タイトル: | 特許公報(B2)_スフィンゴ糖脂質の判別法 |
出願番号: | 2003063181 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01N 33/92,G01N 31/00 |
斎藤 勝一 小田 有二 高桑 直也 JP 3796527 特許公報(B2) 20060428 2003063181 20030310 スフィンゴ糖脂質の判別法 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 小橋 信淳 100063565 小橋 立昌 100118898 斎藤 勝一 小田 有二 高桑 直也 20060712 G01N 33/92 20060101AFI20060622BHJP G01N 31/00 20060101ALI20060622BHJP JPG01N33/92 ZG01N31/00 V G01N31/00〜31/22 G01N33/48〜33/52 G01N33/58〜33/98 JICSTファイル(JOIS) CAPLUS(STN) 特表昭62−502260(JP,A) 油化学 第41巻 第7号 (1992) 40〜45 平成15年度 研究成果情報(北海道農業)(2004)294−295 Glycobiology Vol.11 No.11 (2001) 935-944 3 2004271358 20040930 9 20030310 加々美 一恵 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、スフィンゴ糖脂質の判別法に関し、詳しくは、スフィンゴ糖脂質をアニスアルデヒドなどの薬剤と接触後発色させる方法などにより、視覚的に構成糖成分を判別しスフィンゴ糖脂質の分子種を判別する方法に関するものである。【0002】【従来の技術】スフィンゴ糖脂質は、脂肪酸とスフィンゴシンあるいはスフィンゴイド塩基、または長鎖塩基と呼ばれる長鎖アミノアルコールが結合したスフィンゴイド脂質にグルコース、ガラクトース、マンノース、ガラクトサミン、シアル酸などの糖類が単独または複数結合した複合糖脂質である。スフィンゴ糖脂質は動植物から微生物まで天然界に広く多種多様の分子種が存在し、それらは時としてセラミド、セレブロシドと呼ばれることがある。【0003】スフィンゴ糖脂質は、人間にも皮膚の角質層に多く存在し、水分保持物質としての役割を担っている。その効果を皮膚からの直接吸収作用により補助するため、化粧品や入浴剤の配合成分として使用されている。また、スフィンゴ糖脂質の経口摂取による水分保持機能も明らかになり(例えば、非特許文献1参照)、またその他様々な健康への機能性も期待されることから、機能性食品素材として多数の報告がある(例えば、特許文献1〜3参照)。【0004】従来、これらスフィンゴ糖脂質の主な供給源は牛脳であったが狂牛病の発生以降、人体にとってより安全な供給源からの製造が切望され、コメ(例えば、特許文献4及び非特許文献2参照)、小麦(例えば、非特許文献3参照)、大豆(例えば、特許文献5及び非特許文献4参照)、コンニャク(例えば、特許文献6参照)などの植物原料や酵母(例えば、非特許文献5参照)などの微生物原料からの製造について検討されており、そのうちいくつかにおいては実用化されている。【0005】動物、植物あるいは微生物など起源の異なるスフィンゴ糖脂質間においては、脂肪酸やスフィンゴシン、糖の構成成分により分子種がある程度特定でき、特に構成糖成分について着目すると、牛脳を代表とする動物の場合はガラクトースが付加したガラクトシルセラミド(ガラクトシルセレブロシド)が、植物または微生物においてはグルコースが付加したグルコシルセラミド(グルコシルセレブロシド)が主たる分子種であるという特徴がある。【0006】一方、通常これまでこれら分子種の構造決定は、スフィンゴ糖脂質を単離精製後、脂肪酸、スフィンゴイド塩基、糖の各構成成分に化学的あるいは酵素的に分解し、再度それらを分離精製した後、各成分を専用の機器分析に供することにより決定されている。しかし、この方法では微量の分解した構成成分の取り扱いや各種専用分析機器の取り扱いに、熟練した経験と技術を要しかつ多大な時間と労力を必要とする。【0007】構成成分を分解することなく分析する方法として液体クロマトグラフィー(HPLC)による方法が試みられている。このHPLC法については、宮澤らの蒸発光散乱検出器を用いた方法(例えば、非特許文献6参照)により検出感度及び定量性の向上がなされたが、各分子種の分離の条件検討が必要なことに加え、1検体1時間程度の分析時間を要し、かつ蒸発光散乱検出器という高価な専用機器が必要である。【0008】HPLC法に比べ安価かつ多数検体を同時に分析する方法として古くより薄層クロマトグラフィー(TLC)法が用いられてきたが、分子種の判別には2次元展開TLCの必要があり、TLC法の利点である多数検体の同時分析という点が損なわれてしまう。これを改善する方法として、従来TLC上のスフィンゴ糖脂質の検出に汎用されてきた硫酸、アンスロン硫酸、モリブデン硫酸、オルシノール硫酸などの発色試薬に換えて、抗体を用いた免疫学的特異検出法(例えば、特許文献7及び8参照)が検討されているが、抗体が高価なことに加えその取り扱いに熟練を有する。【0009】【特許文献1】特開平8−256729号公報【特許文献2】特開平11−113530号公報【特許文献3】特開2002−281936号公報【特許文献4】特開平11−279586号公報【特許文献5】特開平4−282317号公報【特許文献6】特開2002−281936号公報【特許文献7】特開2002−243737号公報【特許文献8】特開2002−296278号公報【非特許文献1】Fragrance Journal,23,81(1995)【非特許文献2】Agric.Biol.Chem.,49,2753(1985)【非特許文献3】Agric.Biol.Chem.,49,3609(1985)【非特許文献4】Chem.Pharm.Bull.,38(11),2933(1990)【非特許文献5】FEMS Yeast Research,2,533(2002)【非特許文献6】Lipid,34,1232(1999)【0010】以上のように、機能性食品素材としてのスフィンゴ糖脂質の供給が多大に期待されかつ一方で人体への安全な供給源の保証などが切望されているにもかかわらず、迅速、簡便な分析方法がない現状にあり、昨今問題となっている原料偽装などの問題を生じかねない懸念がある。各分子種での機能性の相違についても現在研究進展中であるが、現状では異なる分子種がセラミド、セレブロシド、スフィンゴ糖脂質などとして一様に扱われており、分子種に起因する機能性の相違が見出された場合においても、それらを迅速に区別する手立てがない現状にある。また、機能性解明の研究進展に際しても、簡易、簡便、迅速なスフィンゴ糖脂質の分析法の開発が望まれている。【0011】上記のように動物と植物、微生物由来のスフィンゴ糖脂質間で、構成糖により特徴を有しその起源が推定できる現状において、少なくとも構成糖の判別を可能とすることでスフィンゴ糖脂質の分子種や起源となる原料の判別、特定が可能となる。【0012】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来の方法に代わる簡易、簡便、迅速かつ安価な方法でスフィンゴ糖脂質の構成糖成分を判別することによるスフィンゴ糖脂質の分子種の判別法を提供することである。【0013】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成すべく本発明者らが鋭意研究した結果、スフィンゴ糖脂質を特徴的な色調の発色を示す薬剤を用いることにより容易に構成糖の判別が可能であることを見出し、上記目的が達成される本発明を完成させた。なお、本発明は文部科学省の科学技術振興調整費による委託業務として、独立行政法人 農業技術研究機構が実施した「好アルカリ発酵微生物の機能解析とその利用」の成果をもとに発明、出願に至ったものである。【0014】 すなわち、本発明は、スフィンゴ糖脂質の分子種の分析において、発色法により視覚的に判別することに特徴を有し、さらに詳しくは、スフィンゴ糖脂質をアニスアルデヒドなどの薬剤と接触させ加熱などにより構成糖の種類に伴って発色する異なる色調を視覚的に判断し、スフィンゴ糖脂質の分子種を判別する方法である。具体的には、スフィンゴ糖脂質の内、ガラクトシルセラミド,ラクトシルセラミド,グルコシルセラミドの3種類をそれぞれ含む判別対象物を、アニスアルデヒドを含む薬剤と接触させて異なる色に発色させ、ガラクトシルセラミド,ラクトシルセラミド,グルコシルセラミドのいずれを含む判別対象物であるかを色毎に視覚的に判別することで、スフィンゴ糖脂質の構成糖の判別を行う。【0015】【発明の実施の形態】本発明のスフィンゴ糖脂質とは、▲1▼脂肪酸、▲2▼スフィンゴシンあるいはスフィンゴイド塩基、または長鎖塩基と呼ばれる長鎖アミノアルコール、▲3▼グルコース、ガラクトース、マンノース、ガラクトサミン、シアル酸などの糖類の3成分からなる化学物質であればよく、成分同士の結合の様式、各成分の含量比や水酸基やメチル基など修飾の有無を問わず、3成分からなる複合脂質であればよい。また、スフィンゴ糖脂質の状態として、その他種類の脂質やその他化学物質との混在状態、動物、植物、微生物など天然中の存在形態など、その精製度や加工形態、存在状態などのあらゆる状態を包括し、単にスフィンゴ糖脂質が含まれていればよく、また、スフィンゴ糖脂質の存在有無の確認を目的とする場合においては、スフィンゴ糖脂質が含まれない検体をも包括する。【0016】発色時の形態としては、スフィンゴ糖脂質の構成糖の種類により容易に判別可能な異なる発色を示す形態であればよく、有機溶媒や水溶液とした液体状態、シリカゲル、セルロースやあらゆる紙状のものやアクリルアミドやアガロースなどのゲル状のものなどに吸着あるいは封入した状態、単品あるいは混合物としての固形状態などあらゆる状態を包括する。そのうち、シリカゲルプレートに試料を吸着させ従来の様々な方法によるTLC展開を組み合わせ粗画分に分離した状態で本発明による発色を行うことで、多数検体を同時かつより詳細にスフィンゴ糖脂質の判別が可能となることからTLC法と組み合わせることが好ましい。【0017】 発色の方法は、スフィンゴ糖脂質の構成糖の種類により容易に判別可能な異なる発色を示す薬剤と接触させればよく、薬剤としてアニスアルデヒドが好ましく、より好ましくはp−アニスアルデヒドあるいはp−メトキシベンズアルデヒドである。また、アニスアルデヒドなどの薬剤を単独で用いる必要はなく、硫酸などその他発色剤や水やエタノールなどの噴霧溶媒と混合して用いてもよい。スフィンゴ糖脂質と薬剤の接触割合やその形態については、発色が生じる条件であればいずれでもよいが、接触後、80−100℃で30秒−10分程度の間、ウオーターバスやホットプレート、オーブンなどで加熱することが望ましい。【0018】発色については、グルコース、ガラクトース、マンノース、ガラクトサミン、シアル酸やフラクトースなどの各単糖およびそれらの複合糖であるラクトース、スクロース、メリビオースなどが容易に色調の判別が可能であればよく、特に、グルコースが紺〜青紫〜黒、ガラクトースが黄緑〜緑、ラクトースが濃緑と判別できる発色が望ましい。【0019】本発明の特徴は、スフィンゴ糖脂質の構成糖を判別することによりスフィンゴ糖脂質の分子種、ひいてはその原料、起源となる生物の推定が可能となることに特徴がある。そして従来のスフィンゴ糖脂質の分子種判別法に比べTLC法などと組み合わせることにより少なくとも20検体を1時間程度で分析でき、多数検体同時の迅速分析法として、かつ専用の高価な装置が必要なく汎用的な方法として用いることができることに特徴がある。【0020】スフィンゴ糖脂質の構成糖が構成糖の種類により異なる色調を発し、その他構成成分である脂肪酸やスフィンゴイド塩基の組成に影響を受けない理由の詳細は不明であるが、硫酸などや加熱によりスフィンゴ糖脂質より分解遊離した構成糖が糖の種類により異なる還元力を有しその還元力の差に伴うアニスアルデヒドとの反応性の違いにより異なる色調で発色しているものと推定される。【0021】【実施例】次に実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。[実施例1] 糖標品として用いたグルコース、ガラクトース、ラクトースについては水に溶解後各10μgを、精製スフィンゴ糖脂質標品として用いたグルコシルセラミド(小麦由来)、ガラクトシルセラミド(牛脳由来)、ラクトシルセラミド(人由来)についてはメタノールに溶解後各50μgを、それぞれシリカゲルプレートに吸着、乾燥させた。p−アニスアルデヒド:濃硫酸:エタノール=1:1:18(v/v)の割合でp−アニスアルデヒドを含む発色試薬溶液を試料を吸着させたシリカゲルプレート一面、一様に噴霧し、乾燥後、100℃、3分間オーブンにて加熱を行った(試験例1)。また対照の発色試薬として従来スフィンゴ糖脂質に用いられてきた、50%硫酸溶液(比較例1)、アンスロン硫酸溶液(アンスロン0.1g、チオ尿素2g、濃硫酸200mlの割合で混合)(比較例2)、オルシノール硫酸溶液(オルシノール0.2g、濃硫酸20ml、水160mlの割合で混合したもの)(比較例3)を同様の試料を吸着させたシリカゲルプレートにそれぞれ噴霧し、試験例と同時に加熱処理を行った。その結果、図1に示す通り糖の種類に伴う色調の変化が試験例1のアニスルデヒド発色試薬でのみ確認でき、糖の発色と全く同様のスフィンゴ糖脂質の発色についても確認できた。また、図1の発色後のプレートを用い10人のモニターにより色調の判別を行った結果、表1の結果となり個人差なく容易に色調の判別が可能でありスフィンゴ糖脂質の分子種の判別も容易であった。【0022】【表1】【0023】[実施例2] 小麦ふすま、および3種類の酵母(サッカロマイセス・クリュベリーIFO1892、クリベロマイセス・ラクティスIFO1267、カンジダ・ギィルムディーIFO0566)菌体各0.5g(酵母菌体については湿重量)をアルカリ性有機溶媒(クロロホルム:メタノール=1:3(v/v)中0.4M水酸化カリウムを溶解したもの)4mlにそれぞれ懸濁し、超音波破砕機にて5分間超音波破砕処理を行った。破砕後、40℃2時間恒温の後、水2.25ml、クロロホルム5mlを添加し、遠心分離を行い、下層の有機溶媒層を回収し、ロータリーエバポレーターで濃縮乾固後、クロロホルム:メタノール=2:1の溶媒50μlにそれぞれ溶解した。【0024】実施例1に記載のグルコシルセラミド、ガラクトシルセラミド、ラクトシルセラミドについては各10μg、小麦ふすま、3種類の酵母からの調製液については各10μl分をシリカゲルアルミプレートに吸着させ、クロロホルム:メタノール:水=65:16:2の展開溶媒にて約20cmのTLC展開を行い、乾燥後、実施例1記載のアニスアルデヒド発色試薬により発色を行った。図2に示した通り、TLC展開後についても、3種類のスフィンゴ糖脂質精製標品について構成糖に伴う糖の発色が確認できた。また、粗抽出標品でありグルコースを構成糖として含むグルコシルセラミドを含有することが知られている小麦ふすまと2種類の酵母(サッカロマイセス・クリュベリーIFO1892、クリベロマイセス・ラクティスIFO1267)についてグルコシルセラミド精製標品に相当するRf値の位置に同じ色調のスポットが確認できた。同様にスフィンゴ糖脂質の有無が未知の酵母カンジダ・ギィルムディーIFO0566)についても同様のスポットが見られ、スフィンゴ糖脂質を有しかつグルコシルセラミドであるとの推定が容易に可能であった。また、カンジダ・ギィルムディーIFO0566の標品を由来未知の標品と考えた場合、容易にグルコシルセラミドと推定できその由来が植物あるいは微生物由来のものと推定できる。【0025】【発明の効果】以上説明したように本発明の特徴は、スフィンゴ糖脂質の構成糖を判別することによりスフィンゴ糖脂質の分子種、ひいてはその原料、起源となる生物の推定が可能となることである。そして、従来のスフィンゴ糖脂質の分子種判別法に比べTLC法などと組み合わせることにより多数検体を同時に迅速に分析でき、かつ専用の高価な装置が必要なく汎用的な方法として用いることができることに特徴がある。そのため、研究開発の一手法として従来分子種の決定に多大な時間と労力を費やしてきたスフィンゴ糖脂質の研究進展に多大な技術貢献が可能であるとともに、機能性食品素材製品としてのスフィンゴ糖脂質の品質検査の迅速簡便法の提供が可能である。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の方法及び他の発色法による糖及びスフィンゴ糖脂質検出の比較説明図である。【図2】本発明の方法により発色を行ったスフィンゴイド糖脂質検出の薄層クロマトグラフィーを示す図である。 スフィンゴ糖脂質の構成糖を判別する方法であって、 前記スフィンゴ糖脂質の内、ガラクトシルセラミド,ラクトシルセラミド,グルコシルセラミドの3種類をそれぞれ含む判別対象物を、アニスアルデヒドを含む薬剤と接触させて異なる色に発色させ、前記ガラクトシルセラミド,ラクトシルセラミド,グルコシルセラミドのいずれを含む判別対象物であるかを色毎に視覚的に判別することで、前記スフィンゴ糖脂質の構成糖の判別を行うことを特徴とするスフィンゴ糖脂質の判別方法。 前記グルコシルセラミドを含む判別対象物が小麦ふすま又は酵母であることを特徴とする請求項1記載のスフィンゴ糖脂質の判別方法。 前記判別対象物を薄層クロマトグラフィ(TLC)展開後、前記判別対象物に前記薬剤を接触させることを特徴とする請求項1又は2記載のスフィンゴ糖脂質の判別方法。