生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及びそれを含む採血管
出願番号:2003184691
年次:2005
IPC分類:7,G01N33/53,A61B5/15,G01N33/48,G01N33/531


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高山 成伸 日比 望 川野 克己 JP 2005017189 公開特許公報(A) 20050120 2003184691 20030627 血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及びそれを含む採血管 株式会社エスアールエル 390037006 谷川 英次郎 100088546 高山 成伸 日比 望 川野 克己 7 G01N33/53 A61B5/15 G01N33/48 G01N33/531 JP G01N33/53 B G01N33/48 J G01N33/48 K A61B5/14 300Z G01N33/531 B 6 1 OL 11 2G045 4C038 2G045AA13 2G045BA11 2G045BB32 2G045BB34 2G045CA25 2G045DA36 2G045DA54 2G045HA06 4C038TA10 4C038UC03 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及びそれを含む採血管に関する。【0002】【従来の技術】従来より、ヒトの糖尿病や糖代謝障害の診断や病態把握のために、血中のインスリン濃度を測定することが広く行われている。また、糖尿病に対する医薬品を開発するために、候補化合物をラットやマウスのような小動物に投与してその血中インスリン濃度を測定することも広く行われている。【0003】採血は、通常、注射針を血管に刺し、注射針を介して採血管中に血液を吸入することにより行われている。ところが、赤血球が注射針を通過したり採血管の内壁と接触したりすることによる機械的な力等に起因して、赤血球が破壊される、すなわち、溶血が起きることがある。とりわけ、小動物から採血する場合には、血管が細いため細い注射針を用いる必要があり、さらに血球強度も低いことから、溶血がしばしば起きる。【0004】溶血が起きると、破壊された血球からインスリン分解酵素(以下、「IDE」と言うことがある)が血漿(血清)中に流出し、これによってインスリンが経時的に分解されるため、血中インスリン濃度の測定値は真の値よりも低くなってしまうという問題があった(非特許文献1及び非特許文献2)。【0005】この問題を解決するため、IDE阻害剤を血液検体に添加する方法が知られている。一般に酵素活性を阻害する物質として、金属キレート剤やSH基を修飾する試薬(SH修飾試薬)が広く用いられている。IDEは単一の酵素ではなく複数の酵素が関与していると考えられており、IDE活性阻害剤としてもこれらの薬剤が有効と考えられている(非特許文献3)。これまでにp−クロロマーキュリフェニルスルフォネートナトリウム塩 (CMPS)を阻害剤として用いた場合の報告がなされている(非特許文献1)。しかしながら、CMPSによるIDE活性阻害効果は必ずしも満足できるものではなく、また、液体のIDE阻害剤を使用した場合には、得られたインスリン値に対して液量変化による補正を必要とし、さらに、水銀化合物の使用はその毒性が安全性上問題となることから、臨床検査においては実用的でない。【0006】【非特許文献1】Sapin R, Ongagna J−C, Gasser D, Gruker D. Insulin measurements in haemolyzed serum: influence of insulinase inhibitors. Clinica Chimica Acta 274, 111−117, 1998.【非特許文献2】原 由紀子, 酵素免他。全自動化学発光酵素免疫測定装置BCS600を用いたインスリン測定の基礎的・臨床的検討。医学と薬学 44, 939−946, 2000.【非特許文献3】Duckworth WC, Bennett RG, Hamel FG. Insulin degradation: Progress and potential. Endocrine Rev. 19, 608−624, 1998.【0007】【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の目的は、IDEによるインスリンの分解を効率良く阻害することができ、液体の組成物を用いることがなく、水銀含有化合物を用いることもなく血中のインスリンを測定する手段を提供することである。【0008】【課題を解決するための手段】本願発明者らは、鋭意研究の結果、EDTA又はその塩、o−フェナントロリン及びモノヨード酢酸の3剤を併用することにより、IDEを効率良く阻害してインスリンの分解を抑制することができ、さらに、これら3剤に多糖類を含む固体の組成物を採血管内に含ませておくことにより、血液検体を採血管に入れると上記3剤が速やかに検体中に溶解してインスリンの分解を抑制できることを見出し、本発明を完成した。【0009】すなわち、本発明は、EDTA又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び多糖類を含む固体状の組成物から成る、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物を提供する。また、本発明は、採血管内に、EDTA又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び多糖類を含む固体状の組成物を含む血中インスリン濃度測定用採血管を提供する。【0010】【発明の実施の形態】上記の通り、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び多糖類を含む。これらのうち、EDTA又はその塩、o−フェナントロリン及びモノヨード酢酸は、それぞれ抗IDE活性を有するものであるが、下記実施例に具体的に記載するように、これら3剤を併用することにより、相乗的に抗IDE活性が高められ、優れた抗IDE効果を発揮する。【0011】上記EDTAの塩としては、特に限定されないが、EDTAのアルカリ金属塩、例えばEDTAのカリウム塩やナトリウム塩を好ましい例として挙げることができる。また、EDTAの4つのカルボキシル基のうち、塩になるカルボキシル基の数は限定されず、1〜4個でよい。なお、EDTAは、必ずしも塩の形態にある必要はなく、酸の形態でもよい。【0012】組成物中に含まれる水溶性多糖類は、インスリン測定時に、上記した3剤を血液検体中に速やかに溶解させ、速やかにその抗IDE活性を発揮させるために重要な役割を担うものである。上記3剤のうち、特にo−フェナントロリンは、水に溶けにくく、これを単に血液検体に添加しただけではその抗IDE効果が良く発揮されず、また、添加した組成物により機械的な摩擦による溶血が引き起こされるという問題点に本願発明者らは行き当たったが、水溶性多糖類を共存させることにより、o−フェナントロリンも速やかに血液検体中に溶け、その抗IDE効果が発揮されると共に機械的な溶血も起きなくなることを見出し、この問題点を解決した。水溶性の多糖類であれば特に限定されないが、例えばコーンスターチ等の水溶性のデンプンが好ましい。なお、本明細書において、「水溶性多糖類」は、室温下で水に溶解する濃度が0.1 % (w/v)以上、好ましくは1.5%(w/v)以上の多糖類を意味する。【0013】組成物は、さらにヘパリンのような抗凝血剤を含むことが好ましい。【0014】各成分の混合比率は、特に限定されないが、血液検体と混合した後の前記EDTA又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び水溶性多糖類は、血液試料添加後の終濃度がそれぞれ5〜50 mM、5〜30 mM、0.5〜20mM及び0.1〜1.5% (w/v)となる比率が、高い抗IDE活性を速やかに発揮する上で好ましい。ヘパリンのような抗凝血剤を含む場合には、血液検体と混合した後の終濃度が3〜20IU/mL程度になる比率が好ましい。【0015】組成物は、上記した成分のみから成るものが単純で好ましいが、本発明の効果に有意な悪影響を与えない範囲ならば他の成分や不純物等を含んでいてもよい。【0016】組成物の製造方法は、特に限定されないが、前記EDTA又はその塩、o−フェナントロリン及びモノヨード酢酸を含む溶液を調製し、これに水溶性多糖類、及び抗凝血剤が含まれる場合には抗凝血剤を混合した溶液を乾燥又は凍結乾燥することが、迅速に抗IDE効果を発揮する均一な組成物を調製する上で好ましい。この場合、前記EDTA又はその塩、o−フェナントロリン及びモノヨード酢酸を溶解する溶媒としては、o−フェナントロリンが水に難溶性であるので工夫を要したが、エタノール水溶液、好ましくは濃度が10〜40%(v/v)程度、さらに好ましくは15〜25%(v/v)程度のものを溶媒として用いると上記3成分を溶解できることを見出した。【0017】上記した本発明の添加剤組成物を血液検体と混合すると、組成物が迅速に溶解され、抗IDE効果が速やかに発揮され、IDEによるインスリンの分解が抑制されるので、正確な測定値が得られる。したがって、本発明の組成物は、特に溶血が起きていて血球からIDEが流出している血液検体中のインスリン濃度の測定に威力を発揮する。なお、インスリン濃度の測定は、通常、採血管に全血を取り、静置後、血清中のインスリン濃度を測定することにより行われる。インスリン濃度の測定方法自体は何ら限定されるものではなく、周知の免疫分析等により行うことができる。血中インスリン濃度を測定するためのELISAキットが複数市販されているので、これらのELISAキットをそのまま用いてインスリン濃度を測定することができる。【0018】上記組成物は、予め採血管に含めておくと便利である。したがって、本発明は、採血管内に、上記本発明の組成物を含むインスリン測定用採血管をも提供する。本発明のインスリン測定用採血管は、上記本発明の固体状の添加剤組成物をそのまま管の中に収容したものであってもよいが、前記組成物を速やかに血液検体に溶解するために、前記採血管の内側表面上にコーティングしたものは、特に、微量の毛細管採血時において有効である。なお、組成物を速やかに血液検体に溶解するために組成物を採血管の内表面上にコーティングするという思想は、本願発明者らの独創によるものである。特に、用いる血液検体の量が少ない場合、例えば150μL以下の場合には、組成物を採血管の内側表面上にコーティングすることが好ましい。コーティングは、組成物中の全成分を含む上記溶液を、採血管の内部表面、特に血液検体と接触する部分の表面に塗布し、そのまま乾燥又は凍結乾燥することにより行うことができる。塗布は、例えば、溶液を採血管に入れ、傾けて回転させることにより管の内部表面を溶液と接触させることにより行うことができる。なお、必ずしも採血管の内表面の全域をコーティングする必要はなく、血液検体と必ず接触する管の底部及びその近傍の表面のみに対して相当する必要量をコーティングしてもよい。【0019】採血管内に含ませる組成物の量は、特に限定されないが、血液検体と混合した後の前記EDTA又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び水溶性多糖類は、血液試料添加後の終濃度がそれぞれ5〜50 mM、5〜30 mM、0.5〜20mM及び0.1〜1.5%(w/v)となる含量が、高い抗IDE活性を速やかに発揮する上で好ましい。ヘパリンのような抗凝血剤を含む場合には、血液検体と混合した後の終濃度が3〜20IU/mL程度になる含量が好ましい。組成物をコーティングする場合も、血液検体と接触する領域上にコーティングされる組成物の含量が、上記範囲になることが好ましい。【0020】なお、採血管自体は、何ら限定されるものではなく、広く用いられているガラス製やプラスチック製の採血管等をそのまま用いることができる。【0021】本発明の採血管に血液検体を入れると、組成物が迅速に溶解され、抗IDE効果が速やかに発揮され、IDEによるインスリンの分解が抑制されるので、正確な測定値が得られる。なお、インスリン濃度の測定は、上記の通り、市販のELISAキット等を用いた常法により行うことができる。【0022】【実施例】以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。【0023】実施例1 血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及び採血管の調製(その1)EDTA−2K 0.808g(200 mM)、o−フェナントロリン 0.396g(200 mM)、モノヨード酢酸0.038g(20 mM)及びヘパリン−Na 0.030gを10mLの20%(v/v) エタノール水溶液に溶解した。この溶液の25μLを取り、これに75μLの2%コーンスターチ水溶液を加え撹拌し、得られた溶液を凍結乾燥して本発明の組成物を得た。この組成物を500μL採血用試験管に収容し、本発明の採血管を得た。なお、この採血管に500μLの血液検体を入れると、EDTA−2K、o−フェナントロリン及びモノヨード酢酸の終濃度はそれぞれ約10mM、10mM、1mMであり、コーンスターチの終濃度は約0.3w/v%、ヘパリン−Naの終濃度は約10IU/mLである。同様にして、1000μL用の採血管及び200μL用の採血管も作製した(各成分の終濃度は500μL用採血管の場合と同じ)。【0024】実施例2 血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及び採血管の調製(その2)実施例1で調製した、EDTA−2K、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸ヘパリン−Naを含む20%(v/v) エタノール水溶液の1mLを取り、これに0.15gのコーンスターチを加えて撹拌し、水溶液Aを得た。この水溶液Aの7.5μLを取り、150μL採血用の毛細管の内壁に均一になるように流し込んで塗布し、乾燥することにより、本発明の組成物をコーティングした採血管を作製した。なお、この採血管に150μLの血液検体を入れると、各成分の終濃度は実施例1の場合と同じである。【0025】実施例3 血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及び採血管の調製(その3)実施例2で調製した水溶液Aの4.0μLを取り、75μL採血用の毛細管の内壁に均一になるように流し込んで塗布し、乾燥することにより、本発明の組成物をコーティングした採血管を作製した。なお、この採血管に75μLの血液検体を入れると、各成分の終濃度は実施例1の場合とほぼ同じである。【0026】実施例4、比較例1 性能試験(その1)(1) 溶血血清の調製全く溶血が認められないラットの血清を準備した。一方、ラット赤血球について凍結融解を2回繰り返して赤血球破砕液を調製し、遠心後、その上清を前記溶血のない血清に1/4量加えることによりラット溶血血清(ヘモグロビン濃度1〜5g/dL)を調製した。尚、対照として赤血球破砕液の代わりに生食水を加えたもの(以下、便宜的に「非溶血血清」)を作製した。ヒトの場合も同様におこなった。【0027】(2) 性能試験ラット非溶血血清を実施例1に示した方法で作製した500μL用採血管に移して溶解させた後、(1)の方法によって作製した溶血血清を試料とし、室温で0分間、30分間、及び1時間放置後、血清中のインスリン濃度を測定した(実施例4)。インスリン濃度は、市販のインスリン測定用ELISAキット(レビス(登録商標)インスリンキット(商品名)、シバヤギ社製)を用い、その取扱い説明書に従って測定した。比較のため、本発明の組成物を含まない通常の溶血血清についても、同様に室温で0分間、30分間、及び1時間放置後、血清中のインスリン濃度を測定した(比較例1)。【0028】結果を図1に示す。白丸が非溶血血清についての結果、四角が実施例4についての結果、黒丸が比較例1についての結果を示し、各プロットは実施例数6例におけるその平均値を表し、縦の棒はばらつき(標準偏差)の範囲を示す。また、縦軸の残存インスリン濃度は、生食を加えた非溶血血清(試験対照)の直後(0分間値)におけるインスリン濃度を100とした相対値を示す。図1に示すように、比較例1では採血管に移した30分後にはインスリン相対濃度が既に0%近くにまで低下したが、実施例4では1時間経過後でも90%以上であり、本発明の組成物によるインスリン分解抑制効果が明らかに認められた。【0029】実施例5、比較例2〜5 性能試験(その2)実施例4(1)の方法で作製したラット溶血血清を実施例1で作製した500μL用採血管に移し、室温で24時間放置後、血清中のインスリン濃度を測定した(実施例5)。比較のため、組成物を含まない単なる採血管(比較例2)、モノヨード酢酸を添加しないことを除き実施例1と同様に作製した500μL用採血管(比較例3)、o−フェナントロリンを添加しないことを除き実施例1と同様に作製した500μL用採血管(比較例4)、EDTA−2Kを添加しないことを除き実施例1と同様に作製した500μL用採血管(比較例5)について測定し、試験対照として、生食を加えたラット非溶血血清を同様に測定した。なお、測定は、市販のELISAキットであるレビス(登録商標)インスリンキット(商品名)、シバヤギ社製及びインスリン測定キット(商品名)、森永生科学研究所社製を用い、それぞれの取扱い説明書に記載された方法により行った。なお、前者のELISAキットは、一次抗体及び二次抗体のいずれもが抗インスリンモノクローナル抗体であり(図2上段)、後者のELISAキットは、一次抗体が抗インスリンモノクローナル抗体で二次抗体が抗インスリンポリクローナル抗体(図2下段)である。【0030】試験例数を5例とした場合の結果を図2に示す。図2中、レーン1が非溶血血清、レーン2〜5がそれぞれ比較例2〜5、レーン6が実施例5についての結果をそれぞれ示す(平均値と標準偏差)。図2の縦軸は、図1と同じく残存インスリン相対濃度を示す。図2に示されるように、本発明の採血管を用いた実施例5では、いずれの測定方法においても、室温24時間放置後の相対インスリン濃度が、添加剤組成物を含まない比較例2及び本発明の添加剤組成物の抗IDE成分である3剤のうちの1剤を含まない比較例3〜5のいずれよりも明らかに高く、本発明の効果が確認された。また、ポリクローナル試薬系とモノクローナル試薬系という反応性の異なる測定キットでも全く同様の結果であったことから、本発明の組成物のインスリン分解阻止効果は測定対象であるインスリン分子全体に及ぶものと解釈された。IDE分子とインスリン分子が多くの動物種間で非常に高い相同性を有していることを踏まえると、本発明の組成物がヒト血清など他の動物種の場合にも充分にその分解阻止効果を発揮することが示唆された。【0031】実施例6 比較例6〜9 ヒト血清に対する性能試験ヒト溶血血清を実施例4(1)と同様にして作製し、これを用いて実施例5及び比較例2〜5と同様な実験を行った。ただし、採血管に移した後、測定までの時間は4時間であった。残存インスリン濃度の測定は、市販のELISAキットであるLS試薬栄研インシュリン(商品名)を用いて行った。なお、比較例6〜9に用いた採血管は、それぞれ比較例2〜5に用いた採血管(500μL用)と同じである。【0032】試験例数を5例とした場合の結果を図3に示す。図3中、レーン1が非溶血血清、レーン2〜5がそれぞれ比較例6〜9、レーン6が実施例6についての結果(平均値と標準偏差)をそれぞれ示す。図3に示されるように、ヒト溶血血清についても、本発明の採血管が最も相対インスリン濃度が高く、本発明の添加剤組成物がヒト溶血血清に対しても優れたインスリン分解阻害効果を発揮することが確認された。【0033】実施例7 添加剤組成物の溶血反応惹起性本発明の添加剤組成物自体が溶血反応を惹起するか否かを試験した。ヒトにおいて採血後直ちに実施例1で作製した採血管に移した赤血球を用いて、食塩水中の塩濃度変化に対する赤血球の脆弱性を、採血直後と24時間後の2点における溶血度から判定するParpart法のDacie変法(文献:新編臨床検査講座21,臨床血液学、日野志郎、p152、医歯薬出版、1992)にて行った。【0034】結果を図4に示す。本発明の添加剤組成物で処理した赤血球の脆弱性は、採血直後および24時間後のいずれの場合においても正常範囲内であったことから、本発明の組成物が溶血反応を惹起する薬剤でないことが確認された。【0035】実施例8、9、比較例11、12 多糖類の効果実施例1で作製した500μL採血管(実施例8)及び1000μL採血管(実施例9)、並びにコーンスターチを添加しないことを除き実施例1と同様な方法で作製した500μL採血管(比較例11)及び1000μL採血管(比較例12)にヒト全血を各所定量入れ、室温にて混和後、得られた血漿の溶血度を波長540nmにおける吸光度により比較した。【0036】結果を図5に示す。図5に示すように、コーンスターチを含まない比較例11及び12の採血管を用いた場合には、本発明の採血管を用いた実施例8及び9に比べ、溶血度がはるかに大きかった。このことから、本発明の組成物の多糖類は、血液検体の溶血を防止する上で重要であることが明らかになった。【0037】実施例10〜12、比較例13 採血管を用いた実測実施例1で作製した200μL採血管(試験管)(実施例10)及び500μL採血管(試験管)(実施例11)並びに実施例2で作製した150μL採血管(毛細管)(実施例12)を用い、溶血に起因するインスリンの分解が問題となる頻度が高いとされるラットで実際に採血し、室温にて血漿分離後、血漿中の残存インスリン濃度及び溶血度を測定した。比較のため、本発明の添加剤組成物を含まない150μL採血管(毛細管)を用いて同じ操作を行った(比較例13)。残存インスリン濃度の測定は、市販のELISAキットであるレビス(登録商標)インスリンキット(商品名)を用いて行った。【0038】結果を図6に示す。図6に示されるように、採血された4種の血漿および血清検体の溶血度は図中下段(クローズドマーク)に示す通り3匹のラットでほぼ同等であったが、本発明の添加剤組成物を加えていない採血管(比較例13)で得られた血中インスリン値は、いずれのラットにおいても4種の検体中で最も低い値を示していた。一方、対象としたラットは全て正常なラットであり、実施例10〜12の採血管中の血中インスリン値は採血管法および毛細管法で共にコントロール値(非溶血血清での値)示していた。以上の成績から、本発明の添加剤組成物の適用によって溶血の影響を受けず血中インスリンが正確に測定されることが示された。【0039】【発明の効果】本発明により、IDEによるインスリンの分解を効率良く阻害することができ、正確なインスリン濃度の測定を可能にする、固体の血中インスリン濃度測定用添加剤組成物が提供された。本発明の組成物を用いることにより、血液検体が強度に溶血した場合でも、瞬時にIDEによるインスリンの分解を阻害することが可能であり、従来法よりも正確なインスリン濃度の測定が可能になる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の実施例の採血管、又は添加剤組成物を含まない比較例の採血管を用いてラット溶血血清中のインスリン濃度を測定した結果を示す図である。【図2】本発明の実施例の採血管、又は添加剤組成物を含まない若しくは本発明の組成物中の成分の1つを欠いた比較例の採血管を用いてラット溶血血清(血漿)中のインスリン濃度を測定した結果を示す図である。【図3】本発明の実施例の採血管、又は添加剤組成物を含まない若しくは本発明の組成物中の成分の1つを欠いた比較例の採血管を用いてヒト溶血血清(血漿)中のインスリン濃度を測定した結果を示す図である。【図4】本発明の組成物で処理したヒト血液中の赤血球膜抵抗能を示す図である。【図5】本発明の実施例の採血管、又は多糖類を含まない比較例の採血管を用い、同一人より採血した場合に生じた血漿の溶血度を測定した結果を示す図である。【図6】本発明の実施例の採血管、又は添加剤組成物を含まない比較例の採血管を用いてラットから実際に全血を採血し、得られた血清(血漿)について血中インスリン濃度とその溶血度を併せて測定した結果を示す図である。 EDTA又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び水溶性多糖類を含む固体状の組成物から成る、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物。 前記水溶性多糖類はデンプンである請求項1記載の組成物。 抗凝血剤をさらに含む請求項1又は2記載の組成物。 採血管内に、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物を含む血中インスリン濃度測定用採血管。 前記組成物は、前記採血管の内側表面上にコーティングされている請求項4記載の採血管。 前記EDTA又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び水溶性多糖類は、血液試料添加後の終濃度がそれぞれ5〜50 mM、5〜30 mM、0.5〜20mM及び0.1〜1.5%(w/v)となる含量で採血管に含まれている請求項4又は5記載の採血管。 【課題】インスリン分解酵素によるインスリンの分解を効率良く阻害することができ、液体の組成物を用いることがなく、水銀含有化合物を用いることもなく血中のインスリンを測定する手段を提供すること。【解決手段】EDTA又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び多糖類を含む固体状の組成物から成る、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及び、採血管内に、EDTA又はその塩、o−フェナントロリン、モノヨード酢酸及び多糖類を含む固体状の組成物を含む血中インスリン濃度測定用採血管を提供した。【選択図】 図1


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特許公報(B2)_血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及びそれを含む採血管

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タイトル:特許公報(B2)_血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及びそれを含む採血管
出願番号:2003184691
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IPC分類:G01N 33/53,A61B 5/15,G01N 33/48,G01N 33/531


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高山 成伸 日比 望 川野 克己 JP 4163056 特許公報(B2) 20080801 2003184691 20030627 血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及びそれを含む採血管 株式会社エスアールエル 390037006 谷川 英次郎 100088546 高山 成伸 日比 望 川野 克己 20081008 G01N 33/53 20060101AFI20080918BHJP A61B 5/15 20060101ALI20080918BHJP G01N 33/48 20060101ALI20080918BHJP G01N 33/531 20060101ALI20080918BHJP JPG01N33/53 BA61B5/14 300ZG01N33/48 JG01N33/48 BG01N33/531 B G01N 33/48 JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特表平06−503426(JP,A) 特表2002−500234(JP,A) 特開昭63−173965(JP,A) 特開平10−323341(JP,A) 6 2005017189 20050120 10 20060424 海野 佳子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及びそれを含む採血管に関する。【0002】【従来の技術】従来より、ヒトの糖尿病や糖代謝障害の診断や病態把握のために、血中のインスリン濃度を測定することが広く行われている。また、糖尿病に対する医薬品を開発するために、候補化合物をラットやマウスのような小動物に投与してその血中インスリン濃度を測定することも広く行われている。【0003】採血は、通常、注射針を血管に刺し、注射針を介して採血管中に血液を吸入することにより行われている。ところが、赤血球が注射針を通過したり採血管の内壁と接触したりすることによる機械的な力等に起因して、赤血球が破壊される、すなわち、溶血が起きることがある。とりわけ、小動物から採血する場合には、血管が細いため細い注射針を用いる必要があり、さらに血球強度も低いことから、溶血がしばしば起きる。【0004】溶血が起きると、破壊された血球からインスリン分解酵素(以下、「IDE」と言うことがある)が血漿(血清)中に流出し、これによってインスリンが経時的に分解されるため、血中インスリン濃度の測定値は真の値よりも低くなってしまうという問題があった(非特許文献1及び非特許文献2)。【0005】この問題を解決するため、IDE阻害剤を血液検体に添加する方法が知られている。一般に酵素活性を阻害する物質として、金属キレート剤やSH基を修飾する試薬(SH修飾試薬)が広く用いられている。IDEは単一の酵素ではなく複数の酵素が関与していると考えられており、IDE活性阻害剤としてもこれらの薬剤が有効と考えられている(非特許文献3)。これまでにp-クロロマーキュリフェニルスルフォネートナトリウム塩 (CMPS)を阻害剤として用いた場合の報告がなされている(非特許文献1)。しかしながら、CMPSによるIDE活性阻害効果は必ずしも満足できるものではなく、また、液体のIDE阻害剤を使用した場合には、得られたインスリン値に対して液量変化による補正を必要とし、さらに、水銀化合物の使用はその毒性が安全性上問題となることから、臨床検査においては実用的でない。【0006】【非特許文献1】Sapin R, Ongagna J-C, Gasser D, Gruker D. Insulin measurements in haemolyzed serum: influence of insulinase inhibitors. Clinica Chimica Acta 274, 111-117, 1998.【非特許文献2】原 由紀子, 酵素免他。全自動化学発光酵素免疫測定装置BCS600を用いたインスリン測定の基礎的・臨床的検討。医学と薬学 44, 939-946, 2000.【非特許文献3】Duckworth WC, Bennett RG, Hamel FG. Insulin degradation: Progress and potential. Endocrine Rev. 19, 608-624, 1998.【0007】【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の目的は、IDEによるインスリンの分解を効率良く阻害することができ、液体の組成物を用いることがなく、水銀含有化合物を用いることもなく血中のインスリンを測定する手段を提供することである。【0008】【課題を解決するための手段】本願発明者らは、鋭意研究の結果、EDTA又はその塩、o-フェナントロリン及びモノヨード酢酸の3剤を併用することにより、IDEを効率良く阻害してインスリンの分解を抑制することができ、さらに、これら3剤に多糖類を含む固体の組成物を採血管内に含ませておくことにより、血液検体を採血管に入れると上記3剤が速やかに検体中に溶解してインスリンの分解を抑制できることを見出し、本発明を完成した。【0009】すなわち、本発明は、EDTA又はその塩、o-フェナントロリン、モノヨード酢酸及び多糖類を含む固体状の組成物から成る、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物を提供する。また、本発明は、採血管内に、EDTA又はその塩、o-フェナントロリン、モノヨード酢酸及び多糖類を含む固体状の組成物を含む血中インスリン濃度測定用採血管を提供する。【0010】【発明の実施の形態】上記の通り、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)又はその塩、o-フェナントロリン、モノヨード酢酸及び多糖類を含む。これらのうち、EDTA又はその塩、o-フェナントロリン及びモノヨード酢酸は、それぞれ抗IDE活性を有するものであるが、下記実施例に具体的に記載するように、これら3剤を併用することにより、相乗的に抗IDE活性が高められ、優れた抗IDE効果を発揮する。【0011】上記EDTAの塩としては、特に限定されないが、EDTAのアルカリ金属塩、例えばEDTAのカリウム塩やナトリウム塩を好ましい例として挙げることができる。また、EDTAの4つのカルボキシル基のうち、塩になるカルボキシル基の数は限定されず、1〜4個でよい。なお、EDTAは、必ずしも塩の形態にある必要はなく、酸の形態でもよい。【0012】組成物中に含まれる水溶性多糖類は、インスリン測定時に、上記した3剤を血液検体中に速やかに溶解させ、速やかにその抗IDE活性を発揮させるために重要な役割を担うものである。上記3剤のうち、特にo-フェナントロリンは、水に溶けにくく、これを単に血液検体に添加しただけではその抗IDE効果が良く発揮されず、また、添加した組成物により機械的な摩擦による溶血が引き起こされるという問題点に本願発明者らは行き当たったが、水溶性多糖類を共存させることにより、o-フェナントロリンも速やかに血液検体中に溶け、その抗IDE効果が発揮されると共に機械的な溶血も起きなくなることを見出し、この問題点を解決した。水溶性の多糖類であれば特に限定されないが、例えばコーンスターチ等の水溶性のデンプンが好ましい。なお、本明細書において、「水溶性多糖類」は、室温下で水に溶解する濃度が0.1 % (w/v)以上、好ましくは1.5%(w/v)以上の多糖類を意味する。【0013】組成物は、さらにヘパリンのような抗凝血剤を含むことが好ましい。【0014】各成分の混合比率は、特に限定されないが、血液検体と混合した後の前記EDTA又はその塩、o-フェナントロリン、モノヨード酢酸及び水溶性多糖類は、血液試料添加後の終濃度がそれぞれ5〜50 mM、5〜30 mM、0.5〜20mM及び0.1〜1.5% (w/v)となる比率が、高い抗IDE活性を速やかに発揮する上で好ましい。ヘパリンのような抗凝血剤を含む場合には、血液検体と混合した後の終濃度が3〜20IU/mL程度になる比率が好ましい。【0015】組成物は、上記した成分のみから成るものが単純で好ましいが、本発明の効果に有意な悪影響を与えない範囲ならば他の成分や不純物等を含んでいてもよい。【0016】組成物の製造方法は、特に限定されないが、前記EDTA又はその塩、o-フェナントロリン及びモノヨード酢酸を含む溶液を調製し、これに水溶性多糖類、及び抗凝血剤が含まれる場合には抗凝血剤を混合した溶液を乾燥又は凍結乾燥することが、迅速に抗IDE効果を発揮する均一な組成物を調製する上で好ましい。この場合、前記EDTA又はその塩、o-フェナントロリン及びモノヨード酢酸を溶解する溶媒としては、o-フェナントロリンが水に難溶性であるので工夫を要したが、エタノール水溶液、好ましくは濃度が10〜40%(v/v)程度、さらに好ましくは15〜25%(v/v)程度のものを溶媒として用いると上記3成分を溶解できることを見出した。【0017】上記した本発明の添加剤組成物を血液検体と混合すると、組成物が迅速に溶解され、抗IDE効果が速やかに発揮され、IDEによるインスリンの分解が抑制されるので、正確な測定値が得られる。したがって、本発明の組成物は、特に溶血が起きていて血球からIDEが流出している血液検体中のインスリン濃度の測定に威力を発揮する。なお、インスリン濃度の測定は、通常、採血管に全血を取り、静置後、血清中のインスリン濃度を測定することにより行われる。インスリン濃度の測定方法自体は何ら限定されるものではなく、周知の免疫分析等により行うことができる。血中インスリン濃度を測定するためのELISAキットが複数市販されているので、これらのELISAキットをそのまま用いてインスリン濃度を測定することができる。【0018】上記組成物は、予め採血管に含めておくと便利である。したがって、本発明は、採血管内に、上記本発明の組成物を含むインスリン測定用採血管をも提供する。本発明のインスリン測定用採血管は、上記本発明の固体状の添加剤組成物をそのまま管の中に収容したものであってもよいが、前記組成物を速やかに血液検体に溶解するために、前記採血管の内側表面上にコーティングしたものは、特に、微量の毛細管採血時において有効である。なお、組成物を速やかに血液検体に溶解するために組成物を採血管の内表面上にコーティングするという思想は、本願発明者らの独創によるものである。特に、用いる血液検体の量が少ない場合、例えば150μL以下の場合には、組成物を採血管の内側表面上にコーティングすることが好ましい。コーティングは、組成物中の全成分を含む上記溶液を、採血管の内部表面、特に血液検体と接触する部分の表面に塗布し、そのまま乾燥又は凍結乾燥することにより行うことができる。塗布は、例えば、溶液を採血管に入れ、傾けて回転させることにより管の内部表面を溶液と接触させることにより行うことができる。なお、必ずしも採血管の内表面の全域をコーティングする必要はなく、血液検体と必ず接触する管の底部及びその近傍の表面のみに対して相当する必要量をコーティングしてもよい。【0019】採血管内に含ませる組成物の量は、特に限定されないが、血液検体と混合した後の前記EDTA又はその塩、o-フェナントロリン、モノヨード酢酸及び水溶性多糖類は、血液試料添加後の終濃度がそれぞれ5〜50 mM、5〜30 mM、0.5〜20mM及び0.1〜1.5%(w/v)となる含量が、高い抗IDE活性を速やかに発揮する上で好ましい。ヘパリンのような抗凝血剤を含む場合には、血液検体と混合した後の終濃度が3〜20IU/mL程度になる含量が好ましい。組成物をコーティングする場合も、血液検体と接触する領域上にコーティングされる組成物の含量が、上記範囲になることが好ましい。【0020】なお、採血管自体は、何ら限定されるものではなく、広く用いられているガラス製やプラスチック製の採血管等をそのまま用いることができる。【0021】本発明の採血管に血液検体を入れると、組成物が迅速に溶解され、抗IDE効果が速やかに発揮され、IDEによるインスリンの分解が抑制されるので、正確な測定値が得られる。なお、インスリン濃度の測定は、上記の通り、市販のELISAキット等を用いた常法により行うことができる。【0022】【実施例】以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。【0023】実施例1 血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及び採血管の調製(その1)EDTA-2K 0.808g(200 mM)、o-フェナントロリン 0.396g(200 mM)、モノヨード酢酸0.038g(20 mM)及びヘパリン-Na 0.030gを10mLの20%(v/v) エタノール水溶液に溶解した。この溶液の25μLを取り、これに75μLの2%コーンスターチ水溶液を加え撹拌し、得られた溶液を凍結乾燥して本発明の組成物を得た。この組成物を500μL採血用試験管に収容し、本発明の採血管を得た。なお、この採血管に500μLの血液検体を入れると、EDTA-2K、o-フェナントロリン及びモノヨード酢酸の終濃度はそれぞれ約10mM、10mM、1mMであり、コーンスターチの終濃度は約0.3w/v%、ヘパリン-Naの終濃度は約10IU/mLである。同様にして、1000μL用の採血管及び200μL用の採血管も作製した(各成分の終濃度は500μL用採血管の場合と同じ)。【0024】実施例2 血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及び採血管の調製(その2)実施例1で調製した、EDTA-2K、o-フェナントロリン、モノヨード酢酸ヘパリン-Naを含む20%(v/v) エタノール水溶液の1mLを取り、これに0.15gのコーンスターチを加えて撹拌し、水溶液Aを得た。この水溶液Aの7.5μLを取り、150μL採血用の毛細管の内壁に均一になるように流し込んで塗布し、乾燥することにより、本発明の組成物をコーティングした採血管を作製した。なお、この採血管に150μLの血液検体を入れると、各成分の終濃度は実施例1の場合と同じである。【0025】実施例3 血中インスリン濃度測定用添加剤組成物及び採血管の調製(その3)実施例2で調製した水溶液Aの4.0μLを取り、75μL採血用の毛細管の内壁に均一になるように流し込んで塗布し、乾燥することにより、本発明の組成物をコーティングした採血管を作製した。なお、この採血管に75μLの血液検体を入れると、各成分の終濃度は実施例1の場合とほぼ同じである。【0026】実施例4、比較例1 性能試験(その1)(1) 溶血血清の調製全く溶血が認められないラットの血清を準備した。一方、ラット赤血球について凍結融解を2回繰り返して赤血球破砕液を調製し、遠心後、その上清を前記溶血のない血清に1/4量加えることによりラット溶血血清(ヘモグロビン濃度1〜5g/dL)を調製した。尚、対照として赤血球破砕液の代わりに生食水を加えたもの(以下、便宜的に「非溶血血清」)を作製した。ヒトの場合も同様におこなった。【0027】(2) 性能試験ラット非溶血血清を実施例1に示した方法で作製した500μL用採血管に移して溶解させた後、(1)の方法によって作製した溶血血清を試料とし、室温で0分間、30分間、及び1時間放置後、血清中のインスリン濃度を測定した(実施例4)。インスリン濃度は、市販のインスリン測定用ELISAキット(レビス(登録商標)インスリンキット(商品名)、シバヤギ社製)を用い、その取扱い説明書に従って測定した。比較のため、本発明の組成物を含まない通常の溶血血清についても、同様に室温で0分間、30分間、及び1時間放置後、血清中のインスリン濃度を測定した(比較例1)。【0028】結果を図1に示す。白丸が非溶血血清についての結果、四角が実施例4についての結果、黒丸が比較例1についての結果を示し、各プロットは実施例数6例におけるその平均値を表し、縦の棒はばらつき(標準偏差)の範囲を示す。また、縦軸の残存インスリン濃度は、生食を加えた非溶血血清(試験対照)の直後(0分間値)におけるインスリン濃度を100とした相対値を示す。図1に示すように、比較例1では採血管に移した30分後にはインスリン相対濃度が既に0%近くにまで低下したが、実施例4では1時間経過後でも90%以上であり、本発明の組成物によるインスリン分解抑制効果が明らかに認められた。【0029】実施例5、比較例2〜5 性能試験(その2)実施例4(1)の方法で作製したラット溶血血清を実施例1で作製した500μL用採血管に移し、室温で24時間放置後、血清中のインスリン濃度を測定した(実施例5)。比較のため、組成物を含まない単なる採血管(比較例2)、モノヨード酢酸を添加しないことを除き実施例1と同様に作製した500μL用採血管(比較例3)、o-フェナントロリンを添加しないことを除き実施例1と同様に作製した500μL用採血管(比較例4)、EDTA-2Kを添加しないことを除き実施例1と同様に作製した500μL用採血管(比較例5)について測定し、試験対照として、生食を加えたラット非溶血血清を同様に測定した。なお、測定は、市販のELISAキットであるレビス(登録商標)インスリンキット(商品名)、シバヤギ社製及びインスリン測定キット(商品名)、森永生科学研究所社製を用い、それぞれの取扱い説明書に記載された方法により行った。なお、前者のELISAキットは、一次抗体及び二次抗体のいずれもが抗インスリンモノクローナル抗体であり(図2上段)、後者のELISAキットは、一次抗体が抗インスリンモノクローナル抗体で二次抗体が抗インスリンポリクローナル抗体(図2下段)である。【0030】試験例数を5例とした場合の結果を図2に示す。図2中、レーン1が非溶血血清、レーン2〜5がそれぞれ比較例2〜5、レーン6が実施例5についての結果をそれぞれ示す(平均値と標準偏差)。図2の縦軸は、図1と同じく残存インスリン相対濃度を示す。図2に示されるように、本発明の採血管を用いた実施例5では、いずれの測定方法においても、室温24時間放置後の相対インスリン濃度が、添加剤組成物を含まない比較例2及び本発明の添加剤組成物の抗IDE成分である3剤のうちの1剤を含まない比較例3〜5のいずれよりも明らかに高く、本発明の効果が確認された。また、ポリクローナル試薬系とモノクローナル試薬系という反応性の異なる測定キットでも全く同様の結果であったことから、本発明の組成物のインスリン分解阻止効果は測定対象であるインスリン分子全体に及ぶものと解釈された。IDE分子とインスリン分子が多くの動物種間で非常に高い相同性を有していることを踏まえると、本発明の組成物がヒト血清など他の動物種の場合にも充分にその分解阻止効果を発揮することが示唆された。【0031】実施例6 比較例6〜9 ヒト血清に対する性能試験ヒト溶血血清を実施例4(1)と同様にして作製し、これを用いて実施例5及び比較例2〜5と同様な実験を行った。ただし、採血管に移した後、測定までの時間は4時間であった。残存インスリン濃度の測定は、市販のELISAキットであるLS試薬栄研インシュリン(商品名)を用いて行った。なお、比較例6〜9に用いた採血管は、それぞれ比較例2〜5に用いた採血管(500μL用)と同じである。【0032】試験例数を5例とした場合の結果を図3に示す。図3中、レーン1が非溶血血清、レーン2〜5がそれぞれ比較例6〜9、レーン6が実施例6についての結果(平均値と標準偏差)をそれぞれ示す。図3に示されるように、ヒト溶血血清についても、本発明の採血管が最も相対インスリン濃度が高く、本発明の添加剤組成物がヒト溶血血清に対しても優れたインスリン分解阻害効果を発揮することが確認された。【0033】実施例7 添加剤組成物の溶血反応惹起性本発明の添加剤組成物自体が溶血反応を惹起するか否かを試験した。ヒトにおいて採血後直ちに実施例1で作製した採血管に移した赤血球を用いて、食塩水中の塩濃度変化に対する赤血球の脆弱性を、採血直後と24時間後の2点における溶血度から判定するParpart法のDacie変法(文献:新編臨床検査講座21,臨床血液学、日野志郎、p152、医歯薬出版、1992)にて行った。【0034】結果を図4に示す。本発明の添加剤組成物で処理した赤血球の脆弱性は、採血直後および24時間後のいずれの場合においても正常範囲内であったことから、本発明の組成物が溶血反応を惹起する薬剤でないことが確認された。【0035】実施例8、9、比較例11、12 多糖類の効果実施例1で作製した500μL採血管(実施例8)及び1000μL採血管(実施例9)、並びにコーンスターチを添加しないことを除き実施例1と同様な方法で作製した500μL採血管(比較例11)及び1000μL採血管(比較例12)にヒト全血を各所定量入れ、室温にて混和後、得られた血漿の溶血度を波長540nmにおける吸光度により比較した。【0036】結果を図5に示す。図5に示すように、コーンスターチを含まない比較例11及び12の採血管を用いた場合には、本発明の採血管を用いた実施例8及び9に比べ、溶血度がはるかに大きかった。このことから、本発明の組成物の多糖類は、血液検体の溶血を防止する上で重要であることが明らかになった。【0037】実施例10〜12、比較例13 採血管を用いた実測実施例1で作製した200μL採血管(試験管)(実施例10)及び500μL採血管(試験管)(実施例11)並びに実施例2で作製した150μL採血管(毛細管)(実施例12)を用い、溶血に起因するインスリンの分解が問題となる頻度が高いとされるラットで実際に採血し、室温にて血漿分離後、血漿中の残存インスリン濃度及び溶血度を測定した。比較のため、本発明の添加剤組成物を含まない150μL採血管(毛細管)を用いて同じ操作を行った(比較例13)。残存インスリン濃度の測定は、市販のELISAキットであるレビス(登録商標)インスリンキット(商品名)を用いて行った。【0038】結果を図6に示す。図6に示されるように、採血された4種の血漿および血清検体の溶血度は図中下段(クローズドマーク)に示す通り3匹のラットでほぼ同等であったが、本発明の添加剤組成物を加えていない採血管(比較例13)で得られた血中インスリン値は、いずれのラットにおいても4種の検体中で最も低い値を示していた。一方、対象としたラットは全て正常なラットであり、実施例10〜12の採血管中の血中インスリン値は採血管法および毛細管法で共にコントロール値(非溶血血清での値)示していた。以上の成績から、本発明の添加剤組成物の適用によって溶血の影響を受けず血中インスリンが正確に測定されることが示された。【0039】【発明の効果】本発明により、IDEによるインスリンの分解を効率良く阻害することができ、正確なインスリン濃度の測定を可能にする、固体の血中インスリン濃度測定用添加剤組成物が提供された。本発明の組成物を用いることにより、血液検体が強度に溶血した場合でも、瞬時にIDEによるインスリンの分解を阻害することが可能であり、従来法よりも正確なインスリン濃度の測定が可能になる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の実施例の採血管、又は添加剤組成物を含まない比較例の採血管を用いてラット溶血血清中のインスリン濃度を測定した結果を示す図である。【図2】本発明の実施例の採血管、又は添加剤組成物を含まない若しくは本発明の組成物中の成分の1つを欠いた比較例の採血管を用いてラット溶血血清(血漿)中のインスリン濃度を測定した結果を示す図である。【図3】本発明の実施例の採血管、又は添加剤組成物を含まない若しくは本発明の組成物中の成分の1つを欠いた比較例の採血管を用いてヒト溶血血清(血漿)中のインスリン濃度を測定した結果を示す図である。【図4】本発明の組成物で処理したヒト血液中の赤血球膜抵抗能を示す図である。【図5】本発明の実施例の採血管、又は多糖類を含まない比較例の採血管を用い、同一人より採血した場合に生じた血漿の溶血度を測定した結果を示す図である。【図6】本発明の実施例の採血管、又は添加剤組成物を含まない比較例の採血管を用いてラットから実際に全血を採血し、得られた血清(血漿)について血中インスリン濃度とその溶血度を併せて測定した結果を示す図である。 EDTA又はその塩、o-フェナントロリン、モノヨード酢酸及び水溶性多糖類を含む固体状の組成物から成る、血中インスリン濃度測定用添加剤組成物。 前記水溶性多糖類はデンプンである請求項1記載の組成物。 抗凝血剤をさらに含む請求項1又は2記載の組成物。 採血管内に、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物を含む血中インスリン濃度測定用採血管。 前記組成物は、前記採血管の内側表面上にコーティングされている請求項4記載の採血管。 前記EDTA又はその塩、o-フェナントロリン、モノヨード酢酸及び水溶性多糖類は、血液試料添加後の終濃度がそれぞれ5〜50 mM、5〜30 mM、0.5〜20mM及び0.1〜1.5%(w/v)となる含量で採血管に含まれている請求項4又は5記載の採血管。


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