生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_酵母エキスの製造方法
出願番号:2003015723
年次:2009
IPC分類:A23L 1/28,A23L 1/221,C12N 1/00


特許情報キャッシュ

多田 典生 西村 康史 小林 真由美 西森 友希 黒田 素央 JP 4258216 特許公報(B2) 20090220 2003015723 20030124 酵母エキスの製造方法 味の素株式会社 000000066 多田 典生 西村 康史 小林 真由美 西森 友希 黒田 素央 20090430 A23L 1/28 20060101AFI20090409BHJP A23L 1/221 20060101ALI20090409BHJP C12N 1/00 20060101ALN20090409BHJP JPA23L1/28 AA23L1/221 HC12N1/00 N A23L 1/28 A23L 1/221 C12N 1/00 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus(JDreamII) 国際公開第98/046089(WO,A1) 特開平09−313130(JP,A) 特開平04−207191(JP,A) 2 2004222623 20040812 7 20051222 飯室 里美 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、熱水抽出法による風味の優れた酵母エキスの製造方法に関する。【0002】【従来の技術】従来から酵母エキスは、ビール酵母、パン酵母等の酵母を原料として工業的に生産され、アミノ酸やペプチド、ヌクレオチドの呈味成分からなる天然系調味料として広く利用されてきている。【0003】酵母エキスの製造方法としては、自己消化法、酵素添加法、熱水抽出法等が従来から知られている。このうち自己消化法は、酵母自身の持つ各種酵素を利用するもので、自己消化に時間を要するもののエキス分の回収率がよく優れた方法であるが、調味料として望ましくない成分も含まれ雑味があり、特に酵母特有の不快臭があるため、風味の点で対象や使用量を制限せざるを得ないのが欠点として指摘されている。又、自己消化時の酵素分解により呈味性成分の内、ヌクレオチド類が加水分解されてしまうため呈味力の点で満足すべきものとはいえない。更に自己消化には長時間を要し、通常、数日は必要とされコスト面で不利である。【0004】酵母エキスの風味を改善する方法として、自己消化法で得られた酵母エキスをイオン交換樹脂で処理する方法(WO/9846089号公報参照)、精密濾過膜を使用する膜処理法(特開平9−313130号公報参照)等が知られている。【0005】酵素添加法は、風味がよく呈味性核酸物質であるイノシン酸、グアニル酸含量の多い酵母エキスの製造法として採用されるもので、通常、酵母から遊離アミノ酸や高分子のRNAを抽出する工程、有害な酵素であるフォスファターゼを加熱失活させる工程、抽出したRNAをヌクレオチドに酵素分解する工程、更には呈味性のないアデニル酸を呈味性のイノシン酸に酵素変換する工程を含んでいる。例えば特開平10−262605号公報には核酸リッチな酵母エキスの製造法が開示され、特開2002−101846号公報には、酸性水溶液で酵母菌体を処理した後、酵素処理する方法が開示されている。【0006】酵素添加法は、風味がよく呈味性の優れた酵母エキスの製造に適してはいるが、コスト面では、高価な酵素を使用する上、工程が複雑になり、更に酸、アルカリを使用する場合は中和工程も必要になる為必ずしも満足できるとはいえない。【0007】一方、熱水抽出法は酵母菌体を熱水で処理してエキス分を抽出する最も単純な方法であり、主として親水性のアミノ酸が抽出され、自己消化法で得られる酵母エキスに比較して雑味が少なく風味の良い酵母エキスが得られるが、エキスの抽出率が自己消化法の約1/3以下と著しく低いことが問題である。抽出率が低いため濃縮して酵母エキス製品を製造する場合に、濃縮にコストがかかり経済的に不利である。このため、遠心分離機等を用いて菌体を分離し、分離した菌体から再度抽出する方法を採用すると、今度は濃縮コストのほかに高価な遠心分離機が必要となり、やはりコストがかかり経済的に不利である。現状では、熱水抽出法はコストがかかりすぎるため工業的生産には適していない。【0008】上述のように、従来の技術は何れもコストの面で、特に工業的規模の製造方法としてはコスト的に改善の余地が残されている。【0009】【特許文献1】国際公開第98/46089号パンフレット(WO98/46089)【特許文献2】特開平9−313130号公報【特許文献3】特開平10−262605号公報【特許文献4】特開2002−101846号公報【0010】【本発明が解決しようとする課題】本発明の課題は風味の優れた酵母エキスを安価なコストで生産する方法を提供することである。【0011】【課題を解決しようとするための手段】本発明者らは、熱水抽出法に着目した。熱水抽出法はエキス分の抽出率が低いものの、得られるエキスは風味が良く、汎用性もあり食品や調味料の基本調味料として期待できる。いかにしてエキス分の抽出効率を高めるかが問題である。【0012】本発明者らは、熱水抽出法について鋭意研究を重ねた結果、酵母菌体、濾過助剤に水を加えてスラリー状とし、これをフィルタープレスに通してケークを形成せしめ、当該ケークに熱水を通すことによりエキス分が抽出できること、次いで得られた抽出液を加熱し、熱水の替わりにこれを抽出剤として再度当該ケークに通して抽出する工程を繰り返しことによりエキス分を効率よく抽出できること、及びこの方法により風味がよく汎用性のある酵母エキスが安価に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。【0013】(1)酵母菌体、濾過助剤及び水を混合してスラリーを調整し濾過器に供給して濾過器表面に菌体ケークを形成せしめる菌体ケーク形成工程及び熱水を抽出溶媒として濾過器上の菌体ケークに通液してエキス分を抽出し、得られる濾過液を加熱して抽出溶媒として濾過器上の菌体ケークに通液することを繰り返しことで残存するエキス分を抽出する循環抽出工程により、エキス分を効率良く抽出回収することを特徴とする酵母エキスの製造方法。(2)上記(1)の方法で得られる酵母エキスを加熱し、これを抽出溶媒として循環使用し、菌体ケーク形成工程により調製した菌体ケークから循環抽出工程によりエキス分の抽出を複数回繰り返すことを特徴とする酵母エキスの製造方法。【0014】【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明に用いられる原料酵母は可食性の酵母であればよく、サッカロミセス属酵母やキャンディダ属の酵母が使用される。具体的にはパン酵母、ビール酵母、清酒用酵母が挙げられる。【0015】本発明で用いられる濾過助剤は食品加工用に使用される通常のものであれば良く特に制限は無い。具体的にはセライト社製のセライト#700等を使用すればよい。【0016】本発明で用いられる濾過器は加圧型濾過器、減圧型濾過器何れも使用でき特に制限は無いが、加圧型濾過器であるフィルタープレスの使用が望ましい。具体的にはJWM社製、470M32型のフィルタープレス等を挙げることが出来る。以下の説明においては、濾過器としてフィルタープレスを使用して説明する【0017】フィルタープレスは1台あれば良いが望ましくは複数準備し1台を濾過・抽出に使用している間に他の1台を菌体ケーク形成に使用すると効率が良く作業を進めることが出来る。【0018】本発明の酵母菌体ケーク形成工程は、スラリータンクを準備し、これに酵母菌体、濾過助剤を投入し、水を加えて、菌体濃度10〜20g/dl,濾過助剤濃度5〜20g/dlの菌体スラリーを調製する。菌体量に対して濾過助剤の量が多い場合は問題が無いが、少なすぎると菌体が漏れてしまうため菌体が漏れない程度の濾過助剤量が必要である。【0019】調製した菌体スラリーをポンプでフィルタープレスに通液し、菌体が濾過器から漏れなくなるまで循環し、通過液は廃棄して菌体ケークを形成させる。【0020】エキス回収タンクを準備し、投入乾燥菌体量の5〜10倍の水を張り込み、加熱してポンプでフィルタープレスに通液しエキス分を抽出する。過熱温度は高いほど抽出率が高くなるが、有効成分が熱により分解される場合があるので60〜95℃、望ましくは70〜80℃の温度とする。通過したエキス分を含む濾液はエキス回収タンクに回収する。この最初の熱水抽出でエキス分の20〜30%程度が回収され、残りは菌体ケークに残存している。これは次の循環抽出工程で抽出・回収される。【0021】次に、循環抽出工程はエキス回収タンクに回収した抽出液を加熱し、加熱した抽出液をポンプでフィルタープレスに通液し残存しているエキス分を抽出する工程で、エキス分の抽出が認められなくなるまで繰り返し抽出する。【0022】エキスの抽出率はエキス分の固形分乾燥重量DM(dry matter)を測定して求める。予め乾燥重量とBRIX間の比例関係を求めておけば簡便法としてBRIX値を測定し、BRIX値から乾燥重量を求める方法が便利である。【0023】熱水抽出で抽出され得るエキス分は使用する酵母の種類や状態により異なるが乾燥重量で菌体当たり10〜30%である。最初の熱水抽出でエキス分濃度0.7DM(%)程度の抽出液が得られる。循環抽出を繰り返す毎に、エキス分濃度が上昇し、循環抽出を3〜5回程度行なうことで残存エキス分が回収されエキス分濃度は1定値に達し、通常エキス分濃度が2DM(%)程度の抽出液が得られる。【0024】また、最初の酵母菌体ケークから得られる抽出液は上述のように、通常エキス分濃度が2DM(%)程度で液性は良好で粘度が低くフィルタープレスに通液しても、濾過性に問題は無く抽出剤として使用できる。【0025】従って、最初の酵母菌体ケークからの抽出が終わった後、フィルタープレスの残存ケークを除去し、酵母菌体ケーク形成工程により新たに菌体ケークを形成し、これに最初の酵母菌体ケークから得られる抽出液を加熱して抽出溶媒として通液して循環抽出すれば、更にエキス分濃度を上昇させることができる。この操作を4〜5回程度行なうことでエキス分濃度が10DM(%)程度の抽出液が得られる。【0026】尚、抽出液のエキス分の濃度が10DM(%)程度に達すると、エキスの抽出には使用できるが、濃度の高いエキスが菌体ケークに残存することになり、洗浄してエキス分を回収する作業が必要となる。その為、これ以上、抽出液として用いることは得策でない。【0027】このようにして得られるエキス分を含む抽出液は既に濾過されているため、適当な濃度に濃縮すればペースト状の酵母エキス製品が得られる。更に要すれば噴霧乾燥することにより粉末状の酵母エキス製品が得られる。【0028】本発明の方法で得られる酵母エキスは、自己消化法で得られる酵母エキスと比較して酵母臭が無く風味が良く、親水性のアミノ酸が多く含まれ雑味の少ないクリアーな味を呈するもので、広く食品、調味料に利用できる汎用性のある基本調味料として利用できるものである。【0029】本発明の方法の実施に必要なものは装置としてフィルタープレス等の濾過器と補助材料として濾過助剤のみであり、濃縮にかかるコストも抽出液のエキス分の濃度が高いため濃縮コストも少なくてすむため製造コストを大幅に低減できる。自己消化法では自己消化に数日の時間を要し、この間の微生物汚染の問題もあり工程管理に労力を要するが、本発明の方法は作業時間も短く工程管理の点でも勝っている。【0030】【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例では以下の抽出・濾過装置を使用した【0031】攪拌機を具備したスラリータンク、フィルタープレス(JWM社製:470M32)、及びエキス回収タンクを準備し、スラリータンクとフィルタープレスを配管でつなぎ、配管途中に送りポンプ1を設置した。またエキス回収タンクとフィルタープレスを配管でつなぎ配管途中に送りポンプ2と加熱を目的とする熱交換を設置し、通液の際の温度を80℃に保持した。この抽出・濾過装置を使用して以下の実験を行なった【0032】(実施例1)スラリータンクに酵母菌体(オリエンタルイースト酵母社製)を乾燥菌体重量換算で5kgと濾過助剤(セライト#700:セライト社製)4kgに水を投入し、攪拌機で攪拌し菌体スラリー39Kgに調製した。【0033】次に、上記菌体スラリーを送りポンプ1を使用してフィルタープレス(JWM社製:470M32)に通液し、フィルタープレスを通過した濾過液は菌体スラリーの積算通液量が20kgになるまでスラリータンクに戻し、フィルタープレス内に菌体を含むケークを形成した。濾過液に菌体の漏れがないことを確認の上で、濾過液をスラリータンクに戻すことをやめ、濾過液を廃棄した。スラリータンク中の菌体スラリーは全量フィルタープレスに通液した。【0034】次にエキス回収タンクに水35kgを張込み、送りポンプ2を使用して水を熱交換に通し温度を80℃に加熱・保持しつつ、上記操作でケーク形成したフィルタープレスに通液した。フィルタープレスを通過した液はエキス回収タンクに戻し、送りポンプ2を使用してフィルタープレスに通液して循環抽出を行なった。【0035】この間、エキス回収タンク中のDM(dry matter:固形分)を測定した。通液した通液量とDMの関係を表1に示した。【0036】【表1】【0037】表1に示すように、通液量が140kg(循環回数4回)までDMが上昇を確認した。更に通液を210kgまで繰返したが、DMの上昇は確認できなかった。【0038】(実施例2)実施例1終了後フィルタープレスの抽出残存菌体ケークを除去し、水でフィルタープレスを洗浄後実施例1と同様の方法で、フィルタープレス内に新たな酵母菌体ケークを形成させた。【0039】実施例1で得られた液量の抽出液(DM2%)35kgをエキス回収タンクに張込み、実施例1と同様に抽出液の温度を80℃に保持しフィルタープレスへ通液し、通過した液をエキス回収タンクに回収した。回収したエキスを使用して循環抽出を繰り返した。フィルタープレスへの通液量が140kgに達した時点で、エキス回収タンク内の抽出液のDMを測定した。このような菌体ケーク形成と回収エキスを使用した循環抽出操作を5回繰返し実施し、抽出液のDMの上昇を測定した。測定結果を表2に示す。【0040】【表2】【0041】表2に示すように、菌体ケーキを繰返し交換し抽出することで、抽出液中のDM濃度が上昇することが分かる。【0042】【発明の効果】本発明により、エキス分の抽出効率が高い方法が提供される。これによりエキス濃度が高い酵母エキスが得られる。また、本発明の方法は低コストでかつ、得られる酵母エキスも非常に風味、呈味が良く、高品質のものである。 酵母菌体、濾過助剤及び水を混合してスラリーを調整し濾過器に供給して濾過器表面に菌体ケークを形成せしめる菌体ケーク形成工程及び熱水を抽出溶媒として濾過器上の菌体ケークに通液してエキス分を抽出し、得られる濾過液を加熱して抽出溶媒として濾過器上の菌体ケークに通液することを繰り返すことで残存するエキス分を抽出する循環抽出工程により、エキス分を効率良く抽出回収することを特徴とする酵母エキスの製造方法。 酵母菌体、濾過助剤及び水を混合してスラリーを調整し濾過器に供給して濾過器表面に菌体ケークを形成せしめる菌体ケーク形成工程及び請求項1記載の製造法により得られた酵母エキスを抽出溶媒として濾過器上の菌体ケークに通液してエキス分を抽出し、得られる濾過液を加熱して抽出溶媒として濾過器上の菌体ケークに通液することを繰り返すことで残存するエキス分を抽出する循環抽出工程により、エキス分を効率良く抽出回収することを特徴とする酵母エキスの製造方法。


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