリーンな香り生成後に残っているリノレン酸の定量を示すモデル図である。【図5】ガスクロマトグラフィー(GC)分析による添加したリノレン酸の定量における第2工程であるリノレン酸の定量のための標準品の作製工程を示すモデル図である。【図6】各培地により、添加したリノレン酸がどれだけ分解したかを示すグラフである。【図7】特定培地中で、いろいろの菌株により添加したリノレン酸がどれだけ分解したかを示すグラフである。【図8】リノレン酸の減少速度とグリーンな香りの発生の程度との関係を示すグラフである。【図9】実施例におけるグリーンな香りをもつ生成物のGC/MSの解析図である。 培地中において不飽和脂肪酸にリポキシゲナーゼを作用させることを特徴とするグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法。 培地中において不飽和脂肪酸にリポキシゲナーゼを作用させた後、アルコールによる抽出および蒸留を行うことを特徴とするグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法。 前記不飽和脂肪酸が多不飽和脂肪酸である請求項1または2記載のグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法。 前記リポキシゲナーゼがAspergillus属(麹かび)由来のものである請求項1〜3いずれか記載のグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法。 前記培地が、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水溶性塩を含有するものである請求項1〜4いずれか記載のグリーンな香りをもつ生成物を取得する方法。 ヘキサナール、ヘキセナール、2,4−ヘプタジエナールおよび2,6−ノナジエナールを含有している請求項1〜5いずれか記載の方法により得られたグリーンな香りをもつ生成物。 ヘキサナール57〜67重量%、ヘキセナール21〜31重量%、2,4−ヘプタジエナール2〜6重量%、2,6−ノナジエナール5〜11重量%の割合でヘキサナール、ヘキセナール、2,4−ヘプタジエナールおよび2,6−ノナジエナールを含有していることを特徴とするグリーンな香りをもつ生成物。 さらに、3,5−オクタジェン−2−オンを含有するものである請求項6または7記載のグリーンな香りをもつ生成物。 請求項1〜8記載のグリーンな香りをもつ生成物をアルコール飲料に添加して得られたアルコール飲料。 【課題】グリーンな香りをもつ生成物を取得するための新規な方法、それにより得られた生成物およびそれを用いたアルコール飲料の提供。【解決手段】培地中において不飽和脂肪酸にリポキシゲナーゼを作用させることを特徴とするグリーンな香りをもつ生成物の取得方法、その生成物およびそれを含有するアルコール飲料。【選択図】 なし


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