タイトル: | 特許公報(B2)_口腔内常在性ナイセリア属菌選択培地 |
出願番号: | 2003080670 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C12N 1/20,C12Q 1/04 |
▲高▼橋 琢也 佐藤 美紀子 野本 康二 諸富 正己 武藤 学 江角 浩安 花井 均 JP 4243798 特許公報(B2) 20090116 2003080670 20030324 口腔内常在性ナイセリア属菌選択培地 株式会社ヤクルト本社 000006884 国立がんセンター総長 590001452 アップル科学有限会社 503108610 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 ▲高▼橋 琢也 佐藤 美紀子 野本 康二 諸富 正己 武藤 学 江角 浩安 花井 均 20090325 C12N 1/20 20060101AFI20090305BHJP C12Q 1/04 20060101ALI20090305BHJP JPC12N1/20 AC12Q1/04 C12N 1/00-7/08 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) PubMed JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特開昭62−259599(JP,A) J. Clin. Microbiol., (1987), 25, [8], p.1574-1575 J. Clin. Microbiol., (1996), 34, [9], p.2255-2258 4 2004283115 20041014 10 20051221 柴原 直司 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、口腔内常在性ナイセリア属菌を選択的に生育させる選択培地及びこれを用いた口腔内常在性ナイセリア属菌の検出方法に関する。【0002】【従来の技術】アルコール摂取は食道・口腔・咽喉頭癌のリスク因子であり、アルコールの代謝物であるアセトアルデヒド(Ach)の発癌性(咽頭・鼻腔の扁平上皮癌)が動物実験で確認されている。近年、Neisseria subflava、Neisseria sicca、Neisseria mucosa 等の口腔内常在性ナイセリア属菌がエタノールを資化して大量のアセトアルデヒドを産生すること及び習慣的な飲酒が口腔内細菌叢の構成比を変化させ、当該ナイセリア属菌の相対的比率を増加させることが報告され(例えば、非特許文献1参照)、口腔内常在性ナイセリア属菌が食道・口腔・咽喉頭癌の発生に関与する可能性が示唆されている。従って、口腔内に常在するナイセリア属菌を、正確且つ簡易に検出し測定することは、斯かる癌の予防に極めて重要である。【0003】従来、ナイセリア属菌としては、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)や髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)等の病原性菌がよく知られ、斯かる病原性ナイセリア属菌を培養・分離するための選択培地は数多く知られている。例えば、バンコマイシン、コリスチン、ナイスタチンの混合物を含むサイア・マーチン寒天培地(例えば、非特許文献2参照)、バンコマイシン、コリスチン、トリメトプリム及びアムホテリシンBの混合物を含むニューヨークシティ培地(例えば、非特許文献3参照)等が代表的なものとして知られ、更にバンコマイシン、リンコマイシン、コリスチン、トリメトプリム及びアムホテリシンBの混合物を含んだ選択性に優れる培地も提案されている(例えば、特許文献1参照)。【0004】しかしながら、口腔内常在性のナイセリア属菌については、これを選択的に分離培養するための培地はこれまでに開発されていない。口腔内常在性ナイセリア属菌は、淋菌や髄膜炎菌等の病原性ナイセリア属菌とは抗生物質に対する感受性が異なり、また、その検出には唾液等の口腔由来の材料を試料として用いることから、口腔内に常在する多くの共雑菌を排除する必要があり、既存の病原性ナイセリア属菌の選択培地をそのまま使用することはできない。実際、上記のコリスチンを含む培地を用いた場合には、口腔内常在性ナイセリア属菌は生育しない。従って、口腔内常在性ナイセリア属菌を精度良く検出できる培地の開発が望まれていた。【0005】【特許文献1】特開昭62−259599号公報【非特許文献1】Muto, M. et al., Int.J.Cancer, 88, 342-350, 2000【非特許文献2】Martin, J.E. Jr. et al., Public Health Rep. 82, 361-363, 1967【非特許文献3】Faur, Y.C. et al., Health Lab. Sci. 10: 44-52, 1973【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、口腔から採取したサンプル中の口腔内常在性ナイセリア属菌を精度良く検出でき、その生菌数を効率よく測定できる選択培地及び当該培地を用いて試料中の口腔内常在性ナイセリア属菌を検出する方法を提供することを目的とする。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、斯かる実情に鑑み、口腔内常在性ナイセリア属菌の検出率が高く、かつヒト口腔内の共雑菌が増殖しにくい培地成分について鋭意検討を行った結果、グラム陰性菌増殖抑制剤としてトリメトプリムのみを用いることにより口腔内常在性ナイセリア属菌を選択的に培養・分離できることを見出し、本発明を完成した。【0008】すなわち本発明は、グラム陰性菌増殖抑制剤としてトリメトプリムのみを含有することを特徴とする口腔内常在性ナイセリア属菌の選択培地を提供するものである。【0009】また本発明は、当該選択培地を用いて、試料に含まれる口腔内常在性ナイセリア属菌を培養することを特徴とする試料中の口腔内常在性ナイセリア属菌の検出方法を提供するものである【0010】【発明の実施の形態】本発明における口腔内常在性ナイセリア属菌とは、ヒトの口腔内に常在するナイセリア属に属する細菌をいい、具体的には、Neisseria subflava、Neisseria sicca、Neisseria mucosa 等が挙げられる。斯かる口腔内常在性ナイセリア属菌は、グラム陰性の双球菌であるが、抗生物質に対する感受性は、淋菌や髄膜炎菌等の病原性ナイセリア属菌とは異なり、また口腔内細菌叢における当該ナイセリア属菌の菌濃度は他の常在菌に比べて低い。従って、口腔内材料から既存の培地を用いて口腔内常在性ナイセリア属菌の菌数を正確に測定することは容易ではない。【0011】本発明の口腔内常在性ナイセリア属菌選択培地は、グラム陰性菌増殖抑制剤としてトリメトプリムのみを含有することを特徴とするものである。口腔内常在性ナイセリア属菌の検出には、試料としてヒト口腔由来材料が用いられるが、斯かる試料において口腔内常在性ナイセリア属菌以外のグラム陰性菌の増殖を抑制し、培地の選択性を確保するためにはトリメトプリムのみを用いれば十分であり、一方、病原性ナイセリア属菌に耐性のあるポリミキシンやコリスチン等の抗生物質を加えると口腔内常在性ナイセリア属菌自体の発育が阻止され、口腔内常在性ナイセリア属菌の検出培地として機能できない。【0012】トリメトプリムの添加量は、基礎培地1リットルに対して2〜5mgの範囲であるのが好ましい。添加量が2mg未満である場合には、共雑菌を十分に排除することができず、口腔内常在性ナイセリア属菌のみを選択的に培養することが困難となる場合があり、5mgを越える場合には、口腔内常在性ナイセリア属菌の発育に悪影響を及ぼし、高精度に検出することが困難となる場合がある。【0013】本発明の選択培地を構成する基礎培地としては、口腔内常在性ナイセリア属菌が十分に発育できる栄養源、すなわち糖質、タンパク質、血液又はヘモグロビン、及び発育促進剤を含んでいるものであれば特に限定されるものではないが、病原性ナイセリア属菌の培養・分離に使用されている、GCII寒天培地(BBL社製)、GC寒天培地(BBL社製)、サイア・マーチン改良基礎培地(日水製薬社製)等に上記必要成分を添加したものを基礎培地として用いるのが好ましく、中でもGCII寒天培地に血液又はヘモグロビン及び発育促進物質を添加したものを用いるのが特に好ましい。【0014】ここで、血液成分としては、5〜10%の動物脱繊維血液又は1〜2%のヘモグロビン等が使用できるが、特に5〜10%の馬脱繊維血液を用いるのが好ましい。斯かる範囲で血液を添加することにより、コロニーが巨大化されて選別が容易となる一方、血液添加量が5%を下回ると、口腔内常在性ナイセリア属菌の発育に悪影響を及ぼし、高精度に検出することが困難となる。【0015】口腔内常在性ナイセリア属菌の増殖を強化する発育促進剤としては、例えば酵母エキス、アイソバイタルXエンリッチメント(BBL)、無水亜硫酸ナトリウム、システイン塩酸塩等が挙げられ、これらを基礎培地1リットルに対して、それぞれ5〜15g、5〜15ml、0.1〜0.3g、0.2〜0.7gの範囲で添加するのが好ましい。【0016】本発明に用いられる基礎培地の好適な例を挙げれば、以下のとおりである。【0017】【表1】【0018】本発明の選択培地は、更にグラム陽性菌増殖抑制剤及び真菌増殖抑制剤を添加することが好ましい。共雑菌の繁殖を抑制するためである。グラム陽性菌増殖抑制剤としては、例えば、バンコマイシン、リンコマイシン、クリンダマイシン等が挙げられるが、選択的増殖抑制の点からバンコマイシン、リンコマイシン、クリンダマイシンを用いるのが好ましく、特にバンコマイシンとリンコマイシン又はクリンダマイシンを併せて添加するのが好ましい。【0019】グラム陽性菌増殖抑制剤は、基礎培地1リットルに対して、バンコマイシンを1〜3mgの範囲で添加するのが好ましく、バンコマイシンとリンコマイシン又はクリンダマイシンを併せて添加する場合には、バンコマイシンを1〜3mg、リンコマイシン又はクリンダマイシンを0.1〜1mgの範囲で添加するのが好ましい。【0020】真菌増殖抑制剤としては、例えばアムホテリシンB、アニソマイシン、ナイスタチン等が挙げられるが真菌の増殖抑制作用及び低コストの点からアムホテリシンBを用いるのが好ましい。真菌増殖抑制剤の添加量は特に限定されず、増殖抑制の度合い等により適宜設定すればよいが、アムホテリシンBであれば、基礎培地1リットルに対して、0.1〜2mgの範囲で添加するのが好ましい。【0021】斯くして調製された選択培地に、ヒト口腔由来の材料、例えば唾液、口腔洗浄液又はこれらを所定の濃度に希釈或いは濃縮したものを培地上に塗抹し、例えば、35〜37℃にて好気培養することにより、共雑菌の生育を抑制した状態で、口腔内常在性ナイセリア属菌のコロニーを良好に検出することができる。そして、形成されたコロニー数をカウントすることにより、試料中に含まれる口腔内常在性ナイセリア属菌を正確に測定することができる。【0022】【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。実施例1本発明の選択培地(GCB−VLTA培地)の調製法を以下に示す。培地の組成は、表2の通りである。GCII寒天基礎培地、BactoTM酵母エキス、グルコース、無水亜硫酸ナトリウム及びL−システイン塩酸塩を精製水に溶解し、118℃で15分間オートクレーブする。水浴中で45℃まで冷却後、馬脱繊維血液を添加して85℃で10分間加熱してチョコレート寒天とする。再度水浴中で45℃まで冷却し、アイソバイタルXエンリッチメント、バンコマイシン、リンコマイシン、トリメトプリム及びアムホテリシンBを添加して混和する。シャーレに20〜25mlずつ分注して冷却後、試験に使用する。【0023】【表2】【0024】実施例2常在性ナイセリア属菌株をブレインハートインフュージョン(BHI)液体培地3mlで37℃、18時間振盪培養した。この培養液を滅菌ダルベッコPBS(DPBS)を用いて10倍ずつ段階希釈した。希釈液50μlを寒天平板培地の半面に塗抹し、37℃にて好気培養を行った。寒天平板培地には、GCB−VLTA培地及び10%馬脱繊維血液の代わりに1%ヘモグロビンを含有するGCH−VLTA培地(ヘモグロビン以外はGCB−VLTA培地と同一組成)を用いた。その結果を表3に示した。【0025】【表3】【0026】実施例3常在性ナイセリア9菌株を実施例1と同様にして培養した。ヒト口腔由来の Streptococcus constellatus 1菌株を嫌気(CO2)GAM 液体培地3mlで嫌気培養後、その希釈液を同様にして好気又は嫌気培養した。寒天平板培地には、GCB−VLTA培地、病原性ナイセリア属菌分離用の改良サイアマーチンII寒天培地(MTMII、生培地;BBL社製)、非選択培地のトリプチケース・ソイII寒天培地(TSAII、生培地;BBL社製)の3種類を用いた。MTMII培地及びTSAII培地の組成を表4に示した。平板培地上に出現したコロニーの大きさ(mm)及び菌数の回収率を3培地間で比較し、その結果を表5に示した。【0027】【表4】【0028】【表5】【0029】表3からわかるように、常在性ナイセリア属菌の回収菌数はGCB−VLTA培地及びGCH−VLTA培地間でほぼ同等であったが、コロニーサイズはGCB−VLTA培地の方が大きい値を示した。従って、本選択培地において、ヘモグロビンよりも血液の方が常在性ナイセリア属菌の良好な増殖性を示すことがわかった。表5からわかるように、GCB−VLTA培地は、非選択のTSAII培地と同等の常在性ナイセリア属菌数を回収した。【0030】また、コロニーサイズはTSAII培地と同等またはそれ以上であった。病原性ナイセリア属菌の選択培地であるMTMII培地においては、常在性ナイセリア属菌を全く検出できなかった。ナイセリア属菌以外の口腔正常フローラの S.constellatus はTSAII培地でのみ検出され、MTMII培地及びGCB−VLTA培地では全く検出されなかった。以上の結果より、GCB−VLTA培地は、従来の病原性ナイセリア属菌の選択培地では検出できない常在性ナイセリア属菌を、高率にかつ選択的に検出できること、さらに常在性ナイセリア属菌の増殖性が非選択培地よりも高いことがわかった。【0031】試験例1(1)口腔洗浄液の調製20mlの滅菌生理食塩水(フィシザルツ、扶桑薬品工業)を口に含み、左右の頬を交互に膨らませるように(片側10回ずつ合計20回)口腔内を洗浄後、50mlのディスポーザブルチューブに回収した。(2)(1)の方法に従って、健康成人男性12名より口腔洗浄液(嗽液)採取し、ナイセリア属菌数測定を行った。すなわち、口腔洗浄液を遠心分離(600g×5分,4℃)後、その上清を10倍ずつ段階希釈した。この希釈口腔洗浄液50μlを実施例1及び2で得られた培地の半面に塗抹し、37℃で好気的に48時間培養した。平板培地上に出現したコロニー数から口腔洗浄液20mLあたりのナイセリア属菌数を算出した(Log10CFU/20mL 口腔洗浄液)。平板培地3枚の平均値±SDとして示した。コロニー性状(形態:円形の均質または縮毛状、色調:黄褐色〜褐色、透明度:不透明)及びグラム染色性(グラム陰性双球菌)からナイセリア様のコロニーを推定した。その中でオキシダーゼテスト(ポアメディア,栄研化学)が陽性かつナイセリア属特異的PCR法においてPCR産物の生成が確認されたコロニーをナイセリア属菌としてカウントした。尚、培地上に出現した菌構成を調べるため、出現したコロニー形状ごとに菌数をカウントし、グラム染色後に常在性ナイセリア菌、グラム陽性菌、グラム陰性菌の割合を算出した(口腔洗浄液20mlあたりの菌数を対数で示した(12名の口腔洗浄液の培養結果を平均化))。結果を表6に示す。【0032】【表6】【0033】表6からわかるように、GCB−VLTA培地を用いたヒト口腔洗浄液の培養により、TSAII培地と同等の常在性ナイセリア菌を回収できることがわかった。さらに、TSAII培地におけるナイセリア構成比率が26.5%であったのに対して、GCB−VLTA培地では94.6%であった。以上の結果よりGCB−VLTA培地は、ヒト口腔洗浄液中の常在性ナイセリア属菌の選択的回収に有効であると考えられた。【0034】【発明の効果】本発明の選択培地を用いれば、口腔由来材料中の口腔内常在性ナイセリア属菌を精度良く検出でき、その生菌数を効率よく測定できる。従って、本発明の口腔内常在性ナイセリア属菌選択培地及び当該菌の検出方法は、口腔内常在性ナイセリア属菌による食道・口腔・咽喉頭の発癌リスク評価や発癌予防法の開発等に有用である。 GCII寒天培地、GC寒天培地及びサイア・マーチン改良基礎培地から選ばれる培地に血液を添加したものを基礎培地として用い、バンコマイシン、リンコマイシン及びクリンダマイシンから選ばれるグラム陽性菌増殖抑制剤並びにアムホテリシンB、アニソマイシン及びナイスタチンから選ばれる真菌増殖抑制剤を含有し、グラム陰性菌増殖抑制剤としてトリメトプリムのみを含有することを特徴とする口腔内常在性ナイセリア属菌の選択培地。 グラム陽性菌増殖抑制剤が、バンコマイシンとリンコマイシン又はクリンダマイシンを併せて用いるものである請求項1記載の選択培地。 GCII寒天培地に血液及び酵母エキス、アイソバイタルXエンリッチメント(BBL)、無水亜硫酸ナトリウム及びシステイン塩酸塩から選ばれる発育促進物質を添加したものを基礎培地として用いる請求項1又は2記載の選択培地。 請求項1〜3のいずれか1項に記載の選択培地を用いて、試料に含まれる口腔内常在性ナイセリア属菌を培養することを特徴とする試料中の口腔内常在性ナイセリア属菌の検出方法。